横浜地方裁判所 平成元年(ヨ)932号 決定 1991年12月25日
主文
一 債権者らの本件仮処分申請をいずれも却下する。
二 申請費用は債権者らの負担とする。
事実及び理由
第一 申請の趣旨
一 債務者は、別紙目録一及び二記載の各自動車用ホイールを、製造し、販売してはならない。
二 債務者の占有する前項の各物品及び同各物品の製造に用いる金型の占有を解いて、大阪地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
第二 事案の概要
一 本件は、債務者の製造販売する自動車用ホイールの意匠が、債権者らの有する意匠権の範囲に属し、その意匠権を侵害しているとして、債権者らが債務者に対し、右製造販売の差止めを求めた事案である。
二 争いのない事実
1 債権者らは、別添一の意匠公報記載の登録意匠権(以下「本件意匠権」といい、本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」という。)を有する。
2 債務者は、別紙目録一記載の自動車用ホイール(以下「債務者製品第一」といい、債務者製品第一に係る意匠を「イ号意匠」という。)を昭和六三年八月ころから、別紙目録二記載の自動車用ホイール(以下「債務者製品第二といい、債務者製品第二に係る意匠を「ロ号意匠」という。)を平成元年三月ころから、それぞれ製造し販売している。
3 債権者らは、「無限MR―5」という商品名の自動車用ホイール(別添二の写真のホイールである。以下「債権者製品」という。)を昭和六三年二月ころから販売している。債権者製品の意匠は、平成二年一〇月四日、本件意匠を本意匠とする類似意匠(意匠法一〇条)として登録された(以下、この意匠を「本件類似意匠」という。)。
4 債権者らは、債務者に対し、平成元年四月二八日付内容証明郵便(同年五月一日到達)をもって、債務者製品第一、第二の製造販売が本件意匠権を侵害しているとして、その中止を求めたが、債務者はこの求めに応じない。
三 争点
1 (被保全権利について)
(一) 債権者らは、イ号、ロ号意匠は本件意匠に類似し、本件意匠権を侵害しているので、債務者に対し債務者製品第一、第二の製造販売の差止めを求める権利を有すると主張する。
(二) これに対し債務者は、おおむね次のとおり反論する。
(1) 本件意匠は、センターロックナットを装着しない状態で意匠登録されているのだから、イ号、ロ号意匠との類否を検討するためには、イ号、ロ号意匠もこれと同一条件で対比することを要するところ、同一条件にするためには、イ号、ロ号意匠を、センターキャップ(ディスク表側の中心に位置する六角ナット状のもの)及びセンターカバー(ハブボルト隠し蓋)を除去した状態のものとして把握すべきであるが、そうだとすると、イ号、ロ号意匠はいずれも本件意匠にまったく類似していない(争点1)。
(2) 仮に、イ号、ロ号意匠についてセンターキャップとセンターカバーを装着した状態の意匠をもって本件意匠との類否判断を行うべきであるとしても、イ号、ロ号意匠のセンターキャップに表示されたブランド名は需要者の注意を惹くものであること、その他いくつかの意匠構成上の相違点があることから、イ号、ロ号意匠はいずれも本件意匠に類似していない(争点2)。
2 (保全の必要性について)
(一) 債権者らは、債務者製品第一、第二が販売されることにより、本件意匠権の実施品である債権者製品の需要が直接奪われるばかりでなく、本件意匠が陳腐化して債権者製品の商品価値が下落することとなるので、債権者は本案判決の確定を待っていては回復し難い損害を被るおそれがあると主張する。
(二) これに対し債務者は、おおむね次のとおり反論する。
本件意匠登録には、次のような無効事由が存するため、現時点において仮処分により債務者製品第一、第二の製造販売を差し止めることは相当でない(争点3)。
(1) (公知意匠との類似)
本件意匠は、本件意匠登録出願前に存した公知意匠に類似している。
(2) (新規性喪失例外規定の適用要件の欠缺)
本件意匠登録出願に際し特許庁に提出された新規性喪失例外規定(意匠法四条二項)適用のための資料によれば、出願前の昭和六二年三月二二日にレース出走車両に装着されたことにより公表されたホイールと本件意匠に係るホイールとの同一性について証明がなく、本件意匠権は右規定の適用を受けるための要件を欠いている。
(3) (他の公知意匠の存在)
仮に本件意匠のホイールが右レース出走車両の前輪に装着されて公表されたホイールと同一であるとしても、その際、これと類似する別の意匠のホイールが右車両の後輪等に装着されて公表され、その後、この別の意匠のホイールは、本件意匠登録出願前にも雑誌に掲載されて公表されたのであるから、この別の意匠のホイールについては、新規性喪失例外規定は適用されず、公知意匠となり、その結果、これと類似する本件意匠は、その登録出願時には新規性を有しない意匠となっていたものである。
第三 争点に対する判断
一 争点1(イ号、ロ号意匠の特定)について
後述二1(一)のとおり、自動車用ホイールの需要者は、それが自動車に装着された時の状態の意匠に特に注意を惹かれるものであるところ、債務者製品第一、第二は、いずれもセンターキャップ及びセンターカバーを付けた状態で自動車に装着され使用されるものであること、債務者製品のセンターキャップ及びセンターカバーは、債務者製品の一部としての機能、性質のみを有し、逆に債務者製品の本体に他の意匠のセンターキャップ及びセンターカバーが付けられることは予定されていないことから、イ号、ロ号意匠は、センターキャップ及びセンターカバーを付けた状態のものとして把握すべきであり、これに反する債務者の主張は採用できない。
(この項の認定・判断に供した資料は審尋の全趣旨)
二 争点2(本件意匠とイ号、ロ号意匠との類否)について
1 (自動車用ホイールの意匠について)
(一) 自動車用ホイールの意匠のうち、需要者の注意を強く惹く部分は、これをタイヤに嵌め込み、自動車本体に装着した際に外側から見えるディスク及びリムの表側の部分である。ホイールの需要者は、主として自己の所有する自動車の見映えを良くするためにこれを購入するのが通常だからである。
(二) 自動車用ホイールには、リム部分とディスク部分とを別に成型し、後にこれらを接合して完成するツーピースタイプ及びスリーピースタイプと、リム部分とディスク部分とを最初から一体で成型するワンピースタイプとがあり、ツーピースタイプ及びスリーピースタイプの場合には、リム部分とディスク部分とを接合するための多数のボルトの頭部がディスク外周部又はリム枠部の表側に表われているものがあるが、その点を除けば、リム部分は構造上の制約などから新規な意匠を考案しにくい部分である。したがって、一般に自動車用ホイールは、主としてディスク部分の表側の意匠において他との差異を見出しうるものである。
(三) また、自動車用ホイールは、自動車の重量を支え、駆動力ないし制動力を伝達するという機能からして、一定以上の強度を要求され、かつなるべく軽量であることが望ましいことから、ディスク部分の意匠も、おおむねディッシュタイプ、メッシュタイプ及びスポークタイプに分類できるものとなっており、軽合金ホイールの実用化された後は意匠の自由度が高まったとはいえ、全く新規な意匠の考案は行いにくい物品であるということができる。
(四) 以上(一)ないし(三)の事情に加えて、自動車用ホイールの需要者は、自己の所有する自動車の意匠と調和する意匠であるかどうかなど、主としてその意匠に着目してそれを購入する関係上、自動車用ホイールは、比較的小さい構成の差異であっても類似性判断に否定的影響を及ぼしやすい物品であるということができる。
2 (本件意匠の特徴)
本件意匠の構成は、別添一の意匠広報の図面代用写真のとおりであり、リム部分の表側の意匠は、前記1(二)に述べたような自動車用ホイールとしてごくありふれたものと認められるから、残るディスク部分の表側の意匠についてみるに、その特徴はおおむね次のように表現することができる(特に右写真の正面図及び斜視図を参照。)。
<1> 五本のスポークがディスクの中心から等角度で放射状に伸び、そのそれぞれの先端は、ディスク外周環状部に接合している(五本スポーク)。
<2> それぞれ隣り合ったスポーク二本とディスク外周環状部に囲まれた透かし孔(五個)は、三つの角全部を丸めた二等辺三角形(おむすび形)をしている(おむすび形透かし孔)。
<3> 各スポーク本体(スポークから後記<5>のリブを除いた部分)は、ディスク中央寄りの付け根付近からほぼ先端まで幅が等しい(同幅スポーク)。
<4> 各スポーク本体は、幅方向に平坦であるが、長さ方向においては、外側(ディスク正面側方向)に張り出した凸弧状(太鼓橋状)を呈している(帯状、凸弧状スポーク)。
<5> 各スポーク本体の両側には、段落し状の、細幅のリブが形成されているが、そのリブは、スポークの長さ方向においてスポーク本体の凸弧状とほぼ一体に凸弧状となっている(細幅、段落し状、凸弧状リブ)。
なお、右リブは、スポークの幅方向の端のほうで隆起しており、スポーク本体との間に溝を形成している。
<6> それぞれ隣り合った二本のスポーク本体は、これらに挟まれた角が湾曲しており、連続的である(合弁花状スポーク)。
なお、右<5>記載のリブも、右湾曲とほぼ平行して湾曲し、おむすび形透かし孔を挟む隣り合ったリブは互いに連続しているが、これは、<5>の構成と右の合弁花状スポークの構成を採用したことによるほぼ必然的な意匠というべきであり、独立した特徴と捉えるべきではない。
<7> ディスク中央部は、スポークの凸弧と連続的に中心に近付くにしたがって僅かではあるが傾斜を強めて窪んでおり、更には中心部は、右窪みとは不連続にすり鉢状に陥没しており、その底には丸い車軸挿通孔が存在する。
<8> ディスク外周環状部には、二四個のボルト頭部が等間隔に表われている(リムボルトの存在)。
3 (本件意匠と公知意匠との対比)
本件意匠の要部を究明するにあたっては、本件意匠の登録出願当時に存在した公知意匠と比較対照して、本件意匠の新規性を有する点を特定することが必要であるので、これを以下検討する。
(一) 前記<1>(五本スポーク)、<2>(おむすび形透かし孔)及び段落し状リブの特徴を有する公知意匠として、疎乙第四号証の二(ゴールドCARトップ・八七年輸入国産カー用品最新カタログ」九四頁)右下の写真に写るホイール(ファンフ)の意匠が存する。これは、各スポークが先細りであり、全体としていわゆる星形をしていること、各スポークが平坦であり凸弧状を呈していないことにおいて本件意匠と構成を異にする。
(二) <1>(五本スポーク)、<2>(おむすび形透かし孔)、<3>(同幅スポーク)及び段落し状リブの特徴を有するように見える公知意匠として、疎甲第九号証(昭和六一年四月八日発行「意匠公報」二九頁)のホイールの意匠が存する。これは、凸弧状スポークでないこと、各スポークが幅広で短く、各スポークの表面に細かい縦縞の存することなどにおいて本件意匠と構成を異にする。なお、右意匠は、一見した印象が本件意匠と大きく相違する。
(三) <1>(五本スポーク)、<4>(帯状、凸弧状スポーク)及び<6>(合弁花状スポーク)の特徴を有する公知意匠として、疎乙第二八号証(「CAR GRAPHIC」昭和六一年七月号)の一ないし五のポルシェ959の装着するホイールの意匠が存する。これは、各スポークが本件意匠より細身であり、やや先細りであること、段落し状のリブを有しないことにおいて本件意匠と構成を異にする。
(四) <1>(五本スポーク)、<2>(おむすび形透かし孔)及び<4>のうち凸弧状スポークの特徴を有する公知意匠として、疎乙第一号証(「AUTOSPORT」昭和五九年二月号)の一九四頁中段の小写真(フェンダー部を破損した車両の部分写真)に写るホイールの意匠が存する。これは、スポークがやや先細りであること、スポークの両側が段落しではなく、逆に隆起していることにおいて本件意匠と構成を異にする。
(五) なお、<7>の特徴のうちディスク中心部の「すり鉢状の陥没」及びその底に設けられた「丸穴(車軸挿通孔)」の存在は、本件意匠がセンターロック式(ディスク中心部に車軸挿通孔を設け、別物品であるセンターロックナットにより車軸に螺着する方式であり、レース用自動車においては一般的である。)ホイールに係る意匠であることに由来するものであるが、このような自動車本体への装着方式の如何により生じる意匠の特徴は、それが特別な意匠を構成するものでない限り意匠の要部とはいえないというべきところ、右「すり鉢状の陥没」等の存在は、センターロック式ホイールとしてはそれほど特殊なものではないと認められるから、これらが意匠の要部にあたると解することはできない。ただし、右の点を除いた<7>の特徴(ディスク中央部の浅い窪み)は、本件意匠に特徴的なものということができるが、これは、<4>(帯状、凸弧状スポーク)及び<6>(合弁花状スポーク)を採用したことと一体的な特徴と見ることができ、独立の特徴と捉えるべきではない。
(六) また、<8>(リムボルトの存在)の特徴については、前記1(二)のとおり、ツーピースホイールとして極めてありふれたものというべきで、本件意匠の要部として特に取り上げることは適切とはいえない。
以上のとおりであるから、本件意匠の特徴を個別に取り上げて見れば、<7>及び<8>は本件意匠の要部とは認められず、<1>ないし<6>についても公知意匠に見出すことができるから新規性があるものとは認められない。しかし、<1>ないし<6>の特徴を組み合わせた結果である本件意匠は、いずれの公知意匠にも見られない新たな美感を生ぜしめると認めることができ、したがって本件意匠の要部は、<1>ないし<6>の要素を併せ持つ点にあると一応考えられる。
4 (本件意匠と本件類似意匠との対比)
ところで、本件類似意匠は、本件意匠の類似意匠として登録されたのであるから、本件意匠と意匠の要部を共通にするものというべきものであることになり、したがって、本件意匠の要部を究明するに際しては、本件類似意匠を参考とすることが可能であり、かつ有益であるということができるので、以下、本件意匠と本件類似意匠との対比を行うこととする。
(一) 本件類似意匠は、別添二の写真(特に正面図及び斜視図を参照)のとおりであるが、前記3において本件意匠の要部であると推論した<1>(五本スポーク)、<2>(おむすび形透かし孔)、<3>(同幅スポーク)、<4>(帯状、凸弧状スポーク)、<5>(段落し状、細幅、凸弧状リブ)及び<6>(合弁花状スポーク)のいずれをも備えている。
ただし、<5>については、リブ部分の凸弧の程度がスポーク本体の凸弧より緩いこと、リブの端が隆起しておらず、スポーク本体との間に溝が認められないことなどにおいて差異が認められるが、全体としての美感の共通性という観点からすれば、これらの差異は僅かというべきである。
(二) なお、本件類似意匠には、本件意匠と異なり、ディスク中央部に盾状円形のセンターキャップが設けられ、その中央には「無限」の文字が刻まれており、その周囲には、小さいがやはり盾状円形の四個のボルトキャップが設けられており、他方、本件意匠の前記<7>の特徴のうちの「すり鉢状陥没」と「車軸挿通孔」は存在しない。にもかかわらずこれが本件意匠の類似意匠として登録されていることは、「すり鉢状陥没」と「車軸挿通孔」が本件意匠の要部ではないこと(前記3(五))を裏付けるということができる。
(三) 以上のとおりであるから、本件類似意匠との対比を試みた結果によっても、本件意匠の要部が<1>ないし<6>の要素を併せ持つ点にあるという前記3の推論が肯定されるというべきである。
5 (本件意匠とイ号意匠の類否)
以上を前提として、本件意匠とイ号意匠とが類似しているか否か、以下検討する。
(一) イ号意匠の構成を見ると、五本スポークであること(<1>)、五個おむすび形透かし孔のあること(<2>)、帯状スポークであること(<4>のうちの一部)、各スポークの両側に段落し状のリブを有すること(<5>のうちの一部)及び隣り合ったスポークが相互に付け根で連続しており合弁花状であること(<6>)において本件意匠と共通している。
なお、ディスク中央部の意匠に関し、イ号意匠においてはセンターカバー及びセンターキャップがあるのに対し、本件意匠においてはこれがなく、<7>の「すり鉢状陥没」と「車軸挿通孔」が存するという特徴があるが、これらが本件意匠の要部にあたらないことは、前記3及び4のとおりであるし、イ号意匠のセンターカバー及びセンターキャップは、むしろ本件意匠のようなセンターロック式ホイールを模する意図で形成されたものと認められるから、この点をもって本件意匠との類似性を否定する要素ということはできない。イ号意匠のセンターキャップにブランド名が表示されていることも、それが意匠全体としての美感に影響するものとまでは認められないから、これと同様である。
また、自動車用ホイールの側面及び背面の意匠は、特に需要者の注意を惹く部分とはいえないから、イ号意匠と本件意匠との類否判断に当たり、殊更この点を比較し、考慮する必要があるとはいい難い。
(二) しかし、別紙物件目録添付写真の正面図からも明らかなように、イ号意匠は、各スポーク本体が本件意匠のものよりも細長く、かつ、やや先細りの印象がある。また、同写真の斜視図から明らかなように、イ号意匠は、リブ部分がディスク外周環状部と同一平面にあるように見え、各スポーク本体は、右平面からほぼ一定の高さを持つ平面を形成しているように見える(正確には、リブ及びスポーク本体とも、ディスク中央方向へ僅かに下り勾配を呈しているようである。)。各スポーク本体の平面は、スポークの先端部においてディスク外周環状部の平面に弧状を呈して落ち込んでいるが、弧状を呈する部分はスポークの全長に比較してかなり小さく、その余の大部分はほぼ平坦である。このため、イ号意匠は、本件意匠に見られる<3>(同幅スポーク)並びに<4>及び<5>の一部(凸弧状スポーク及びこれと一体的な凸弧状リブ)の特徴を有するとはいえない。
(三) 本件意匠のおける<3>(同幅スポーク)並びに<4>及び<5>の一部(凸弧状スポーク及びこれと一体的な凸弧状リブ)の特徴は、立体感と力強さという本件意匠の美感を支配する重要な要素であるというべきであり、これら要素の認められないイ号意匠は、本件意匠と美感を異にするというべきであり、本件意匠に類似しているということはできない。
6(本件意匠とロ号意匠の類否)
次に、ロ号意匠が本件意匠に類似しているか否か、右1ないし4を前提として、以下検討する。
(一) ロ号意匠の構成を見ると、五本スポークであること(<1>)、五個のおむすび形透かし孔のあること(<2>)、帯状スポークであること(<4>のうちの一部)、各スポークの両側に段落し状リブを有すること(<5>のうちの一部)及び隣り合ったスポークが相互に付け根で連続しており合弁花状であること(<6>)において本件意匠と共通している。
しかも、スポークのリブ部分は明らかに凸弧状を呈しており(<5>のうちの残部)、また、各スポーク本体のリム寄りのおおむね二分の一は、弧状を呈してリム枠部(外形的には、本件意匠ないし本件類似意匠におけるディスク外周環状部に相当する部分)に落ち込んでおり、各スポーク本体は凸弧状(<4>の残部)に近い印象を与える。
したがって、ロ号意匠が本件意匠にかなり近い構成であることは否定しえない。
(二) しかしながら、ロ号意匠のスポークは、顕著ではないけれども先細りであり、少なくとも本件意匠及び本件類似意匠におけるような同幅スポークの特徴(<3>)を有するとはいえないことは看取するに困難ではなく、また本件意匠及び本件類似意匠のディスク中央部に認められるスポークの本体の凸弧状と連続的な浅い窪み(<7>の一部)はロ号意匠には存せず(ロ号意匠のセンターキャツプ回りの円形段落し部分は、右「窪み」とは明らかに異なる。)、各スポーク本体のディスク中央寄りのおおむね二分の一は、センターキャップ回りの円形段落し部分を除いたディスク中央部とともに同一平面を形成しているように見えるのであり、このため、ロ号意匠は、本件意匠及び本件類似意匠に認められるような意味での凸弧状スポーク(<4>の一部)の特徴を有するという形容もできない。
しかも、ロ号意匠は、リム枠部の幅がかなり広く、そのことが全体観察の上においても印象的であり、このような幅広のリム枠部自体は自動車用ホイールの意匠として特に珍しいものではないけれども、これがためにホイール全体に対してディスク部分がやや小振りであり、五本のスポークもこじんまりとまとまっている印象を受け、本件意匠におけるディスク部分(特に五本のスポーク部分)から受ける伸びやかな印象はロ号意匠からは感じ取れない。
(三) 前記3のとおり、本件意匠の要部と認められるものは、個別に捉えて見れば公知意匠にも認めることのできるものであり、また、前記1に述べた点から窺われるように、自動車用ホイールが意匠の類似の幅の比較的狭い物品であることをも考え併せると、右(二)に述べたような相違点の存在することは、本件意匠とロ号意匠とを全体として比較観察した場合にも美感の相違をもたらすものというべきであり、ロ号意匠が本件意匠に類似しているということはできない。
7 したがって、イ号、ロ号意匠はいずれも本件意匠に類似していると認めることはできない。
(この項の認定、判断に供した資料は、本文中に引用したもののほか、審尋の全趣旨)
三 (結論)
よって、債務者による債務者製品(第一、第二)の製造販売が本件意匠権を侵害していると認めることはできず、そのほかの争点について判断するまでもなく、本件仮処分申請は理由がない。
別紙目録等省略、本書五七七頁以下参照