横浜地方裁判所 平成元年(ワ)1957号 判決 1989年12月25日
原告
佐藤吉秋
ほか二名
被告
有限会社 堀越商運
ほか一名
主文
被告等は、各自、原告佐藤吉秋に対し一七五四万〇九九六円、原告佐藤一秋、同佐藤勉に対し各七二七万〇四九八円及び右各金員に対する平成元年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
原告等のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その一を原告等、その余を被告等の負担とする。
この判決のうち原告等勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁例
一 請求の趣旨
被告等は、各自、原告佐藤吉秋に対し二二二九万一八〇七円、原告佐藤一秋、同佐藤勉に対し各八六九万〇七一九円及び右各金員に対する平成元年四月一四日から支払済みまでの年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
仮執行宣言の申立て
二 請求の趣旨に対する答弁
原告等の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
発生日時 平成元年四月一四日午後二時三〇分頃
発生場所 横浜市南区永田みなみ台一番一号先市道上
加害車両 普通貨物自動車(横浜一一い八九五八)運転者被告浦田優子(以下「被告浦田」という。)
被害者 訴外佐藤公子(以下「訴外公子」という。)
事故態様 訴外公子が本件事故現場の交差点の横断歩道上を横断していたところ、被告浦田運転の加害車両が同交差点を右折しようとして訴外公子に衝突し、同人は平成元年四月一四日午後五時三四分脳挫傷兼頭蓋内出血により死亡した。
2 被告等の責任
(一) 被告浦田
同被告は、加害車両を運転して交差点を右折するに際し、既に訴外公子が交差点の横断を開始していたから直ちに停止すべき注意義務があつたのに、脇見若しくは居眠り運転によりこれを怠り、右交差点を漫然右折進行した過失により本件事故を発生させたから、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。
(二) 被告有限会社堀越商運
同被告(以下「被告会社」という。)は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。
3 原告等と訴外公子の関係
原告佐藤吉秋(以下「原告吉秋」という。)は訴外公子の夫、原告佐藤一秋(以下「原告一秋」という。)、同佐藤勉(以下「原告勉」という。)は子であつて、訴外公子には他に相続人はなく、原告吉秋は訴外公子の本件事故の基づく損害賠償請求権を二分の一、原告一秋、同勉は各四分の一宛相続した。
4 損害
(一) 葬儀費用 二九一万〇三七〇円
原告吉秋は訴外公子の葬儀をとり行い、その費用として二九一万〇三七〇円を支出した。
(二) 逸失利益 一六七万二八七五円
(1) 家事労働所得喪失による逸失利益
訴外公子は死亡当時六七才の健康な女性であつて、家事労働に従事し、原告吉秋、同一秋の世話をしていた。
昭和六二年度賃金センサス企業規模計、産業計、旧中・新高卒、六五歳以上の女子労働者の平均賃金は年額三四一万八九〇〇円であるところ、訴外公子は、本件事故に遭遇しなければなお七三歳に至るまで六年間就労可能で、その間少なくとも右収入を得ることができたから、これから生活費として三〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は次のとおり一二一四万八〇三五円になる。
341万8,900円×(1-0.3)×5.076=1,214万8,035円
原告吉秋はその二分の一である六〇七万四〇一七円を、原告一秋、同勉はその各四分の一の三〇三万七〇〇九円宛を相続した。
(2) 国民年金受給資格喪失による逸失利益
訴外公子は国民年金老齢年金の受給資格を得ていて、昭和六三年四月以降年額五二万三一〇〇円の支給を受けていた。
したがつて、訴外公子が本件事故に遭遇しなければなお平均余命である約一八年間少なくとも右金額の年金を得ることができたから、これから生活費として三〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その原価は次のとおり四六一万四八四〇円になる。
52万3,100円×(1-0.3)×12.603=461万4,840円
原告吉秋はその二分の一である二三〇万七四二〇円を、原告一秋、同佐藤勉はその各四分の一の一一五万三七一〇円宛を相続した。
(三) 慰謝料 一八〇〇万円
(1) 訴外公子は被告浦田の一方的な過失により悲惨な死を遂げ、人生最大の不幸に遭遇するに至つたもので、その無念さは計り知れないものがあり、訴外公子が受けた右精神的苦痛を慰謝するには八〇〇万円の支払をもつてするのが相当である。
原告吉秋はその二分の一である四〇〇万円を、原告一秋、同勉はその各四分の一の二〇〇万円宛を相続した。
(2) 本件事故により原告吉秋は最愛の妻を奪われ、平穏にして幸福な生活から一転し索漠たる余生を送らざるを得ない不幸な境遇に陥り、今尚絶望と悲嘆に明け暮れしている日々を過ごしている状態にあり、原告一秋、同勉は最も敬愛する母を奪われ、その精神的苦痛は計り知れないものがある。
原告等が受けた右精神的苦痛を慰謝するには、原告吉秋に六〇〇万円、原告一秋、同勉に各二〇〇万円の支払をもつてするのが相当である。
(四) 弁護士費用 二〇〇万円
原告等は、被告等が原告等の損害賠償請求に応じなかつたため、本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任し、その費用として原告吉秋は一〇〇万円、原告一秋、同佐藤勉は各五〇万円宛を支払うことを約した。
5 結論
よつて原告等は、被告等に対し、各自、原告吉秋に対し二二二九万一八〇七円、原告一秋、同勉に対し各八六九万〇七一九円及び右各金員に対する本件事故発生の日である平成元年四月一四日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 1項ないし3項の各事実は全部認める。
2 4項の事実は知らない。
なお、訴外公子の逸失利益のうち、家事労働所得喪失による逸失利益の算定についてセンサスを使用する場合には、女子労働者の全年齢平均の賃金額によるべきであり、国民年金受給資格喪失による逸失利益は、右資格が一身専属的権利で訴外公子の死亡により消滅するから遺族への相続は認められない。
第三証拠
証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当事者間に争いのない事実
請求原因1項(事故の発生)、2項(被告等の責任)、3項(原告等と訴外公子の関係)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 本件事故により生じた損害
1 葬儀費用
原告吉秋本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第三号証、同尋問結果によると、原告吉秋は訴外公子の葬儀をとり行い、その費用として二九一万〇三七〇円を支出したことが認められるか、弁論の全趣旨、経験則によれば、本件事故と相当因果関係のある損害としては右金員のうち一〇〇万円をもつて相当額と認める。
2 逸失利益
(一) 家事労働所得喪失による逸失利益
成立に争いのない甲第一号証、原告吉秋本人尋問の結果によると、訴外公子は旧制高女を卒業した死亡当時六七歳の健康な女性であつて、家事労働に従事し、原告吉秋、同一秋の世話をしていたことが認められるから、訴外公子は、本件事故に遭遇しなければならないなお七三歳に至るまで六年間就労可能で、その間少なくとも昭和六二年度賃金センサス企業規模計、産業計、学歴計の女子労働者の平均賃金である年額二四七万七三〇〇円の収入を得ることができたものと認められ、右金額から生活費として三〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は次のとおり八八〇万一六四八円になり、原告吉秋はその二分の一である四四〇万〇八二四円を、原告一秋、同勉はその各四分の一の二二〇万〇四一二円宛を相続したことが認められる。
247万7,300円×(1-0.3)×5.0756=880万1,648円
(二) 国民年金受給資格喪失による逸失利益
成立に争いのない甲第二号証、原告吉秋本人尋問の結果によると、訴外公子は国民年金老齢年金の受給資格を得ていて、昭和六三年四月以降年額五二万三一〇〇円の年金の支給を受けていたことが認められる。
原告等は、右国民年金受給資格喪失による逸失利益を本件事故による損害として請求し、被告等は右給付は一身専属的なものであるとして賠償性を否定するのであるが、国民年金老齢年金給付請求権も、第三者によりこれを侵害されたときは財産上の損害として賠償請求の対象になるものとするのが相当である。
しかるところ、訴外公子は死亡当時六七歳で、昭和六二年簡易生命表によると訴外公子の平均余命は約一八年であり、右期間少なくとも右金額の年金を得ることができたものと認められ、右金額から生活費として三〇パーセントを控除し、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その原価は次のとおり四二八万〇三四四円になり、原告吉秋はその二分の一である二一四万〇一七二円を、原告一秋、同佐藤勉はその各四分の一の一〇七万〇〇八六円宛を相続したことが認められる。
52万3,100円×(1-0.3)×11.6895=428万0,344円
3 慰謝料
(一) 弁論の全趣旨によると、訴外公子は被告浦田の一方的な過失により悲惨な死を遂げ、人生最大の不幸に遭遇するに至つたことが認められ、その無念さには計り知れないものがあることを推測するに難くなく、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、訴外公子が受けた右精神的苦痛を慰謝するには八〇〇万円の支払をもつてするのが相当と認められ、原告吉秋はその二分の一である四〇〇万円を、原告一秋、同勉はその各四分の一の二〇〇万円宛を相続したことが認められる。
(二) 原告吉秋本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、本件事故により原告吉秋は最愛の妻を奪われ、平穏にして幸福な生活から一転し索漠たる余生を送らざるを得ない不幸な境遇に陥り、今尚絶望と悲嘆に明け暮れしている日々を過ごしていること、原告一秋、同勉は最も敬愛する母を奪われたことが認められ、その精神的苦痛には計り知れないものがあることを推測するに難くなく、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告等が受けた右精神的苦痛を慰謝するには、原告吉秋に五〇〇万円、原告一秋、同佐藤勉に各一五〇万円の支払をもつてするのが相当と認められる。
4 弁護士費用
弁論の全趣旨によると、原告等は、被告等が原告等の損害賠償請求に応じなかつたため、本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任したことが認められるところ、その費用としては、認容額その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告吉秋につき一〇〇万円、原告一秋、同勉につき各五〇万円宛をもつて相当額と認められる。
三 結論
以上によると、原告等の請求は、被告等に対し、各自、原告吉秋に対し一七五四万〇九九六円、原告一秋、同勉に対し各七二七万〇四九八円及び右各金員に対する本件事故発生の日の平成元年四月一四日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告等のその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 木下重康)