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松江地方裁判所 昭和52年(行ウ)2号 判決 1981年3月25日

島根県安来市黒井田町七〇〇番地一

原告

高林商事株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

右訴訟代理人弁護士

多田紀

同県松江市内中原町二一番地

被告

松江税務署長 松崎昌保

右指定代理人

一志泰滋

山根光春

神田良実

伊藤和義

田上普平

安永功

藤井哲男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五二年二月二五日付でなした原告の昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日まで、同年六月一日から昭和五〇年五月三一日まで及び同年六月一日から昭和五一年五月三一日までの各事業年度並びに昭和五四年三月二九日付でなした昭和五一年六月一日から昭和五二年五月三一日まで及び同年六月一日から昭和五三年五月三一日までの各事業年度の法人税更正処分と過少申告加算税の賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、金属製品等の販売を目的とし、青色申告書提出の承認を受けた同族会社である。原告は高林開発株式会社(以下、高林開発という。)の前身である高林産業株式会社が不動産営業に関する部分を除いた商品売買に関する部分の各事業部門を六つに分割し、高林産業株式会社の全額出資により設立された子会社六社のうちの一社であって、昭和四八年五月一七日資本金三〇〇万円で設立されたものである。

高林開発は、昭和四八年六月一日高林産業株式会社と称していた商号を変更し、昭和四九年九月一日、鳥取市に設立され米子市へ移転した高林産業株式会社(以下旧高林産業という。)を吸収合併し、商号を高林産業株式会社(以下高林産業という。)とした。高林開発は昭和四八年六月一日から昭和四九年八月三一日まで、高林産業は同年九月一日から、いずれも原告の親会社であって(以下両会社を合わせて親会社という。)、親会社と原告を含む子会社六社の代表取締役はいずれも高林健治である。

2  原告は、昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度(以下昭和四八年度という。)、同年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度(以下昭和四九年度という。)、同年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度(以下昭和五〇年度という。)、同年六月一日から昭和五二年五月三一日までの事業年度(以下昭和五一年度という。)、同年六月一日から昭和五三年五月三一日までの事業年度(以下五二年度という。以下、五事業年度を本件係争事業年度という。)の法人税について、次表のとおりそれぞれ確定申告をしたところ、被告から同表記載のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下、本件各処分という。)を受け、これを不服として審査請求をしたが、いずれも棄却された。

1 昭和四八年度 (図一)(省略)

2 昭和四九年度 (図二)(省略)

3  昭和五〇年度 (図三)(省略)

4  昭和五一年度 (図四)(省略)

5  昭和五二年度 (図五)(省略)

3 原告は、本件係争事業年度において,親会社及び旧高林産業に対し別表(一)記載の負担金(但し、昭和四九年度親会社分は五七二万六〇〇〇円である。)並びにその他の寄付金(以下、本件負担金等という。)を支出したところ、被告は右負担金等を法人税法三七条五項の寄付金に該当するものとして、同条第二項により計算した金額を申告所得金額に加算した。

しかし、原告が親会社及び旧高林産業に支出した負担金は、損金に算入すべきものであって、原告の本件係争事業年度の所得金額は前記加算額を控除した申告所得金額となるべきものであるから、被告の本件各処分は違法である。

4  本件負担金等は、以下の理由により必要経費であって損金と認められるべきである。

(一) 親会社に支出した負担金

1 親会社に支出した負担金は、原告を含む子会社六社がその設立と同時に商品売買に関する親会社の営業権を、期間五年という約定で賃借したことに対する、子会社からの反対給付に当たるものである。

(イ) 親会社の営業権の存在

親会社の自昭和三八年七月一日至昭和三九年六月三〇日から自昭和四四年六月一日至昭和四五年五月三一日までの七事業年度における申告所得金額は、別表(二)記載のとおり一事業年度を除き黒字であった。

親会社の自昭和四五年六月一日至昭和四六年五月三一日から自昭和四七年六月一日至昭和四八年五月三一日までの三事業年度は、連続して赤字であったが、その原因は、鳥取市から米子市への移転に伴う会社資産の減価償却費の増加と社屋の建築に要した三億円の金利負担の増加、昭和四五年五月三一日において役員、従業員に支払われた退職金等によるものであった。したがって、右赤字部分は親会社が原告に賃貸した商品売買に関する営業権部分とは関係ないものであるから右三事業年度の原告賃借部分の営業権は別表(三)のとおり黒字となる。

親会社は右社屋等の建築資金を中小企業金融公庫、中央金庫、地方銀行から融通を受けるだけの営業成績をもつ企業であった。

原告の申告所得金額は、前記のとおりであって、このように営業成績が良好なのは親会社から賃借した営業権の収益力によるものである。

(ロ) 期間を五年間と定めたのは、五年も経過すれば、親会社の営業権の価値がほとんどなくなるのに対し、原告独自の営業権の発生が期待できるものとみたからである。

(ハ) 親会社に支出した負担金の算出方法は、次のとおりである。

まず、親会社の減価償却費、支払利息、租税公課、人件費等約二八項目からなる年間の必要経費中、自らの収入をもっても不足する部分及び親会社の分割前の累積赤字の各年度消却分(但し、累積赤字は昭和五〇年度で消却済となる。)の合計額によって、親会社に対する子会社六社の負担金総額が定まる。

次に、この負担金総額を子会社間で、売上高・人件費・経営資本・使用固定資産・利益の五項目の基準によりその割合を各一ないし三割に振り分けて五項目合計で一〇割となるように計算し、これが各子会社の負担金の額となる。

2 親会社に支出した負担金には、原告が親会社から融資を受けたこと、或いは他からの融資、仕入れにあたり親会社の保証を受けたことについての対価をも含むものである。

右負担金には、原告の営業担当の現業役員、一般従業員が、機械金属の専門家で、経営手腕のある親会社代表取締役高林健治から営業指導を受けたことについての対価をも含むものである。

(二) 旧高林産業に支出した負担金

原告は、設立当初、経理事務を担当するだけの能力をもった従業員が不足していたため、旧高林産業に各種伝票の起票整理、元帳、補助簿の記帳、試算表の作成、決算書の作成等の経理事務を委託し、その反対給付として別表(一)のとおり旧高林産業に負担金を支払ったものである。

5  よって、原告は被告に対し、本件各処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する被告の認否並びに抗弁

1  請求原因1、2の事実は認める。

同3の事実中、原告主張の本件負担金等が支払われたこと(但し、昭和四九年度の負担金は五七二万九〇〇〇円である。)

被告が右負担金等について原告主張の認定をして原告の申告所得金額に加算したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同4の事実は否認し、5の主張は争う。

2  本件各係争事業年度の法人税に関する原告の各所得金額は次表記載のとおり寄付金と認められる本件負担金等について、法人税法第三七条二項により計算した金額を申告所得金額に加算した所得金額であるから、この範囲でなされた本件各処分は適法である。

昭和四八年度 (図六)(省略)

昭和四九年度 (図七)(省略)

昭和五〇年度 (図八)(省略)

昭和五一年度 (図九)(省略)

昭和五二年度 (図十)(省略)

3  原告が親会社及び旧高林産業から本件負担金等と対価的意義を有すると認められる給付を受けているとは認められず、本件負担金等を支払うべき合理的理由もないから、本件負担金等は法人税法三七条五項の寄付金に該当する。

(一) 親会社に支出した負担金

1 子会社の一つである高林工業株式会社は、原告を含む他の子会社より約一年前の昭和四七年六月一日に設立されていたが、設立一期目の同日から昭和四八年五月三一日までの事業年度において親会社に負担金を支払うことなく営業をしてきた。

ところが、親会社は、昭和四八年五月末頃から同年六月一日までの間に営業を分割して原告を含む他の子会社を設立したことにより、親会社に残された不動産業による収入のみでは賄えない費用が生じた結果これを原告を含む子会社六社に負担させることにした。

この負担金の額は、親会社の営業分割前の繰越欠損金及び本件各係争事業年度の収入で賄えない経費(欠損金)を原告主張の子会社の五項目の基準によって各子会社に振り分けることにより定められた。この五項目の基準をみた場合、売上高を基準とすることによって、子会社の売上高の増減に応じて負担金も増減する結果となること、人件費は、子会社が自らの従業員に支払った給料等であるが、原告の従業員には親会社からの出向社員が含まれていないこと、経営資本の具体的内容、金額の算出根拠が不明確であること、使用固定資産を基準とすることは、負担金が親会社から子会社の賃借している家賃の支払に相当することになるが、原告はこれとは別に家賃を支払っていることから、固定資産に対する賃貸料の二重払いとなること、利益を基準とすることは、原告が親会社の全額出資の子会社であることから、利益配当の前払いとなること、といった事情がみられる。

親会社は、昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度に入ると、繰越欠損金も消却し、収益状況も良好となった結果、子会社から前事業年度と同程度の負担金の支払を受け、これを収益に加えると法人税が課せられるほどの状態となった。そこで、親会社は、右事業年度以降、法人税法上親会社の益金に算入されない受取配当という形で子会社から配当金を受入れることにした。一方このような事情から右事業年度以降原告は、親会社に負担金を支払っていないが、その後も従来どおり営業を継続している。

ところで、法人税法三七条の寄付金は、通常の営業経費に属さない経済的利益の供与であって社会通念上の寄付金より範囲が広く解されているところ、寄付金名目の支出が営業に直接関連があるか否かの判定が困難であるため一定の形式的基準によって擬制的に寄付金の損金算入限度が定められているのである。このような法人税法上の寄付金の性格に照らすならば、本件負担金等は、親会社の欠損補填のためのものにすぎず、法人税法上の寄付金に該当するものといえる。

2 原告は、親会社に支出した負担金は親会社から賃借した営業権の賃借料であると主張する。

(イ) 原告設立当時親会社の営業権は存在しなかった。

(a) 営業権とは、ある企業が同種の事業を含む他の企業が稼得している通常の収益(平均収益)より大きな収益(超過収益)を稼得できる無形の財産価値を有している事実関係であると解されている。これを本件についてみると、原告を含む子会社設立前の昭和四五年度から昭和四七年度までの三事業年度における親会社の決算は、連続して赤字であり、その経営内容は劣悪であったから、原告設立時の親会社には超過収益力があったとは認められず、したがって営業権があったとはいえない。

(b) 親会社は昭和四六年度から昭和四八年度までの三事業年度は、原告の賃借した営業部分に限っても以下の理由により、赤字であり、原告の賃借した営業権には価値がない。

原告主張の別表(三)2欄の確定決算書当期利益(以下当期利益という。)には、原告の賃借した営業部分とは無関係の営業部分によって生じた受取賃貸料、家賃収入及び固定資産売却益も含まれているから、別表(四)2の2ないし4の各欄記載のとおりこれを控除すべきである。価格変動準備金、貸倒引当金等の額については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、計上されることになり、通常継続企業においては毎期同一の基準により右準備金、引当金が計上されるものであるが、親会社は前記三事業年度において理由もなく右準備金等の額を前期より減算して計上することにより、当該年度において減額相当額を益金に加算しているからこの益金部分にあたる引当金の戻入益と繰入損の差額は当額年度の益金に計上されるはずはないから、別表(四)2の5ないし7の各欄記載のとおり減算すべきである。昭和四七年度には退職給与引当損が計上されていないが、企業の収益力を計算する場合には、次年度に子会社の分割が行われず、従来どおり会社が継続するものとして、同引当金が計上されるべきであるので、別表(四)2の8のとおり当期利益から右引当損の額が減算されるべきである。

当期利益に加算した原告主張の有形固定資産の減価償却費から分割後親会社が子会社に賃貸した有形固定資産に相当する減価償却費を減算すべきである。すなわち、営業分割後の子会社たる原告は、親会社から賃借した有形固定資産があってはじめて営業活動を行い収益をあげることができるのであって、仮に、子会社が親会社から有形固定資産を賃借しない場合には、他からこれに相当する有形固定資産を取得して減価償却費及び有形固定資産の取得に要する借入金の利息を費用として計上するか、他から賃借して賃借料を支払うこととなり、いずれにしても営業活動を行ううえで減価償却費等が必要不可欠の費用となる。このことは、分割前の親会社において子会社に賃貸した営業を行う場合も同様であって営業の収益力を算出するには、営業を行うに際し使用された有形固定資産の減価償却費を営業の必要経費として算入すべきである。そうすると、別表(三)2の当期利益に減価償却費を加算する場合には、子会社に賃貸した有形固定資産に相当する減価償却費を差引いた残額を加算することが合理的であり、右計算を行うと別表(三)の2欄の当期利益に加算すべき減価償却費は別表(四)3のとおりとなる。

原告主張の別表(三)の3欄の借入金金利は、年利率一〇パーセントとなっているが、親会社の長期借入金の平均金利とみられる九パーセントによって計算することが合理的である。すなわち、当時の親会社の長期借入金の個別的金利は不明であるが、借入金総額の約九七パーセントを占める地方銀行・相互銀行・信用金庫・商工組合中央金庫・中小企業金融公庫からの借入金の平均金利は、年利率約八・五パーセント以下であるところから、借入金総額の金利は年利率九パーセントを上回ることは考えられない。次に原告は別表(三)の3欄の金利計算をする際、有形固定資産の期中平均設備投資額に対する金利計算を行っているが、前記のとおり親会社の有形固定資産のうち子会社に賃貸された部分に相当する金利は子会社の賃借した営業の収益力を算出するに当って同営業の必要経費とみるべきであるから、同金利相当額を差引いた残額を別表(三)2欄の当期利益に加算することが合理的であるから、右当期利益に加算すべき金利計算は別表(四)4のとおりとなる。

以上の理由により、原告の賃借した営業部分の推定収益力は別表(四)1のとおり三事業年度とも赤字となり、原告の賃借した営業権には価値がない。

(c) 仮に、原告の賃借した親会社の営業部分の収支決算が黒字であったとしても、直ちに親会社の営業権が存在するものではない。

営業権の価値は、一般的に超過収益力を資本還元することによって算定できるものとされており、その計算方法としては相続税を課税する場合の財産評価基準に基づく方式が通常妥当な方法とされている。そこで、この方式によって原告の賃借した親会社の営業権を計算すると別表(五)のとおりマイナスとなり、営業権は存在しないこととなる。

(ロ) 仮に、原告が設立された当時親会社に営業権があったとしても、原告と親会社間で営業権の対価を定めていないこと、原告の決算報告書においても営業権が資産勘定に計上されておらず、営業権についての代金の未払金も計上していないことから、営業権は親会社の前記分割に伴い無償で原告に譲渡されたものとみることができる。したがって右負担金は、親会社の営業権とは何らの対価関係がない。

3 原告は、親会社から融資を受けたこと、或いは他からの融資、仕入れにあたり親会社の保証を得たことについての対価を含むと主張する。

(イ) 親会社からの融資について

原告が親会社から融資を受ける際には、原告から親会社に対し右負担金とは別に利子が支払われており、負担金は親会社からの資金援助とは対価関係がない。

(ロ) 他からの融資に対する親会社の債務保証について

保証債務は、将来負担するかもしれない特殊な債務であり、自己の債務について保証を受けたからといってそのこと自体は法人の損益に直接影響を与えるものでもないから、債務保証を受けた者は保証料の支払いについての特約がある場合を除いて直ちに保証料の支払義務を負うものではない。

本件の場合、原告と親会社の間には右の特約がなかったこと、親会社の保証による資金の借入れは、親会社と子会社六社全体の資金調達の目的でなされており、原告のように業績の良い子会社が金融機関から借入れし、親会社を経由して資金不足の子会社等に貸付けがなされていたこと、原告の確定決算には負担金のみが計上されており保証料が支払われた旨の経理がなされていないことなどから原告が親会社に保証料を支払ったことは認められず、又、支払うだけの合理的理由もない。

(ハ) 仕入保証について

原告と親会社との間で仕入保証がされた際に、保証料を支払う旨の特約が存在しないこと、仕入保証は一般的に慣行化されておらず、親会社から何らの費用も支出されていないこと、親会社の確定決算において仕入保証料が経理されていないことから、原告が親会社に仕入保証料を支払った事実も、支払うべき理由もない。

4  原告は、右負担金には、親会社からの営業指導料も含まれていると主張する。

親会社が子会社の管理指導をすることは専ら親会社の固有事務であり、管理指導料が認められるとしても、それは具体的な役割の対価として測定可能な経費の負担に限られるところ、本件の場合、親会社の営業指導の具体的内容や実績も認められず、負担金と対価関係にある営業指導は認められない。

(二) 旧高林産業に支出した負担金

原告は、旧高林産業に経理事務を委託したと主張する。

原告には、設立当初から経理事務経験三年の事務員一名がおり、原告主張の経理事務を委託した事実は認められない。

4 仮に、本件負担金等が原告主張の反対給付にあたるとしても、前記のとおりそれは親会社の欠損金及び繰越欠損金の補填を目的としており、親会社が原告を含む子会社から支出を受けた本件負担金等を利益に計上しても法人税を納付するには至らない。

このような代表者を同じくする同族法人である親子会社間で損益の通算をはかるための本件負担金等の支出はこれを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるものとして法人税法一三二条により否認されるべきである。

第三  当事者の提出、援用した証拠

一  原告

1  甲第一・第二号証の各一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし六、第五号証、第六・第七号証の第一・二、第八ないし第一六号証、第一七号証の一・二、第一八号、第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一ないし第二三号証、第二四ないし第二六号証の各一ないし四、第二七ないし第三〇号証、第三一号証の一ないし一五、第三五号証の一の一・二、同号証の二の一ないし五、同号証の三の一・二、第三六、第三七号証、第三八号証の一・二、第三九ないし第四一号証

証人井田清光、原告代表者(第一ないし第三回)

2  乙第七、第八号証、第九号証の一・二、第一〇号証の一ないし二、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証、第一七号証、第一八号証の一・二及び四、第一九ないし第三七号証の各成立(第一八号証の一については原本の存在を含む。)は認める。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし四、第七、第八号証、第九号証の一・二、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一・二、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第一九ないし第三七号証

証人西本明

2  甲第一・第二号証の各一ないし三、第三号証、第五号証、第六、第七号証の各一・二、第八、第九号証、第一七号証の一・二、第一八、第一九号証、第二〇号証の一・二、第二一号証ないし第二三号証、第二八ないし第三〇号証、第三六、第三七号証、第三八号証の一・二、第三九ないし第四一号証の各成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  次の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(一)  原告は金属製品等の販売を目的とし、青色申告書の提出の承認を受けた同族会社である。原告は、高林開発の前身である高林産業株式会社が不動産営業に関する部分を除いた商品売買に関する部分の各事業部分を六つに分割し、高林産業株式会社の全額出資により設立された子会社六社のうちの一社であって、昭和四八年五月一七日、資本金三〇〇万円で設立されたものである。

高林開発は、昭和四八年六月一日高林産業株式会社と称していた商号を変更し、昭和四九年九月一日、鳥取市に設立され米子市へ移転した旧高林産業を吸収合併し、高林産業とした。高林開発は昭和四八年六月一日から昭和四九年八月三一日まで、高林産業は、同年九月一日からいずれも原告の親会社であって、親会社と原告を含む子会社六社の代表取締役はいずれも高林健治である。

(二)  原告は、本件係争事業年度の法人税について、次表のとおりそれぞれ確定申告をしたところ、被告から同表記載のとおり本件各処分を受けこれを不服として審議請求をしたが、いずれも棄却された。

1  昭和四八年度 (図十一)(省略)

2  昭和四九年度 (図十二)(省略)

3  昭和五〇年度 (図十三)(省略)

4  昭和五一年度 (図十四)(省略)

5  昭和五二年度 (図十五)(省略)

3 原告は、本件係争事業年度において、親会社及び旧高林産業に対し別表(一)記載の本件負担金等(但し、昭和四九年度において親会社に対し原告の支給した負担金が五七二万九〇〇〇円であることは、証人西本明の証言により成立を認める乙第一六号証、同証人の証言によってこれを認めることができる。)を支出したところ、被告は右負担金等をいずれも法人税法三七条五項の寄付金に該当するものとして、同条二項により計算した金額を申告所得金額に加算した。

二  そこで、本件負担金等のうち、原告の争う親会社及び旧高林産業に支出した負担金について、本件各処分によりこれを寄付金と認定し、その寄付金損金不算入額に対して課税したことの適否について判断する。

(一)  親会社に支出した負担金について

1  成立に争いのない甲第二八号証、乙第一三号証の一ないし三、第一四号証、第一八号証の一・二・四、第二〇、第二一号証、第二五ないし第二九号証、第三一号証、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第四号証の一ないし六、前掲乙第一八号証の一により成立を認める同号証の三・五、証人西本明及び同井田清光の各証言並びに原告代表尋問の結果(第一回)によれば、以下の事実が認められる。

子会社の一つである高林工業株式会社は、原告を含む他の子会社より約一年前の昭和四七年六月一日に設立されたが、設立一期目の同日から昭和四八年五月三一日までの事業年度においては親会社に負担金を支払うことなく営業をしてきた。

ところが、親会社は、右高林工業株式会社のほか、昭和四八年五月末頃から同年六月一日までの間に、前記のとおり商品売買に関する営業部分を分割して原告を含む子会社五社を更に設立したことにより、親会社に残された不動産業による収入のみでは賄えない費用が生じた結果、これを親会社と原告を含む子会社六社との契約によって子会社に負担させることになった。

この負担金の額は、まず各事業年度の当初において親会社の減価償却費、支払利息、租税公課、人件費等約二八項目からなる必要経費中各事業年度の収入で賄えないと見込まれる経費部分(欠損金)及び親会社の営業分割前の繰越欠損金のうち各事業年度の消却部分によって親会社に対する子会社六社の負担金総額の見込額が定められ、次に、この負担金総額が子会社の五項目(売上高、人件費、経営資本、使用固定資産、利益)の基準で各子会社に振り分けられることによって各子会社の負担金の見込額が定められ、各事業年度の終了直前における親会社と子会社の仮決算において各子会社の負担額が確定をみることになる。そして、売上高を基準とすることによって子会社の売上高の増減に応じて負担金も増減する結果となっていること、人件費は子会社が自らの従業員に支払った給料等であって、原告には親会社からの出向社員がいないこと、経営資本の具体的内容、算出根拠が必ずしも明らかでない状態にあること,使用固定資産を基準とすることは子会社が親会社から借り受けている資産の家賃の支払に相当することになり、これとは別に家賃を支払っている原告にとって使用固定資産の賃貸料の二重払いとなっていること、利益を基準とすることは原告が親会社の全額出資の子会社であることから、利益配当の前払いとなること、といった事情がみられる。原告を含む各子会社は、各係争事業年度当初に定められた負担金を支払い、各係争事業年度末に確定した負担金に従って清算していた。

親会社は、昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度に入ると、繰越欠損金も消却し、収益状況も良好となった結果、子会社から前事業年度と同程度の負担金の支払を受け、これを収益に加えると法人税が課せられるほどの状況となった。親会社は、右事業年度以降、法人税法上親会社の益金に算入されない受取配当という形で子会社から配当金を受けるに至っている。一方、このような事情から、原告は右事業年度以降、親会社に負担金を支払っていないが、その後も従来どおりその営業を継続して現在に至っている。

以上の認定に反する証拠はない。

ところで、法人税法上、寄付金は事業に関連があるか否かを問わず、法人にとって直接の対価を有しない支出である。してみれば、右認定の支出の経緯、算出方法から、親会社に支出した負担金は、各係争事業年度における親会社の欠損金をもとにして各子会社に振り分けられたものであるから、原告が親会社からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けていると認められる特段の事情のない限り、寄付金として取り扱われるべきものであり、寄付金損金不算入の限度で本件係争事業年度の益金として計上されるべきこととなる。

2  原告は親会社に支出した本件負担金は原告が親会社から五年間の約定で賃借した営業権の賃借料である、と主張するが、右主張にそう証人井田清光の証言並びに原告代表者尋問の結果は先に認定した負担金支出の経緯に照らし措信し難く、甲第四号証の一ないし六の記載をもってしては右主張を認めるに足りない。

右負担金が原告を含む子会社から親会社に支払われるに至った経緯は先に認定したとおりであって、右負担金の支払に先立ち、原告を含む子会社と親会社間で親会社の営業権につき賃貸借契約が結ばれたり、営業権の価値を評価してこれに基づいてその対価が定められたりした事実を認めるに足りる証拠がない。その他営業権の賃貸借を推認するに足りる事実を認めるに足りる証拠はない。

してみれば、原告が設立された当時親会社に営業権があったかどうかについて判断するまでもなく、原告が親会社から右負担金と対価的意義を有すると認めうる営業権の賃借を受けたものと認めることはできない。

3  原告は、右負担金には親会社から融資を受けたこと、或いは他からの融資、仕入れにあたり親会社の保証を得たことについての対価が含まれていると主張する。

親会社からの融資についてみると、証人井田清光の証言並びに原告代表尋問の結果によると、本件係争事業年度において親会社から原告に融資が行われた場合には、右負担金とは別に年約一〇パーセントの割合による利息が原告から親会社に支払われていたことが認められるから、親会社からの融資が直ちに右負担金と対価的意義を有するものとは認め難い。

金融機関からの融資に対する親会社の債務保証についてみると、証人西本明の証言により成立を認める乙第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし四、証人西本明及び同井田清光の各証言並びに原告代表者尋問(第一回)の結果によれば、原告は、本件係争事業年度において親会社の人的、物的保証を得て、山陰合同銀行、商工組合中央金庫、鳥取銀行から多額の融資を受けていることが認められる。しかし、債務保証は、いうまでもなく将来において負担するかもしれない潜在的債務であり、その実現が予測できない偶発的な事故の有無にかかっている特殊な債務であるから、債務保証を受けたからといって、そのこと自体は法人の損益に影響を与えるものでなく、債務保証を受けた者が相手方に保証料等を支払う旨の契約のある場合を除いては直ちに保証料の支払義務を負うとはいえないものである。そして、右各証拠によれば、右借受けについて、原告と親会社との間において右保証料の支払についての合意が結ばれていないこと、しかも、親会社の保証による資金の借入れは親会社、子会社六社全体の資金調達の目的でなされており、原告のように業績の良い子会社が金融機関から借入れし、親会社を経由して資金不足の子会社等に貸し付けがなされていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。したがって、原告が親会社に対し債務保証料を支払うだけの合理的理由はなく、右債務保証が本件負担金と対価的意義をもつものとは認め難い。

仕入れ保証についてみると、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第二四ないし第二六号証の各一ないし四、第三五号証の一の一・二、同号証の二の一ないし五、同号証の三の一・二、証人西本明の証言並びに原告代表者尋問の結果(第一回)によると、原告は、昭和四八年六月一日親会社の保証を得て、三共理化学株式会社、株式会社山善、湯浅金物株式会社との間で商品の継続的購入契約を結んだことが認められる。しかし、仕入保証も先にみた債務保証と同様の債務といいうるのであって、原告と親会社間において右仕入保証料の支払について合意が結ばれていること、親会社において右保証債務を履行したことを認めるに足りる証拠のない本件においては、右仕入保証も親会社に支出した負担金と対価的意義をもつものとは認められない。

してみれば、先に認定した右負担金の支出の経緯、算出方法と合わせ考えると、原告の右主張はいずれも理由がない。

4  原告は、右負担金には親会社からの営業指導料も含まれていると主張する。

証人井田清光の証言並びに原告代表者尋問の結果(第一回)によれば、高林健治が原告を含む子会社の現業役員、一般従業員に対し子会社の営業に関し指図をしたことは窺われる。しかし、高林健治が親会社と子会社六社の代表取締役を兼ねていることは先に認定したとおりであり、原告主張の営業指導の具体的内容や実績を認めるに足りる証拠もなく、原告から親会社に営業指導料を支払わねばならないだけの合理的理由をうかがわせるような事情は見当らない。

(二)旧高林産業に支出した負担金について

原告は旧高林産業に経理事務を委託したと主張する。

証人井田清光の証言並びに原告代表者尋問の結果(第一回)、弁論の全趣旨によれば、右負担金も子会社から親会社に支出された負担金と同様の方法でその額が算出されたものであること、原告はその設立当初から経理事務を担当する職員によって原告の入出金、各種伝票の起票、整理、帳簿の記帳、試算表の作成等が行われていたことが認められる。してみれば、右負担金が原告から旧高林産業に委託した経理事務と対価的意義を有するとの原告の主張は理由がない。

(三)  以上認定した事実によれば、原告が親会社及び旧高林産業に支出した負担金と対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けていることは認め難く、また、右負担金を何らの対価なしに支払うことを首肯させるに足りる合理的理由も見出し難いところである。

したがって、対価的意義の認められないその他の寄付金を含む本件負担金等は、法人税法三七条二項により計算した寄付金不算入の限度で本件各係争事業年度の益金として計上されるべきものであるから、本件各係争事業年度の法人税に関する所得金額は次表のとおりこれを原告申告所得金額に加算した所得金額となる。してみれば、右の範囲でなされた本件各処分は適法というべきである。

1  昭和四八年度 (図十六)(省略)

昭和四九年度 (図十七)(省略)

昭和五〇年度 (図十八)(省略)

昭和五一年度 (図十九)(省略)

昭和五二年度 (図二十)(省略)

三  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 鳥越健治 裁判官 片岡勝行)

別表(一)

原告の支出した負担金並びにその他の寄付金

(省略)

別表(二)

昭和三八年度から昭和四四年度までの事業年度における原告の申告所得金額別表(三)親会社に賃貸した営業部分の推定収益力(単位は円)

(省略)

別表(四)

1 親会社が子会社に賃貸した営業部分の推定収益力

(省略)

別表(四)

2 確定決算書当期利益の修正項目表

(省略)

別表(四)

3 被告計算の減価償却費(推定額)

(省略)

別表(四)

4 被告計算の金利(推定額)

(省略)

別表(五)

営業権の価額計算

1 所得金額の計算 (図二十一)(省略)

2 平均利益金額の計算 (図二十二)(省略)

3 超過利益金額の計算

(平均利益金額)(企業者報酬の額)(総資産価額)(超過利益金額)

55,791,125円×0・5-7,000,000円-(1,065,804,379円×0・08)=-64,368,788

4 営業権の価額

(超過利益金額)×(営業権の持続年数に応ずる年8分の複利年金現価率)(営業権の価額)

-63,368,788×6・71=-431,914,567

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