大判例

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松江地方裁判所 昭和24年(行)4号 判決

原告 浜村納

被告 出雲税務署長

一、主  文

被告が昭和二十四年二月二十八日原告に対してなした、原告の昭和二十三年度所得金額を金四万二千百円、所得税額を金四千五百二十八円とする所得金額並びに所得税額更正を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として次の通り述べた。

原告は農業を営み末尾添付の別表第一記載の田畑を耕作している者であるが、原告の昭和二十三年度の所得金額は金三万七千百二十七円で、その内訳は別表第一の通りであつて、その所得税額は金三千二百七十八円であるから、昭和二十三年度末の確定申告においてその旨申告したところ、被告は昭和二十四年二月二十八日右確定申告に対し所得金額を別表第二記載の通り金四万二千百円、所得税額を金四千五百二十八円とそれぞれ更正し、その通知は同年三月二十日原告に到達したが、原告は右更正に不服であるから同月二十三日政府に対し審査の請求をなすと共に、被告に対し前記被告がなした原告の昭和二十三年度所得金額を金四万二千百円、所得税額を金四千五百二十八円とする所得金額ならびに所得税額更正の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

次に原告訴訟代理人は被告の答弁に対し次の通り述べた。

別表第三記載の被告主張の原告所得金額のうち、田畑所得が金四万九百八十七円である点及び養畜所得中鷄一羽からの所得が金百七十四円である点は何れも否認する。そして田畑所得については、本件所得税確定申告期日前、出雲税務署直税課藤江秀逸事務官が原告居村神西村役場で原告等農業者を集め所得標準表と題する書面(甲第一号証の一、二、三)を配布した上、農業所得の申告について説明し右標準表による申告については税務署においてこれが更正はしないと言明したので原告は右に從つて申告したのである。しかるに被告は原告に原告の申告した外に更に物件移動所得が金五千円あるとほしいままに認定し、原告の申告所得額に右金額を加算して別表第二の通り、更正をした。その後被告において調査の結果原告に物件移動所得がないことが判明しても被告はなお右更正を維持し、右の五千円を物件移動所得として計上しない代りに、田畑所得について前記標準表による計算方法を排斥し、別表第三の通り必要経費を過少に評價することによつて、違法な更正をとりつくろつているものであつて、本件更正は何等根拠のないものである。

被告訴訟代理人は、先ず「原告の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由を次のように述べた。

所得金額及び所得税額の更正に対しては、所得税法第五十一條及び行政事件訴訟特例法第二條により、審査請求に対する決定を経るか、或いは審査請求後三箇月を経過しなければ訴を提起することができない。しかるに原告が本件更正に対し審査の請求をしたのは昭和二十四年三月二十三日で、右に対する決定は同年九月十日付をもつてなされたのであるが、原告は審査の請求をしてから三ケ月をも経過しない同年四月十九日に本訴を提起したのであるから、本訴は前記法條に違背する不適法のものとして却下せらるべきである。

次いで本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、事実に対する答弁として次のように述べた。

原告主張事実中、原告が農業を営む者であり、その耕作する田畑の反別が原告主張の通りであること、原告がその主張のとおりの所得金額及び所得税額の確定申告をしたこと並びに被告が右申告に対し原告主張の日時原告主張の通りの所得金額および所得税額の更正をなし、その通知が原告主張の日時原告に到達したことは認める。被告が右更正をなした際は別表第二の通り原告の所得金額を計算したのであるが、その後原告の審査請求後更に原告の所得を調査した結果、原告の昭和二十三年度所得金額は金四万三千二百十円二十銭でその内訳は別表第三の通りであることが判明したから、被告のなした更正は違法ではない。(立証省略)

三、理  由

先ず被告の本案前の抗弁について判断する。

原告は本訴において行政廳である被告が昭和二十四年二月二十八日なした所得金額及び所得税額の更正の取消を求めるものであり、本訴を昭和二十四年四月十九日に提起したことは本件記録により明らかである。ところで所得金額及び所得税額の更正に対する訴訟は所得税法第五十一條によれば審査の請求に対する決定を経なければ出訴できないと規定し、行政事件訴訟特例法第二條によれば、同條但書後段の正当の事由のない限り審査の請求に対する決定を経るか、審査請求の日から三箇月を経過しなければ訴を提起することができないこととなつている。そして原告が昭和二十四年三月二十三日審査の請求をしたことは当事者間に爭がなく、原告のした審査の請求に対する決定は同年九月十日になされたとの被告主張事実は原告において明らかに爭わないところであるから本訴の提起当時は被告のいうように審査請求に対する決定も経ず又審査請求の日から三箇月を経過していないわけであるが、その後右三箇月の期間を経過しても審査請求に対する決定が爲されなかつたのであるから、その時から本訴は前記各法條所定の要件を充たしたこととなり、適法となつたものと解することができる。從つて被告の抗弁は理由がない。

そこで本案について判断する。

原告が農業を営むものであつて、別表第一記載の田畑を耕作していること、原告がその昭和二十三年度所得金額を金三万七千二十七円、その内訳は別表第一の通りとし、所得税額を金三千二百七十八円として確定申告をしたこと並びに被告が右確定申告に対し昭和二十四年二月二十八日所得金額を別表第二の通り金四万二千百円、所得税額を金四千五百二十八円とそれぞれ更正したことは当事者間に爭がない。

原告の昭和二十三年度所得中、昭和二十二年度産米追拂金百三十四円、昭和二十三年度産早場米奬励金七百二十円、同じく俵代金四百九十七円及び兎二匹からの金三百円の各所得の存在については当事者間に爭がなく昭和二十三年度産麦奬励金八十八円、自家山林から得た薪代金千円及び被告主張の日雇收入金四百円を含む雜收入金二千円の各所得の存在は原告の自認するところである。

そこで田畑所得について、原告は所得税額を別表第一記載の通り金三万二千三百八十八円であると主張するのに対し、被告は右は別表第三記載の通り金四万九百八十七円であると主張するので、この点について考えると証人嘉田嘉の証言及び原告本人訊問の結果を綜合すると被告主張の田畑所得額中米三万九千九百五十八円四十二銭、小麦二千八百三十二円二十九銭、甘藷千二百六十八円二十四銭、馬鈴薯二百四十四円三十五銭、野菜三百円及び藁三千五十二円五十銭の各收入の存在したことはうかがわれるけれども、被告主張の別表第三記載のその余の收入の存在並びに必要経費が被告主張の通りであることについては、証人嘉田嘉の証言及び乙第二号証乃至乙第五号証によつては未だこれを認めるに足らず、他にこれを認めるに足る資料がない、証人藤江秀逸の証言によつて眞正に成立したと認められる甲第一号証の一、二、三、成立に爭のない乙第一号証の一、二、証人藤江秀逸、嘉田嘉の各証言及び原告本人訊問の結果を綜合すると、原告が本件確定申告をするにあたつては、右申告期日前に所轄出雲税務署直税課事務官藤江秀逸が上司の命を受けて原告居村神西村役場で、原告等農業者を集め所得金額確定申告について説明した際、同事務官は被告において定めた農業所得についての標準所得率を記載した甲第一号証の一、二、三の所得標準表を示した上、農業所得について收支計算のできない者は右標準表によつて申告すれば、原則として更正決定をしない旨指示したので、原告は当時收支の記帳等していなかつたため、実際の收入、支出の計算ができなかつたところから右標準率に從つて別表第一記載の通り昭和二十三年度の所得金額につき確定申告をしたこと、しかるに被告は原告方がブローカーをしているとの近隣の噂に基き原告の申告した別表第一記載の所得の外に物品移動による所得が金五千円あるものと認定して、別表第二記載の通り本件更正をなしたこと、その後原告が右物品移動による所得金五千円の認定を不当として、本件更正に対して審査の請求をなすと共に本訴の提起に及ぶや、被告は改めて昭和二十三年度における原告の所得につき調査をなし、右物品移動による所得を削除する一方、前示甲第一号証の一、二、三の標準表によらないで原告の田畑所得を別表第三の通り算出したものであることを認めることができる。しかしながら原告の田畑所得の金額が、別表第三記載の通りであることを認定するに足る適確な証拠の存在しないことは前に認定した通りであるから、結局原告の田畑所得についてはこれを認定する証拠がないことに帰するものである以上、それは一般の標準に從つて推算するより外はないことになる。証人藤江秀逸の証言によれば前示甲第一号証の一、二、三に示された所得標準表は原告居村神西村に於ける農業所得の標準を示したものであり、この標準表に從つて農業所得の申告をなした者については大体原則として更正をしていないことを認め得るのであるから、原告の田畑所得も右標準表に從つて算出された別表第一記載の金三万二千三百八十八円であると推定せざるを得ないわけである。

次に鷄一羽からの金百七十四円の所得については原告本人訊問の結果によれば原告は本件所得年度に鷄一羽を買入れたが右からの所得は皆無であつたことが認められ右認定に反する証人嘉田嘉の証言部分は信用できないから、その存在を肯認し得ない。

果してそうであるならば原告の昭和二十三年における総所得金額は原告主張の通り別表第一記載の金三万七千百二十七円であると認めるのが相当であるから、被告のなした所得金額並びに所得税額の更正は何れも違法であつて取消を免れない。從つて被告に対しその取消を求める原告の請求は理由があるからこれを正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松本冬樹 組原政男 長谷川茂治)

(別表省略)

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