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横浜地方裁判所 平成10年(ワ)1475号 判決 2001年12月05日

主文

1  被告らは、原告に対し、連帯して金123万9879円及びこれに対する平成9年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを3分し、その2を原告の、その余を被告らの各負担とする。

4  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは、原告に対し、各自410万9370円及びこれに対する平成9年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

第2事案の概要等

1  事案の概要

原告(事故当時9歳)は、平成9年10月23日、被告藤沢市が設置及び管理する藤沢市ab丁目c番所在の「みどりの広場」(以下「みどりの広場」という。)」に設置された被告B製造のゆりかご型ブランコ(以下「本件ブランコ」という。)で遊戯中、本件ブランコの座席底部と地面との間に右足を挟まれ、右大腿骨転子下骨折の重傷を負った(以下「本件事故」という。)。本件は、原告が、本件事故の原因は本件ブランコの構造・形状の欠陥にあると主張して、被告Bに対しては不法行為に基づき、被告藤沢市に対しては国家賠償法2条1項に基づき、損害賠償を請求した事案である。

2  争いのない事実等

(1) 当事者

ア 原告は、昭和63年7月20日生れの女子であり、本件事故当時は9歳で、身長約140センチメートル、体重約30キログラムであった。

原告の両親は、事実婚であるため、法的には母親であるCが親権者となっている。

イ 被告Bは、体育用機械器具及び遊器具の製作及び販売等を目的とする会社であり、本件ブランコを製造した業者である。

ウ 被告藤沢市は、本件事故の現場であるみどりの広場を設置及び管理し、本件事故当時本件ブランコをみどりの広場に設置して管理していた者である。

(2) 本件ブランコの構造

ア 本件ブランコは、枠体が鉄パイプで構成され、枠体の内側に作られたカゴには児童が乗れる座席が設置されている。枠体の重量は約70キログラム、カゴの重量は約90キログラムである。

イ カゴの底部の鉄パイプ(以下「底部鉄パイプ」という。)の上にはラワンの踏板が敷かれており、底部鉄パイプの更に下部には湾曲型の鉄パイプ(以下「湾曲型鉄パイプ」という。)がある。

ウ カゴは、枠体の上部から4本の鉄パイプで吊り下げられた構造になっていて、4本の鉄パイプには、おのおの2箇所(合計8箇所)にベアリング装置が施されている。カゴは、人力によって揺らすことにより、本件ブランコの乗降口から見て左右に揺れる構造になっている。

エ 本件ブランコは、その揺動のさせ方によっては、鉛直線に対して40度(以下、記載する角度はすべて鉛直線に対する角度を意味する。)を超えて揺動する構造ではあるが、原告の体格では、両足を地面につけたままの状態では、40度程度までしか本件ブランコを揺らすことができない。

(3) 本件事故の発生

本件事故は、平成9年10月23日午後4時過ぎころ、みどりの広場において、原告が友人のD(昭和63年6月29日生まれ、事故当時9歳。)及びE(平成元年9月生まれ。)と本件ブランコを大きく揺らして遊んでいた際、左肩と左下肢を地面につけ、顔を左方向に向けた格好で転倒したため、揺れ戻ってきた本件ブランコの底部が原告の右足大腿部の大腿骨転子付近に衝突して発生したものであり、原告は、本件事故により右大腿骨転子下骨折の重傷を負った。

3  争点

(1) 本件事故の状況

原告は、本件ブランコをどのように使用し、本件事故に至ったか。

(2) 被告Bの責任

被告Bに、本件ブランコの製造について過失があるか。

(3) 被告藤沢市の責任

被告藤沢市に、本件ブランコの設置または管理の瑕疵があるか。

(4) 原告の損害額

4  争点に対する当事者の主張

(1) 争点(1)(本件事故の状況)について

(原告の主張)

ア 原告は、Dと本件ブランコを両側から押し、Eは、原告側の座席に原告を背にし、Dの方を見る形で座った。原告は、座席の背もたれ部分の鉄パイプ(以下「背もたれ鉄パイプ」という。)を握り、右足を前、左足を後ろに出し、かなりの力を入れて本件ブランコを揺らし始めた。

イ 本件ブランコが大きく揺れ始めると、原告は、背もたれ鉄パイプを握ったまま、右足は常時地面に付けて軸足とし、左足を本件ブランコの揺れにあわせて前に出したり後ろに引いたりして、本件ブランコをほとんど力を入れずに揺らすことができた。

ウ 本件ブランコが更に大きく揺れると、本件ブランコが揺れ戻った時は、背もたれ鉄パイプが原告の顔のそばまで近づくため、原告は、引いた左足でふんばり、軸足の右足が宙に浮くこともあり、また、本件ブランコを押す時には、両肘を伸ばし、左足を前方に踏み出し、軸足となる右足が宙に浮く形となった。

エ 本件ブランコの揺動は更に大きくなっていき、原告は、本件ブランコの揺動に合わせるように、今までよりも1ないし2歩前後に前進したり後退したりする動作をとるに至った。

オ ところが、本件ブランコの揺動が原告の予想を上回る程度に大きくなり、背もたれ鉄パイプをつかみ、本件ブランコの揺動に合わせて引かれるように1ないし2歩前進した原告は、その踏み込みが従前以上に大きかったことから危険を感じ、背もたれ鉄パイプから手を離し、咄嗟に体を反時計回りに反転させ、本件ブランコを背にする格好で、本件ブランコから遠ざかろうとした。しかし、体を反転させようとした原告は、反転動作の途中で足を滑らせる等して、左肩と左下肢を地面につけ顔は左方向を向く格好で地面に横向きに転倒してしまい、転倒した原告の右足大腿部の大腿骨転子下付近に揺れ戻ってきた本件ブランコの底部鉄パイプ部分が衝突したことから、原告は、右大腿骨転子下骨折の傷害を負った。

この転倒により原告が横たわった位置は、別紙図面1の図1または図2に示された位置である。

カ 上記オのうち、原告の予想を上回る本件ブランコの揺動とは、両足を前後に開き地面につけたまま揺動させていた定常的な揺れ角度を超え、後ろ足を1歩前に出さなければ追従しきれなくなるような揺れ角度を意味するところ、原告の事故当時の体格であれば、両足を地面につけたままで、40度まで本件ブランコを揺らすことができるから(別紙図面2の図2のとおり)、本件事故当時、本件ブランコは、40度を超えた角度で揺動していたといえる。

(被告Bの主張)

ア 原告主張の使用方法では、原告の足は本件ブランコの基礎部分の4角形の鉄パイプ(以下「4角形鉄パイプ」という。)をまたぐような位置にあり、この位置から反転しても、原告の足の位置が4角形鉄パイプの中心部分に移動することはなく、転倒してカゴの真下に横たわる本件のような事故(別紙図面1の図1または図2)が発生することはありえない。

また、原告は、揺動が予想を上回る程度に大きくなり、危険を感じたため、背もたれ鉄パイプから手を離し、咄嗟に体を反転させ、本件ブランコを背にするような格好をして本件ブランコから遠ざかろうとしたと主張するが、原告が危険を感じたときには、本件ブランコはすでに反対側にいる児童の力で揺り戻されようとしているのであって、経験則上、背もたれ鉄パイプを握ったまま押し戻されている者が危険を回避する際にとる自衛行動としては、<1>無意識に背もたれ鉄パイプを押し返して揺動を弱める、<2>前後に開いた両足の前足を後ろに引いてそのまま後退する、または、<3>前足を後ろに引いたところで反転姿勢をとって揺れ戻ってくるブランコから逃走するというのが通常であり、また、本件ブランコの揺り戻しにかかる時間が0.5秒と短時間で空間的にも狭いことから、原告が、背もたれ鉄パイプを握って本件ブランコを押しているときの前傾姿勢から反時計回りに体を反転させ、本件ブランコに背を向けて遠ざかろうとすることは経験則的にも時間的にも空間的にもありえない。

イ 本件ブランコを揺動している者が、カゴの真下に転倒して原告と同様の傷害を被る事故態様としては、背もたれ鉄パイプの上に両足を置いて立ち上がり、両手でブランコ上部の鉄パイプ枠をつかんで本件ブランコを揺動させているうちに、足を滑らせて4角形鉄パイプの枠の中心部分に落下して転倒し、その付近に身体の腰部分が接着するように倒れる事故態様しか経験則上考えられない。

ウ 他にも、背もたれ鉄パイプを強く押したり引いたりして、本件ブランコを50度ないし60度以上傾斜させれば、ブランコを揺動させている者の身体が4角形鉄パイプの枠の中心部分まで移動し、この付近で転倒すればカゴの真下に横たわる状態となることから、この場合にも原告と同様の傷害を被る可能性はあるが、児童の力ではあまり前傾姿勢をとらない体勢で本件ブランコを50度以上傾斜させることは不可能であること、この場合のブランコの移動速度にあわせて児童が揺動行為を繰り返すことは不可能であることから、このような事故態様はありえない。

(被告藤沢市の主張)

原告の主張事実は知らない。

(2) 争点(2)(被告Bの過失の有無)について

(原告の主張)

ア 本件ブランコの危険性

本件ブランコは、1人または2人の児童が本件ブランコの外に立ち、カゴの座席の後ろからの片方(1人の場合)または両方(2人の場合)から押して揺らせば、ベアリング装置の作用により左右に大きく揺動する構造で、カゴの重量が約90キログラムと重いこととも相まって、揺動するカゴの下に児童が転倒した場合、児童がカゴと地面との間に挟まれたり、カゴに衝突したりすることで重大な傷害を負う危険を有している。

イ 被告Bの注意義務

(ア) 原告は、本件事故当時9歳の女子であったところ、日本人の9歳の女子の95パーセントはヒップ幅が289.7ミリメートル以下であることに衣服などの厚みの部分の安全率を掛け合わせたり、ゆとり寸法値を加算したりすると、約35センチメートルという数値が得られる。そして、事故当時10歳女子のヒップ幅程度であったと推測される原告も、事故当時が秋で、スカートを着ていたことからすると、カゴの底部(底部鉄パイプを含む。)の最低部と地面との間隔が35センチメートルあれば本件事故をかろうじて避けられたと推定できる。

(イ) また、ドイツ連邦最高裁判所は、1988年3月2日、ドイツ連邦共和国における子供の遊具に関する安全規格(DIN7926)(以下「ドイツ安全規格」という。)に適合しない遊具については、規格を満たすように改善措置がとられなければならず、改善措置がとられなかった遊具については撤去しなければならないと判示しているところ、ドイツ安全規格によれば、本件のようなゆりかご型ブランコの場合、地面までの必要空間は40センチメートルとされている。

(ウ) そこで、上記アのような、児童がカゴと地面との間に挟まれたりカゴに衝突したりする事故を防ぐためには、少なくともカゴの底部(底部鉄パイプを含む。)の最低部と地面との間隔が35センチメートルは空いている必要がある。

ウ 以上より、被告Bは、カゴの底部(底部鉄パイプを含む。)の最低部と地面との間隔を最低でも35センチメートル空けて製作する義務を負っていたにもかかわらず、この義務を怠り、カゴの底部(底部鉄パイプを含む。)の最低部と地面との間隔がわずか約22センチメートルしかないという危険性を有する本件ブランコを製造・販売した。

(被告Bの主張)

ア 本件ブランコの危険性

(ア) 湾曲型鉄パイプがカゴ底部の下部の左右側面に設置されているため、児童がカゴの底部と地面の間に入った場合退避できなくなる危険はあるが、もともと湾曲型鉄パイプは、児童が本件ブランコの左右両側からカゴの底部と地面との隙間に入れないようにすることを目的として設置されたものである。

(イ) <1>本件ブランコの底部鉄パイプの最低部と地面との間隔を、児童がカゴの底部の床の上に乗ったり、降りたりするのに高すぎないよう、25センチメートルにしたこと、<2>カゴを吊り下げている4本の鉄パイプの中間部分にベアリング装置を作って折れ曲がるようにし、かつ、カゴの重量を重くすることにより、児童の力では40度以上の角度には揺動しないようにしたこと、<3>本件ブランコの揺動中、カゴに乗っていない児童の身体が本件ブランコの揺動中その揺動している空間に入りにくくするため、枠体が地面に接地する部分に4角形鉄パイプの枠を設けたことにより、被告Bは、本件ブランコの安全性に配慮しているといえる。

(ウ) そして、前述のとおり、本件ブランコは、原告主張の方法で児童が揺動させたとしても、40度を超えて揺動させることはできないのであるから、児童が4角形鉄パイプの中心部分の地面に転倒する危険はなく、したがって、カゴの底部の最低部と地面との間隔が25センチメートルしかないとしても、転倒した児童が傷害を負う危険性はない。

イ 被告Bの注意義務

(ア) 被告Bは、原告主張の使用方法によって本件事故が発生したことを否認するものであるが、何らかの特殊な事情により本件事故が発生したとしても、原告主張の使用方法により児童の力で本件ブランコが40度を超えて揺動すること及びその揺動により児童がカゴの底部の下の4角形鉄パイプの中心付近で転倒することは通常考えられないことであり、本件事故は予測不可能であった。

なお、児童がカゴ部分に乗り降りする際に転倒する危険を避けるため、カゴの床部分と地面との間隔を約25センチメートルとしたこと及びカゴの底部の下部に湾曲型鉄パイプを設置して幼児の身体がカゴの下に入らないようにしたことは合理的であるから、いずれにしても被告Bには過失がない。

(イ) ドイツ安全規格は、ブランコに乗って揺動する者以外の者の退去領域を定めた上、ブランコの底部と地面との間隔を40センチメートルとすることを定めたものであるが、この間隔は、ブランコに乗っている児童が地面に落下した場合にブランコの底部と落下した児童が衝突しない距離として定められている。

したがって、ドイツ安全規格は、ブランコに乗っている児童が落下する危険を伴う揺動の可能性のあるブランコについての安全基準であって、本件ブランコのように、ブランコのカゴに乗っている児童がカゴの底部の下に落下する危険性のないものについての安全基準ではない。

(3) 争点(3)(本件ブランコの設置または管理についての瑕疵の有無)について

(原告の主張)

争点(2)の原告の主張のとおり、児童がカゴと地面との間に挟まれたり、カゴに衝突したりして、重大な傷害を負ったり、死亡したりする危険を避けるためには、カゴの底部(底部鉄パイプを含む。)の最低部と地面との間隔は最低35センチメートル必要であったのに、本件ブランコにはこの間隔がなかった。

したがって、本件ブランコは、児童が利用する遊具施設として通常有すべき安全性を欠いていたといえ、被告藤沢市が、本件ブランコをみどりの広場に設置し、その後撤去せずに管理し続けたことは、営造物の設置または管理に瑕疵があったというべきである。

(被告藤沢市の主張)

争点(2)の被告Bの主張と同様、本件ブランコには何らの瑕疵もない。

(4) 争点(4)(原告の損害)について

(原告の主張)

ア 経済的損害          合計73万9370円

(ア) 治療費(診断書料を含む)   29万6020円

(イ) 付添費            30万0000円

1日6000円×50日間

原告は、手術前後、怪我をした足の牽引を行ったため、自由に動くことができず、トイレ・食事の世話など全てにわたって両親の看護が必要であった。また、原告は、入院中精神的に不安定な状態が続いたため、両親の毎日の付添は精神的な支えとして必要不可欠であった。

(ウ) 入通院交通費          7万8350円

(エ) 入院雑費            6万5000円

1日1300円×50日間

イ 慰謝料            計300万0000円

(ア) 入通院慰謝料        200万0000円

(イ) 後遺症慰謝料        100万0000円

原告は、安全な遊び場であるはずの「みどりの広場」で遊戯中に施設の瑕疵により思わぬ大怪我を負い、著しい精神的苦痛を受けた。また、骨折という怪我の痛みと入通院治療の苦痛に耐えることを余儀なくされた。

原告は、平成9年12月6日の退院後も、自宅療養の必要があり、リハビリのため、家と学校間を往復したり、図工の授業だけ受けて帰ったりしたのを除き、2学期中(同年12月24日まで)は通学することができず、通学できない期間は2か月余りに及んだ。また、3学期(平成10年1月8日)から通学を始めた後も、松葉杖での生活を余儀なくされ、好きな体育の授業を休まなくてはならなかった。原告は、このように学校を休んだり、授業の一部を休まなくてはならなかったことにより、教育を受ける権利を奪われただけでなく、学校に通い友達と過ごす時間を奪われた。

さらに、原告は、右大腿部に醜状痕が残るという後遺症(第14級)を負った。

以上により、原告が被った精神的苦痛を金銭に換算すれば、それぞれ上記の金額を下らない。

ウ 弁護士費用            37万0000円

エ 以上アないしウの合計      410万9370円

(被告らの主張)

原告主張の損害については争う。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件事故の状況)

(1) 証拠(甲第29、第32、第35、丙第6、証人F)によると以下の事実が認められる。

原告は、本件事故当時、D及びEと3人でみどりの広場に設置されていた本件ブランコで遊んでおり、原告及びDがブランコから降り、それぞれ本件ブランコの座席の背もたれ部分の両側に立ち、本件ブランコを交互に押して揺らし、Eは、原告側の座席に原告を背にしDの方を見る形で座っていた。この時、原告は、座席の背もたれ鉄パイプを両手で握り、足を前後に開く格好で(右足が前、左足が後ろ)、ブランコの揺動にあわせて体を前後に移動させて本件ブランコを揺らしていた。

そして、本件ブランコの揺動が大きくなり、原告が両足を前後に開き前後の足に体重を移動させるだけで揺らすことができる角度(約40度)を超えるようになると、原告は、本件ブランコの揺動に合わせるように、背もたれ鉄パイプを両手で握ったまま、1ないし2歩前進したり後退したりするようになった。

このようにして遊んでいたところ、本件ブランコの揺動がさらに大きくなったことから、原告は、本件ブランコの揺動に合わせて引かれるように1ないし2歩前進したが、従前以上に大きく踏み込んだため危険を感じ、背もたれ鉄パイプから手を離し、咄嗟に体を反時計回りに反転させ、本件ブランコを背にする格好で本件ブランコから遠ざかろうとした。しかし、体を反転させようとした原告は、反転動作の途中で足を滑らせる等して、左肩と左下肢を地面につけ顔は左方向を向く格好で地面に横向きに転倒してしまい、揺れ戻ってきた本件ブランコの底部鉄パイプ部分が、転倒した原告の右足大腿部の大腿骨転子下付近に衝突し、原告は、右大腿骨転子下骨折の傷害を負った。

転倒した際に原告が横たわった位置は、別紙図面1の図1または図2に示された位置である。

(2) これに対し、被告Bは、9歳の女児であった原告が本件ブランコを大きく揺動させて本件ブランコの中心付近まで立ち入った上、本件ブランコを押しているときの前傾姿勢から体を反転させ、本件ブランコに背を向け遠ざかろうとする行動をとることは、経験則的にも時間的にも空間的にもありえないと主張する。しかし、後記2の(2)に見るとおり、本件ブランコは、揺動のさせ方によっては60度以上まで揺動しうる構造となっており、当時の原告の体格を前提としても、両足を地面につけたままの状態でも40度程度まで揺らすことができ、そして、この40度程度の揺動の場合であっても、カゴは前後に約1メートル近く揺れ、カゴがこれを押す者から見て反対側に移動しきった状態ではカゴの中心部(最下端部分)は、本件ブランコの中心部から約50センチメートル近くも向こう側に移動するため、この状態で押していた原告の足が本件ブランコの中心部分付近に立ち至ったことは時間的・空間的に十分可能であったものと認められる。また9歳の児童であった原告が自己の身体に急激な勢いで迫ってくる本件ブランコから逃げようと、体を反転して本件ブランコから遠ざかろうとしたということが経験則的にありえない

ということはできないし、ブランコが揺動し頂点まで達してから揺り戻してくるまでには若干の時間はあるから、この間に前傾姿勢から咄嗟に体を反転させることは時間的にも不可能なこととはいえず、これらの点が前記認定の妨げとはならない。

また、被告Bは、本件ブランコを揺動している者が原告と同様の傷害を被る事故態様としては、背もたれ鉄パイプの上に両足を置いて立ち上がり、両手でブランコ上部の鉄パイプ枠をつかんで本件ブランコを揺動させているうちに、足を滑らせて4角形鉄パイプの枠の中心部分に落下して転倒した態様しか経験則上考えられないとも主張する。しかし、原告の被った傷害の部位・内容と前記認定の事故態様とは何ら矛盾するものではなく、むしろ、被告B主張のような転落による事故態様では、頭など身体の他の部分に傷害を被るのが通常であると見られる(新聞報道された例でも、ゆりかご型ブランコの揺動範囲内に転落した態様の事故では、頭蓋骨骨折の傷害などを被る例が多いことは後記2の(3)のとおりである。)ことに照らしても、被告Bの主張を採用することはできない。

2  争点(2)(被告Bの過失)について

(1) 本件ブランコの製造・販売

証拠(甲第4、証人F)によれば、本件ブランコは、昭和61年ころ、被告Bが製造して被告藤沢市に販売し、みどりの広場に設置されたものであることが認められる。

(2) 本件ブランコの構造・揺動範囲

当事者間に争いのない事実に証拠(甲第8の1ないし8、第13、第28の1、2、第32ないし34、第36、乙第1、第4の1ないし19、第5、証人G、検証の結果)をあわせると以下の事実が認められる。

ア 本件ブランコの構造は、別紙図面3のとおりであり、枠体は、直径4.86センチメートルの鉄パイプで組み立てられた台形の箱形の形状であり、この枠体の上部から4本の鉄パイプ(上から77センチメートルのところにベアリング装置が施されている。)が吊り下げられ、これに座席を設けたカゴが接続されている。枠体の重量は約70キログラム、カゴの重量は約90キログラムである。底部鉄パイプの上にはラワンの踏板が敷かれ、乗降口部分の底部鉄パイプの下部に湾曲型鉄パイプが設けられている。

イ 本件ブランコは、枠体を構成する底辺の4角形鉄パイプの4隅に足状の高さ3.77センチメートルの湾曲した鉄パイプが設置されており、コンクリート面のような堅くて水平な地面の上に置いた場合は、底部の4角形鉄パイプは地面から3.77センチメートル浮くこととなり、この状態では、底部鉄パイプの最低部と地面との間隔は30.4センチメートル、湾曲型鉄パイプの最低部と地面との間隔は18.9センチメートル、底辺の4角形鉄パイプの最上部と地面との間隔は8.5センチメートルと設計されている。

しかし、本件ブランコが公園等の通常の土の地面に設置された場合は、その重量などからも底辺の4角形鉄パイプの4隅の足状の鉄パイプは地中に埋没することが予想される構造となっており、実際にも、本件ブランコは、4隅の足状の鉄パイプのみならず底辺の4角形鉄パイプも一部は地面にめり込むような状態でみどりの広場に設置されていたことから、本件事故当時は底部鉄パイプの最低部と地面との間隔は約22センチメートル、湾曲型鉄パイプの最低部と地面との間隔は約11センチメートルであった。

ウ 本件ブランコは、揺動のさせ方によっては60度以上まで揺動しうる構造となっており、小学生程度の児童であってもカゴを両側から押すなどしてブランコの共振周波数に近い周期で力を加え続ければ40度以上に揺動させることが十分可能である。また、当時の原告の体格(身長約140センチメートル)を前提としても、両足を地面につけたままの状態でも体重を前後に移動させて押すことによって40度程度まで揺らすことができ、そして、この40度程度の揺動の場合であっても、カゴは前後に1メートル近く移動し、カゴがこれを押す者から見て反対側に移動しきった状態ではカゴの中心部(最下端部分)は、本件ブランコの中心部から50センチメートル近くも向こう側に移動する。このため、本件ブランコを40度以上に揺動させている場合は、その過程でブランコを揺動させている者の身体(とりわけ足の部分)が前進して4角形鉄パイプの枠の中心付近にまで至ってしまうおそれがあり、この付近で転倒すれば揺り戻ってきたカゴの真下近くに横たわる状態となってカゴと地面の間に挟まれる危険がある。

(3) 同種の事故の発生状況

証拠(甲第6の1ないし3、第7の1ないし3、第17の1ないし5、第18、第20の1ないし3、第25の1、2、第43、第45、第59ないし65の各1、2、第66、第69)によれば以下の事実が認められる。

ア 児童が何らかの原因で、大きく揺動しているゆりかご型ブランコのカゴの揺動範囲内に入り込み、カゴの底部と地面の間に挟まれて重大な傷害を被る事故は、比較的頻繁に生じている。

昭和35年2月8日には、被告Bが製造して東京都に販売し、東京都中央区の都営公園に設置されていたゆりかご型ブランコで遊んでいた4歳の児童が地上に落ちて隣のゆりかご型ブランコのカゴと地面の間に頭を挟まれ頭蓋骨が陥没し死亡した事故が発生し、この事故は新聞等でも大きく報道された。また、この事故をめぐっては、2基のゆりかご型ブランコを接着して設置することの危険性のほか、ゆりかご型ブランコと地面の間に挟まれて重大な人身事故に至る危険性を避けるために揺動幅を縮小することとカゴと地面の間に十分な幅を設けることの必要性を指摘した新聞報道もなされた。

イ また、本件事故と同種の事故のうち、本件事故の前後に新聞等で報道されたものを見ても、<1>平成3年5月4日、岐阜市で6歳の女児がカゴの底部と地面の間に頭を挟まれ、頭の骨を折る重傷を負った事故(この事故に関しては、岐阜市が同様の事故の再発の危険性を考慮して同市内の公園の58基のゆりかご型ブランコすべてを撤去する決定をしたことも新聞で報道されている。)、<2>平成3年5月、名古屋市で8歳の男児がゆりかご型ブランコで遊んでいてブランコと地面の間に挟まれて左足骨折の傷害を負った事故(この事故に関しては、ブランコと地面の間に十分な間隔がないことが欠陥であるとの理由で名古屋市を相手に損害賠償請求の訴訟が提起され、平成9年2月に名古屋市がゆりかご型ブランコを撤去することを条件に和解が成立したことが新聞報道された。)、<3>平成8年5月26日、長野県大町市で8歳の男児がゆりかご型ブランコを押していてブランコと地面の間に挟まれて肝臓破裂の重傷を負った事故、<4>平成8年5月28日、福島県郡山市で6歳の男児がゆりかご型ブランコの鉄製のカゴ(地面上約15センチメートル)と地面の間に挟まれて上半身に重傷を負った事故、<5>平成8年9月19日、静岡県浜松市で8歳の女児が鉄製のカゴと地面の間に頭を挟まれて頭の骨を折る重傷を負った事故、<6>平成9年10月6日、大阪府藤井寺市で6歳の男児がゆりかご型ブランコから転落し、鉄製のカゴの底部で頭を強く打ち死亡した事故、<7>平成9年10月28日、本件と同じ神奈川県藤沢市の別のみどりの広場に設置された本件ブランコと同様の構造・形状のゆりかご型ブランコで遊んでいた8歳の女児が地面とカゴの間に体を挟まれて左足大腿部を骨折した事故、<8>平成10年3月31日、熊本県球磨郡e町で13歳の女子中学生がカゴの背もたれ部分に立ってゆりかご型ブランコをこいでいて転落し地面に倒れ、頭にカゴが衝突して頭頂部陥没骨折の重傷を負った事故、<9>平成10年11月9日、兵庫県f町で12歳の女児がゆりかご型ブランコのカゴを押して遊んでいて転倒し、揺れ戻ってきたカゴの底で頭を強打し頭の骨を折る重傷を負った事故、<10>平成10年12月24日、宮崎県g町で11歳の女児がゆりかご型ブランコの背もたれの後ろに立ってこいでいて地面に転落し、カゴの底部(地面上約6センチメートル)と地面の間で頭を挟まれ脳挫傷のため死亡した事故等がある。

ウ 上記のような事故の発生を防止するため、被告Bも加わった社団法人公園施設業協会が平成9年6月に発行した「公園施設設計施工規準(案)」(甲第40)では、ゆりかご型ブランコのカゴの下端の高さを地面から最低33センチメートル確保するものとされている。

(4) 被告Bの注意義務とその違反

ア 本件ブランコのようなゆりかご型ブランコは、購入者によって公園等に設置され、主に幼児ないし小学校低学年の児童の使用のために提供されるものであるから、これを製造・販売する者としては、このような幼児ないし児童が通常予想される用法に従って使用する場合に、これらの者の生命や身体に重大な危害を及ぼすような危険な構造・形状のものを製造・販売してはならない注意義務を負うものというべきである。

一般に、遊具については、幼児や児童が様々な遊び方をする過程で何らかの傷害を被る可能性を完全に排除することはできず、このような可能性があることから直ちに製造・販売した者の過失を認めることはできないことはもちろんであるが、幼児や児童が通常予想される遊び方をする過程で生命や身体に重大な危害を及ぼすおそれのあるものを製造・販売することは、遊具というものの性質に照らしても許されないところである。

イ ところで、本件ブランコは、外見上は危険の少ない安全な遊具との印象を与える一方で、前記(2)のような構造・形状であることから、9歳程度の児童であっても、両側からカゴの背もたれの鉄パイプを握って揺らし続けると40度以上に揺動することができ、この場合、揺動の前後の幅も大きくなるため、カゴを押すために前進した児童が本件ブランコの中心付近に至る危険のあること、そして、このように前進した児童が速やかな後退に失敗して転倒した場合は、カゴの底部と地面との間がわずか約22センチメートルしか空いていないため、約90キログラム(カゴに児童が乗っている場合は、その児童の体重が加算される。)のカゴの底部と地面との間に挟まれて重大な傷害を被るおそれのある危険な構造・形状であったこと、本件事故は、本件ブランコのこのような危険な構造・形状のために生じたものであることは、それぞれ前記認定のとおりである。

ウ そして、児童が本件ブランコのような構造・形状のゆりかご型ブランコを両側から押し続けて揺動させて遊ぶことは稀有の出来事ではなく、むしろ通常予想される使用法であること、また、児童がこのようにして遊ぶ過程で前後に大きく揺動するカゴの揺動範囲内に立ち入って転倒したり、その他の原因で揺動範囲内に立ち入って退避に失敗した場合にはカゴの底部と地面との間に挟まれて重大な傷害を被る危険性が高いことは、このような遊具の専門的な製造・販売業者である被告Bにとっては十分予見可能な事柄であったというべきである。このことは、前記認定のとおり、ゆりかご型ブランコのカゴと地面の間に挟まれて重傷を被り、または死亡する事故が、被告B製造のゆりかご型ブランコによるものも含めて、相当頻繁に発生していることによっても裏付けられるものというべきである。なお、本件ブランコのようなゆりかご型ブランコが主に公園等の土の地面に設置されるものである以上、本件ブランコが実際にそうであったように、底辺の4角形鉄パイプの4隅に設けられた足状の鉄パイプ部分は地中に埋没し、その分だけカゴと地面の間の幅が狭くなることも被告Bは十分予見可能であったというべきである。

エ そうすると、被告Bが、低年齢の児童の力によっても大きく揺動する一方でカゴの底部と地面との間がわずかしかないため上記のような危険性を有する本件ブランコを製造・販売し、児童の使用に提供させ、その結果本件事故を招いたことは、同被告の負っている前記注意義務に反する過失というべきである。

(5) 被告Bの主張について

これに対し、被告Bは、児童がカゴに乗り降りする際に転倒する危険を避けるためにカゴの床部分と地面との間隔を約25センチメートルとしたことは合理的であり過失はないと主張するが、カゴと地面との間隔が30センチメートル以上あっても乗り降りに不自由はなく(甲第37の1ないし5)、また、稀にこのような転倒が生じうる危険があるとしても、これにより生じうる結果は、本件事故のようなカゴの底部と地面の間に挟まれて生じる死傷事故の結果の重大性に比べると比較的軽度のものであるから、この主張を採用することはできない。

また、被告Bは、<1>カゴの底部と地面の隙間に児童が入れないようにするために湾曲型鉄パイプを設置していること、<2>カゴを吊り下げている4本の鉄パイプの中間にベアリング装置を施し、かつ、カゴの重量を重くすることにより児童の力では40度以上に揺動しないようにしたこと、<3>カゴに乗っていない児童の身体がブランコが揺動する空間に入りにくくするため枠体が地面に接地する部分に4角形鉄パイプを設けていることにより安全性に配慮していると主張する。しかし、本件ブランコが9歳程度の児童の力によっても40度以上に大きく揺動することは上記認定のとおりであり、また、その余の上記<1>や<3>の措置を講じても、児童が揺れ戻ってきたカゴと地面の隙間に挟まれる態様の事故を防止することはできない以上、過失を否定する根拠とはならない。

3  争点(3)(被告藤沢市の過失)について

国家賠償法2条1項が規定する「営造物の設置又は管理」の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうところ、被告藤沢市が、安全な遊具としてみどりの広場において設置・管理し、児童の使用に提供していた本件ブランコは、前記認定のとおり、低年齢の児童であっても両側からカゴを揺らし続けると40度以上に揺動し、カゴを揺らす過程で前進した児童が本件ブランコの中心付近に至り、速やかな後退に失敗して転倒した場合、カゴの底部と地面との間がわずかに約22センチメートルしか空いていないため、児童が、約90キログラムまたはそれ以上の重量のカゴの底部と地面との間に挟まれて重大な傷害を被るおそれのある危険な構造・形状であったのであるから、本件ブランコは通常有すべき安全性を欠いていたものといえる。

また、前記認定のとおり、本件事故と同種の事故が各地で相当頻繁に生じ、その一部が新聞等によって報じられており、児童が上記のような方法で遊ぶ過程で本件のような事故が生じる危険性があることは、本件事故当時十分予見可能な状況にあったといえるところ、前記のような報道がなされた後も、被告藤沢市は、本件ブランコを点検し、安全と考えられるカゴの高さを確保するなどの措置を全く講じていなかったのであるから(丙第7、証人F)、本件ブランコの設置・管理の瑕疵があったというべきである。

証人Fは、被告藤沢市は、本件ブランコの設置にあたり遊具メーカーのカタログ等を取り寄せて安全性を判断し、設置後に設計図どおりに設置されているかどうかを確認して安全性の確認をしたこと、設置後は遊具専門業者である株式会社Hと業務委託契約を締結し、定期的に接合部の弛みや耐久力、摩減等を調査・点検していたこと等を供述するが、本件事故に関して問題となる上記のような構造上の瑕疵について何らの措置がとられていない以上、被告藤沢市の国家賠償法2条1項の責任を否定することはできない。

4  争点(4)(原告の損害)について

(1) 治療費(診断書作成料含む)     29万6020円

証拠(甲第1、第9の1ないし21、第10の1、2)によれば、原告は、本件事故により右大腿骨転子下骨折の傷害を受け、その治療費及び診断書作成料として29万6020円を要したことが認められる。

(2) 入院付添費             15万0000円

証拠(甲第1、第35)によれば、原告は、本件事故により右大腿骨転子下骨折の傷害を受け、右大腿部外側に約10センチの手術創が残る手術を受けたこと、平成9年10月23日から同年12月6日までの45日間及び平成10年3月26日から同月30日までの5日間の合計50日間、I病院に入院したこと、原告は、手術前後、怪我をした足の牽引を行ったため、自由に動くことができず、トイレ・食事の世話などに両親の看護が必要であり、また、その年齢等からも、入院期間中、両親のいずれかが毎日訪れて世話をせざるを得なかったこと、ただし、そのうち大半は、午後3時から午後7時までの面会時間に限られていたことが認められる。

上記認定の傷害の部位、程度、原告が9歳と幼かったこと、反面、付添の時間帯は限られていたことなどの諸般の事情を考慮すると、入院付添費は1日あたり3000円(50日分で計15万円)と認めるのが相当である。

(3) 入通院交通費             4万5950円

証拠(甲第11の1ないし31)によれば、原告は、本件事故により、入通院交通費として計4万5950円を支出したことが認められる。原告は、7万8350円を支出した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(4) 入院雑費               6万5000円

上記認定のとおり、原告は、本件事故により、合計50日間入院しており、入院雑費は、1日あたり1300円(合計6万5000円)と認めるのが相当である。

(5) 入通院慰謝料及び後遺症慰謝料   100万0000円

前記認定のとおり、原告は、本件事故により右大腿部外側に約10センチの手術創が残る手術を受け、合計50日間I病院に入院したほか、合計10日間同病院に通院したこと(甲第1)、この間長期にわたり通学できず、通学可能となった後も約1か月にわたり松葉杖の使用を余儀なくされたこと(甲第35)、ただし、上記大腿部外側の手術創が原告主張のように醜状痕といえるほどのものと認めるに足りる証拠はないこと、その他、前記認定の傷害の部位、程度、原告の年齢等諸般の事情を考慮すると、入通院慰謝料及び後遺症慰謝料を合わせて100万円と認めるのが相当である。

(6) 過失相殺

原告は、上記のとおり、本件事故当時、9歳(小学校3年生)であったが、この年齢の児童であっても、本件ブランコのカゴを両側から交互に押し続けることによって大きく揺動させ、その過程で重量のある鉄製のカゴの揺動範囲内に立ち入れば、場合により転倒その他の理由で揺動範囲外に退避することに失敗して重大な事故に至りうることは十分に予測可能であったものであるから、本件事故については原告にも過失があったものというべきである。そして、被告らと原告の過失を対比すると、原告の上記損害額から3割を減額するのが相当である。

したがって、被告らが原告に対して賠償すべき金額は、上記の合計額155万6970円の7割にあたる108万9879円となる。

(7) 弁護士費用             15万0000円

前記認容額、本件事案の内容、難易度、審理の経過等を勘案すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は15万円と認めるのが相当である。

(8) 以上より、被告らは原告に対し、本件事故に基づく損害賠償として、連帯して123万9879円を支払う義務がある。

第4結論

したがって、原告の請求は、被告らに対して連帯して金123万9879円及びこれに対する不法行為の日である平成9年10月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西村則夫 裁判官 長尾美夏子 裁判官 坂本康博)

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