松江地方裁判所 昭和33年(行)2号 判決 1961年3月23日
原告 有限会社寿産業
被告 松江税務署長
訴訟代理人 上野国夫 外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。
事実
(請求趣旨)
被告が昭和三一年一二月二八日付通知書によつてなした原告の昭和二八年一一月一三日から昭和二九年九月三〇日までの事業年度の所得金額金一、五四一、四〇〇円、法人税額金六四七、三八〇円とする法人税更正決定は、所得金額金一、四〇四、八八五円、法人税額金五九〇、〇一〇円をこえる部分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。
(請求原因)
一、被告は昭和三一年一二月二八日付通知書によつて、原告会社の昭和二八年一一月一三日から昭和二九年九月三〇日までの事業年度の所得金額一、六六〇、八〇〇円、法人税額金六九七、五三〇円とするとの法人税更正決定をなした。原告はこれに不服であつたので昭和三二年一月二五日に被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年三月三〇日付でこれを棄却した。原告は同年五月二日に、広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、同国税局長は昭和三三年三月三一日付で、審査の請求を棄却した。そこで原告は本訴を提起したのであるが、同国税局長は昭和三五年九月二日付の通知書により、前記審査の請求を棄却した決定を一部変更し、原告会社の前記所得金額を金一、五四一、四〇〇円、法人税額を金六四七、三八〇円とするとの決定をした。したがつて被告税務署長のなした前記更正決定は右の限度において効力を有するものである。
二、原告会社の右事業年度の所得金額は別紙第一記載のとおりである。そして、被告は原告主張の接待交際費二二一、四一二円が使途不明であるとして否認し、推計計算により右経費を八四、八七二円とし、前記更正決定が適法であるというのである。
しかしながら、原告主張の右経費中(1)二〇五、七七七円については元帳に支出年月日、支出額、支出先を明瞭に記帳してあり、その余の一五、六三五円については、(2)昭和二九年七月三日、七、二〇〇円、料理店「秀八」に支払、(3)同月二二日、五、四一〇円、クラブ食堂に支払、(4)同月三一日、三、〇二五円森永キヤンデーストアに支払したもので、その使途はいずれも会社の業務に必要なものである。右(1)の内訳は、接待用煙草代二、三三〇円、接待用茶菓代四二、四三九円、接待用酒類及び軽食費五八、一八〇円、宴会費八一、一五〇円、同業者との会食費八、一八三円。従業員等に対する中元、歳暮の贈答品費一三、四八五円、右(2)は資金導入の必要上銀行業者を招待したもの、(3)(4)は事業上の訪問客と用談を兼ねた一回三〇〇円程度の会食費を月末に支払したものである。これらの接待先は被接待者の名誉にかかわるなどの事情から個々に明示しがたいのであるが、だからといつて右の支出を使途不明というにはあたらない。また被告は同業者の接待交際費を基準とした推計計算により前記のように主張するのであるが、接待交際費は各事業者の事業内容、経営方針、その他の条件から特殊個別的なものであつて、ことに前記事業年度は原告会社の始業年度であつたから将来の発展を期し、各方面に積極的に交渉したため右の経費を必要としたのである。このように支出の根拠があるのに、これを否認して推計計算の方法により右経費を算出することは許されない。
三、したがつて、被告税務署長のなした前記更正決定のうち原告主張の所得金額、所得税額をこえる部分は違法であるから、請求趣旨記載のとおりこれが取消を求める。
(被告、請求趣旨に対する答弁)
主文第一項同旨及び訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。
(被告、請求原因に対する答弁)
一、請求原因一の事実は認める。
二、被告税務署長のなした本件更正決定は別紙第一記載のとおりの所得にもとづくものである。すなわち、原告が計上した接待交際費二二一、四一二円のうち損金と認むべきものはつぎにのべるところにより八四、八七二円である。
右経費については、原告会社の帳簿書類によつて、その費途が不明であつて、原告会社の業務遂行上要した費用であるとの確認ができず、しかもそのうちには、設立当時同会社の顧問で、後に代表者となつた実重俊夫の個人的出費も含まれているものと推測されるので、原告会社の計上額をすべて損金と認めることはできない。
ところで、原告会社と同種事業を営む訴外旭興産株式会社及び川瀬太三郎について昭和二八、二九年中に支出した接待交際費の貸金利息収入に対する割合を調査したところによると、別紙第二記載のとおりであつて、平均割合は一、四%であるから、これらの事業者と比較して特に多額の接待交際費を要すべき特段の事情のない原告会社においても、その業務上必要とした接待交際費は右の割合をこえないものと考えるのが相当である。そこで被告は原告会社の貸金利息収入六、〇六二、三五一円に右の一、四%を乗じた八四、八七二円を接待交際費として認めたものである。この算出方法が合理的であることは、広島国税局管内で貸金業を営む法人のうち、貸金利息収入が三〇〇万円以上の法人において、接待交際の貸金利息収入に対する割合の平均値が一、三九%であることからも裏付けられるのである。
三、よつて被告のなした本件更正決定は適法である。
(立証)<省略>
理由
一、請求原因一記載の点は当事者間に争いがない。
二、原告は本件所得を、貸金利息収入六、〇六二、三五一円、損金として接待交際費二二一、四一二円、その他の必要経費四、四三六、〇五三円五〇銭、所得一、四〇四、八八五円であると主張するのに対し、被告は右所得は貸金利息収入原告主張と同額、損金中接待交際費八四、八七二円、その他の必要経費原告主張と同額、所得一、五四一、四二六円であるから本件更正決定は適法であると主張するのである。したがつて、被告が、原告が計上した接待交際費二二一、四一二円中八四、八七二円をこえる額を損金と認めなかつたことが適法かどうかが本件の唯一の争点となるわけである。
三、そこで考えるのに成立に争いのない乙第二号証の一、二(原告会社元帳)によると、原告主張の接待交際費のうち、二〇五、七七七円については、その支出年月日、支出額、支出先が記載してあり、成立に争いのない甲第一号証の一、二、三によると、その余の一五、六三五円については昭和二九年七月三日、七、二〇〇円、料理店「秀八」に支払、同月二二日、五、四一〇円クラブ食堂に支払、同月三一日、三、〇二五円、森永キヤンデーストアに支払したものであることが認められる。口頭弁論の全趣旨によると以上の金額が原告会社により各支出先に支払われたものだと認められる。そこで右各支出が法人税法上損金と認められるためにはその使途が明らかで、会社業務遂行に関係のあるものであることを要するというべきであるが、前記元帳によつては各支出の使途、すなわちいかなる会社業務のための出費であるかを具体的に知るにたるべき記載はないし、証人藤井正雄の証言によると原告会社の伝票その他の書類によつても、その使途を知るにたるべきものがないことが認められる。そして、原告は右各支出の個別的使途については、本訴においてもこれを明らかにしないし、前記藤井証人の証言によれば、原告会社は審査請求についての国税局の調査にあたつてもこれを明らかにしようとしなかつたことが認められる。そうだとすると右各支出の一部はともかくとして、その全部について使途が明らかでなくしたがつて会社業務遂行に関係のあるものかどうかもかならずしも明らかでないものといわねばならない。そして、前記藤井証人の証言によれば、前示の支出先の発行した受領証の中には宛名が「実重俊夫」と個人名のみを記載したものがあつて、会社のための支出であるかどうかが疑わしいものもあることがうかがわれる。かかるばあい、税務署長は、同種類似の事業者の接待費の平均額と比較する等の合理的基準にもとづいて右損金算入の申告が右の基準をこえるのであれば、その部分を損金として認めないで、その旨の更正決定をすることは許されるべきものと解するのが相当である。そして、被告は、同一時期において、原告会社同様金融業を営む松江市の事業者二、広島国税局管内の貸金利息収入年間三〇〇万円以上の金融業者の各貸金収入利息と接待交際費との平均割合が一・三%ないし一・四%であるとして、原告会社の損金に計上すべき接待交際費をその前示貸金利息収入六、〇六二、三五一円に一、四%を乗じた金八四、八七二円とするものであり、右各同種業者の貸金収入利息と接待交際費の平均割合が被告主張のとおりであることは成立に争いのない乙第一号証の一から六まで、公文書であることにより真正に成立したと認める乙第四、第五号証、乙第六号証の一から二八までによつてこれを肯認しうるところである。
そうすると、特段の事情のないかぎり原告会社の損金に計上さるべき接待交際費は右をもつて相当とすべきであり、原告は本件事業年度は会社の始業年度にあたり右経費が一般の基準より多額であるのは当然である旨主張するのであるが、証人実重忠行の証言及び口頭弁論の全趣旨によると、原告会社代表者実重俊夫が従来、個人で金融業を営んでいたところ、これを漸次縮少し、同人及びその家族が主たる株主となつて原告会社を設立して金融業を営むにいたつたもので、右個人と会社とで、事実上経営の実体にさしたる変化があつたものでないことがうかがわれるから、始業年度であるためとくに多額の接待交際費を要したとも考えられないし、ほかに前示基準による推算が不合理であるとするにたるべき特段の事情は認められない。
よつて、被告税務署長のなした前示更正決定は正当であるというべきであるから原告の請求は棄却すべきである。訴訟費用の負担については、本訴提起後訴訟の目的である更正決定の所得額、所得税額が減少したものであり右減少部分の所得内容についての争点に関する訴訟費用があることを考慮し民事訴訟法第八九条第九〇条の規定に従い主文第二項のとおりに定める。
(裁判官 長谷川茂治 藤島利行 武波保男)
別紙第一
収入
支出
原告主張額
被告主張額
収入円
支出円
収入円
支出円
貸金利息
六、〇六二、三五一
六、〇六二、三五一
役員報酬
五七〇、〇〇〇
五七〇、〇〇〇
従業員給料
二六七、〇〇〇
二六七、〇〇〇
同賞与
一一、四〇〇
一一、四〇〇
雑給
七、二〇〇
七、二〇〇
通信費
一二九、〇四五
一二九、〇四五
事務費
一一、四三二
一一、四三二
印刷費
七、〇〇五
七、〇〇五
消耗品費
八七、三七九
八七、三七九
広告費
一〇〇、二三〇
一〇〇、二三〇
調査請求雑費
七六、四五三
七六、四五三
旅費
一〇四、四三〇
一〇四、四三〇
雑費
一五〇、六八三
一五〇、六八三
接待交際費
二二一、四一二
八四、八七二
貸借料
三〇〇、〇〇〇
三〇〇、〇〇〇
光熱暖房費
三三、一一八
三三、一一八
瓦斯水道料
九、五九七
九、五九七
修繕費
一四五、五六〇
一四五、五六〇
支払利息
一、五九八、五五〇
一、五九八、五五〇
公租公課
一五、四五〇
一五、四五〇
火災保険料
一四、二九六
一四、二九六
組合費
八、二四四
八、二四四
福利厚生費
三四、七二〇
三四、七二〇
創立費
一六、六六六
一六、六六六
雑損失
三五五、一八〇
三五五、一八〇
減価償却費
円
三八二、四一五
三八二、四一五
当期利益金
五〇銭
一、四〇四、八八五
一、五四一、四二六
別紙第二
同種事業者
事業年度
貸金利息収入
接待交際費
対利息収入率
同上平均率
旭興産株式会社
自昭和二八、四、一
至〃二九、三、三一
円
五、五三〇、一六一
円
五三、九四三
〇、九九%
一、四%
自〃二九、四、一
至〃三〇、三、三一
五、七七八、三六八
五八、七三九
川瀬太三郎
自〃二八、一、一
至〃〃一二、三一
四、九六一、七五九
一二一、二〇〇
一、六八%
自〃二九、一、一
至〃〃一二、三一
一〇、〇七三、九五二
一二九、五九〇