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横浜地方裁判所 平成10年(行ウ)17号 判決 1999年10月04日

原告

野見山秀機

外一〇名

右一一名訴訟代理人弁護士

井上幸夫

滝沢香

被告

横浜市長

高秀秀信

右訴訟代理人弁護士

栗田誠之

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が訴外神和建物株式会社に対し平成九年六月一三日付け横浜市建宅指指令第九開一三〇四号をもってした開発行為許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案に対する答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  開発行為許可処分の存在

訴外神和建物株式会社(以下「神和建物」という。)は、平成九年五月九日、被告に対し、分筆前の横浜市戸塚区矢部町<番地略>の土地三四六七平方メートル(以下「本件土地」という。)のうち、2998.81平方メートル(分筆後の同所同番の土地)を開発区域(以下「本件開発区域」という。)として、共同住宅の建設を目的とする開発行為許可申請をした(以下「本件許可申請」という。)。

被告は、同年六月一三日、神和建物に対し、横浜市建宅指指令第九開一三〇四号をもって右申請を許可した(以下「本件開発許可」という。)。

2  原告らの利害関係

原告らは、いずれも本件開発区域の周辺南側(本件開発区域外)に居住する者である。

3  本件開発許可の違法原因

(一) 都市計画法(以下「法」という。)三三条一項一号違反

本件開発区域は、法八条一項一号に定めた用途地域の一つである第一種低層住居専用地域内に位置するところ、本件開発許可の対象とされた行為(以下「本件開発行為」という。)により建築される予定の建築物(以下「本件予定建築物」という。)は七階建て共同住宅である。したがって、本件予定建築物の用途が用途地域の規制に適合していないから、本件開発許可は、予定建築物等の用途が用途地域の規制に適合することを定める法三三条一号に違反し、違法である。

(二) 法三三条一項二号違反

法三三条一項二号に関し横浜市において設けられている「都市計画法に基づく開発許可申請に関する基準(以下「市開発許可基準」という。)」では、開発区域の面積が三〇〇〇平方メートル未満の場合には、開発区域の周辺の道路状況によりやむを得ないときであっても、開発区域内の主要な道路は開発区域外の幅員5.5メートル以上の道路に接続することが要求されている(以下、このような開発区域外の接続される道路を「相当規模の区域外道路」という。)ところ、本件開発区域内の主要道路は幅員5.5メートル以上の相当規模の区域外道路に接続していない。したがって、本件開発許可は、相当規模の区域外道路への接続を定めた法三三条一項二号及び市開発許可基準に違反し、違法である。

(三) 開発行為区分の違法(法三三条及び市開発許可基準違反)

市開発許可基準においては、開発区域の規模が三〇〇〇平方メートル以上の場合にあっては、周辺の道路状況によりやむを得ないときでも、開発区域内の主要な道路は幅員6.5メートル以上の道路(相当規模の区域外道路)に接続することが要求されているところ、神和建物は、この規制を免れる目的で本件土地を区分して、本件開発区域2998.81平方メートルについて本件許可申請をした。このような許可申請は許されないから、これをそのまま許可した本件開発許可は、市開発許可基準に違反し、違法である。

4  審査請求の経由

原告らは平成九年八月二五日横浜市開発審査会(以下「審査会」という。)に対し審査請求をしたが、審査会は平成一〇年一月二七日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、原告らは同月三〇日その通知を受けた。

5  まとめ

よって、原告らは、被告に対し、本件開発許可の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張(原告適格の欠如)

行政処分の取消しを求めるには、その処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者でなければならず、右にいう法律上保護された利益があるというためには、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般公益の中に吸収解消するにとどめず、それが帰属する個々人の利益を個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含まなければならない。ところで、法三三条一項一号は、建築確認の際に審査することになる事項を事前に審査するための規定であり、個々人の具体的な権利の保護を目的としたものではない。また、同項二号は、良好な市街地の形成を図るために一定の水準を図ることを目的としたものであり、個々人の生命・身体・財産の安全等の個別的利益を保護する趣旨の規定ではない。

よって、原告らは、法三三条一項一号及び同項二号を根拠に本件開発許可の取消しを求める原告適格を有しない。

三  本案前の主張に対する原告らの反論

1  法三三条一項一号による保護

法が用途地域を定めた趣旨は、良好な住居の環境を保護するためであるから、法三三条一項一号が開発区域の周辺住民の個別的利益を保護する趣旨も含むことは明らかである。

2  法三三条一項二号による保護

法三三条一項二号は、道路が環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上及び事業活動の効率上支障がないような規模及び構造で適当に配置されるべきことを規定しており、開発区域の周辺住民に関わる環境、災害、通行の安全などの確保も目的としているのは明らかである。これらに支障が生じる開発行為は開発区域の周辺住民にとって災害や交通事故の発生などによる生命・身体・財産への影響をもたらすものであり、同号はこれらの個別的利益をも保護する趣旨である。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2(一)  同3(一)の事実のうち、本件開発区域が第一種低層住居専用地域内に位置することは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(二)  同3(二)の事実のうち、市開発許可基準の内容は認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(三)  同3(三)の事実のうち、市開発許可基準の内容は認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

本件開発区域の面積が三〇〇〇平方メートル未満になるよう区分された場合でも、被告は開発区域の規模が三〇〇〇平方メートル以上になるよう行政指導をすることができるだけである。そして、被告は現にそのような行政指導もしたが、神和建物はこれに従わなかった。

3  同4の事実は認める。

4  同5の主張は争う。

五  被告の主張(本件開発許可の適法性)

1  用途地域適合性(請求原因3(一)に対し)

本件予定建築物は、共同住宅であって、建築基準法四八条一項、同法別表第二の(い)の三により第一種低層住居専用地域内における建築が許されるから、用途地域の規制に適合する。

2  相当規模の区域外道路との接続(請求原因3(二)に対し)

本件開発区域内の主要な道路は、別紙一(乙一の一部を基礎としたもの)の黒塗り部分の道路(本件開発区域に接し矢部小学校前を経由して都市計画道路中田さちが丘線にいたる幅員5.5メートル以上の道路。以下「本件道路」という。)に接続しているから、本件開発許可は、市開発許可基準に適合している。

六  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認し、主張は争う。

2  同2の事実は否認し、主張は争う。

(一) 本件道路の一部に、幅員が5.5メートルに満たない部分があるから、本件開発区域内の主要道路が本件道路に接続していることをもって、法三三条一項二号及び市開発許可基準に適合しているとはいえない。

(二) 本件道路は、別紙二(甲七を基礎としたもの)の③の道路であり、本件開発区域から中田さちが丘線に出るための最短経路(別紙二の②の道路)に比べて一〇倍以上の距離に及ぶ異常な長距離迂回路であって、本件開発区域内の住民はほとんど利用しない道路である。そもそも法三三条一項二号及び市開発許可基準により要求されている道路接続義務は、相当規模の区域外道路に出るために開発区域内の居住者が最も利用する可能性が高い最短距離の経路(別紙二の①の道路)について判断すべきであるから、本件開発許可は道路接続義務を果たしていない。

第三  主要な争点

一  原告らが本訴につき原告適格を有するか。

二  本件予定建築物が法三三条一項一号に適合するか。

三  開発区域の規模が三〇〇〇平方メートルを下回るように区分してされた本件許可申請に対し、被告がそのまま本件開発許可をしたことが違法か。

四  本件開発区域に接続する道路として本件道路を捉えることが相当か。

五  本件道路が5.5メートル以上の幅員を有するか。

理由

一  審査請求の前置の有無

甲一五号証によれば、原告岡野及び同水野は、本件開発許可につき審査請求をしておらず、審査会の裁決を経ていない事実が認められる。ところで、本件開発許可は法二九条の処分にあたるところ、法五二条及び五〇条一項によれば、法二九条に基づく処分の取消しの訴えは、「当該処分についての審査請求に対する開発審査会の裁決を経た後でなければ、提起することができない。」とされている。

したがって、右両原告の訴えは、行政事件訴訟法八条一項ただし書に定める審査請求前置の要請に反し不適法であり、却下を免れない。

二  原告適格の有無(争点一)

1  「法律上の利益を有する者」の意義

行政事件訴訟法九条は、処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限りその取消訴訟の原告適格を認めているところ、右の「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政処分法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有すると解される(最高裁平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五六頁参照)。

被告は、「本件開発許可の根拠となった法三三条一項一号及び二号は、個々人の利益を個別的利益として保護する趣旨ではないから、本件原告らには本件開発許可の取消しを求める原告適格がない。」旨主張するので、まずこの点を検討する。

2  法三三条一項一号の趣旨と周辺住民の保護の有無

法三三条一項一号は、開発許可の申請に係る開発区域内の土地について用途地域が定められているときは、予定建築物等の用途がこれに適合することを開発許可の基準としているところ、ここにいう「用途地域」とは、法八条一項一号に列挙された一二種の地域の総称であり、法九条一項ないし一二項は、各用途地域を住居環境の保護や業務の利便の増進等のために定める地域としている。そして、本件開発区域は第一種低層住居専用地域である(争いがない。)が、第一種低層住居専用地域は、法九条一項により、低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定める地域であるとされている。このような法の規定の仕方からすると、用途地域制度は、地域の保護を考えるもので、その地域の中の個々人の個別具体的な利益を保護する趣旨の制度とはいえないと解される。すなわち、用途地域の制度は、個別の住民の利益を地域内住民という不特定多数者の一般的公益の中に吸収解消させようとする趣旨の制度であると解するほかはなく、地域内住民の個別的利益としてこれを保護する趣旨を含んでいるものとはいいがたい。法三三条二項が、同条一項一号に定められた用途地域に適合する基準を適用するについての必要な技術的細目を政令に委任しているにもかかわらず、法施行令には同号関係の技術的細目が定められていないのもその趣旨であると解される。

したがって、法三三条一項一号は、用途地域や周辺地域の個々人の具体的利益を保護する趣旨の規定とはいえず、本件開発区域の周辺住民である原告らは、右規定により法律上保護された利益を有するとはいえない。

原告らは、法三三条一項一号の規定が良好な住居環境を保護するための規定であり、開発区域の周辺住民の個別的利益を保護する趣旨を含むと主張する。しかし、用途地域という言葉からもうかがえるように、右の規定は、個人単位の内容を規定するものではなく地域単位の内容を規定するものであり、個々人の個別的利益保護の規定と解することは困難である。原告らの右の主張は採用することができない。

3  法三三条一項二号の趣旨と周辺住民の保護の有無

(一)  法三三条一項二号の趣旨

次に、原告らが本件開発許可の違法事由の根拠とする法三三条一項二号について、検討する。右規定は、自己の居住用の住宅の建築の用に供する目的で行う開発行為以外の開発行為について、同号イないしニに掲げる事項を勘案して、道路、公園、広場その他の公共の用に供する空地が、環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上、事業活動の効率上支障がないような規模及び構造で適当に配置され、かつ、開発区域内の主要な道路が相当規模の区域外道路に接続するよう設計が定められていること等を開発許可の基準の一つとしている。

すなわち、右の規定は、道路、公園、広場その他の公共の用に供する空地の配置と道路の設計とを開発許可の基準の一つとするのであるから、右基準が対象としているのは、直接には申請に係る開発区域内の開発の内容であり、開発行為が周辺地域に及ぼす影響は直接の対象とはしていないということができる。

また、右の基準が目的とするところは、基本的には開発区域内の環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上、事業活動の効率上支障が生じないようにすることであり、開発区域の周辺地域(開発区域外)の事柄については性質上副次的に同様の見地から支障が生じないようにすることを定めていると解するのが相当である。というのは、右の同項二号においては、開発区域の周辺地域(開発区域外)について、明示的にはわずかに、開発区域内の配置を検討する際の要素として「周辺の状況」を勘案するようにとされている(同号イ)だけであり、開発基準の要件を定めた同項の他の号(同項三号、六号、八号、九号、一〇号においては、周辺の地域について明文で規定されている、もちろん、それだからといって、これらの違反を主張する場合には当然に原告適格があるということではない。)のようには規定されていないからである。

さらに、同項二号において開発区域内の主要道路と相当規模の区域外道路との接続が問題とされている。すなわち、開発区域外の道路がある程度の幅員を有しなければ開発行為ができないこととなっており、横浜市の場合には開発区域の面積が三〇〇〇平方メートル未満の場合には幅員5.5メートル以上の区域外道路に接続することが要請されている(法施行令二五条四号及び市開発許可基準)。この目的は、規定の体裁からして、基本的には右の開発区域内の環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上、事業活動の効率上支障がないようにするとの目的を実現とするとの視点で規定されていると解される。もちろん、相当規模の区域外道路がなければ開発行為ができないのであるから、右の規定部分は、開発区域の周辺地域(開発区域外)の現状維持に資する機能がある。また、開発区域外の道路の幅員が広いと、開発後において開発区域の内外の交通の行き来に支障が生じることが少なく、開発区域の周辺地域に開発行為前と比べてそれ程の悪影響をもたらさないこととなる。したがって、右の規定部分は、開発区域の周辺地域(開発区域外)の交通上の支障の有無にも結果的に触れている面がある。

(二)  開発許可があった場合の周辺住民への影響

(一)のように、法三三条一項二号の規定は、開発許可の一要件として、基本的には開発区域内の環境、災害、通行、事業活動に支障が生じないようにすることを目的とし、直接的には開発区域内における開発の内容を対象として定めたものであると解される。

それでも、開発行為が実施されると、開発区域の周辺地域(開発区域外)に諸々の影響が生じることがあるのは当然のことであり、例えば、開発区域の周辺地域(開発区域外)に相当規模の区域外道路がないときに大規模な共同住宅を建設するための開発許可がされるような状況を想定すると、開発行為は、開発区域内の住民の生活の支障をもたらすと共に、開発区域の周辺地域(開発区域外)の住民の生活に種々の支障を生じさせることになると考えられる。ただし、それは、通常は、生活上の支障、不便というものであり、開発区域の周辺住民の生命、身体の被害というものではない。もっとも、例えば、予定建築物が完成しそこで火災が発生したところ開発区域外の周辺の道路の幅員が狭いために消防車の到着に時間がかかり、火災の消化に手間取り、開発区域の周辺地域(開発区域外)へ類焼し、周辺地域の住民の生命身体に被害が及ぶということもあり得る。しかし、開発区域の周辺住民に常に生命又は身体の被害が生じるといえるかというとその蓋然性は乏しいし、仮に被害が発生した場合にも、開発行為とそのような開発区域の周辺住民の被害発生との間の因果関係には、やや遠いものがあることは否定できない。

(三)  開発区域の周辺住民と法三三条一項二号の保護法益違反を主張する原告適格の有無

(一)のとおり開発許可の基準の一要件を定める法三三条一項二号の規定は、直接には開発区域内の開発行為の内容を規制しており、また(二)のとおり同号違反の開発行為により開発地域の周辺住民の生活に通常生じるおそれのある被害の内容は、生活上の不便というものであり、生命、身体の被害とはいえない。以上のような事情を総合すると、法三三条一項二号は、開発区域の周辺地域(開発区域外)の住民が開発許可によりその生活等に支障が生じないように保護される利益については、相当規模の幅員の区域外道路がない場合に開発許可がされてはならない点を含め、開発区域の周辺地域(開発区域外)に悪影響が生じないようにするとの一般的な公益の中で扱われるものとし、住民個々人の個別的利益とまではしていないと解するのが相当である。反対に、ここで原告適格を肯定しようとすると、どの範囲の周辺住民に原告適格を認めるべきかの判定基準が不明確となるという問題も生じる。そうすると、開発区域の周辺住民には、右規定違反を理由として開発許可を争う原告適格は認められないというべきである。

なお、相当規模の区域外道路がないためにそれに接続することができないにもかかわらず開発行為に及ぶことが想定されるという場合において、右開発行為により開発区域の周辺住民に受忍限度を超えるような生活上の被害が発生するおそれがあるときは、右周辺住民は、取消訴訟以外の手段を採り得ることになると解されるのである。

(四)  原告らの原告適格の有無

原告らは、本件開発区域の周辺に居住する者であり、「相当規模の区域外道路」に該当する道路が現地におけるいずれの道路であろうと(この点については双方に争いがある。)、それらの道路を本件開発行為前から利用することができる立場にあり、現に利用していると思われる。したがって、本件開発区域の周辺地域(開発区域外)に居住する原告らのような住民に対する本件開発許可の影響というべきものは、共同住宅(本件予定建築物)の建築に伴う人の増加によりもたらされる相対的、量的なものであると評価されるのであり、原告らに対し従前から利用できた道路(相当規模の区域外道路に該当する道路を含む。)をおよそ利用できなくさせ、その生活自体に困難をもたらすといった根本的、質的な変化を及ぼすものではないと考えられる。したがって、前記(三)の解釈のように法三三条一項二号の規定が開発区域の周辺地域の公益一般を保護するだけで、周辺住民個々人の個別的利益の保護を目的としていないとされても、それにより、通常は原告らに著しい不都合がもたらされるものではない。ちなみに、本件予定建築物が建築され、そこに火事が発生したという最も重大な事態を想定した場合において、そのときの本件開発区域の周辺地域(開発区域外)への類焼の防止をどうするかという問題についても、法三三条一項二号の規定は、これについて明示的に規定していないところから見て、本件開発行為の申請人である神和建物に本件開発許可の要件に適合させ、また本件開発区域内の本件予定建築物の建築者又はその居住者自身に火災防止の措置を執らせ、それにより結果的に周辺地域への災害防止を図ることができるとしたものと解するのが相当である。加えて、本件開発行為がされれば本件開発区域の周辺地域(開発区域外)に火災の類焼被害がもたらされるというようなことは、社会通念上当然にいえることではない。

このような諸事情を総合すると、法三三条一項二号の規定は、原告らとの関係でも、本件開発区域の周辺住民が保護されるべき利益については、その周辺地域の一般的な公益の中で扱うこととし、住民個々人の具体的利益として保護するものとはしていないと解するのが相当である。

よって、原告らは、法三三条一項二号違反を理由として本件開発許可を争う原告適格を有しないというべきである。

(五)  原告らの主張に対する判断

原告らは、法三三条一項二号の規定が開発区域の周辺住民に関わる環境、災害、通行の安全などの確保も目的としている旨を主張する。

しかし、規定の文言上、開発区域の周辺地域(開発区域外)の保護が基本的な目的とされていないことは、(一)(三)に見たとおりであり、原告らの右主張は採用することができない。

なお、原告ら指摘の最高裁平成九年一月二八日第三小法廷判決・民集五一巻一号二五〇頁は、法三三条一項七号について開発区域の周辺住民の利益をも保護した規定であると判断している。ところで、同号は、開発区域内の土地が地盤の軟弱な土地であるときや、がけ崩れの多い土地等であるときの必要措置を規定してるところ、このような場合の崖崩れ等の事故においては、住民の被害は生命、身体に及ぶおそれが大きいのであり、かつ、事故の発生の危険に関しては、開発区域の内外の地域について不可分的に捉えるのが社会通念に照らしても相当であるから、同号が開発区域内と一体的な関係のある周辺地域の住民の保護も規定していると解されたのである。したがって、右七号と本件で問題となっている二号とは、開発区域の周辺住民の開発許可を争う原告適格の有無について、事情を異にすると解するのが相当である。

三  結論

以上によれば、原告らの訴えは、審査請求前置に違反し又は原告適格を欠き、いずれも不適法であるから、その余の点について検討するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条・六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡光民雄 裁判官近藤壽邦 裁判官平山馨)

別紙一、二<省略>

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