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横浜地方裁判所 平成10年(ワ)1761号 判決 2001年1月26日

原告

エー・ディー・ジャパン株式会社

同代表者代表取締役

藤田徹

同訴訟代理人弁護士

武井共夫

野呂芳子

金谷達成

引受参加人

西日本電信電話株式会社

同代表者代表取締役

浅田和男

同訴訟代理人弁護士

真砂泰三

岩倉良宣

中川由章

被告(脱退)

日本電信電話株式会社

同代表者代表取締役

宮津純一郎

被告

エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社

同代表者代表取締役

岩場洋

同訴訟代理人弁護士

真砂泰三

岩倉良宣

中川由章

主文

1  被告エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社は、原告に対し、金三四五万円及びこれに対する平成一〇年六月五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社に対するその余の請求及び引受参加人に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社の負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

引受参加人及び被告エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社は、原告に対し、連帯して金六九〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月五日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件は、企業内外の人材の教育訓練、経営指導等を業とする原告が、引受参加人及び被告エヌ・ティ・ティラーニングシステムズに対し、二度にわたり社員の研修実施委託契約を締結したにもかかわらず、被告らがこれらを一方的にキャンセルしたと主張して、主位的に各契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、予備的にいわゆる契約締結上の過失による損害賠償請求権に基づき、その各損害賠償を請求した事案である。

1  争いのない事実

(1)  当事者等

ア 原告は、企業内外の人材の教育訓練、経営指導等を業とする株式会社である。

イ 被告(脱退)日本電信電話株式会社(以下「被告NTT」という。)は、国内電気通信事業を経営することを目的とする株式会社である。

ウ 被告NTTは、引受参加人(西日本電信電話株式会社)に対し、平成一一年七月一日、日本電信電話会社法の一部を改正する法律(平成九年法律第九八号)に基づきその営業を譲渡した。

エ 被告エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社(以下「被告ラーニング」という。)は、教育研修の実施、実務支援システムの開発・販売及び映像制作等を業とする株式会社であり、被告NTTの関連会社である。

オ 訴外エー・ディー・コンサルティング株式会社(平成九年一一月一三日に「株式会社マネジメントアクセス」に商号変更、以下「訴外ADC」という。)は、原告代表者藤田徹(以下「藤田」という。)が原告の関西における営業窓口として平成四年に設立し、平成九年一一月一三日まで代表取締役を務めた会社である。

(2)  原告の被告NTT関西支社社員に対する研修の実施

ア 原告ないし原告代表者藤田は、平成元年度から九年度までの間、被告NTT関西支社の社員に対し、別紙研修実績表記載のとおり、研修を担当し実施してきた。

しかし、平成九年度アセスメント研修は実施されず、同インターン研修は原告が担当することができなかった。なお、平成九年度の新任係長研修は、同年五月一二日から同年七月二四日ころまでの間、一七コース(一コース三日間)に分けて実施された。

イ 別紙研修実績表記載の「リーダーシップ強化研修」とは、新任係長を対象とした研修であり、平成五年度から、「新任係長研修」に名称変更され、同表記載の「アセスメント研修」とは、課長からタスク長への任用候補者を対象とした研修であり、同「インターン研修」とは、係長等から課長への任用候補者を対象とした研修であった。

2  本件の争点

(1)  平成八年度までの各研修実施委託契約の当事者はだれか。

(2)  平成九年度のアセスメント研修実施委託契約が成立したか。

(3)  平成九年度のインターン研修実施委託契約が成立したか。

(4)  被告ラーニングらに契約締結上の過失があるか、及び原告の損害額はいくらか。

3  争点についての原告の主張

(1)  平成八年度までのアセスメント研修及びインターン研修の実施委託契約の委託者は被告NTT及び被告ラーニングであり、受託者は原告である。

(2)  原告と被告らは、従前から、研修開催日程を記載した日程表の授受をもって、原告と被告らとの間に研修実施委託契約が成立するとしてきたものであるところ、被告ラーニングの増田道晴部長代理(以下「増田部長代理」という。)は、原告に対し、平成九年四月一〇日ころ、ファックスにより平成九年度のアセスメント研修の日程(同年六月一六日から同年七月三〇日までの期間に四コースを実施予定)を記載した日程表を送付したので、これにより、原告と被告らとの間に、同年六月から七月までの期間、原告が被告NTT関西支社の社員に対し四コースのアセスメント研修を実施し、被告らが原告に対し相当額の報酬を支払う旨の研修実施委託契約が成立した。

ところが、被告らは、上記研修を一方的にキャンセルしたうえ、原告に対し一切報酬を支払わない。同研修一コースあたりの相当な報酬額は三〇〇万円であるから、原告は、四コース分の報酬一二〇〇万円と同額の損害を被った。

よって、原告は、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告ラーニング及び被告NTTの債務承継人である引受参加人に対し、連帯して、損害金一二〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一〇年六月五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

(3)  被告ラーニングの増田部長代理は、原告代表者藤田に対し、平成九年六月二三日、平成九年度のインターン研修の日程(同年九月から一一月までの期間に一九コースを実施予定)を記載した日程表を交付し、藤田は、これを受領した。これにより、原告と被告らとの間には、同年九月から一一月までの期間、原告が被告NTT関西支社の社員に対し一九コースのインターン研修を実施し、被告NTT及び被告ラーニングが原告に対し相当額の報酬を支払う旨の研修実施委託契約が成立した。

ところが、被告らは、上記研修を一方的にキャンセルしたうえ、原告に対し一切報酬を支払わない。これにより、原告は、一九コース分の報酬五七〇〇万円と同額の損害を被った。

よって、原告は、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告ラーニング及び引受参加人に対し、連帯して、損害額五七〇〇万円及びこれに対する前記平成一〇年六月五日から支払済みまで前記と同率の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

(4)  仮に、平成九年度のアセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約の成立が認められないとしても、次のとおり、被告らには、いわゆる契約締結上の過失があるので、原告に対し、同過失に基づく損害を賠償すべき義務がある。

ア 原告と被告らとは、別紙研修実績表記載のとおり、平成元年から平成八年まで継続的に被告NTT関西支社の社員に対するアセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約を締結し、これらが実施されてきたものであるから、平成九年度のアセスメント研修及びインターン研修についても、相互にその実施委託契約が締結されるものと期待する合理的な理由があり、契約の準備段階にあった。したがって、原告と被告らは、信義則の支配する緊密な関係に立ち、相互に相手方に損害を被らせないように配慮すべき信義則上の注意義務を負っていた。そして、被告らは、原告が、平成九年度のアセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約が締結されるものと信じ、その実施に向けて講師の日程を拘束する等の準備行為を行うことを容易に予見することができたのであるから、予定の時期にこれらの研修を実施しないこととなった場合には、原告に対し、その旨を遅滞なく告知するなどの配慮をすべき信義則上の注意義務を負っていた。

イ(ア) ところが、被告らは、平成九年三月中旬ころ、同年度のアセスメント研修を実施しないことを決定したにもかかわらず、原告に対し、そのことを告知しなかった。

(イ) 原告は、平成九年度アセスメント研修の実施委託契約が締結されるものと信じ、これを前提として、同年六月一六日から同年七月三〇日までの間、四名の講師を三日ないし六日間確保していたため、これらの講師に対し、一日当たり四万円、合計八四万円の違約金の支払義務を負うに至った。

(ウ) よって、原告は、同年度のアセスメント研修について、信義則上の注意義務違反の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告ラーニング及び引受参加人に対し、連帯して、損害金八四万円及び前記平成一〇年六月五日から支払済みまで前記と同率の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

ウ(ア) また、被告らは、平成九年九月に予定していた同年度のインターン研修の実施を何度も予定変更し、同年一一月まで延期した上、同月七日ころ、原告との間の同実施委託契約締結交渉を破棄し、同研修を訴外ADCに委託した。

(イ) 原告は、上記契約が締結されるものと信じ、これを前提として、同年九月一六日から同年一一月二七日までの間、五名の講師を九日ないし二四日間確保していたため、これらの講師に対し、一日当たり四万円、合計三四八万円の違約金の支払義務を負うに至った。

また、原告は、上記契約が締結されることを前提として、五名の社員を三か月ないし四か月間継続して雇用し、これらの者に給与を支払い続けていたため、給与相当額合計五八四万四〇〇〇円の損害を被った。

(ウ) よって、原告は、同年度のインターン研修について、前記信義則上の注意義務違反の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告ラーニング及び引受参加人に対し、連帯して、損害金九三二万四〇〇〇円及び前記平成一〇年六月五日から支払済みまで前記と同率の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

4  争点に対する被告の主張

(1)  従前のアセスメント研修及びインターン研修の実施委託契約の委託者は、被告ラーニングであり、受託者は訴外ADCである。原告及び被告NTTは、いずれも契約当事者ではない。

(2)  原告と被告らが、従前、研修開催日程表の授受をもって、研修実施委託契約の成立としてきたことはなく、また、被告ラーニングの増田部長代理が、原告に対し、平成九年四月一〇日ころ、ファックスにより平成九年度アセスメント研修の日程表を送付したことはない。原告が平成九年度アセスメント研修の日程表であると主張する書面は、平成八年度までの研修会場であるホテルアピカルイン京都が作成した「仮予約確認書」にすぎないから、いずれにせよ原告と被告らとの間に平成九年度のアセスメント研修実施委託契約が成立したとはいえない。

(3)  前記のとおり、原告と被告らが、従前、研修開催日程表の授受をもって研修実施委託契約の成立としてきたことはなく、また、被告ラーニングの増田部長代理が、原告に対し、平成九年六月二三日、平成九年度インターン研修の日程表を交付したという事実はないから、原告と被告らとの間に同インターン研修の実施委託契約が成立したとはいえない。

(4)ア  原告代表者藤田は、平成九年度のアセスメント研修が実施されないことを認識しており、また、被告NTT関西支社の齋籐明彦人材開発担当(以下「齋籐担当」という。)は、訴外ADCの吉野佳幸営業企画課長(以下「吉野課長」という。)に対し、平成九年三月中旬ころ、同研修を実施しないことを告知している。したがって、被告ラーニングには、アセスメント研修について、いわゆる契約締結上の過失はない。原告主張の同研修に関する損害額については争う。

イ 被告ラーニングが、平成九年度インターン研修について、具体的にその日程を決めたことはなく、したがって、その日程を変更したこともない。また、同研修の実施委託契約締結交渉を破棄したのは、同研修の日程が迫っていたため、原告に対し、平成九年一一月四日、最終回答期限(同月七日午後零時)を示して契約受諾の回答を求めたにもかかわらず、原告が、同期限を過ぎても何ら回答をせず、その後、契約の受諾を拒否したからであって、被告ラーニングが契約締結交渉を破棄したのには正当な理由があった。したがって、被告ラーニングに契約締結上の過失はない。原告主張の同研修に関する損害額については争う。

第3  争点に対する当裁判所の判断

1  証拠(甲第1ないし10号証、第11号証の1ないし69、第12号証の1ないし8、第13号証の1ないし18、第14号証の1ないし3、第16号証、第19、第20号証、第23号証、第24号証の1ないし4、第25号証、第26号証の1、2、第27号証、第28号証の1ないし7、第29号証の1ないし3、第30、第31号証、第32号証の1、2、第33号証の1ないし5、乙第7、第8号証の各1、2、第9号証、第10号証の1、2、第11号証、第12号証の1、2、第13ないし第17号証、証人増田道晴、同浅野進、同吉野佳幸、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1)  被告NTTは、訴外株式会社日本マンパワー(以下「訴外マンパワー」という。)に対し、平成元年度から平成五年度までの各年度のアセスメント研修及び平成三年度リーダーシップ強化研修の実施を委託し、これを受けて、訴外マンパワーは、原告に対し、同各研修の実施を再委託し、原告は、原告代表者藤田を含む講師を派遣して被告NTT関西支社の社員に対し同各研修を実施してきた。また、被告NTTは、訴外株式会社MSC(以下「訴外MSC」という。)に対し、平成四年度及び平成五年度インターン研修の実施を委託し、これを受けて、訴外MSCは、原告に対し、同各研修の実施を再委託し、原告は、原告代表者藤田を含む講師を派遣して被告NTT関西支社の社員に対し同各研修を実施してきた。ところが、被告ラーニングが関西支社(本店東京)を開設した平成四年ころから、平成四年度のリーダーシップ強化研修については、被告NTTが被告ラーニングに対しその実施を委託し、被告ラーニングが訴外マンパワーにこれを再委託し、訴外マンパワーが原告に対しこれを再々委託し、原告が原告代表者藤田を含む講師を派遣してこれを実施するという形態をとり、また、平成五年度以降の新任係長研修(リーダーシップ強化研修の名称を変更したもの)並びに平成六年度以降のアセスメント研修及びインターン研修については、被告NTTが被告ラーニングに対しその実施を委託し、被告ラーニングが原告にこれを再委託し、原告が原告代表者藤田を含む講師を派遣してこれを実施するという形態をとるようになり、原告は、訴外マンパワー及び訴外MSCを通さないで、同各研修の実施を委託されるようになった。

なお、原告と被告ラーニングは、従前から、アセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約を締結するに際して、正式な契約書類を一切作成していなかった。また、原告は、各研修の日程、内容等の具体的な細目については、訴外ADCを通じて被告ラーニングと打合せをしてきた。

(2)  被告ラーニングの増田部長代理は、平成八年一二月二六日ころ、被告NTTの齋籐担当から指示されて、平成六年度以降にアセスメント研修会場として使用してきたホテルアピカルイン京都に対し、平成九年度アセスメント研修の実施会場とするため、平成九年六月一六日から同年七月三〇日までの間の一二日分の使用の仮予約を入れたが、結局、被告NTTは、平成九年三月中旬ころ、同年度のアセスメント研修を実施しないことを正式に決定した。しかし、被告NTTは、原告や訴外ADCに対し、同研修が実施されないこととなった旨を知らせなかった。

原告代表者藤田は、同年四月ころまでに、上記ホテルから、同年度のアセスメント研修仮予約確認書(甲第3号証)を入手し、同研修の会場が確保されていることを知っていた上、被告らから同年度アセスメント研修が実施されないこととなった旨の告知を受けていなかったため、これが実施されるものと信じ、被告NTTに対し、同年四月一五日ころ、平成九年度のアセスメント研修に関する提言も記載した「一九九六年度(平成八年)アセスメント研修の御報告」と題する書面を提出した。しかし、被告NTTから、これに対する応答は全くなかった。

そして、増田部長代理は、齋籐担当から、同年四月二八日、平成九年度のアセスメント研修を実施しない旨の連絡を受けたので、同日、ホテルアピカルイン京都の仮予約をキャンセルしたが、そのことについても、原告や訴外ADCに対し、速やかに告知しなかった。

原告代表者藤田は、被告らから、平成九年度のアセスメント研修が実施されないことと決まり、実施会場であるホテルの仮予約がキャンセルされたことを速やかに告知されなかったため、同研修が実施されるものと信じ、同研修の実施の準備として、すでに平成九年度新任係長研修(同年五月一二日から同年七月二四日までの間実施)の講師として予定されていた訴外内海東美子外数名に対し、同年六月一六日から同年七月三〇日までの間の三日ないし六日間について、その講師となることを依頼した。しかし、藤田は、同年五月下旬ころ、前記ホテルから、同研修の会場仮予約がキャンセルされたことを聞知し、そのころ、これらの講師予定者に対し、新任係長研修の講師としてのみ専念することを指示し、その了解を得た。

(3)  増田部長代理は、齋籐担当から、平成九年度インターン研修の実施会場を予め確保しておくよう指示され、平成九年一月中旬ころまでに、東京会場として東京都内のホテルストラーダ新宿を同年九月一六日から同月二八日まで、関西会場として大阪市内の大阪リバーサイドホテルを同年九月二九日から同年一一月二七日まで、それぞれ予約し、東京コースとして三コース(いずれも一コース二一名、三日間)、関西コースとして一一コースの各日程を計画していたところ、原告代表者藤田は、同年七月初旬ころまでに、ホテルストラーダ新宿から、東京三コースの日程を聞き出し、従前どおり、同研修を受託できるものと考えてこれに備えていた。

その後、原告代表者藤田及び吉野課長と被告NTT関西支社の樫木伸幸総務部人事課長(以下「樫木課長」という。)、同浅野進人材開発担当課長(以下「朝野課長」という。)、同中東宏第一人材開発担当主査(以下「中東主査」という。)、同仲秀人第一人事担当主査及び吉野和範人事担当は、平成九年七月二二日、大阪にあるリバーサイドホテルの喫茶室において会談したが、その際、被告NTT側は、原告代表者藤田に対し、平成九年度は、被告NTTの分割により管理職人事制度の見直しが予定されており、インターン研修の内容等が明確でなく、東京コースについては、被告NTT本社との調整もあり実施の有無を含めて未定であるが、被告NTT関西支社としては、実施対象人員を平成八年度の約半数である一五〇名程度に減らして一〇月及び一一月に実施することを予定しているとの趣旨の説明をした。そのうえで、樫木課長は、原告代表者藤田に対し、平成九年一〇月に八コースを実施するのでスケジュールをとっておいて欲しい旨を告げた。

被告ラーニングの増田部長代理は、同年八月二六日、齋籐担当の指示により、インターン研修の東京会場として確保していたホテルストラーダ新宿の前記予約をキャンセルし、そのころ、訴外ADCの吉野課長を通じて、原告代表者藤田に対し、同キャンセルの報告をし、東京コースの実施は未定である旨を告げた。

(4)  その後、被告ラーニングの増田部長代理は、訴外ADCの吉野課長からインターン研修の会場予約状況に関する情報の提供を求められたため、平成九年九月五日ころ、同課長に対し、「平成九年度NTT関西支社計画研修「インターン(MA)研修」(仮称)日程表」と題する書面(乙第12号証の2)をファックスにて送付し、原告代表者藤田は、そのころ、同日程表を入手した。同日程表によれば、関西コースとして、平成九年九月二九日から同年一一月二七日までの間、一一コース(一コース三日間)が大阪リバーサイドホテルにおいて行われる予定となっており、そのうち、同年一〇月六日から同月三一日までの間の七コースについて、網掛け表示が付され「関西実施七コース」との記載がなされていた。

そこで、藤田は、従前どおり、平成九年度のインターン研修の実施を受託できるものと考えて、同日程表に従い、各講師を確保する等の準備をした。

(5)  齋籐担当は、吉野課長を通じて、原告代表者藤田に対し、平成九年九月二二日、インターン研修を一一月に実施するとした場合に、二コースを同時並行(重複コース)で行う必要があるが、それが可能かどうかを問い合わせた。

また、齋籐担当は、吉野課長を通じて、原告代表者藤田に対し、同年九月三〇日、再度、上記同時並行の実施が可能かどうかを照会し、さらに、同年一〇月一日、被告NTTの日程案(メイン講師が週に一日だけ二コースを担当するという案)を記載した「インターン研修における講師人数について」と題する書面(甲第7号証)をファックスにより送付した。これに対し、藤田は、吉野課長を通じて、齋籐担当に対し、講師と日程の調整中であるから待って欲しいとの回答をした。

(6)  原告代表者藤田は、平成九年一〇月七日、被告NTT関西支社を訪問し、浅野課長、中東主査及び齋籐担当と面談し、平成九年度インターン研修の実施日程の確認と当初の実施予定日が遅れたことによるキャンセル料の支払を申し入れた。これに対し、被告NTT側は、藤田に対し、NTTの分割が予定されていて責任者の決裁が取りにくいことや経営状態悪化による経費節減の要請が出ていることなどのため、インターン研修の実施日程について最終的な結論は出ていないが、早くても同年一一月の第二週からの開始になること、同月八日に副支社長から日程について了解をもらったうえで回答すること、キャンセル料については支払が難しいことなどを回答した。しかし、同月八日までに副支社長に連絡がつかなかったことから、浅野課長は、吉野課長に対し、同月八日、その旨を報告した。

中東主査は、吉野課長に対し、同年一〇月二一日、平成九年度インターン研修について、東京コースは一一月中旬に二コース程度実施、関西コースは一一月下旬から一二月下旬に実施する予定である旨の情報提供を行ったうえ、二コース同時並行の実施が可能かどうか、一コースあたりの受講者数を最大二五名としても実施可能かどうかについて回答が欲しい旨の照会を行った。

(7)  原告代表者藤田は、吉野課長から、同月二七日、同照会への回答が求められたが、日程が切迫していたことや前記キャンセル料の支払問題が解決していなかったことから、直ぐにはこれに回答しなかった。すると、吉野課長からその旨の報告を受けた齋籐担当は、吉野課長に対し、同日、インターン研修の日程をやっと確保したとして、東京コースを同年一一月一七日から同月二一日までと同月一九日から同月二一日までの二コース、関西コースを同月二六日から同月二八日まで、同年一二月一日から同月三日まで、同月三日から同月五日まで、同月八日から同月一〇日まで、同月一〇日から同月一二日まで、同月一五日から一七日までの七コース実施する旨を口頭で説明したうえ、原告代表者藤田に対して再度前記の照会をして欲しい旨依頼した。

原告代表者藤田は、浅野課長に対し、同年一〇月三一日、電話により、インターン研修の日程が変更になっているのでそのキャンセル料の支払を検討して欲しい旨及びインターン研修を同年一一月及び一二月だけでなく平成一〇年一月及び二月にも実施して欲しい旨を要請した。

(8)  浅野課長、中東主査及び齋籐担当は、平成九年一一月四日、被告NTT関西支社において吉野課長と面談し、同課長に対し、被告NTTが同年一〇月二七日に口頭で説明したインターン研修の実施日程が正確に伝わっていない可能性があるとして、同説明と同一内容の日程が記載されている「インターン研修業務等スケジュール(案)」と題する書面(甲第8号証)を手渡した上、前記照会に対する原告代表者藤田の回答が未だないことについて釈明を求めた。これに対し、吉野課長は、原告代表者藤田に問い合わせても、回答がないことを説明した。

そこで、浅野課長や中東主査らは、協議の結果、吉野課長に対し、同年一一月四日、上記照会に対する最終回答期限を同月七日の午後零時とする旨を電話により告知し、これを受けて、吉野課長は、原告代表者藤田に対し、直ちにその旨を伝えた。しかし、原告代表者藤田は、これを受諾する意思を有していたが、キャンセル料の支払の件やインターン研修を平成一〇年一月及び二月にも実施する件につき被告NTTから未だ回答がなかったことから、吉野課長に対し、明確な回答をしなかった。

(9)  浅野課長、中東主査及び齋籐担当は、平成九年一一月七日午後零時を過ぎても原告代表者藤田から回答がなかったため、同日午後一時、被告NTT関西支社において吉野課長と面談して原告代表者藤田の意向を確認したが、その際、吉野課長は、藤田がキャンセル料の問題にこだわっており、最終期限が過ぎていることを伝えたがインターン研修を受諾する旨の回答をしなかった旨の説明をした。

被告NTTは、同日、平成九年度インターン研修の実施を原告に委託しないことを決め、直ちに、訴外ADCに対し、同研修の実施を委託した。訴外ADCは、同委託に基づき、同年一一月一七日から同年一二月一七日までの日程で、同年度のインターン研修を実施した。

2  争点(1)(平成八年度までの各研修実施委託契約の当事者)について

アセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約の契約当事者について、原告は、原告と被告らであったと主張し、被告らは、訴外ADCと被告ラーニングであったと主張する。

証拠(甲第11号証の1ないし69、第12号証の1ないし8、第19号証)によれば、平成八年度のアセスメント研修及びインターン研修の報酬は、原告から被告ラーニング宛に請求書が発行され、これを受けた被告ラーニングから原告名義の銀行口座に振込送金されていたことが認められ、これと前記認定事実を併せると、平成八年度までのアセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約は、委託者を被告ラーニング、受託者を原告として締結されてきたものと認めることができる。

もっとも、証拠(乙第2、第3号証、第12号証の1、2、第13、第14号証、証人浅野進、同増田道晴、同吉野佳幸、原告代表者本人)によれば、上記報酬請求書の作成事務は訴外ADCが担当し、同訴外会社から被告ラーニングに送られていたこと、被告ラーニングとの間の日程の調整、講師の決定等の交渉事務は、訴外ADCの吉野課長が担当してきたことが認められるが、これらは、上記認定を妨げるものではない。

また、前記認定事実及び証拠(甲第4号証、第10号証、原告代表者本人)によれば、原告代表者藤田は、平成七年に平成六年度のアセスメント研修及びインターン研修の報告書を被告NTT関西支社に宛てて提出し、平成九年に平成八年度のアセスメント研修及びインターン研修の報告書も被告NTT関西支社に宛てて提出したこと、アセスメント研修及びインターン研修の日程等の打合せには、被告NTT関西支社の人事担当社員が深く関与していたことがそれぞれ認められるが、これらの事実だけでは、各研修実施委託契約の原告に対する委託者が被告NTTであったとまで認めるには足りず、これを認めるに足りる証拠はない。

上記のとおりであり、平成八年度までのアセスメント研修及びインターン研修の各実施委託契約の当事者は、原告と被告ラーニングであったというべきであるから、従前から原告と被告NTTとの間にも同各契約が成立していたことを前提とする原告の引受参加人に対する主位的請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。また、原告の引受参加人に対する予備的請求についても、契約当事者でない被告NTTの債務承継人である引受参加人に対し契約締結上の過失に基づく請求をすることはできないから、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。

3  争点(2)(平成九年度のアセスメント研修実施委託契約の成否)について

原告は、原告と被告らとの間においては、従前から研修開催日程を決めた日程表の授受をもって、研修実施委託契約が成立するものとされてきたところ、平成九年度アセスメント研修についても、増田部長代理から、平成九年四月一〇日ころ、ファックスにより、同研修日程表の送付を受け、これを受領したので、これにより同研修実施委託契約が成立した旨主張する。

前記認定事実によれば、原告と被告ラーニングは、従前から、アセスメント研修の実施委託契約を締結するにつき正式な契約書類を作成していなかったことを認めることができるが、本件全証拠を検討してみても、原告と被告ラーニングとの間において、単に、研修開催日程を決めた日程表の授受のみをもって、研修実施委託契約が成立するものとされてきたことを認めるに足りる証拠はない。

また、本件全証拠を検討してみても、原告が、増田部長代理から、平成九年四月一〇日ころ、アセスメント研修の日程表の送付を受けたことを認めるに足りる証拠はない。同日程表の送付を受けた旨の原告代表者本人の供述は、前記1項の各証拠に照らしてたやすく採用できない。

したがって、原告と被告らとの間に平成九年度アセスメント研修実施委託が成立した旨の原告の主位的請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。

4  争点(3)(平成九年度のインターン研修実施委託契約の成否)について

原告は、平成九年度のインターン研修についても、前記同様の経緯があり、増田部長代理から、平成九年六月二三日、同研修の日程表の交付を受け、これを受領したことにより原告と被告らとの間に同研修実施委託契約が成立した旨主張し、原告代表者本人は、これにそう供述をするが、これは前記1項の各証拠に照らしてたやすく採用できず、他に、上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告と被告らとの間に平成九年度インターン研修実施委託契約が成立した旨の原告の主位的請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。

5  争点(4)(いわゆる契約締結上の過失の有無及び損害額)について

(1)  アセスメント研修について

前記認定事実によれば、原告は、被告ラーニングとの間で、平成四年度のリーダーシップ強化研修、平成五年度ないし平成八年度の新任係長研修並びに平成六年度ないし平成八年度のアセスメント研修及びインターン研修につき、その実施委託契約を締結し、これらを実施してきたこと、この間、原告と被告ラーニングは、契約書類を一切作成せず、各研修の予定日程表の授受によって研修を実施してきたこと、平成九年度についても、原告は、被告ラーニングから新任係長研修の実施を受託し、同年五月一二日から同年七月二四日までの日程でこれを履行したこと、また、被告ラーニングの増田部長代理は、平成九年度アセスメント研修の日程を同年六月一六日から同年七月三〇日までと企画し、ホテル会場を仮予約しており、原告も、同年四月ころまでに、同ホテル会場の仮予約確認書を入手して、同研修のための会場が確保されていることを知っていたことなどが認められる。

原告は、上記のような場合、原告が、平成九年度のアセスメント研修について、その実施委託契約を締結できるものと期待する合理的な理由があったというべきであり、被告ラーニングがそのことを予見し得たのであるから、被告ラーニングは、平成九年度のアセスメント研修について、これを実施しないことを決定した場合には、従前の研修の実施委託契約の相手方である原告に対し、その旨を遅滞なく告知するなどして、無用の損害を被らせないように配慮すべき信義則上の注意義務を負っていた旨主張する。そして、前記認定事実によれば、被告NTTの人事担当社員は、平成九年三月中旬ころ、同年度のアセスメント研修を実施しないことを決定したにもかかわらず、これを同年四月二八日ころまで被告ラーニングに告げず、また、被告ラーニングも、原告及びその関西における営業窓口である訴外ADCに対し、速やかにその旨を告知しなかったことが認められる。

しかしながら、前記認定事実及び前記1項の各証拠によれば、被告ラーニングは、平成九年度のアセスメント研修の実施会場としてホテルアピカルイン京都を仮予約していたものの、被告NTTから同研修を実施する旨の確定的な通知を受けたことはなく、したがって、原告に対しても、これを実施する旨の告知をしたことがなかったこと、原告は、同ホテルから同研修の仮予約確認書を入手していたが、被告ラーニングに対し、そのことを告げたことはなく、また、同仮予約のとおり、同年六月及び七月に同研修が実施されるかどうかを確認したこともなかったこと、原告は、被告ラーニングから委託を受けて、同年五月一二日から同年七月二四日までの間、一七コース(一コース三日間)の新任係長研修を実施したが、その日程表の打合せの過程においても、これと重複する日程で予定されていたアセスメント研修について、実施の有無、日程等を被告らに確認した形跡がないこと、原告は、同年五月末ころ、同ホテルの仮予約がキャンセルされたことを知ったが、被告らに対し、このことについて特に異議を述べなかったことなどがそれぞれ認められ、これらの事情に照らすと、被告ラーニングに、平成九年度アセスメント研修を実施しないことを原告に告知すべき義務があったと認めることはできないというべきである。他に、同研修に関し、被告らに契約締結上の過失があったと認めることはできない。

なお、前記のとおり、同年度アセスメント研修が実施されなかったことによって、原告が損害(信頼利益)を被ったことを認めることはできない。

したがって、アセスメント研修に関し、被告らに契約締結上の過失があることを前提とする原告の予備的請求は理由がない。

(2)  インターン研修について

前記のとおり、原告は、被告ラーニングとの間で、平成四年度リーダーシップ強化研修、平成五年度ないし平成九年度新任係長研修、平成五年度ないし平成八年度アセスメント研修及びインターン研修につき、その各実施委託契約を締結し、これらを実施してきたものであるところ、前記認定の事実関係によれば、被告NTT関西支社の樫木課長、浅野課長、中東主査らは、平成九年七月二二日、原告代表者藤田と会談し、同人に対し、平成九年度インターン研修について、被告NTT関西支社としては同年一〇月及び一一月にこれを実施する予定であると説明したこと、さらに、その際、樫木課長は、藤田に対し、一〇月に八コースを実施するのでスケジュールをとっておいて欲しいとの要請をしたこと、さらに、被告ラーニングの増田部長代理は、同年九月五日ころ、訴外ADCの吉野課長に対し、その求めに応じて、同年一〇月六日から同月三一日まで関西七コースを実施する旨の予定を記載した同年度インターン研修日程表を送付したこと、そのため、原告代表者藤田は、従前どおり、インターン研修の実施を受託できるものと考えて、数名の講師を手配するなどしてその準備をしたこと、しかし、被告NTT関西支社は、当時、被告NTTの分割が予定されていて研修実施の責任者である副支社長との連絡が不良であったことや経費節減の要請があったことなどにより、予定どおり一〇月初旬から研修を実施することができず、同年一〇月二七日ころに至って、やっと同年一一月一七日から実施することを確定的に決定し、その旨を原告に告知したこと、そのため、藤田は、講師に対する違約金の支払義務を負担するなどの損害を被ったことがそれぞれ認められる。

上記事実によれば、被告ラーニングは、平成九年度インターン研修の実施委託契約の締結に向けて、相手方である原告と信義則の支配する緊密な信頼関係に立ち、原告に無用の損害を被らせないよう配慮すべき信義則上の注意義務を負っていたものであり、予定していた同年一〇月上旬に同研修を実施しないこととなった場合には、原告に対し、遅滞なくその旨を告知するなどの配慮をすべき義務があったのに、これを怠り、実施が予定より大幅に遅れることを速やかに告知しなかったものというべきである。

なお、前記認定事実によれば、アセスメント研修等の各研修の対象は、被告NTT関西支社の社員であること、被告NTTは、被告ラーニングに対し、これらの研修の実施を委託していたこと、その日程調整等に被告NTT関西支社の人事担当社員が深く関与していたことが認められ、これらに照らせば、被告NTT関西支社の人事担当社員は、被告ラーニングの契約準備段階における補助者の地位にあったものというべきであり、したがって、同人事担当社員の行為は、信義則上、被告ラーニングの行為と同視することができる。

また、証拠(甲第20号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告代表者藤田は、平成九年度インターン研修の日程等が不安定な状態にあることを認識していたことが認められるが、他方、前記認定事実、証拠(甲第19号証、証人吉野佳幸、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告にとって、被告らは最大の顧客であり、インターン研修の受注を失うことは、原告の経営を左右する重大問題であり、原告としては、これを実施しない旨の明確な告知がない限り、その実施に向けた準備を行わざるを得ない立場にあったものであり、被告らも、そのことを容易に認識できたことが認められ、これに照らすと、原告がそのような認識を有していたとしても、被告ラーニングに上記信義則上の義務違反があるとの判断を変えることはできない。

したがって、被告ラーニングは、原告に対し、上記信義則上の注意義務違反により、原告が平成九年度インターン研修の実施を受託できると信頼したことが覆されたことによって被った損害を賠償する責任がある。

そこで、原告の損害額について検討するに、証拠(甲第19号証、第25号証、第26号証の1、2、第27ないし第29号証、第32号証の1、2、第33号証の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成九年度インターン研修について、平成九年一〇月六日から同月三一日まで関西七コースが当初の予定どおり実施されなかったことによって、講師として予定していた加藤素夫、同国方賢士に対し各四八万円(各四コース(一コース三日間)一二日分につき一日当たり四万円)、同高橋仁、同内海東美子に対し各三六万円(各三コース九日分)、同折橋竣郎に対し二四万円(二コース六日分)、合計一九二万円の各違約金の支払義務を負担するに至ったこと、また、同研修が受託できるものと考えて五名の社員を少なくとも一か月間余分に継続雇用し、これらの者に給与を支払い続けたため、給与相当額一五三万円の損害を被ったことがそれぞれ認められる。

原告は、講師に対する違約金として、平成九年九月一六日から同年一一月二七日までの間の一四コース分(甲第5号証、第25号証、第26号証の2)の損害を被った旨主張するが、前記認定事実及び証拠(甲第5号証、乙16号証の2)によれば、原告は、被告らから、同年一〇月六日から同月三一日までの間の関西七コースの実施予定を告知されていただけであった(甲第5号証、乙12号証の2の日程表のうち、同年九月一六日から同年九月二六日までの東京三コースは二本の斜線で抹消されており、関西の七コース分についてのみ実施予定として網掛け表示がなされていた。)と認められるから、その余の七コース分の違約金については、被告ラーニングの義務違反と因果関係がないというべきである。また、原告は、社員五名に対する給与支払について、三か月ないし四か月分が損害である旨主張するが、前記認定のとおり、原告は、同年一一月一七日から実施された同年度インターン研修を受託できたのに、前記キャンセル料の支払等に関して紛争となり、その受託をしなかったものであるが、これらの社員の雇用継続は、同インターン研修の受託に関連する職務遂行のためであったと考えられるから、前記被告ラーニングの義務違反と相当因果関係のある余分な給与支払は、一か月分と認められるのが相当である。

そうすると、被告ラーニングは、原告に対し、前記信義則上の注意義務違反を理由とする債務不履行による損害賠償として、上記損害金合計三四五万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一〇年六月五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

6  以上のとおりであり、原告の本訴請求のうち、被告ラーニングに対する請求は、前記の限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び引受参加人に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・市川賴明、裁判官・川添利賢、裁判官・堀田匡)

別紙研修実績表<省略>

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