松山家庭裁判所宇和島支部 事件番号不詳 判決
本籍 東宇和郡宇和町大字下松葉甲一、三八〇番地
住居 宇和島市丸之内一番地の内五六番
旅館業 河野儀市 明治二十二年十二月十五日生
主文
被告人を罰金一万円に処す。
右罰金を完納できないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は肩書自宅において旅館業並に飮食店営業を営むものであるが右自宅において給仕人として使用する
第一、○見○子(昭和十一年八月二六日生)が十八歳未満の児童であるのに同人をして昭和二十九年八月四日より同月二十二日までの間継続して十回に亘り西岡某外九名位の遊客と淫行させ
第二、○垣○み○(昭和十三年二月十九日生)が十八歳未満の児童であるのに不注意にもその年令を確めることなく同人をして昭和二十九年十一月三十日より同年十二月二十日までの間継続して十八回に亘り森某外十七名位の遊客と淫行させ
たものである。
(証拠の標目)
判示各事実は
一、被告人の当公廷における供述
一、被告人の司法警察員並に副検事に対する各供述調書
一、宇和町長作成○見○子の身上調査に関する回答書
一、関宮村役場作成○垣○み○の身上調査に関する回答書
一、○見○子の司法警察員並に副検事に対する各供述調書
一、○垣○み○の司法警察員に対する供述調書(二通)
一、領置に係る金銭出納簿(三册)の記載
を綜合してその証明十分である。
被告人並に弁護人は
一、本件は児童である○見○子、○垣○み○等が夫々自己の自由意思により客と情交したものであつて、被告人が淫行をさせたものではない。と抗争するにつき按するに、児童福祉法第三四条第一項第六号に所謂「児童に淫行させる行為」とは児童を強制して淫行をなさしめ場合に限らず、児童に対して淫行をなすべきことを勧誘し、示唆し、指導し或は淫行の機会を与え又は淫行の場所を提供する等により児童をして淫行をなすに至らしめた行為をも包合するものと解すべきである。本件について之を観るに判示各証拠を綜合すると、被告人は旅館兼飮食店を経営しその雇入れた給仕人等に対し客と情交することによつて得べき利益を説いてこれを勧誘示唆し且つ淫行の場所を提供しよつて児童をして淫行をなするに至らしめたことが認められるので、右被告人の行為が児童に淫行をさせたことに該当すること明かである。
二、判示第二の事実について、被告人は○垣○み○を雇入れるに際し同女に対しその年令を確めたところ昭和十年三月十九日生で数へ年二十歳であると答えたばかりでなく何人が見ても二十歳以上の体格風貌を具えていたので、更に調査をする必要を認めなかつたのである。それ故同女が十八歳未満の児童であることを知らなかつたことにつき被告人に過失の責はないと主張する。しかし人の年令は本籍照会その他の方法によつて容易に確認し得られるのであつて、本件においてその調査が不能であるとか或は著しく困難であつたという特段の事由は認められないのである。然るに被告人は単に外見上の判断によつて年令を推測し本人の言に偽りないものと軽信し何等調査の手続をなすことなく、同女に淫行をなさしめたことは被告人の業態として当に為すべき注意義務を懈怠したものというべく過失の責を免れることはできない。所論の事情は被告人の善意を推定せしめるに止まり過失の存在を否定する資料とはならない。
よつて弁護人等の抗弁を排斥して判示のとおり認定した次第である。
(法令の適用)
被告人の判示所為は各児童福祉法第三四条第一項第六号第六〇条第一項(なお判示第二については同法第六〇条第三項)に該当するところ以上は刑法第四五条前段の併合罪(但し判示第一の各罪及第二の各罪は夫々包括一罪と認める)であるから所定刑中各罰金刑を選択し同法第四八条第二項により各罪について定めた罰金の合算額以下の範囲内で被告人を罰金一万円に処し右罰金不完納の場合における拠刑留置につき同法第一八条訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項を適用し主文のとおり判決する。
(判事 盛麻吉)