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松江地方裁判所 昭和58年(レ)7号 判決 1984年4月25日

控訴人

ちどりクレジット株式会社

右代表者

野々村卓

右訴訟代理人

野島幹郎

被控訴人

永江美保

被控訴人

永江正巳

右両名訴訟代理人

石倉孝夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人から被控訴人らに対する松江地方法務局所属公証人古田時博作成の昭和五六年第一五七五号債務弁済契約公正証書に基づく強制執行は、九三万三六〇〇円及びこれに対する昭和五六年一二月二八日以降支払済みまで日歩八銭の割合による金員をこえる部分についてはこれを許さない。

2  被控訴人らの右公正証書の執行力の排除を求める請求のうち、その余の部分はいずれもこれを棄却する。

3  被控訴人永江美保の金員支払請求を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

二  本件について原審裁判所が昭和五七年六月一二日になした強制執行停止決定を、保証を立てさせないで、「右債務名義に基づく強制執行は、九三万三六〇〇円及びこれに対する昭和五六年一二月二八日以降支払済みまで日歩八銭の割合による金員をこえる部分についてはこれを停止する。」と変更する。

三  この判決は前項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求原因(一)ないし(四)の事実及び被控訴人永江美保(以下単に被控訴人美保という)が控訴人に対し、本件立替払契約を解除する旨の意思表示をした事実はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで被控訴人らの主張する異議事由の成否について判断する。

先づ、被控訴人らは、被控訴人と訴外会社との間には密接な関係があり、また、本件売買契約と立替払契約とは一体的なものであるから、(1)被控訴人美保が本件家具の引渡債務の履行不能を理由に本件売買契約を解除した場合は右代金債務が消滅することはもとより、これを前提とする本件立替金債務も当然に消滅すると解すべきであり、仮にそれが認められないとしても、(2)被控訴人美保は売買契約の解除による代金債務の消滅を理由に本件立替払契約を解除したので、右立替金債務も消滅した、と主張するのであるが、およそ本件のようないわゆるショッピングローンにおける売買契約と立替払契約とは経済的には密接な関係があるものの法形式的には全く別個のものというべきであって、売買契約について生じた事由が、ただちに立替払契約に何らかの影響を及ぼしたり、更にはその解除原因になると解すべきいわれはないから、被控訴人らの右主張はいずれも採用の限りではない。

次に、被控訴人らは、控訴人と訴外会社との密接な関係及び本件売買契約と立替払契約との一体性からみて、控訴人が訴外会社の売買契約上の債務不履行を不問に付し、被控訴人らに立替金の請求をするのは信義則に反して許されないと主張するので以下、検討を加えることとする。

<証拠>を総合すると、昭和五六年四月一二日被控訴人永江正巳夫婦とその長女である被控訴人美保は同女の婚礼家具を購入する目的で訴外会社を訪れ、同会社店舗二階の北東端に西側向きに展示してあつた整理ダンス、和ダンス、洋服ダンス、下駄箱からなる定価一五八万円の本件家具を代金九〇万円で購入することとした、その際、被控訴人らは、訴外会社の実質的経営者である梶谷俊夫から、「あなたのところでいるようになるまでこの婚礼セットは店で保管してあげる。」と持ちかけられたので、梶谷の言を信用し、本件家具を訴外会社で預つて貰うこととし、その保管を依頼した、右保管にあたり、梶谷俊夫は被控訴人美保に対し場合によつては本件家具そのものではなくそれと同種類、同規格のものを引渡してもよいと考えていたがそのことを被控訴人らには明示せず、他方、被控訴人らは訴外会社が店舗に展示していた本件家具そのものを他の商品とは区別して保管してくれるものと認識していた、そして、被控訴人らが本件売買に際し右家具の現実の引渡しを受けなかつたのは、同人らが梶谷俊夫の言を信用したがためであつて、もとよりこの点につき控訴人は全く何らの関与もしておらず、また、被控訴人美保は、自身、本件家具の現実の引渡しを受けていないことを十分承知のうえで控訴人に対し昭和五六年五月から同年一一月まで格別の異議もなく約束どおり七回にわたり合計二〇万九四〇〇円の割賦金を支払つてきている(金員支払いの点は当事者間に争いがない)、以上の事実が認められ、これに反する証左はない。なお、本件全証拠によつても控訴人と訴外会社との間に経済的な一体性があるなどの特殊な関係は認められない。

こうした事実関係からみると、本件において控訴人が被控訴人らに対し立替金の請求をするのは公平の観念に照らしても何ら信義則に悖るものではなく、従つて被控訴人らは控訴人に対し本件立替払契約に基づく立替金の支払を免れることはできないというべきである。そうすると本件公正証書に掲記された被控訴人らの債務のうち、すでに支払つた金員の返還を求め、いまだその支払のない部分についての執行力の排除を求める被控訴人らの各請求はいずれも理由がないこととなる。

三以上の次第であつて、被控訴人らの本訴請求は、本件公正証書の執行力の排除を求める部分につき、一部支払のなされた主文一項の1記載の限度では理由があるからこれを認容すべきであるが、その余はすべて失当として棄却すべきである。そこでこれと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用は第一、二審を通じて一部敗訴した被控訴人らにこれを負担させ、また、原審裁判所が昭和五七年六月一二日になした強制執行停止決定を主文二項のとおり変更するとともにそれについては仮執行の宣言を付して主文のとおり判決する。

(磯部有宏 米田絹代 氷室眞)

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