松山地方裁判所西条支部 昭和48年(ワ)113号 判決 1975年11月27日
原告
真鍋進
被告
戸田光男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(甲) 申立
(原告)
一 被告は原告に対し、金一、〇九〇万四、一六三円及びこれに対する昭和四五年一〇月四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決、並びに仮執行の宣言。
(被告)
主文同旨の判決
(乙) 主張
(原告の請求原因)
第一 一 被告は昭和四五年一〇月三日普通乗用車(愛媛五ぬ二〇―四二号。以下本件自動車という)を運転して愛媛県新居浜市泉川国道第一一号線を進行していたところ、同市泉川枯松バス停西五〇米先道路上を歩行中の原告に正面衝突し、原告に対し入院加療七ケ月七日、通院治療九ケ月一八日を要する頭蓋骨々折、右第Ⅱ腰椎左側横突起骨折、頸髄損傷等の傷害を与えた(以下、本件事故という)。
二 (一) 被告は本件自動車の所有者である。
(二) 又、本件事故は被告が前方注視を怠つた過失により生じた事故である。
第二 右事故による原告の損害はつぎのとおり合計金一、三〇八万四、一六三円である。
(一) 治療資金一一二万一、二一三円。
(二) 休業損失金五二万二、九五〇円。
(三) 慰藉料金一三五万円。
(四) 後遺症による慰藉料金二〇九万円。
(五) 原告は本件事故当時三〇才で就労可能年数三三年、年収金九四万一、八六九円であつて、後遺症により労働能力を五〇パーセント喪失したものであるから、その間の逸失利益は金八〇〇万円となる。
第三 よつて、原告は自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という)第三条又は民法第七〇九条に基き、被告に対し、右損害金の内金一、〇九〇万四、一六三円及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四五年一〇月四日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する被告の答弁)
請求原因第一項一のうち、原告主張日時場所で本件自動車と原告が衝突したことを認め、その余は不知。同項二(一)を認める。(二)を否認する。同第三項(三)(四)を否認する。その余は不知。同第三項を争う。
(被告の抗弁)
第一 原告は本件事故発生の日時場所で飲酒酩酊し、通過する車輌の前面に立ちふさがる等の行為に及んでいた。本件事故も原告が本件自動車の前面に急に走り寄り進路を立ふさいだためこれと衝突するに至つたものである。
右のとおり、本件事故は専ら原告の自殺的悪戯による行為から発生したものであり、被告は原告のこのような異常な行動を予見しえなかつたものでこれとの衝突を回避しえなかつたのであるから、原告の一方的過失に基くもので不可抗力である。
第二 原告は所請自賠責保険から金二一八万円を受領した。
第三 本件事故による損害については昭和四六年二月一〇日原告と被告との間で所請自賠責保険及び対人上積保険金計金一、五〇〇万円の限度で全て被害者たる原告が保険会社に対し請求するものとし、後遺症については一切の損害賠償請求権を放棄する旨の示談が成立した。
(抗弁に対する原告の答弁)
抗弁第二項を認める。同第一及び第三項を否認する。
(丙) 証拠〔略〕
理由
第一 一 原告主張日時場所で本件自動車と原告が衝突したこと、及び右自動車が原告の所有であることは当事者間に争がない。
二 まず、右事故は被告の前方不注視による事故であると原告は主張する。
よつて判断するに、本件事故現場附近の道路は乾燥したアスフアルト舗装道路で見透しのよい直線道路であつて、被告は事故当日午前零時三〇分ごろ本件自動車を時速約五〇粁で運転して右事故現場附近に差しかかつたところ、道路左前方約一九・六米の道路端を可成りの酩酊状態でふらつきながら対向して歩いてくる原告を認めたが、原告は突如道路中央へ走り出て両手を拡げて同車の進路を遮ぎり立ち止まつたので、被告は突嗟に急制動の措置を採つたが間に合わず約二四・四米の右後車輪スリツプ痕を残しつつ約一七・五米進行したところで原告と正面衝突するに至つたものであること。以上の事実は〔証拠略〕によつてこれを認めることができる。これに反する原告本人尋問の結果はにわかに措信できない。
そうすると、本件事故が夜間であること、右道路が乾燥したアスフアルト舗装道路(その摩擦係数は〇・五五ないし〇・七と考えられる)であること、右自動車の速度、原告の行動を綜合して考えると、本件事故は原告の一方的飛び出し行為に因るものであつて、若し原告において通常の歩行者のとるように道路端を素直に歩いていれば当然そのような事故に遭遇しなかつたものであり、被告としても右の事態では急制動の措置をとつたところで本件自動車を停止させるには可成りの制動距離を要し到底本件事故を回避することができないものといわざるを得ず、結局右事故は被告に過失はなく、却つて原告の一方的過失によるものであるという他はないのである。
三 又、右の事実を前提とすれば被告の抗弁第一項も理由がある。
第二 よつて、その余の判断をするまでもなく本件事故によつて受けた原告の損失については民法第七〇九条に基くにせよ、又自賠法第三条に基くにせよ何ら被告に対してこれを求める根拠はないものであるから、結局本訴請求はこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。
(裁判官 宗哲朗)