松江地方裁判所 昭和62年(わ)17号 判決 1987年7月22日
所在地
島根県安来市飯島町二七五番地二
中国観光開発株式会社
代表者住居
島根県安来市安来町一二九四番地
代表者
代表取締役 水原澄子こと 金澄子
国籍
朝鮮(慶尚南道馬山市月影洞五三二)
住居
島根県安来市安来町一二九四番地
水原相浩こと金相浩
一九三九年一二月一三日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官望田耕作、弁護人勝部可盛各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人中国観光開発株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人水原相浩こと金相浩を懲役一〇月にする。
被告人水原相浩こと金相浩に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人会社は、島根県安来市飯島町二七五番地二に本店を置き、パチンコ店等を経営しているもの、被告人水原相浩こと金相浩は、同会社の代表取締役として、業務を統括していたもの(昭和六二年五月二二日辞任し、代わって同日水原澄子こと金澄子が代表取締役に就任した。)であるが、被告人水原相浩こと金相浩は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどして、仮名で割引債券を取得するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が一億一七八七万二九一二円で、これに対する法人税額が四八一四万四九〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年八月三一日、松江市内中原町二一番地所在の所轄松江税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五九一三万二六二八円で、これに対する法人税額が二二七五万〇九〇〇円である旨に虚偽の法人税額確定申告書を提出し、もって不正の方法により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四八一四万四九〇〇円と右申告税額との差額二五三九万四〇〇〇円を免れ
第二 昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が一億三四五五万一六七二円で、これに対する法人税額が五六〇四万六八〇〇円であることにもかかわらず、昭六〇年八月三一日、前記松江税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六八五六万三九三三円で、これに対する法人税額が二七五〇万一五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の方法により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五六〇四万六八〇〇円と右申告税額との差額二八五四万五三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人水原相浩こと金相浩の当公判廷における供述
一 被告人会社代表者水原澄子こと金澄子の当公判廷における供述
一 被告人水原相浩こと金相浩の検察官に対する供述調書八通
一 高橋節夫、内海敏、小森元子、山本和典、田中祥広、遠藤清の検察官に対する各供述調書
一 検察官作成の捜査報告書
一 大蔵事務官作成の現金調査書、預金調査書、債権調査書、貸付金調査書、仮払源泉所得税調査書、社長勘定調査書、未払源泉所得税調査書、未払事業税調査書
一 登記官小谷哲雄作成の商業登記簿謄本四通
一 登記官大谷久信作成の商業登記簿謄本
一 押収してある法人税決議書綴一綴(昭和六二年押第九号の一)
判示第一事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの分)
判示第二事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月三〇日までの分)
(法令の適用)
一 判示第一、第二の各所為
1 被告人水原こと金につき
法人税法一五九条一項
2 被告人会社につき
同法一六四条一項、一五九条一項、二項
一 刑種の選択
被告人水原こと金の各罪につきいずれも懲役刑を選択
一 併合罪加重
1 被告人水原こと金につき
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
2 被告人会社につき
同法四五条前段、四八条二項
一 刑の執行猶予
被告人水原こと金につき同法二五条一項
(情状)
被告人金は、昭和五六年暮ごろから、被告人会社の売上金額を過少計上して売上を一部除外していたところ、昭和五八年四月松江税務署の税務調査でこれが発覚し、注意を受けたにもかかわらず、引続き脱税を企図し、その後は虚偽の売上金を印字したうえ自動出玉入玉管理装置を操作し、売上日報に符合する売上管理資料を作成すするなどして売上金額を巧妙に圧縮し、また売上除外した現金は、銀行等の協力を得て仮名(借名)預金にしたり、仮名で割引き債券を取得したりして所得隠しを行ったうえ、昭和五八年、昭和五九年の両年度にわたり、判示のとおり、合計五三九〇万円余を脱税したものであって、そのほ脱金額、ほ脱所得率にてらすと、被告人の刑責は重大といわざるをえない。まして近時、国家財政が逼迫して税制改革が叫ばれ、国民の税に対する関心が高まるおりから、被告人金のなした右のような計画的かつ巨額にのぼる脱税行為は、たんに行政法規違反にとどまらず、自然犯にあたるものとして厳しい非難に価するというべきである。
しかしながら、被告人金は、本件発覚後は脱税を素直に認めて税務調査に積極的に協力してすべての所得を明らかにしたこと、被告人金及び被告人会社代表者である金澄子ともども税務署から査察を受けたことに大きなショックを受けたうえ、脱税が間尺にあわないことを十分悟った模様であること、本税のみならず、加算税、延滞税などを合計約一億六〇〇〇万円を支払わなければならなくなり、既にその大半を支払って相応の制裁を受けるに至っていること、被告人金において反省の念が顕著であること等有利な事情も認められるので、これらを総合考慮して、主文のとおり刑の量定をしたうえ、被告人金についてはその刑の執行を猶予することにした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 森野俊彦)