松山地方裁判所宇和島支部 平成14年(ワ)43号 判決 2003年3月20日
原告
A野一江
原告法定代理人親権者父
A野太郎
原告法定代理人親権者母
A野花子
原告訴訟代理人弁護士
井上正実
被告
B山松子
被告訴訟代理人弁護士
武田秀治
主文
一 被告は、原告に対し、二六一一万八七三七円及びこれに対する平成一一年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、二九二四万二五七一円及びこれに対する平成一一年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、交通事故により生じた損害につき、原告が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償(及び事故当日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金)を請求したものである。
二 争いのない事実等(証拠により認定した事実については、後の括弧内に証拠を掲げる。)
(1) 被告は、過失により、次の交通事故(以下「本件事故」という。)を引き起こした。(《証拠省略》)
日時 平成一一年八月九日午後六時三五分ころ
場所 愛媛県北宇和郡広見町《番地省略》先路上
加害車両 自家用軽乗用自動車(《ナンバー省略》)
運転者 被告
被害者 原告(平成七年六月五日生まれの女児。当時四歳)
態様 被告は前記場所付近道路を松野町方面から三間町方面に向け、時速約五〇キロメートルの速度で進行中、進路前方から太陽光線が射し込み、進路前方を注視しにくい状態であったから、減速しつつ進路前方及びその左右の安全を確認して進行すべきであったのにこれを怠り、加害車両の前方を右から左へ横断歩行中の原告に、約一メートルの距離に迫って初めて気付き、急制動の措置を講じたが間に合わず、加害車両右前部を原告に衝突させて転倒させた。
(2) 原告は、本件事故により、びまん性脳損傷、外傷性水頭症、外傷性てんかんの傷害を負った。
(3) 原告は、本件事故当日である平成一一年八月九日から同年一二月二〇日までの一三四日間、市立宇和島病院に入院し、同月二一日から平成一二年一二月三一日までの三七六日間、同病院に通院した(実通院日数一三日)。また、同年三月一七日から同年一二月三一日までの二九一日間、県立愛媛整肢療護園に通院した(実通院日数一九日)。
(4) 原告は、治療の結果、平成一二年一二月三一日(当時原告は五歳)、症状固定に至った。
三 争点
被告らは、損害額を争うほか、過失相殺を主張する。この点に関する双方の主張の概要は、別表の該当箇所に記載のとおりである。
第三争点に対する判断
一 損害額
(1) 治療費
既に認定した事実及び《証拠省略》によれば、市立宇和島病院及び県立愛媛整肢療護園における治療費として二五一万一五九五円を要したことを認める。
(2) 入院付添費
既に認定した事実及び《証拠省略》によれば、原告は本件事故当時四歳の幼児であったこと、入院後約八日間昏睡状態が続いた後、徐々に意識が回復したこと、平成一一年九月七日に外傷性水頭症となり同月一三日手術を行ったこと、症状固定に至ってもなお足関節に麻痺の強い左片麻痺の症状が生じたこと、このため入院治療上付添が必要であったこと、原告の母と祖父が交替で、昼夜を問わず付添に当たったことが認められる。これらの事情に照らすと、入院付添費としては日額七〇〇〇円を相当と認める。既に認定した事実によれば、入院日数は一三四日である。
(3) 通院付添費
既に認定した事実及び《証拠省略》によれば、原告は本件事故当時四歳の幼児であったこと、住所地から通院先まではいずれも相当程度長距離の移動を要すること、症状固定に至ってもなお足関節に麻痺の強い左片麻痺の症状が生じ原告の歩行には支障があること、このため治療上付添が必要であったことが認められる。これらの事情に照らすと、通院付添費としては日額四〇〇〇円を相当と認める。既に認定した事実によれば、実通院日数は三二日である。
(4) 通院交通費
通院交通費として一四万二七八〇円が相当であることについては当事者間に争いがない。
(5) 下肢装具費用
《証拠省略》によれば、下肢装具費用として七万三三三〇円を要したことを認める。
(6) 逸失利益
ア 逸失利益の算定基礎収入額
原告は本件事故当時四歳の女児であるところ、将来においては平均賃金程度の収入を得るものと認める。
ところで、現状においては男女間で平均賃金額に格差が存し、女子労働者の賃金額が男子に比して低額となっているが、国の政策として既に男女の機会及び待遇の均等化が指向されており、将来に向けて男女間の賃金格差が縮小していく方向にあると考えられるから、原告のような幼少女児が将来得るであろう収入を認定する場合に、現時点における性別による格差の存在を前提とし、女子につき相対的に低額な認定をすることは相当ではないものと考えられる。したがって、原告の逸失利益の算定基礎収入額については、女子労働者の平均賃金によるのではなく、賃金センサスにおける男女を合わせた全労働者の全年齢平均賃金によるのが相当である。
賃金センサスによれば、原告の症状の固定した平成一二年における全労働者全年齢平均賃金は四九七万七七〇〇円である。
イ 労働能力喪失率
既に認定した事実及び《証拠省略》によれば、原告には本件事故により、自動車損害賠償保障法施行令第二条別表(以下「等級表」という。)九級一〇号に相当する左片麻痺及び高次脳機能障害、習熟障害の後遺障害が残ったことが認められ、これによれば一〇〇分の三五に相当する労働能力が喪失したものと認める。
ウ 中間利息の控除
症状固定時において五歳であった原告について、稼働可能な一八歳から六七歳までの期間につき、ライプニッツ方式により中間利息を控除する際の係数は九・六三五三である。
(7) 慰謝料
ア 傷害慰謝料
既に認定した事実によれば、原告は、本件事故により一三四日間の入院を余儀なくされ、退院後も症状固定までの三七六日間、通院する必要があったのであり、この点については二五〇万円の支払をもって慰藉するのが相当である。
イ 後遺障害慰謝料
既に認定した事実によれば、原告には本件事故により、等級表九級一〇号に相当する左片麻痺及び高次脳機能障害、習熟障害の後遺障害が残っており、この点については六九〇万円の支払をもって慰藉するのが相当である。
二 過失相殺
《証拠省略》によれば、原告は、付近に横断歩道のない場所で車道を横断する際に本件事故に遭ったものであること、本件事故は、当時四歳の原告が自宅から外出した際に生じたものであること、原告の外出に際し保護者は同行することなく自宅にとどまったこと、被告は太陽光が視野に入り前方注視が困難であったのに減速することなく漫然と時速約五〇キロメートルの速度で進行し、そのため被告は原告に約一メートルの距離に迫るまで気付かなかったことが認められ、これらの事情を考慮すると、本件事故についての原告側の過失割合として五パーセントを相当と認める。
三 損害のてん補
《証拠省略》によれば、原告に対しては、本件事故による損害のてん補として、保険会社から既に四七一万二五二五円が支払われたことを認めることができる。
四 弁護士費用
審理の経過、認容額などの事情に照らすと、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては二三五万円を相当と認める。
五 結論
以上を前提としての請求認容額及びその算出の経過は別表中の当裁判所の認定の欄記載のとおりである。
(裁判官 齋藤聡)
<以下省略>