松山家庭裁判所 昭和40年(家)504号 審判 1965年9月24日
申立人 大平花子(仮名)
相手方 大平行男(仮名)
主文
相手方は申立人に対し、金一〇万円を即時に、また、昭和四〇年一〇月から当事者の長男幸男が高等学校を卒業するまで金二万五、〇〇〇円ずつを毎月二一日限り、それぞれ支払え。
理由
(申立の要旨)
申立人は、申立の趣旨として、「相手方は申立人に対し夫婦関係を維持するための生活費として毎月約金二万五、〇〇〇円を支払え。」との審判を求め、その実情として、「申立人と相手方とは、昭和二二年五月一四日婚姻し、爾来円満に婚姻関係を維持してきたところ、相手方は昭和三七年本田ミツコと懇意になりその頃より同棲するようになつた。しかし、その後、毎月一万五、〇〇〇円(ただし毎年六月、一二月は若干増額)ずつ相手方より送金をうけていたが、本年六月から相手方はその送金を停止したので、本申立に及んだ次第である。」と述べた。
(事件の経過)
本件は、当初申立人より相手方に対する昭和四〇年(家イ)第一四六号夫婦間の協力扶助調停申立事件として、昭和四〇年六月三日当庁に係属し、その後昭和四〇年六月一六日より同年七月二日まで調停手続が行なわれたが、相手方が調停に応ずる意思がないため、同年七月二日調停が不成立となり、審判手続に移行したものである。当裁判所は同日、家事審判規則第四六条、第九五条一項に則つて、相手方に対し、昭和四〇年六月分として金一万五、〇〇〇円、同年七月以降毎月金一万五、〇〇〇円ずつを毎月二一日限り、当裁判所に寄託して、支払うべき旨の臨時の処分をなしたにもかかわらず、相手方は、その処分に従わない。しかも、当裁判所が昭和四〇年九月一五日午前一〇時の審判期日を指定し、これを相手方に送達したのに、相手方は、同期日にも出頭しない。
(当裁判所の判断)
よつて、当裁判所は、以下申立人に対する審問の結果および職権による調査に基づいて判断する。
広島県三原市長作成の申立人、相手方に関する戸籍謄本、国鉄四国支社○○気動車区長の相手方に関する給与証明、当庁調査官山口博作成の調査報告書および申立人に対する審問の結果(第一、二回)によれば、申立人と相手方とは昭和二二年五月一四日婚姻届をし、その後、双方の性格の相違はあつたものの、ほぼ円満な家庭生活を営み同年一一月二日長男幸男を、昭和二五年四月三日長女幸子をそれぞれ儲けて、その養育に当つてきたところ、相手方は昭和三七年二月から本田ミツコなる女性と懇ろになり、やがて同人と同棲するようになり、爾後申立人に対しては毎月一万五、〇〇〇円と年間約四万〇、〇〇〇円の生活費を渡してきたのみで、昭和四〇年六月以降はその支給をなさず今日に至つていること、相手方は現在国鉄四国支社○○気動車区に機関士として勤務し、その収入は、本俸その他の諸手当から公租、公課等の法定控除額等を差引いた毎月の給料として昭和四〇年六月は四万八、四〇九円、同年七月は四万六、一四五円、同年八月は四万三、六二四円を得ているほか、同年六月夏期賞与として六万〇、三九〇円を受領していること、申立人は長男幸男、長女幸子および姪原田京子と同居し、申立人の収入源としては、家政のかたわら掃除婦としてあげえる収入月約八、〇〇〇円のほか確たる収入がなく、長男幸男は現在○○高校商業科三年に在学中、長女幸子は中学三年生、姪原田京子は小学三年としてそれぞれ在学中であることが認められる。
以上のほか、申立人に対する審問の結果および前記調査報告書によれば、その内容は証拠上確定しがたいが、申立人は姪原田京子と子二名の生活費として、食費、学費等を含めて最少限度二万三、〇〇〇円を要し、なお、申立人は現在相手方からの送金をたたれて約四万五、〇〇〇円以上の債務があり、この状態が続けば、さらに借金がかさみ、また遂には借金の当てもなく、緊急に相手方からの扶助を要する状態にあることが窺われる。
ところで、上記姪原田京子の扶養については暫らく措き、申立人と相手方およびその間の子幸男、幸子との相互の扶養関係は、講学上いわゆる生活保持義務の関係にあるから、申立人およびその子二名は相手方の収入に応じてそれ相当の生活程度を維持し、これに必要な協力扶助を相手方に求めるべきは当然であるといわなければならない。
よつて、相手方が申立人に対し、申立人および幸男、幸子の生活費として支払うべき額について検討する。
上記の如く、申立人はその生活費として最低二万三、〇〇〇円を要し、しかも現在四万五、〇〇〇円以上の債務を負つて困窮している状態にあるといい、他方、相手方はその生活費の内容を明らかにしない本件のような場合においては、生活費の算定は一般的な統計に基づいてこれをするのが合理的であると考えられる。その拠るべき統計としては、他に準拠すべきものがないわけではないが、当裁判所は、別表のような労働科学研究所編「総合消費単位表」によるのが妥当と思料するので、これを基準として、以下申立人および相手方の消費単位および所要生活費を算定する。
まず、消費単位であるが、申立人は主婦としてのかたわら掃除婦をしているので別表中九五、長男幸男は高校生男子であるから九五、長女幸子は中学生女子であるから八〇、相手方は機関士として激作業の職と考えられるから一二〇、および現在別居しているのでさらに二〇を加算して一四〇とする。しかして、相手方の毎月の収入は前記昭和四〇年六月ないし八月の三月間の平均収入は約四万六、〇〇〇円であり、これに昭和四〇年六月に六万〇、三九〇円の賞与を得ているから、同年末に少くとも同額以上の賞与を得ることが推測されるので、これを一二月間に均分すると、毎月の実収入は約五万六、〇〇〇円となる。また、申立人の収入は、前記のとおり月八、〇〇〇円と認められる。よつて、申立人と相手方との収入の合計は約六万四、〇〇〇円であり、これを前記各人別消費単位によつて算定すると、
申立人の生活費は64,000円×(95/140+95+95+80) = 14,829円
長男幸男の生活費は64,000円×(95/140+95+95+80) = 14,829円
長女幸子の生活費は64,000円×(80/140+95+95+80) = 12,488円
相手方の生活費は64,000円×(140/140+95+95+80) = 21,854円
ということになる。この額は、申立人と相手方との収入に応じて、双方およびその間の子二名が生活を享受しうべき生活費である。
よつて、申立人、幸男、幸子の上記算定による生活費の合計は四万二、一四六円となるが、このうち、申立人は毎月八、〇〇〇円の収入を得ているから、これを控除すると、三万四、一四六円となる。従つて、上記算定方法によれば、相手方は申立人および子二名の生活費として、月収五万六、〇〇〇円のなかから三万四、一四六円を支給すべきことになる。しかしながら、本件において、申立人は、相手方に毎月二万五、〇〇〇円程度の生活費を請求しているのであり、また長男幸男は、すでに高校三年生にもなつており、学業の余暇を利用して若干の収入をあげることも不可能ではなく(また、来春三月には高校を卒業する予定である。)、なお、二万五、〇〇〇円を越える部分については、相手方がこの審判の趣旨を考え、かつまた、申立人らの家族に対する愛情と責任をさとつて任意に履行することも期待できないではないので、以上諸般の事情を考慮し、相手方は申立人に対し、本件調停の申立てのなされた昭和四〇年六月から長男幸男が高校を卒業するに至るまで毎月金二万五、〇〇〇円を相手方の給料日の翌日たる毎月二一日限り支払うべきものと定める。従つて、同年六月ないし九月分はすでに期限が到来しているので金一〇万円を即時に、同年一〇月以降は毎月二万五、〇〇〇円ずつとなる。
よつて主文のとおり審判する。(なお、この審判は、その後当事者間に事情の変更があれば、当裁判所に変更の申立をなしうることを付言する。)
(家事審判官 糟谷忠男)
別紙
労動科学研究所の「総合消費単位(都市)」(別居しているときは20~30を加算)
性別、労動の有無、種別
60歳未満
60歳以上
既婚男子
軽作業以下
100
95
中等作業
105
100
重作業
115
110
激作業
120
115
既婚女子
主婦
80
65
軽作業
90
80
中等作業
95
85
重作業
100
90
就労しない未婚女子
90
生活の中心でない未婚男女
115
但し重作業以上は既婚者のもの
学齢・年齢別
男
女
大学生
105
100
高校生
95
90
中学生
85
80
小学4~6年
60
小学1~3年
55
4~6歳
45
1~3歳
40
0歳
30