松江地方裁判所 昭和26年(行モ)3号 決定
申請人 渡辺保夫
被申請人 安来町選挙管理委員会
一、主 文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
二、事 実
申請人は「被申請人が昭和二十六年九月二日なした安来町議会の議決に基き、安来町警察を維持しないことを住民投票に付する旨の告示の効力は、申請人被申請人間の当庁昭和二十六年(行)第五号告示無効確認訴訟事件の本案判決が確定するまでこれを停止する」旨の裁判を求めた。その理由の要旨は、次の通りである。
一、島根県能義郡安来町は自治体警察として、その区域内に安来町警察を維持しているものであるが、被申請人は昭和二十六年八月二十一日連署代表者原田松吉外六名の請求にかゝる住民投票の請求連署を、選挙人の三分の一以上の有効連署であるとして縦覧に供したが、同年八月二十九日右署名について異議の申立があり、現在右異議の審査中であるところ、たまたま同月二十五日安来町議会において町警察存廃に関する議決が為されたので、被申請人は右議決に基き同年九月二日安来町警察を維持しないことを住民投票に付し、投票の日時を昭和二十六年九月二十二日とする旨の告示を為した。しかしながら、被申請人は先に為された連署請求を有効として受理しておきながら、それについて異議が申立てられるや、その決定をなさないまゝ、後に受理した前示議会の議決に基いて前記告示を行つたもので、その取扱は違法であり右告示は無効である。
二、右が理由ないとしても、安来町議会は「安来町警察を維持する又は廃止することを住民投票に付する」旨を議決したものであるが、警察法第四十條の三第一項には「町村議会において警察を維持しないこと若しくは再び警察を維持することを住民投票に付することを議決したとき」と規定せられ、右規定の解釈については、全国選挙管理委員会及び地方自治庁より、警察を維持しないこと(再び維持すること)を住民投票に付する旨の議決を行うのが原則で、再び警察を維持するか、しないかを住民投票に付する旨の議決は適当でない旨の通牒が発せられており、これに従えば結局安来町議会の為した右議決は違法であるから、これに基き被申請人の為した前示告示もまた無効である。
そこで申請人は被申請人を被告として右告示の無効確認を求めるため松江地方裁判所に訴を提起したが、同年九月二十二日には右告示に基き住民投票が為されんとしているのであつて、若し前示の如き無効な告示に基き住民投票が施行されるならば、償うことのできない損害が生ずるおそれがあるから、右告示の効力の停止を求めるため本申請に及んだのである。
三、理 由
警察法第四十條の三第十項によれば、市町村警察を維持しないこと若しくは再び維持することを決する住民投票に関する手続については公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定が準用され、また右投票に関する争訟については、地方自治法第二百五十五條の二が準用されている。従つて右住民投票に関する争訟については、地方自治法及び公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定が準用せられることゝなる。そして、右法律によれば、右住民投票については、その投票の効力についてのみ選挙争訟の手続の準用により、選挙管理委員会に対する異議、訴願を経て高等裁判所に出訴することができ、本件告示の如き右投票手続を構成する各個の行為については、独立の争訟手続が許容せられないものと解するのを相当とする。けだし、選挙或は住民投票は、一連の手続として順次発展して行く個々の行為の連鎖であるが、その各個の行為に対する瑕疵を原因としてその都度右各行為の効力を争わせることは、手続全体の進行を著るしく遅延させ、ひいては行政運営上の妨害ともなるので、その手続の終了後右瑕疵を理由として選挙或は投票の効力のみを争わしめるのを妥当とするからである。そうだとすると、申請人が本件告示の効力を訴を以て争うことは許されないわけであるから、本件申請は理由のないものとして、これを却下すべきものである。よつて申請費用の負担について民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 松本冬樹 組原政男 上田次郎)