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松山地方裁判所 昭和59年(ワ)424号 判決 1987年4月27日

原告

西本常良

被告

銀座タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  原告らは、各自、原告に対し、金二九一万二六一八円及びこのうちの金二七一万二六一八円に対する昭和五九年六月一四日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告ら各自に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を原告の負担としその余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは、各自、原告に対し、金四四四万一七二二円及びこのうちの金四二四万一七二二円に対する昭和五九年六月一四日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告の被告ら各自に対する請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第三請求原因

一  事故の発生

原告(昭和三一年二月二八日生まれの男性)は、次の交通事故(以下、本件事故という。)の当事者となつた。

発生日時 昭和五八年四月九日午後一〇時四〇分ころ

発生場所 愛媛県松山市竹原町一丁目二番一〇号先県道上。なお、本件事故発生当時における発生場所及びその付近の状況は、ほぼ別紙(一)交通事故現場見取図(以下、本件図面という。)に示されるとおりである。

加害車 普通乗用車(愛媛五五あ六五一〇)

右運転者 被告 吉澤敏文

被害車 普通乗用車(愛媛五五あ六一八五)

右運転者 原告

態様 追突

二  被告らの責任原因

1  被告銀座タクシー株式会社(以下、被告会社という。)

被告会社は、本件事故発生当時、加害車を自己のため運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条により、本件事故から生じた人的損害を賠償する義務を負う。

2  被告吉澤敏文(以下、被告吉澤という。)

被告吉澤は、自己の過失によつて本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、本件事故から生じた損害を賠償する義務を負う。

右にいう過失とは、加害車を運転して進行するに際し、前方を注視して運転すべき義務があるのに、道路右側(加害車進行方向に向つて)に立つている人に気をとられてこれを怠り、前方を注視しないまま加害車を進行させた、との過失である。

三  原告の受傷、治療経過と後遺症

1  原告は、本件事故により頚部捻挫等の傷害を受けた。

2  原告は、右傷害につき、事故発生当日である昭和五八年四月九日、愛媛県立中央病院(救急病院)で治療を受け、次いで同月一一日から昭和五九年六月一三日まで伊達整形外科病院(以下、伊達病院という。)で治療を受け、一八四日間(昭和五八年四月一四日から同年一〇月一四日まで)入院し、約八箇月間(実日数一〇二日)通院した。

3  原告は、右治療によつても完治せず、昭和五九年六月一三日、頭痛、頭重感、頚部痛、肩凝り、右腕痛、腰痛、右下肢のしびれ、視力低下、複視、流涙、不眠、全身倦怠感、易疲労感、感情の不安定、精力の減退等の後遺症を残して、症状固定となつた。

四  損害

1  治療費 金四〇五万四九七〇円

伊達病院分

2  入院雑費 金一二万八八〇〇円

一日当たり金七〇〇円として一八四日分

3  通院交通費 金七万一四〇〇円

一日当たり金七〇〇円(南吉田口から松山駅までのバス代、片道二二〇円、松山駅から木屋町までの電車代、片道一三〇円)の一〇二日分

4  休業損害 金二九二万三〇六四円

(一) 年収 金二四八万六九九〇円

原告は、訴外株式会社南海タクシー(以下、南海タクシーという。)にタクシー運転手として勤務していた者であり、昭和五七年分の給与は金二四八万六九九〇円であつた。

(二) 休業期間 四二九日

原告は、本件事故発生以後、症状固定までの四二九日間、前記傷害及びその治療のため働くことができなかつた。

(三) 算式 248万6990×1/365×429≒292万3064

5  症状固定後の逸失利益 金三三万九五九八円

(一) 労働能力喪失率 五パーセント

前記後遺症は、少なくとも自賠法施行令別表(第二条関係)の一四級には該当する。したがつて、労働能力喪失率は五パーセントと見るべきである。

(二) 労働能力喪失存続期間 三年(新ホフマン係数二・七三一)

(三) 年収 金二四八万六九九〇円

(四) 算式 248万6990×0.05×2.731≒33万9598

6  慰藉料 金二三〇万円

(一) 入通院分 金一七〇万円

(二) 後遺症分 金六〇万円

7  以上合計 金九八一万七八三二円

8  損害填補 金五五七万六一一〇円

9  7-8 金四二四万一七二二円

10  弁護士費用 金二〇万円

11  9+10 金四四四万一七二二円

五  以上により、原告は、被告ら各自に対し、右損害賠償金四四四万一七二二円とこのうち金四二四万一七二二円(弁護士費用を除いたもの)に対する昭和五九年六月一四日(本件事故発生日以後であり、かつ、症状固定日より後でもある。)から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四請求原因に対する認否

一  請求原因一(事故の発生)は認める。

二  同二1、2(責任原因)は認める。

三  同三1ないし3(原告の受傷、治療経過と後遺症)のうち、原告が原告主張の治療を受けたことは認める。その余は争う。原告は本件事故により何らの傷害も受けておらず、原告の受けた治療(特に入院)は、いわゆる賠償性のものである。このことは、以下の各事実からも明らかである。

イ  加害車が被害車に追突したとき、加害車の速度はわずかなものであつた。すなわち、被告吉澤は本件図面<1>点で減速を始め、これにより<2>点においては加害車の速度は時速約二〇キロメートルとなつており、加えて、同被告が<2>点で急ブレーキをかけたため、追突時における加害車の速度はわずかなものとなつていた。

右程度の衝撃では通例頚部捻挫の傷害は起こり得ない。

ロ  被害車に同乗していた乗客は全く傷害を負わなかつた。

ハ  原告が入院した一八四日間は、被害車に付けられていた搭乗者保険の限度日数一八〇日(被害車には、被害者の搭乗者が事故により入院すれば一八〇日を限度として一日金七五〇〇円が支払われるという保険が付けられていた。)とほぼ一致する。

仮に、原告主張の傷害が本件事故によつて生じたとしても、その治療には、入院の必要はなく通院で十分であつた。すなわち、原告の入院は搭乗者保険の保険金受領のために行われたものである。また、通院治療についても、必要の限度を越えて漫然と長期にわたつて行われている。原告の受けた治療のうち相当な部分は、本件事故との間に相当因果関係を欠くものとして、損害賠償の対象から外すべきである(なお、この点についての詳細は別紙(二)、(三)記載のとおりである。)。

四  同四(損害)は全体として争う。本件事故と原告主張の治療との間に因果関係があるとした場合の個々の点についての認否は、次のとおりである。

1  同四1(治療費)は認める。

2  同四2(入院雑費)は認める。

3  同四3(通院交通費)は認める。

4  同四4(休業損害)は争う。休業損害は金二〇九万八七一二円である。

(一) 同四4(一)(年収)は認める。

(二) 同四4(二)(休業期間)は争う。通院期間中の労働能力は、退院時から徐々に回復し、症状固定時にはほぼ一〇〇パーセント回復しているから、その間の逸失利益も、全部休業した場合の半分になると考えるべきである。

(三) 同四4(三)(算式)は争う。休業損害は、次の算式により算出されるべきである。

248万6990×1/365×{(184+3)+242×1/2}≒209万8712

5  同四5(症状固定後の逸失利益)は争う。労働能力喪失による逸失利益は、金二三万一四一四円である。

(一) 同四5(一)(喪失率)は認める。

(二) 同四5(二)(喪失期間)は争う。一四級に見合う労働能力喪失期間は二年である。

(三) 同四5(三)(算式)は争う。労働能力喪失に伴う逸失利益は、次の算式により算出されるべきである。

248万6990×0.05×1.861≒23万1414

6  同四6(慰藉料)は争う。原告は、南海タクシーが加害車につき締結した搭乗者傷害保険契約により、訴外日本火災海上保険株式会社から保険金一〇〇万円を受領することになつている(昭和六二年四月一五日限り金一〇〇万円の支払がなされる旨の裁判上の和解が、同年三月二五日成立した。)などの事情に照らし、金一五二万五〇〇〇円(入通院分金一〇〇万円、後遺症分金五二万五〇〇〇円)をもつて相当な慰藉料額とするべきである。

7  同四7は争う。

8  同四8(損害填補)は認める。

9  同四9は争う。

10  同四10(弁護士費用)は争う。

11  同四11は争う。

第五証拠

本件記録中の各書証目録、証人等目録記載のとおりである。

理由

第一事故の発生

請求原因一については当事者間に争いがない。

第二責任原因

請求原因二1、2については当事者間に争いがない。

第三原告の受傷、治療経過と後遺症

証人伊達俊一の供述、同供述により成立の認められる甲第二号証、原告本人の供述と弁論の全趣旨とにより請求原因三1ないし3の事実が認められ、この認定の妨げとなる証拠はない。なお、被告らは、<1>被害車に追突したときの加害車の速度はわずかなものであつたこと、<2>被害車に同乗していた乗客は全く傷害を負わなかつたこと、<3>原告の入院期間が塔乗者保険の限度日数とほぼ一致していることを挙げて、原告は本件事故により何らの傷害も受けていないと主張しているが、採用できない。追突の程度についていえば、本件事故により、加害車には、前部バンパー凹損、前部グリル破損、前部ボンネツト曲損、前部左右フエンダー曲損の、被害車には後部バンパー凹損、後部トランク凹損の損傷が生じていること(成立に争いのない乙第二号証により明らかである。ただし、損傷の程度については必ずしも明確でないところがある。)からすれば、追突の程度が少なくとも加害車、被害車双方に損傷を与えるだけのものであつたことは明らかであり、追突直前時における加害車の速度についての捜査官に対する被告吉澤の供述(成立に争いのない乙第二、第三、第五各号証によれば、同被告は、警察官に対しては、衝突地点の手前四・五メートルを時速約二〇キロメートルで走行しているとき前方に停止中の被害車を発見したと述べ、検察官に対しては右速度を約三〇キロメートルと述べている。)も正確な議論を行う前提としてどの程度信頼できるか疑問がある。これらの点から見て、追突の程度自体から、原告主張の傷害は本件事故によつては生じないものであると推断するのは論拠が薄弱である(いずれも弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一一号証、第一三号証でなされた各鑑定も十分な説得力を持つものではない。)。同乗者の傷害の有無及び原告の入院期間に関していえば、事実が仮に被告ら主張のとおりであつたとしても、それらのことは、原告に傷害の発生しなかつたことに直ちに結び付くものではない(なお、入院期間が搭乗者保険で定められた限度日数とほぼ一致している点につき、証人伊達俊一((伊達病院の医師))は、「本来ならばもつと入院する必要があつたけれども、いろんな事情で退院したわけです。」と供述している。)。

第四治療の必要性の有無と損害賠償義務との関係

一  一般に、事故の被害者が事故によつて生じた傷害に対するものとしてそれが必要であるとの医師の判断と指示とに従つて受けた治療については、被害者と加害者との間で事故による損害の賠償が問題とされる場合には、原則として、事故との間に因果関係(ここでいう因果関係には、事実に関する因果関係のみでなく、損害賠償の範囲を画する価値判断としてのいわゆる相当因果関係を含む。)を有するものとして処理すべきである。仮に医師のなした治療の全部又は一部が医学的な客観的評価としては必要のない治療であつたとしても(治療の必要性の有無の判断、治療方法の選択に関する医師の裁量ということを考えれば、必要のない治療であつたとの断定自体が必ずしも容易でない場合も少なくないであろう。)、被害者にその点に関する判断評価を適切になすべく期待するのは通常無理であるから、当該治療も、事故により発生することが予想される範囲内の事実として、事故につき責任原因ある者の負担すべき損害賠償の対象となると考えるのが、原則として適切というほかないからである(このことを機能的にいえば、加害者は、被害者との間では、治療が医師の判断と指示に基づくものである限り、過剰診療の主張をしても主張自体としては原則として不十分であり、過剰診療であつたか否かは、当該医師との間において解決しなければならないことになる。)。

なお、右に「原則として」と述べたのは、<1>当該治療が、もはや外形的にも当該事故による傷害の治療とはいえない程度にまでなつてしまつている場合、<2>当該治療が必要のない治療であることを被害者が何らかの理由により知つている場合、<3>医師の判断と指示が医学的に明らかに誤つており、かつ、医師の誤りの原因が責められるべき被害者の行為にある場合など、右とは逆の結論に導くべき特別の事情の認められる場合を除外するためである。

二  証人伊達俊一の供述と弁論の全趣旨とによれば、原告の受けた前記各治療は、いずれも、当該治療を行つた医師が、本件事故により生じた前記傷害の治療として必要であるとの判断を下して、その判断とそれに基づく指示によつて行つたものであると認めることができ、右認定の妨げとなる証拠はない。そして、右のようにして行われた治療であるにもかかわらずそれを損害賠償の対象から外すべき根拠となる特別な事情は、本件全証拠によつても認めることはできない。

三  また、事故につき責任ある加害者と不適切な治療を行つた医師の責任の関係について共同不法行為(民法七一九条)の問題として論じられることが少なくないが、被害者が加害者の責任を追求する場合には、前記の二つの意味の因果関係が共に認められる限り、共同不法行為を問題とする必要はないというべきである。右因果関係が認められる限り、加害者は、被害者に対する関係では、医師の不適切な治療についても賠償の責任を負わなければならないことは、共同不法行為制度を論ずるまでもなく民法の一般原則(民法七〇九条)自体から当然出てくる帰結であり、この帰結が共同不法行為制度の存在によつて被害者に不利益に変様することはあり得ないからである(共同不法行為制度はそれがない場合に比して被害者の救済をより完全にするための制度である。)。

第五損害

一  治療費 金四〇五万四九七〇円

当事者間に争いがない。

二  入院雑費 金一二万八八〇〇円

当事者間に争いがない。

三  通院交通費 金七万一四〇〇円

当事者間に争いがない。

四  休業損害 金二九二万三〇六四円

1  年収 金二四八万六九九〇円

当事者間に争いがない。

2  休業期間 四二九日

原告は、本件事故発生以後、症状固定までの四二九日間前記傷害及びその治療のため働くことができなかつた。

右事実は、原告本人、証人伊達俊一の各供述と弁論の全趣旨とにより認められる。

なお、被告らは、退院後の逸失利益は全体として全部休業した場合の半分と見るべきである旨の主張をしているが、採用できない。一般に、被害者の労働能力は、被告ら主張のとおり、退院後症状固定までの間に徐々に回復していくのは事実であるけれども、そのことを理由に休業損害の額を減額できるのは、被害者に対し、その間回復した労働能力に応じただけの労働をしてそれに見合う収入を得ることを法の名で要求するのが相当なときに限られるというべきであるのに、本件の場合、<1>原告は、家庭の主婦あるいは自営業者のうちのある者等のように労働能力の回復に応じてそれに見合うだけの労働をすることが容易な状態にはおかれていなかつたこと(弁論の全趣旨で明らかである。)、<2>原告は、通院期間全体を通してほぼ一貫して二、三日に一日の割合で通院していたこと(成立に争いのない乙第一二号証の一三ないし二六号証と弁論の全趣旨とにより認められる。)等に照らすと、原告に対し、法の名で右の要求をするのが相当であるとは思われないからである。

3  算式 248万6990×1/365×429≒292万3064

五  労働能力喪失による逸失利益 金二三万一四六四円

1  労働能力喪失率 五パーセント

2  労働能力喪失期間 二年

右に対応するホフマン式係数 一・八六一四

3  年収 金二四八万六九九〇円

4  算式 248万6990×0.05×1.8614≒23万1464

六  慰藉料 金一八〇万円

七  以上合計 金九二〇万九六九八円

八  原告寄与分 一〇パーセント

原告の受けた傷害や後遺症の内容等に照らすと、本件事故によつて生じた損害のうちのある部分は、いわゆる心因性のものということができ、しかも、その中の一部は、原告が、本件事故の被害者としての原告に対して法が要求するだけの精神的たくましさと回復への意欲を示さなかつたことに由来すると評することができる。このような場合には、裁判所は、民法七二二条二項を類推適用して、裁量により、賠償額を減額することができるものというべきである。この問題に関連する全資料に照らし、全損害の一〇パーセントを減額することにする。

九  七×(一-〇・一) 金八二八万八七二八円

一〇  損害填補 金五五七万六一一〇円

当事者間に争いがない。

一一  九-一〇 金二七一万二六一八円

一二  弁護士費用 金二〇万円

一三  一一+一二 金二九一万二六一八円

第六結論

以上によれば、原告の請求は、被告ら各自に対し、前記損害金二九一万二六一八円とこのうちの金二七一万二六一八円(弁護士費用を除いたもの)に対する昭和五九年六月一四日(本件事故発生日以後の日であり、症状固定日より後の日でもある。)から支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であり、その余は失当である。そこで、右正当な部分を認容し、失当な部分を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下和明)

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

一1 本件事故に基づく損害賠償の範囲は相当因果関係の存否によつて画されるが、その基準は左のとおりである。

1 支出の必要性 医療上またはこれに準ずるものとして必要があつたかどうか

2 相当性 被害者の身分上または一般の価格上からみて相当なものであつたかどうか

3 合理性 社会上または科学上からみて合理的なものであつたかどうか

2 これを治療(入院、通院の必要性、症状固定時期)についてみると医学水準、医学常識から判断すべきで医師個人、被害者の主訴によつて判断すべきではない。そして、医学水準、医学常識とは個々の医師の経験に基づく判断によるべきものではなく、文献によるべきものである(賠償医学一号、一三頁)。

3 そして、確定された頸椎捻挫の治療方法とは、「まず症状の軽重にかかわらず一週間前後の安静期間に経過を観察するとともに、症状に応じて頚部固定薬剤投与、局所あん法など治療を施す。しかし、受傷後三週間を過ぎて慢性期に入つた頃に依然症状を訴える者に対しては、心因性、自律神経性の要因がこの頃より大きく関与しているといわれていることから、むしろ治療からの離脱をはかり社会復帰への方向にもつてゆく。」

4 右の確立された治療方法からすれば、伊達医師の漫然長期の入院通院治療は、患者の他覚的な検査結果に異常がなかつたことから医学常識からかけ離れたものであり、ことに搭乗傷害保険の保証期間と一致するような長期の入院治療の必要性はなかつたもので、本件事故との間に相当因果関係を欠くものである。

別紙(三)

二 医学常識からかけ離れ、本件事故との間に相当因果関係のない治療については、患者と医師との間で解決すべき問題である。

1 医療契約は医師と患者との間の準委任関係であり、どの医療機間でどのような治療をどの程度受けるかは加害者が全く関与できないものである。

2 にもかかわらず、医師の不相当な治療によつて拡大した被害者の損害を共同不法行為に基づく損害として全く関与できない加害者に全部責任(不真性連帯)を負担させるのは妥当でなく、契約関係のある当事者間で解決すべきものである。

3 仮にそうでなくとも、患者が自己の意思に基づいて特定の医師との間で医療契約を締結した結果生じた損害であるので、被害者側に過失のある損害として過失相殺の対象となるものである。

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