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松山家庭裁判所西条支部 平成14年(少)180号 決定 2002年6月18日

少年 M・J(昭和59.1.20生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

本件送致事実中、司法警察員作成の平成14年5月24日付け追送致書記載の事実(窃盗)については、少年を保護処分に付さない。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、A(当時16歳)、B(当時16歳)及びC(当時15歳)と共謀の上、清涼飲料水の自動販売機から現金を窃取しようと企て、

第1  平成14年4月18日午前1時ころ、愛媛県川之江市○○町××番地×所在の○○店北側自動販売機コーナーに設置された清涼飲料水の自動販売機の前面パネルをバールでこじ開けるなどしたが、現金窃取の目的を遂げなかった

第2  同日午前1時15分ころ、同市同町××番地所在の○△店倉庫北側軒下に設置されていた清涼飲料水の自動販売機内から同店経営者△○所有にかかる現金約4500円を窃取した

ものである。

(法令の適用)

第1の行為 刑法60条、243条、235条

第2の行為 刑法60条、235条

(原動機付自転車窃取についての送致事実を認定しなかった理由)

1  少年に関しては、上記認定の非行事実に加え、同事実に先立つ時点の犯行として、「少年は、Bと共謀の上、平成14年4月18日午前0時45分ころ、川之江市○○町××番地△□方敷地内駐車場において、同所に駐車中の同△□所有にかかる、原動機付自転車1台(時価5万円相当)を窃取したものである。」旨の事件(司法警察員作成の平成14年5月24日付追送致書、以下、説明の便宜上、「本件追送事実」という。)が送致されている。しかしながら、同事実については、以下に述べるとおり、実行犯であるBと少年との間に共謀が成立していたか否かについて、合理的疑いが残るので、非行なしとせざるを得ない。

2  B及び少年(以下、「M」ともいう。)の捜査段階の各供述内容

(1)  Bは、本件追送事実に関して、大要以下の点を供述していた。すなわち、<1>AとCが原付バイクに乗り、□□店前を出発していったが、その時その二人がどこかで自動販売機荒らしをしにいくのは分からなかった。<2>それから20分位経ってもAらが戻ってこないので、自分とMはAらを探しにいくことになり、△△店の方に行った。<3>途中で、○○町の「□△」の裏の方で、シートのかかったバイク(以下、「本件バイク」などという。)を見付けた。自分は、Aらを探すのに疲れていたので、これを盗れたら広い範囲でAらを探せるなと思った。<4>シートをはずすと、原付バイクであることがわかり、Mに「これ、持っていこや」のようなことを言って、自分がハンドルを持って△△店の方に移動させた。Mは、黙って頷いて、自分の後ろを歩いてついてきた。<5>△△店にバイクを移動させた後、マイナスドライバーを鍵穴に突っ込むなどしてエンジンをスタートさせた。Mは、自分が△△店でエンジンをかけようとしている間、ずっと自分の横にいて様子を見ていた。これで自分たちは、このバイクを今日一日使おうと思い、エンジンキーのついていないバイクにエンジンをかけており、元に返すつもりはなかった。<6>自分がバイクを移動させたり、直結という方法でエンジンをかけている間、Mは自分の後をついてきて、自分の様子をじっと見ていたと思うが、バイクをとることを知っていたことに間違いありません、などというものである。

(2)  これに対し、少年は、平成14年5月7日の逮捕当初は、逮捕事実(前記認定の自動販売機に対する窃盗未遂及び窃盗の事実)に対し、「自分には全く関係のないことです。」と否認し、同月14日時点でも「僕が逮捕されている事件のことについては、『知らんとしか言えない。』ので、それだけしか言えません。」としていた。しかし、勾留延長後の同月20日の取調べにおいて、勾留事実(逮捕事実と同じ。)について一転して自白し、それまで否認していた理由として、一緒に行っていて共犯であることは分かっていたが、「一緒に行っていただけで、実際は自分も手を出していないのに」という気持ちがあり、「これまでの充実した生活を壊されたくない」という気持ちもあったので、逮捕された時につい否認して、本当のことを言い出せなかったが、逮捕されてから時間が経ち、気持ちも落ち着いてきていつまでも嘘をつき通すことはできないと考えて、自動販売機荒らしへの関与を自白するようになった旨を説明した。そして、本件追送事実に関しては、<1>○○○○のところで、自分とA、B、Cの四人で「自動販売機をやりにいく」という話になっていたが、自分は仕事をしてお金には困っていなかったので、「俺は、金はいらん。見張りしよってやるけんどんなにして盗むか見せてや。」と言っていた。<2>○○○○(少年らが通称で呼んでいる公衆トイレで、記録上、□□店とほぼ同位置と認められる。)に来たときには原付は何台かあり、その中の一台にBが乗り、自分が後ろに乗ったと思う。<3>4月18日午前1時ころ、AとC、自分とBがそれぞれ原付に二人乗りして出発した、などを供述していたが、本件追送事実に関しては、「僕はBと一緒に盗んだりはしていません。」と全面的に否定し、同月27日の当庁での観護措置決定時にも、「Bと共謀したことはありませんし、盗まれた場所に一緒にいたこともありません。」と述べた。

3  当審判廷における証人尋問等

Bは、当審判廷において、少年が退席している間の証言中では、前記2(1)の<1>ないし<5>の点すなわち、本件バイクを窃取するにあたり、少年が近くにいたこと、被害者方付近から△△店に本件バイクを移動させ、エンジンを直結にして始動させた折りにも少年が側におり、その後、少年がBの本件バイクに後乗して本件自動販売機のところに赴いたことなどについて、ほぼ捜査段階における供述内容が正しいことを確認したが、Bの平成14年5月20日付けの警察官調書中の、Bが本件バイクを発見した後に、少年に対して「これ、もっていこや。」と告げた旨の部分については、明確に否定し、その時は何もしゃべっていない旨を証言した。また、自分の犯行を少年に「見張って」もらっているという気持ちがなかった旨も証言し、捜査段階の各調書中、少年とBが共犯となって本件バイクの窃盗を行った旨の表現に関しては、自分の単独犯行である趣旨を述べた。

次に、少年を再度入廷させ、証人Bの証言内容の要旨を告知した後の反対尋問では、少年からの「○○店へは、元々□□店にあった原付に乗っていったと思うのですが、どうですか。」との問いに対し、「僕が盗んできた原付を置いていたかも知れません。△△店から行くときに、□□店前にあるトイレに寄って、そこでM君を乗せて○○店に行ったと思います。」と証言を翻し、当裁判所がその点を再確認すると、「警察で述べた記憶の方が正しいかも知れない」と述べるなど、再度証言内容を変転させるに至った。

4  証拠の評価について

一件記録及び証人Bの証言によれば、本件バイクをBが被害者宅前から△△店前まで移動させ、そこから少年を後乗させて○○店まで赴いたことは認められるものの、本件バイクを被害者宅から移動させ始めた時に、少年とBがどの程度の距離にいたかは、Bが当審判廷で「5メートルくらい離れていました」とややあいまいな表現で証言し、あるいは、被害者宅付近への路地に少年が入ったこともなかったかのような証言すらしているのみであって、証拠上必ずしも明らかとは言えない。また、実行犯であるBにおいて、少年をバイク窃盗についての「見張り」役であったと認識していたかについては、同人の捜査段階における供述調書上も明確ではなく、当審判廷では、自らの単独犯であるとの趣旨の証言までしているところである。Bは、審判廷においては、暴走族グループ「×××××」内で先輩格の少年をおそれており、殊に反対尋問では少年を庇おうと証言を後退させる傾向が窺われるものの、少年を退廷させている間の尋問では、本件犯行経緯の多くに関して少年に不利になる部分についても警察段階での供述調書どおりと素直に述べる一方で、本件バイクを発見したときの発言についてのみ明確に否定していることからすれば、Bがこの点のみことさら事実と反する証言をしたと考えるのは困難である。そうすると、共犯者とされる少年は一貫して本件追送事実への関与を否定していることから、少年がBとの間で言葉により共謀の意思を相通じたとの証拠はないといわざるを得ない。

さらに、両者間に暗黙の内に共謀が成立していたか否かについて検討すると、Bが「×××××」内で少年の後輩にあたること、本件追送事実の時点前に、Bは少年を自宅までバイクで迎えに行き、□□店に来ていたが、その後、Bはそのバイクを前記Aに貸したため、いわゆる「足がない」状態となっていたことに照らせば、必ずしも素行芳しいとはいえない少年らの意識としては、自販機荒らしに赴くにあたり、小回りの利く原付バイクを盗んで足代わりにしてもかまわないといった程度の意識は共有されていたとの推測も可能ではある。しかしながら、Bにおいては、本件以前、原動機付自転車に他の共犯者と分乗し、一人が見張り役、一人が壊し役という分担をして自動販売機荒らしを繰り返していたものであるが、少年自身は、それまで自動販売機荒らしに加担したことはなく、その方法すらよく知らず興味があって今回初めて参加したと述べており、これを前提とするかぎり、自販機荒らしを共に行う上で、バイクが欠かせない物であり、本件当日にどこからか窃取してきてでも調達しなければならないとの認識をBと共通にしていたとまで認めることには、いささか疑問が残る。そうすれば、少年が本件の犯行前後にBと行動を共にし、また、事後に一時的であれBと本件バイクの運転を代わり、我が物のように運転したことがある点を考慮に入れても、少年において、バイクを不法に領得する意思やBのバイク窃盗の犯行にあたり少年が見張りの役割をはたすとの共犯意識を有していたことを裏付ける証拠に乏しいと言わざるを得ない。したがって、暗黙の内に両者間で共謀が成立していたと認めることについても、合理的な疑いが存するというべきである。

(処遇の理由)

1  これまでの保護処分歴等

少年は、(1)平成12年8月の毒物及び劇物取締法違反(シンナーの吸入)及び平成13年1月の道路運送車両法違反・道路交通法違反(ナンバープレートを外したバイクの無免許運転)の各非行事実により、観護措置を経て、平成13年5月22日に当庁において保護観察の処分を受け、(2)その直後である同年5月28日に自動二輪車を無免許運転したことにより、再度観護措置を経て、同年6月26日に中等少年院送致(特修短期処遇)決定を受けた。(3)その後、同年9月13日に少年院を仮退院となり、2号観察扱いとなったが、10日も経過しない時点である同月22日に×××××関係者間での傷害事件を引き起こし、在宅のまま審判を受けて、平成14年4月2日に別件保護中を理由として不処分となった。

2  本件罪となるべき事実の評価

本件は、少年院仮退院後2度目の再非行事案で、かつ、前記別件保護中不処分審判のわずか半月の時点での事件である。少年は、今回、前記×××××に所属する後輩達により広範囲かつ多数回にわたって敢行された自動販売機荒らしの一端に先輩格として見張り等の行為に及んだものであり、その責任は重く、厳しい非難に値する。また、記録上、本件犯行直後に何のためらいもなく無免許かつ定員外乗車で原動機付自転車を運転していたことも窺われるところであり、この点は、仮退院後の2号観察における特別遵守事項の一つとして厳に戒められていたことに照らすと、交通事犯についての規範意識もにわかに低下しているものといわざるを得ず、総じて非行性が復活していると見るべきである。

3  少年院仮退院後の生活状況等

少年は、平成13年9月13日に少年院を仮退院した後、現稼動先での仕事には真面目に取り組み、また、保護司への往訪は励行していた。特に、それまでの非行の原因となっていた暴走族仲間との交遊についても、仮退院直後に×××××関係者との間で傷害事件を引き起こし検挙されて以降は、本件窃盗事件敢行後も含めて同関係者とはつき合いがない旨を保護司に申告し続けていたものである。しかしながら、本件で明らかとなったように、少年は、仮退院後も、現役の×××××としての活動こそ後輩に譲っていたものの、×××××構成員と頻繁に会食し、あるいは、本件記録上も、脱退する会員から多額の脱会金を受け取っていた事実等が窺われるなど、×××××ないし、その上部組織とのつきあいを断ち切ることなく、むしろ先輩格として本件共犯者らに隠然たる影響力を有する存在となっていたものである。

また、少年は、前回の収容処遇前に興味本位から右上腕に入れていた入れ墨について、自らの更生のためにいち早く消したい旨を当裁判所に示していながら、これを実行することなく、逆に仮退院後の本年3月には、暴力団関係者が入れているような本格的な和彫りの入れ墨を背中一面に入れるに至っており、不良文化への親和性が仮退院時よりも進行している点も、少年の要保護性を考える上で軽視できない事情である。

さらに、少年はこれまでの非行事件の捜査段階においても否認の態度を示すことが多かったが、本件で共犯者のCが先に検挙された折りには、自らを含めて他の共犯者の関与を警察に告げないようにとの趣旨に受け取られる「様子窺い」の手紙をCに送ったり、あるいは自らが逮捕された後にも取調警察官に悪態をつき、不利益な証拠があると分かるまでは本件自動販売機荒らしへの関与を否認し、×××××との関係も過小にしか述べていないのであって、本来の少年らしさを失い、発覚しなければよいとの表裏的な構えが強くなっている点は、鑑別結果でも少年の性格上の問題点として指摘されているところである。

4  保護者の対応と保護環境について

保護者においては、少年が真面目に稼助し、保護観察に対しても表面上従順であったことに気を許し、不良な交友関係の再開や本格的な入れ墨を入れることに何ら有効な歯止めを掛けることが出来ずにきており、仮退院後の保護観察中であることへの切迫感が欠如していたというべきである。少年の母親は、当審判廷において、少年の監護のために退職して指導体制をとる意向も示しているが、これまでの手ぬるい監督状況や少年の性格、とりわけ、少年自身は親からの過干渉が非行化のきっかけであると認識し、子供扱いされることに反発を感じていることからすれば、保護者の監督によって少年の非行を抑止することはもはや期待できない。

5  まとめ

以上に照らせば、在宅処遇により少年の問題点の改善と再非行の防止を図るのは困難と認められるから、少年院を仮退院後に非行を繰り返したことへの責任を自覚させ、長年にわたって身についた反社会的な性向を根本的に正すためにも、少年を再度、中等少年院に送致し、同所の強力な教育を施す必要がある。なお、鑑別結果にもあるとおり、反社会的な価値観の取り入れが進みつつあることや、これまで保護観察の指導を表面的に受け流しており、防衛的、表裏的な構えが強いこと、前回処遇の非行事実である交通事犯についての規範意識の低下も見られることなどの諸点に鑑みると、真の教育効果を得られるまでにはある程度長期間を要するものと考えられる。もっとも、本件非行が単発的かつ従属的な共犯事案に止まっており、他に重大な余罪が認められないこと、就労面では改善が進んでいること、今般3回目となる観護措置の中では、礼儀正しさや自重した態度が目立つようになっており、規律ある生活への適応が進みつつあることなどを考慮すれば、少年院における長期処遇課程においても、比較的短期間の処遇により矯正の目的を達しうるものと思料する。

6  よって、判示罪となるべき事実については少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用し、本件追送事実については少年法23条2項により、それぞれ主文のとおり決定する。

(裁判官 北村和)

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