松江地方裁判所 平成10年(行ウ)5号 判決 2001年10月24日
原告
A株式会社
同代表者代表取締役
甲
同補佐人
乙
同訴訟代理人弁護士
岡崎由美子
同
錦織正二
被告
浜田税務署長 伊藤義隆
同指定代理人
池下朗
同
長尾俊貴
同
要田悟史
同
好中和儀
同
斎藤勤
同
永井功
同
向原良二
主文
1 原告の本訴請求中、平成6年12月1日から平成7年11月30日までの事業年度の法人税について、被告が平成8年7月30日付けでした更正処分の取消しを求める請求のうち、所得金額4023万8244円を超えない部分の取消しを求める部分に係る訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
(略語)
この欄における主な略語は以下のとおりである。
平成6年11月期・・・・・・・・・・・・
原告の平成5年12月1日から平成6年11月30日までの法人税法上の事業年度
平成7年11月期・・・・・・・・・・・・
原告の平成6年12月1日から平成7年11月30日までの法人税法上の事業年度
平成6年11月課税期間・・・・・・
上記の平成6年11月期の消費税の課税期間
平成7年11月課税期間・・・・・・
上記の平成7年11月期の消費税の課税期間
B・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
B株式会社
C・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
C株式会社
本件処分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
被告が行った別表3及び同4の各「更正等」欄記載のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定
本件法人税の各更正処分・・・・・・
本件処分のうちの法人税の各更正処分
本件法人税の各賦課決定処分・・
本件処分のうちの法人税の過少申告加算税の各賦課決定処分
本件消費税の各更正処分・・・・・・
本件処分のうちの消費税の各更正処分
本件消費税の各賦課決定処分・・
本件処分のうちの消費税の過少申告加算税の各賦課決定処分
第1請求
1 被告が、原告に対し、平成6年11月期及び平成7年11月期の法人税について、平成8年7月30日付けでした別表1(2)記載の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、同表1(3)記載の正当額欄記載の金額を超える部分はこれを取り消す。
2 被告が、原告に対し、平成6年11月課税期間及び平成7年11月課税期間の消費税について、平成8年7月30日付けでした別表2(2)記載の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、同表2(3)記載の正当額欄記載の金額を超える部分はこれを取り消す。
第2事案の概要
1 事案の骨子
本件は、原告がした法人税及び消費税の確定申告に対し、被告が、原告による手形の振出し、交付によるリース料の支払は損金とは認められないなどとして、本件処分をしたところ、原告が、上記リース料は短期の前払費用として、損金と扱うべきであり、本件処分のうち、一定額を超える部分は違法であると主張して、その取消しを求めた抗告訴訟である。
2 争いのない事実等
(1) 原告(争いのない事実及び弁論の全趣旨)
原告は、ラジエーター等の製造・販売を業とする会社であり、事業年度を当該年12月1日からから翌年11月30日までとして、法人税法121条に規定する青色の申告書を提出している法人である。
(2) 原告によるリース契約の締結(該当箇所に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨)
ア 原告は、平成3年6月12日、Bとの間で、リース対象物件をワイヤーカット放電加工機及び自動プログラミング装置、リース期間を平成3年6月から平成10年5月までの84か月、リース料を月額35万7616円(ただし、消費税1万0416円を含む。)、リース料の支払は毎月分(最終月からさかのぼってリース料に充当される前払リース料の額〔3か月分〕を除く。)を該当月の7日にD信用金庫(なお、平成7年5月22日にE信用金庫と合併し「F信用金庫」に名称変更)本店の原告名義の当座預金口座から口座振替の方法により支払うとの約定で、リース契約を締結した(乙11別添1及び2)。
イ 原告は、Cとの間で、以下のとおり、リース契約を締結した(以下、上記アのリース契約と併せて「本件リース契約」ともいう。)。
(ア) 平成5年2月26日に、リース対象物件を窒素雰囲気アルミろう付炉(ブレージングファーネス、フラックス塗布装置、乾燥炉)、リース期間を平成5年7月(納入予定日)から84か月、リース料を月額125万1450円(ただし、消費税3万6450円を含む。)、リース料の支払は第1回分を除くほかは、毎月分を該当月の21日にG銀行江古田支店の原告名義の当座預金口座から口座振替の方法により支払うとの約定のリース契約(乙16の1)。
(イ) 平成5年8月3日に、リース対象物件をラジエーター用フィンマシン及びコンデンサー用フィンマシン等、リース期間を平成5年8月16日から108か月、リース料を月額191万0650円(ただし、消費税5万5650円を含む。)、リース料の支払は上記(ア)と同じとするリース契約(乙16の2)。
(ウ) 平成5年11月5日に、リース対象物件をラジエーター用フィンマシン、ヒーター用フィンマシン及びコンデンサー用フィンロール、リース期間を平成5年11月から108か月、リース料を31万9300円(消費税9300円を含む。)、リース料の支払は上記(ア)と同じとするリース契約(乙16の3)。
(エ) 平成5年12月16日に、リース対象物件をラジエーター用<手動式>コア組立機、パイプベンダー等、リース期間を平成5年12月から108か月、リース料を月額20万7030円(消費税6030円を含む。)、リース料の支払は上記(ア)と同じとするリース契約(乙16の4)。
(オ) 平成6年3月に、リース対象物件をアルミラジエーター脱脂炉、リース期間を平成6年3月から108か月、リース料を月額21万2695円(消費税6195円を含む。)、リース料の支払は上記(ア)と同じとするリース契約(乙16の5)。
(カ) 平成7年1月10日に、リース対象物件をチューブミル、半自動コアー<BS>組立機等、リース期間を平成7年4月(納入予定日であり、第1回分の支払日は同年5月10日。)から108か月、リース料を月額103万8240円(消費税3万0240円を含む。)、リース料の支払は上記(ア)と同じとするリース契約(乙16の6)。
ウ 本件リース料の支払状況(該当箇所に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨。なお、原告が以下のとおり振り出した手形を一括して「本件手形」ともいう。)
(ア) 平成6年11月期(平成5年12月1日から平成6年11月30日まで)
a 原告は、平成6年11月8日、Bに対し、上記(2)アのリース契約に基づく平成6年12月分から平成7年11月分までの向こう12か月分のリース料として、上記(2)アの契約支払日を支払期日とする約束手形12通(1通の額面は35万7616円であり、額面合計額は429万1392円である。)を振り出して、交付し、Bは平成6年11月9日付けで上記手形の受領に対する「領収証」(甲22の1)を発行し、これを原告に交付した。
b 原告は、平成6年11月9日、Cに対し、上記(2)イ(ア)ないし(オ)の各リース契約に基づく平成6年12月分から平成7年11月分までの向こう12か月分のリース料として、上記(2)イ(ア)ないし(オ)の各契約支払日を支払期日とする約束手形12通(1通の額面は390万1125円であり、額面合計額は4681万3500円である。)を振り出して、交付し、Cは平成6年11月11日付けで上記手形の受領に対する「領収書」(甲20の1)を発行し、原告に交付した。
c 原告は、上記a及びb額面合計額のうち消費税相当額を除いた4961万6400円(B分416万6400円、C分4545万0000円の合計額。以下、これを「平成6年度リース料」という。)を損金の額に算入した。
(イ) 平成7年11月期(平成6年12月1日から平成7年11月30日まで)
a 原告は、平成7年11月8日、Bに対し、上記(2)アの契約に基づく平成7年12月分から平成8年11月分の向こう12か月分のリース料として、上記(2)アの契約支払日を支払期日とする約束手形12通(1通の額面は35万7616円であり、額面合計額は429万1392円である。)を振り出して、交付し、Bは平成7年11月9日付けで上記手形の受領に対する「領収証」(甲22の2)を発行し、原告に交付した。
b 原告は、平成7年11月8日、Cに対し、上記(2)イ(ア)ないし(カ)の各リース契約に基づく平成7年12月分から平成8年11月分の向こう12か月分のリース料として、上記(2)イ(ア)ないし(カ)の各契約支払日を支払期日とする約束手形12通(1通の額面は493万9365円であり、額面合計額は5927万2380円である。)を振り出して、交付し、Cは平成7年11月10日付けで上記手形の受領に対する「領収書」(甲20の2)を発行し、原告に交付した。
c 原告は、上記(イ)a及びbの額面合計額のうち消費税相当額を除いた6171万2400円(B分416万6400円、C分5754万6000円の合計額。以下、これを「平成7年度リース料」といい、平成6年度リース料と併せて、「本件リース料」ともいう。)を損金の額に算入した。
(3) 本件処分等(争いがない。)
原告は、平成6年11月期及び平成7年11月期の法人税について、本件リース料(平成6年度リース料及び平成7年度リース料)は、いずれも法人税法基本通達2-2-14(以下「本件法人税法基本通達」という。)の短期の前払費用であり、損金に当たるとして、それぞれ各事業年度の損金の額に算入して法人税の確定申告を行った。また、原告は、平成6年11月課税期間及び平成7年11月課税期間の消費税について、本件リース料に係る消費税額は、いずれも昭和63年12月30日付間消1-63「消費税法取扱通達の制定について」11-1-16(以下「本件消費税法取扱通達」という。なお、同通達は、平成8年3月31日限り廃止された。)により控除対象の仕入税額に当たるとして、各課税期間の消費税額を計算して、消費税の確定申告を行った。なお、原告による確定申告の額は、別表3(本件各事業年度における法人税の課税処分等経過表)及び別表4(本件各課税期間における消費税の課税処分等経過表)の各「確定申告」欄該当欄記載のとおりである。
これに対し、被告は、本件リース料を損金算入することはできないなどとして、別表3及び同4の各「更正等」欄記載のとおり、本件処分をした。
(4) 本件処分に対する不服申立て(争いがない。)
ア 原告は、本件処分を不服として、平成8年8月8日、国税不服審判所長に対し、本件法人税の各更正処分及び各賦課決定処分並びに本件消費税の各更正処分及び各賦課決定処分について審査請求の申立てを行った。
イ 原告は、消費税については異議申立前置を要するとの指摘を受けたため、同年9月19日、本件消費税の各更正処分及び各賦課決定処分について、上記審査請求申立てを取り下げた上で、別表4の該当欄記載のとおり、同日、広島国税局長に対して異議申立てをなしたところ、同局長は、同年12月17日付けで上記異議申立棄却の決定をした。そこで、原告は、平成9年1月9日、国税不服審判所長に対し、本件消費税の各更正処分及び各賦課決定処分に対する審査請求をした。
ウ これに対し、国税不服審判所長は、平成10年4月24日、上記アの本件法人税の各更正処分及び各賦課決定処分に関する審査請求並びに上記イの本件消費税の各更正処分及び各賦課決定処分に関する審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を行った。
3 主な争点
(1) 平成7年11月期についての本件法人税の更正処分のうち、原告が確定申告の所得金額(4023万8244円)を下回る金額(3831万5884円)を主張して、上記更正処分のうちの確定申告額を超えない部分の取消しを求めることに訴えの利益があるか(本案前の争点)。
(2) 本件処分の手続の適法性について
ア 本件法人税の各更正処分の理由附記に不備はないか。
イ 本件訴訟において、本件法人税の各更正処分の理由の差替えがなされたか否か。
仮に、理由の差替えがあった場合に、その差替えは許されないものか。
(3) 本件処分の実体法上の適法性について
ア 本件リース料を本件法人税法基本通達の適用のある「短期の前払費用」として、各事業年度の損金の額に算入することは認められるか。
イ 本件リース料について、本件消費税法取扱通達を適用して、本件各課税期間の課税仕入税額とすることは認められるか。
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)について(被告の主張)
原告の本訴請求に係る平成7年11月期の本件法人税更正処分のうち、原告が確定申告によって自認した所得金額(4023万8244円)の範囲を超えない更正処分の取消しを求める部分は、原告が確定申告により納税義務を確定している以上、更正処分の取消訴訟において争うことができないから、訴えの利益を欠き不適法なものである。よって、上記請求に係る部分の訴えは却下を免れない。
(2) 争点(2)アについて
(原告の主張)
被告による本件法人税の各更正処分に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)に附記された更正の理由は、以下のとおり、法人税法130条2項の規定の趣旨に反し、理由の附記を実質的に欠くか、理由の附記が不十分であるから、本件法人税の各更正処分は取り消されるべきである。
すなわち、被告は、本件更正通知書において、本件リース料について、①契約に基づく債務が発生していないこと、②手形の振出行為も担保手形の発行にとどまり、これを債務の支払とはいえないことなどを根拠に、本件法人税基本通達の適用の余地のない「前払金」であり、損金とは認められないとしている。しかし、本件リース料が本件法人税基本通達の適用の余地のある前払費用であることは、本件裁決が認めるとおりであり、このように、およそ商取引の実情から離れた恣意的な事実認識と判断に基づいてなされた本件更正通知書記載の理由をもって、法人税法130条2項にいう更正の理由の附記があったとは到底いえないし、少なくとも、理由の附記が不十分であるというべきである。
(被告の主張)
法人税法130条2項の規定する理由附記の程度について、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合(以下「帳簿否認」という。)には、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって、具体的に明示することを要するが、帳簿記載自体を否認することなく更正する場合(以下「評価否認」という。)には、更正の理由がそのような更正をした根拠について、帳簿記載以上の信ぴょう力のある資料を摘示するものではないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けることはないというべきである。
被告は、本件法人税の各更正処分に際し、本件リース料について、その支払状況、金額を帳簿書類の記載どおりに認定した上で、これを本件法人税法基本通達にいう短期の前払費用として損金に算入できるか否かを問題としたのであり、これは評価否認に当たる。そして、本件更正通知書には、処分の具体的な理由が、判断に至る事実、過程について詳細に記載されており、恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記の趣旨・目的を充足しているから、法の要求する更正理由の附記として何ら欠けるところはない。
なお、本件更正通知書には、本件リース料を「前払金」と記載している部分がある。
しかし、その記載箇所は、「翌期首現在利益積立金額」欄の「科目」欄(甲1及び甲2の各2枚目)のみであり、被告は、本件リース料を本件法人税法基本通達の適用要件を充たす前払費用に該当しないから損金の額に算入できないとしたものであり、「前払金」であるとの理由で損金の額に算入できないとしたものではない。よって、上記「前払金」の記載は誤記であるが、本件処分に何ら影響を与えるものではない。
(3) 争点(2)イについて
(原告の主張)
ア 裁決においては、一方で、原処分の処分の理由が誤っていることを認めながら、他方で、これと異なる別の理由によって、納税者の不服申立てを退けることは許されないと解すべきである。なぜなら、これを認めることは、法人税法第130条2項の趣旨を没却するとともに、納税者の不服申立手続である国税不服審判制度そのものを否定することになるからである。
本件裁決において、国税不服審判所長は、原処分(本件法人税の各更正処分)の理由には、本件法人税法基本通達の適用の余地がある「短期の前払費用」に当たる本件リース料を同通達の適用の余地のない前払金であるとした誤りがあることを認めながら、本件リース料は、企業会計原則の継続性の要件を無視し、専ら租税回避目的で手形による前払処理を行ったものであり、本件法人税法基本通達を適用することは相当でないとしており、本件裁決は、理由の差替えによりなされたものであり、許されない。
イ 被告は、本件更正通知書において、本件法人税の各更正処分の理由は、本件リース料が本件法人税法基本通達の適用の余地のない「前払金」であり、損金とは認められない点にあるなどとしていたにもかかわらず、本件訴訟において、本件裁決同様、これと異なる理由を主張して、原告の請求棄却を求めている。すなわち、被告は、本件訴訟において、本件リース料が同通達の適用の余地がある短期の前払費用であることを認めた上で、同通達が適用されるためには、①適用することに相当な理由がある場合で、課税上さしたる弊害がないこと、②重要性に乏しいことなどが必要であるとし、本件リース料の手形による前払処理は、専ら租税回避目的でなされたものであり、本件法人税法基本通達を適用する要件を欠くなどとして主張しており、これが理由の差替えであることは明らかである。そして、このような理由の差替えが許されるならば、処分庁は、処分時には、何らかの理由を附記しておけば、後に訴訟になるまでに新たな理由を考えることが可能となり、処分時に理由附記を求めて処分手続の適正を保障しようとしている法人税法130条2項の趣旨が没却されることになるから、理由の差替えは許されないというべきであり、この意味からも、上記処分は取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 原告が国税不服審判所長のした裁決について
論難する点について本件訴訟は、国税不服審判所長のなした裁決の適法性についての争いではないから、原告の主張はその前提において失当である。
イ 本件訴訟において、理由の差替えが許されないとする点について
更正の理由の差替え(差替えと主張の制限)については、処分庁が、訴訟段階において、更正の理由との間に基本的な課税要件事実の同一性を欠く事実を初めて問題にし、これを主張することは許されないが、更正の理由(原処分の附記した理由)の基礎となる課税要件事実の基本的部分と同一性を有する事実を主張することは、納税者の防御に不利益を与えるものではないから許されると解すべきである。
被告が本件更正通知書に記載した処分理由は、要するに、原告が損金の額に算入した本件リース料は損金算入できないというものであり、被告が本件訴訟において主張しているのも本件リース料が損金の額に算入できないというものであるから、まさに原処分の附記した理由と本件訴訟の主張はその基礎となる課税要件事実の基本的部分に同一性を有し理由の差替えの問題は生じないというべきであり、また、このような範囲における処分理由の追加主張は許される。よって、原告の主張は失当である。
(4) 争点(3)アについて
(被告の主張)
本件リース料については、以下のとおり、本件法人税法基本通達の適用はないから、これを各事業年度の損金の額に算入することはできない。よって、本件法人税の各更正処分は適法である。
ア 法人税法における各事業年度の所得金額を算出する基礎となる損金の額の計算に当たっては、同法に別段の定めがない限り、我国において一般に公正妥当な会計処理の基準と考えられている企業会計原則に従うとされている(同法22条1ないし4項参照)。したがって、本件法人税法基本通達の解釈に当たっては、同法22条4項を踏まえ、上記企業会計原則を視野に入れて解釈すべきである。
本件で問題とされている短期前払費用について、企業会計上、本来的には正規の簿記の原則(企業会計原則・第1の2、乙4の1)に基づき定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきであるが、企業会計の目的が企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあることから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで(企業会計原則注解1、乙4の2)、他の簡便な方法によることが許容されており、税務上の考えも同様の立場に立つものである。このような企業会計上の重要性の原則に基づく処理は、昭和42年9月30日国税庁長官通達「特定の期間損益事項にかかる法人税の取扱いについて」(以下「旧期間損益通達」という。)において、法人の会計処理が一定の計算基準を継続して適用していること及びその計算基準を適用することに相当の理由があると認められ、かつ、課税上さしたる弊害がないと認められる場合に限り、前払費用の当該事業年度の損金への算入を認めていた取扱いに見られたものであるが、本件法人税法基本通達は、法人税法22条4項に照らして、旧期間損益通達を受け継いだものであって、前払費用の損金の額への算入についても、同通達の上記要件の充足を必要とすると解すべきである。
これに対し、原告は、本件法人税法基本通達は、法令の解釈通達であり、通達の文言以上の意味内容を加味して解釈することは許されないと主張する。しかし、通達は、上級行政庁がその内部的権限に基づき、下級行政庁等に対し発する行政組織内部の命令にすぎず、行政庁には、通達によって法令の解釈等を公定し得る権限はないから、その主張は失当である。また、本件法人税法基本通達において、「相当の理由があること」や「さしたる課税上の弊害がないこと」の文言が置かれなかったのは、旧期間損益通達の廃止に伴い、アグリーメントの制度(事前確認手続)が廃止されたにすぎないからであり、本件法人税法基本通達の形式的な文理をもって、上記要件が必要でなくなったとはいえない。むしろ、法規である法人税法22条4項の趣旨に照らし、当然の上記要件の充足を要すると解釈すべきである。
イ 本件リース料に対する本件法人税法基本通達の不適用について
本件リース料は、以下のとおり、不要不急ともいうべき原告の行った本件手形の振出しに基づき計上されたものであって、かつ、本件法人税法基本通達の前提である法人税法22条4項の公正妥当と認められる会計処理の基準(企業会計原則)にも従っておらず、専ら租税回避目的でなされたものであるから、本件法人税法基本通達を適用することはできない。
(ア) 会計処理の継続性の欠如
原告は、本件各事業年度前において、本件リース契約の締結当初からリース料を口座振替の方法によってB及びCへ継続して支払い、月々損金の額に算入していたにもかかわらず、本件各事業年度の期末において、突如、一方的に、向こう12か月分の手形を振り出して交付し、本件リース料を短期の前払費用として損金の額に算入している。そして、一般に、リース取引においてリース料の支払を手形で行う場合には、その全リース期間について一括して手形を振り出すのが常態かつ自然であることにかんがみると、本件手形の振出しは、本件法人税法基本通達の適用を受けようとする以外に合理的な理由がないというべきであり、本件リース料の会計処理又は手続には継続性が欠如していることは明らかである。なお、契約の変更に基づく会計処理の変更は、企業会計原則における継続性の原則に抵触しないと解する余地があり、本件において、本件手形の振出し、交付によって本件リース契約の細目(支払方法)に変更があったことは事実である。しかし、これは単に支払手段を口座振替から手形へと変更したにすぎず、契約の重要な要素には何ら変更がないから、上記本件会計処理の変更が、企業会計原則における継続性の原則に抵触しないような契約の変更に基づくものということもできない。
(イ) 本件リース料の会計処理上の重要性
本件リース料は、以下のとおり、極めて重要性のある科目、金額であるから、重要性が乏しいものとは到底いえず、重要性の原則で認められた範囲から逸脱するものである。すなわち、前払費用に係る税務処理が重要性の原則で認められた範囲を逸脱していないかどうかの判断に当たっては、前払費用の金額だけでなく、当該法人の財務内容に占める割合や影響等も含めて総合的に考慮する必要があるところ、本件リース料の額は平成6年11月期が4961万6400円、平成7年11月期が6171万2400円と極めて多額である上、本件リース料及び製造原価の賃借料勘定(本件リース料の計上科目勘定、以下「賃借料勘定」という。)は、原告の申告所得金額と対比しても極めて高額であり、かつ、原告の当期製品製造原価あるいは製造経費総額に占める割合も高く、極めて重要性のある科目、金額であることは明らかである。
また、原告による本件リース料にかかる会計処理はその課税所得計算を明らかにゆがめるものであること、本件リース料については、財務諸表への注記が必要であることにかんがみれば、到底重要性の乏しいものとはいえない。
さらに、本件法人税法基本通達の適用を受ける「短期の前払費用」については、最大限1年以内の役務の提供を受けるために支出した費用であって、毎期ほぼ同額のものが支出(損金算入)されるものを予定しているところ、本件においては、平成6年11月期に各リース契約の月額リース料の24か月分(ただし、上記第2の2(2)イ(オ)のリース契約に係るものについては21か月分)を、また、平成7年11月期にも新たに契約を締結した上記第2の2(2)イ(カ)のリース契約の月額リース料の19か月分を損金算入している。このような原告の損金算入は、本件法人税法基本通達、ひいては、法人税法22条4項が予定するような会計事象ではなく、しかも、原告の期間損益計算を著しくゆがめるものであるから、損金算入は許されない。
(ウ) 租税回避行為
本件リース料の支払に際し、原告がB及びCに対し、手形を振り出し、交付したのは、原告が、専ら租税回避の目的で、経済的合理性のないまま、不要不急の手形を契約の変更に基づかずに、すなわち、手形の振出し、交付により、本件リース料を前払するとの契約がないままに、一方的に振り出したものであって、租税の基本原則である課税の公平の観点からも、本件リース料の損金算入は課税上到底容認できない。
(エ) 本件法人税法基本通達の他の要件の不充足
a 本件法人税法基本通達が適用されるには、前払費用を「支払った」ことが必要であり、運用上、手形又は小切手の振出しは、「支払った」場合に該当するものとして取り扱われている。しかし、これはごく通常の商業手形の振出し等を前提とした便宜的なものあり、専ら租税回避目的で不要不急の手形を振り出す場合には、本件法人税法基本通達の要件である「支払った」の要件を充足しないというべきである。本件手形の振出しは、まさに上記の場合に当たるから、「支払った」との要件を充足せず、本件において本件法人税法基本通達の適用の余地はない。
b 本件法人税法基本通達が適用されるのは「契約に基づく前払費用」であるところ、前項(ウ)のとおり、前払契約は存在せず、本件手形の振出しは、契約に基づく前払費用とはいえないから、本件に本件法人税法基本通達の適用はない。
c 本件法人税法基本通達が適用されるのは継続的に提供を受ける役務の対価に限られるところ、本件リース契約は、リース料の支払により、そのリース物件を購入するものであって、実質的には売買に当たるから、本件に本件法人税法基本通達の適用はない。
(原告の主張)
本件リース料は、以下のとおり、本件法人税法基本通達の「短期の前払費用」に当たり、その適用があるから、損金の額に算入すべきである。よって、本件リース料の損金算入を認めなかった本件法人税の各更正処分は、違法であるから、取消しを免れない。
ア 基本通達違反の課税処分の違法性
租税法は、他の法規に比して専門技術的である上、企業会計に関連する規定は抽象的・一般的であるから、法人税法基本通達等、国税庁の発する基本通達は、法の解釈、適用の具体的な基準を示したものであり、税務行政においては、法律と同様の重要な行為規範としての機能を有するとともに、統一的で公平な税務行政を担保するなどの機能を有している。このような基本通達の意義ないし機能にかんがみれば、通達の要件を充たしているにもかかわらず、その適用を受けないものと扱うことは租税法の基本原則である公平負担の原則や法執行平等原則に違反するから、通達によらずになされた課税処分は違法であり、取消しを免れない。
イ 本件法人税法基本通達の解釈
本件法人税法基本通達の適用の要件は、「①一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した前払費用のうち、②1年以内の短期のものであること、③継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入していること」であり、これを充たせば、「短期の前払費用」として損金算入が認められるべきである。
(ア) まず、法人税の収益及び損金の額を計算するに当たっては、企業会計原則において規定されている重要性の原則、継続性の原則等を基本的に前提にすべきである(法人税法22条4項)が、重要性の原則や継続性の原則自体がもともと抽象的、一般的なものであり、その租税法律的な意味が必ずしも明確でないため、法人税法基本通達により税務行政がよるべき統一的基準を具体的に定め、これを公表しているのである。このように、企業会計原則を税務処理上具体化したものが、法人税法基本通達であり、本件法人税法基本通達においては、重要性の原則を具体化した要件が、②の1年以内の短期前払費用という要件と継続性の要件である。すなわち、企業会計原則の場合には、②の短期という要件がない代わりに、「重要性の乏しいもの」という要件が加えられているのであって、本件法人税法基本通達の要件として、上記①ないし③のほかに、「重要性の乏しいこと」を加えることは、通達の改正によらず、納税者の権利を侵害することになり、違法である。このことは、本件法人税法基本通達の解釈として、本件法人税法基本通達の適用のある短期前払費用の範囲につき「必ずしも営業上重要な費用かどうかで区別しない」と考えられている(丁著「法人税解釈の実際」。甲10)ことからも明らかである。
(イ) 本件法人税法基本通達は、それまでの旧期間損益通達の廃止に伴い、昭和55年に改正され追加されたものであるが、この改正により、旧期間損益通達で、前払費用の損金算入の要件として明文で規定されていた、file_2.jpg会計処理上の計算基準を適用することに相当の理由があること、file_3.jpg課税上さしたる弊害がないことの要件を充たすことの2点がわざわざ削除されたことからすれば、前払費用の損金算入の要件は、本件法人税法基本通達の文言どおり、上記①ないし③で足りるというべきであり、これに加えて、file_4.jpgfile_5.jpgの要件をも要するとの解釈は誤ったものである。このことは、昭和62年になって、本件法人税法基本通達に「例えば、借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。」との注意書きが付加されたり、平成8年11月の政府税制調査会の法人課税小委員会報告では、短期の前払費用について「・・設備のリース料等については、1年以内に役務が提供されるものである場合には、事務の簡素化の観点から、支払時に損金の額に算入することが認められている。この取扱いには、継続要件があるものの、特に金額的な制限は設けられていないため、企業によってはかなりの金額について費用の前倒し計上が可能になっており、何らかの制限が必要ではないかと考える。」とされていることからも、明らかである。にもかかわらず、課税庁の都合により、通達の文言以上の意味内容を加味して解釈することは租税法律主義(課税要件明確主義)や通達により、公平かつ平等な課税行政を図ろうとする趣旨に反することにもなる。よって、本件法人税法基本通達の適用の要件として、file_6.jpgfile_7.jpgをも要するとの被告の主張はこの点において既に失当である。
ウ 本件リース料に対する本件法人税法基本通達の適用について
本件リース料について、上記①ないし③の要件を充たすことは明らかであり、被告の主張には以下のとおり理由がないから、本件法人税法基本通達により損金に算入されるべきである。
(ア) 本件リース料は継続性の要件を欠くとの主張について
継続性の原則(要件)は、企業会計原則にいう会計処理の原則又は手続にかかる要件であって、要するに、「企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」ということであり、原告としては、平成7年11月期以降も継続してリース料を前払するという同様の処理を行ってきており、その要件を充たすことは明らかである。
(イ) 本件リース契約について、支払変更に関する契約の変更がないとの主張について
そもそも、企業会計上の処理の変更は、必ずしも契約の変更を前提とするものではないし、その変更が重要な要素でなければならないということもない。しかも、本件において、リース料の支払日と支払方法が変更されていることは、本件裁決も認めているとおりである。また、本件において、平成6年11月期のリース料の損金算入が2年分になるなど、従来から期間計算をしてきた企業が、当期から本件法人税法基本通達の取扱いを受ける時には、その費用については、2年分が当期の損金となるが、これは経理方法の変更によるものであるから、その後、継続してこの取扱いにしている場合には、変更時の損金は当然認められるというべきである。
(ウ) 本件手形の振出しは、「支払った場合」に該当せず、本件法人税法基本通達の適用の対象にならないとの主張について
上記主張は、法人税法上、手形の支払は原則として支払った場合に該当しないことを前提にしているが、前提自体に誤りがある。にもかかわらず、被告が、あくまでも「支払った場合」とはいえないとするのは、本件更正通知書の理由とつじつまをあわせるためである。
(エ) 原告の本件手形での前払は、契約に基づかず一方的に行ったものであるから、「一定の契約に基づく」支払とはいえず、本件法人税法基本通達の適用の対象にならないとの主張について
この点、契約の当事者間において、書面上、契約の変更を行っていないことは事実であるが、C等のリース会社においては、原告からの支払方法及び支払日の変更を受け入れ、支払方法が変更されたものと認識しているし、また、原告から手形の交付を受けた際に発行した領収書(甲20の1及び2)に貼付された印紙額から、Cが手形の交付を受けた時点でリース料の支払を受けたものとして処理したことは明白である。
(オ) 本件リース契約は、ファイナンス・リース契約に該当するが、その実質は売買であり、本件法人税法基本通達にいう「役務」に該当しないとの主張について
被告は、本件リース契約について、法人税法基本通達の適用されるリース契約、すなわち、賃貸借であることを認めていながら、何らの論拠もないまま、本件リース契約が本件法人税法基本通達にいう「役務」に該当しないと結論付けており、失当である。
(カ) 本件手形の振出し、交付は、原告が、専ら租税回避目的で、一方的に振り出した不要不急の手形であり、いわゆる租税回避行為として容認できないとする主張について
原告が、本件リース料の支払方法を手形の振出し、交付による方式に変更し、本件法人税法基本通達の適用を主張して、損金に算入したのは、節税行為であり、むしろ、支払方法を約束手形に変更することは企業としてごく自然の合理的な行動であり、およそ租税回避行為とは異なる。このことは、原告が、本件リース料の取扱いを主張した動機が、過大な原価差額の解明が思うように進まず、被告担当者にもその解明と減算を求め、かつ、少なくとも棚卸加算の過大額が1100万円にのぼっていることを被告担当者に説明したにもかかわらず、これを受け入れてもらえなかったため、企業会計原則の保守主義の観点から、過大利益の算出による資金流出の危険性を防止するためであったことからも明らかである。
また、仮に、負担公平の原則の見地から、租税回避が許されないものとしても、租税法律主義の要請からすれば、安易な解釈によって、租税回避を認定することは許されないというべきである。
(5) 争点(3)イについて
(被告の主張)
本件消費税法取扱通達によれば、1年以内の短期の前払費用について、本件法人税法基本通達の適用を受けていることを条件に、その支払時点で課税仕入れとすることを認める取扱いであり、上記(被告の主張)のとおり、本件リース料について、本件法人税法基本通達の適用がない以上、本件消費税法取扱通達を適用して、本件各課税期間の課税仕入税額とすることはできない。よって、本件消費税の各更正処分は適法である。
(原告の主張)
上記(原告の主張)のとおり、本件リース料については、本件法人税法基本通達の適用があるから、本件消費税法取扱通達を適用して、本件各課税期間の課税仕入税額と認めるべきであったのに、これを認めなかった本件消費税の各更正処分は違法であって、取消しを免れない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)について
原告は、本件訴訟において、平成7年11月期の本件法人税更正処分について、原告が確定申告によって自認した所得金額(4023万8244円)の範囲を超えて、別表1(3)記載の3831万5884円を超える部分の取消しを求めている。
ところで、確定申告は納税義務者が自ら納税義務を確定させたものであり、これに対する不服申立方法である更正の請求(国税通則法23条)を適法に経た場合は格別、そうでない場合には、納税義務者が確定申告に錯誤があるとしてその無効を主張できる特段の事情のない限り、納税義務者は、確定申告によって自ら納税義務を確定させた部分について訴訟で争う訴えの利益を有しないというべきである。
本件訴訟において、原告は、平成7年11月期の本件法人税の確定申告について、更正の請求をしたこと、確定申告に錯誤があり無効を主張できる場合であることの主張・立証をいずれもしていない。よって、原告の本訴請求のうち、平成7年11月期の本件法人税更正処分について、所得金額4023万8244円を超えない部分の取消しを求める部分の訴えは不適法として却下すべきである。
そこで、以下では、原告のその余の請求の適否について検討する。
2 争点(2)ア、イ(本件処分の手続の適法性)について
(1) 本件法人税の各更正処分に至る経緯及び附記された理由
証拠(甲1、2、13、14、証人乙、同丙。ただし、後記認定に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば、本件法人税の各更正処分に至る経過及び同処分に附記された理由の内容は、以下のとおりであったと認められる。
ア 当時広島国税局の調査担当者であった丙(以下「丙」といい、丙ら本件について担当した同国税局の担当者を総称して「税務担当者」ともいう。)らは、平成8年4月22日から同月26日までの間、原告の本杜に臨場して、原告の法人税等について、税務調査を行った。その際、丙らは、税務調査の問題点として、①本件リース料は、製造原価であって、本件法人税法基本通達の適用がないのにもかかわらず、これを適用して、短期の前払費用として損金に算入していること、②原告仙台営業所の建物付属設備費用を損金に算入することはできないこと等を指摘した(なお、その際、丙は、本件リース料は、前払金であると認識していた。)。
イ これに対し、原告の担当税理士であった乙(以下「乙」とい。)は、①については、本件法人税法基本通達の適用がある短期前払費用であり、損金算入が認められるべきであると考え、その後、同通達に関する文献等を添付した意見書を数回、税務担当者に提出した(なお、乙は、①以外の点は、額も少なく、①が解決されれば、解決可能な問題であると考えていた。)。その結果、税務担当者から、本件法人税法基本通達が製造原価にも適用されることは分かったが、本件リース料を損金算入することは認められないとの連絡を受けたため、乙は、平成8年6月30日、広島国税局を訪れ、本件リース料が本件法人税法基本通達の適用要件を充たしていることは明らかであるなどと説明した。しかし、税務担当者は、原告の申告が正しいか否かは、税法に照らして判断する、通達には拘束されないなどと回答した。
ウ 本件更正通知書(甲1、2)に附記された本件法人税の各更正処分の理由のうち、本件リース料が損金に算入されない理由の概要は以下のとおりである。
本件法人税法基本通達に定める前払費用とは、「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの」であるが、この取扱いは、①契約に基づく債務が発生し、かつ②その発生した債務を当該事業年度に支払った結果、③役務未提供部分に対応する前払費用が発生することを前提とする。
しかし、本件リース契約においては、リース料支払債務の発生及びその確定の日は該当月の7日(Bとの契約)又は21日(Cとの契約)であり、原告が負担すべき本件リース料の支払債務の発生は、当事業年度中に到来することはないのであるから、原告主張の本件リース料相当額の債務は、上記①の要件を充たしていない。
また、本件手形の振出し、交付は、原因債務であるリース料支払債務が発生していない以上、将来発生することがあるべき債務の支払を担保するために振り出された手形にすぎないから、これをもって上記②の債務の支払があったとは認められない。
以上のことからすれば、本件法人税法基本通達の有無を論じるまでもなく、短期前払費用として損金算入することは認められない。
なお、上記理由は、本件リース料について、その支払状況・金額を原告の備え付けた帳簿書類の記載のとおりに認定することを前提としている。
エ 以上の経緯に照らすと、本件法人税の各更正処分においては、本件リース料の支払状況・金額を原告の帳簿書類の記載どおりに認定した上で、それが本件法人税法基本通達の適用のある短期前払費用か否かが争点になっていたこと、上記争点について、本件法人税の各更正処分は、上記①②の前提を欠き、本件法人税法基本通達の「短期の前払費用」には該当しないとして、損金算入することはできないと結論付けたことが認められる。これに対し、原告は、更正の理由は、本件リース料を本件法人税法基本通達の適用の余地のない「前払金」と解したためであると主張している。たしかに、甲1、2の記載の中には、本件リース料を「前払金」としている部分(各2枚目の「翌期首現在利益積立金額」欄の「科目」欄参照)があるが、本件更正通知書を起案した丙は、当時、本件法人税法基本通達が適用されないという意味で「前払金」と記載したと証言しており(証人丙)、いずれにしても、本件法人税の各更正処分の更正の理由の趣旨は、上記のとおり、本件法人税法基本通達の「短期の前払費用」には該当しないという点にあるというべきであり、上記原告の主張を直ちに採用できない。
(2) 争点(2)アについて
法人税法130条2項が青色申告に対する更正通知書に更正の理由を附記すべきものと規定している趣旨は、同法が青色申告制度を採用して、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載である以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると解される。そうだとすれば、理由附記の程度については、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合(帳簿否認の場合)においては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって、具体的に明示することを要するが、帳簿記載自体を否認することなしに更正する場合(評価否認の場合)には、上記更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上の信ぴょう力のある資料を摘示するものではないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法人税法の要求する更正理由の附記として欠けることはないというべきである。
これを本件についてみるに、本件法人税の各更正処分においては、本件リース料について、その支払状況、金額を帳簿書類の記載どおりに認定した上で、これを本件法人税基本通達にいう短期の前払費用として損金に算入できるか否かを争点としていたことは前判示のとおりである。そして、本件更正通知書に記載された更正の理由の内容は、前判示のとおりであるところ、これによれば、被告の上記争点に対する判断、すなわち、本件リース料が短期の前払費用として損金に算入できないとする理由は、上記理由附記制度の趣旨・目的を充足する程度に具体的に明示しているものと認められるから、法人税法の要求する更正理由の附記として何ら欠けるところはないというべきである。もっとも、被告は、前判示のとおり、本件更正通知書において、支払期日が到来するまで、本件リース料の支払債務が発生していないことを更正の理由としているところ、本件リース契約の締結によって、リース料の支払債務が発生することは明らかであるから、この点において適切でない点があるといわざるを得ないが、これをもって、理由附記として不備があるとか、欠けるところがあるということはできない。よって、原告の主張は採用できない。
(3) 争点(2)イについて
ア 原告は、国税不服審判所長のした本件裁決が本件法人税の各更正処分の理由と別個の理由を持ち出して、本件法人税の各更正処分を適法としたのは、法人税法130条2項の趣旨を没却する理由の差替えであり、許されないと主張する。
しかし、本件訴訟は、国税不服審判所長のなした本件裁決の適法性についての争いではないから、原告の主張は、その前提において失当であり、採用できない。
イ また、原告は、被告が本件更正通知書において「短期の前払費用」に該当しないことを理由としながら、本件訴訟においては、これに該当することを前提にした主張、すなわち、本件法人税法基本通達の適用要件には、これを適用する相当な理由や課税上さしたる弊害がないことが必要であるが、本件はこれを欠くとか、租税回避目的でなれたものであり、これに適用を認めることは到底できないなどと主張しており、このような理由の差替えは、法人税法130条2項の趣旨を没却することになるから許されないと主張する。
たしかに、上記第3の2(1)で認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件更正通知書において、本件リース料が本件法人税法基本通達の短期の前払費用に該当しないとの理由で更正処分を行ったが、本件訴訟においては、この理由に加え、原告が主張するような理由を付加していることが認められる。
そこで、このような理由の追加が認められるかについて検討する。前判示した法人税法130条2項の趣旨によれば、更正の理由の差替えないし追加的主張については、これが、更正通知書に記載された更正処分の理由の基礎となる課税要件事実の基本的部分と同一性を有する事実である限り、許されると解すべきである。なぜなら、更正処分を受けた納税者としては、附記理由に係る争点がその後の不服申立てないし訴訟手続において主たる争点となるとの期待の下に、課税庁から示された根拠や手持ちの証拠資料を比較対照し、勝訴の見込み、立証の可能性等を考慮して、不服申立てをすべきか否かを決することになるから、当初の処分理由と差替えないし追加後の処分理由の基本的事実関係の同一性が認められないときに、理由の差替えないし追加を認めることになれば、上記納税者の期待を害し、納税者の防御に不利益を与えることになるから許されないと解されるが、両者の間に基本的事実関係の同一性が認められるときは、理由の差替えないし追加を認めても、納税者の期待や防御権を不当に侵害するものとはいえず、したがって、法人税法130条2項の趣旨を没却するともいえないからである。
これを本件についてみるに、被告の税務調査時から更正処分時までにおいて、本件の争点が、一貫して本件リース料が本件法人税法基本通達の短期の前払費用と認められるか否かであったこと、しかも、乙が、更正処分前の平成8年6月30日、税務担当者から原告の申告が正しいか否かは、税法に照らして判断する、通達には拘束されないなどと言われたことは前判示のとおりである。そうすると、本件更正通知書記載の更正の理由と本件訴訟で追加された理由との間には、本件リース料が本件法人税法基本通達の短期の前払費用に当たるか否かという課税要件事実の基本的部分に同一性があると認められ、理由の追加を認めても原告の期待や防御を不当に侵害するとはいえないから、被告が本件訴訟において、更正通知書記載の更正の理由と異なる理由を追加することは許されるというべきであって、原告の主張は採用できない。
3 争点(3)アについて
(1) 法人税法基本通達違反の法人税課税処分の効力について
原告は、国税庁が法人税法の解釈、適用の具体的基準を示したものが法人税法基本通達であり、同通達の要件を充たしているにもかかわらず、その通達を適用することなく、課税処分をすることは違法であり、取消しを免れないと主張する。
しかし、通達は、上級行政庁がその内部的権限に基づき、下級行政庁や職員に対し発する行政組織内部の命令にすぎず、国民の権利義務に直接の法的影響を及ぼす法規とはいえないから、裁判所が課税処分の適法性を判断すべき基準とはなり得ず、その適法性判断は、あくまでも課税処分の根拠となった法規(法律、法規命令)によるべきである。もっとも、通達が、下級行政庁に対し、法令の解釈を示す解釈通達である場合には、税務当局の公的な通達解釈を公にする公的見解であることからすると、これを課税処分の根拠となる法規を解釈する際の参考にすることは許されるというべきであるが、課税処分の適否の判断に当たっては、租税法律主義の原則が貫徹されるべきであるから、あくまでもその判断は、法規に照らしてなすべきであり、通達の要件を充足しているにもかかわらず、これを適用せずに課税処分がなされたとして、単に通達によらなかったことをもって、直ちに当該課税処分が違法ということはできない。
(2) 本件法人税法基本通達の「短期の前払費用」として、損金算入することが認められるための要件について
ア 本件法人税法基本通達は、短期の前払費用を一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものと定義した上で、前段で、前払費用の額は当該事業年度の損金の額に算入されない旨定め、後段で、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときはその算入を認める旨定めている。これは、前払費用についても、原則として費用収益対応の原則が妥当し、当該事業年度の損金に算入することは許されないことを確認した上で、一定の前払費用については、例外的に損金算入することを認めることにしたものである。このように、本件法人税法基本通達の後段は前段で確認された前払費用への費用収益対応の原則の例外をなすものであるが、その例外を認める根拠は、税務上の処理においても、企業会計原則である重要性の原則及び継続性の原則に基づく会計処理を認めたところにあるものと解される。すなわち、企業会計原則によれば、前払費用については、一般的には、毎期継続的にほぼ同額のものが支出されるため、強いてこれを期間対応により経過勘定科目として繰延整理しなくとも、その会計処理が継続されるものである限り、期間損益計算の妥当性が著しくゆがめられる恐れがなく、重要性が乏しいものとして損金算入が認められる(企業会計原則注解1、乙4の2)ことから、法人税法22条4項の趣旨に照らして、これを税務処理上も認めたものと考えられる。したがって、本件法人税法基本通達の適用は、継続性の原則を充たすとともに、重要性の原則から逸脱しない限度で認められるべきであり、形式的には、同通達に明示された要件を充たす場合でも、上記両原則から逸脱する場合には、その適用は認められないというべきである。よって、本件法人税法基本通達が適用され、短期の前払費用として損金算入が認められるためには、同通達が明示する要件を充足するほかに、継続性の原則を充たし、重要性の原則から逸脱していないことが必要であると解すべきである。
イ(ア) これに対し、原告は、①本件法人税法基本通達に明示された要件は、企業会計上の重要性の原則及び継続性の原則を前払費用の税務上の処理の場合に具体化したものであり、その文言以上の要件を付け加えることは、租税法律主義(課税要件明確主義)に反し、許されないと主張する。
しかし、課税処分の適法性を判断すべき基準(裁判規範)となり得るのは、あくまでも課税処分の根拠となる法規であって、通達である本件法人税法基本通達が直ちにこの判断基準となり得ないことは前判示のとおりであり、原告の主張は、この点において既に失当である。そして、法人税法は、当該事業年度の損金の額は、特別の規定のない限り、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って計算すべきである旨規定しているから(同法22条4項)、損金の額に算入すべき否かの判断も、上記公正妥当な会計処理の基準とされている企業会計原則等に従って判断すべきは当然であり、本件法人税法基本通達にこれが明文で規定されていないからといって、課税要件明確主義に反するとはいえない。
(イ) また、原告は、本件法人税法基本通達の要件に関する自己の主張が正しい根拠として、同通達の解釈に関する諸文献、通達改正の経緯を縷々主張する。
しかし、本件処分の適否を判断する基準となり得るのは、あくまで根拠法規であり、仮に、原告の主張が、税務当局の発する通達の解釈として正しいとしても、それに反する課税処分が違法であるとは直ちにいえないのは前判示のとおりであり、主張自体失当といわざるを得ない。本件法人税法基本通達は、前払費用について、同通達どおりの会計処理がなされる場合には通常、重要性の原則や継続性の原則を充たすことから、上記のような場合を念頭に、大量回帰的な税務行政を統一的、効率的に処理をするために、その取扱いを下級行政機関に示したものにすぎないのであり、これをもって、直ちに課税処分の違法性を判断する基準とすることはできないのである。
(3) 本件リース料に本件法人税法基本通達の適用があるかについて
ア 本件リース料が、本件法人税法基本通達の明示する要件である「契約に基づく前払費用」(「前払費用」が契約に基づくことを要するのは、同基本通達の文言上明らかである。)に該当するかどうか、検討する。
(ア) 前判示の争いのない事実に加え、証拠(甲1、2、6の2、14、19、20の1及び2、21の1及び2、22の1及び2、乙9、11、17の1ないし7、証人乙、同丁、同戊、同丙。ただし、後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、原告による本件リース契約に基づくリース料の支払、会計処理等の状況及びこれに対するB、Cの対応は、以下のとおりであったと認められる。
a 平成5年11月30日までの状況
原告は、上記第2の2(2)ア及びイ(ア)ないし(ウ)の各リース契約に基づいて定められたリース料を、約定に従い、毎月指定の日に口座振替により支払い、これを損金の額に算入していた。
b 平成6年11月期の状況
(a) 原告は、平成6年11月期において、これまでの事業年度と同様に、上記第2の2(2)ア及びイ(ア)ないし(エ)の各リース契約に基づいて定められたリース料を毎月指定の日に口座振替により支払い、消費税相当額を除いたB分416万6400円及びC分4483万0500円(上記第2の2(2)ア及びイ(ア)ないし(エ)の契約分については12か月分、上記(2)イ(オ)の契約分については9か月分)を損金の額に算入した。
(b) 当時、原告の顧問税理士であった乙は、原告の平成6年11月期決算において、多額の原価差額が発生することを懸念し、その対策を検討したが、原価差額の解明には時間を要することから、従前のとおりであれば平成7年11月期において損金に計上することになる平成6年12月1日から平成7年11月30日までのリース料を本件法人税法基本通達の前払費用として平成6年11月期に損金計上することにより、「節税」を図り、「過大申告」を解消することにした。乙は、そのためには、支払方法の変更が必要となるので、現金の一括前払とすれば、原告の資金繰りが苦しいが、手形による支払であるならば、経済的な実質は毎月の口座振替とほとんど変わらないことから、上記第2の2(2)ア及びイ(ア)ないし(オ)の本件リース契約の各約定支払日を支払期日とする約束手形を振り出すことで対処しようとした。そこで、原告は、B及びCに対し、特に理由を告げることなく、それぞれ平成7年11月期の12か月分のリース料の支払を従前の口座振替によるのではなく、上記約定支払日を支払期日とする約束手形12通(Bに対する手形の1通の額面は35万7616円であり、額面合計額は429万1392円となる。また、Cに対する手形の1通の額面は390万1125円であり、額面合計は4681万3500円となる。)を振り出す方法によることにしたいと申し出た。なお、その際、原告は、Bに対し、平成7年12月分以降のリース料をどうするかについて話をしなかった。
これに対し、Bは、従前の口座振替と同一期日、同一金額の支払であり、振替手続を停止すること以外に特段の不利益がなかったため、これを承諾し、手形の交付を受けた時点で「領収証」と題する書面(甲22の1)を原告に交付した。Bでは、支払の繰延べ等契約の変更に当たる場合は、覚書を交わすことになっていたが、本件では、契約の変更に関する覚書を作成するなど、契約書面上の変更を加えることはなかったし、リース料の前払に伴う利息相当分の計算をし直すということもなかった。したがって、原告との取引を担当したB広島営業所長である戊は、原告との間に契約の変更はなかったと認識していた。Bは、受け取った手形を別途保管し、手形期日に、リース料金として収益計上していた。また、Bは、翌期以降、手形による支払になるか否か不明だったため、とりあえず、1年分の口座振替の手続を停止することにした。
また、Cも、特に不利益がないことから、原告の申出を承諾し、手形の交付を受けた時点で「領収書」と題する書面(甲20の1)を原告に交付した。Cは、契約書面の変更はないが、支払方法を口座振替から各月21日を支払期日とする手形12通で支払う方法に変更されたと認識していたが、リース料の1回当たりの支払金額、支払期日に変更はなかったことから受け取った手形を銀行に預け入れ、毎月21日の手形期日にリース料として収益計上していた。また、Cは、リース料の前払に伴う利息相当分の計算をし直すということをしなかったが、原告から手形を受け取ったため、口座振替の依頼から原告分を除外する手続をとった。
(c) その結果、原告は、平成6年11月期において、上記(a)の損金算入額に加え、従前のとおりであれば平成7年11月期に計上するはずであった12か月分のリース料(上記(b)の額面合計額のうち消費税相当額を除いた4961万6400円。B分416万6400円、C分4545万0000円の合計額)を損金の額に算入したことになる。すなわち、原告が平成6年11月期において本件各リース会社に対するリース料の支払として損金の額に算入した額は、平成5年12月分から平成7年11月分までの24か月分となり、B分が833万2800円、C分が9028万0500円(ただし、上記第2の2(2)イ(オ)の契約に係るものについては21か月分[口座振替等による9か月分と手形振出しによる12か月分の合計月数])となった。
c 平成7年11月期の状況
(a) 原告は、平成7年11月期について、Cに対し、上記第2の2(2)イ(カ)のリース契約に基づいて定められたリース料を毎月指定の日に口座振替(第1回分は同年5月10日支払。)により支払い、消費税相当額を除いた705万6000円を損金の額に算入した。
(b) また、原告は、平成7年11月期についても、平成6年11月期と同様に、B及びCに対し、それぞれ平成7年12月1日から平成8年11月30日までの事業年度である12か月分のリース料の支払を上記第2の2(2)ア及びイ(ア)ないし(カ)の本件リース契約の約定支払日を支払期日とする約束手形12通(Bに対する手形の1通の額面は35万7616円であり、額面合計額は429万1392円となる。また、Cに対する手形の1通の額面は493万9365円であり、額面合計額は5927万2380円となる。)の振出しによることを申し出て、これを交付した。
これに対し、B及びCは異議を留めることなくこれを受領し、それぞれ「領収証」と題する書面(甲22の2)、「領収書」と題する書面(甲20の2)を原告に交付した。しかし、収益計上の方法等は平成6年11月期と同様であり、また、リース料の再計算を行うことはなかった。
(c) その結果、原告は、上記(a)の損金算入額に加え、平成7年12月1日から平成8年11月30日までの事業年度の12か月分のリース料(上記(b)の額面合計額のうち消費税相当額を除いた6171万2400円。B分416万6400円、C分5754万6000円の合計額。)を損金の額に算入したことになり、原告が平成7年11月期において本件各リース会社に対するリース料の支払として損金の額に算入した額は、B分が416万6400円、C分が6460万2000円(上記第2の2(2)イ(カ)のリース契約分は平成7年5月分から同8年11月分までの19か月分である[口座振替等による7か月分と手形振出しによる12か月分の合計月数]。)となる。
(イ) 以上の事実によれば、原告とB及びCとの間において、平成6年11月期の期末に至って、翌期である平成7年11月期の12か月分のリース料の支払方法について、従前の口座振替から本件リース契約の約定支払日を支払期日とする手形12通を平成6年11月期内に振り出し、交付する方法に変更する旨の合意が成立したものと認められ、平成7年11月期にも、同様に、同期期末に至って翌期の手形12通を振り出し、交付する支払方法がとられたことが認められる。
しかし、前記認定の事実によれば、上記支払方法の変更によるも、本件リース料の実際の支払は、本件リース契約の約定金額と同一の金額を額面とし、同契約の約定支払日と同一日を支払期日とする手形の決済によりなされ、口座振替による場合と実質的に何ら変化がなかったこと、乙自身、本件リース料の支払方法を手形振出しに変えた理由が、手形による支払であれば、経済的な実質は毎月の口座振替とほとんど変わらないと考えたことにあることを認めていること、B及びCにおいても、上記実際の支払に変更がなく、特に不利益を被らないことから、原告の申出を承諾し、収益計上は手形の交付日ではなく、各手形の手形期日としていたこと、本件リース契約のようなファイナンス・リースにあっては(上記認定した本件リース契約の内容のほかに、乙12、証人戊、弁論の全趣旨により認める。)、リース期間の利息収入をも含めてリース料が計算されるところ、仮に、前払が行われるとすると、リース会社はその間の利息収入を失うなどの不利益を被ることとなり、実務上、前払への契約の変更は想定し難い上、少なくとも、前払契約への変更に伴ってリース料の再計算が必要になるはずであるのに、本件ではこれが行われていないこと(証人丁、同戊)、本件においては、前払とする意味での変更の合意が契約書面で明確に行われていないことにかんがみると、本件において、当事者間に合意された変更は、単に支払方法を口座振替による方法から同一期日を支払期日とする手形決済に変更するものにすぎず、さらに進んで本件リース契約における本件リース料を「前払」とする旨の変更の合意までなされたものとは認め難い。
なお、証拠(甲19)によれば、Cは、原告の確認に対し、①本件リース契約は、毎年11月に翌1年分のリース料を手形12通で支払うと変更されたと認識しているとしていること、②本件手形を「リース料の前受け」と認識していると理解されてよいと回答している部分があること、③本件リース料に係る各1年分の12通の手形を原告から受領した際、原告に交付した「領収書」と題する書面(甲20の1及び2)には、1万円以上の収入印紙が貼付されていることが認められる。しかし、まず、①については、上記支払方法の変更に関する合意が成立したことを述べたものにすぎないと解される。また、②についても、回答内容のその後の文脈からすると、手形は、単に預かったのみでなく、リース料の支払として受け取ったものであることを述べたにすぎないとも解し得るものである。したがって、①②とも、支払方法を従前の口座振替から手形決済に変更することに合意したとの趣旨にとどまるものである上、Cは、前払への変更に必然的に付随するはずのリース料の再計算を行っていないことや収益計上は手形期日としていることなどに照らすと、上記認定を左右するものとはいえない。次に、③については、Cが、1万円以上の印紙を貼付したことは、本件手形をリース料の支払として受け取った事実を推認させる余地のある事実ではあるが、上記認定したところからすると、上記推認をさせるに足りる十分なものとまではいえない。
しかも、乙は、本件リース料の支払方法変更の動機が、本件法人税法基本通達の適用を受け、短期前払費用として損金処理するためであることを認めている上、本件全証拠によるも、それ以外に本件リース料の支払方法変更の理由を見いだすことはできないこと、かえって、翌期1年間のリース料についてのみ、手形の振出しによる支払をするとの変更がなされたり、その後に締結されたCとの上記第2の2(2)イ(カ)のリース契約については、いったんは、口座振替による支払をしながら(乙16の6)、平成7年11月期末になって、翌期1年間のリース料についてのみ、手形振出しによる支払にするとの変更がなされたりするなど本件リース料の支払方法の変更が不自然で、合理的な経済的理由が認められないことに照らすと、本件リース料の支払方法の変更は、いずれも租税の負担を免れるために、実質的には、前払でないのに、手形を振り出すことにより、あたかも前払に変更したかのような形式を作出したものと認めるのが相当である。
これに対し、原告は、①約束手形の振出しを支払と同視すべきであり、前払に当たる、②そもそも手形を振り出すことは、企業の通常の経済行動であるし、節税を求めることも企業の合理的行動である、③原告が本件手形を振り出した目的は、原価差額の過大申告に起因し、その正確な金額を把握するには多大の時間を要することから、本件リース料に本件法人税法基本通達を適用して、これを損金計上し、過大利益の計上を正当な額に近づけようとしたものであり、このような行為は、企業会計原則にいう保守主義(安全性)の原則の趣旨からも許されるものであると主張する。しかし、①については、上記認定したところからは、①主張のように解することはできない。また、②③については、本件基本通達の適用要件たる事実をわざわざ作出して租税負担の軽減を図ることにあったといえるもので許されないものというべきである。したがって、原告の上記主張はいずれも採用できない。
よって、本件リース料は、前払とする旨の当事者間の「契約に基づく費用」とは認められないから、その余を判断するまでもなく、被告が、本件リースが本件法人税法基本通達の短期の前払費用に該当しないとしてこれを損金に算入しなかったことは適法である。
イ 以下では、念のため、仮に、前記認定した支払方法の変更の合意に基づく原告の本件手形の振出し、交付をもって、本件法人税法基本通達の「前払費用」に該当するものと仮定して、他の2つの要件(重要性の原則、継続性の原則)を充足するかについて検討する。
(ア) 重要性の原則を逸脱しないかについて
前判示のとおり、本件法人税法基本通達の適用は、重要性の原則を逸脱しない限度で認められるべきところ、前払費用に係る税務処理が重要性の原則で認められた範囲を逸脱しないか否かの判断は、前払費用の金額だけでなく、当該法人の財務内容に占める割合や影響等も含めて、総合的に判断する必要があると解するのが相当である。
争いがない事実に加え、証拠(甲1、2、乙7の1及び2、24、25の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事情が認められる。
a 原告の申告所得金額は、平成6年11月期が4842万6755円、平成7年11月期が4023万8244円であるのに対し、本件リース料を含む製造原価の賃借料勘定の額は、平成6年11月期が9930万6428円、平成7年11月期が6980万3834円である。
b 当期製品製造原価の総額(平成5年5月1日から同年11月30日までの事業年度(以下「平成5年11月期」という。)が5億8405万3845円、平成6年11月期が11億0026万5031円、平成7年11月期が11億4060万3810円である。)に対する賃借料勘定の額(なお、平成5年11月期は1665万9033円である。)の割合は、平成5年11月期が2.85パーセント、平成6年11月期が9.02パーセント、平成7年11月期が6.11パーセントである。
c 製造経費の総額(平成5年11月期が1億0439万7942円、平成6年11月期が2億4101万4243円、平成7年11月期が2億0039万9153円である。)に対する賃借料勘定の額の割合は、平成5年11月期が15.95パーセント、平成6年11月期が41.20パーセント、平成7年11月期が34.83パーセントである。
d 賃借料勘定の額に対する本件リース料の額の割合は、平成6年11月期が49.96パーセント、平成7年11月期が88.40パーセントである。
e 支払手形勘定残高(平成6年11月期が3億1208万7965円平成7年11月期が3億0759万5536円である。)に占める本件リース料に係る手形の金額(本件リース料の額と同じ。)の割合は、平成6年11月期が15.89パーセント、平成7年11月期が20.06パーセントである。
そこで検討する。本件リース料の額は平成6年11月期が4961万6400円、平成7年11月期が6171万2400円と極めて多額であることは前判示のとおりである。また、上記認定事実によれば、賃借料勘定は、原告の申告所得金額と対比しても極めて高額であり、かつ、原告の当期製品製造原価あるいは製造経費総額に占める割合も高いなどの事情が認められ、原告の財務内容に占める割合や影響は大きいといわざるを得ない。したがって、本件リース料について、本件各事業年度の損金の額に算入することは、重要性の原則により認められる範囲から逸脱するものといわなければならない。
(イ) 継続性の原則に反しないかについて
原告が、本件リース契約に基づくリース料の支払について、契約締結当初から平成6年11月期までは、約定どおり口座振替の方法によって本件各リース会社へ継続して支払い、月々損金の額に算入していたこと、にもかかわらず、同期の期末において、突如、翌平成7年11月期の12か月分の手形12通を振り出して、交付し、本件リース料を短期の前払費用として損金の額に算入したことは前判示のとおりである。そして、上記損金処理の変更がリース料の支払時期に関する契約の変更に基づく場合には、継続性の原則を問題とする余地がないと考え得るが、上記第3の3(3)ア(イ)に判示したとおり、本件リース料に関する原告とB又はCとの間の変更の合意は、支払方法の変更に止まり、リース料の支払時期に関し、前払とする旨、契約内容を変更するものとまで認められない以上、仮に、原告による本件手形の振出し、交付が「前払費用」に該当するとしても、継続性の原則はなお維持すべきものといえるから、本件リース料を本件各事業年度の損金の額に算入することは許されないというべきである。
(ウ) そうすると、いずれにしても、被告が、本件リース料が本件法人税法基本通達の短期の前払費用に該当しないとしてこれを損金に算入しなかったことは適法である。
ウ 本件法人税の各更正処分に対する信義則の適用について
原告は、本件リース料について、税務当局の解釈通達である本件法人税法基本通達にのっとって、損金算入したのに、これを認めないことは、信義則に反し、取消しを免れないと主張しているとも考えられるので、この点について検討する。
この点について、課税処分の適否を判断する際には、租税法律主義の原則が貫かれるべきであり、信義則の適用については慎重でなければならないが、法人税法基本通達は、国税庁が税務行政、とりわけ、法律解釈について、公的見解を示すものであるから、当該通達による画一的な事務処理が確立しており、納税者が、その責めに帰すべき事由なく上記事務処理を信頼して行動したところ、その事務処理と異なる課税処分が行われた結果、経済的不利益を被った場合など、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分における課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するような特別の事情がある場合には信義則の法理の適用により、当該課税処分が違法と評価される余地があると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、本件全証拠によるも、本件リース契約のようなファイナンスリース契約について、本件法人税法基本通達を適用して、短期前払費用として損金処理を認める画一的な事務処理がなされているとは認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(証人戊、同丙、同丁)によれば、ファイナンスリース契約においては、そもそもリース料が前払されることがまれである上、特に契約途中で手形による支払に変更される事例は実務上みられないことがうかがわれ、税務上も本件のような事例が問題となることはまれであると推認できることに照らすと、本件が信義則を適用すべき上記要件を充たすものとは到底いえない(なお、これに対し、原告は、乙13、甲11の文献を引いて、コピー機の年間リース料や設備のリース料に本件法人税法基本通達の適用があることは明らかであるとするが、上記文献が、いかなるリース契約を前提とするのか必ずしも明らかではない上、いずれも税務当局の公式の見解とまで認めることはできず、これをもって、画一的処理がなされているとはいえない。)。よって、本件に信義則の適用は認められない。
エ 以上のとおり、本件リース料について、本件法人税法基本通達を適用して、損金算入を認めなかった本件法人税の各更正処分は適法である。
なお、原告は、本件訴訟において、本件法人税の各更正処分のうち、被告が、原告仙台営業所の賃借建物の蛍光灯設備を確認せずに、安易に付属設備費用と認定したこと等は不当であり、これらは、上記処分の判断が慎重さや合理性を欠く、恣意的なものであることの象徴であるとしている。この主張は、本件法人税の各更正処分について、本件リース料の損金算入を認めなかった点と別個の違法事由を主張するものでなく、本件リース料の損金処理を認めなかった違法性を疑わせる事情として主張されたものと解されるが、このうち、仙台営業所の件については、証拠(乙15の1、証人丙)によれば、問題となっている電気工事については、単に蛍光灯管を付けるのみならず、電気配線スイッチ、分電盤設置による電気電気容量アップの工事が行われていることが認められ、これを建物付属設備としたことに違法はない。また、そもそも、これら主張をもって、本件リース料を損金算入しなかった本件法人税の各更正処分が違法ということはできない。
とすると、結局、本件法人税の各更正処分は適法である。
4 争点(3)イについて
本件消費税法取扱通達によれば、1年以内の短期の前払費用について、本件法人税法基本通達の適用を受けていることを条件に、その支払時点で課税仕入れとすることを認めることとされており、上記判示のとおり、本件リース料について、本件法人税法基本通達の適用がない以上、本件消費税法取扱通達を適用して、本件各課税期間の課税仕入税額とすることはできない。よって、本件消費税の各更正処分は適法である。
5 以上のとおり、本件法人税の各更正処分及び本件消費税の各更正処分はいずれも適法であり、原告が、本件各事業年度の法人税の確定申告を過少に行ったこと及び本件各課税期間の消費税の確定申告を過少に行ったことについて、国税通則法65条4項の「正当な理由」があるとは認められないから、本件法人税の各賦課決定処分及び本件消費税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
第4結論
以上によれば、原告の本訴請求は、平成6年12月1日から平成7年11月30日までの事業年度の法人税について、被告が平成8年7月30日付けでした更正処分の取消しを求める請求のうち、所得金額4023万8244円を超えない部分の取消しを求める部分は不適法であるから、これを却下することとし、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横山光雄 裁判官 上寺誠 裁判官 西田政博)
file_8.jpg別紙