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松山地方裁判所今治支部 平成21年(モ)5号 決定 2009年5月15日

主文

本件申立てを却下する。

理由

第一申立ての趣旨及び理由

一  債権者は、別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の債権を有する債権者であり、別紙船舶目録記載の船舶(以下「本件船舶」という)に対し同債権を被担保債権とする船舶先取特権(船主責任制限法三条、九五条。以下「本件担保権」という)を有するものであるが、船舶国籍証書その他の船舶の航行のために必要な文書(以下「船舶国籍証書等」という)等を取り上げなければ船舶競売が著しく困難となるおそれがあるから、船舶競売手続の債務者らに、債権者の申立てを受けた執行官に対し、船舶国籍証書等を引き渡すべき旨を命ずることを求めるというのである。

二  なお、債権者は、本件申立後の平成二一年三月一八日、東京地方裁判所に対し、本件担保権に基づき船舶競売申立てをし、その後、取り下げた。

第二当裁判所の判断

一  本件において提出された資料によれば、本件船舶は、相当長期間にわたり、東京と那覇を結ぶ定期航路に就航しており、その運行予定に照らすと、東京地方裁判所の管轄区域内にある港(a)に、毎週月曜日、午前八時ころから午後七時ころまでの約一一時間停泊することが認められ、本件船舶が上記定期航路から外れたり、日本国の領海から離れたりする等の事情を窺わせる資料はない。また、上記提出資料等によっても、本件被担保債権の証明(民事執行法一八九条、一八一条一項四号)の程度は高度とは認めがたく、過失相殺の割合(bに乗船していたAは同船舶の操船には関与していなかったとするが、その証明まではなく、また本件船舶側の過失がごく軽微であってbの操船に当たっていた者らとの共同不法行為とまではいえない場合ではないことの証明もない。)も判然とせず、被担保債権額が存在する可能性は一応認められるものの、金額については最低限度認められる金額を判定することもできない。

二  ところで、民事執行法一八九条により船舶競売に準用される同法一一五条は、入港を待って、又は入港直前の段階で、執行裁判所が定まってから船舶執行を申立てるのでは執行が間に合わない場合が生じることや、外国船舶等いったん執行の機会を逃せば再度執行に及ぶことが事実上不可能となる場合があることから、船舶執行の保全のために設けられたと解される。

三  これを本件について見ると(既に一度船舶競売の申立てをした上取り下げられた点はさておき)、上記一によれば、本件船舶については、少なくとも、毎週一回約一一時間にわたり特定の港に停泊することが予定されている。したがって、船舶競売申立手続自体の管轄裁判所の特定・固定のために船舶国籍証書等の引渡を命ずる必要性は認められない。また、仮に執行裁判所において船舶競売開始決定がなされたときは、相当期間内に同法一一四条一項に基づく船舶国籍証書等の取上げを執行することができるから、船舶競売申立前に船舶国籍証書等を取り上げなければ船舶競売が著しく困難となるおそれがあるとも認められない(むしろ、遅くとも競売開始決定の翌月曜日には取上命令の執行ができる可能性が高いと認められる。)。船舶競売開始決定後に同法一一四条一項の取上げによるときは、債権者にある程度の時間的経済的負担が生ずることは認められるが、他方で、船舶国籍証書等の取上げにより債務者らを含む関係者に及ぼす損害が大きいことは明らかであり、債務名義を有さず、担保権の存在の証明の程度が低い本件においては、上記程度の疎明によっては、未だ民事執行法一一五条にいう「著しく困難となるおそれ」があるとの疎明があったとはいえない(同条は船舶競売に準用されているものの、その必要性の判断に当たっては、債務名義を有する本来の船舶執行の場合と同一には論じられない。)。

四  以上によれば、本件申立てには理由がない。

よって、主文のとおり決定する。

別紙 船舶目録《省略》

別紙 担保権・被担保債権・請求債権目録《省略》

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