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松山地方裁判所今治支部 平成2年(ワ)32号 判決 1990年9月21日

原告

魏香宋

ほか四名

被告

羽藤大揮

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、各原告らに対し、各自九八一万六二三九円及びこれに対する昭和六三年一一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車に跳ね飛ばされて死亡した中国人の相続人らが自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

被告羽藤大揮は、昭和六三年一一月一八日午後一〇時二〇分ころ、愛媛県今治市常盤町六丁目七番三号付近において、自己及び被告羽藤順敏(所有者)のために運行の用に供する普通乗用自動車を運転中、過つて自車を歩道上に暴走させて潘元欽(亡元欽)を跳ね飛ばし、同日同人を死亡させた。

原告らは、被告ら加入の自賠責保険から二五〇〇万円の支払を受けた。

二  争点

原告らは、いずれも亡元欽の相続人として、原告ら及び亡元欽の被つた損害の合計額七四〇八万一一九五円(弁護士費用五〇〇万円を含む。)から受領ずみの自賠責保険金を控除した残額の各五分の一ずつを請求するが、被告らは、右損害は右保険金の支払をもつて填補ずみであると主張する。

第三争点に対する判断

一  逸失利益 六七八万〇四四六円(請求額四〇五七万一四二五円)

証拠(甲二、一四の一ないし五、乙一ないし四、原告魏香宋本人)によれば、亡元欽は、一九四九年四月一九日生まれで死亡当時三九歳の中国国籍を有する男子であり、原告ら住居地において妻の原告魏香宋、実父の原告潘騰濱、実母の原告李玉英、実子の原告潘義成(当時一三歳)及び原告潘義争(当時一一歳)とともに居住していたこと、亡元欽は、今治市にいる親族を訪ねて一人で来日していた時に本件事故に遭つたこと、亡元欽は、上海無線電模具工場の電気作業班の班長として働く傍ら、上海欧陽房修隊で電気修理及び室内装飾の仕事をして、年間合計一万八七四九元(一元を約三〇円として約五六万二四七〇円)の収入を得ていたことが認められる。

原告らは、亡元欽の収入は中国においては中流以上のものであり、日本の水準からすれば、少なくとも全年齢平均の男子給与である月額三二万四二〇〇円を下回ることはないとして、右給与額を基に亡元欽の逸失利益を算定しているが、同人の死亡による逸失利益とは、同人が死亡しなければ得ていたのに死亡したために失つた収入額であるから、本件においては、同人が中国で得ていた現実の収入を基礎としてこれを算定すべきである。

そこで、亡元欽が死亡しなければ、六七歳までの二八年間毎年死亡当時の収入を得ることができたものと考えて、その生活費割合を三割とし、新ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して、その逸失利益の現価を算定すると六七八万〇四四六円となる。

(計算式)

562,470×(1-0.3)×17.2211=6,780,446

二  死亡慰謝料 五〇〇万円(請求額二〇〇〇万円)

前掲証拠によれば、亡元欽及び原告らはいずれも中国で生活していたものであり、原告らは今後も中国で暮らしていく予定であること、中国の一般労働者の平均賃金は月額一〇〇元から一五〇元(約三〇〇〇円から約五〇〇〇円)であること、昭和六三年一月の中国西南航空機事故の日本人犠牲者に対する補償額は五五〇万円であつたこと、同年三月に上海で起きた高知学芸高校修学旅行生の列車事故での生徒一人当たりの補償額は、四五〇万円から五〇〇万円であると推定されていること、中国での国内民用航空機の事故による死亡者に対する補償額は、外国人も含め一人につき最高二万元(約六〇万円)と規則で定められていることが認められる。

ところで、被害者の死亡に対する慰謝料とは、被害者の死亡によつて同人又はその遺族らが被つた精神的苦痛を和らげるために支払われる金銭であるから、その額の算定にあたつては、事故の態様、被害者らの年齢、家族構成、職業、資産、収入、社会的地位などの諸般の事情が考慮されるが、被害者らが外国人であり外国に居住しているような場合には、支払われる金銭はその国において費消されることが予定されているのであるから、右金銭がその国ではどの程度の価値を有するものであるかは重要な事情であり、当然この点をも考慮に入れるべきである。

そこで、前記の争いのない事実、一において認定した事実及び前記の認定事実に基づいて検討するに、亡元欽及び原告らの国籍及び住所のある中国における経済状態、生活水準、貨幣価値などの事情を考えれば、本件事故の態様、亡元欽の年齢、家族構成、職業、収入などの諸事情を十分考慮しても、亡元欽の死亡に対する同人及び原告らの慰謝料としては、五〇〇万円を上回る額を認めることはできないといわざるを得ない。

三  そうすると、仮に、原告らの請求する弁護士費用を除くその他の損害、即ち、葬儀費用一〇八万四〇八〇円並びに交通費及び滞在費用等七四二万五六九〇円が、いずれも本件事故と相当因果関係のある損害であるとしても、亡元欽及び原告らの受けた損害の合計額は二〇二九万〇二一六円となるから、右損害は原告らの受領した自賠責保険金二五〇〇万円で既に全額填補ずみといえる。

四  よつて、原告らの請求には理由がない。

(裁判官 細井正弘)

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