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横浜地方裁判所 平成10年(ワ)3936号 判決 1999年10月27日

原告(反訴被告)

さがみ農業協同組合

被告(反訴原告)

牧瀬晋作

主文

一  原告(反訴被告)は、別紙共済事故を原因とする、被告(反訴原告)に対する原告(反訴被告)と被告(反訴原告)間の別紙自動車共済契約に基づく車両共済金支払債務が存在しないことを確認する。

二  被告(反訴原告)の反訴を却下する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

主文第一項に同じ。

二  反訴

被告(反訴原告)と原告(反訴被告)との間において、別紙共済事故を原因とする、被告(反訴原告)に対する原告(反訴被告)と被告(反訴原告)間の別紙自動車共済契約に基づく車両共済金支払債務が存在することを確認する。

第二事案の概要

本件は、原告(反訴被告、以下「原告」という。)が被告(反訴原告、以下「被告」という。)に対し、告知義務違反、盗難その他偶然の事故の証明がないこと、あるいは公序良俗違反を理由として、別紙共済事故を原因とする、被告に対する原告と被告間の別紙自動車共済契約に基づく車両共済金支払債務が存在しないことの確認を求め(本訴)、他方被告が原告に対し、右支払債務の存在することの確認を求めている(反訴)事案である。

一  争いのない事実

1  原告と被告は、平成九年一一月一一日、左記のとおりの自動車共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結した。なお、被告は原告の組合員ではない。

<1> 契約番号 第九〇六二四号

<2> 証書番号 第一四―三二〇〇一八三二六二四九号

<3> 契約の始期 平成九年一一月一一日午後一時

<4> 期間 一二か月

<5> 車種車両 普通乗用自動車

ジャガー 相模 三四つ第一六一号

<6> 契約内容

車両 二九〇万円

対人 無制限

対物 三〇〇〇万円

搭乗 一〇〇〇万円

2  被告は、原告に対し、左記共済事故(以下「本件共済事故」という)を理由に、本件共済契約に基づく共済金の支払を請求している。

<1> 事故日 平成九年一二月一二日午前二時三〇分ころ

<2> 発生場所 町田市鶴間

コンビニエンスストアー「セブンイレブン」駐車場

<3> 事故内容 契約車両盗難事故

3  原告は、被告に対し、平成一〇年四月二四日、共済金支払免責決定を通知し、同決定は同月二五日被告に到達した。

二  争点(原告の共済金支払義務の存否)

(原告の主張、1ないし3は選択的主張)

1  被告は、契約車両(以下「本件車両」という。)を一三八万七一〇〇円で購入しながら、本件共済契約の申込みに際し、原告契約担当者から共済金額が一九五万円から二九〇万円であることを告げられ、その車両購入価格が共済金額の下限を大幅に下回るものであることを承知していたのに、その事実を告知することなく、取得額の二倍を超える契約可能上限額である二九〇万円の車両共済契約を締結したが、これは告知義務に違反することが明白である。

2  本件共済契約約款に定める、盗難その他の偶然の事故によって生じた損害については、請求者において盗難その他の偶然の事故であることを証明する責任を負うが(自動車共済約款第七条)、被告は、その主張する本件共済事故が偶然の事故であることの証明をしない。

3  被告の本件車両購入状況、本件共済契約締結の経緯及び共済事故状況に照らすと、本件共済契約は、原告が車両共済金の不正請求を目的としてあらかじめ計画した作為的行為であり、本件共済契約は公序良俗に反し、当然に無効である。

(被告の主張)

1  被告は、原告契約担当者藤田和子(以下「藤田」という。)に対して、本件車両の購入価格を披瀝した上、車体検査証を提示しているものであって、共済価格二九〇万円は右検査証に基づいて右藤田が査定したものである。そもそも、共済契約締結時に設定する共済金額の決定は、契約車両の車体検査証に基づいて査定するのが規定であるから、共済保険価格の上乗せを契約当事者の片方である顧客が一方的に決めることはできないものである。

2  被告は、本件車両について、争いのない事実2記載のとおりの盗難事故にあったものである。被告は、警察に盗難事故を報告して捜索を願い出ている事実をもって既に偶然の事故であることを証明している。

すなわち、平成九年一二月一二日に本件車両が不測の盗難被害を被り、被告はその場で一一〇番の緊急電話を行って警察に通報したところ、町田警察署員が直ちにパトカーで盗難現場に駆けつけてきたので、被告はすべての事情を報告したところ、警察は直ちに捜索を開始し、翌日厚木警察署員により盗難車が発見された。盗難車両は著しい破損状態で、エンジンが稼働せず走行不能であり、修理不能であった。

3  原告の本件共済契約が公序良俗に反するとの主張は争う。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲五ないし一五、三二の1、2、三三及び三四、三九及び四〇、証人伊藤文一、同藤田和子、同梅原雄蔵、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  被告は、日商工業に勤務し、自家用車一般及びフォークリフトの修理・販売等の業務に従事しているところ、本件車両購入当時トヨタのマークⅡ及びダイハツのハイゼットを所有していた。なお、日商工業の仕事に際しては会社所有の自動車を使用している。

2  トヨタのマークⅡ及びダイハツのハイゼットは、いずれも、被告の親しい友人である住友火災海上保険会社代理店赤木利行(以下「赤木」という。)を介して同社の自動車保険に加入している。

3  被告は、赤木を通じて、平成九年一一月一日、矢野口自工株式会社に中古自動車である本件車両購入の注文(車両価格一三〇万円及び諸費用八万七一〇〇円)を出し、同月一〇日、被告への自動車登録手続が完了した。

4  被告は、共済掛金の支払方法について、月掛けを希望し、本件共済契約締結日に初回月払い掛金四万二九〇〇円を支払い、次回以降の口座引落のため一〇〇円を貯金して原告に普通貯金口座を開設した。

5  盗難場所とされる町田市鶴間セブンイレブン鶴間店は、東京都道一四一号線(通称町田街道)に面している店舗であるが、右都道一四一号線は国道二四六号線と交差する支線である。

6  本件車両は、平成九年一二月一二日午前八時ころ、神奈川県愛甲郡愛川町の水源涵養林のために設置された保安用の林道の山頂部の突つき、同林道の終点付近で遺棄、放置されているのが発見された。盗難があったとされるセブンイレブン鶴間店からは、深夜の通行量の少ない時間帯で、片道所要時間四〇分くらいの距離である。

発見時の状況は、車体全体の外板パネル、フロントガラス・サイドガラス・後部ガラス等が打ち壊されるとともに、エンジンルームも破壊され、エンジンが掛からないなど全損の状態であったが、ナンバープレートは格別傷みはなく、車検証が車内に残されていた。

7  被告は、本件共済金請求の過程で、事故状況について、神奈川県共済農業協同組合連合会(以下「神奈川県共済連」という。)の担当者に対し、「平成九年一二月一一日(木曜)夜から一二日(金曜)にかけて東京へ一人でドライブに出かけた。その帰り、午前二時三〇分ころ、町田市鶴間にあるセブンイレブンへ立ち寄り、駐車場に置いてエンジンをかけたまま五分から一〇分ほどの間買い物をした。戻ってみると車がなくなっていた。」との内容の説明をした。

二1  以上認定の事実及び争いのない事実に基づき本件についてみてみると、盗難事故とされる本件については、<1>被告は既にトヨタのマークⅡ及びダイハツのハイゼットの二台の自動車を保有しているのに、さらに本件車両を購入していること(被告は本件車両の購入の前後ころ廃車にした旨供述しているが、これを裏付ける証拠はない。)、<2>これら二台の自動車については、親しい友人である赤木を通じて住友火災海上保険株式会社の自動車保険に加入しており、本件車両も購入は赤木を通じてのものであるのに同社の保険に加入せず、従前取引のなかった原告の保険に加入していること、<3>本件共済契約においては、本件車両の購入価格が一三〇万円であるのに、共済金額を本件車種の契約上限額の二九〇万円で契約していること、<4>盗難に遭ったとされるセブンイレブン鶴間店の位置は、当夜の被告の帰宅途中に立ち寄る所としては不自然であること(被告は、一二月一一日の夜八時ころ、ドライブに出かけてベイブリッジ、お台場、レインボーブリッジに行った帰りに東名高速道路を使って横浜インターで降り、その後、さらに町田街道を使って町田、八王子方面に行こうと考えたその途中の出来事である旨供述するが、横浜インターから被告の自宅とは比較的近い距離にあり、出発してからの経過時間やその時刻からみて不自然さが払拭できない。)、<5>本件車両が発見された場所は、林道山頂部の終点付近であって、同車の損壊状況(エンジンが掛からず走行不能)から見て同所で損壊したものと認められるが、何故に盗取した車両をそのような場所で前認定のように車両全般にわたって損壊し(ただし、ナンバープレートは破壊せず、車検証も車内に残すなどは、事後の車両発見を容易にするかのようである。)、遺棄、放置したのか理解に苦しむこと(なお、場所的にみて、盗取者は損壊現場を離れるのに自動車が必要であると考えられる。)、<6>右のような状況からみて、盗取についての計画性が窺えるところ、被告の言う五分ないし一〇分間の隙を突いての行為としては、単なる偶然とは理解しにくい点も存すること、その他<7>本件が共済契約締結後わずか一か月後の出来事であることなどの不自然な点が存する。

2  本件共済契約においては、その約款で、盗難その他偶然の事故によって生じた損害について、その損害をてん補するために車両共済金が支払われるものとされているところ(自動車共済約款第七条―甲一)、右に検討したところからすると、本件が盗難その他偶然の事故であるとは言い難い。

3  以上のとおり、本件が盗難その他偶然の事故とは言い難いからその余の点(告知義務違反、公序良俗違反の有無)について判断するまでもなく原告の主張は理由がある。また、反訴については、原告の消極的確認の訴に対し、単にこれの裏返しの積極的確認を求める訴は確認の利益を欠き不適法である。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 志田博文)

共済事故

事故日 平成九年一二月一二日午前 二時三〇分ころ

発生場所 町田市鶴間

コンビニエンスストア「セブンイレブン」駐車場

事故内容 契約車両盗難事故

自動車共済契約

契約番号 第九〇六二四号

証書番号 第一四―三二〇〇一八三二六二四九号

契約日 平成九年一一月一一日

契約の始期 平成九年一一月一一日午後一時

期間 一二か月

車種車両 普通乗用自動車

ジャガー 相模 三四つ第一六一号

契約内容

車両 二九〇万円

対人 無制限

対物 三、〇〇〇万円

搭乗 一、〇〇〇万円

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