大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

松江地方裁判所 昭和39年(行ウ)5号 判決 1968年4月17日

原告 湖北ベニヤ株式会社

被告 松江税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判。

(原告)

「一、被告が原告に対してなした昭和三八年二月二八日付法人税額等の更正および加算税の賦課決定による法人税額三〇、二七〇、九〇〇円のうち六三〇、八〇〇円、過少申告加算税額三七、一五〇円のうち三一、五五〇円を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張。

(原告の請求原因)

被告が原告に対してなした昭和三八年二月二八日付法人税額等の更正および加算税の賦課決定による法人税額三〇、二七〇、九〇〇円のうち六三〇、八〇〇円、過少申告加算税額三七、一五〇円のうち三一、五五〇円の部分は、その処分が違法であるから取消を求める。

(原告の前置手続経由の主張)

原告は、昭和三八年三月三〇日、被告に対して本件更正および決定につき異議を申立てたところ、同年一〇月一日、被告は原告会社役員炭谷武義および同山田正男の両名が会社の経営に従事したものと認め、更生会社の役員であつても経営に従事しているものは法人税法上使用人とはならないとの理由で右申立を棄却した。そこで、原告は同年一〇月二八日、広島国税局長に対して審査請求をしたが、同局長は昭和三九年六月一八日、同様の理由で審査請求を棄却する旨裁決した。

(請求原因に対する被告の答弁)

原告主張のとおりの更正および決定をしたことは認める。しかし、右は税額の全部につき、後記被告の主張のとおり正当な根拠に基づく適法な処分である。

(前置手続経由の主張に対する被告の答弁)

原告主張のとおり前置手続を経由したことは認める。ただし、広島国税局長の棄却理由は、正確には、炭谷、山田の両名が会社の役員であること、経営に従事していたことである。

(被告の主張)

一、原告は昭和三七年五月三一日、被告に対して、原告会社の昭和三六年四月一日から昭和三七年三月三一日までの事業年度(以下単に本件事業年度という)における法人税額を二七、八一五、七六〇円とする申告をしたが、原告の課税所得金額は別表一の該当欄のとおりであるため、別表二の該当欄のとおりの算出根拠によつて同表(一)の(6)差引法人税額三〇、二七〇、九〇〇円を算出して更正し、同表(二)の(7)過少申告加算税額三七、一五〇円を算出して賦課決定をした。

二、原告の所得金額中、別表一の(一)の(3)一、六六〇、〇〇〇円の内容は、本件事業年度内において原告会社役員炭谷に対して支給した一、〇一五、〇〇〇円、同山田に対して支給した六四五、〇〇〇円の各賞与の合計である。

三、右支給をもつて所得金額の一部であるとする根拠は、これが会社役員に対する賞与であり、税法上当然利益金処分と認められるからである。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一、被告の主張一のうち、同主張のような申告をしたことは認める。別表一中、(一)(原告申告課税所得金額)に加算すべきものの(3)損金支出役員賞与を争う。したがつて、同表中(二)差引課税所得金額を争う。同表中その余の(一)に加算または減算すべき各金額の存することは認める。別表二中、(一)の(1)所得金額を争う。したがつて、同表(一)の(6)差引法人税額、(一)の(8)差引更正により納付すべき税額、同表(二)の(7)過少申告加算税額を争う。原告主張の所得金額および正当な税額とその算出根拠は、別表一および別表二の各該当欄のとおりである。

二、被告の主張二の支払の事実は認める。

三、被告の主張三の点は争う。

(原告の主張)

一、原告は合板の製造販売を目的とする株式会社であつて、昭和三一年五月一日開始決定による更生会社となり(管財人は又賀清一ほか一名)、同年一二月一〇日松江地方裁判所より会社更生計画認可決定を受け、旧取締役であつた炭谷、山田の両名は更生会社の取締役として留任した(なお、昭和三八年九月三〇日の会社更生手続終結決定により、原告は通常の会社に復帰した。)。

二、炭谷、山田の両名は、本件事業年度において使用人としての地位において行動していたものである。すなわち、本件会社更生計画の認可決定のあつた昭和三一年一二月一〇日ごろ、管財人と炭谷、山田の両名との間に口頭による雇傭契約が成立し、以後両名は管財人の使用人としての地位において業務に従事していた。また、更生会社の性質からいつても、両名は、会社または管財人の使用人としての地位における業務執行と、役員の業務中会社の存続に関する業務の執行のみをなす地位にあり、役員業務の主たるものである事業経営、財産の管理処分の権限を有しなかつた。そして、現実にも、炭谷は工場長としてベニヤ板生産部門を総括し、山田は経理担当(経理課長担当)として経理部門を総括し、両名とも常時出勤して管財人の命により使用人としての地位における業務に従事した。

本件事業年度において、両名が使用人としての地位において行動した実情はつぎのとおりである。

(一) 仕入。毎期の合板生産量に見合う原木の買入れの交渉については管財人が直接その衝に当り、その他の資材の購入先等も管財人が決定した。

(二) 生産。毎期の生産計画は管財人が決定してこれを炭谷に指示し、同人がこれに基づいて具体的な手配をした。

(三) 販売。管財人が販売価格の基本的な決定指示を行い、販売先の選定も当初の会社更生計画で定められたもの以外は、すべて管財人の決裁によつて決定した。

(四) 資金繰りおよび経理。借入、手形割引等の資金繰りの交渉は管財人が直接行い、その事務的手続を山田らが管財人の指示で行つた。毎月の収入はその都度管財人に報告し、支払については山田らにおいて毎月末支払一覧表を作成し、管財人の指示を受けた。

(五) 労務管理。従業員の採用解雇等の人事、賃金の決定等は管財人の指示に従い炭谷、山田らにおいて立案し、管財人の決裁をえる方法によつた。従業員に対する一般の訓辞、指示はほとんど管財人が行つた。

(六) 財産の管理処分。不動産、車輛、機械の購入売払等も、重要なものは管財人が自ら行い、または管財人の指示で幹部社員が行つた。

(七) 対外関係。業界の会合等へは管財人が出席し、または発言内容について管財人の指示を受けた炭谷、山田らが代理で出席したこともあつた。

(八) 管財人の業務運営に当つての指示様式。又賀清一管財人は、自己固有の業務を有していたため原告会社へ日勤することは不可能で、毎月一、二回ないし数回出勤する程度であつたので、炭谷、山田らは左記の方法によるほか、ほとんど毎日訪問または連絡によつて管財人の指示を仰いだ。

(1) 毎月初めに前月の仮決算を行い、管財人の承認を受けるとともに、今後の生産計画その他基本的事項について指示を受けた。

(2) 日常の打合わせ事項中、金銭の支出を伴うものについては口頭による打合わせ後、後日のために稟議書を作成しておいた。

(3) 管財人の職印を松江市寺町島根県合板協同組合事務所の鐘築武雄をして保管せしめ、打合わせずみの事項その他きまりきつた事項等については、管財人の出張不在の場合に、同人をして管財人の職印を押捺させた。

三、右のように、炭谷、山田の両名は使用人としての地位において業務に従事していたもので、いわゆる使用人兼務役員というべきところ、原告は本件事業年度において会社更生計画を遂行中であり、同計画上、更生債務の完済までは利益金処分は認められておらず、更生債務は未完済であつたため、原告は、両名に対する賞与を利益金処分としてではなく、従業員賞与を支給する意思で支給した。そして、右賞与は、更生計画の遂行につき責任を負い、裁判所の監督を受ける管財人が決定支給したものであるから、更生計画の方針に沿い、利益金処分となるような支給を行つていないと推定すべきでありこのこと自身からして、法人税法施行規則(昭和三四年政令第八六号による改正後のもの、以下同じ)第一〇条の四但書にいう金額の相当性を検討するまでもなく、利益金処分ではないと判定すべきである。

仮に右主張が認められないとしても、両名に対する右賞与は、別表三のとおり、他の使用人の受けた賞与に比して時期金額において相当であるから(なお、両名に支給した賞与の算出の基礎となる月数の比率は他の使用人よりもむしろ低い。)同条但書により、右支給額の全額あるいは少くともその一部は、他の使用人に比し相当なものとして損金に計上されるべきである。

(原告の主張に対する被告の答弁と反論)

一、原告の主張のうち、一の事実は認めるがその余の点は争う。

二、炭谷、山田の両名は、以下に述べるように、本件事業年度において現実に会社役員として会社の経営に従事していたものであつて、使用人兼務役員ということはできない。

(一) 炭谷は設立発起人として原告会社の設立に関与し、設立当初から更生計画に至るまで継続して代表取締役の地位にあり、山田は原告会社設立数年後の昭和二六年一二月に招かれて監査役に就任し、昭和二九年以後引きつづき取締役に就任していたものであり、両名とも職制上かつて使用人としての地位についたことは全くなく(したがつて、使用人から取締役に昇進したものではない)、いわゆる「生まれながらの会社役員」である。

(二) 両名は原告が更生会社となつてからも取締役として留任し、炭谷は生産営業部門を総括して経営にあたり、山田は経理庶務部門を統括して炭谷を補佐して経営にあたつていたものであり、両名が管財人を補佐しその指揮命令下にあつたとはいえ、つぎのように名実ともに業務の執行にあたつていたものであつて、会社の使用人の立場とは全く相いれないものであつた。すなわち、

(1) 原告会社の管財人は又賀清一と岩井産業株式会社の両名であつたが、後者は形式上名前を連ねていただけであり、管財人の業務は主に又賀清一が担当していたところ、又賀は他に多くの会社役員等を兼任していて非常に多忙であり、原告会社に出社するのは月に二、三回程度にすぎず、管財人の職印を鐘築武雄に預け放しにし、多額の支払関係については管財人の許可を禀議書の形式で与えていたが、それも後日に追認する場合が多く、せいぜい毎月仮決算書を提出させてこれにより監督していたにとどまつた。

(2) 炭谷、山田の両名は、右のように金銭の支払についてのみ禀議書で管財人の承認監督を受けていたものであつて、その他の事項についてその承認を受けていた事績はなく、また、禀議書の決裁欄には管財人と並んで取締役の捺印欄が設けられており、右両名が押印決裁していた。

(3) 原告会社の取締役会において、両名は会社の業務執行にあたつている者の立場において詳細に答弁を行つている。

(4) 両名はしばしば原告会社を代表して業界の会議に出席し、輸出の割当ての折衝あるいは価額の決定等の重要事項の決定に参画している。

(三) 炭谷、山田の両名が名実ともに会社役員であつたとみられる事例として、つぎのような事実もある。

(1) 両名は原告会社から随時金員を借用しており、本件事業年度中に、炭谷は合計四、二九二、〇〇〇円を、山田は合計八〇四、〇〇〇円もの多額の金員を借用している。

(2) 本件事業年度の決算にあたり、両名は故意に棚卸金額を脱漏し、四、五〇四、七三一円の利益を隠ぺいした財務諸表を取締役会に提出し、これに基づいて法人税確定申告をしている。

(3) 炭谷は更生手続が終結した後の昭和三九年二月死亡しているが、原告会社は同人に対して退職弔慰金として一一、〇〇〇、〇〇〇円を支給しており、その額は使用人の退職給与規定からみて遙かに高額のものであつて、同人の役員としての功労に報いるためのものであつたことが十分推認できる。

(4) 原告会社は、更生手続前において役員賞与について損金不算入の経理をしており、また、更生手続に入つてからも、本件事業年度以前の年度について、その損金算入を否認した更正処分に対し何ら争つていない。

(被告の反論に対する原告の応答)

一、(一) 被告の反論二の(一)に対し、

原告会社には成文化された職制の規定はないが、「工場長」「経理担当」(経理課長相当)等の地位は社内において何人にも明瞭な職制上の地位となつている。なお、使用人から昇進して役員となつたものかどうかは現に使用人としての業務を有するか否かとは無関係である。

(二) 被告の反論二の(二)に対し、

炭谷、山田の両名に外観上企業者的行動があつたとしても、それは管財人の委任により代理人として行動したにとどまる。

(1) 又賀管財人の原告会社への出勤は月に二、三回ないし数回であつたが、禀議書によるもののほか、口頭による決裁が多くく、禀議書を作成した場合も多くはその前に承認を与えている。

(2) 禀議書の管財人の捺印欄の下に取締役の捺印欄が設けてあるが、これは適当でないので、使用に当つてはその欄の取締役の文字を抹消することになつていたところ、一部抹消し忘れたものがあつたにすぎない。

(3) 両名が取締役会で業務内容を説明したのは、管財人の説明につづき具体的な点について管財人の命令で行つたものである。

(4) 業界の会合に両名が出席したのは、管財人の命によるもので、管財人自身は会議の議長格として臨席することが多かつたためである。

(三) 被告の反論二の(三)に対し、

(1) 本件事業年度末における原告の炭谷に対する貸付金は二、一三〇、三七七円であり、山田に対する貸付金は八〇四、〇〇〇円であつて、これはいずれも数年来の貸付金の期末残高であり、本件事業年度のみのものではない。本件事業年度のみについては、炭谷は貸付六八一、七三四円、戻入五七七、一五〇円、山田は貸付一、一一〇、〇〇〇円、戻入五四〇、〇〇〇円である。両名以外の従業員に対する貸付の例も多数あり、いずれも管財人の許可をえて行つたものである。

(2) 確定申告による脱漏は過誤によるものである。

(3) 炭谷に対する退職弔慰金は、通常の会社に復帰した後の原告会社役員に対するものとして支給したものであり、その額は原告会社の創立以来更生会社になるまで、更生手続終結後死亡までの取締役としての功績および更生手続中の使用人としての努力その他の事情を考慮して、取締役会の決議によつて決定されたものである。

(4) 原告が本件事業年度以前において、損金算入を否認した更正処分について争つていないのは、異議の申立をしても被告が容認してくれないため、やむなくそうしているにすぎない。

二、右のほか、原告の見解は大略つぎのとおりである。

(一) 更生手続中の会社では、経営および財産の管理処分権は管財人に専属し、取締役はその権限を失い、機関として経営に参加しえないものである(会社更生法(昭和四二年法律第八八号による改正前のもの、以下同じ)第五三条参照)。管財人が便宣上役員を代理人補助者等にした場合も、役員は管財人の使用人たる地位において業務を行うにすぎない。もし、これに反して役員が経営的業務を行うならば、会社更生手続上違法であるから、この場合には税法上も経営者であると認めるようなとり扱い、たとえばこれに対する賞与を利益金処分とみるようなとり扱いをなすべきではない。このことは、更生計画認可決定後も同様であつて、更生会社の取締役は右認可決定後も更生手続終結に至るまでは会社の「事業の経営ならびに財産の管理および処分」より排除されるものである。本件事業年度は更生計画認可決定後手続終結前であり、したがつて、取締役には経営的権限はなく、これに対する利益金処分的賞与の支給もありえない。

(二) 経営者のうちでも、常務取締役(いわゆる現場重役、営業部長、工場長等の職制上の地位にあつて会社に常勤する取締役)は従業員と同様労務提供者としての面を有し、通例その賞与が非常勤者のそれより相当多額であるのは、常勤者に対する賞与には右の労務提供の対価としての部分が含まれているからであると考えられる。法人税法施行規則第一〇条の四但書が使用人兼務取締役が受ける賞与についてその損金算入を認めているのは、この趣旨からでたもので、同規則第一〇条の三、第六項第一号が使用人兼務役員から除外する社長、専務取締役、常務取締役等については、使用人的業務を兼有しても、企業者的色彩が強いことから、徴税技術上賞与金額を利益金処分としたにすぎないものであつて、取締役の受ける賞与がすべて性質上企業者的地位において受けるものであるということはできない。

なお、常勤取締役の通常の業務は(イ)使用人的業務(使用人の行う業務と同性質の業務で会社の指揮命令に従つて行うもの)、(ロ)経営者的業務(経営的権限に基づくもの、すなわち事業の経営、財産の管理処分)(ハ)法人的業務(法人的権限に基づくもの、すなわち社団たる会社の存続に関する業務)に分れるが、更生会社の取締役には(ロ)の権限はなく、これに対する賞与の支給はありえず、(ハ)の権限はあるが、これに対する支給は利益金処分であるところ、原告会社の更生計画上利益金処分はできなかつたから、結局両名に対して右(ロ)、(ハ)の業務に対する賞与は支給していない。

(三) 法人税法施行規則第一〇条の四による「使用人としての職務を有する役員」(使用人兼務役員)は、部長、課長その他職制上の地位を有する者でなければならないが、この職制が成文の職制たることを要するという根拠はなく、たとえ慣習上のものであつても、会社内部の機構が確立し、成文の職制の存する場合と異なるところがなければ、その機構上の地位を職制上の地位とみるに十分である。原告会社においても、中小企業体の一般の例にもれず、成文の職制はなかつたが内部における職務分担の機構は確立していたものである。

(原告の右主張に対する被告の反駁)

一、更生手続開始の決定があると、会社の事業の経営ならびに財産の管理処分の権限は管財人に専属し、右のような財産上の権限については取締役は制限を受けるが、その他の非財産的権限(たとえば取締役の選任、解任、定款の変更、株主名簿の整備等)については管財人の権限は及ばないし、取締役が管財人の使用人や会社の使用人に化してしまうものではなく、取締役は依然として会社の役員であり、会社の機関である。したがつて、現実の業務執行権の範囲にかかわらず、役員としての企業者的地位に対し利益金処分たる役員賞与を受けることはありうるものである。しかも、更生計画の認可決定後は、更生計画に基づく実質的な事業経営は取締役によつて行われる建前に変るのであり、これに伴い管財人の地位は更生計画を監督する後見的な地位に後退すると考えられる。原告会社における右認可決定後の実情もそのとおりであつたから、現実の業務内容からしても、本件賞与は利益金処分たる役員賞与であつたとみて差支えない。

二、法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの、以下同じ)第九条第一項にいう総益金あるいは総損金の概念は、商法ないし企業会計上の収益あるいは損費の概念に対する理解をもとにして解釈されるべきであり、同法第九条第八項は、このことを前提として所得の計算に関する必要な事項の定立を命令に委任していると解される。したがつて、同法施行規則第一〇条の三第五項において役員の範囲について規定し、同規則第一〇条の三第六項第一号において使用人兼務役員の範囲について規定しているのは、いずれも、商法ないし企業会計の理解を前提にしてこれを確認的に規定しているものにほかならない。そして、株式会社において、役員のうちで法人の業務執行にあたる代表取締役、専務取締役、常務取締役等は、法人(事業主)の側に立つて行動するもので、その立場は法人に被用される立場とは両立しえないものであり、このように法人の業務執行にあたる立場にある者が仮に使用人と全く同じ仕事に従事したとしても、それは業務執行自体と認識すべきであつて、使用人の立場を兼務することにはならない。したがつて、右規則第一〇条の三第六項第一号に規定する使用人兼務役員というためには、まず法人の業務執行にあたる立場にないことが必要であり、つぎに法人に使用人として雇傭されている者で成文の有無を問わないが使用人としての職制上の地位についており、使用人として職務に従事していることが必要である。また、同規則第一〇条の四において、役員に対する賞与について損金に算入しないと定めているのは、商法ないし企業会計上、役員の賞与が企業の経営実績に応じ役員に対して行う利益の分配であると解され、現に一般に役員賞与を利益金処分の方法によつて支出してきているからであつて、同条はこれらのことを前提として確認的に規定しているものであり、単なる徴税技術の問題ではない。本件において、炭谷、山田の両取締役は前記のように使用人たる地位を兼ねたものではないから、その賞与は、支給額、支給時期が使用人に対するそれと比較して相当であるか否かを問わず、名実ともに役員賞与であり、損金算入が認められないのは当然である。

なお、会社役員の業務を原告主張のように使用人的業務、経営者的業務、法人的業務に分折することは根拠がなく、役員の行う業務が性質上使用人のそれに類似していたとしても、機関としての業務執行であることに変りはない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が昭和三七年五月二一日、被告に対して本件事業年度における法人税額を二七、八一五、七六〇円とする申告をしたこと、被告が原告主張のとおりの法人税額の更正および過少申告加算税の賦課決定をなしたこと、ならびに原告がその主張のとおりの前置手続を経由したこと(ただし、審査請求の棄却理由の点を除く)は当事者間に争いがない。また、本件事業年度における原告の申告課税所得金額(別表一の(一))につき、これに加算または減算すべきもののうち、損金支出役員賞与一、六六〇、〇〇〇円を除くその余の各金額については当事者間に争いがなく、右損金支出役員賞与一、六六〇、〇〇〇円の内容は、本件事業年度内において原告が原告会社役員炭谷武義に支払つた一、〇一五、〇〇〇円、同山田正男に支払つた六四五、〇〇〇円の賞与の合計であることも当事者間に争いがない。

二、被告は、右両名に対する一、六六〇、〇〇〇円の賞与は、法人税法上利益金処分と認められるから、原告の所得金額算出上益金としてこれに加算されるべきであると主張するのに対し、原告は、右両名は使用人兼務役員であるうえ、原告は更生会社であつて利益金処分としての賞与の支出はありえないものであるし、仮にそうでなくても、その支給額は他の使用人の受ける賞与に比して相当であつたから、右賞与の全部あるいは少くともその一部は損金に計上されるべきであると主張するので、以下右賞与が本件事業年度における所得金額算出上益金として加算されるべきであるか否かについて判断する。

(一)  原告が合板の製造販売を目的とする株式会社であつて、昭和三一年五月一日開始決定による更生会社となり(管財人は又賀清一ほか一名)、同年一二月一〇日会社更生計画認可決定を受け、昭和三八年九月三〇日更生手続終結決定により通常の会社に復帰したこと(したがつて、本件事業年度は更生計画認可決定後で同計画実施中であつた)、および炭谷、山田の両名が更生会社の取締役であつたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、まず、更生会社における取締役の権限、地位等について、管財人との関係を中心に考えてみる。

会社更生法第五三条によると、「更生手続開始の決定があつた場合においては、会社の事業の経営ならびに財産の管理および処分をする権利は、管財人に専属する。」と規定されており、更生手続の開始決定があると、会社の事業の経営ならびに財産の管理および処分の権利等の会社の財産に関する部面の権限はすべて管財人に専属し、取締役は右の財産的活動の部面ではその権限を失うものとされていることが認められる。もつとも、管財人の権限に専属するのは専ら右の財産的活動に関する部面であつて、更生会社においても、その抽象的な法人格としての分野での活動、すなわち、取締役の選任、解任、定款の変更、株主名簿の整備等専ら会社の人格的な部面には、管財人の権限は当然には及ばないのであつて、この面では取締役としての業務が残存するものと解される(同法第五二条参照)。したがつて、更生会社の取締役は、右の人格的な部面においては会社の委任事務としてこれを執行する余地があるのであるが、会社経営の主要部分である財産的活動に関する権限はこれを有せず、企業者的地位には立てないことが明らかである。しかしながら、更生計画の認可決定後においてもなお右と同様に解してよいかは問題のあるところであつて、同法第五三条が「更生手続開始決定があつた場合においては」とのみ規定していて、特に管財人の事業経営、財産の管理処分権の終期について明示せず、同法第二四七条が更生計画の遂行義務者は管財人であると規定していることなどからすれば、同法の建前としては、更生計画認可決定後においても、管財人は依然として財産的活動の部面における権限を有するものとしていると解することができるが、反面、会社更生の基本的計画は更生計画の認可決定によつて大体達成されるものとみて、右認可決定後は更生会社の取締役の受ける制限は解除され、会社の事業経営、財産の管理処分権は更生計画により就任した新取締役に移行し、管財人はその後見的な地位に退くものと解する余地もあつて、事実、右の見解に近い実務の運用もあるようである(なお、昭和四二年法律第八八号による改正後の会社更生法においては、その第二一一条、第二四八条の二により、更生計画の定めまたは裁判所の決定があれば、更生計画認可決定後に更生会社の事業経営、財産の管理処分権を取締役に付与しうることを明定している。)。しかし、たとえ更生会社の取締役が会社の財産的な経営活動に関与できないものとしても、そのことから当然に管財人あるいは会社の使用人としての地位につくことになるものでないことはもちろんであるし、前記のように、更生会社の取締役がその役員的地位において、事実上会社の財産的な経営活動に従事し、あるいは管財人を補佐してその事業経営活動を分担することもありうるとすれば、そのような場合には、取締役の受ける賞与について、その実質的内容からして、これを法人税法上益金として把握することも可能であるということができる。それ故、本件において、炭谷、山田の両名が更生会社の取締役であつたことは、同人らの受ける賞与が法人税法上益金であるか否かを判断するうえに、重要な資料となるものではあるが、右の判断のためには、これにとどまらず、両名が会社の経営活動に参与していたか否かを具体的に検討する必要があるというべきである。

(三)  つぎに、法人の役員および使用人兼務役員の範囲について定めた法人税法施行規則第一〇条の三第五項、第六項、ならびに役員賞与の損金不算入および使用人兼務役員についてその例外を定めた同規則第一〇条の四の各規定が、法人税法との関係においてもつ意味を考えてみる。

同規則の右各規定は、法人税法第九条第八項が「所得の計算に関して必要な事項」の定立を命令に委任したことに基づいて制定されているものであるところ、右第九条第八項にいう「所得の計算に関して必要な事項」が何をさすかは必ずしも明らかではない。しかし、同法第九条第一項が、課税所得について「各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による」と規定しているところからすれば、右第九条第八項は、所得を構成する益金および損金についての必要な事項を定めることを命令に委任したものと解される。もつとも、右にいう総益金および総損金の概念についても、法人税法上何ら明確な規定がなされていないが、いずれにしても、右の委任は、これを単純な包括委任とみることはできないから、益金および損金の概念について、一応法の予定する概念を前提としたうえで、その技術的な解釈を命令に委任しているものと解され、したがつて、同法第九条第八項の委任に基づいて制定された同規則の右各規定は、益金あるいは損金の概念についてのいわゆる解釈規定であるとみるのが相当であり、それが法の予定する枠をこえて益金概念を拡げたり、損金概念を縮めたりするときは、法の委任の範囲を逸脱するものとして適用できなくなることもありうるということができる(昭和四〇年法律第三四号による改正後の法人税法においては、法自体がその第三五条第一項において役員賞与の損金不算入を、同条第二項において損金不算入の例外をそれぞれ規定し、さらに同条第五項において例外たる使用人兼務役員の範囲について規定したうえ、その一部を命令に委任する形をとつており、旧法人税法の場合とは異なり、委任の範囲は限定されていて、右委任に基づく同法施行令第七一条との関係でも、前記のような問題は生じないと思われる。)。

そこで、前記法人税法施行規則第一〇条の三第五項が法人の役員の範囲について規定し、同規則第一〇条の四本文が役員賞与の損金不算入について規定していることの意味について考えてみると、右各規定は、取締役等の会社の役員は一般に企業者的地位において事業の経営に携わるものであつて、役員の受ける賞与は、その報酬が業務執行の対価としての性質を有するのと異なり、通常、事業の利益配分としての性質をもつところから、これを税法上損金に算入しないものとして扱うことにしたものと解される。また、同規則第一〇条の三第六項第一号において、使用人兼務役員の範囲を、代表取締役、専務取締役、常務取締役等以外の役員で、部長、課長等の使用人としての職制上の地位を有し、かつ常時使用人としての職務に従事する者をいうと定め、同規則第一〇条の四但書が、使用人兼務役員に対する賞与について、その使用人性に対応する部分について損金不算入の例外を規定しているのは、右の者は、通常会社の業務執行権を有せず、使用人的業務にも従事しているもので、その使用人としての業務については事業の運営遂行上必要な経費とみられるところから、これに相当する部分について損金計上を認めているものと解される。もつとも、右各規定は、前記のように、いずれも法人税法上役員賞与を把握するうえでの解釈規定とみるべきであるから、具体的事案においては、右各規定が当然には適用されない場合もありうるわけであるが(たとえば代表取締役や専務取締役であつても、役員であるのは名義上だけで、実質的には使用人と同視できる場合など)、同時に、右各規定の趣旨は、当該役員賞与が益金であるか否かを判定するにあたつて、一定の解釈指針となるものというべきである。

結局のところ、炭谷、山田の両名に対する賞与が益金であるかどうかは、前記のごとき解釈指針に沿いつつ、本件事業年度における原告会社の経営状況、両名の管財人との関係、原告会社における地位、役割、両名に対する賞与を含めた給与の額や性質、その他の諸事情を勘案し、具体的事案に即して判断されなければならないものである。

(四)  よつて、進んで、炭谷、山田の両名に対する賞与を益金とみるべきか否かについて、本件の具体的事情に即して検討する。

(1)  成立に争いのない甲第一号証、第九号証の一、同乙第一二号証および原告代表者又賀清一本人尋問の結果によれば、原告会社は資本額八、〇〇〇、〇〇〇円の株式会社であつたが、昭和三一年一二月一〇日更生計画認可決定当時、正味負債額は一三〇、七〇六、八五六円で、更生計画による負債の弁済資金の調達方法としては、原則として営業による剰余金を充てることとし、事業の目論見による年間の営業剰余金は六、四五九、六〇〇円を見込んでいたこと、当時の従業員数は約一〇〇名であつたが、本件事業年度末においては事務職員一四名(炭谷、山田の両名を除く)、工員一二四名であつたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、また、成立に争いのない甲第二号証、第一二号証の一、二、同乙第四号証によれば、原告会社は本件事業年度は好況であつて、同年度の年間の利益金は更生計画の目論見を上廻る七五、三八七、一二〇円に達し、更生債務の弁済も順調に行われていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  つぎに、前掲甲第一号証、同乙第一二号証、成立に争いのない乙第一号証、第一三号証ならびに証人重本忠司、山田正男、鐘築武雄の各証言および原告代表者又賀清一本人尋問の結果によれば、原告は島根県八束郡秋鹿村大字岡本(現在松江市岡本町)に所在する会社であつて、会社更生手続による管財人には又賀清一および岩井産業株式会社(同会社の管財人の職務を行う者は中村彦三郎で、奥山和夫が管財人代理であつた)の両名が就任したが、後者は本社が大阪にあり、大口債権者として形式上管財人となつていただけで、管財人としてのほとんどの業務は又賀清一が担当していたこと(なお、又賀清一は更生手続終結直前の昭和三八年五月三一日以降、原告会社代表取締役に就任している。)、又賀清一(自宅は松江市灘町所在)は、本件事業年度当時、日新林業株式会社(宍道町所在)の常務取締役、新日本合板株式会社(堺港市所在)の専務取締役、西日本木材工業株式会社(益田市所在)の代表取締役、島根新聞社相談役(人事、経理面を担当)のほか、日本合板工業組合(東京都所在)の理事および同組合中国支部(松江市所在)の支部長を兼任していて、極めて多忙であり、右日本合板工業組合の会合等のため毎月二、三回上京するなど、一ケ月の半分か半分以上は松江市に不在であつて、原告会社に出社するのは月に二、三回程度にとどまつたこと、右のような事情もあり、又賀清一は、昭和三四年五月ごろまでは同人の信任する赤塚某を管財人の補助者として原告会社に置き、その事務を行わせたことがあり、また、原告会社では更生手続中、その代表者名義は管財人の名において行つたが、本件事業年度当時、又賀管財人の職印を常時松江市寺町にある島根県合板協同組合事務所の鐘築武雄(同人は原告会社監査役でもあつた)のもとに保管させており、同人は、又賀管財人の委任により、同管財人の禀議決裁をへた原告会社作成の文書や手形等に職印を押捺するほか、禀議決裁をへることなく、鐘築自身の判断において文書や手形に押捺することもしばしばあつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によると、又賀管財人は、本件事業年度当時極めて多忙であつて、管財人として原告会社の事業経営に実質的に関与するうえに相当困難な立場にあつたことが推認できる。

(3)  炭谷、山田の両名が更生手続前の原告会社の取締役であつて、更生手続後も取締役として留任したことは当事者間に争いがないところ、前掲甲第一号証同乙第一二号証、成立に争いのない乙第六号証および原告代表者又賀清一本人尋問の結果によれば、炭谷は昭和二一年一二月における原告会社の設立当初から昭和三一年一二月一〇日の更生計画認可決定の日まで引きつづき代表取締役の地位にあり、また、山田は昭和二六年一二月原告会社監査役となり、昭和二九年六月以降引きつづき取締役の地位にあつたこと、原告会社の更生計画認可決定後においては、旧取締役としては右両名のみが留任し、その際、右両名のほか大口債権者等の中から数名の者が取締役に就任したが、炭谷、山田の両名だけが会社に常勤し、他の取締役はいずれも非常勤であつたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。なお、原告は、更生計画認可決定のころ、管財人と炭谷、山田の両名との間に口頭による雇傭契約が成立し、両名は管財人の使用人としての地位についた旨主張するが、右主張に沿うとみられる原告代表者又賀清一本人尋問の結果も未だ右主張を立証するに足りず、他に右主張を裏づけるに足りる証拠はない。また、原告会社において、部長、課長等の使用人に関する成文の職制がなかつたことは、原告が認めて争わないところであるが、証人初鹿野人一、山田正男および別府正夫の各証言によると、原告会社において、平常、炭谷が「工場長」、山田が「経理課長」という肩書を有したり、そのように呼ばれたりしたことはなかつたことが認められる。

(4)  そこで、前記のような事情のもとにおいて、炭谷、山田の両名が、本件事業年度当時、原告会社において占めていた地位、役割、活動の状況等を、管財人との関係を中心に検討する。

前掲甲第二号証、第一二号証の一、二、同乙第一号証ならびに証人重本忠司、初鹿野人一、山田正男、小田衛、加藤鍛(第一回)の各証言および原告代表者又賀清一本人尋問の結果を綜合すれば、本件事業年度当時、原告会社においては、炭谷が生産営業部門を担当してこれを総括する立場にあり、山田は経理および庶務の部門を担当してこれを統括する立場にあつたこと、原告会社における合板製造のための原木仕入については、当時、前記日新林業株式会社、新日本合板株式会社および原告会社の三社の使用する原木は、いずれも日新林業株式会社が商社から一括して買受けてこれを右各社に配分する形態をとつており、又賀管財人は日新林業株式会社の常務取締役でもあつたところから、原告会社に対する原木の配分について、同管財人がその仕入量、単価等に関し大要を決定指示し、炭谷、山田らがその事務的処理に当つていたこと、また、原告会社における資金繰りについては、商工組合中央金庫からの借入金が主であつたが、同金庫の金融方法は、専ら個人を対象とせず協同組合を対象としているため、同金庫から島根県合板協同組合が借入れたものを、原告会社がさらに借入れる形式をとつており、又賀管財人が右合板協同組合の理事であつたこともあつて、右の借入れについては又賀管財人が大筋の交渉を行い、炭谷、山田らがその事務的処理を担当していたこと、合板の生産については、又賀管財人が炭谷、山田らと相談して一年の計画を立て、これに基づいて炭谷が生産部門の業務を統括し、販売については、販売先、販売価格等の大綱は同管財人が決めるが、その枠内で炭谷、山田らが自由に業務を行つており、事業経営の実績等については、炭谷、山田らは毎月仮決算書を作成して同管財人に提出し協議をしていたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によれば、原木の仕入、資金繰りについては、又賀管財人の特殊な地位や立場もあつて、同管財人が主要な折衝にあたつていたとみられるが、生産や販売等については大筋の枠を決めて監督するほかはこれに関与せず、炭谷、山田の両名がその統括者として活動する分野が相当広く与えられていたものと解される。

また、前掲乙第一、第四号証、成立に争いのない乙第八号証の六、七ならびに証人重本忠司、初鹿野人一、加藤鍛(第二回)の各証言および原告代表者又賀清一本人尋問の結果によれば、炭谷は、本件事業年度当時、東京にある日本合板工業組合における輸出の割当の折衝等の会議や、同組合中国支部における合板の価格決定、合板業界の推移等に関する会議に、原告会社を代表してほとんど毎月のように出席しており(もつとも、前記の各会議には又賀管財人も同組合幹部として出席していたことが認められる)、その他の合板業界の会合にも出席し、原告会社の取引先等に対する接待は専ら同人があたつていること、山田は、時折原告会社を代表して業界の会合に出席することがあるほか、取引先の内容調査等のために毎月のように福岡方面に出張していること、炭谷、山田の両名は、原告会社における昭和三六年五月一日および昭和三七年五月二一日開催の取締役会に取締役として出席し、奥山和夫管財人代理(同人は原告会社の取締役でもあつた)の質問に答えて、決算書の科目の具体的内容、更生債務の返済方法等について説明答弁にあたつていることなどが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

さらに、前掲甲第一二号証の一、二、同乙第一号証、成立に争いのない甲第一一号証の一ないし二一、第一五号証の一、二、同乙第七号証(原本の存在についても争いがない)、第八号証の一ないし三ならびに証人重本忠司、初鹿野人一、山田正男、鐘築武雄、加藤鍛(第二回)の各証言および原告代表者又賀清一本人尋問の結果を綜合すれば、炭谷、山田の両名は、前記のように、原告会社の事業実績等について毎月仮決算書を作成して又賀管財人に報告するほか、合板生産に使用する接着剤購入等に際しての支払手形の振出、未払金の支払、主要な機械器具の買入、修理、社宅用地の買入および得意先への中元、歳暮等金銭の支出を伴う事項については、禀議書によつて同管財人の捺印による決裁を受けていたことが認められるところ、本件事業年度において、同管財人の決裁のある支払手形四〇件(以上は禀議書による決裁のある支払手形のほとんど全部である)中三七件については、同管財人の決裁した日よりも以前に、前記の鐘築武雄のもとにおいて同管財人の職印を得て振出されていること(もつとも、右支払手形四〇件はほとんどが接着剤の購入に際して振出されたもので、右の購入は定期的に行われており、又賀管財人は原告会社に対し予め事後承認で足りる旨内示していたことが認めえないではないが、管財人にとつて金銭の支出関係についての管理がその業務の主要な部分を占めることを考えると、同管財人の禀議書による決裁が後閲的、形式的なものとなつていたことは否定できない。)、その他、原告会社は、炭谷が交渉して昭和三六年一〇月二〇日に、吉岡富次郎から社宅用地を購入し、同日内金一〇〇、〇〇〇円を支払つているが、その禀議書の決裁日はその後の同年一一月三〇日となつており、昭和三六年九月一二日、炭谷が交渉してベニヤドライヤーを購入し、同日三、二七〇、〇〇〇円の手形を振出しているが、その禀議書の決裁日はその後の同年九月二二日になつていること、原告会社は、本件事業年度中に、小学校、神社などに三八七、五〇〇円にのぼる寄付金を支出しているが、その中で同管財人の禀議書による決裁のあるのは、ボーイスカウトに対する三〇、〇〇〇円の寄付金のみであり、また、同年度内に炭谷、山田の両名に対し後記のように相当多額の貸付を行い、両名以外の社員らに対しても貸付を行つているが、これらの貸付金については禀議書は存在しないこと、前記の禀議書の様式をみると、「管財人」の捺印欄の下に「取締役員」の欄があり、その下には「所属長印」「係員印」欄があるところ、前記の各禀議書の「取締役員」欄には、炭谷、山田の両名または炭谷か山田のいずれか一名の印が押捺されていること(もつとも、前記禀議中相当部分のものについては、右の「取締役員」の印刷した不動文字が赤鉛筆で消されている)などが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。原告は、炭谷、山田らはほとんど毎日のように電話や自宅訪問等の方法によつて管財人と連絡をとつており、口頭によつて決裁を受けるものが多く、禀議書を作成しているものについても事前に管財人の許可をえていた旨主張するが、証人山田正男、加藤鍛(第一、二回)の各証言および原告代表者又賀清一本人尋問の結果中、右主張に沿う部分は、前記のように、当時又賀管財人は多くの役職を兼任していて極めて多忙であり、松江市に不在のことが多く、その職印を常時第三者に委ねていた事情および証人重本忠司、初鹿野人一の証言に対比して考えると、全面的には措信できないものがある。以上の事実関係からすれば、原告会社の支払その他の事項に関する又賀管財人の管理監督は追認にわたるものが多く、総体的にかなり形式的なものであつて、炭谷、山田の両取締役の裁量に任せる部分が相当あつたことを推認することができる。

なお、前掲甲第一五号証の一、二、成立に争いのない乙第二号証の五によると、本件事業年度における原告会社の炭谷に対する貸付金額は合計六八一、七三四円(戻入五七七、一五〇円)、山田に対する貸付金額は合計一、一一〇、〇〇〇円(戻入五四〇、〇〇〇円)であつて、右両名に対する貸付額は他の社員に対するものに比べて遙かに多額であり、昭和三七年三月末における従前からの貸付残額についてみても、炭谷は二、一三〇、三七七円、山田が八〇四、〇〇〇円であるのに対し、両名以外の社員では、最も高額のものが六一、七〇〇円であることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。また、成立に争いのない甲第一四号証の一、二、三によると、本件事業年度当時、炭谷、山田の両名の名が原告会社の賃金台帳に記載されていることが認められるが、証人加藤鍛の証言(第二回)によると、右賃金台帳は、両名に関しては、支給された給与の受領証代りに使用されていたことが認められないでもなく、かえつて、同証言によると、両名は原告会社の労働者名簿には記載がなく、失業保険の被保険者となつていなかつたことが認められ、これらの事実に徴すると、炭谷、山田の両名は他の社員とは著しく異つた立場にあり、実質的には企業者側の地位において活動していたことが推認できる。

(5)  前掲甲第九号証の一、成立に争いのない甲第三ないし第八号証の各一、二、第九号証の二(原本の存在についても争いがない)および弁論の全趣旨によると、昭和三六年七月二九日、同年一〇月二日、同年一二月一六日および昭和三七年三月三一日当時における炭谷、山田の両名および原告会社において両名に次ぐ地位にあつたと思われる小川正義、鈴木勝郎、加藤鍛、奥原俊雄の毎月の給料(本給)額および右の者らに支給された賞与額は、別表三の各該当欄記載のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない(因みに、炭谷、山田に対する毎月の給料は本給のみであるが、小川正義ら四名については、本給以外の手当が支給されていることも認められる。また、証人加藤鍛の証言(第二回)および弁論の全趣旨によれば、原告会社が更生手続に入る直前の昭和三〇年四月から昭和三一年三月までの炭谷の毎月の給料は三〇、〇〇〇円であり、更生会社になつてからの昭和三二年四月から同年七月までの毎月の給料は、炭谷が三〇、〇〇〇円、山田が二五、〇〇〇円であり、同年八月には炭谷が三五、〇〇〇円、山田が三〇、〇〇〇円であつたこと、さらに、当裁判所に顕著な松江地方裁判所昭和三〇年(ミ)第一号原告会社会社更生事件に関する昭和三一年一二月二四日付決定によると、管財人又賀清一および同岩井産業株式会社代理奥山和夫に対する報酬は同年一二月以降各月額二五、〇〇〇円となつており、前掲甲第九号証の一、二によると、昭和三七年三月三一日右両管財人に対して支給された賞与は、各一五〇、〇〇〇円であつたことが認められる。)。右事実によれば、本件事業年度当時の給料の月額が、炭谷は小川正義(同人は山田に次ぐ地位にあつたと思われる)のそれの二倍以上、山田は小川の約一倍半であり、賞与は、炭谷、山田とも他の社員と同一の時期に支給されているものの、その額は同年度の総額において、炭谷は小川より四八〇、〇〇〇円多く、山田は小川より一一〇、〇〇〇円多いこととなり、これに、炭谷、山田の両名の更生手続前後当時の給与額等を考え合わせると、本件事業年度における両名に対する賞与は、両名の役員としての地位に対して支給されたものとみるのが自然である(なお、成立に争いのない乙第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証によれば、炭谷は原告が更生会社から通常の会社に復帰して数ケ月後の昭和三九年二月に死亡しているところ、そのころ、同人の給料は月額一〇〇、〇〇〇円であつたが、取締役会の決議で原告会社から同人の遺族に対し一一、〇〇〇、〇〇〇円の退職弔慰金が支給されていること、右金額は通常の従業員に対するものに比べて著しく高額のものであつたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右支給の時期、金額などから考えると、炭谷が原告会社の更生手続中においても、役員としての地位において業務に従事していたことを推認せしめるものである。)。

(6)  以上のとおり、(四)の(1)ないし(5)において認定した事実を綜合して考えれば、又賀管財人は本件事業年度において、原告会社の事業経営、財産の管理処分等につき、原木の仕入や資金繰り等においてかなり実質的にこれに関与していたが、その他の生産、販売、支払関係等に関しては、全般的にみて、計画の大綱を決めたり、形式的、後閲的に管理監督する形で関与していたと思われ、したがつて、同管財人が会社の事業経営等において、単なる後見的監督的立場にあつたとみることは困難であるが、経営権等を専有してその実行にあたつていたとみることはできない。これを炭谷、山田両名の立場からみると、両名は常勤の取締役であつて、炭谷は生産営業部門の総括者として、山田は経理庶務部門の総括者として、同管財人を補佐しつつ、実質的に会社の事業経営にあたつていたとみることができ、また、両名が原告会社から多額の借入をしていたことおよびその給与の額や性質などからすれば、両名はいわゆる業務担当役員であつて、企業者としての地位においてその業務に従事していたと解するのが相当である。したがつて、両名が管財人または会社の使用人としての地位にあつたとみることができないのはもちろん、実質的に「工場長」あるいは「経理課長」に相当する使用人兼務役員であつたということもできない(証人山田正男、加藤鍛(第一回)の各証言および原告代表者又賀清一本人尋問の結果中、原告会社においては慣習上、炭谷が「工場長」、山田が「課長」相当の職制上の地位にあつた旨の供述部分はにわかに措信できない。)。

なお、前掲甲第一、第二号証によれば、原告会社はその更生計画において、営業による剰余金は更生債務の弁済および弁済引当金に充てることになつていて、それ以外の利益金処分は予定されておらず、本件事業年度末において更生債務は未完済であつたことが認められ、また、前掲甲第九号証の一、二、同乙第七号証および弁論の全趣旨によれば、炭谷、山田の両名に対する本件賞与の支給についてはいずれも管財人の承認をへていることが認められるところ、原告は、両名が使用人兼務役員であることを前提としたうえ、右のような事情のもとにおいては、利益金処分となるような役員賞与の支給は行つていないと推定すべきであると主張する。しかしながら、たとえ更生計画が利益金処分としての役員賞与の支給を予定しておらず、両名に対する賞与が管財人の承認をへて支給されたものであつても、右の事実から当然に、両名に対する賞与が利益配分的性格のものでないということはできないし、かえつて、前記のような諸事情によれば、両名は本件事業年度において、役員としての地位において業務に従事していたものであり、その賞与は実質的にみて利益配分的性格のものであつて、法人税法上益金に算入すべきものであると解するのが相当である。

三、以上のとおりであるから、本件事業年度における炭谷、山田の両名に対する賞与金額の合計一、六六〇、〇〇〇円につき、これを益金として原告の所得金額に加算した被告の本件更正処分および加算税の賦課決定は適法であつて、原告の本訴請求は理由がないというべきである。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 広瀬友信 畠山勝美 林五平)

別表一

所得金額の計算内容

科目

被告主張金額

原告主張金額

(一)原告申告課税所得金額

73,498,880円

73,498,880円

(一)に加算すべきもの

(1) 減価償却費の超過額

570,326

570,326

(2) 雑費のうち土地購入仲介料および整地費

46,200

46,200

(3) 預金支出役員賞与

1,660,000

0

(4) 期末棚卸脱ろう製品

4,504,731

4,504,731

(一)から減算すべきもの

(1) 既往年度分減価償却超過額のうち当期損金となるもの

7,343

7,343

(2) 前期分に対する未払事業税

216,030

216,030

(3) 既往年度貸倒準備金繰入超過額のうち当期損金となるもの

96,066

96,066

(4) 税金引当金から支出した地方税のうち損金となるもの

970

970

(二)差引課税所得金額

79,959,728

78,299,728

別表二

法人税額の計算根拠

科目

被告主張

原告主張

金額

税率

税額

根拠等

金額

税率

税額

(一) 本税額の計算

(1) 所得金額

79,959,728円

別表一のとおり

78,299,728円

(2) 同上のうち

2,000,000

33%

660,000円

法人税法17条

2,000,000

33%

660,000円

(3) 〃

77,959,700

38

29,624,686

前同条

国税通則法90条

100円未満切捨

76,299,700

38

28,993,886

(4) 計

79,959,700

30,284,686

(2)+(3)

78,299,700

29,653,886

(5) 控除税額

13,780

預金利子に対する源泉所得税額法人税法10条同規則22条、23条

13,780

(6) 差引法人税額

30,270,900

(4)-(5)、国税通則法91条、10円未満切捨

29,640,100

(7) 申告の税額

27,815,760

中間申告278,880

確定〃27,536,880

27,815,760

(8) 差引更正により納付すべき税額

2,455,140

(6)-(7)

1,824,340

(二) 加算税額の計算

(1) 更正所得金額

79,959,728

別表一のとおり

78,299,728

(2) 申告〃

73,498,880

73,498,880

(3) 増差〃

6,460,848

(1)-(2)

4,800,848

(4) (3)のうち重加算税対象

4,504,731

別表一の(一)に加算すべきもの(4)法人税法43条の2、1項

4,504,731

(5) (3)のうち過少申告加算税対象分

1,956,117

(3)-(4)法人税法43条1項

296,117

(6) 重加算税額

1,711,000

30

513,300

基本算出根基は(4)×税率=基本金額4,504,731×38%=1,711,797(1,000円未満切捨)=1,711,000国税通則法68条附則9条

1,711,000

30

513,300

(7) 過少申告加算税額

743,000

5

37,150

基本算出根基は(5)×税率=基本金額1,956,117×38%=743,324(1,000円未満切捨)=743,000国税通則法65条、附則9条

112,000

5

5,600

(三) 当事者主張の差額

(1) 本税

630,800

(一)(6)30,270,900-29,640,100

(2) 重加算税

0

(二)(6)

(3) 過少申告加算税

31,550

(二)(7)37,150-5,600

別表三 原告会社第七期(自36.4.1至37.3.31)賞与支給明細表

氏名

役職

36,7,29支給

36,10,2支給

36,12,16支給

37,3,31支給

賞与合計

給料

計算方式

賞与

給料

賞与

給料

計算方式

賞与

給料

計算方式

賞与

炭谷武義

工場長

A円

60,000

+α

A×3.5ケ月

210,000

70,000

5,000

A円

70,000

+α

A×5ケ月+50,000円

400,000

A円

70,000

+α 円

A×5ケ月+50,000

400,000

1,015,000

山田正男

経理担当

45,000

A×3+5,000

140,000

45,000

5,000

45,000

A×5+25,000

250,000

45,000

A×5+25,000

250,000

645,000

小川正義

営業担当

27,000

A×4+22,000

130,000

30,000

5,000

30,000

A×6+20,000

200,000

30,000

A×6+20,000

200,000

535,000

鈴木勝郎

第一工場主任

26,500

A×4+24,000

130,000

29,000

5,000

29,000

A×6+26,000

200,000

29,000

A×6+26,000

200,000

535,000

加藤鍛

会計

21,500

A×4+14,000

100,000

24,000

5,000

24,000

A×6+26,000

170,000

24,000

A×6+26,000

170,000

445,000

奥原俊雄

第二工場主任

21,500

A×4+4,000

90,000

24,000

5,000

24,000

A×6+6,000

150,000

24,000

A×6+6,000

150,000

395,000

(註)1.36,10,2は原告会社6週年記念臨時支給。その他は期末。

2.+αは期末までの各人の実績(管財人の意見)を考慮して加算。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例