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松江地方裁判所 平成20年(む)40号 決定 2008年5月08日

主文

本件裁定の申立てをいずれも棄却する。

理由

第1申立ての概要

本件裁定の申立ての趣旨及び理由は,弁護人提出の平成20年4月17日付け証拠開示命令請求書(以下「本件請求書」という。)記載のとおりである。すなわち,本件は,被告人が分離前の相被告人Aと共謀の上,平成18年7月21日午前零時20分過ぎころ,B県C市内の政党支部事務所付近において,けん銃をこれと適合する実包とともに所持した上,同事務所に向けてけん銃で弾丸を発射し,同事務所に命中させて損壊したほか,同日午前2時20分ころ,D市内の建設会社営業所付近において,同営業所に向けてけん銃で弾丸を発射し,同営業所に命中させて損壊したという各事実につき公判請求されている事案であるが,弁護人が本件請求書1(1)及び(2)において開示を請求している証拠は,刑訴法316条の20第1項の主張関連証拠に該当するのに,検察官がこれらを開示しないので,それらの開示を求めるというのである。

第2当裁判所の判断

1  本件請求書1(1)の証拠について

弁護人は,検察官が証明予定事実記載書で主張している,「被告人が平成18年7月20日午後10時過ぎ以降,Aと共にD市からC市方面に向かった」という事実を否認する主張(以下「本件予定主張(1)」という。)を予定しており,検察官が上記事実につき依拠することを予定しているAの供述の信用性を争うためには,本件請求書1(1)の証拠である,同人が経営するスナックの関係者ないし顧客の供述録取書等が重要であるから,これらの証拠は本件予定主張(1)と関連すると主張する。

しかしながら,本件予定主張(1)は,検察官の上記主張を単純に否認するものにすぎないし,弁護人の主張によっても,Aが経営するスナックの関係者ないし顧客の供述録取書等がいかなる意味で検察官の上記主張に関するAの供述の信用性を判断する上で重要なのかは具体的に明らかにされておらず,したがって,その必要性も明らかにされているとはいえない。このような本件請求書1(1)の証拠と本件予定主張(1)との関連性の程度やこれらの証拠の必要性の程度等を併せ考慮すると,その開示が相当であるとは認められない。

2  本件請求書1(2)の証拠について

弁護人は,被告人が平成18年7月20日夜から翌21日未明にかけてD市内又はその周辺で自らが経営する風俗店の営業活動等をしており,本件各犯行についてアリバイがあるとの主張(以下「本件予定主張(2)」という。)を予定しているから,本件請求書1(2)の証拠は本件予定主張(2)と関連すると主張する。

しかしながら,上記のとおり,本件各公訴事実記載の各犯行は,D市内又はこれと隣接するC市内で行われたとされている上,弁護人は,本件各公訴事実記載の日時の前後における被告人の行動について,風俗店の営業活動等をしていたとしか主張しておらず,その内容は全く不明確なのであるから,本件予定主張(2)は,それ自体としては,本件各犯行を否認する以上のいわゆるアリバイ主張としての意味を持たないものであるといわざるを得ない。

そして,このように,弁護人が主張する被告人の営業活動等の内容は不明確であるから,本件予定主張(2)と本件請求書1(2)の証拠である上記風俗店の関係者ないし顧客の供述を録取した証拠とがいかなる意味で関連するかやそれらの証拠の必要性も具体的には明らかでないといわざるを得ず,その一方で,本件請求書1(2)の証拠が開示された場合,被告人が開示証拠と矛盾しないような虚偽の弁解を作出する危険性も低いとはいえないなど,開示による弊害も認められる。これらの事情を併せ考慮すれば,本件請求書1(2)の証拠を開示することが相当であるとは認められない。

弁護人は,被告人が1年8か月も前の本件各犯行当日の行動を思い起こすことは不可能であり,被告人が経営する風俗店は無店舗型のものであって,営業活動等の場所を特定することも困難であるから,現時点での記憶に基づいて可能な限り具体化すれば,主張明示義務は尽くされているなどと主張する。しかし,弁護人の主張によれば,被告人には風俗店の営業活動等をしていたとの記憶はあるはずであり,そうすると,少なくともその内容の概要程度は具体化することが可能なはずであるから,弁護人の主張は上記判断を左右するものではない。

第3結論

したがって,本件裁定の申立てにはいずれも理由がないから,刑訴法316条の26第1項により,これらをいずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 吉井隆平 裁判官 秋元健一 裁判官 岩田絵理子)

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