松江地方裁判所今市支部 昭和25年(ワ)10号 判決
原告 細木源三郎
被告 福田武一
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は(一)被告は原告にたいし金一万三千三百五十三円およびこれにたいする昭和二十五年一月二十六日より本件判決執行済にいたるまで月一割に相当する金額を支拂いせよ。(二)被告は原告にたいし金三千円およびこれにたいする昭和二十四年十月二十日より本件判決執行済にいたるまで年六分に相当する金額を支拂いせよ。(三)訴訟費用は被告の負担とするとの判決、ならびに担保を條件とする仮執行の宣言をもとめ、その請求原因として(一)原告は貸金業の届出をしてるものであるが、昭和二十四年六月十三日金二万円を利息月一割二分弁済期同年七月二十四日の約定で被告に貸付け、即時被告より其担保として衣類十二点の引渡しをうけたのである。
ところが被告はその貸借の当初右二万円の一ケ月分の利息二千四百円を前拂したまま、その期限を経過しても元金の支拂をなさず、その後同年八月三十日金二千七百円を爲替をもつて送付支拂い、同年九月二十二日訴外飯塚勇吉より金二千七百円を借用してその金員を原告に支拂い、同年十月末金三千円を爲替を以て送付支拂うたまゝ、依然右元金並に期限後の損害金の支拂をせぬので、原告は当初から保管しておつた担保物件(衣類十二点)を競賣に附し、昭和二十五年一月二十五日にその賣得金一万一千八十五円を被告の債務弁済の一部に充当したのである。よつて原告は貸付元金二万円とこれにたいする昭和二十四年七月十三日以後昭和二十五年一月二十五日までの間における、元金にたいする月一割に相当する損害金(契約利率は月一割二分なるも損害金は月一割となす)の合計金額から、前記被告が支拂つた三口の金額および競賣々得金を差引したその残額一万三千三百五十三円と、これにたいする競賣々得金を得た翌一月二十六日以後右残額金額にたいする月一割の損害金の支拂を求める。(二)原告は前記の通り被告にたいし金二万円を貸付けておつたところ、被告は昭和二十四年九月二十二日実弟福田長藏をして詰襟洋服一着を原告方に持参せしめて、右貸金にたいする昭和二十四年八月分の利息二千七百円(七月分の利息二千四百円未拂につき、被告の承諾のもとに右二千四百円を元金に組みいれあらためて元金を二万二千四百円としてこれにたいする月一割二分に相当するもの)の支拂いができぬから、この洋服を担保として他人から金借してその得た金を右八月分の利息に充当してくれと申しいでたので、原告は同日訴外飯塚勇吉に頼み右洋服を担保として金二千七百円を被告のために借りうけ、該金額を前記八月分の利息金に充当したのである。しかるに被告は右飯塚にたいしその支拂をせぬので、原告はやむを得ず同年十月二十日被告に代つて右勇吉にたいし借用金二千七百円とその利息三百円合計三千円を、被告のために立替支拂をなした、そこで右三千円とその立替拂をした日即ち十月二十日以後これにたいする商法所定の損害金の支拂をもとめるとのべ、被告代理人の本件貸借金に関する利息の点についての抗弁にたいし、原告は昭和二十四年十月十日付を以て貸金業者の届出を受理してもろうておるが、元來原告は從來金貸業をしておつたが昭和二十四年五月三十一日貸金業に関する法律第一七〇号が公布になつたので、その法律にもとづいて届出でをしたもので、從つてその届出でをしたこと自体從來原告が貸金業者であつたことを明かにしたことになる。そのような次第で原告はその業務に関し被告に本件貸金をしたもので決して被告に好意上貸金をしたものではなく営利の目的でなしたのであるから原告主張のような利息の約定をしたのは当然であると附述した。
被告代理人は主文同旨の判決をもとめ、答弁として原告の主張事実中昭和二十四年六月十三日被告が原告から金二万円を借用しその債務の担保として被告所有の衣類十二点に質権を設定し原告に引渡したこと、原告が右質権の実行をして昭和二十五年一月二十五日金一万一千三百五十円を取得したことは、ともに認めるが、その余はすべて否認する。
元來本件原被告間の貸借は特殊の事情があつて、被告が原告にたいして好意を示して成立したものであり、從つてその弁済期は一ケ月と定めたが、利息については特約なく当事者間において後日適当に処置する筈であつた、よつて原告主張の月一割二分の利息については應ずることができぬ。しかし仮りに当初原告主張のような利息の特約があつたとしても、かかる特約は利息制限法に反し無効である。原告は貸金業者であるから利息制限法に触れるものではないというが、本件貸借当時はいまだ貸金業者として届出でをしておつたものではない、從つて今日仮令貸金業者として届出でておるとしても本件貸借の金利について業者としての特権を主張すべきものではない。原告は立替金債権ありと称するが、被告は訴外飯塚勇吉から金借したこともなく、從つて右飯塚勇吉にたいする借金を原告に立替拂をうけたこともなく、これまつたく原告が勝手に仕組んだ虚僞の主張にすぎないのでこれを認めることはできぬ。
なお被告は本件二万円の借金について、(一)昭和二十四年六月中に現金二千四百円、(二)同年七月十二日に金二千七百円、(女カンタン服一着、白綿布八尺、黒布団裏地一丈六尺以上の品物を原告の評價により二千七百円として代物弁済のもの)、(三)同年八月三十日に現金二千七百円、(四)同年九月二十五日に金三千円(夏服上下一着を原告の評價により三千円として代物弁済のもの)、(五)同年十月十三日に現金三千円、(六)昭和二十五年一月二十五日に質物の競賣々得金一万一千三百五十七円を、原告に支拂うておりその外羽織一枚女帶一筋も原告に預けておる始末で、元金二万円にたいし法定利息の年五分の金利をつけて計算すれば勿論。数歩を讓つて契約利息の最高率年一割の利息をつけるとしても、すでにその元利金は弁済ずみで、過拂いとなつておる次第で本訴請求は失当であるとのべた。
<立証省略>
三、理 由
被告が昭和二十四年六月十三日に原告から金二万円を一ケ月の期限で借用し、その債務の担保として自己所有の衣類十二点に質権を設定しこれを原告に引渡したこと、並に原告が右質権の実行をして昭和二十五年一月二十五日その賣得金を取得したことは当事者双方の主張と成立に爭ない甲第一号証により明かである。ところが右二万円の貸借に関する利息の点について双方主張を異にするので按ずるに原告本人尋問の結果と成立に爭ない甲第一号証により明かである。ところが右二万円の貸借に関する利息の点について双方主張を異にするので按ずるに原告本人尋問の結果と成立に爭ない甲第一号証ならびに被告本人尋問の結果を綜合してみると、本件貸借の際その貸借の期限を一ケ月としてその間における利息として金二千四百円と定め被告は原告から二万円を受取り、即時その場で金二千四百円を原告に手交した事が察知せられるのである、そこで本件貸借金の利息は一ケ月一割二分の約定であつたものというべきである。被告代理人は原被告間において特殊の事情があつたので利息を附することの合意はあつたがその利息は後日当事者間で協定する筈であつた。これはまつたく原告が被告にたいする好意に出でたものであるというのであるが、その主張は認定するに足る証拠がないので採用する訳にいかぬ。次いで被告代理人は仮りに原告主張のような利息をつける約定があつたとしてもかかる契約は利息制限法に反するので無効であると称し、原告代理人は原告は貸金業者であり昭和二十四年十月十日貸金業等の取締に関する法律の規定によつて届出でをして受理せられておるので、利息制限法の適用をうくべきものではないとの旨主張するので按ずるに、成立に爭のない甲第四号証によれば、原告が昭和二十四年五月三十一日附法律第一七〇号貸金業等の取締に関する法律にもとづきその法律の施行当時(同年六月二十日)貸金業を行うておりよつてその届出でをして同年十月十日その届出でを受理せられておることは明白である。從つてその届出受理後においては右法律第八條臨時金利調整法(昭和二十二年法律第一八一号)の規定にもとづいて日本銀行総裁の定める地域別による最高限度内の利息契約をむすびかつ其契約の実行をすることができる訳である。しかし本件二万円貸借の契約は原告の届出受理前である昭和二十四年六月十三日に成立しており、從つて本件契約利息が右臨時金利調整法の適用をうけるものとは認めがたく、なお右調整法による日銀総裁の定める当地方における金利最高限度も未だ不明の状態であり、結局原告主張の月一割二分の利息相当なりとの点は、これを排斥すべきものと思料する。なお原告代理人は原告が貸金業者であるから月一割二分の利息契約をするのが相当である旨主張するので、この点について檢討すると、原告が本件貸借当時貸金業者であつたことは前示甲第四号証によるも十分窺知せられる。よつて業者として適当の金利を取得すべきものであることは当然である、然らばその適当の金利如何を考覈するに、現時いまだ利息制限法が行われておる事情を考慮しその利息制限法所定の最高利率すなわち年一割に相当する金利を適当であると認定する。從つて右所定超過部分の利息に関する契約は右利息制限法現存の趣旨にかんがみて無効であるといわねばならぬ。よつて原告請求の月一割二分相当の利息はこれを年一割の範囲において認容すべきものとする。
次に本件貸借関係は弁済によつて消滅したかどうかについて按ずるに、本件貸借当時に金二千四百円、昭和二十四年八月三十日に金二千七百円を原告が本件貸金の元利金の一部として受領しておることは当事者間に爭いなくまた成立に爭のない甲第三号証と被告本人尋問の結果によれば、被告が同年七月十二日に女簡單服一着白綿布八尺黒布団裏地一丈六尺を金二千七百円に評價し、同年九月二十五日頃夏服一着を金三千円に評價しともに本件借金元利金の一部として代物弁済をしたこと、同年十月十三日に金三千円を同一部拂として支拂うておることおよび昭和二十五年一月二十五日原告が質物の衣類十二点を競賣してその賣得金一万一千三百五十七円を本件貸金の弁済にあてたことは明瞭である。
原告代理人は前記洋服一着は代物弁済にせられたものではない被告の依頼によつて右洋服を訴外飯塚勇吉から被告のため金二千七百円を借用するに当つてその担保として同人に渡した。そしてその後被告のため原告は右勇吉にその元利金三千円を立替拂いしたと主張して、その立替金の請求をしておるがこの主張は被告本人尋問の結果に徴して措信し難く、從つてこの点に関する原告の請求は採用せぬ。そこで本件貸借元金二万円にたいし前叙の理由によつて利率を年一割となし、なお前叙の原被告間に爭いのない内拂金ならびに被告が支拂うたことについて認め得られる金額および原告が質物の競賣によつて取得した金額を計算すると、末尾計算書の通り結局昭和二十五年一月二十五日現在において被告の本件債務は元利共弁済をおわつており、なお金四千四百六十五円の過拂いとなつておることが明かである。よつて原告の本訴請求は失当で排斥すべきものであるから訴訟費用について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 安部正)