松山地方裁判所今治支部 平成18年(ワ)25号 判決 2008年12月25日
原告
X
被告
Y
同代表者代表取締役
A<他1名>
被告ら訴訟代理人弁護士
寄井真二郎
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告に対し、連帯して四二四四万五七九八円及びこれに対する平成一四年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、原告が被告らに対し、交通事故により後遺障害を伴う傷害を負ったとして、損害の賠償を求める事案であり、主な争点は、後遺障害の有無、内容、程度、因果関係、過失割合、消滅時効である。
二 争いのない事実等(証拠により認定した事実につき末尾に証拠番号を付記)
(1) 平成一四年六月一三日、愛媛県今治市<以下省略>先駐車場において、原告(昭和○年○月○日生)が運転する軽四貨物自動車と、被告Y(以下「被告会社」という。)が所有し、被告B(以下「被告B」という。)運転の普通乗用自動車が衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(2) 被告らから原告に対する対人賠償についての既払金は合計七三万六二九〇円(乙二四)であり、対物賠償についての既払い金は六万二一〇〇円(乙二五の一ないし三、支払日平成一四年六月三〇日)である。
(3) 原告は、平成一七年一二月、被告らに対し、本件事故による損害賠償として、総額一〇〇〇万円の支払いを求める調停を申し立てたが、平成一八年二月二一日、同調停は不調となったため、同年三月一七日、本件訴えが提起された(弁論の全趣旨)。
第三争点
一 原告の主張
(1) 本件事故の態様は、被告B運転車両が動くのを見て即停車した原告運転車両の後部に、被告B運転車両が追突したものである。
(2) 傷害及び後遺障害
原告は、本件事故の衝撃により、頸椎、胸、右足関節の強い痛み、頭痛、右手のしびれなどが生じた。本件事故による原告の傷害は、胸部、右足関節捻挫、頸椎捻挫、背部痛、右足関節部痛、背部捻挫であり、頸椎捻挫により第六、七の神経を圧迫しているため胸部痛、頭痛、右手のしびれがあるなど頸椎症性根神経症の後遺障害を負った。これは頸椎に著しい運動障害を残したもので後遺障害等級表第六級(5)にあたる。運動能力喪失率は六七パーセントである。
(3) 損害 合計四二四四万五七九八円
ア 治療費 三四万八八四〇円
イ 通院交通費 二〇万二二三〇円
ウ 通院慰謝料 四三六万三八〇〇円
エ 休業損害 五九二万二三〇〇円
オ 後遺障害による損害 一二九六万〇〇〇〇円
カ 後遺障害慰謝料 六〇〇万〇〇〇〇円
キ 後遺障害逸失利益 一二二九万四三三二円
ク 写真代 六万五六三二円
ケ 文書費 七万〇〇八〇円
コ 弁護士費用 一三万〇〇〇〇円
サ 自動車修理代 八万八五八四円
二 被告の主張
(1) 本件事故は、原告と被告Bが、共に自車を後退させた際、双方が後方の安全確認を怠ったことにより発生したもので、原告にも少なくとも五〇パーセントの過失はある。
(2) 本件事故態様、双方の車両の損傷も極めて軽微であること、原告の診断書(甲二)には「胸部・右足関節捻挫・頸椎捻挫上記病名にて受傷日より約二週間の加療を要する見込みである」と記載されていることから、原告主張の重篤な傷病が本件事故により生じるはずはない。
ア 胸痛、背中痛につき、本件事故の際、原告の胸がハンドルにぶつかっていないこと、他覚所見がなく、木原病院の診療録でも「事故との関連と断定はできない」と記載されていること、原告はもともと胸椎の変形性脊椎症という疾患があったことから、本件事故との因果関係はない。
イ 右足関節痛につき、原告はもともと右変形足関節症、右変形性膝関節症の疾患があり、右足関節痛及び日常生活動作の支障があったから、右足関節が痛いとの愁訴は原告の既存障害であり、本件事故との因果関係がない。
ウ 頸部痛につき、平成一四年六月一八日撮影の頸部MRIではC6、7の癒合椎が認められるが本件事故態様から本件事故により癒合椎が生じることはなく、原告は平成一一年に頸部痛、関節痛を訴え、平成一二年には手のしびれを訴えていたことから、本件事故との因果関係はない。
(3) 原告は首と足の痛みが後遺障害であると主張するが、これらは本件事故以前の原告自身の疾患であり、本件事故との因果関係はない。
(4) 人損の損害額について
ア 治療費・通院交通費・通院慰謝料・写真代・文書費・休業損害については、上記(2)により、本件事故との因果関係がない。D弁護士に対する費用については合理的な説明がなされていない。
イ 休業損害について、本件事故当時の原告の収入を的確に裏付けるものはなく、休業損害というべき損害は発生していない。平成一三年五月一七日今治労働基準監督署受付の一括有期事業総括表には既設建築物設備工事業の請負金額として九四万二六九五円と記載があるが、原告主張の一日五七〇〇円との主張を裏付けるものではない。
ウ なお、原告は後遺障害部分に関する損害についても本件事故時からの遅延損害金を求めているから、仮に逸失利益が認められる場合には、逸失利益の原価算定の基準時は本件事故発生日とすべきである。
(5) 本件事故は軽微な態様であるにもかかわらず、原告は現在も痛みを理由に通院するなど相当長期化しているところ、原告は本件事故以前に、糖尿病、右下腿蜂蒿織炎后、右足関節拘縮、腰椎症(筋々膜性)、右変形性膝関節症、右変形性足関節症、肩甲筋々膜炎、鬱状態、左手第一中手骨手根関節変形性関節症、亜急性気管支炎、両膝関節部腱鞘炎、変形性腰痛症、両膝関節周囲炎及び左第一肋骨骨折を患っていたこと、本件事故の軽微性、原告の性格等から、仮に原告の痛みと本件事故との間に因果関係があるとしても、原告の心因的要員及び疾患が競合して拡大したものであり、民法七二二条二項を類推適用して少なくとも八〇パーセント以上は減額されるべきである。
(6) 物損について、原告は既払いの六万二一〇〇円のほかに修理代として八万八五八四円を請求しているが、その根拠となる修理は必要性がない。
(7) 原告の症状は遅くとも平成一四年一二月末日には症状固定となっている。後遺障害以外の部分は本件事故時から、後遺障害部分は平成一四年一二月末から、本件訴え提起までにいずれも三年を経過している。物損についても支払日である同年六月三〇日から三年を経過している。被告らは上記各消滅時効を援用する。
第四当裁判所の判断
一 本件事故の態様、過失割合等
(1) 争いのない事実等、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。
ア 平成一四年六月一三日、愛媛県今治市<以下省略>先駐車場において、原告が同所に駐車していた軽四貨物自動車の運転を開始して後退を始めたところ、被告Bも同駐車場内に駐車していた被告会社所有の普通乗用自動車を後退発進させ、同車に気付いた原告は、同駐車場から道路へ進入するための通行路部分に停車した(乙一には原告が一旦停止した地点として衝突時の位置と同じfile_4.jpgを指示した旨の記載がある。後退距離は約七メートル)が、被告Bは原告運転車両に気付かず後退を続け(後退距離は約五・五メートル)、両車両の後部同士が衝突する本件事故が発生した。なお、原告は被告B運転車両の前部と衝突し、同車の前部中央より左側(前面から見て右側)が相当凹んでいたと主張するが、同車の左後部に衝突した痕跡がある(乙二)こと、原告自身が本件事故の当日に医療法人真泉会第一病院を受診した際、医師に対して「二台とも駐車場でバック中に事故」と説明した形跡があること(乙三〇)、原告が主張する両車両の位置関係(甲二二、二七)に照らし、原告が後退して停止した位置が駐車した区画から九〇センチメートル後退した位置であるとすると、道路に進出するために進むべき方向とは相当異なる向きで被告Bが前進して行き原告運転車両に衝突して行ったこととなり、極めて不自然であること等から、原告の主張は採用できない。また、原告は、実況見分調書(乙一)について不正確である等と述べているが、証人Eの証言によれば、概ね立会人の指示説明に沿った内容の記載がなされたと認められる。
イ 本件事故により原告運転車両の後部が破損した(リアゲートパネルが交換修理された)が、車台自体に大きな変形はなかった(甲二五、乙二五の一ないし三にも車台の変形に関する修理項目はない。)。被告B運転車両は、左後部が凹損した。
(2) 以上の事実によれば、被告Bには、駐車場内で発進後退するに当たり、後方の動静に注意し、他の車両等の有無及びその安全を確認しつつ徐行して後退すべき注意義務を怠り、自車後方を注視し、その安全を確認することなく漫然後退したことが認められ、他方、原告においても、同様の注意義務があるところ、相当程度後退してから停止したにとどまり、結局は衝突するに至っているから、同様の義務違反があると認められるところ、被告Bは衝突に至るまで原告運転車両に気付かず、回避措置を全く講じなかったと認められるから、過失割合は原告三〇パーセント、被告B七〇パーセントと認めるのが相当である。
二 本件事故と原告の傷害・後遺障害との因果関係等の前提事実
(1) 争いのない事実等、上記一記載の認定事実、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。
ア 本件事故当日の平成一四年六月一三日(午後七時三〇分ころ)、原告は、真泉会第一病院外来において診察を受け、その際の診療録現症欄には、右足首、心窩部痛、胸部、頸部に痛みがある旨の記載がある(乙三〇)。また、同病院医師による同月一五日付け診断書(甲二)では、胸部、右足関節捻挫、頸椎捻挫、受傷日より約二週間の加療を要する見込みと診断されている。
イ 聖ルカ会木原病院医師作成の平成一八年三月二七日付け診断書(甲五)によれば、原告は、背部痛、右足関節部痛、背部捻挫、右足関節捻挫により、平成一四年一〇月一五日から同月二二日まで通院していた。同病院では、原告が、同病院の医師に対し、他医にかかっているが症状は固定しているといわれていること、右手のしびれや右肩の痛みを訴えているが、物療(物理療法)をやってもあまり変わらないとの説明をしていることが認められる(乙三八)。
ウ 医療法人和紘会藤井病院医師作成の平成一七年一二月五日付け診断書(甲三一)によれば、原告は、平成一五年九月二二日以降、頸椎症性根神経症により同病院に通院し、平成一八年三月三〇日付け診断書(甲六)によれば、原告は、頸椎性根神経症、腰椎椎間板ヘルニアにより同病院に通院加療中である。
エ なお、本件事故後のCT等によっても、原告の胸部には肋骨骨折等、愁訴にかかる痛みの原因となるような他覚所見は認められない(乙三八の三枚目には、中位胸椎でごく軽度の楔状変形がある旨の記載がある。)。頸部については、MRIにより第六、第七頸椎に癒合が認められるが、脊髄の圧迫は認められない。
オ 右足関節について、原告は、本件事故前(例えば甲三では診断日平成一二年五月二二日)において、右変形性足関節症の診断を受け、回復の可能性のないその他所見として、歩行時の右足関節の疼痛と可動制限が認められる旨の診断がなされている。この点、医師C作成の診断書(乙四六)及び平成一三年三月九日付け回答書(乙四七)によれば、原告は、平成一〇年一二月一〇日右下腿をサンダーで切って負傷(右下腿挫創)し、平成一一年一月一六日一時創は治癒したが、同年三月一日潜伏していた感染症が顕性化した為か右下腿蜂窩織炎、高熱、敗血症を発症して加療施行、愛媛県立中央病院救命センターでの入院加療により敗血症、蜂窩織炎は消褪し、右足関節、右膝関節の機能障害が残り、同年四月二四日木原病院に転院し、以後リハビリ主体に加療していたもので、外傷と傷害の関連については、蜂窩織炎より右足関節炎を合併し、その後変形性足関節症に進展したと推察されるほか、右足関節関節裂隙狭小化(右一ミリメートル、左三ミリメートル)が認められる。
カ 原告は、平成一一年三月八日ころ、愛媛県立中央病院において診察等を受けているが、その際、胸部には胸部XP、理学的にも異常を認めないが、頸部痛、多関節痛を訴えていたこと(乙四九)が認められる。
(2) 以上のほか、原告は、上記障害等が残っていたと認められるが、本件事故当時は別途通院治療は受けておらず、本件事故日以降、頸椎、胸、右足関節の痛みや頭痛、右手のしびれなどを訴えて複数の病院を受診していると認められる。
三 因果関係等についての判断
以上の事実をもとに検討する。
(1) 胸部痛(胸部捻挫)、背部痛(背部捻挫)について
上記認定事実によれば、原告は以前も他覚所見なく胸部痛や頭痛を訴えていたこと、本件事故後、胸椎XPで異常はみられず、中位胸椎にごく軽度の楔状変形(この変形が本件事故によるものと認める証拠はない。)が見られるのみであること、本件事故態様が比較的軽微であること等に照らすと、本件事故により胸部痛・背部痛が生じたとの原告の主張は採用できない。原告は、本件事故当日に撮影した胸部レントゲンについて医師が胸に線が入っていると言ったとするが、診療録(乙三〇)によると骨折ははっきりしないというのであり、上記認定を左右しない。他方、本件事故直前、原告は胸部痛等による通院をしていなかったのであるから、本件事故は、上記症状が顕在化し、自覚する契機となる限度で、原告の心理状態を介して影響を与えたと認めることができる。
(2) 右足関節痛(右足首捻挫)について
本件事故態様、特に原告運転車両が衝突の時点では停止しており、原告も衝突によって胸部をハンドルにぶつけるなど大きな衝撃があったものではないこと、原告は本件事故以前の別の事故により変形性足関節症の障害を負い、右足関節関節裂隙狭小化(右一ミリメートル、左三ミリメートル)も見られたことに照らすと、本件事故前には右足関節に全く痛みはなく、本件事故後帰宅途中に急に胸、頸部、右足首に耐えられない程の激痛があったとする原告の陳述書(甲二七)の記載は、文字通りには信用することはできない。原告は本件事故以前の障害により平成一二年五月段階でも歩行時右足関節の疼痛があり、これが完治していたとの明確な証拠はなく、結局、本件事故により上記傷害ないし後遺障害が生じたとは認められず、従前の障害が顕在化する契機となった限度で因果関係を認めることができる。
(3) 頸部痛(頸椎捻挫、頸椎症)、右手のしびれ、頭痛について
原告の頸部痛、右手のしびれ、頭痛については明確な他覚所見がなく、頸椎のC6、7の癒合が影響している可能性もあるが、事故態様からしてこの癒合が本件事故によると認めるのは困難であり、原告の傷害は他覚所見のない頸椎捻挫の限度で本件事故との因果関係を認めることができる。また、原告が平成一五年四月には両上肢のしびれを訴えていること(乙二七)や、本件とは因果性を認めがたい脊椎症性の変化等による腰痛等、種々の愁訴を行っていることからすると、頸椎に関する後遺障害の内容、程度は明確ではないが、一般的な頸椎捻挫による後遺障害の場合と比較し、労働能力喪失の程度としては五パーセントを上回ることはないと認められる。
(4) 総合的評価及び素因減額
以上によれば、原告の負った傷害は当初診断のとおり加療約二週間を要する程度の胸部、右足関節捻挫、頸椎捻挫と認められ、原告が木原病院を受診した平成一四年一〇月一五日には症状固定に至っている可能性が高く、遅くとも被告らが主張する平成一四年一二月末までには症状固定となったと認められる。
そして、上記(1)ないし(3)、原告の従前からの障害の部位・程度、本件事故態様及び陳述書(甲二七)に見られる原告の言動に照らすと、原告の本件事故前からの右足の変形性足関節症、右足関節関節裂隙狭小化、頸椎の癒合等の身体的素因及び原告の心理的要因が傷害の発生及び後遺障害の発生・遷延化に与えた影響は、本件事故に比してより大きいというほかなく、少なくとも七〇パーセントの減額を施すのが相当である。
四 人身損害について
(1) 治療費等 七三万六二九〇円
本件事故と因果関係を有する症状固定前の治療費の額は不明確であるが、被告ら主張の既払い治療費がこれに相当すると認める。症状固定後の通院治療費用に関しては、本件事故と相当因果関係を認めがたい腰痛等による治療もある上、診療録によっても消炎鎮痛等の処方によって特段の変化もないというのであり、医師から通院の指示があったとも窺われないから、医療上の相当性を認めがたい。
(2) 通院交通費 二万六四六〇円
症状固定後の通院については通院に医療上の相当性を認めがたく、平成一四年中の交通費については、甲一四により、やや疑問は残るけれども、二万六四六〇円と認める。
(3) 通院慰謝料 四四万円
症状固定まで約六か月間の通院慰謝料は、その症状も考慮すると、四四万円が相当である。
(4) 休業損害 三〇万円
原告の本件事故当時の収入は明確ではなく、一括有期事業総括表(甲二八、二九)の記載も裏付けがなく、費用等も不明であり、確定申告もないから判然としないというほかないところ、弁論の全趣旨に照らし、年間一〇〇万円を超えることはないと認められる。また、休業期間も証拠上明確ではなく、本件事故から症状固定までの期間を考慮しても、休業損害は三〇万円を超えることはない。
(5) 後遺障害による損害
原告は後遺障害による損害として一二九六万円を主張するけれども、その趣旨は不明であり、関係証拠からもかかる損害は認められない。
(6) 後遺障害慰謝料 八〇万円
上記事実関係に照らし、本件障害慰謝料については、多くとも八〇万円を超えることはない。
(7) 後遺障害逸失利益 一三万六一六〇円
労働能力喪失率は五パーセント、喪失期間は原告の年齢、後遺障害の程度等から三年間、基礎収入は上記のとおり多くとも年一〇〇万円、三年のライプニッツ係数は二・七二三二であるから、後遺障害による原告の逸失利益は、多くとも一三万六一六〇円となる。
(8) 写真代・文書費・弁護士費用 四万四二〇〇円
写真代については関係証拠によっても原告の支出と本件事故との具体的な関連が不明であるが、事故態様等に争いのある事案につき必要とされる費用として、弁論の全趣旨から、二万円の限度で認める。また、文書費については甲二六の一四により二万四二〇〇円が本件事故と因果関係あるものと認められる。弁護士費用については、甲二六の一二、一三により一三万円を支出したことが認められるものの、これをそのまま本件事故と相当因果関係があるものと認めることはできず、請求全体について理由があるか否かとの関係で賠償の範囲が決せられるべきものである。そして後述のとおり、原告の請求は認められないから、結局弁護士費用として本件との相当因果関係を認めることはできない。
(9) 以上を合計すると、原告の損害額は、多く見積もっても二四八万三一一〇円となる。そして、これに過失相殺及び素因等による減額を施すこととなるが、上記一のとおり、原告の過失は三〇パーセントと認められ、素因等による影響は七〇パーセントを下らないと認められるから、これを総合して、上記損害額に対し七五パーセントの減額(単純に掛け合わせると〇・七×〇・三=〇・二一であるが、公平の観点から、七五パーセントに止めるのが相当である。)をするのが相当である。そうすると、原告の損害は六二万〇七七七円(二、四八三、一一〇×〇・二五=六二〇、七七七)となる。
そして、被告らから原告に対する人身損害の既払金は七三万六二九〇円であるから、これを控除すると、既払い金の他に、原告に支払われるべき人身損害に関する賠償金は存在しない。
五 物損について
(1) 物損について、原告は、既払いの六万二一〇〇円による①リヤゲートパネルの取り替え、デッキフロアテールメンバーの板金、右リアコンビネーションランプの交換(乙二五の一ないし三、乙六六)のほかに、②リヤゲートパネルヒンジ、リヤゲート部ヒンジ、リヤゲートボディ部ヒンジ、ソリッド塗装、防錆ワックスの費用として八万八五八四円(甲二五)を請求しているところ、本件事故の六日後の平成一四年六月一九日に撮影した写真(乙二)と平成一五年四月一六日撮影の写真(甲二四の一ないし六)を対照すると、上記①の修理に加えて②の修理を要する破損が原告の車両に生じていたと認めることはできない。なお、甲二五は平成一八年三月二九日付けの概算見積書であり、見積もりの前提となる車体の状況がどの時点のいかなる状態であるかも不明確である。
(2) なお、物損に関する損害賠償請求権は人身損害に関するそれとは別個の訴訟物と解されるところ、①の修理費が支払われた平成一四年六月三〇日(乙二五の一ないし三から、遅くとも同日より前であると認められる。)から本件訴え提起に先立つ調停申立の日(平成一七年一二月)までの間に三年以上経過しているから、消滅時効が完成していることが明らかである(援用の事実は当裁判所に顕著である。)。この点、人身損害については、症状固定日から三年経過しないうちに原告により民事調停が申立られ、その不調から一か月以内である平成一八年三月一七日に本件訴えが提起されている(被告らの自白)から、平成一六年法律第一四七条(平成一七年四月一日施行)による改正後の民法一五一条により時効期間は中断しており、消滅時効は完成していないが、別個の訴訟物である以上、物損についてのみ消滅時効により消滅することに問題はない。
(3) 以上によれば、自動車修理代に関する原告の請求は理由がない。
六 以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する(なお原告は平成二〇年一二月二二日付けで口頭弁論の再開を求めているが、本件訴訟進行及び証拠関係に照らし、再開すべき理由は認められないから、職権を発動しない。)。
(裁判官 日野浩一郎)