横浜地方裁判所 平成10年(行ウ)22号 判決 2001年12月26日
原告
杉本三郎
同
枝村庸夫
同
藤江荘平
原告ら訴訟代理人弁護士
井上啓
被告
三橋建設株式会社
同代表者代表取締役
三ツ橋留美子
同訴訟代理人弁護士
高橋温
主文
1 原告らの主位的請求に係る訴えをいずれも却下する。
2 原告らの予備的請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断(証拠により事実を直接認定することのできる場合には、当該証拠を事実の前後に略記する。一度説示した事実は、原則としてその旨を断らない。認定に用いた書証は弁論の全趣旨により認められる。)
1 原告らの主位的請求に係る訴えの適否(争点1)について
(1) 原告らは、主位的請求である瑕疵修補請求は地自法242条の2第1項4号後段に基づく住民訴訟のうちの相手方に対する損害賠償請求に含まれるものとして許されると主張する。
(2) そこで検討するに、地自法242条の2第1項に定める住民訴訟の制度は、同法242条1項所定の違法な財務会計上の行為又は怠る事実を予防又は是正し、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであり、住民が、自己の法律上の利益にかかわらない住民という資格で、地方公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴えであり、行政事件訴訟法上の民衆訴訟(同法5条)に該当し、法律に定める場合において、提起することができるものである(同法42条)。したがって、訴えにより請求することのできる形態(類型)も法定されており、その定めに適合する場合に限り訴えが許容されるのであり、それ以外の場合の訴えは許されず、不適法となると解される。
そして、地自法2422条の2第1項4号後段は、住民が、普通地方公共団体に代位して行う、当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する請求として、<1>法律関係不存在確認の請求、<2>損害賠償の請求、<3>不当利得返還の請求、<4>原状回復の請求、<5>妨害排除の請求の5つの類型を規定している。したがって、これらに該当する訴えのみが許され、該当しない訴えは不適法となる。
この点に関し、原告らは、瑕疵修補請求は、損害賠償請求に含まれるものであると主張する。確かに、請負の目的物に瑕疵があった場合に、注文者が請負人に直接、瑕疵の修補をさせるのも、請負人以外の第三者に瑕疵の修補をしてもらって、修補費用を請負人に損害賠償させるのも、実質的には同じ結果であるとも思われる。しかしながら、請負契約について規定する民法は、634条2項において、請負の目的物に瑕疵があった場合に、注文者は、瑕疵修補に代えて、あるいは瑕疵修補と共に損害賠償請求をすることができる旨規定しており、瑕疵修補請求と損害賠償請求を明白に区別している。そして、原告ら自身も、現に、瑕疵修補請求を主位的主張、損害賠償請求を予備的主張とし、それぞれの請求を別個の請求として取り扱っている。したがって、地自法242条の2第1項4号後段の規定する損害賠償の請求も、瑕疵修補とは区別されるべきであり、瑕疵修補を含んだものと解するべきではない。
(3) これを本件についてみると、原告らの主位的請求は、被告に対して本件擁壁の背面透水層に栗石、砂利又は砕石等を設置するなどして、その瑕疵を修補せよというものであり、前記<1>から<5>のいずれの請求の類型にも該当しない。
よって、原告らの主位的請求である瑕疵修補請求に係る訴えは、地自法242条の2第1項4号後段に規定する住民訴訟の類型に該当しないものであって、不適法といわざるを得ない。
2 本件擁壁の瑕疵の有無(争点2)について
(1) 本件擁壁の構造について
本件擁壁の本来予定された構造は、表側(外側)から背後側(地山側)に向かって、間知ブロック、裏込めコンクリート及び透水層を設けるというものである(第2の2(3)ア)。
そして、現実に築造された本件擁壁の構造が、表側から背後側に向かって間知ブロック及び裏込めコンクリートからできていることは争いがない。問題は裏込めコンクリートの背後に透水層があるか、それとも硬練りコンクリートがあるかである。
そこで、次に、本件擁壁の築造手順、方法等を検討する。
(2) 本件擁壁築造の施工過程
〔証拠略〕によれば、次の事実(ただし、イ(イ)はそこに掲記の証拠による。)が認められる。
ア 全体の施工手順
北八朔住宅団地建設のための宅地造成地域は平坦地ではないため、本件擁壁設置工事は、地盤の相対的に低い地域には高い擁壁を、反対に地盤の相対的に高い地域には低い擁壁を設け、擁壁の上部の高さが一定となるように計画された。その結果、本件擁壁の築造工事を行う地域は、場所により高さが異なり、2メートルタイプのものから5メートルタイプのものの築造が予定され、被告は全体の工期を3つに分けて本件擁壁の築造工事を行った。
また、本件擁壁工事は、地山を削って擁壁を設置する箇所と、元の地盤に土を入れて擁壁を設置する箇所という、その工事に2つのタイプを要した。前者が切土タイプ、後者が盛土タイプと呼ばれる。両者とも、間知ブロックを積んで裏面に裏込めコンクリートを打設し、その後に透水層を設けるということを基本的な作業内容とし、その点は共通している。
イ 各段の積上作業の内容
(ア) さらに、擁壁の築造工程の基本となる最小作業単位を見ると、第2の2(4)イ<6>から<10>のとおりであり、元の地盤面の位置に止水コンクリートを打設した後、1段ずつ間知ブロックを並べ、その裏に型枠を組み、型枠の中に裏込めコンクリートを打設する。裏込めコンクリートが乾くと、その裏に栗石を入れる。その際に、型枠はそのままにしておく。これが間知ブロック1段の築造作業工程である。次いで、第2段の間知ブロックを積み、第1段目の間知ブロックの築造の際に残した型枠の中の、第1段目の裏込めコンクリートの上に第2段めの裏込めコンクリートを打設する。これが乾くと、その裏(背後)に栗石を入れる。次いで、第1段、第2段のブロック積み時に用いた型枠をはずす。
被告はこのような作業を繰り返して、間知ブロックを積み重ねた。
(イ) このことは、〔証拠略〕の写真に、間知ブロック、裏込めコンクリートに続いて地山側に栗石が敷設されている層が撮影されていることからも確認される。
ウ 透水層(栗石、砕石)の敷設
裏込めコンクリート背後の透水層には、割栗石(大きな石を所定の栗石の大きさに割ったもの)と砕石(目つぶし材、0から40ミリメートルの大きさのもの)とが使用された。すなわち、各段の裏込めコンクリートの敷設後、その段の背後の透水層部分がいっぱいになるまで栗石を敷設し、その隙間を埋めるように砕石が蒔かれた。砕石が蒔かれたのは、背面の地山の土砂等が透水層に流れ込んで、栗石と栗石の隙間を埋めて目詰まりを起こすことを防止するためであった。栗石は、被告において、ダンプカーで運び込み、擁壁の高さに応じて道路側又は擁壁上部に置かれたバックホー(栗石のような物等を運ぶ機械)によりダンプカーの荷台から取り出し、これを裏込めコンクリート背後のスペースに運び入れて、透水層部分に敷設した。
エ 水抜きパイプの設置
各段における裏込めコンクリートの打設及び栗石の敷設作業の途中で、水抜きパイプを適宜設置することになる。水抜きパイプは最低限3平方メートル当たり1箇所の割合で設置すべきと定められているところ(〔証拠略〕、宅地造成等規制法施行令10条)、被告は、縦約1メートル、横約2.5メートルの間隔で菱形状に設置した。これは、上記の所定の定めより高い割合による設置である。
(3) 透水層における水抜きパイプの役割
ア 一般論
透水層は、擁壁背面の浸透水、湧水等の排出を容易にするために設けられ、これによって、上記の水が水抜きパイプを通って道路に排出される。そうすることにより、擁壁背面の地山全体が水分を含んで膨張して擁壁が倒壊することが防止される。
イ 本件透水層及び水抜きパイプ
また、〔証拠略〕によれば、強い降雨のあった日の翌日に本件擁壁の水抜き穴から排水している状況が写真に撮影されており、本件擁壁における水抜き穴はアで予定された役割を果たしていることが認められる。
(4) その他の考慮すべき事情
ア 栗石使用の存否
被告の従業員片岡和夫は、本件擁壁工事に必要な栗石の量を事前に計算したところ、合計586.25平方メートルであったので、経験上、ある程度のロスが出ることを見越して不足となることがないようにするため、15パーセントのロスを見越して、沖田興業有限会社、株式会社小崎建材、有限会社金子商店の3社に発注した。栗石敷設後、同3社からの伝票をもとに確認したところ、実際に納入された栗石は、合計663平方メートルであった。(〔証拠略〕)
イ 倒壊事故の有無
本件擁壁完成後の平成10年7月30日、1時間降水量92ミリメートルの記録的集中豪雨があったが、本件擁壁は倒壊しなかった(〔証拠略〕)。
また、その後も現在まで、倒壊等の事故の発生を認めるべき証拠はない。
ウ 透水層へのコンクリート投入を示す証拠の有無
原告枝村は、その本人尋問において、結局、裏込めコンクリートと地山との間の透水層が設置されるべき部分に、被告が栗石を投入するところは目撃したが、コンクリートを投入するところを現認したことはないと認めており、他に、被告が透水層が設置されるべき部分にコンクリートを投入していることを直接示す証拠はない。
(5) 本件擁壁の瑕疵の有無
以上の事実からすれば、本件擁壁には、その背面に50から150ミリメートルの割栗石が敷設され、同栗石の隙間には0から40ミリメートルの砕石が蒔かれていること、本件透水層はこのような構造で築造されて、存在すること、降雨時には水流は本件透水層を通り水抜き穴から排出されて、本件透水層及び水抜き穴が本来予定された機能を果たしていることが認められる。これら事実に照らすと、本件擁壁に瑕疵があるとは認められない。
(6) 原告らの主張について
ア 擁壁最下段の水抜き穴からの浸出水不存在の主張について
(ア) 原告らは、甲6の写真によると、最下段の水抜き穴からは排水されていないのに、それより上の段の水抜き穴からは排水されているので、本件擁壁の裏面全体には栗石が敷設されておらず、擁壁裏面からの浸出水が栗石の層をつたって下部へ流れないと主張する。
(イ) しかし、〔証拠略〕の写真をよく見ると、最下部の水抜き穴からも浸出水があることが確認できる。また、降雨時の最下部の水抜き穴からの排水状況を確認することができる写真も存在する(〔証拠略〕)。したがって、(ア)の主張は、前提事実を欠いている。
加えて、原告らの主張するとおり、裏込めコンクリートの背後に透水層がなく、代わりに硬練りコンクリートが投入されて、水が下部へ流れない状態が作り出されていたとすれば、本件擁壁付近に集まった水は、一番上の水抜き穴からのみ浸出し、そこから下へは流れることができないはずである。そうすると、最上部の水抜き穴以外の水抜き穴から排水されているとすれば、本件擁壁内部に水が下部へ流れることのできる透水層があることを推認させることとなる。
よって、本件擁壁が原告らの主張するような構造であると認めることはできない。
イ 擁壁上部の水抜き穴からの排水の主張について
(ア) 原告らは、甲7の写真によると、本件擁壁の下部の水抜き穴からの浸出水はないのに、上部の水抜き穴からは排水がされているので、本件擁壁の上部から下部に水が流れるのを阻止するコンクリートの層があると主張する。
(イ) しかし、甲7の写真によると、この撮影時の水の出方は、勢いよく流れ出るのではなく、滲み出ている程度であり、本件擁壁の裏の部分にたまたま溜まっていた水や目地、クラックに滲み込んだ水が滲み出ているところが撮影されたものと考えられる。また、前記のとおり、降雨時に最下部の水抜き穴からの浸出している状況を確認することができる(〔証拠略〕の写真)。したがって、原告らの指摘する写真(〔証拠略〕)のみを取り上げて、透水層の存在を否定する根拠とすることはできない。
ウ 擁壁表面の浸出水の主張について
(ア) 原告らは、透水層部分に栗石が使用されていれば、大部分の水は栗石部分から下部へ流れ、擁壁表面に浸出しないはずであるから、擁壁表面に浸出水があるということは、栗石が使われていないことを示すと主張する。
(イ) しかし、透水層といえども、水の流れる配管が設置されている場合のように勢いよく大量に下に水が流れるわけではなく、むしろ、栗石、砕石の間をつたって流れていくことのできる水量には限界がある。したがって、降雨量が多い場合は、透水層をつたって下部へ流れる水と途中の水抜き穴から外へ排出される水が生ずる。そうすると、擁壁表面に浸出する水があることは、栗石による透水層の存在を肯定する根拠ではあっても、これを否定する根拠とはならない。原告らの主張は採用できない。
エ 天端陥没部からの浸出水通路の主張について
(ア) 原告らは、本件擁壁のうち〔証拠略〕の写真の水抜き穴のある箇所の天端部分は、表土が陥没し、穴があいた状態になっている(その状態は〔証拠略〕の写真のとおりである。)ので、擁壁背面と地盤との間に水の通路ができており、栗石による水の通路はない旨を主張する。
(イ) しかし、〔証拠略〕の写真によれば、表土の陥没部分は天端部の間知ブロックのすぐ背後にあると認められ、透水層があるべき箇所の背後にあるとは認められない。そうすると、水が下方に流れる通路は、天端部の陥没部直下にある蓋然性が高く、裏込めコンクリートの背後に位置するものとなり、栗石からなる透水層を通過することを意味する。まさに水が天端部の窪みから浸出しても栗石の透水層があるからこそ、水は下方につたい、下方の水抜き穴からも排出されると考えるのが相当である。反対に、天端部の陥没部があることの一事で、水が、その直下の透水層のある部分ではなく、それより背後側の地山の箇所を流れ落ちるとし、透水層のあるべき部分には硬練りコンクリートが打設されているとの原告らのような推論をすることは困難である。原告らの主張は採用できない。
オ 水抜き穴周辺のみの栗石敷設の主張について
(ア) 原告らは、鋼棒を水抜き穴に差し込んだときに、栗石の間を突き抜けて裏の地層部分にまで達してしまうところ、これは、栗石が水抜き穴周辺にしか設置されておらず、それ以外の部分はコンクリートであり、水抜き穴周辺は栗石がそろってしまい隙間があいているためであると主張する。
(イ) しかし、栗石の大きさは、50から150ミリメートルであり、栗石の透水層の幅は30センチメートル(切土タイプ)かそれよりやや広い(盛土タイプの下方は最も広いところで80センチメートル)程度にすぎない。他方、鋼棒の長さは約145センチメートルで(〔証拠略〕の写真)、その太さも細いから、鋼棒が栗石の隙間を通って本件擁壁背面の地山に当たることは十分あり得ることであり、鋼棒が地山まで達したからといって、必ずしも原告らの主張するように水抜き穴周辺部以外がコンクリートであることを示す根拠となるわけではない。
また、コンクリートの層があるため、栗石が横一列にそろってしまい、鋼棒の挿入が可能となるとの主張部分は、原告枝村自身、その本人尋問において、水抜き穴を懐中電灯で照らしたところ、栗石が横一列にそろっていることは確認できなかった旨を供述しているところから見て、採用することはできない。
カ 流路の遮断の主張について
(ア) 原告らは、水が勢いよく出ている水抜き穴に栓をして水を止めると、直ちにその隣の水抜き穴から流水するので、水が水平方向に、水抜き穴周辺を流れており、水抜き穴の直下に水平な水を通さない層が底面として存在すると主張する。
(イ) しかし、本件擁壁には、地盤面の位置に止水板が設置され、その上部の透水層をつたってきた浸出水は止水板より下方には浸出しないようにすることとされている。そして、原告らが実験をした水抜き穴(〔証拠略〕)は、ちょうど止水板が設置されている付近にある水抜き穴である(〔証拠略〕)。したがって、(ア)のような現象は、設計上当然のことであり、必ずしも本件擁壁が原告らの主張するような構造であることを示す理由とはならない。
キ 硬練りコンクリート使用の主張について
(ア) 長い型枠の使用及び短期の工事日程の主張について
a 原告らは、裏込めコンクリート打設のための型枠のベニヤ板として、間知ブロック1段分以上の高さのものが使用されていること及び工事の進捗状況からみて、被告が、手作業を省略するために、一度に2、3段のブロックを積んで硬練りコンクリートを流し込んだ可能性があると主張する。
b しかし、前記のとおり、被告は1段ずつブロックを積み上げる作業工程を踏んでおり、原告ら主張のような事実は認められない。なお、型枠のベニヤ板に長いものが用いられているのは、栗石を敷き詰める際に裏込めコンクリートの縁に栗石があたって、コンクリートが欠けるのを防止するためであった(〔証拠略〕)。
また、被告は、夏場で2、3段、冬場で2段、6日間で4段積んでいるところ、建設大臣官房官庁営繕部監修の建築工事共通仕様書(〔証拠略〕)において1日の積上高は1.2メートル(4段相当)以内であればよいとしているので、違法ではない。裏込めコンクリートについても、必要な時間の養生(乾燥)は実施されていた。(〔証拠略〕)
そして、本件擁壁の工事の進捗状況が早かったとしても、そのことは、栗石の透水層を設置する代わりにコンクリートを入れたことを認めるべき根拠とはならない。むしろ、前記aで原告らの主張するように、栗石を入れる代わりにコンクリートを入れた方が、型枠の設置、コンクリートの養生に時間がかかるのであり(〔証拠略〕)、工事の進捗状況として不自然となる。この点に関する原告らの主張は採用できない。
(イ) 費用・手間の主張について
a また、原告らは、費用と手間の点から本件擁壁の背面のうち、水抜き穴周辺だけは栗石が設置されているが、それ以外の部分にはコンクリートが流し込まれており、栗石は敷設されていないと主張する。
b しかし、水抜き穴周辺のみ栗石を敷設し、それ以外の部分にはコンクリートを入れるという工法はかえって手間がかかる。すなわち、証人片岡和夫の証言によれば、コンクリートを入れる場合、水抜き穴周辺の栗石には空隙があるため、砕石等で相当程度目つぶしを行い、転圧して(締め固め)、平らにする作業を実施しなければならないため、単に栗石を敷設する以上に手間がかかること、また、経済的にも、コンクリートの方が栗石より高価であることが認められる。したがって、わざわざ被告が上記主張に係るような作業を行うメリットはなく、動機に欠ける。
よって、この点に関する原告らの主張も採用できない。
(ウ) バックホーの使用不能の主張について
a 原告らは、バックホーのバケットでは、透水層のように狭く隙間に栗石を落とすことができないと主張する。
b しかし、被告は、バックホーのバケット(物をつかむ部分)でダンプカーの荷台にある栗石をすくい取り、バックホーを旋回させて、バケットを本件擁壁側まで移動させ、バケットが支え棒のある型枠に接しさせた後、石積作業を行っている作業員とバックホーを誘導する誘導員(玉掛け担当員)が、型枠にベニヤ板を斜めにしてあてがい、その状態で栗石をバケットからあてがいのベニヤ板を経由して透水層に落とし入れた。なお、上記のベニヤ板から散って透水層からこぼれた栗石は、作業員が手作業で拾い集めて透水層に敷設した。(証人片岡)
原告らは、上記の方法は実施することが不可能であり、作業員も負傷するはずであると主張するが、その主張自体何ら根拠のない憶測であり、採用できない。
(エ) 型枠パネル引き抜き不能の主張について
a 原告らは、型枠パネルを組んで、コンクリートを入れ、栗石を敷く作業を2段行った後に型枠パネルを引き抜くことは不可能であるとして、被告がその旨の作業をしていないと主張する。
b しかし、証人片岡和夫の証言によれば、次の事実が認められる。
型枠の片側面はコンクリートの剥離剤が塗布されてつるつるしており、反対側は、コンパネというベニヤ板の裏には桟木が打ちつけられていて凹凸があった。したがって、コンクリート乾燥後も、剥離剤が塗布されている面にのみコンクリートが接し、桟木がある面は栗石と接するために型枠を上方に持ち上げれば容易にはずすことができた。引き抜く作業は、手作業で行うこともあれば、型枠の両端の台付け掛けにワイヤーを掛けてバックホーで引き抜くこともあった。
以上のとおり認められ、型枠パネルを引き抜くことが不可能であるとの主張は、単なる原告らの推測にすぎない。そして、乙2の写真にあるとおり、本件擁壁の施工には、裏込めコンクリートを投入する際、型枠パネルが使用されていたところ、仮に、栗石を入れた後に型枠パネルを引き抜くことが不可能であったとすれば、証人片岡が述べるとおり、硬練りコンクリートを栗石の代りに流し込んだ後にこれを引き抜くことは、なおさら不可能となる。その意味からも、原告らの主張は採用できない。
ク 鑑定結果に対する批判の主張について
(ア) 本件擁壁の構造に関し、鑑定の結果、前記(5)と同様であり、本件擁壁の背面には本件透水層が設置されていると判断している。
(イ) 原告らは、本件鑑定について、鑑定の材料として使用された各写真の撮影時期が降雨後の乾いた状態のときのものか、しばらく降雨がなかったときのものかという前提事実に誤りがあると主張する。
しかし、本件の鑑定は、撮影時期を把握しており、原告らの主張するような誤った前提をとってはいない。
(ウ) 次に、原告らは、本件鑑定が透水層部分の材料を栗石、砂利、砕石等とした点において誤っていると主張する。
しかし、原告らの上記の見解は、本件擁壁の横断面を撮影した写真(〔証拠略〕)に単にコンクリートが撮影されている点に依拠して推察しているだけである。ところで、上記写真の撮影対象は仮固めされたコンクリートであり、仮固めコンクリートは、本件擁壁工事が、途中でいったん中断されたために塗布されたものであり、本件透水層に敷設された栗石、砕石がこぼれるのを防ぐため、仮にコンクリートで固めたもので、あくまで仮のものなので、その厚さは5センチメートル未満であった(証人片岡)。したがって、仮固めされたコンクリートの内側がどのように構成されているかが問題であり、それは、前述のとおり、栗石と砕石でできていると認められる。本件鑑定は、透水層として利用される材料は栗石、砂利、砕石であるとして、一般的に見解を述べた上、本件では、写真から区別することが困難であるとして、この3種を併記したとしており(鑑定書の6頁注1)、なんら誤ったものではない。また、仮に本件透水層に砂利が含まれているとしても、一般的に透水層に用いられる材料であるから、事柄の性質に変更を来すような問題ではない。したがって、原告らの批判は、当を得ないばかりか、原告らは、仮固めコンクリートの部分が連続しており、裏込めコンクリートの背後が連続的に仮固めコンクリートでできているとする点で根本的に事実を誤っている。
したがって、本件透水層は栗石等が敷設されており、原告らの上記主張には、何ら根拠はなく、本件鑑定の結果が誤りであるとの根拠とはならない。
(エ) また、原告らは、甲12の各写真において、降雨後も水抜き穴から多量の排水があることが撮影されていることをもって、透水層内部に保水部分があると主張し、これに反する本件鑑定を批判する。しかし、甲12の撮影時期が降雨後のものかどうか明らかではないうえ、甲12の写真によると地面はまだ相当程度濡れており、雨が止んでいたとしても、さほど時間が経過していないときのものであると考えられるから、水抜き穴から排水があったことが、透水層内部に保水部分があると認めることの根拠とはならない。
(オ) 以上のように、原告らは、本件鑑定について種々の主張をするが、いずれも、説得的なものではなく、採用するには足りるものではない。
3 結論
よって、原告らの主位的請求(瑕疵修補請求)にかかる訴えは、不適法な訴えであるから却下することとし、原告らの予備的請求(損害賠償請求)は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 村上誠子)