大判例

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横浜地方裁判所 平成10年(行ウ)14号 判決

原告

滝井秀和(X)

被告

神奈川県公安委員会(Y)

右代表者委員長

石井明

右指定代理人

早川正行

小田重人

野田次郎

大嶋和平

松橋輝義

加藤謙二

池内重雄

日原建男

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1(有効期間五年の運転免許証の交付を求める訴えの適否)について

1  有効期間五年の運転免許証の交付を求める原告の訴えは、行政庁である被告に対し一定の作為を求める給付訴訟の提起に当たるが、このような義務付け訴訟は、(一) 行政庁に第一次判断権を行使させるまでもないほどに処分要件が一義的に定まっていること、(二) 損害が差し迫っていて、事前に救済しなければ回復し難い損害が生ずること、(三) 他に救済手段がないこと、という場合に限り、認めることができる。

2  本件についてこれを見ると、未だ三年間の有効期間が満了しておらず、原告が更新した免許証で運転をすることが可能であるから、右の(二)の要件を満たさないことは明らかである。また、次のとおり右の(三)の要件も満たさない。

免許証の有効期間の更新を受けようとする者は、その者の住所地を管轄する公安委員会が行う自動車等の運転について必要な適性検査を受けなければならない(道路交通法一〇一条一項)。右適性検査の結果、当該免許証の更新を受けようとする者が自動車等を運転することが支障がないと認めたときは、当該公安委員会は、当該免許証の更新をしなければならない(同条三項)。そして、更新された免許証の有効期間の末日は、七〇歳未満の優良運転者の場合は満了日等の後のその者の五回目の誕生日(以下、有効期間をこのようなものとする運転免許証を「五年免許証」という。)、優良運転者以外の者の場合は満了日等の後のその者の三回目の誕生日(以下、有効期間をこのようなものとする運転免許証を「三年免許証」という。)とされる(道路交通法九二条の二)。また、優良運転者とされるためには、更新前の免許証の有効期間が満了する日の四〇日前の日の前五年間において違反行為をしたことがないということが要求される(道路交通法施行令三三条の七柱書き及び一号)。

したがって、原告は、運転免許証交付処分のうちまず有効期間を三年とした部分の取消訴訟を提起すればよいことになる。そして、これに勝訴すれば、その勝訴判決の効力により、五年免許証の交付を受けられることになるわけである。したがって、このような取消訴訟の手段があるときに、五年免許証の交付を求める原告の訴えは、前記1(三)の要件を欠くものである。なお、原告は、三年免許証の交付処分の取消しを求めているが、三年免許証を取り消すと、免許がおよそ失われることにもなりかねないので、その趣旨は運転免許証交付処分のうち三年とする部分の取消しを求める趣旨であると解される。つまり、右の取消訴訟を提起している以上、別途五年免許証の交付を求める訴えを提起する必要がないということでもある。

よって、原告の五年免許証の交付を求める訴えは不適法である。

二  争点2(一〇〇〇円の支払を求める訴えの適否)について

原告は、一般運転者講習料と優良運転者講習料との差額一〇〇〇円の返還を求めているが、このような訴えを、権利義務の帰属主体ではない被告に求めることはできない。

よって、原告が、一般運転者講習料と優良運転者講習料との差額一〇〇〇円の返還を被告に求める訴えは、右のとおり訴訟要件を欠き、不適法である。

三  争点3(本件制限速度違反行為の有無)について

1  前記基礎となる事実、〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  北海道警察函館方面本部交通機動隊所属の三井賢一警部補と玉澤明巡査(以下、両名を「本件警察官ら」という。)は、平成五年八月三日午後四時五〇分ころ、本件現場の付近である北海道檜山郡厚沢部鶉町二一三番地所在の函館方面江差警察署鶉警察官駐在所空地(以下「駐在所空地」という。)に交通取締用自動車であるパトカー(函館八八ち九五五。以下「本件パトカー」という。)を駐車させ、函館市近郊の北海道亀田郡大野町から檜出郡江差町までは片側一車線の幅員約九メートルの道路である国道二二七号線を走行する車両の最高速度違反行為の取締りを実施していたところ、江差町方面から函館市方面に向けて走行する原告運転の自動二輪車(〔番号略〕。以下「原告車両」という。)を先頭とする数台の車両を認めた。原告車両と二台の後続車両との間にはかなりの車間距離があり、対向車両もなかった。そこで、本件警察官らは、本件パトカーに搭載されていた三菱電機株式会社製RS―七一〇B型車載式レーダスピードメータ(以下「本件測定器」という。)によって、原告車両の走行速度の測定を行うこととし、本件測定器のレーダビーム内に原告車両が進入するのを注視しながら待機した。

原告車両は、走行速度を減じることなく、函館市方面に進行し、本件パトカーの前方約五〇メートル先のレーダビーム内に進入したが、このとき、本件測定器は、測定表示部に「六七キロ」と表示した。本件現場は、北海道函館方面本部公安委員会が道路標識により、最高速度を四〇キロと指定していたので、本件警察官らは、これによって、原告車両が最高速度を二七キロ超えて走行したものと認め、三井警部補は測定速度を速度記録紙に印字した。

玉澤巡査は、前記二台の後続車両の通過を待って本件パトカーを発進させ、原告を追跡し、原告車両の後方にパトカーが接近したところで、三井警部補がマイクを使用し、原告に停止を呼び掛けたが、原告は、直ちには停止せず、そのまま進行した。そこで、本件警察官らが本件パトカーをさらに原告車両の後方に接近させ、停止を呼び掛けたところ、原告は原告車両を停止させ、本件警察官らは原告を二七キロ超過による最高速度違反行為により検挙した。

(二)  本件測定器は、送受信装置(アンテナ部)、速度表示装置及び記録装置から構成され、送受信装置はパトカーの屋根の赤色回転灯の中央に、速度表示装置は車内の助手席前部に、記録装置はセンターコンソールに、それぞれ固定した状態で設置される。本件測定器による測定は、次のように行われる。すなわち、まず目標車に向けて送受信装置からマイクロ波(一万〇五二五メガヘルツ)が輻射され、目標車からの反射波を受信する。そして、ドプラ信号を検出して速度表示装置に出力し、このドプラ信号から目標車の速度を計測する。この目標車速度を、速度表示装置によって表示するとともに、記録装置によって、速度表示装置から送られる速度と時刻を記録紙に印字する。

本件警察官らは、速度表示装置の電源を入れたとき、毎回本件測定器の検査を行っている。検査の要領は、速度表示装置の電源を入れると、測定表示部に一定の数字が表示され、同時に記録装置の記録紙に同一の数字が印字されることで回路テストが行われるというものである。さらに、本件警察官らは、本件の当日も取締り開始前と取締り終了後に、音さによる試験を行い、このときに速度表示部に正常を示す「四九キロ」が表示され、記録紙に同一速度と時刻が印字されることを確認し、速度測定の機能が正常に作動していることを点検していた。また、本件測定器は、製造メーカーによって、年二回の精密検査を受けることとされており、本件の前後においては、平成五年三月一〇日及び同年九月二九日に右精密検査が行われ、本件測定器に異常がなかったことが確認されている。

(三)  本件測定器は、道路に対し、〇度から一〇度の範囲の角度で使用するものとされており、本件警察官らは、本件パトカーを道路に並行に、函館市方向に向けて駐在所空地に駐車するとともに、本件測定器のレーダを、右一〇度の角度に設定した。本件測定器は、停止した状態では、約七〇メートル先の目標車の測定能力がある。

2  以上のとおり認められる。しかも、原告自身四〇キロでは走行してはおらず、五五キロ程度で走行していたと述べていることをも加味すると、右測定結果の信用性が確かめられる。そうすると、原告に本件制限速度違反行為はあったと認めるのが相当である。

そして、前記のとおり、優良運転者には、道路交通法施行令三三条の七柱書き及び一号により、更新前の免許証の有効期間が満了する日の四〇日前の日の前五年間において違反行為をしたことがないということが要求されているから、本件通行区分違反行為の有無(争点4)について判断するまでもなく、原告が優良運転者に当たらないことは明らかである。

3  これに対し、原告は、〔証拠略〕において諸々の反論をするので、念のため、これについて付言する。

(一)  原告は、原告車両の後ろに、後続車両がぴったりと付いていたことから、この後続車両の速度を誤測定した可能性があると述べる。そして、この点に関し、原告は、甲二において、本件現場を原告車両が通過するまでの経緯について次のとおり記載する。

「本件現場に差し掛かる前である俄虫橋交差点を過ぎたころ、最高速度五〇キロのところを、六〇キロで走行していたが、このころから三台の後続車両の先頭を走行することになった。原告としては、後続車両をやり過ごそうと二、三度道路の左側に寄ったが、後続車両は、車間距離を縮めて原告車両に迫るようであったにもかかわらず、原告車両を追い抜こうとしなかった。その後、最高速度が四〇キロとなったので、原告車両も徐々に減速して四〇キロ台としたが、このころには二台となった後続車両は、その後も原告車両の後ろを走行していた。本件現場のある鶉町に入った後は駐車車両のために原告は道路の左側に寄ることもできず、減速もできないまま、五〇キロ台で走行し、後続車両は原告車両のぴったり後ろを付いてきた。原告車両と後続車両が共に本件パトカーの前を通過してしばらくした後、本件パトカーのサイレンが鳴り、赤色灯が光り始めたことから、二台の後続車両が減速し、原告車両もようやく四〇キロ台に減速することができた。」

しかしながら、国道二二七号線は、函館市近郊の北海道亀田郡大野町から檜山郡江差町までは片側一車線の幅員約九メートルの道路であり、原告は自動車より幅の狭い自動二輪であるから、「原告が本件現場に到着するまでの間、後続車両をやり過ごす機会がなく、後続車両のために減速することが難しかった」との記載部分は、全面的には首肯できない。また、原告の右記載によれば、「後続車両は五〇キロ台で走行する原告車両のぴったり後ろに付いてきた。後続車両は、本件パトカーのサイレンが鳴った後に減速し、それによって原告車両は四〇キロ台に減速することができた」とのことであるが、仮に後続車両がこのようにぴったり付いてきたため、本件警察官らが後続車両を誤測定したということならば、測定値は後続車両についてのもので、その数値が六七キロとなる。そして、後続車両と原告の自動二輪とはぴったり付いているのであるから、速度もほぼ同じとなるので、原告車両の走行速度も六七キロということになり、そもそも有効な反論となっていない。さらに、後続車両がぴったり付いてきたという点も、反対証拠があることと総合すると、採用し難い。

(二)  また、原告は、本件測定結果が信用できないとし、裁判例(可部簡易裁判所昭和六二年一二月九日判決・〔証拠略〕)を提出する。

しかしながら、この判決は、検証によって、アンテナの前方約一〇ないし二〇メートルの範囲内で自動二輪車を捕捉できるが、三五・八メートルの地点では捕捉できないと判明したことから、アンテナの前方三五、八メートルの地点で反応したレーダスピードメータの表示を証拠として採用しなかったというのである。そして、同判決は、右捕捉点において、他の車からの反射波を捕捉した疑いがあったことも考慮に入れている。ところが、本件について見ると、前記基礎となる事実のとおり、少なくとも原告車両の前方には、先行車両や対向車両はなく、また、原告車両と二台の後続車両との間にはかなりの車間距離があり、後続車両が原告車両のぴったり後ろに付いてきたとの原告の主張を採用しないことは前示のとおりである。そうとすれば、本件においては、本件パトカーの前方約五〇メートル先のレーダビームの射程内に、原告車両のほかに移動物体が存在していたことは考えられないのであり、前記裁判例とは事案を異にするのである。

(三)  原告は、本件現場である道路自体が駐在所空地とは並行でなく、また、本件パトカーが駐在所空地に並行に駐車すると発進が困難であるので、駐車状況などに関する被告の主張は虚偽であり、本件警察官らが本件測定器を〇度から一〇度の範囲の角度で設置したとはいえず、本件測定結果は信用できないと述べる。

しかしながら、〔証拠略〕によれば、本件測定器は、角度が〇度のときに真値が出るように設計されており、道路に対して角度が大きくなれば、コサインに比例してマイナス誤差が大きくなるがプラス誤差は生じない仕組みになっており、その使用時の設定角度が〇度から一〇度の範囲とされているのは、補正計算をしないで許される限界としての基準ということである。そして、仮に本件測定器の設置の状況が、右〇度から一〇度の範囲の角度を多少逸脱したとしても(〔証拠略〕によれば、その可能性があるかもしれない。)、マイナス誤差が増えるだけであり、原告車両が少なくとも六七キロ出ていたことを否定するものではない。

(四)  原告は、本件道路には障害物があり、これが異常反射、多重反射の原因となり、本件測定器は誤測定をした可能性があると述べる。

しかしながら、〔証拠略〕によれば、本件現場で測定の障害物となるものは何もなかったことが認められる。原告が述べる障害物とは、本件現場と駐在所空地付近の電柱、標識などの固定物を指しているようであるが、〔証拠略〕によれば、仮に障害物による多重反射が生じても、反射波は非常に弱いものであることなどの理由により測定結果に影響はなく、本件測定器は、多重反射を排除する波形チェック機構を持っており、多重反射が影響を及ぼし得る場合には測定を中止する仕組みになっているとのことである。〔証拠略〕によれば、本件警察官らは、本件当日、原告を最後に五件の違反を検挙し、原告以外は普通乗用自動車を運転していたという点で原告とは相違するものの、原告以外には速度違反を否認する者はいなかったとのことであり、本件測定の方法に問題があったとは考えにくいところである。

(五)  原告は、本件現場における四〇キロの最高速度の指定は不合理であり、これに違反したとしても違法性がないと考えるのが常識であると述べる。

しかしながら、〔証拠略〕によれば、国道二二七号線は五月ころから一〇月ころまでの観光シーズンには、通過交通量が増え、同路線における交通事故の発生状況は、平成五年当時は、函館方面江差警察署管内の右路線全体で、死亡交通事故二件を含め、人身交通事故が二四件発生しており、死亡交通事故二件のうちの一件は、本件の前日である平成五年八月二日に現場付近で発生していること、右二四件のうち約六〇パーセントが人口の集中していない鶉町をはじめとする厚沢部町管内で発生しており、事故の原因は動静不注視や無理な追越し等が多いが、被害が大きくなる要因として、ほとんど最高速度違反が関係していることが認められ、〔証拠略〕によって認められる本件道路の状況その他の事情を総合しても、本件現場における四〇キロの最高速度の指定が不合理であるとはいえないし、少なくとも本件行為当日における六七キロが制限速度違反の違法性のない行為ということは到底できない。

(六)  原告は、「測定カードが証拠として提出されていないにもかかわらず、本件制限速度違反行為を認定することは、証拠裁判主義に反する。〔証拠略〕に記述されている速度測定カードに関する記述は、伝聞証拠であり証拠として使用できない。」旨を述べる。

しかしながら、行政事件の受訴裁判所は、適法に顕出された一切の資料及び状況を自由に評価できるのであって(行訴法七条、民訴法二四七条)、伝聞証拠を証拠として採用することも禁止されていない。そして、本件においては、速度測定カードが証拠として提出されていなくとも、本件制限速度違反行為を認めることができることは前示のとおりである。

(七)  原告は、本件測定器は、計量法上の計量器には該当せず、証明行為を行い得ないと述べる。その意味するところは必ずしも明らかではないが、計量法一六条各項が、「(計量器でないものその他所定のものは)取引又は証明における法定計量単位による計量に使用し、又は使用に供するために所持してはならない。」と規定していることを理由にするものと思われる。

しかしながら、同法二条四項によれば、計量器とは、計量をするための器具、機械又は装置をいうとされているのであり、本件測定器が、かかる計量をするための器具、機械又は装置に当たることは明らかである。また、本件測定器は、同条同項にいう特定計量器にも当たらない。

いずれにしろ、これらの議論が本件測定器による本件測定結果の採用禁止を要請するものとはいえない。

4  まとめ

3のとおりの原告の指摘は、いずれも採用し難いものであり、その指摘に応える当裁判所の判断自体がむしろ2の認定を補強するものでもあった。よって、争点3については、2のとおりの判断をすべきである。

四  争点5(行政処分において刑事手続によらないで違反行為を認定することの可否)について

前記基礎となる事実によれば、被告は、原告が運転免許証の更新を行う際、更新前五年間に、原告に本件制限速度違反行為及び本件通行区分違反行為があることを認定し、原告に対し本件処分を行ったことが認められる。このような行政処分においては、基礎となる事実の認定につき当該行政処分の内容に応じた適正手続が保障されれば足りるのであり、仮に処分に不満があれば、その処分の取消訴訟を提起することにより、事後的に救済が図られる制度的仕組みになっているのである。本件訴訟は、まさにその例である。しかも、前記認定事実及び判断に照らすと、本件において、右の意味での行政処分における手続保障が欠如していたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

よって、原告の右主張は、理由がない。

五  結論

以上の次第であるから、本件訴えのうち、(一) 有効期間五年の運転免許証の交付を求める訴え、(二) 一般運転者講習料と優良運転者講習料との差額一〇〇〇円の返還を求める訴えは、いずれも不適法であるからこれらを却下し、(三) 運転免許証交付処分のうち有効期間を三年間とする部分の取消請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 弘中聡浩)

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