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横浜地方裁判所 平成11年(ワ)14号 判決 2004年1月23日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは,原告Aに対し,暴行,脅迫,拉致,監禁及び暴行,脅迫,拉致,監禁,面談,電話等の方法を用いて,同原告が信仰する宗教の棄教の強要をしてはならない。

2  被告らは,原告Aに対し,連帯して,1319万5816円及びこれに対する平成11年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告らは,原告Bに対し,連帯して,579万8450円及びこれに対する平成11年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

本件は,世界基督教統一神霊協会の信者である原告Aが,被告C,同D,同E,同F,同G及び同Hが,日本基督教団の伝道師,牧師である被告I及び同Jの指示,指導のもと,同原告の意思に反して,違法に,同原告を拉致してマンション等の居室内に監禁し,同協会からの脱会を強要し,同Jが,同原告の意思に反して,違法に,同原告と面談して同協会からの脱会を強要したと主張して,被告らに対し,信教の自由,婚姻の自由等の権利に基づき,上記行為の差止を求めるとともに,共同不法行為に基づく損害賠償請求権に基づく損害賠償金1319万5816円及びこれに対する被告らに対する本件訴状の最後の送達日の翌日である平成11年1月15日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,世界基督教統一神霊協会の信者である原告Bが,原告Aに対する被告らの上記行為により,固有の損害を被るとともに,同原告が,原告Aの拉致を防ごうとした際に,被告らに暴行を受け,傷害を負ったと主張して,共同不法行為に基づく損害賠償請求権に基づく損害賠償金579万8450円及びこれに対する原告Aと同様の遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

1  前提事実(証拠を引用しない部分は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告ら

(ア) 原告A(昭和45年生まれ,以下「原告A」という。)は,大学在学中の平成2年12月ころ,世界基督教統一神霊協会(以下「統一協会」という。)の関連団体である全国大学連合原理研究会(以下「原理研究会」という。)に入会した(甲4)。

(イ) 原告B(昭和44年生まれ,以下「原告B」という。)は,大学在学中の平成2年5月ころ,統一協会の信仰を持った(甲5,53)。

(ウ) 原告らは,平成7年11月6日,千葉県市川市長に対し,婚姻の届出をした(甲3,67)。

イ 被告C,同D,同E,同F,同G及び同H(以下,上記被告らを一括して「被告C夫妻ら」という。)

(ア) 被告C(昭和16年生まれ,以下「被告C」という。)と同D(昭和19年生まれ,以下「被告D」といい,被告C及び同Dを一括して「被告C夫妻」という。)は,昭和44年に婚姻し,長女原告A,次女被告E(昭和47年生まれ,以下「被告E」という。)及び三女K(昭和49年生まれ)をもうけた。

平成7年当時,被告Cは,横浜市内のa研究所に勤務し,被告C夫妻,同E及び原告Aは,横浜市(以下略)内の同社社宅に同居していた。

(イ) 被告Eは,平成7年当時,b病院で看護師として勤務していた。

被告Eは,平成3年6月ころ,看護専門学校在学中に,原告Aに誘われて原理研究会に入会し,その後,統一協会のセミナー等に参加し,平成5年3月ころ,統一協会に入会し,信者として活動していた(乙5)。

(ウ) 被告F(昭和24年生まれ,以下「被告F」という。)は,被告Dの弟であり,原告らの主張する不法行為発生時である平成7年7月から平成9年7月までの間(以下,この期間を「本件当時」ということがある。)は,c工場に単身赴任していた(乙26)。

被告G(昭和29年生まれ,以下「被告G」といい,被告Fと同Gを一括して「被告F夫妻」という。)は,被告Fの妻である(乙25)。

被告H(昭和14年生まれ,以下「被告H」という。)は,本件当時,d会社に勤務しており,被告Cと交際があった。

ウ 被告I及び同J(以下,両被告を一括して「被告牧師ら」という。)

(ア) 被告I(昭和23年生まれ,以下「被告I」という。)は,本件当時,横浜市(以下略)内所在の日本基督教団甲教会(以下「甲教会」という。)の伝道師,牧師として活動していた。

被告Iは,昭和63年ころ,同被告の姪が統一協会に関わったことをきっかけとして,統一協会の信者やその家族に対するカウンセリング活動を行っていた(丙1ないし4,25)。

(イ) 被告J(昭和29年生まれ,以下「被告J」という。)は,本件当時,群馬県(以下略)所在の日本基督教団乙教会(以下「乙教会」という。)の牧師(主任担任教師)として活動していた。

被告Jは,大学在学中に統一協会に入信して,信者として活動した後,同協会を脱会した経験を持ち,統一協会の信者やその家族からの相談に応じるなどしていた(丙5,24)。

(2)  事実経過

ア 原告Aは,平成5年3月に大学を卒業し,アメリカ合衆国内の大学に2度留学するなどした後,平成7年5月23日付の手紙(丙67)で,被告C夫妻に対し,統一協会の信仰を持っていることを打ち明けたが,同被告夫妻は,これに反対した(乙3,4)。

イ 平成7年6月27日,被告C夫妻は,甲教会に被告Iを訪ね,原告Aが統一協会の信仰を持っていることについて相談した。その後,被告Iは,被告C夫妻に対し,被告Jを紹介した。

ウ 平成7年8月25日,原告らは,大韓民国ソウル市で,統一協会及びその関連団体が主催した国際合同結婚式に,互いを主体者(配偶者)として,参加した(甲4,5,53,乙1)。

原告Aは,国際合同結婚式参加後,統一協会の教義に従い,原告Bと同居することなく,被告C夫妻宅で生活していた。

エ 平成7年10月22日ころの深夜,原告Aは,被告C夫妻とともに,同被告夫妻宅から,群馬県伊勢崎市所在のマンションL居室に移動し,同月25日ころまで,同居室に滞在した(甲6の写真16,17,甲18。なお,日付については争いがある。)。

オ 平成7年10月25日,原告Aは,被告C夫妻及び同F夫妻とともに,マンションLから,群馬県太田市内所在のマンションM居室に移動し,同月27日まで,同居室に滞在した後,同居室を退去した(甲6の写真18,19,甲19)。

カ 平成9年1月10日の晩,原告Aは,原告B及び被告Eとともに,川崎市(以下略)内所在のN店で食事をした後,同日午後10時40分ころ,被告C夫妻らとともに,同店駐車場(原告Bは,同所で暴行を受けたと主張している。)から,横浜市(以下略)内所在のマンションO居室に移動し,同年2月15日まで,同居室に滞在した(甲6の写真3ないし6,甲20,23)。

キ 平成9年2月16日,原告Aは,被告C夫妻らとともに,マンションO居室から,神奈川県藤沢市内所在のマンションP居室に移動し,同年4月10日まで,同居室に滞在した(甲6の写真7ないし9,甲21,24)。

ク 平成9年4月10日,原告Aは,被告C夫妻らとともに,マンションP居室から,埼玉県深谷市内所在のマンションQ居室に移動し,同年6月9日まで,同居室に滞在した(甲6の写真12ないし15,甲22)。

ケ 平成9年4月19日,被告Jは,マンションQ居室を初めて訪れ,原告Aと面談した。

コ 平成9年6月9日,原告Aは,被告D及び同Eとともに,甲教会に赴き,被告Iと面談し,同日午後5時ころ,横浜市内のJR戸塚駅付近で,被告D及び同Eと別れた。

2  争点

(1)  被告C夫妻らの行為が,原告Aの意思に反する,違法な,拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。

(2)  争点(1)につき,被告牧師らの指示,指導があったか。

(3)  被告Jの行為が,原告Aの意思に反する,違法な,面談及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。

(4)  被告C夫妻らが,原告Bに暴行を加えた事実があったか。

(5)  差止の必要性の有無

(6)  原告らの損害の有無及び額

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(被告C夫妻らの行為が,原告Aの意思に反する,違法な,拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。)について

(原告らの主張)

被告C夫妻は,被告E,同F夫妻及び同Hと共謀し,以下のとおり2度にわたり,原告Aを,同原告の意思に反して,違法に,拉致,監禁し,統一協会からの脱会を強要した。

ア(ア) 平成7年10月22日深夜,被告C夫妻が,原告Aを同被告夫妻宅から引きずり出し,R某親子が運転する自動車の後部座席に,同原告を押し込んで乗せ,同被告夫妻が同原告の両側に乗車して拉致し,マンションL居室へ連行して,10数名の統一協会の元信者とみられる男女とともに,同原告を,同居室に監禁した。

上記居室の玄関ドアには,通常の錠及び防犯チェーンとは別のチェーンと南京錠が付けられ,窓には鍵付のクレセント錠が増設され,原告Aがドアや窓を開けて逃げることができないようになっていた。

被告C夫妻から事前に連絡を受け,上記居室に待機していた被告Gらは,統一協会の元信者とともに,原告Aを監視した。

(イ) 被告C夫妻は,平成7年10月23日午前4時ころ,原告Aが,同Bと携帯電話で連絡を取ったことを知り,この携帯電話を奪い,同月25日,マンションLから,マンションMまで,被告Cが運転する自動車に,原告Aを乗せて連行し,同マンション2階居室に,同月27日まで監禁した。

上記居室の玄関ドア防犯チェーンは,南京錠によって施錠され,さらに,防犯チェーンとドアノブに,別途用意されたチェーンが巻き付けられ,別個の南京錠によって施錠されており,窓には鍵付のクレセント錠が増設され,原告Aがドアや窓を開けて逃げることができないようになっていた。被告C夫妻,同F夫妻らは,原告Aが逃げないように監視した。

イ(ア) 被告C夫妻らは,共謀のうえ,平成9年1月10日午後10時40分ころ,N店駐車場において,同店から出てきた原告Aの両腕を被告Dが掴み,同C及び同F夫妻らが,同原告を羽交い締めして,仰向けにして持ち上げて運ぼうとしたが,その際の勢いで落下した同原告が,駐車場内に停車したS(以下「S」という。)運転のワンボックスカーの左前タイヤ部分に右足を掛けて抵抗したにもかかわらず,同ワンボックスカーに,同原告を押し込んで拉致し,同原告の監禁場所として被告Eが借りていたマンションO居室に,同年2月15日まで監禁し,監禁中,同原告に対し,統一協会に関する対話及び同協会からの脱会を強要した。

上記ワンボックスカーの窓ガラスには,スモークシートが貼られ,カーテンが取り付けられており,上記居室の玄関ドアには,元々付けられている錠及び防犯チェーンとは別のチェーンと2個の南京錠が付けられ,原告Aが脱出できないようになっていた。また,同居室の窓には,半透明のビニールが貼られ,原告Aが外部に救出要請ができないようになっており,被告C夫妻が,同原告を常時監視するために,同居室の襖やトイレの錠は取り外されていた。

原告Aは,被告C夫妻に,監禁の不当性を訴えたが,同被告夫妻は,同原告の訴えを聞き入れなかった。

(イ) 平成9年2月16日午前0時半ころ,被告C夫妻らは,原告Aを上記マンションから連れ出し,被告Hが運転する自動車に同原告を乗せ,マンションP居室へ連行して,同年4月10日まで,同居室に監禁し,同原告が,監禁及び統一協会からの脱会の強要の不当性を訴えたにもかかわらず,統一協会に関する対話を強要した。

上記居室も,マンションO居室と同様の細工がされ,被告Cが南京錠の鍵を所持し,窓には鍵付のクレセント錠が増設され,原告Aがドアや窓を開けて逃げることができないようになっていた。

(ウ) 平成9年4月10日午後9時半ころ,被告C夫妻及び同Eは,原告AをマンションP居室から連れ出し,被告Hが運転する自動車の後部座席に乗せ,マンションQ居室へ連行し,同居室に,同年6月2日まで監禁した。

上記居室には,前記各居室と同様の細工がされ,被告Cが南京錠の鍵を所持し,原告Aがドアや窓を開けて逃げることができないようになっていた。

被告C夫妻らは,原告Aに対し,統一協会に関する対話を強要するとともに,被告Jとの面談を強要した。

(エ) 原告Aは,監禁中,絶えず精神的に脅迫と恐怖にさらされ,この監禁前には53キログラムあった体重が,約43キログラムに激減して衰弱するなど,精神的にも肉体的にも耐えることができなくなり,平成9年5月23日,被告C夫妻らに対し,やむを得ず真意に反して,統一原理の間違いに気付いた旨話した。

(オ) 平成9年6月9日,被告D及び同Eは,原告Aを,マンションQ居室から甲教会へ連行し,被告Iと面談させ,同日午後5時ころ,横浜市内のJR戸塚駅付近で,同原告を解放した。

(被告C夫妻らの主張)

被告C夫妻らは,原告Aが,統一協会の信者としての活動を通じて,自由な意思決定ができなくなり,宗教的人格権及び幸福追求権が侵害されている状態にあったことから,同原告の両親,親族等として,同原告が侵害されている権利を回復するために話合いを行うという正当な目的で,同原告の承諾に基づき,同原告を保護し,話合いを行ったものであり,その手段,態様も社会的に相当な範囲内のものであるから,同被告らの行為は,同原告の意思に反する,違法な,拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要と評価されるべきものではない。

(2)  争点(2)(争点(1)につき,被告牧師らの指示,指導があったか。)

(原告らの主張)

被告牧師らは,日本基督教団の,統一協会に対する激しい反対運動を展開する統一原理問題全国連絡会に所属し,常習的に統一協会の信者に対する拉致,監禁及び同協会からの脱会の強要を行っていたものであるが,統一協会の壊滅を図る目的で,争点(1)の被告C夫妻らの不法行為を,以下のとおり指示,指導した。

ア(ア) 被告C夫妻は,平成7年6月27日以降,被告Iのもとへ,原告Aを統一協会から脱会させるための相談に通うようになり,同被告は,被告C夫妻に対し,同原告を拉致,監禁し,統一協会からの脱会の強要を行う必要性及びその具体的な方法について指導した。甲教会では,統一協会の元信者らが参加し,同協会の信者に対する拉致,監禁の勉強会や模擬訓練が行われており,被告C夫妻もこれに参加した。

(イ) 平成7年10月初旬,被告Iは,原告Aに対する統一協会からの脱会の強要を直接行うことができなくなったため,被告Jにこれを依頼し,同被告は,原告Aの監禁場所として,マンションL居室を用意した。

このころ,被告Jは,統一協会の信者であるT(以下「T」という。)に対し,統一協会からの脱会の強要を行っていたが,Tが所在不明となったことから,同被告は,平成7年10月15日及び同月18日に被告C夫妻と面談した際,同被告夫妻に対し,原告Aを,早期に拉致,監禁するように指示した。

(ウ) 平成7年10月22日の1度目の拉致の際,被告Jは,原告Aが乗車させられた自動車を,マンションLまで,同被告の自動車を運転して先導した。

(エ) 被告Jは,原告Aが,同Bと携帯電話で連絡を取ったことを知り,平成7年10月23日,被告C夫妻らに対し,原告Aを,被告Jが用意したマンションM居室に移すことを指示し,自動車を運転して先導した。

(オ) マンションL居室及びマンションM居室は,被告Jが実質的に管理し,統一協会の信者に対する拉致,監禁及び同協会からの脱会の強要を行うために,繰り返し利用していた居室であり,そのための家財道具一式が準備されていた。

イ(ア) 平成7年の1度目の拉致,監禁の後,被告牧師らは,被告C夫妻らに対し,再度,原告Aの拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要を指示,指導した。

被告C夫妻は,しばしば甲教会に通い,統一協会の信者に対する拉致,監禁の勉強会や模擬訓練に参加した。

平成8年12月ころ,被告牧師らは,被告Eと原告らが,平成9年1月10日に食事をすることになったとの情報を得て,被告C夫妻らに対し,この機会に,原告Aを,再度拉致,監禁することを指示,指導した。

(イ) マンションO居室は,被告Iが,原告Aに対する統一協会からの脱会の強要を行いやすいように,被告C夫妻及び被告Iが相談し,被告Eが借りた居室であり,マンションP居室は,被告Iが,被告C夫妻らに対し,同様の便宜のために斡旋した居室であった。

(ウ) 被告Iが,原告Aに対し,統一協会からの脱会の強要を行うことになっていたが,平成9年4月10日,神奈川県宮前警察署の警察官らが,原告Aの捜索のため,甲教会へ事情聴取に赴くなどしたことから,同被告は,被告Jに対し,同原告に対する統一協会からの脱会の強要及び同原告を監禁するための居室の用意を依頼し,被告C夫妻に対し,同原告をマンションP居室から,被告Jが用意する居室へ移すように指示した。

被告Jは,原告Aが乗せられた自動車を,同被告が用意したマンションQ居室まで,軽自動車を運転して先導した。

(エ) 被告C夫妻らは,被告Iと定期的に連絡を取っており,被告Iは,平成9年6月9日,甲教会において原告Aと面談し,自らの判断で同原告を解放することを決めた。

(被告牧師らの主張)

被告牧師らは,原告らが主張する違法な拉致,監禁を,指示,指導したことはない。

(3)  争点(3)(被告Jの行為が,原告Aの意思に反する,違法な,面談及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。)について

(原告らの主張)

被告Jは,平成9年4月19日以降,少なくとも都合7回,マンションQ居室を訪問し,原告Aに対し,同原告の意思に反して,違法に,面談を強要した。

被告Jは,原告Aに対し,統一協会を批判する趣旨の資料や同被告が関与する同協会に関する裁判資料を読ませ,キリスト教が絶対に正しいという立場から,統一協会の創始者やその教義及び同協会の機関誌などについて一方的な批判を行い,あるいは,統一協会の信者は,同協会にマインドコントロールされ,善悪の判断もできないのであるから,監禁と牧師による説得が必要であるとの独自の見解に基づき,統一協会の信者に対する監禁を手段とする同協会からの脱会説得の必要性を主張し,同原告に対し,同協会からの脱会を強要した。

原告Aが,被告Jに対し,少しでも反論すると,同被告は,「お前は自分の頭で考えていない。一生そうやって生きていくのか。」,「分からないくせに,どうして真理といえるのか。」,「知能が低いから分からないんだ。」などと,激しく同原告を叱責した。

(被告Jの主張)

被告Jは,原告Aが納得のうえで,マンションQ居室にとどまり,統一協会に詳しい牧師との話合いを希望していると聞き,同居室に何回か赴き,同原告に,統一協会の情報を提供して話合いをしたが,同原告から抗議を受けたことはない。

原告Aは,統一協会の活動によって,被告C夫妻と親子としての会話ができなくなり,同原告の人生も回復し難いほど壊滅的なものになることが十分に予想される切迫した状況にあった。被告Jは,かつて統一協会の信者であり,多くの統一協会の信者やその家族からの相談に応じてきた経験を有する牧師として,客観的な資料に基づいて,同協会の教義や活動の問題点を考えてもらうという正当な目的で,原告Aと話合いを行ったものであり,同原告を同協会から脱会させる目的で,本件行為を行ったのではない。そして,被告Jは,原告Aと平穏に話合いを行っており,同原告の法益は侵害されておらず,結果として,同原告は,統一協会に関する上記情報を知ることができたのであるから,同被告の行為は,同原告の意思に反する,違法な,面談及び同協会からの脱会の強要にあたらない。

(4)  争点(4)(被告C夫妻らが,原告Bに暴行を加えた事実があったか。)について

(原告Bの主張)

被告C夫妻らは,平成9年1月10日午後10時40分ころ,原告Aを拉致,監禁しようとした際に,被告F及び同Hが,これを防ごうとした原告Bの両腕両肩を掴み,前方にうつ伏せに押し倒して,地面に組み伏せるなどの暴行を加え,同原告に,加療約1週間を要する左手及び両膝窩部外傷の傷害を負わせた。

(被告C夫妻らの主張)

原告Bは,同原告の前に立ちふさがった被告Hに自らぶつかって,前に倒れて,膝をついて負傷したに過ぎず,同原告が主張する態様の暴行を加えたことはない。

(5)  争点(5)(差止の必要性の有無)について

(原告らの主張)

被告らは,前記のとおりの不法行為を行っているところ,被告らが,原告Aに対し,再度拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要を行う可能性があり,原告らの差止請求を認める必要性がある。

(被告らの主張)

被告らは,原告Aに対し,差止の対象となる行為をしたことはなく,今後行うつもりも全くないので,原告らの差止請求を認める必要性はない。

(6)  争点(6)(原告らの損害の有無及び額)について

(原告らの主張)

原告らは,被告らの前記不法行為により,それぞれ以下の損害を被った。

ア 原告A 合計1319万5816円

(ア) 治療費 合計4万4820円

① e整体研究所 9000円

原告Aは,整体及び灸治療のため平成9年6月下旬ころから同年9月までの間に3日通院し,治療費として合計9000円を支払った。

② f医院 3万5820円

原告Aは,本件拉致,監禁による外傷性ストレス障害(PTSD)と診断され,平成9年10月7日から平成10年4月30日までの間に計13日通院し,治療費として合計3万5820円を支払った。

(イ) 通院交通費 3万3380円

原告Aは,(ア)の通院交通費として合計3万3380円を支出した。

(ウ) 薬代 1万7700円

原告Aは,2度目の監禁後,薬局で体力回復等の調合薬を購入し,薬代として1万7700円を支払った。

(エ) 休業損害 189万9916円

原告Aは,2度目の拉致,監禁及びその後の心身の衰弱のため,平成9年1月10日から同年10月12日までの9か月と3日,稼働することができなかった。

原告Aは,平成9年1月10日当時,g会社で事務の仕事をしており,当時の平均月収は20万8782円であったから,その間の休業損害は189万9916円である。

(計算式)208,782×9+208,782×3÷30=1,899,916(円未満切捨)

(オ) 慰謝料 1000万円

原告Aが,被告らの前記不法行為によって被った精神的苦痛は甚大であり,慰謝料としては1000万円を下回らない。

(カ) 弁護士費用 120万円

弁護士費用は,(ア)ないし(オ)の合計額の1割が相当である。

イ 原告B 合計579万8450円

(ア) 治療費 4000円

原告Bは,被告C夫妻らの前記暴行により,加療約1週間を要する左手及び両膝窩部外傷の傷害を負い,平成9年1月11日,h病院で診察を受け,治療費として4000円を支払った。

(イ) 捜索交通費 7万7300円

原告Bは,平成9年1月10日から同年6月9日までの間,自動車を運転して,原告Aを捜索した際,ガソリン代及び高速道路通行料金として合計7万7300円を費やした。

(ウ) スラックス代 7000円

原告Bは,被告C夫妻らから前記暴行を受け,膝を駐車場のアスファルトに打ち付けた際,履いていたスラックスに穴が開き,同スラックスの価額7000円相当の損害を被った。

(エ) 引越運送代等 11万0150円

原告Bは,原告Aが拉致,監禁されたことから,平成9年2月10日,運送業者に依頼し,当時原告らが住んでいたアパートを引き払い,荷物を原告Bの実家まで運ぶなどし,これら費用として合計11万0150円を費やした。

(オ) 慰謝料 500万円

原告Bが,被告らの前記不法行為によって被った精神的苦痛は甚大であり,慰謝料としては500万円を下回らない。

(カ) 弁護士費用 60万円

弁護士費用は,(ア)ないし(オ)の合計額の1割が相当である。

(被告らの認否)

争う。

第3争点に対する判断

1  前提事実及び証拠(甲1ないし24,26ないし99,乙1,3ないし27,丙1ないし130,134ないし169(ただし,丙86の1を除く。枝番あるものは,枝番共。以下同様),原告A及び同B,被告C,同D,同E,同F,同G,同H,同I及び同J,弁論の全趣旨)によれば,以下の事実が認められる。

(1)  平成7年10月ころまでの状況

ア 原告Aは,平成7年5月23日付の手紙(丙67)で,被告C夫妻に対し,統一協会の信仰を持っていることを打ち明けたが,同被告夫妻は,これに反対し,同原告と何度か話合いをしたが,双方の主張は平行線を辿った(甲4,乙3,4,原告A,被告C,同D)。

イ 平成7年6月初旬ころ,被告C夫妻は,日本基督教団の存在を知って連絡を取り,甲教会の被告Iを紹介され,同月27日,同教会に赴き,同被告と初めて面談した。

被告C夫妻は,統一協会の元信者やその家族から,同協会入会の経緯や生活状況等の話を聞き,原告Aが統一協会の信仰を持った経緯を理解することを,被告Iに勧められ,これ以降,甲教会に通った。

平成7年7月30日,被告C夫妻は,原告Aの誘いにより,統一協会主催の講演会に参加した際,その会場で被告Eに会い,同被告も統一協会の信仰を持っていることを知った(乙3,4,丙25,被告C,同D,同I)。

ウ 平成7年8月ころ,原告Aは,被告C夫妻に対し,国際合同結婚式に参加することを話した(乙3,4,原告A,被告D)。

エ 平成7年8月20日ころ,原告Aは,被告C夫妻に対し,国際合同結婚式における主体者(配偶者)が原告Bであることを話したが,同被告夫妻は,原告Aが,国際合同結婚式に参加することを,表だって反対はしなかった。

平成7年8月25日,原告らは,大韓民国ソウル市で開催された国際合同結婚式に参加し,同月27日,帰国したが,統一協会の教義に従い,原告Aは,同Bとすぐには同居することなく,被告C夫妻宅で生活を続けた(甲5,53,乙1,3,4,原告A,同B,被告C,同E)。

オ 原告Aは,国際合同結婚式参加後,外泊や深夜帰宅が多くなり,被告C夫妻は,希望する同原告との話合いができなかった。

被告C夫妻は,平成7年9月ころから,統一協会主催の講演会に,原告Aと参加する一方で,甲教会で毎週水曜日に開催されていた聖書研究会及びその後に催される統一協会の元信者らの集まりに参加し,同人らの話を聞くなかで,周囲から遮断された環境のもとで,原告Aと,統一協会の教義や活動について話合いを行う必要があると考えるようになった。

被告C夫妻は,被告Iから,日本基督教団の統一原理問題全国連絡会で面識のある被告Jを紹介され,平成7年10月15日ころ,被告Cは,乙教会に,被告Jを訪ねた(乙3,4,丙1,25,28,被告C,同D,同I,同J)。

カ 被告C夫妻は,被告Jから紹介された人物から,マンションL居室を,原告Aとの話合いのための場所として借り受けた(乙3,4,丙28,被告C,同D)。

(2)  平成7年10月23日から同月27日までの状況

ア 平成7年10月23日の深夜,原告Aが帰宅した際に,被告C夫妻が,同原告に対し,マンションL居室へ行こうと提案したところ,同原告は,渋々これに応じ,同月24日の午前4時ころ,同マンションに到着した。この居室には,被告G,同被告の弟であるS及び被告Cの叔母であるU,被告Fの母であるVが来ており,上記の者らのいずれかが,常に原告Aの相手をしていた。

原告Aが上記居室に到着した後,被告Dは,同原告が,同居室内の浴室で,原告Bと携帯電話で連絡を取っているのを発見し,同被告がこの携帯電話を預かることとした(甲5,53,乙3,4,25,丙28,原告A,同B,被告C,同D,同G)。

イ 平成7年10月24日当時,b病院で看護師として勤務していた被告Eは,深夜勤務が終了した同日午前9時ころ,被告C夫妻の要望に応じ,マンションM7階居室に赴いた。

被告Eは,同月27日ころ,上記居室を訪れた被告Jと,統一協会に関して話合いを行い,同協会から脱会する意思を表明した(乙3,5,被告C,被告D,同E,同J)。

ウ 平成7年10月25日,被告Cは,被告Gから,マンションL居室入口ドアが,何者かに叩かれたことを聞き,乙教会で知り合った知人から,マンションM居室を借り受け,同日晩に,同原告と同居室に移動した(乙4,26,原告A,被告C,同G,同F)。

エ 平成7年10月27日,原告Aは,マンションM居室窓の錠を安全ピンで開けてベランダに出て,雨樋を伝い2階から1階に飛び降りて,原告Bのもとに戻った(原告A,被告C,同G,同F)。

(3)  平成7年10月28日から平成9年1月初めまでの状況

ア 原告らは,平成7年11月6日,千葉県市川市長に対し,婚姻の届出をし,平成8年3月ころ,原告らは,同市内のアパートで,同居するようになった(甲3,67,原告B)。

イ 被告C夫妻は,原告らと被告Eが,平成9年1月10日ころ,被告Eの誕生日祝いの食事をする際に,再度話合いの機会を設けようと考えた(乙3ないし5,丙118,原告A,同B,被告C,同D,同E)。

(4)  平成9年1月10日から同年6月9日までの状況

ア 平成9年1月10日午後3時ころ,原告Aから,被告Eに電話があり,被告Dは,同日の晩に,原告Aと被告Eが会うとの情報を得た(乙3,5,被告D,同E)。

イ 被告C夫妻は,被告Eが外出した後,被告F夫妻,被告H及びSと,同日午後7時ころ,N店付近のうどん屋で待ち合わせた。

原告らと被告Eは,同日午後8時ころ,N店に入り,共に食事をした(甲23,55,乙25,丙77,原告B,被告C,同G,同F)。

ウ 同日午後10時40分ころ,原告両名及び被告Eが,N店から出てきたところ,被告Dが原告Aに駆け寄り,被告Cもこれに続き,Sはワンボックスカーを運転移動させて,その付近に停めた。

被告Dが原告Aの腕を取ろうとしたところ,同原告は,悲鳴をあげ,ワンボックスカー付近で仰向けになって,同車の左前タイヤ部分に右足を掛けて抵抗したが,被告C夫妻が,同原告を抱き起こし,同車内にいた被告Gとともに,同原告を同車に乗せ,被告Eも同車に乗り込んで,Sが同車を運転して,マンションO居室に移動した(乙5,25,被告C,同D,同E,同G)。

エ 原告Bは,同原告の自動車に乗ろうとした際,原告Aの状況に気付き,同原告の方に駆け寄ろうとしたが,途中で転倒し,アスファルトの地面に四つん這いの姿勢になり,眼鏡が外れた。原告Aを乗せたワンボックスカーが発車した後,原告Bは,駐車場に残った被告Fと同Hに対し,左手及び両膝を負傷したことを抗議しなかった(乙4,26,原告B,被告E,同F)。

オ 平成9年1月11日,原告Bは,h病院で診察を受け,左手及び両膝窩部外傷で,加療約1週間を要するとの診断を得て,当該負傷部位及び破損したスラックスの写真を撮影した。(甲13,14,53,原告B)。

カ 被告Cは,平成9年1月6日から10日まで,マンションO居室から前記勤務先に出勤した後,同月13日から同年3月途中まで年次休暇を取り,同年5月26日まで欠勤した。被告Dは,パートタイムの仕事を辞め,被告Eは,平成9年1月末ころ,看護師として勤務していたi病院を退職した。

被告C夫妻は,上記居室の玄関ドア防犯チェーンが弛まないように,チェーンに南京錠を取り付けた。

被告Eは,家事全般を担当し,原告Aは,昼ころ起床して,2時間程度入浴し,被告Dや同Eが,同原告の体をマッサージしたり,同原告とトランプなどのゲームをすることもあったが,同原告が統一協会から脱会する意思を表明した同年5月23日まで,同原告が,以後滞在した居室で一人となることはなかった。

原告Aは,当初,被告C夫妻らの行為に抗議したが,平成9年1月末ころから,被告C夫妻に対し,統一協会の信仰を持った経緯や同協会の教義について話をするようになった(甲4,乙4,5,24,26,原告A,被告C,同D,同E,同G)。

キ 平成9年2月初めころ,被告C夫妻は,前記マンション住人から,同被告夫妻らが騒音を立てたことに苦情を言われたため,甲教会で面識を得た知人を通じて,マンションP居室を借り受け,同月15日,被告Hが運転する自動車で,原告A,被告Gとともに,同居室に移動した。

被告C夫妻は,同居室の窓に,ボルト付の金属棒やサッシ止めを取り付け,ビニールシートを貼り付けるなどした。原告Aは,このころ,日本基督教団発行の統一協会に関する冊子を読み,被告C夫妻らと,その感想を述べ合うなどした(乙3,21ないし23,丙25,26,原告A,被告C,同D,同G,同I)。

ク 平成9年4月初めころ,被告C夫妻は,被告Jから紹介を受けた人物から,マンションQ居室を借り受けた。

同月10日,被告C夫妻は,上記居室の鍵を預かっていた被告Jの案内で,上記マンションに自動車で移動した。被告Jは,このとき,原告Aとは会話をしなかった。被告C夫妻は,上記居室の玄関ドア防犯チェーンに,南京錠を取り付けた(乙3,丙27,28,原告A,被告C,同D,同J)。

ケ 原告Aは,マンションQ居室において,平成9年4月10日から同月19日ころまで,引き続き日本基督教団発行の前記冊子を読み,被告C夫妻らと,その感想を述べ合うなどした。

同月19日午後7時ころ,被告C夫妻の依頼で,被告Jが上記居室を訪問し,原告Aは,被告Jの問いかけに対し,キリスト教と統一原理の違い及び統一協会の問題点について,説明を求めた。

被告Jは,その後,同年5月中旬にかけて,7回程度,上記居室を訪問し,統一協会の教義や活動について説明したが,原告Aが,これに反発することもあった(甲4,丙28,原告A,被告C,同J)。

コ 平成9年5月23日,原告Aは,被告C夫妻に対し,統一協会から脱会する意思を表明したが,これは,同原告の真意によるものではなかった。同月25日,同居室を訪れ,原告Aと面談した被告Jも,同原告の真意に気付かなかった(甲4,丙28,原告A,被告D)。

平成9年5月26日,原告Aは,被告C夫妻及び同Eと乙教会に赴き,統一協会の元信者と会って話をし,これ以降,同原告は何度か同教会に赴き,礼拝などに参加するようになり,被告Jとともに,統一協会の信者がその家族と滞在しているマンションの居室に赴くなどした(甲4,丙5,28,164,原告A,被告C,同D,同J)。

サ 平成9年6月4日,原告Aは,被告D及び同Eとともに甲教会に赴き,同教会で開催された聖書研究会及び統一協会の元信者らの集まりに参加し,統一協会の元信者らと話をした。その後,外出から戻った被告Iは,原告Aと夕食を摂りながら話をした(甲4,乙3,丙25,原告A,被告D,被告I)。

平成9年6月5日,原告Aは,被告Dと乙教会に赴き,被告Jと話をした(甲4,丙28,原告A)。

平成9年6月7日,原告Aの発案で,被告C夫妻及び同Eと埼玉県内の温泉に出かけて一泊したが,この宿泊先は,同原告が本屋で旅行関係の本を買い,自ら探して電話を架けて予約した(甲4,乙3,70,原告A,被告D)。

シ 平成9年6月9日,原告Aは,事前に被告Iに電話で連絡し,被告D及び同Eと甲教会に赴き,被告Iと,今後の身の振り方について話をした。

同日午後5時ころ,原告Aは,横浜市内のJR戸塚駅付近で,被告D及び同Eと別れた(原告A,被告D,被告I)。

2  争点に関する判断

(1)  争点(1)(被告C夫妻らの行為が,原告Aの意思に反する,違法な,拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要にあたるか。)

ア 原告らは,被告C夫妻は,被告E,同F夫妻及び同Hと共謀し,2度にわたり,原告Aを,同原告の意思に反して,違法に,拉致,監禁し,統一協会からの脱会を強要したと主張する。

イ しかし,原告Aは,被告C夫妻と,前記各マンション居室に移動した際,自ら歩いて入室し,同被告の求めに対し,統一協会の信仰を持った経緯や同協会の教義について話をするようになり,この点について,同原告が抵抗する意思を示したと認めるに足りる的確な証拠はないこと,前記各マンション居室では,被告Eや同Gが家事をし,原告Aは,昼ころ起床して,2時間程度入浴することもあり,被告Dや同Eが,同原告の体をマッサージしたり,同原告とトランプなどのゲームをすることもあり,被告C夫妻らが,同原告に対し,有形力を行使したことはなかったと認められること,原告Aは,平成7年10月27日及び平成9年6月9日,被告C夫妻と別れた後も,被告らの行為が違法な拉致,監禁であると,警察に対し,訴え出た事実もないこと,被告C夫妻は,原告Aを思いやる心情から,被告Iと面談し,甲教会の統一協会の元信者やその家族から,同協会への入会の経緯や生活状況等の話を聞くなかで,同被告が,周囲から遮断された環境のもとで,同原告と,統一協会の教義や活動について話合いを行う必要があると考え,前記認定のとおりの行動に出たことからすれば,前記各マンション居室における原告Aの生活状況は,平穏なものでなかったとまでは認められず,被告C夫妻らの前記行為は,原告ら主張の,原告Aに対する,同原告の意思に反する,違法な,拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要とまで認めることはできない。

(2)  争点(2)(争点(1)につき,被告牧師らの指示,指導があったか。)について

ア 原告らは,被告牧師らは,日本基督教団の,統一協会に対する激しい反対運動を展開する統一原理問題全国連絡会に所属し,常習的に統一協会の信者に対する拉致,監禁及び脱会の強要を行っていたものであるが,統一協会の壊滅を図る目的で,争点(1)の被告C夫妻らの不法行為を指示,指導したと主張する。

イ しかし,前記説示のとおり,争点(1)について,被告C夫妻らの前記行為が,原告Aの意思に反する,違法な,拉致,監禁及び統一協会からの脱会の強要とまで認めることができないのであるから,原告らの主張は,前提において失当であり,理由がない。

(3)  争点(3)(被告Jの行為が,原告Aの意思に反する,違法な,統一協会からの脱会の強要にあたるか。)

ア 原告らは,被告Jは,平成9年4月19日以降,少なくとも都合7回,マンションQ居室を訪問し,原告Aに対し,同原告の意思に反して面談をし,統一協会を批判する趣旨の資料や同被告が関与する同協会に関する裁判資料を読ませ,キリスト教が絶対に正しいという立場から,統一協会の創始者やその教義及び同協会の機関誌などについて一方的な批判を行い,あるいは,統一協会の信者は,同協会にマインドコントロールされ,善悪の判断もできないのであるから,監禁と牧師による説得が必要であるとの独自の見解に基づき,統一協会の信者に対する監禁を手段とする同協会からの脱会説得の必要性を主張し,同原告に対し,同協会からの脱会を強要し,同原告が,同被告に対し,少しでも反論すると,「お前は自分の頭で考えていない。一生そうやって生きていくのか。」,「分からないくせに,どうして真理といえるのか。」,「知能が低いから分からないんだ。」などと,激しく同原告を叱責したと主張し,原告Aは,これに副う供述をする。

平成9年4月19日午後7時ころ,被告C夫妻の依頼により,被告Jが,マンションQ居室を訪問し,原告Aと初めて面談し,その後,同年5月中旬にかけて,7回程度,上記居室を訪問していること,被告Jは,統一協会の教義や活動について,同原告と話合いを行ったが,同原告が,これに反発することもあったこと,同年5月23日,同原告は,被告C夫妻に対し,統一協会から脱会する意思を表明したが,これは,同原告の真意によるものではなかったことは前記認定のとおりである。

イ しかし,原告Aは,被告Jの問いかけに対し,キリスト教と統一原理の違い及び統一協会の問題点について,説明を求めるなどしたことは,前記認定のとおりであり,同原告も,統一協会の教義や活動について,被告Jと検証しようとする姿勢を見せていたことが窺われるのであって,同原告の前記供述はにわかに措信できず,これを否定する趣旨の被告Jの供述に照らして採用できず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

(4)  争点(4)(被告C夫妻らが,原告Bに暴行を加えた事実があったか。)について

ア 原告らは,被告C夫妻らが,平成9年1月10日午後10時40分ころ,原告Aを拉致,監禁しようとした際に,被告F及び同Hが,これを防ごうとした原告Bの両腕両肩を掴み,前方にうつ伏せに押し倒して,地面に組み伏せるなどの暴行を加え,同原告に,加療約1週間を要する左手及び両膝窩部外傷の傷害を負わせたと主張する。

原告Bが,同原告の自動車に乗車しようとした際,原告Aの状況に気付き,同原告の方に向かって走り寄ったこと,その後,アスファルトの地面に四つん這いの姿勢になり,眼鏡が外れたこと,平成9年1月11日,原告Bは,h病院で診察を受け,上記主張のとおりの診断を得て,当該負傷部位及び破損したスラックスの写真を撮影したことは前記認定のとおりである。

イ しかし,原告Bは,本件行為時の状況が,状況再現写真(甲58の⑤,⑥の写真)のとおりであるなど,原告ら主張に副う供述をするところ,その際の具体的な被告C夫妻らの位置関係などについての供述がない。

また,原告Aを乗せたワンボックスカーが発車した後,原告Bは,駐車場に残った被告Fと同Hに対し,左手及び両膝を負傷したことについて抗議したと認めるに足りる的確な証拠はない。

ウ 被告C夫妻らは,原告Bが,同原告の前に立ちふさがった被告Hにぶつかって,前に倒れて,膝をついて負傷したに過ぎないと主張し,被告E及び同Fもこれに副う供述をするところ,原告Bの負った上記負傷は,当該負傷部位をアスファルトに強く擦過することによって生じたものと認められるが,これは,被告C夫妻らの主張する行為態様によって生じたと考えても,必ずしも矛盾しない。

エ 以上の点に照らせば,原告ら主張の暴行の事実があったと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

第4結論

以上より,原告らの請求は,その余について判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田清 裁判官 加藤美枝子 裁判官 吉川健治)

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