松山地方裁判所 昭和43年(ワ)2号 判決 1976年7月16日
主文
一、別紙目録記載の各不動産の持分五分の三が原告の所有であることを確認する。
二、被告は原告に対し、別紙目録記載の各不動産につき、松山地方法務局北条出張所昭和三九年一二月二一日受付第三、八三五号をもつてなされた所有権移転登記を同不動産の各共有持分五分の二の移転登記に更正登記手続をせよ。
三、原告の、その余の請求を棄却する。
四、訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
(当事者の求めた裁判)
一、請求の趣旨
1、別紙目録記載の不動産が原告の所有であることを確認する。
2、被告は原告に対し、別紙目録記載の不動産につき松山地方法務局北条出張所昭和三九年一二月二一日受付第三、八三五号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
3、訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は原告の負担とする。
(請求原因、及び抗弁に対する答弁)
一、別紙目録記載の本件不動産は原告会社の所有である。
二、本件不動産につき松山地方法務局北条出張所昭和三九年一二月二一日受付第三、八三五号をもつて、原告から被告へ同年一二月一八日付売買を原因とする所有権移転登記がなされている。しかしながら、原告は本件不動産を、被告をも含めて他へ譲渡した事実はない。
三、原告が後刻調査の結果、次の事実が判明した。すなわち、昭和三八年七月一九日と同三九年一二月一〇日には原告会社の各株主総会も取締役会も開催された事実がないのにかかわらず、訴外富田宏が右両日に各総会と取締役会が開催され、その際に自己が取締役と代表取締役にそれぞれ選任された旨の各虚偽の議事録を作成し、これにもとづき同人が代表取締役に就任した旨の登記手続をしたうえ、同人が原告会社の代表取締役と偽称して、昭和三九年一二月一八日、被告との間に本件不動産を売渡す契約を締結し、前記所有権移転登記手続をしたものである。
四、右売買契約は原告会社に対する関係では無効であるから、本件不動産が原告の所有であることの確認と、前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める。
五、被告の主張事実中、訴外富田照太郎が同人の死亡前まで、原告会社の代表取締役であつたこと、同人が主導して原告会社を設立したこと、同人が昭和三八年七月六日死亡したこと、同人と富田英一、同宏、徳永章之の身分関係が被告主張のとおりであること、被告が安永来の妻であることは認める。原告会社につき、いわゆる法人格否認の法理が適用されるとして被告が主張する諸事実、ないし富田照太郎の死亡時まで本件不動産が同人の所有であつたこと、及び同人が原告会社の経営者を富田宏と指定したり、本件不動産を宏らに遺贈する旨を遺言したとの主張事実を否認する。富田宏と被告との売買契約は不知。
原告会社は富田照太郎とその同族六名が現実に金員を出資して設立したものであり、その経営は照太郎の生前は同人が主導したが、その株主数が一人となつた事実がないのはもとより、法人格が形骸化したと認められるような情況はなかつた。富田照太郎が死亡した昭和三八年七月六日から四〇年一月五日までの間にわたり、原告会社ではその代表取締役の選任がなされておらず(昭和三九年六月三〇日の取締役会で富田英一を選任したが、その取締役会を構成する取締役の選任が無効であつたので、取締役会での代表取締役の選任決議も無効であつた)、原告会社に代表取締役は存在しなかつた。
(請求原因に対する答弁、及び抗弁)
一、本件不動産がかつて原告の所有であつたこと、同不動産につき請求の趣旨二項記載の所有権移転登記がなされていること、被告が原告会社の代表取締役富田宏との間に昭和三九年一二月一八日、本件不動産の売買契約を締結したことは認める。右売買契約が原告との関係で無効であるとの主張事実は争う。
二、訴外富田宏は昭和三九年一二月一八日当時、原告会社の適法な代表取締役であり、本件不動産を処分する適法な権限を有していた。すなわち、
(一)、訴外富田照太郎はかねて別紙目録四、五記載の建物等を所有し、同所で富田百貨店の名称で個人企業を営んでいた。同人は右の個人企業を株式会社組織に変更して原告会社を設立したが、その資本金一〇〇万円を同人だけが出資したのに、外観上、法人組織とするために妻子や親類六名の名前を使い、これらの者も出資したような形式を整えたにすぎない。またこれらの者が会社役員に就任したように書類を整え、原告会社の設立登記手続を了したが、その後の役員の変更をも含めて、株主総会や役員会が開催されたことは皆無であり、もとより株式引受証も株券も発行されなかつた。また同企業の経営状況は会社設立の前後を通じて何らの変化がなく、終始、富田照太郎だけがこれにあたつてきたもので、他の役員らは何ら関与しなかつた。
右のとおりであつて、原告会社の法人格は設立当初から完全に形骸化されていたから、別紙目録記載の不動産は登記簿上は原告会社の所有と表示されていたけれども、富田照太郎の個人所有に他ならなかつた。
(二)、昭和三八年六月二九日、富田照太郎は本件不動産を含む原告会社名義の財産を三人の子供である富田英一(長男)、富田宏(三男)、徳永章之(長女)に三分の一あて遺贈すること、及び自己死亡後の原告会社の代表者兼経営者を右宏と指定する旨を遺言したうえ、同年七月六日死亡した。
そこで、照太郎の死亡後、同人の右遺言にしたがい、富田宏が原告会社の主宰者となつたので、富田宏は原告会社の登記簿上の役員表示を整えるため、同年七月一九日付をもつて丸山浜代と自己が取締役に就任し、かつ同時に自己が代表取締役に就任した旨の登記手続をした。
(三)、富田宏はいずれも原告会社を債務者としてその後の昭和三八年七月三〇日、城東商事有限会社から金六〇万円を返済期限同年一二月三〇日等の約定で借受け、右債務の担保として、本件不動産にその旨の抵当権設定登記を経由し、さらに昭和三九年一月一六日、宇根田良蔵、安永来から金三五〇万円を返済期日同年七月一五日等の約定で借受け、前同様その旨の抵当権設定登記を経由した。
しかるに、原告会社は右債務の利息の支払いを遅怠したので、債権者である安永来は昭和三九年五月一五日、松山地方裁判所へ本件不動産の任意競売を申請した。これにつき富田宏から示談の申込みがあつて交渉の結果、同年一二月一八日、富田宏と被告(右安永来の妻)との間に、原告会社は被告に本件不動産を代金八五〇万円で売渡すこと、本件不動産に設定されている抵当権は買主の責任でその債務を弁済すること、買主は右抵当権付債務を代払いした求償債権等合計七二〇万円を売買代金の内払いに充当し、原告会社に対しては残代金一三〇万円を支払うこと等の約定からなる売買契約を締結し、同日、右残代金一三〇万円の授受を了した。そして同年一二月二一日付をもつて、その旨の所有権移転登記手続を了した。
三、右のとおりで、本件不動産は適法に原告会社から被告へ譲渡されたものであるから、本訴請求は失当である。
(証拠)(省略)
(別紙)
目録
一、愛媛県北条市辻字辻町一、三八六番一
宅地 六〇・一六平方メートル(一八坪二合)
二、同所同番二
宅地 二二四・一三平方メートル(六七坪八合)
三、同所一、三九三番九
宅地 一〇二・四七平方メートル(三一坪)
四、同所一、三八六番地一、二地上
家屋番号三一八番二
店舗木造瓦葺二階建
一階 一五七・〇二平方メートル(四七坪五合)
二階 一二七・二七平方メートル(三八坪五合)
五、同所同番地上、家屋番号三一八番
居宅木造瓦葺二階建
一階 八八・四二平方メートル(二六坪七合五勺)
二階 四〇・四九平方メートル(一二坪二合五勺)
付属
炊事場木造瓦葺平家建
二九・七五平方メートル(九坪)