横浜地方裁判所 平成10年(ワ)2991号 判決
原告 中島達家
右訴訟代理人弁護士 佐伯剛
同 小野毅
同 陶山圭之輔
同 宮代洋一
同 星野秀紀
同 小賀坂徹
同 鈴木健
同 堀沢茂
同 武井共夫
同 鈴木義仁
被告 株式会社若葉ハウス
右代表者代表取締役 山田幸子
被告 株式会社オウム
右代表者代表取締役 田渕智子
右訴訟代理人弁護士 服部猛夫
被告 株式会社アレフ
右代表者代表取締役 助永隆雄
右代理人支配人 黒瀬隆司
主文
一 被告株式会社若葉ハウスと被告株式会社オウムとの間の別紙物件目録記載の建物専有部分に関する賃貸借契約を解除する。
二 被告株式会社オウムと被告株式会社アレフとの間の別紙物件目録記載の建物専有部分に関する賃貸借契約を解除する。
三 被告株式会社オウムは、原告に対し、別紙物件目録記載の建物専有部分から退去してこれを引き渡せ。
四 被告株式会社アレフは、原告に対し、別紙物件目録記載の建物専有部分から退去してこれを引き渡せ。
五 訴訟費用は被告らの負担とする。
六 この判決は、第三項及び第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
一 事案の要旨
本件は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)に基づいて、「コスモ伊勢佐木長者町」という名称の建物(以下「本件建物」という。)等の管理及び共同生活の維持等を目的として設立されたコスモ伊勢佐木長者町管理組合(以下「本件管理組合」という。)の総会で、訴訟の提起をする区分所有者として指定された原告が、別紙物件目録記載の建物専有部分(以下「本件専有部分」という。)の区分所有者である山田篤夫(以下「篤夫」という。)から本件専有部分の使用を許された被告株式会社若葉ハウス(以下「被告若葉ハウス」という。)、これを被告若葉ハウスから賃借して占有している被告株式会社オウム(以下「被告オウム」という。)、更に被告オウムからこれを賃借して占有している被告株式会社アレフ(以下「被告アレフ」という。)に対し、被告オウム及び被告アレフが本件専有部分をオウム真理教横浜支部道場として使用していることによって、区分所有者に生活上の著しい障害を与えていることを理由に、区分所有法六〇条一項の規定に基づき、被告若葉ハウスと被告オウムの間及び被告オウムと被告アレフの間の本件専有部分に関する各賃貸借契約を解除することを求め、さらに、被告オウム及び被告アレフに対し、本件専有部分の引渡しを求めた事案(以下、区分所有法六〇条一項に基づく原告の本件請求を「本件引渡請求」という。)である。
二 前提となる事実(当事者間に争いのない事実以外の証拠により認定した事実については当該認定事実の末尾に認定証拠を摘示する。)
1 本件建物
本件建物は、昭和六一年九月に新築された住戸・事務所・店舗が混在する九階建てマンションであり、それぞれ非分譲部分と分譲部分に分かれていた。本件専有部分は、非分譲部分であり、篤夫の経営する有限会社山田硝子建材が所有していた本件建物の敷地の一部を提供したことによって、最終的に篤夫がその所有権を取得したものである。現在、篤夫及び山田幸子は、本件建物の九階に住んでいる(甲一五、二四、三六、丁一、被告若葉ハウス代表者本人尋問)。
2 当事者等
(一) 原告
本件管理組合は、本件建物における区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するため、区分所有者全員を構成員として結成された管理組合であり、原告は、平成一〇年五月二〇日、本件管理組合の臨時総会で本件訴訟を提起する区分所有者として指定された者である(甲一、二、一五)。
(二) 被告ら
(1) 被告オウムは、昭和五九年五月二八日に設立され、元宗教法人オウム真理教(以下、解散命令後の団体も含めて「オウム教団」という。)の関連会社として、オウム教団の出版物の発行を主たる目的としており、平成七年七月二九日の株主総会までは松本智津夫が代表取締役を務め、平成七年七月の役員変更登記後は、他のオウム真理教の信者(以下「オウム信者」という。)が役員を務めていた。また、平成七年六月ころまで松本智津夫、石井久子、松本知子らが株主となっていた(弁論の全趣旨)。
(2) 被告アレフは、株式会社神聖真理発展社の名称で設立され、オウム教団の関連会社として、オウム信者の中から会員を募集して、本件専有部分を会員の修行道場として利用させることを活動内容の一つとしている。被告アレフの役員も全てオウム信者であった。また、被告アレフは、本件専有部分の入口付近で、いわゆるオウムグッズを販売したことや本件専有部分の扉に「インターネットオウム真理教」の看板を一時的に掲げたこともあった(弁論の全趣旨)。
(3) 篤夫は、本件専有部分の区分所有者であり、被告若葉ハウスは、篤夫から本件専有部分の使用を許された者である。なお、被告若葉ハウスの代表取締役は、篤夫の妻の山田幸子である。
(4) 被告オウムは、平成元年五月一一日、被告若葉ハウスから本件専有部分を賃借し、被告アレフは、平成七年一一月三〇日、被告オウムから本件専有部分を更に転借し、現在、被告オウムと被告アレフは本件専有部分を共同占有している(甲五、六、一一、丁一、被告若葉ハウス代表者本人尋問、弁論の全趣旨)。
3 本件決議等
(一) 本件管理組合は、予め総会を開催する日時、場所、議題等を被告らに通知した上、平成一〇年五月二〇日、臨時総会を開催し(以下「本件臨時総会」という。)、被告らに弁明の機会を与えて、本件建物の区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数によって、本件専有部分に関する被告若葉ハウスと被告オウムとの賃貸借契約及び被告オウムと被告アレフとの賃貸借契約の解除並びに本件管理組合への本件専有部分の引渡しを求めて、本訴を提起することを決議し(以下「本件決議」という。)、これに基づいて、平成一〇年八月二四日、原告が本件訴訟を提起した(甲二、二二、当裁判所に顕著な事実)。
(二) 本件管理組合は、本件訴訟に先立ち、篤夫、松本智津夫及び清算法人オウム真理教を被告とした引渡訴訟、被告若葉ハウス及び被告オウムを被告とした引渡訴訟、被告アレフを被告とした引渡訴訟をそれぞれ提起することを決議し、それに基づいて各訴訟が提起されたが(横浜地方裁判所平成八年(ワ)第二四八号、同平成八年(ワ)第三六四五号、同平成九年(ワ)第三七八〇号)、いずれも、手続的要件の不備等が明らかになったことから、取り下げられた(甲三、五、九、三六、当裁判所に顕著な事実)。
三 争点
1 区分所有法六〇条一項の実体的要件該当性
(一) 被告オウム及び被告アレフは、本件建物の区分所有者の生活上の障害が著しい共同の利益に反する行為(以下「共同利益背反行為」という。)を行っていたか、また、現在も行っているといえるか。
(二) 本件引渡請求以外の方法によっては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといえるか。
2 本件引渡請求は、権利の濫用にあたるか。
四 争点に対する当事者の主張
1 共同利益背反行為の有無
(原告の主張)
(一) オウム教団の危険性
本件専有部分の使用主体は、実質的には、オウム教団であるところ、オウム教団には以下のような危険性がある。
(1) 松本智津夫の存在
オウム真理教の教祖である松本智津夫は、自らを最終解脱者=グルと称し、同人の導きによって修行することだけが解脱を達成する唯一の道であると説き、オウム真理教の修行を、松本智津夫の意思に限りなく近付き、クローン化するためのものであると位置付け、修行と称して、幻覚を体験させるために麻酔や覚せい剤を用いるなど危険性が高く科学的根拠のない違法行為を行わせたり、信者から多額の金品を得るために様々な詐欺的行為を行わせるなどして、宗教面・生活面の両面において絶対的支配者として君臨していた。
(2) オウム真理教の教義
オウム真理教の教義の本質的な要素となっており、かつ、大きな問題を有しているのが、オウム真理教を批判し、オウム教団のいわゆる「救済計画」の実現を阻もうとする者に対しては殺害をも厭わない、むしろ功徳であるとする「タントラヴァジラヤーナ」の教義であり、この中には、ポワと称して殺人が行われることがあり得ることとそれを正当化する論理が含まれており、その教義の実践として、平成七年三月二〇日の地下鉄サリン事件をはじめとして、多数の凶悪事件を引き起こした。
現在のオウム教団は、ヴァジラヤーナの教義を破棄した、封印した、捨て去ったと主張しているが、松本智津夫の教える大きな教義の一部だけを削除するということは到底不可能であるから、仮に、形式的にヴァジラヤーナを捨てているとしても、いつ復活してもおかしくない。
(3) 自己弁護のために第三者への攻撃も厭わない態度
オウム教団は、教団の規模を拡大していく過程において、強引な入信・出家の勧誘や布施の強要を巡って多数の紛争を発生させ、また、オウム教団の支部や施設が進出した地域で、地元住民との間に深刻なトラブルを発生させたが、オウム真理教被害対策弁護団が発足し、また、オウム教団に対するマスコミ・世論の批判が強まると、自己弁護をして事実関係を否定したり、謀略事件であるとして自ら被害者であることを主張するだけでなく、坂本弁護士一家殺害事件、地下鉄サリン事件などを引き起こし、第三者を攻撃するという攻撃的・戦闘的な手段を採るようになった。このような攻撃的な対応、裁判における欺瞞に満ちた対応などが、トラブルに対するオウム教団の対応の特徴であり、現在に至るまでこのような姿勢に変化が見られない。
(4) 被害者に対する態度
オウム教団の支部や施設が進出した地域では、近隣住民が様々な生活妨害を被っており、オウム教団が施設内で行っていた行為について強い不安感・恐怖感を抱いていた。オウム教団は、最近になって、盛んに、被害者に対する謝罪や補償をしているなどといっているが、それは有罪とされた刑事事件の被害者に対するものだけに限られているのであって、地域紛争を生じさせた地元の人間たちには何の謝罪もないばかりか、いまだに加害行為があったことすら認めていない。
(5) このように、オウム教団は、我が国の犯罪史上空前絶後の犯罪集団であり、信者らが松本智津夫らの指示に従って、あるいはその教義の実践として、地下鉄サリン事件や坂本弁護士一家殺害事件をはじめとして、多数の犯罪を敢行したものであるところ、依然として刑事裁判中の松本智津夫をグルとして観想の対象とし、本質的には全く変更がない教義を信仰している上、組織として以前と変わらない強い結束を維持し、組織の再編強化を続けているのであるから、再び、犯罪行為を犯す可能性は少なくなく、また、オウム真理教の被害者らに対する態度からすれば、近隣住民の立場を省みない迷惑行為に及ぶ危険性が高いといえる。このことは、公安審査委員会が「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(以下「団体規制法」という。)に基づきオウム真理教を観察処分に付する旨の決定をしたことからも明らかである。
(二) オウム教団による本件専有部分の使用
被告オウム及び被告アレフは、信者が教義を信奉・実践するためのオウム真理教横浜支部道場として本件専有部分を使用しているところ、前記のようなオウム教団の危険性に照らすと、本件専有部分を教団施設として使用していること自体が、本件建物の居住者に多大な迷惑と脅威を与えているというべきであるが、さらに、本件専有部分をオウム真理教横浜支部道場として使用することにより、以下のとおり、近隣住民に対し、様々な生活上の著しい障害を与えている。
(1) 不特定多数の人間の出入り
被告オウム及び被告アレフは、本件専有部分において、コスモ伊勢佐木長者町使用細則(以下「使用細則」という。)に違反して、不特定多数の者を頻繁に出入り、寝泊まりさせているほか、セミナーを行っており、特に、日曜、休日には多数の信者が早朝から深夜まで集会を開くため、本件建物の居住者にとってのんびり休養も取れず、安眠を妨害されている。
(2) 本件専有部分での修行に伴う騒音
被告オウム及び被告アレフは、本件専有部分において、オウム信者たちに教典の朗読、唱和、歌の合唱などを行わせ、また、お経や歌のような気味の悪い声のするテープを音量を上げて流すなどし、本件建物の居住者の安眠を妨害するなどしている。
(3) 共用部分の専有使用
オウム信者が、非常階段で寝泊まりしたり、非常階段に監視カメラを置き、また、二階非常階段やその踊場等の共用部分に荷物を置くなどして、美観を損ねるとともに、他の区分所有者の使用を妨げていた。
(4) 使用目的違反
被告オウムは、本件専有部分が事務所・店舗としての使用のために作られたものであり、数十人という多数の者が同時に入ることが予定されていないにもかかわらず、本件専有部分をヨガ道場として賃借した上、実際は、様々な宗教活動として使用し、多数を収容しての集会を行ったり、多数の者を寝泊まりさせたりしている。
(三) 以上のとおり、被告アレフと被告オウムが、周囲に騒音等を出し、本件建物の居住者の安眠を妨害するなどしながら、本件専有部分をオウム真理教横浜支部道場として使用していることは、明らかに共同利益背反行為にあたる。そして、共同利益背反行為が、本件専有部分を教団施設として使用していることにある以上、口頭弁論終結時においても、その使用状況に変わりはないのであるから、共同利益背反行為が口頭弁論終結時まで存続していることは明らかである。
(被告オウム及び被告アレフの主張)
(一) 本件訴訟提起の経緯
本件管理組合は、平成四年当時から弁護士に相談していたのであるから、訴訟を提起しようと思えばいつでもできたはずであるにもかかわらず、平成六年一一月一日、オウム教団が本件建物の一〇三号室を賃借しても、それに対して、何の対応もせず、一連のオウム事件が発覚した平成八年一月三〇日になって、突然、最初の訴訟(平成八年(ワ)第二四八号)を提起したのであるから、このような訴訟提起の経緯だけを見ても、共同生活上の著しい障害などないことが明らかである。
(二) オウム教団の危険性について
(1) オウム真理教の教義について
地下鉄サリン事件などの一連の事件に関与したとされるのは、松本智津夫から直接指導を受ける立場にある幹部信者の一部であり、ほとんどの一般信者は、幹部の一部が何をしているのか知る由もなく、教義についても、一般の信者に説かれていたタントラヴァジラヤーナの教えは、右事件に関与したとされる信者に説かれた教えとは全く異なっていた。
(2) 被害者への態度について
オウム教団は、平成一一年末以後、一連の刑事事件への謝罪や被害者補償の意思を表明するなど、右事件に対する態度を明確にしており、事件への反省や謝罪がないという批判は全く当たらない。
(3) 団体規制法について
団体規制法は、オウム教団に対する適用を前提とした措置法であるとともに、具体的な危険性の有無を適用要件としていないなど、憲法違反の疑いが極めて強い法律であるから、団体規制法に基づく観察処分の適用をもって、オウム教団の危険性を根拠づけることはできない。
(4) 仮に、オウム教団に危険性があったとしても、その後の教団は、一連の事件が発覚し、松本智津夫をはじめとするオウム教団の幹部らが次々と逮捕される中で、指導体制や組織構造を大きく変えているから、以前の宗教法人オウム真理教と同じ危険性を有しているわけではない。
(三) 横浜支部道場としての使用に基づく迷惑行為について
(1) 不特定多数の者の出入りについて
本件専有部分には、基本的に被告アレフの社員や限られた会員が出入りしているだけで、不特定多数の者が頻繁に出入りしているという事実はない。
(2) 騒音について
本件専有部分からお経や歌のようなテープの音が流れていることはない。
(3) 共用部分の不正使用について
非常階段は比較的急で、廊下部分も少ないことから、多数の者が寝泊まりできるような場所はないし、そのような事実もない。また、原告が共用部分と主張している本件専有部分の入口のドアを出て左側のシャッターが閉まるようになっている部分は、本件専有部分に含まれており、そこに何を置こうと被告オウム及び被告アレフの自由であって、荷物の出し入れ等の際に、若干、廊下部分に荷物がはみ出すことがあるかもしれないが、廊下にはみ出さないように注意しているから、非常ドアが開かなくなるなどして他の居住者の使用を妨げているようなことはない。本件専有部分前の廊下付近に小型カメラを設置していたのは事実であるが、他の居住者らを監視するためではなく、被告オウム及び被告アレフの防犯のために設置していたのであって、上祐史浩が本件専有部分に滞在するようになってからは撤去されている。
(4) 使用目的違反について
本件専有部分の使用方法については、本件建物の管理規約に何ら制限はなく、セミナーを開こうと社員の簡易宿泊所として使用しようと自由である。
2 本件引渡請求以外の方法による障害除去の困難性
(原告の主張)
(一) オウム信者は、殺人をはじめとする様々な凶悪犯罪を起こしたが、このような信者は、教団内において特別に凶悪な者というわけではなく、多くはたまたま教団内で犯行を行う者として指名・指示されたために松本智津夫又は幹部信者の手足として犯行に加わっただけである。したがって、これらの犯罪は、いずれも、信者らの個人的な犯罪などではなく、松本智津夫の指示のもとに又は幹部らの指示のもとに組織的に行われた組織犯罪であるといえるところ、オウム真理教は、宗教法人として解散命令を受け、また、破産宣告を受けたにもかかわらず、社会と被害者らに対する謝罪や賠償もないままに任意団体として活動を継続している上に、未だに、犯罪行為・違法行為を反復継続し続けている。
(二) このような組織性に鑑みると、区分所有者が差止請求等の方法を採ったとしても、被告オウム及び被告アレフが、区分所有者の共同の利益に反する行為を止め、区分所有者の共同生活上の著しい障害を除去することを期待できず、また、そもそも、原告が主張している共同利益背反行為は、いずれも、本件専有部分がオウム真理教横浜支部として使用されていることに基づくものであり、そこから必然的に派生している問題であるから、横浜支部としての使用を認めることを前提として個々の行為の差止をすること自体が無意味である。
(被告オウム及び被告アレフの主張)
(一) 原告が共同利益背反行為として主張する事実は、いずれも通常のマンションの使用において問題となりうるものばかりであり、仮に、共同利益背反行為が存在するとしても、違反行為の停止等の請求により改善することが可能なものである。しかしながら、原告は、本件引渡請求の前段階として、区分所有者全員の名で違反行為の停止等を求めたことが、訴訟上も訴訟外でも一度たりともないから、本件引渡請求以外の方法により障害を除去することが困難であるとは考えられない。
(二) この点、原告は、被告オウム及び被告アレフに対して違反行為の停止等を請求することは無意味であると主張する。しかし、被告オウム及び被告アレフの危険性を示す客観的状況は全く存在していないし、仮に、原告主張の共同利益背反行為が存在するとしても、それらは、停止等の請求により改善が可能なものばかりである。そして、被告オウム及び被告アレフの関係者が所属する宗教団体アレフは、オウム教団関係者が関与した一連の刑事事件に対する謝罪を表明し、被害者等への補償も行っているのであるから、被告オウム及び被告アレフに対して違反行為の停止等を請求することが無意味であるとの原告の主張は、明らかに誤っており、失当である。
3 権利濫用の有無
(被告オウム及び被告アレフの主張)
以下の各事情に鑑みると、原告が本件引渡請求権を行使することは、権利濫用にあたるから、許されない。
(一) 被告アレフは、本件臨時総会において、弁明の機会を与えられたが、単に、形式的・儀式的に手続きが進められたにすぎず、実質的な弁明の機会が保障されてはいなかった。
(二) 本件決議において、本件訴訟提起に賛成した区分所有者三二名のうち、実際に本件臨時総会に出席した者は代理出席を含めてわずか九名であるから、本件訴訟提起は、実質的に考えれば、総会に出席した九名により決定されたことになる。また、本件訴訟提起に賛成した区分所有者三二名のうち、本件建物に居住しているのはわずか一七名であり、それ以外の一五名は本件建物の事情もよく知らずに議長に委任しているのである。
(三) 被告オウム及び被告アレフの関係者が所属する宗教団体アレフは、平成一一年一二月一日にはじめて、一連の事件に対する謝罪と被害者等に対する補償を表明し、平成一二年一月一八日には松本智津夫の事件への関与を認めるなど、事件への態度を明確にし、その後、被害者等への補償を着実に実行に移すとともに、組織改革に着手し、危険と誤解を受ける可能性のある教義を明確に破棄したり、会員の条件として、危険と誤解を受ける可能性のある教義の実践を絶対に行わないこと、一連の事件をいかなる意味でも肯定しないこと、被害者に対して誠意を持って補償することなどを誓約することを義務づけている。
(原告の主張)
被害者への謝罪といっても表面的なものでしかなく、また、被害者補償の点も教団としての活動資金を確保した上で経済活動を行うことが前提となった細々としたものであって、到底、全面的な補償といえるものではない。
また、現在の低姿勢は、団体規制法の成立・適用が取りざたされることによって始まったものであり、いわば外圧によって行われたものにすぎず、自発的な反省に基づくものではない。
第三争点に対する当裁判所の判断
一 前記前提事実及び証拠(当該認定事実の末尾に認定証拠を摘示する。)並びに弁論の全趣旨によると、以下の各事実が認められる。
1 被告オウム及び被告アレフによる使用状況
(一) 被告オウムは、平成元年五月一一日、被告若葉ハウスから、使用目的をヨガ道場に限る旨及び無断転貸した場合には無催告解除できる旨定めて本件専有部分を賃借し、当初、ヨガ道場の看板を掲げていたものの、平成元年夏ころから、オウム真理教の看板を掲げ、本件専有部分にオウム信者が出入りするようになり、本件専有部分をオウム信者の修行道場等として使用するようになった。また、被告オウムは、一時、篤夫から本件建物の一〇三号室も賃借していた(甲一一、三六、弁論の全趣旨)。
オウム真理教の修行には、松本智津夫の説法を何度も読んだり、それを記録したテープやビデオ等を繰り返し視聴したり、立位礼拝を計六〇〇時間(二〇時間又は三〇時間連続というものもある)行ったり、マントラや決意文を唱えるといったことが含まれており、従前は、薬物を用いた幻覚体験(イニシエーション)、電気刺激を脳に直接与えて記憶を消去する試み(ニューナルコ)、温熱療法等が行われていた。なお、地下鉄サリン事件等で起訴されたオウム信者の中には、右イニシエーションにLSDや覚醒剤等の違法薬物を用いていたことを認めている者がいる(佐藤証言、公知の事実、弁論の全趣旨)。
(二) 被告オウムは、平成七年七月中旬ころ、本件専有部分の看板を「オウム真理教」から「株式会社オウム」に変更し、さらに、平成七年一一月三〇日、本件専有部分を被告アレフに転貸して、平成八年一二月、本件専有部分の看板は「株式会社アレフ」に変更した。しかしながら、本件専有部分の使用状況は、被告アレフに転貸する前と変わらず、本件専有部分は、オウム信者(主に、いわゆる在家信者)の修行道場等として使用されるほか、週に二回ほどの在家信者向けの勉強会及び瞑想の詞章を念仏のように唱えたりする毎週日曜日の午後のセミナー等並びに一月に一回の説法会が開催されていた。なお、被告オウム及び被告アレフは、賃貸人である被告若葉ハウスに対し、被告オウムが被告アレフに転貸したことを告げなかった(甲一八の三及び五、三六、乙三三、被告若葉ハウス代表者本人尋問、佐藤証言)。
(三) 本件専有部分で修行を行う在家信者の中には、翌日の朝まで修行する者もおり、また、本件専有部分でオウム教団の集会等が開かれた時には、多数のオウム信者が本件専有部分に詰めかけたり、深夜まで騒ぐこともあった(甲三六、佐藤証言、弁論の全趣旨)。
2 使用細則
本件管理組合は、本件建物の生活環境を維持するため、使用細則を定めているが、その中には以下のような規定がある(甲一五)。
(管理者の事前承諾事項)
(一) 多数が集まるパーティーを開催すること
(二) 区分所有権者が他人に賃貸などし、入居者が変わること
(禁止事項)
(一) 専有部分をその用途以外に使用すること
(二) 騒音、悪臭を伴う行為を行うこと
(三) 専有部分においても近隣の迷惑になるような騒音を発する行為をすること
(四) 共用部分の不法占有及び共用部分に私物を置くこと
(五) 他の居住者に迷惑を及ぼしたり、不快の念を抱かせる行為をすること
3 被告オウム入居後の迷惑行為
(一) 被告オウムが本件専有部分を賃借した後、平成元年夏ころから、本件専有部分にオウム信者が独特な宗教服を着て出入りするようになり、同年一一月中旬ころ、坂本弁護士一家が拉致されたことが報道されて、警察が本件建物を監視するようになると、本件建物の居住者は、オウム教団を薄気味の悪い集団であると感じるようになった(甲三六)。
(二) 平成二年春ころには、オウム信者の出入りが多くなって、人のざわめきやお経のような声がひどくなり、本件専有部分の上階の三〇四号室の居住者は、同年末ころ、オウム教団を気味悪がって、区分所有権を譲渡して本件建物から退去し、その後、右部屋に入居する者はいなかった(甲三六、志賀証言)。
(三) 平成三年になると、オウム信者の出入りが一層多く、頻繁となり、共用部分の階段に物を置くこともあった。また、マントラを唱えるなどの騒音は連日のように続いていた(甲三六)。
(四) 平成四年春過ぎころになると、オウム信者が、二階から五階までの非常階段踊場に多数寝泊まりするようになり、夏過ぎには、マントラを唱和する声に鉦や太鼓の音も混じり、早朝から深夜まで騒音が一段とひどくなったため、本件管理組合の役員がたびたび篤夫に注意するなどしたが、一向に騒音が止まず、また、共用部分に寝泊まりするなどの占拠も続いていたこと。そのため、本件管理組合は、同年一〇月一一日、臨時理事会を開催して、オウム教団に対する対策を協議し、被告オウム又はオウム教団に対する注意や警告をその都度文書に記録することを決議した(甲三六)。
(五) 本件建物の新築分譲当時からの区分所有者兼居住者(六〇四号室)で、主に本件管理組合の理事であった志賀準(以下「志賀」という。)は、篤夫に対し、本件専有部分から発せられている騒音やオウム信者による共用部分の不法占拠などについて、オウム信者らを指導するよう要請したほか、本件専有部分の上階(三〇五号室)に居住する高橋百合子(以下「高橋」という。)、当時の理事長大竹(以下「大竹」という。)などとともに本件専有部分に赴き、被告オウムに対し、オウム信者が共用部分を不法占拠していることや騒音が本件専有部分から発せられていることを注意するなどした。また、志賀は、右決議に基づき、平成四年一〇月二三日から平成五年一月九日までに注意・警告した内容を一一回にわたりメモ用紙に記録したが、騒音が続いたことから、その後は本件建物の管理人に居住者から出た苦情の内容等を記録させることとし、以後、管理人は、管理日誌及び掲示板に居住者から出た苦情の内容等を記録した(甲三六、四一の一ないし一五、乙二二ないし二七、二九、三一、志賀証言)。
(六) 志賀は、平成四年一一月一九日ころ、山田幸子を連れて本件専有部分を訪れ、山田幸子は、オウム信者である後藤章徳に対して、以下のような話をした(甲三六、被告若葉ハウス代表者本人尋問)。
(1) 平成四年一一月初旬及び同月一七日午後一〇時に太鼓の音がうるさく、四階に住んでいるお年寄りの居住者が迷惑している。
(2) 非常階段に看板を置いたり、寝泊まりするのは、止めて欲しい。
(3) 共同生活をする以上規則を守らなければならず、守れないのであれば出ていって欲しい。
(4) 本件専有部分をヨガ体操の道場として貸したもので、宗教団体に貸した覚えはない。他の居住者に迷惑を掛けないということで貸したものである。
(5) 今後どうするか、被告オウムの責任者から返事をもらう。
(七) 志賀と大竹は、平成四年一二月五日、本件建物の管理会社の社員とともに篤夫を訪れ、「本件専有部分の賃借人に対して、本件建物の居住者から、<1>一日中、お経等を唱えており大変騒がしい、<2>多数の人間(二〇人から三〇人と推定される)が部屋に出入りをしている、<3>非常階段、共用廊下で寝泊まりしている、<4>共用部(非常階段等)に、立看板等を置いているなどの苦情が頻繁に出ているため、改善に向けて指導するようお願いする」旨の内容の「お願い」と題する書面(同月四日付け本件管理組合理事会名義のもの)を篤夫に手渡した(甲三六)。
(八) しかし、その後も、本件専有部分へのオウム信者の出入りはますます盛んになって、夜中や早朝を含め、マントラを唱えたりテープ等を流し、本件専有部分の扉横側に空気清浄機を、非常階段二階の踊場(非常階段から本件建物内に入るための非常扉付近)に監視カメラをそれぞれ設置し、非常口等からオウム信者が勝手に本件建物内に入るなどしていたため、本件管理組合が中心となって、撤去の要請、警察への通報、非常口の閉鎖、不法侵入防止用のバラ線工事などを行って、これに対処していた。なお、本件専有部分から聞こえる騒音について苦情を述べるのは専ら高橋であったが、志賀本人もこれを聞いたことがあった。
これに加え、平成七年三月の強制捜査以後、本件建物は、何度か強制捜査の対象となったため、平成七年四月には、本件建物の四〇四号室の所有者兼居住者であった萩原夫婦及び四〇五号室の所有者兼居住者であった東海林夫婦が、オウム教団が恐ろしいことを理由に退去していった。結局、被告オウムが本件専有部分を賃借した当時、二〇名程度いた本件建物の区分所有者兼居住者のうち、平成一〇年まで区分所有権を処分せずに居住し続けたのは、四軒程度であった(甲三六、志賀証言)。
【証拠判断】
以上の認定に対し、山田幸子及び佐藤基浩は、本件専有部分からの騒音はなかったし、共有部分でオウム信者が寝泊まりしたこともなかったと供述及び証言し、また、これと同旨の陳述書も存在する。しかし、甲第三六号証添付資料二ないし四並びに甲第四一号証の六及び一二には、本件専有部分からの騒音がある旨又はオウム信者が共用部分を私用化し、オウム信者が寝泊まりしている旨記載されているところ、これらが特に信用できないような事情はなく、また、騒音に限っていえば、右認定のような修行方法に鑑みると、ある程度、周囲に音が漏れたり、振動が伝わったりすることが考えられるのであるから、騒音が全くなかったとも考えにくい。これに対し、山田幸子の供述は、極めて曖昧で、騒音の有無等について供述の変遷も見られるため、にわかに信用し難く、また、佐藤基浩の証言も、同証人が本件専有部分に居住していたのは、平成七年六月以降平成九年六月までにすぎず(佐藤基浩証言)、その前後については自ら体験していない上、本件建物の居住者からの本件専有部分に対する苦情の内容が全て同証人に報告されるわけでもない(佐藤基浩証言)というのであるから、その証明力は極めて乏しいものといわざるを得ない。したがって、騒音や共用部分の不正使用がなかったとする山田幸子の供述及び佐藤基浩の証言並びに同旨の陳述書は、いずれも採用することができない。
4 本件決議等
(一) 本件管理組合は、平成七年一一月二二日、参加者全員一致で松本智津夫を相手とする区分所有法六〇条に基づく引渡請求の決議をして、訴訟を提起したが、本件専有部分が被告若葉ハウスとの賃貸借契約に基づき被告オウムが占有していることが判明したため、再び、平成八年六月二六日に臨時総会を開催し、参加者全員一致で今度は被告オウムを相手とする同法六〇条に基づく引渡請求の決議をして、訴訟を提起した。しかし、この裁判中に被告オウムが本件専有部分を被告アレフに転貸し、また、訴訟を提起する者として指定されていた村林道弘が区分所有者たる資格を喪失したため、再度、臨時総会を開き、区分所有法六〇条に基づく引渡請求の決議をやり直す必要が生じた(甲二六、二七、三六)。
(二) そのため、本件管理組合は、平成一〇年五月一三日、被告らに対し、同月二〇日に区分所有法六〇条に基づいて訴訟を提起するための決議とその弁明の機会を提供する旨記載された通知書(以下「本件通知書」という。)を送付した上、平成一〇年五月二〇日、本件臨時総会を開催し、出席した被告アレフの関係者に弁明を求めたところ、被告アレフは、本件臨時総会で述べられた提案理由については、本件通知書に記載されていた内容と異なるから弁明できないとした上で、本件通知書記載事実について、区分所有者の共同生活を害するような行為をしていない旨弁明し、また、被告若葉ハウスからも書面による同趣旨の弁明があったが、被告オウムからは出席者も書面による弁明もなかった。
なお、本件通知書に記載されていた理由と本件臨時総会で提案された理由は、以下のとおりであった(甲二、二五の一ないし三、三六、乙一)。
(本件通知書記載の理由)
本件専有部分に、多数の者が出入りし、一日中お経を唱えたり、大変騒がしくし、異臭を放つなど他の居住者の生活を乱しており、また、これら多数人は、非常階段、共用廊下で寝泊まりしたり、非常階段に立看板を置くなど、共用部分を不法に占有し、他の居住者の利用を妨げ、平穏な住居環境を破壊しており、他の区分所有者の共同生活が著しく害され、その平穏な生活の維持が困難になっている。
これらは、オウム教団に加入する信者によって為されていることから、その改善が著しく困難であり、また、再三にわたる改善の申入れを無視しているから、占有者に対する引渡請求をせざるを得ない。
(本件臨時総会での提案理由)
本件専有部分は、オウム信者の道場として使用されているが、本件専有部分の使用方法は、不特定多数の信者が出入りし、深夜・早朝にお経を唱えたり、読経テープを流したりして大変騒がしく、さらに、異様な行動をとるなど、他の居住者の生活を乱しており、共用部分を不法に占拠し、物品を積載したり、監視カメラを設置したりして他の居住者の利用を妨げている。
オウム信者の集団は、過去において、非常階段、共用廊下で寝泊まりしたり、本件建物内に不法侵入するなどして、他の居住者に不安感を与えたが、これらの行為を止めるよう再三にわたって申し入れているにもかかわらず、一向に改善されない。
(三) 右臨時総会は、全体では区分所有者が四二名(議決件数七〇)いる中で、区分所有者三六名(議決件数五六)が出席し、出席者全員一致で本件請求が可決されたが、右出席区分所有者のうち実際に参加したのは代理出席を含め九名(議決件数一七)であり、残りの二七名(議決件数三九)は議決権の行使を議長に委任しており、さらに、賛成区分所有者三六名のうち、本件建物に居住していたのは一八名にとどまっていた(甲二、三六)。
5 本件決議後の状況
(一) 本件決議後、本件専有部分からの騒音はほとんどなくなり、志賀は直接聞いたことがなく、高橋からの苦情も極めて少なくなった。また、平成七年以降、信者が共用部分で寝泊まりするようなこともなくなり、監視カメラも撤去された。しかし、平成一二年五月四日及び五日、不特定多数のオウム信者が本件専有部分に出入りし、中でセミナーが開かれたため、高橋は、これによって騒音が発生していることを警察に通報し、また、本件管理組合は、篤夫に対し、騒音を発生させることのないよう厳重に注意するよう申し入れた(甲三七、乙二六、二七、二九、三一、志賀証言、佐藤証言)。
(二) 平成一一年一二月二九日、オウム真理教の幹部であった上祐史浩が広島刑務所を出所し、以後、本件専有部分に滞在しているため、警察が本件建物の周囲を警備し、一時、マスコミや野次馬などが本件建物に殺到したほか、右翼が街宣活動を行ったり、本件専有部分に強行的に侵入しようとする者がでるなどしたが、現在はその騒動も収まっている(弁論の全趣旨、志賀証言)。
(三) 本件管理組合、若葉町内会会長、末吉町町内会会長、伊勢佐木町五丁目町内会会長、協同組合伊勢佐木町商店街理事長は、平成一二年一月七日、本件専有部分の占有者宛に、本件専有部分の退去を求めることを通知したところ、同月一一日、上祐史浩、高橋栄子及び荒木浩名義で、現状で退去することは難しいが、正規の住居を早急に確保したいなどの回答が為された。また、同月一六日には、篤夫が、オウム真理教横浜支部宛に、本件専有部分の賃貸借契約を解除する旨通知した(甲三六、志賀証言)。
6 オウム真理教の本質
(一) オウム真理教の概要
(1) オウム真理教は、昭和五九年ころ、松本智津夫が主催したヨガ道場が発祥であり、平成元年八月二五日、東京都の認証を受けて、宗教法人格を獲得し、日本国内及び国外に、支部、道場を含め数十か所の教団施設を有するに至った(甲三一、弁論の全趣旨)。
(2) オウム真理教が教団の規模を拡大していく過程で、教団・出家信者と信者の家族との間には、信者の入信・出家の勧誘や布施の強要を巡って紛争が発生し、また、オウム教団の支部や施設が進出した地域の中には、信者と地元住民との間にトラブルが発生したところもあった(甲三一、弁論の全趣旨)。
(3) その後、オウム信者が地下鉄サリン事件等の事件に関与したとして、平成七年三月に強制捜査が開始され、松本智津夫のほか、多数のオウム教団の幹部信者が逮捕・勾留・起訴されるに至ったが、地下鉄サリン事件をはじめとする一連の凶悪事件を引き起こした実行犯の中には、当該事件への関与を認め、さらに、それが松本智津夫の指示であった旨供述する者も存在し、一部一審有罪判決も出された。一方、松本智津夫は、右一連の事件は、幹部信者が勝手にやったものであると供述している旨報道されている(弁論の全趣旨、公知の事実、甲三五の一ないし四)。
(二) オウム真理教の教義
(1) 松本智津夫は、自ら最終解脱者(グル)と称し、同人の導きによって修行することだけが、解脱を達成する唯一の道であると説き、ほとんどの信者は松本智津夫の宗教的教えを忠実に実践しようとしている(弁論の全趣旨)。
(2) オウム真理教の教義の一つにタントラヴァジラヤーナがあり、平成六年七月ころまでに、左記のように、あたかも殺生が功徳になるかのような記述のあるタントラヴァジラヤーナの教本が多数の一般信者に配布されていた他、ヴァジラヤーナ問題集も作成されていた。また、信徒用決意と呼ばれる決意文の中には、「タントラヴァジラヤーナは、グルの意志の実践が全てだ。それ以外は無効である。功徳にはならない。」「グルの指示が全てだ。それ以外は無効である。功徳にならない。」「タントラヴァジラヤーナは結果の道である。」「従って、結果のためには手段を選ぶ必要がない。」「よって、一切の観念を捨てるぞ。一切の観念を捨てるぞ。」などの文言が含まれていた(甲三二、弁論の全趣旨)。
記
例えばここにだよ、Aさんという人がいたと。いいですか。このAさんは生まれて今まで功徳を積んでいたので、このままだと天界へ生まれ変わりますと。いいですか、ここまでは。じゃあ次の条件ね。ところが、このAさんには慢が生じてきて、この後、悪業を積み、そして寿命尽きるころには、地獄へ堕ちるほどの悪業を積んで死んでしまうだろうと。
(中略)
じゃ次にだ。このAさんを、ここに成就者がいたとして、殺したと。この人はどこへ生まれ変わりますか。天界に生まれ変わる、そのとおりだね。しかし、このAさんを殺したという事実をだよ、他の人たちが見たならば、人間界の人たちが見たならばね、これは単なる殺人と。いいかな。そして、もしだよ、このときAさんは死に、そして天界へ行き、その時に偉大なる救世主が天界にいたと。そして、その天界にいた救世主が、その人に真理を解き明かし、永遠の不死の生命を得ることができたとしましょう、Aさんが。いいですか。このときに殺した成就者は何のカルマを積んだことになりますか。
すべてを知っていて、生かしておくと悪業を積み、地獄に堕ちてしまうと。ここで例えば、生命を絶たせた方がいいんだと考え、ポワさせたと。この人はいったい何のカルマを積んだことになりますか。殺生ですかと、それとも高い世界へ生まれ変わらせるための善行を積んだことになりますかと。ということになるわけだよね。でもだよ、客観的に見るならば、これは殺生です。客観というのは人間的な客観的な見方をするならば。
しかし、ヴァジラヤーナの考え方が背景にあるならば、これは立派なポワです。そして、智慧ある人は-ここで大切なのは智慧なんだよ。智慧というのは-わたし先程何て言った?-神通力と言ったよね。智慧ある人がこの現象を見るならば、この殺された人、殺した人、共に利益を得たと見ます。OKかな、これは。ところが智慧のない人、凡夫の状態でこれを見たならば、「あの人は殺人者」と見ます。どうかな、これは。
(3) そして、オウム教団は、タントラヴァジラヤーナの教義の実践として、上九一色村の第七サティアンにサリン生成プラントを建設し、サリンを生成した上で、平成七年三月二〇日、地下鉄千代田線、丸ノ内線、日比谷線内に散布させ、多数の死傷者を発生させた(甲三五の四、弁論の全趣旨)。
(三) 一連の刑事事件後のオウム真理教の状況
(1) オウム真理教は、平成七年一〇月三〇日、東京地方裁判所において解散命令を受け、また、平成八年三月二八日、破産宣告を受けたたため、多くの教団施設を退去し、全国の支部等も閉鎖を余儀なくされた(弁論の全趣旨)。
(2) オウム教団は、右一連の凶悪犯罪発生後も犯行への関与を徹底的に否定し、例えば、地下鉄サリン事件については、サリンその他の危険な毒ガスの生成を行っていたこと自体を認めようとせずに、第七サティアンのプラントは農薬生成プラントであって、地下鉄サリン事件とその後の強制捜査はオウム教団を壊滅させようとする公安警察の陰謀、宗教弾圧であるとのキャンペーンを張り、また、実行犯の一部が犯行を認めるに至っても、一部の信者が勝手に行ったにすぎないかのような答弁をしていたが、平成一一年末、一連の刑事事件についての謝罪と被害者等への補償を実践することを表明し、さらに、平成一二年一月一八日、オウム信者の一部が右刑事事件へ関与したこと及び松本智津夫も右事件に関与したと思われることなどを表明するとともに、その名称を「アレフ」に改め、危険な教義を破棄することなどを発表した(乙四ないし一三、弁論の全趣旨)。
(3) オウム教団は、公安調査庁長官による団体規制法上の観察処分に付する旨の請求に基づいて、平成一二年一月二八日、三年間にわたって公安調査庁長官の観察に付する旨の観察処分の決定を受け、同年二月一〇日、公安調査庁により、本件専有部分の立入検査を受けた(甲三四の三、公知の事実、弁論の全趣旨)。
7 本件建物及び本件専有部分の状況
(一) 本件専有部分の南側には、本件専有部分から一階へ出るための階段と本件建物の非常階段を兼ねた階段があるが、平成一二年四月二六日当時、右階段には、被告オウム及び被告アレフ並びにオウム教団のものと思われる立看板や荷物等は存在せず、また、監視カメラ等も設置されていなかった(検証)。
(二) 本件専有部分には、カーテンとベニア板で間仕切りが為されており、畳の敷かれた道場部分のほか、瞑想室や受付と称される小部屋がある。現在、道場部分の祭壇には、大きな絵が飾られており、祭壇の両横にはスピーカが据えられているが、かつては、祭壇に松本智津夫の写真が飾られており、祭壇の反対側にさらに二個のスピーカーが備え付けられていた(検証、佐藤証言)。
二 右の認定事実に基づき、以下、検討する。
1 共同利益背反行為の有無(争点1)。
(一) 本件専有部分の使用状況
本件専有部分は、形式的に見ると、オウム教団とは別個の法的主体である被告オウム及び被告アレフにより専有使用されていることになるが、本件専有部分は、被告アレフの会員である在家のオウム信者の修行道場等として使用されており、オウム教団に無関係な者のために使用されている節が窺われないこと、被告オウムと被告アレフの役員は、全てオウム信者であり、特に、被告アレフは、本件専有部分においてオウム教団関連商品を販売したり、「インターネットオウム真理教」の看板を掲げていたこともあること、被告アレフの元社員であった佐藤基浩も、被告オウムと被告アレフの違い等について、的確な説明ができず、また、占有主体が被告オウムから被告アレフに変化しても、本件専有部分で行われていることに変わりがない旨及びいつ変わったのかさえも分からなかった旨証言していることからすれば、占有名義は、被告オウム又は被告アレフとなっているものの、実質的には、オウム教団が教団施設として本件専有部分を使用しているといわざるを得ない。
(二) 本件決議時における共同利益背反行為の有無
(1) 被告オウム及び被告アレフが、本件専有部分をオウム信者のための修行道場として利用していたことから、平成二年春ころより、不特定多数のオウム信者が本件専有部分に出入りするようになり、本件専有部分内でマントラを唱えたりテープ等を流すなどして、周囲に騒音を発生させ、それが深夜や早朝に及ぶこともあり、また、共用部分に荷物を置くなどしていたのであって、これが本件決議時まで継続していたことは前認定のとおりである。
ところで、区分所有法六〇条一項は、共同利益背反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときには、占有者に対する引渡請求ができる旨規定されているところ、同条の趣旨及び条文の体裁からすると、共同利益背反行為に該当するかどうかを判断するに際しては、当該行為による物理的障害の有無・程度のみを考慮すれば足りるのではなく、それによって他の区分所有者が感じる不安感や恐怖感等の心理的障害の有無・程度をも併せ考慮すべきであると解される。したがって、本件においても、被告オウム及び被告アレフが本件専有部分を教団施設として使用することにより、物理的に生じている障害の有無・程度はもとより、それによって他の区分所有者が感じるオウム教団に対する心理的障害の有無・程度も考慮すべきである。
(2) そして、オウム教団に対する心理的障害の有無・程度を考慮するに当たっては、オウム教団の幹部信者らが、地下鉄サリン事件をはじめとする過去に類を見ない凶悪犯罪を犯していることを無視するわけにはいかず、オウム教団の幹部信者らがこのような凶悪事件を引き起こした要因には、自ら最終解脱者と称し、絶対的帰依の対象としてオウム教団内に君臨していた松本智津夫の存在と松本智津夫の意思が絶対であり、目的のためには殺人を犯すことも功徳になることを説くタントラヴァジラヤーナの教義があるといわねばならない。すなわち、オウム信者にとって、松本智津夫という絶対的帰依の対象者の説くタントラヴァジラヤーナの教義の解釈は、無条件で容認し、実践すべきものであるといわなければならず、その実践が、結果的に、地下鉄サリン事件をはじめとする一連の犯罪行為を引き起こしたものということができる。そして、このような経緯からすると、オウム信者は、社会的規範の存在を認識しながらも、これと抵触する松本智津夫の教えが存在する場合には、無条件で松本智津夫の教えに従うことが予測されうる。このことは、一連の犯罪行為の実行犯らがオウム教団内において特別に凶悪な者というわけではなかったという佐藤基浩の証言からも窺える。このように、一連の凶悪事件を起こした原因が、松本智津夫と松本智津夫の説くタントラヴァジラヤーナの教義の存在であるとすると、松本智津夫自らがそのタントラヴァジラヤーナの教義の解釈を改めるか、オウム信者が松本智津夫を絶対的帰依の対象者と認めないようになるまでは、オウム信者が再び凶悪事件を引き起こす蓋然性を否定することはできない。そして、オウム真理教の教義がグルである松本智津夫の導きによって修行することにより唯一解脱を達成することができるというものであることからすると、オウム信者が松本智津夫を絶対的帰依の対象者と認めなくなるような事態は、教義と矛盾することとなり、そのような事態が生ずることを期待することはできず、また、松本智津夫自らがそのタントラヴァジラヤーナの教義の解釈を改めたことを窺うことはできない。そうすると、オウム信者が凶悪事件を引き起こす危険性は、未だ潜在的に存在するといわざるを得ない。
もっとも、被告オウムや被告アレフは、一般信者に説かれていたタントラヴァジラヤーナの教義は、地下鉄サリン事件などの一連の事件に関与したとされる信者に説かれていた教えとは全く異なっていたと主張するが、殺生が功徳になるかのような記述のあるタントラヴァジラヤーナの教本が平成六年七月ころまでに多数の一般信者に配布されていたことは、前認定のとおりであって、これを覆すに足りる証拠はなく、右被告らの主張は採用できない。
また、被告オウムや被告アレフは、現在のオウム教団は、タントラヴァジラヤーナの教義を封印し、破棄したと主張するが、オウム真理教の教えは、開祖である松本智津夫のみがよくなしうるところであり、現在のオウム教団が、松本智津夫を抜きにして、そのようなことを決めたとしても、それは、開祖を絶対的帰依の対象者とするオウム信者にとっては、無意味な措置であるといわなければならない。
さらに、被告オウムや被告アレフは、法人格消滅後のオウム教団が、指導体制や組織構造を大きく変えているので、宗教法人オウム真理教と同じ危険性を有しているわけではないと主張し、確かに、指導体制や組織構造を変えていることは認められるが、現在のオウム教団が、松本智津夫と絶縁したというのであればともかく、依然として、松本智津夫との関係を完全に絶つことができない以上、オウム教団の危険性については、従前と変わることはないといわざるを得ない。
そして、このように危険視されているにもかかわらず、オウム教団は、最近まで、教団の体質の問題点を認めようとせず、強制捜査を宗教弾圧と捉えたり、犯行を認めている実行犯に対して、一部の信者が勝手にやったことであるなどとして、漫然と宗教団体として存続し続けていたのであるから、このような状況からすれば、本件のように、自らが居住する建物の中にオウム教団の教団施設がある居住者が、心理的障害を感じることなく、平穏で良好な日常生活を送ることは、到底、不可能であるのはいうまでもない。
(3) 以上のことを前提に、本件決議時における共同利益背反行為の有無について判断すると、被告オウム及び被告アレフが、本件専有部分をオウム教団という組織と全く関わりのないような状態で使用するのではなく、多数のオウム信者を本件専有部分内に出入りさせたり、マントラやテープの音が聞こえるような状態でオウム信者に修行させたりして、本件専有部分を明らかにオウム教団と関係のある教団施設として使用していることは、他の区分所有者へ心理的障害を与え、かつ、その程度も極めて大きく、共同生活に著しい不安感を与えているものといわなければならない。
(三) 本件口頭弁論終結時の共同利益背反行為の有無
右(二)記載のとおり、被告オウム及び被告アレフが本件専有部分をオウム教団の横浜支部道場として使用していることは、他の区分所有者の共同生活に著しい障害を与える共同利益背反行為であるところ、このことは、本件口頭弁論終結時においても変わっておらず、そればかりか、平成一一年一二月二九日、一連の凶悪事件が発生したときの最高幹部であり、広島刑務所に服役していた上祐史浩が本件専有部分に滞在するようになっているのであるから、本件専有部分をオウム教団が教団施設として使用していることによる、他の区分所有者の心理的障害の程度は、一層増大していることが推測される。そして、本件決議後、騒音や共有部分の専有使用などの物理的な迷惑行為は減じているものの、被告オウム及び被告アレフは、本件決議後も、相変わらず、客観的に認識できる状態で本件専有部分をオウム教団の教団施設として使用しているのであるから、このような使用方法が他の区分所有者の共同生活に著しい障害を与えていることは明らかである。
もっとも、オウム教団は、本件口頭弁論終結前の平成一一年末から平成一二年初めにかけて、一連の凶悪事件に対する教団幹部の関与を認め、また、松本智津夫についても関与したと思われる旨表明して、これに対する謝罪と被害者等への補償を実践すること及びタントラヴァジラヤーナの教義についても破棄することなどを発表し、これにより、本件建物の他の区分所有者のオウム教団に対する不安感等をある程度減じさせたことは否定できない。しかし、前判示のとおり、松本智津夫自らがタントラヴァジラヤーナの教義の解釈を改めるか、オウム信者が松本智津夫を絶対的帰依の対象者と認めないようになるまでは、オウム信者が再び凶悪事件を引き起こす蓋然性を否定することはできないところであり、右の発表が、団体規制法の成立・適用が取りざたされるようになってからのものであることを考慮すると、現在のオウム教団の右態度も、団体規制法の成立を阻止し、また、適用を免れる意図のもとで為されたものであるとの疑いを払拭できず、オウム教団の右発表が、前判示を左右するものともいえない。
以上からすると、本件口頭弁論終結時の段階では、未だ他の区分所有者のオウム教団に対する心理的障害は存在し、その程度も大きく、本件決議時と変わりがないものといわざるを得ない。
(四) したがって、被告オウム及び被告アレフは、本件決議時、共同利益背反行為を行っており、それは、本件口頭弁論終結時まで継続しているということができる。
2 本件引渡請求以外の方法による障害除去の困難性(争点2)。
前判示のように、本件建物の区分所有者に対して共同生活上の著しい障害を与えているのは、被告アレフ及び被告オウムが、本件専有部分を教団施設として使用しているためであるところ、仮に、区分所有者が個々の行為又はオウム信者の修行道場としての使用につき、区分所有法五七条四項に基づいて差止等を請求したとしても、オウム教団が教団施設として使用していることから生じる基本的な障害を除去することができず、また、教団施設としての使用の差止を請求することは、オウム教団が本件専有部分を使用できなくなるという意味で本件引渡請求をするのと変わりがないといえる。そして、オウム教団が、占有名義を被告オウム及び被告アレフという別法人にした上で、実質的に教団施設として本件専有部分を使用していることに鑑みれば、再び、占有名義を変更することによって、形式的にこれを免れようとすることも十分考えられる。したがって、いずれにせよ、本件引渡請求以外の方法によって障害を除去することは困難であるといわなければならない。
3 本件引渡請求は、権利の濫用にあたるか(争点3)。
被告オウム及び被告アレフは、<1>実質的な弁明の機会が与えられなかったこと、<2>実質的に考えると、本件決議が一部の者の意思によって決議されたものであること、<3>オウム教団が一連の凶悪事件への態度を明確にし、謝罪と被害者等に対する補償を表明していることからすると、本件引渡請求は権利の濫用であると主張する。
そこで、まず、右<1>について検討するが、被告アレフは、本件決議に先立ち、本件通知書記載の事実については、区分所有者の共同生活を害するような行為をしていない旨弁明しているのであるから、本件臨時総会での提案理由について弁明の機会を与えられなかったことが、本件引渡請求権の行使を妨げるような事情になるとは考えられない。もっとも、区分所有者の共同生活を害するような行為をしていないとの被告アレフの弁明は、単に結論のみを述べたにすぎず、その理由を詳細に説明していないことが認められるが(乙一)、本件臨時総会の議長の代理人として出席していた佐伯剛弁護士が「じゃ、弁明終わりですね。」と発言し、弁明が尽きていることを確認しているのであるから(乙一)、詳細な理由を説明していないとしても、これをもって、実質的弁明の機会が与えられなかったということはできない。また、本件臨時総会における提案理由は、多少、言い回しが違うものの、基本的には本件通知書記載の事実とほぼ同じものであるから、被告アレフが、実質的に弁明の機会を与えられなかったと評価することもできない。したがって、いずれにせよ、実質的な弁明の機会を与えられなかったとする被告オウム及び被告アレフの主張は採用できない。
また、右<2>についても、確かに、本件臨時決議に賛成した区分所有者三六名のうち、実際に本件臨時総会に参加したのは代理出席を含めて九名であり、また、賛成区分所有者のうち一八名は本件建物に居住していないが、本件臨時総会に参加しなかった者は議長に議決権の行使を委任しており、それが本人の意思に基づかないなどの事情は何ら窺われないこと及び本件建物に居住していない一八名が本件建物の事情が分かっていないことを裏付ける証拠もないことからすると、これらの事実が、本件引渡請求権の行使が権利の濫用であることを基礎付ける事情になるとは考えられない。
そして、右<3>についても、オウム教団が一連の凶悪事件に対する態度を明らかにしたことなどが、実体的要件を備えた本件引渡請求の行使を妨げる事情になるとはいえないから、このことが、権利の濫用を基礎付ける事実ともならない。
以上のことからすると、被告オウム及び被告アレフの権利濫用の主張は採用できない。
三 結論
以上のとおり、被告若葉ハウスと被告オウム間及び被告オウムと被告アレフ間の賃貸借契約を解除した上、被告オウム及び被告アレフに本件専有部分の引渡しを求める原告の請求には理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条一項本文、六一条、六五条本文を、仮執行宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 末永進 裁判官 高橋隆一 裁判官 平城文啓)
物件目録
(一棟の建物の表示)
所在 横浜市中区若葉町三丁目四一番地二
横浜市中区末吉町二丁目三〇番地三
建物の番号 コスモ伊勢佐木長者町
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 若葉町四一番二の二〇四
建物の番号 二〇四号
種類 事務所
構造 鉄筋鉄骨コンクリート造一階建
床面積 二階部分 九七・〇八平方メートル
(現況一二〇・九八平方メートル)
(敷地権の表示)
土地の符号 1
所在及び地番 横浜市中区若葉町三丁目四一番二
地目 宅地
地積 四七一・四五平方メートル
土地の符号 2
所在及び地番 横浜市中区末吉町二丁目三〇番三
地目 宅地
地積 二二五・〇二平方メートル
右土地の符合1及び2につき
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 三一万二八〇〇分の一万三〇八