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横浜地方裁判所 平成11年(ワ)3642号 判決 2003年6月20日

原告

A野太郎

上記法定代理人後見人兼原告

A野花子

他2名

上記四名訴訟代理人弁護士

関博行

内嶋順一

被告

学校法人 東邦大学

上記代表者理事

杉村康知

上記訴訟代理人弁護士

加藤済仁

松本みどり

岡田隆志

桑原博道

主文

一  被告は、原告A野太郎に対し、金七三一一万三三八八円、原告A野花子に対し、金二〇〇万円、原告B山一江に対し、金一〇〇万円及び原告A野二江に対し、金一〇〇万円並びにこれらに対する平成一〇年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を被告の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、一項につき、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(1)  被告は、原告A野太郎に対し、一億六一四六万〇七六九円、原告A野花子に対し、三三一六万五一〇〇円、原告B山一江及び原告A野二江に対し、各五〇〇万円並びにこれらに対する平成一〇年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は、被告の負担とする。

(3)  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

(3)  仮執行の免脱宣言

第二事案の概要

一  請求、争点及び判断の各概要

(1)  本件(平成一一年一〇月六日訴え提起)は、平成一〇年三月上旬以来、不安定狭心症の治療として大動脈冠動脈バイパス手術(以下「本件術式」といい、本件でこの術式により患者に実施が予定されていた手術を「本件手術」という。)を受ける予定で学校法人である被告が経営する東邦大学医学部附属大森病院(以下「本件病院」という。)に入院していた原告A野太郎(当時六〇歳。以下「原告太郎」という。)に対し、同月三〇日(以下「本件事故当日」という。)、担当医師であるC川松夫医師(以下「C川医師」という。)が、原告太郎がヨードアレルギー(ヨウ素に反応するアレルギー素因)体質を有するにもかかわらず、術前における問診及び予備検査であるアレルギー反応検査を何ら行うことなく、本件術式の適否を判断するための肝機能検査として実施されたヨード剤(ヨウ素を含有する薬剤)を含有する試薬インドシアニングリーン(Indocyanine Green。略称ICG)の静注(静脈注射)(以下、原告太郎に対する上記検査を「本件ICG検査」、上記検査により原告太郎に静注されたICGを「本件薬剤」という。)を行った直後、原告太郎がアレルギー反応であるアナフィラキシー(Anaphylaxis。以下「AP」と略称)反応及びそれが亢進した症状であるAPショックを発症して心停止(以下、原告太郎に生じた上記反応を「本件AP反応」、ショックを「本件APショック」、心停止を「本件心停止」という。)に陥り、無酸素脳症を発症していわゆる植物人間状態(以下「本件後遺障害」という。)となったこと(以下「本件事故」という。)につき、原告太郎及びその妻子であるその余の原告らから、検査担当医であるC川医師所属の被告に対し、診療契約の債務不履行(履行補助者である医師の過失)、又は不法行為(被用者たる医師の過失による使用者責任)に基づく損害賠償請求権に基づき、損害合計二億〇四六二万五八六九円とこれに対する債務不履行、又は不法行為の日(本件ICG検査実施当日)である平成一〇年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。

(2)  本件は、本件ICG検査の直後、これにより、原告太郎に本件AP反応が発症したことは当事者間に争いがなく、主たる争点は、①本件ICG検査と本件APショックないし本件心停止との間の因果関係の有無(本件APショックないし本件心停止は、本件ICG検査の結果か、たまたま同時間帯に再発した心筋梗塞(以下、本件事故の際発症した心筋梗塞を「本件心筋梗塞」という。)が原因か。)、②C川医師の本件APショック発症の予見可能性の有無(アレルギー体質であり、医学上いわゆる「感性」(体内の抗体の飽和状態)にある原告太郎に対して本件薬剤の静注をすることにより本件APショックを発症することの具体的予見可能性があったか。)、③問診・予備検査懈怠の過失の有無(原告太郎がアレルギー体質を有するか否かを確定するための問診、予備検査であるアレルギー反応検査を実施すべき義務があったか否か。)、④本件ICG検査実施の過失の有無(APショック発症の危険がない他の方法による肝機能検査を選択実施することとして本件ICG検査を回避すべき義務があったか否か。)、⑤本件APショック発症後の応急措置懈怠の過失(APショック発症に備えてあらかじめ救急用医薬品・器具を準備し、発症した本件APショックに対する適切な応急措置をすべき義務があったか否か)。及び⑥損害の有無・損害額(原告太郎の逸失利益、入院治療費・付添費、将来の入院費・付添費、慰謝料、弁護士費用等、その余の原告らの逸失利益、慰謝料)である。

(3)  本判決は、原告太郎は、本件APショックないし本件心停止は、本件AP反応と相前後して事実上発症した本件心筋梗塞を原因とするものではなく、本件ICG検査により、本件薬剤に含有されるヨード剤が原告太郎に注入された結果、これが作用して発症したものであり(争点①)、APショックは、ヨードアレルギー体質に対してヨード剤を原因物質として発症するものであり、原告太郎は、本件ICG検査の十数日前にされたヨード剤を含有する血管造影剤投与による検査により、その時点において医学上、いわゆる「感作」(体内の抗体の飽和状態。これは、卑近な例を挙げると、初めて蜂に刺されても身体にさほどの異常が生じない場合であっても、これにより体内に入った抗原(毒素)により体内に産成された抗体が飽和状態となっている状態において、それ以降更に蜂に刺されると、飽和状態を超える同一抗原(毒素)が体内に入って飽和状態を超える抗体が体内に産成される結果、身体生命に重大な侵害が生じるような場合である。)となっていたところに、再度、本件ICG検査によるヨード剤注入により、本件AP反応が発症したものであるところ、C川医師は、原告太郎がアレルギー体質であることは知り得たはずであるから、アレルギー体質の原告太郎に対して本件ICG検査を実施することにより本件APショックの発症することあるべきことについては具体的予見可能性を肯定することができ(争点②)、本検査である本件ICG検査に先立ち、予備検査であるアレルギー反応検査を実施することは、医学上有効性に欠け、又はその試薬にヨード剤がそれなりに含有されているため、予備検査によりAP反応等を発症する危険性があるというべきであるから、原告太郎に対してそれを実施しなかったことを過失とすることはできないが、原告太郎、又は家族に対して問診を的確に実施していれば、ヨードアレルギーか否かは格別、原告太郎がアレルギー体質を有すること自体は確診することができたか、又は少なくともその疑いを払拭することができなかったはずであり、そうだとすると、問診後、予備検査を経ることなく本検査であるICG検査を実施することになるが、肝機能検査の一つであるICG検査を実施するか否かは、原告太郎に対する本件手術ないし本件ICG検査の緊急性・必要性の有無及びその程度、他の検査方法の有無及びその有効性の程度、本件ICG検査に伴う危険性の有無及びその程度等を総合的に検討して判断されるべきものであるところ、本件ICG検査及び本件手術は、それが決定された時点においては、緊急に実施することが予定されていたものではなく、そもそも、ICG検査自体、本件術式の術前検査としては必須とされているわけではないのみならず、これに代替するものとして一般生化学検査の一つであるビリルビン検査も考えられるし、それ以外に肝機能検査として一般生化学検査であるGOT(Glutamic oxaioacetic transaminase)、GPT(Glutamic pyruvic transaminase)も行い得るのであり、ICG検査を実施すれば、本件手術の適否に対するそれなりのデータを得ることができるものの、それは、その一方においてヨードアレルギー体質の患者にはAPショック等身体・生命に対する重大な侵害の結果を発症させる可能性があるのに対し、上記その他の一般生化学検査によるときは、感作状態にあった原告太郎に対して更にヨード剤を投与することなく、本件手術の適否を判断するための一応それなりのデータを得ることも可能と考えられるところ、C川医師は、問診により原告太郎がアレルギー体質であるか否かの確認をせず、アレルギー体質の疑いが合理的に払拭されないままの状態において、いきなり、本件ICG検査を選択実施したものであって、この点において過失があり(争点③、④)、この過失により、原告太郎が本件APショックを発症して本件心停止となり、ひいて、無酸素脳症から本件後遺障害に至ったと認めるのが相当であるから、したがって、被告には、診療契約の債務不履行(履行補助者たるC川医師の過失)、又は不法行為(被用者たるC川医師の過失による使用者責任)に基づく損害賠償義務があるものと判断して、総額七七一一万三三八八円の限度で損害賠償を認めた(争点⑤)ものである。

二  基本的事実

(以下の事実は、《証拠省略》により認めることができる事実である(ただし、(1)ア、ウ、(5)の事実は、当事者間に実質的に争いのない事実、又は《証拠省略》により容易に認めることができる事実である。)。なお、記録との対照の便宜のため、適宜、書証番号を掲記する場合がある。)

(1)  当事者等

ア 原告太郎(昭和一三年三月二九日生。本件ICG検査当時、満六〇歳。)は、平成一〇年三月八日、本件病院に入院(以下「本件入院」という。)し、本件事故当日である同月三〇日、本件病院における本件ICG検査の実施中、本件心停止に陥り、無酸素脳症から本件後遺障害に至った結果、意思能力を喪失し、平成一一年七月一三日、横浜家庭裁判所において、禁治産宣告を受け(同裁判所同年(家)第七二二号禁治産宣告申立事件。)、同決定は、同月三一日、確定した。原告太郎は、身体障害者等級一級の認定を受け、平成一〇年六月四日、神奈川県から身体障害者手帳の交付を受けた。

イ 原告A野花子(昭和二〇年八月九日生)は、原告太郎の妻(昭和四三年一月三一日婚姻。以下、原告太郎と併せて「原告太郎夫婦」という。)兼後見人であり、原告B山一江(昭和四五年三月一〇日生。平成七年三月一五日、B山竹夫と婚姻)は原告太郎夫婦の長女、原告A野二江(昭和四九年三月二〇日生)は原告太郎夫婦の二女である。

ウ 被告は、《住所省略》において、本件病院を経営する学校法人であり、同病院には、循環器診断センター(以下「本件センター」という。)が附設されている。

エ C川医師は、平成一〇年当時、本件病院内科に勤務していた原告太郎の本件入院時からの担当医であり、原告太郎に対して本件薬剤を投与した医師である。C川医師は、平成三年三月、東邦大学医学部を卒業し、同年四月、同大学医学部研究科(大学院)に入学(内科・循環器専門)し、同年五月、医師免許を取得し、同年六月から、同大学医学部第一内科科学講座で研修医となり、平成四年六月から、本件病院臨床生理機能検査研究室に所属し、本件センターにおいて、臨床に従事し、平成八年三月、医学部研究科を修了し、平成九年三月、医学博士号を取得した循環器を専門とする医師である。本件ICG検査当時、臨床経験は約七年であり、ICG検査の経験も一〇〇例近くを有していた。

オ 原告太郎は、平成一〇年三月八日、不安定狭心症と診断され、被告との間で、上記疾患の治療を目的とする医療契約(以下「本件医療契約」という。)を締結し、同日、上記のとおり、本件入院をした。

(2)  アナフィラキシー(AP)ショック

ア AP反応及びAPショック

一般的に、AP反応とは、ヨウ素その他アレルギー抗原が体内に入ると抗体が体内に産出され、産出された抗体が体内で飽和状態となる状態、即ち「感作」になった個体に更に同一抗原を投与するときにみられる即時型免疫反応(詳細は後述)であり、APショックとは、AP反応が全身に及んで循環不全に陥った状態をいう(以下、AP反応とAPショックを併せて「AP反応等」という。)。

イ AP反応の原因物質

AP反応は、APショックの前駆症状であり、上記のとおり、ヨード剤に反応して発症する場合があり、APショックは、AP反応が亢進して発症する。ICGによりAPショックが発症する可能性は、ヨード剤過敏症者だけではなく、ヨードアレルギー体質を有する者にもある。APショックは、即時型免疫反応(「Ⅰ型アレルギー反応」ともいう。)であるため、同じ反応を示すアトピー性皮膚炎、鼻アレルギー及び喘息などのアレルギー体質を有する者に発症し易く、また、アレルギー体質は、遺伝的傾向がある。

ウ AP反応等の臨床症状

APショックの前駆症状であるAP反応としては、口内異和感、硫黄に似た臭いがする場合があり、その他くしゃみ、口唇・四肢末端のしびれ感、冷汗、悪寒、悪心、嘔吐、喉頭部狭窄感、嚥下困難、心悸亢進、胸部不快感、耳鳴、めまい、尿意、便意、皮膚発赤等が先行し、発症する。その他じんま疹、血管神経性浮腫、腹痛、下痢、陣痛様疼痛、性器出血がみられる場合がある。

AP反応が亢進した際の重篤なAPショック症状としては、上気道粘膜の浮腫、声門浮腫、気管支痙攣等による呼吸困難、急激な血圧下降による循環不全、これらとともに発症する意識消失、瞳孔反射消失である。

APショックによる死亡例の病理所見としては、①末梢気管支の閉塞と肺の過膨張、肺胞内出血、②咽頭・喉頭・声帯・気管の浮腫、③実質臓器のうっ血、心筋梗塞等が特徴的である。

エ 感作とAP反応等の発症機序

一般に、抗原(アレルゲン)となる物質(薬物等)が体内に入ると、IgE抗体(レアギン抗体)が産生される。IgE抗体は、肥満細胞の表面にあるIgEレセプター(IgE受容体)と結合し、いつでも過敏反応が発症し得る状態(抗体の飽和状態)、即ち、「感作」といわれる状態となる。この段階において、更に同一抗原が体内入ると、肥満細胞の表面で抗原とIgE抗体との間で抗原抗体反応が起こり、その刺激によって、肥満細胞内からヒスタミン、セロトニン、トロンボキサンA2やロイコトリエンなどの化学伝達物質が細胞外に放出され、これらの物質により気管支平滑筋の収縮、血管透過性亢進(血液の主成分である水分、蛋白が血管外に漏出し、血液量は著名に減少する。)、分泌機能亢進の作用を発症させる。そして、AP反応が亢進した結果、急激な気道れん縮、喉頭浮腫による気道狭窄、末梢血管の拡張(全身血管が拡張し、この結果心臓への血液の帰りが少なくなり、心拍出量が減少し、血圧が下降しショックとなる。)、静脈うっ血等の具体的症状が生じるといった経過をたどる。このような症状は、化学伝達物質による直接の心筋抑制とともに、循環血液量減少、低酸素血症と相まって心臓の働きが低下することによるものである。このような経過をたどるものを即時免疫反応(Ⅰ型アレルギー反応)という。

上記のように、AP反応は、原則として、抗原物質である薬物が最初に体内に入ったときには発症せず、IgE抗体が体内で産生され、肥満細胞と結合し、感作(飽和状態)となった以降、量の多少にかかわらず、それを超える抗原物質が更に体内に摂取されることにより発症するものである(事案の概要で示した蜂に刺された例参照)。

(3)  ICG

ア ICGの内容

(ア) ICGは、製剤名(商品名)をジアグノグリーン(Diagnogreen)といい、第一製薬株式会社を製造元とする肝機能・循環機能検査用薬であり、昭和三二年、米国のFoxらにより紹介された暗緑青色の色素である。

(イ) その組成は、肝機能、循環機能等を窺知するのに適している薬品である。ジアグノグリーン注は、一バイアル中にICGを二五mg含有する薬剤であり、その効能・効果としては、肝機能の検査(血漿消失率、血中停滞率及び肝血流量測定)、肝疾患の診断、予後治癒の判定、循環機能の検査(心拍出量、平均循環時間、又は異常血流量の測定)、心臓血管系疾患の診断である。

(ウ) その用法・用量は、肝機能検査では、血漿消失率測定及び血中停滞率測定の場合は、ICGとして体重一kg当たり〇・五mgに相当する量を注射用蒸留水(日本薬局方注射用蒸留水)で五mg/ml程度に希釈し、肘静脈から三〇秒以内に症状に注意しながら徐々に静注し、肝血流量測定の場合は、ICGとして二五mgをできるだけ少量の注射用蒸留水に溶かした後、生理食塩液で二・五~五mg/mlの濃度に希釈し、ICGとして三mgに相当する上記溶液を静注し、その後、引き続き〇・二七~〇・四九mg/分の割合で約五〇分間採血が終わるまで一定速度で点滴静注する。循環機能検査では、目的に応じて心腔内から末梢静脈に至る種々の血管部位にICGの溶液を注入するが、通常、前腕静脈から行う、成人一人当たり一回量は、ICG五~一〇mg、即ち一~二ml程度で、小児は体重に応じて減量する。

イ ICG検査の効用

(ア) 原理

ICG検査は、静注されたICGが速やかに血中のアルブミンと結合し、その九〇%以上が肝細胞に摂取され、そのままの形で胆汁中に排泄される原理を利用し、一定量のICGを患者に静注し、一定時間経過後、患者から血液を採取し、ICG血漿消失率K(「K」という単位で表される。)を求めれば、Kは肝における血中色素の摂取、排泄機能を示し、各種肝疾患(肝硬変、肝癌、肝炎、胆石、胆のう炎、パンチ症候群、門脈障害など)の場合は、正常者に比べて低値を示すことから、肝臓の機能を測定する検査法である。

(イ) 臨床適用

上記(ア)の原理から、ICGによる肝機能検査は、肝疾患の診断をはじめとして、重症度判定、治癒・予後の判定等内科的診断のほかに、外科領域においても手術適応や術式の決定、切除範囲の決定、術後の経過予測等手術の患者管理面で肝機能予備力を定量的に反映する検査法であるといわれている。

ウ 薬剤添付書

本件ICG検査当時、本件薬剤を含むICGに添付されていた薬剤添付書(平成七年一一月改訂のもの。以下「本件添付書」という。)には、使用上の注意として、以下のとおり記載されていた。

(ア) 一般的注意

まれに(〇・一%未満)、ショックを起こすことがあるので、適応の選択を慎重に行い、診断上この検査が必要な場合には使用に際して次の点に留意すること。

a ショック等の反応を予測するため、十分な問診を行うこと。

b あらかじめ救急用の医薬品・器具を準備しておくこと。

(イ) 禁忌(次の患者には投与しないこと)

a ICGに対し過敏症の既往症のある患者

b ヨード剤過敏症の既往歴のある患者

(ICGはヨウ素を含有しているため、ヨード過敏症を起こすおそれがある。)

(ウ) 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

アレルギー素因のある者

(エ) 副作用

a 重大な副作用

まれにショックを起こすことがあるので、観察を十分に行い、次のような処置を行うこと。

(a) 注入時、口のしびれ、嘔気、胸内苦悶、眼球結膜充血、眼瞼浮腫等があらわれた場合には、直ちに注入を中止すること。

(b) ショック様症状があらわれた場合には、症状に応じ、輸液、血圧上昇剤、強心剤、副腎皮質ホルモン剤等の投与、気道の確保、人工呼吸、あるいは酸素吸入、心臓マッサージ、適切な体位をとらせるなどの救急処置を速やかに行うこと。

b その他の副作用

過敏症として、まれに悪心、嘔吐、じんま疹、発熱等が現れることがある。

c 一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら、慎重に投与すること。

エ ICGの副作用報告

本件添付書には、投与症例二万一二七八例中報告された副作用は、臨床適用として、〇・一七%(三六例)で、主な副作用はショック症例〇・〇二%(五件)、悪心・嘔気〇・〇八%(一六件)、血管痛〇・〇四%(八件)、発熱・熱感〇・〇二%(四件)等が記載されている。また、「厚生省医薬品副作用情報の概要」(甲八。平成九年四月一五日発行の初版)には、ICGによるものと思われるショックとして、静注によるショックは散見されているが、更に重篤なショックが発症(死亡例あり)、製薬会社による承認時及び副作用報告義務期間における調査では、ショック様症状を起こした症例は、六九二三例中の五例(〇・〇七%)と記載されている。

オ 予備検査

(ア) ICG検査の予備検査であるアレルギー反応の検査方法(アレルギー起因薬剤同定試験)としては、生体内検査(in vivo)と生体外検査(in vitro)の方法がある。生体内検査には、負荷試験(チャレンジテスト)と皮膚試験に分類され、皮膚試験は、掻皮法(スクラッチテスト)、単刺法(プリックテスト)、皮内試験及び貼付試験(パッチテスト)がある。これらに使用される試薬としては、いずれも、本検査に使用される予定の薬剤が希釈されて使用される。本件でいえばICGを希釈したものを使用することになるから、その希釈剤の中には、当然にヨード剤が含有されていることになる。

(イ) 一般的に言って、このうち、パッチテストは、精度が低く、本件ICG検査実施当時においても、有用性に乏しいものとの指摘がされ、また、その余の上記各検査は、使用される試薬に含有されるヨード剤の作用により、それ自体でAP反応等を発症させる虞れがあり、その慎重な使用が指摘されている。

カ 肝機能検査

(ア) 胸部外科手術における術前の一般検体検査としては、①血清検査、②凝固検査、③血液生化学検査(GOT検査、GPT検査、ICG検査、ビリルビン検査等。ICG検査以外は、ヨード剤の静注を伴わないものである。)、④血液型検査、輸血、⑤感染症関係検査、⑥尿検査、⑦動脈血ガス分析検査、⑧便鮮血反応(ヒト特異性)検査等、各種の検査があるが、そのうちでも、各種疾患に共通して必須とされる検査と、特定の疾患についてだけ必須とされる検査に大別される。

上記生化学検査のうち、ビリルビン検査のうちの総ビリルビン検査は、ICG検査に代替しうるが、GOT検査とGPT検査とは、検査により得られる肝機能のデータがICG検査により得られる肝機能のデータと相違し、ICG検査に代替できるものとはされていない。

また、GOT検査、GPT検査及び総ビリルビン検査は、本件術式の術前検査としては必須とされるが、ICG検査(ICG一五分値)については、肝機能障害のある場合にはこれを行うものとされるが、そうでない場合まで必須とはされていない。

(イ) また、本件術式の適用の有無を判断するために術前に行う術前検査の方法としては、必須のものとして、環状動脈造影検査、心臓検査があり、有用なものとして、核医学検査、胸部CT検査(年齢七〇歳以上の等場合には必須)、虚血性心疾患症例の場合には、頭部CT検査、脳血流シンチグラムが、上肢の血圧に左右差がある症例、大動脈炎症候群、川崎病が疑われる場合には、末梢血管造影検査が挙げられているが、ICG検査(ICG一五分値)は特に挙げられていないし、これが必須とされてもいない。

(4)  原告太郎及び家族のアレルギー体質

ア 原告太郎は、昭和四九年から昭和五五年ころまでの間、正露丸を服用した後、顔面が膨らんで発疹ができ、《地名省略》所在のD原病院D原梅夫医師から、正露丸アレルギーを指摘され、本件事故後の平成一二年二月一八日付けでD原梅夫医師からその旨記載された診断書の作成を受けた。同診断書には、原告太郎の病名を「正露丸過敏症(顔面発疹)」と記載されている。本件入院中には、原告太郎に回診にきた本件病院の医療従事者から、薬でアレルギーが出たことがあるかを問われ、原告花子が正露丸で顔が腫れたことがある旨を伝えており、本件入院当初の看護記録(乙三)にも同様に記載されていた。

また、原告太郎は、二〇歳代から、慢性的な鼻炎の発症に苦しんでおり、原告花子は、結婚後、原告太郎の配膳に気を配ってきた。原告太郎の鼻炎は、年齢を重ねて症状が落ち着いてきたが、時々、鼻炎で苦しそうにしていたことがある。原告太郎のこの鼻炎のことは、原告太郎からも原告花子からも、本件病院の医療従事者に説明したことはないし、尋ねられたこともなく、本件病院側の記録にもない。

イ なお、原告の娘(子である原告らのうちの誰かは不明)には、喘息があり、このことは、本件入院当初、上記同様原告花子から伝えられ、これも、本件入院当初の看護記録(乙三)に記載された。

(5)  原告太郎の既往歴及び本件入院から本件事故までの経過

ア 原告太郎の既往歴、本件入院から本件事故当日における本件事故の発生及び事故後の措置までの経緯は、別紙のとおりである。このうち、本件ICG検査が完了して原告太郎が「うーん、何か変ですね」等と異常を訴えたのは午前八時五七分ころ、吸吋停止となったのは午前八時五九分ころ、心停止となったのは午前九時九分ころ、体外心臓マッサージをせずに自力心拍が開始したのは午前九時二二分からであり、別表の午前一〇時五分欄に「この時点までに」とある部分については、カルテ等に、それまでにST波が暫上昇していたことを示す記載はない。なお、C川医師は、三月二五日、本件病院の外科から、本件手術の実施が四月二七日ころになる予定であるので、ICG検査、胸部CT検査及びクレアチニンクリアランス検査を術前に検査しておいてくれるようにとの連絡を受け、同日、クレアチニンクリアランス検査を三月二六日ないし三月二七日、胸部CT検査を三月二七日、ICG検査を三月三〇日にそれぞれ実施することと決定した(以下、原告太郎に対して三月一二日に実施されたシネアンギオグラフィー検査を「本件前回検査」という。)。

イ 即ち、本件事故については、本件事故当日、C川医師は、原告太郎に対し、午前八時四五分ころ、本件薬剤静注による本件ICG検査を開始し、これが完了した午前八時五七分ころ、原告太郎が異常を訴え、午前八時五九分ころ、呼吸が停止し、午前九時九分ころ、本件心停止(体外心臓マッサージを中止しないと心停止となる状態)となり、体外マッサージをしなくとも自力心拍が開始されたのは午前九時二二分からであり、午前一〇時五分ころ以降、ST波(心筋梗塞に特有な心電波)の上昇傾向が現れ始めた。

(6)  原告太郎の症状

ア 原告太郎は、本件心停止状態になったことにより、脳に酸素が行き渡らず、脳が無酸素状態となり、脳が広範囲にわたり不可塑的に損傷を受ける無酸素脳症となり、本件後遺障害、即ち、四肢麻痺及びコミュニケーション障害(発語及び意思表明困難)の状態となり、無酸素脳症の治療を受けたが、本件後遺障害は全く改善されず、四月三〇日、本件後遺障害の症状が固定した(身体障害者認定一級)。

原告太郎が入院していた後記E田リハビリテーションセンターのA田春子医師作成の平成一一年六月八日付け鑑定書(これは、上記禁治産宣告申立事件の際、裁判所に提出するために作成されたものである。)によれば、同医師は、同院入院中の原告太郎を、無酸素脳症後痴呆、失外套症候群で、無酸素脳症の後遺症のため、頭部CTでは大脳皮質の広範で著しい萎縮像を認め、臨床的には、精神機能の著しい低下により、呼び掛けに対する反応、動作や発語による自らの意思の伝達をするようなことは一切見られず、他者とのコミュニケーションが不可能である、日中は開眼して覚醒し、眼球や口唇、手指に僅かに自動運動が見られるが、その運動の中には、知的活動や意思を表出する何ものも見当たらず、意識内容は皆無であり、いわゆる失外套症候群の状態と考えられ、今後の回復は見込めないとされている。

イ 原告太郎は、食事を咀嚼したり、飲み込んだりすることができないため、栄養分を液状にしたものを食道に管を挿入して直接胃内に摂取させているほか、自力排便ができないため、浣腸をしたり、他者が便を掻き出し、排尿についても、常時、尿パットとおむつを当てている状態である。

(7)  本件病院退院及びその後の経過

原告太郎は、上記のとおり、本件事故当日である平成一〇年三月三〇日から同年一一月四日まで本件病院に入院(以下「①の入院」という。)し、同日、転院し、同日から同年一二月一一日までE田リハビリテーションセンター(《住所省略》)に入院(以下「②の入院」という。)し、同日、転院し、同日から平成一一年二月八日までB野病院(《住所省略》)に入院(以下「③の入院」という。)し、同日、転院し、同日から同年九月一七日までE田リハビリテーションセンターに入院(以下「④の入院」という。)し、同日、転院し、同日から同年一一月四日までB野病院に入院(以下「⑤の入院」という。)、同日、転院し、同日から平成一三年一月九日までC山病院(《住所省略》)に入院(以下「⑥の入院」という。)し、同日、転院し、同日から現在に至るまでD川病院(《住所省略》)に入院(以下「⑦の入院」という。)して現在に至っている(これら医療機関は、いずれも、いわゆる完全看護体制である。)。

(8)  原告らの職業及び本件事故後の情況

ア 原告太郎夫婦は、本件事故当時、原告二江とともに、肩書住所の住居(持ち家)に居住し、家電製品販売修理を目的とするナショナルの系列店である有限会社E原(以下「E原社」という。)を経営し、原告太郎は代表取締役、原告花子は取締役の地位にあり、同社は、主として原告太郎の信用と実績により経営されてきたが、本件事故により、原告太郎が全く稼働できなくなったため、平成一〇年一〇月、原告太郎夫婦は、同社の経営を第三者に譲渡してともに同社の(代表)取締役を退任し、以後、同社の経営には関与しなくなった。

イ 本件事故により、原告太郎は入院生活、その余の原告らはその付添介護を余儀なくされる生活となったため、それまで余所で世帯を持っていた原告一江夫婦(本件事故後、その間に子、即ち原告太郎夫婦にとって孫が誕生した。)が、原告太郎のいない上記実家で原告花子及び原告二江と同居し、原告二江は、勤めを辞めて原告太郎の介護をするようになった。

ウ また、原告花子は、原告太郎のE田リハビリテーションセンターでの入院加療に備えて、その隣接町である《住所省略》に2LDKのアパートを借り、同所には原告二江も同居し、同所から原告太郎の付添介護に通っていた。

三  争点

(1)  本件ICG検査と本件APショック及び本件心停止発症との因果関係

(原告らの主張)

本件APショックないし本件心停止は、本件ICG検査の結果発症したものである。

原告太郎には、①もともと冠動脈狭窄の既往症があったものの、本件ICG検査前には、心臓機能を含め循環機能に心筋梗塞の発作等、差し迫った問題はなかったこと、②本件ICG検査直後から、くしゃみ、口腔内不快感、鳥肌、吐き気等AP反応に特有な症状が発症したこと、③本件AP反応発症後、しばらくは意識があり、その時点で心電図モニターが装着されたが不整脈はなく、ST波の上昇もなかったが、その後、呼吸数低下、意識低下、浮腫の発症、呼吸停止、血圧・心拍数の低下、心停止という経過をたどったこと、④ST波の上昇は、午前九時八分に血圧が低下し、午前九時九分に本件心停止となってから約一時間が経過した午前一〇時五分以降に認められること、⑤C川医師は、原告太郎が無酸素脳症に至ったのはAPショックによる心肺停止によるものである旨を、カルテ、診断書等に記載していたことを総合すると、本件ICG検査により、本件AP反応、次いで本件APショックが発症し、これにより本件心停止を発症して原告太郎が無酸素脳症に至ったものというべきである。

仮に、本件心停止の直接原因が、被告が主張するように、本件AP反応が発症したころ、丁度発症した急性心筋梗塞によるものであったとしても、本件AP反応により、末梢血管が拡張し、血圧が低下したため、原告太郎の冠動脈狭窄部分の心筋に、正常時に比較してより少量の血液しか送られなくなり、その結果、急性心筋梗塞が発症したことも充分考えられるから、本件心停止の直接原因が急性心筋梗塞であることは、本件ICG検査と本件APショック発症との間の因果関係を否定することにはならない。

(被告の主張)

原告太郎が本件薬剤によってアレルギー反応である本件AP反応を示したことは認めるが、それがAPショック症状であったこと及び本件心停止の原因がAPショックに起因するものであることを否認する。

本件心停止は、そのころ、たまたま再発した心筋梗塞に起因するものであり、本件ICG検査との間に因果関係はない。仮に、本件ICG検査により本件APショックが発症し、これにより心筋梗塞が再発したと考えられるとしても、本件後遺障害は、上記心筋梗塞によるものであるから、原告らが主張するような問診・予備検査、又は他の肝機能検査を実施していれば原告太郎に心筋梗塞が発症しなかったという関係にはなく、したがって、原告らの主張する過失と本件後遺障害との間には因果関係はない。

(2)  本件APショック発症の予見可能性の有無

(原告らの主張)

ICGには、それに含有されるヨード剤に反応するAP反応等の副作用があることは、厚生省医薬品副作用情報の概要(甲八)で指摘され、また、本件添付文書にも同趣旨のことが記載されており、医療従事者には周知の事実である。また、原告花子は、原告太郎について、平成元年の狭心症による入院時及び本件入院時のいずれの機会にも、本件病院の医療従事者に対し、従前、原告太郎が正露丸を服用したことにより、顔が腫れたことがある旨及び原告太郎夫婦の娘に喘息があることを告げていた。

したがって、C川医師は、原告太郎に対し、本件ICG検査の際、原告太郎に本件AP反応の発症及び本件APショックが発症することを予見することができた。

(被告の主張)

原告太郎は、平成元年に本件病院に入院した以降、何度もヨード系造影剤による血管撮影を受けており、さらに、本件ICG検査実施の一八日前である平成一〇年三月一二日にもヨード系造影剤による本件前回検査を受けたにもかかわらず、その際、原告太郎にはAPショックのみならず、AP反応すら発症しなかった。

したがって、C川医師は、本件ICG検査によって原告太郎に本件AP反応の発症及び本件APショックが発症することを具体的に予見することは不可能であった。

(3)  予診・問診義務及びICG検査回避義務違反の有無

(原告らの主張)

ア 問診

C川医師は、本件ICG検査を実施する際、あらかじめ原告太郎やその家族に対し、原告太郎にヨード過敏症、又はアレルギー症状の既往歴があるか否かについての問診をすべき注意義務があった。ICG検査を実施するに当たり、問診を充分に行うべきことは、本件薬剤に添付されていた本件添付文書にも、その旨明記されている。原告太郎は、二〇歳代のころから鼻炎に苦しんでおり、また、昭和五四年ころ、腹痛で正露丸を服用したところ、その副作用で顔面が脹れあがったことがあり、C川医師が問診をしていれば、原告太郎が何らかの薬物アレルギー体質を持っていたことが判明したはずである。それにもかかわらず、C川医師は、原告太郎及びその家族に対するアレルギー症状の既往歴についての問診を全く行わなかったものであり、この点に過失がある。

イ 予備検査(アレルギー反応検査)

C川医師は、ICG中のヨード剤が死に至る重篤な副作用であるAPショックを発症させる危険が発症することを予見し得たのであるから、本件ICG検査を実施するに当たり、原告太郎にこの危険が発症する虞れがあるか否かを、原告太郎に対して予備検査としてアレルギー反応テストを実施して確認すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、原告太郎に対してICG検査の前にすべきアレルギー反応テストを何ら実施しなかった。

ウ ICG検査適応

ICGによる薬剤性ショックが発症する確率は、厚生省医薬品副作用情報の概要によれば、〇・〇七%という臨床的には相当高い確率であり、そのショックの内容としても、急激な呼吸困難、血圧低下等の症状から意識低下、死亡という重篤な症状である。また、ICG検査は、肝切除術の術前には必須の検査とされているが、本件術式を実施するために必要な術前のデータは、ICG検査をすることなく、GOT検査、GPT検査、ビリルビン検査等で十分把握することが可能なのであって、本件手術を実施するには必須な検査方法ではなかった。

したがって、C川医師は、原告太郎に対して本件薬剤を用いた本件ICG検査に先立ち、ICG以外の検査で肝機能を確認できるかを検討する注意義務を負っていたところ、これを怠り、漫然と本件ICG検査を実施した過失がある。

(被告の主張)

ア 問診

本件病院では、原告太郎の本件入院時に、原告太郎に対し、詳細な問診を実施しており、問診事項の中にはアレルギーに関する事項も含まれており、正露丸で顔面膨隆疹が出た旨の回答を得ていたが、正露丸の成分はクレオソート、ロートエキス等であって、ヨード剤(ヨウ素)を含有していないから、原告太郎にとって本件薬剤が禁忌となるわけではない。

また、仮にC川医師が、原告太郎及びその家族に対して、原告太郎の既往歴について問診し、原告太郎の鼻炎アレルギー及び正露丸アレルギーが判明したとしても、本件薬剤を慎重に投与すれば足りるだけである。すなわち、慎重に投与するとは、救急処置を事前に準備しておくことを意味し、投与するか否かを慎重に検討することは含まれていないものというべきであるから、上記問診を実施しても、本件ICG検査を回避することはできなかった。

イ 予備検査(アレルギー反応検査)

アレルギー反応の有無を確認する予備検査について、本件添付文書には、アレルギー素因のある者に対し、その使用前に皮内反応テスト等のアレルギー反応検査を行う旨の記載はなく、実際臨床的にも行われていない。アレルギー反応検査のうち、皮内テストについては、ICGを投与しただけで、AP反応又はAPショックが起こったとも考えられ、AP反応、又はAPショックの危険を事前に知るという観点からは、皮内テストは無意味である。また、スクラッチテスト、プリックテストは感度が低く、実施しても有意な結果が得られるとは限らない上、APショックの危険もある。

したがって、C川医師は、本件ICG検査を実施するに当たり、事前に皮内テスト等予備検査を実施して、原告太郎のアレルギー反応の有無を確認すべき注意義務はない。

ウ ICG検査適応

GOT、GPTは、心筋細胞、骨格筋細胞等が破壊された場合に、そこから血中に逸脱する酵素であり、その上昇は、組織の壊死の程度と相関し、肝臓についていえば、GOT、GPTの検査は、肝炎、肝障害、肝硬変等の疾患の存在や程度を知るために行われるものである。これに対し、ICG検査は、肝細胞の異物排泄機能の検査であって、患者の肝実質の処理能力を知るために行われるものである。したがって、ICG検査は、GOT、GPT検査によっては代替することができない。

また、心臓手術において、術前のいわゆる一般生化学検査は正常で、その他の画像診断(エコー、CT検査)などを総合的に評価しても異常を認めなかった患者に術後、肝機能障害をきたす症例は臨床的に経験されるところである。ICG検査によって、肝臓の色素排泄機能を調べることができれば、逸脱酵素等いわゆる一般生化学検査で判明する検査値や画像診断ではチェックできない機能をダイナミックに調べることができると考えられる。また、心臓手術においては、他の一般的な手術に比較して、手術時間も七~八時間と長く、人工心肺を使用するため溶血をきたしやすく、輸血の頻度も高いため、肝機能障害のリスクが高いと考えられるので、ICG検査を行うことは必要である。

(4)  救急措置上の注意義務違反

(原告らの主張)

C川医師は、本件APショック状態に陥った原告太郎に対し、第一段階として、できるだけ早く気道拡張、末梢血管収縮、浮腫の減少の措置を行う必要があり、ボスミンを筋肉注射すべき注意義務を負っていた。しかるに、C川医師は、まず輸液ルートを確保しようとし、ナースステーションまで注射針を取りに行き、原告太郎に注射針を刺入して時間を浪費した上、ソルメドロールを静注して上記義務に違反した。

(被告の主張)

ショック状態(生体機能を維持するのに必要な心拍出量が減少し、組織循環の不全を起こすことをいい、血圧が低下している状態をいう。)の患者に対しては、薬剤を投与する際に筋肉内注射や皮下注射では効果が少ないことはしばし臨床上経験されることであり、臨床の場では、まず血管(輸液ルート)を確保することが重要である。したがって、C川医師が、まず、輸液ルートを確保したことは相当な措置であって非難されるべきことではない。

C川医師が、ショック状態に陥った原告太郎に対し、その治療のために、ソルメドロールとカタボンHi(昇圧剤)の投与から開始したことは、医学文献(『出血とショック』)上、造影剤ショックを起こした患者に対し、ソルコーテフ(ステロイド)静注とノルエピネフリン(昇圧剤)静注によって治癒した例が紹介されていることもあり、APショックの治療として十分である。

また、静脈の確保及びカタボンHiの投与は心原性ショックの治療としても必要かつ十分なものである。したがって、C川医師がソルメドロールとカタボンHiの投与から始めた点は、APショック、心原性ショックのいずれに対しても有効な治療法であった。

(5)  損害の有無及びその額

(原告らの主張)

ア 原告太郎の損害 合計一億六一四六万〇七六九円

(ア) 逸失利益 五〇九六万三二二〇円

E原社から本件事故直前年の平成九年中に支給された役員報酬(これは全額労務の対価たる賃金である。)年額六六〇万円を基礎に、当時六〇歳であった原告太郎の就労可能年数を平均余命二〇・八七年(平成九年度簡易生命表)の二分の一の一〇年とみて、中間利息の控除につきライプニッツ係数七・七二一七を乗じた金額の全額(労働能力一〇〇%喪失)

(イ) 入院診療費等入院関係費 四四三万二八六一円

a 入院・治療費 三五〇万五四四〇円

E田リハビリテーションセンター、B野病院、E山大学病院及びA川歯科関係

b 鍼・灸治療費 三七万〇〇〇〇円

鍼灸B原夏夫学院関係

c 診断書代 三万八八五〇円

d パジャマ代 一万〇八〇〇円

e おむつ・医療器具代 二七万一五〇四円

f 移送代 三万二〇〇〇円

g 交通費 二〇万四二六七円

(ウ) 入院付添費 二九三万四〇〇〇円

本件事故当日から平成一一年七月末日までの四八九日間における一日六〇〇〇円の割合による近親者付添費(それ以後終生にわたる同様付添費は、(オ)のとおり)

(エ) 将来の入院費等 三〇五八万八四七〇円

a 入院費 二四六七万五一五六円

現在までの一か月当たりの入院費は約一六万五〇〇〇円であるところ、その年額一九八万円に平均余命二〇年に対応するライプニッツ係数一二・四六二二を乗じた金額

b 入院雑費 五九一万三三一四円

一日当たりの入院雑費一三〇〇円に平均余命二〇年に対応する前同様ライプニッツ係数及び三六五日をそれぞれ乗じた金額

(オ) 将来の付添費 二七二九万二二一八円

平成一一年八月一日以降平均余命二〇年に対応する前同様ライプニッツ係数及び三六五日をそれぞれ乗じた金額

(カ) 慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円

(キ) 精神鑑定費用 二五万〇〇〇〇円

原告太郎の上記禁治産宣告申立事件に当たり、鑑定を依頼したA田春子医師に対する鑑定報酬

(ク) 弁護士費用 一五〇〇万〇〇〇〇円

原告太郎と原告ら代理人弁護士が支払を合意した本件訴訟の着手金及び成功報酬額

イ 原告花子の損害 合計 三三一六万五一〇〇円

(ア) 逸失利益 二三一六万五一〇〇円

原告花子も原告太郎同様、本件事故によりE原社からの役員報酬を得ることができなくなったところ、原告花子がE原社から本件事故直前年の平成九年中に支給された役員報酬年額三〇〇万円(これは全額労務の対価たる賃金である。)を基礎に、原告太郎と同様の就労可能年数一〇年に対応するライプニッツ係数で乗じた金額全額

(イ) 慰謝料 一〇〇〇万〇〇〇〇円

ウ 原告一江の損害(慰謝料) 五〇〇万〇〇〇〇円

エ 原告二江の損害(慰謝料) 五〇〇万〇〇〇〇円

(被告の主張)

原告らの主張を争う。

原告らの主張のとおり、本件ICG検査についてC川医師に過失があり、それと本件APショックないし本件心停止との間に因果関係が認められたとしても、原告太郎には冠動脈狭窄(心臓を動かす筋肉に血液を供給する動脈が狭くなっている状態)があったのであり、この点は、損害額を算定する場合に素因として考慮されるべきである。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(因果関係)

ア  基本的事実によれば、本件事故当日は、原告太郎に対し、午前八時四五分ころから、本件薬剤静注による本件ICG検査が開始され、本件薬剤の静注は、いったん中断されたものの、午前八時五二分ころからこれが再開され、午前八時五七分ころに本件薬剤の静注が完了したところ、その直後から、原告太郎に口内異和感、くしゃみ等のAP反応特有の症状が現れたものであり、この症状が本件薬剤によるAP反応であることは、上記のとおりであり(これは当事者間に争いがない。)、そして、その後、原告太郎は、午前八時五九分ころ、呼吸が停止し、さらに、午前九時八分ころ以降、血圧及び心拍数が徐々に低下し、午前九時九分ころ、本件心停止の状態となり、この状態が継続されたことより、ほぼ無酸素脳症となったものと認めるのが相当である。

もっとも、本件事故当日、本件ICG検査終了後、原告太郎にST波の上昇傾向が認められ、これは、心筋梗塞特有の徴表であり、心筋梗塞が発症したものといえるが、そのST波の上昇傾向は、本件心停止から約一時間経過した後に出現したものであり、本件後遺障害が上記心筋梗塞によって生じたものとはいえない。

イ  そして、本件ICG検査終了後、原告太郎には、気分の悪さ、口腔内不快感、くしゃみ等々のAP反応特有の症状が出現したものであるところ、その経過としては、午前八時五七分ころに本件AP反応が発症し、午前八時五九分ころには意識レベルが低下して呼吸が停止し、午前九時九分ころには本件心停止に陥ったのであり、この原告太郎に生じた一連の症状及びその経過は、AP反応からAPショックを経て心停止に至る一般的発生機序と符合しているものと認められるのであって、これによれば、原告太郎は、本件AP反応発症後、本件APショックを発症し、本件APショックにより午前九時九分ころ、そのまま本件心停止の状態に至ったものと認めるのが相当である。

ウ  したがって、C川医師による本件ICG検査と原告太郎に発症した本件APショックないし本件心停止との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当であり、この点について、原告太郎に発症した本件心停止の原因は、本件AP反応と同時間帯に、たまたま起こった本件心筋梗塞である旨の被告の主張は採用できない。

二  争点(2)(予見可能性)

(1)  基本的事実によれば、ヨード剤とAPショック発症の一般的な原因ないしその発生機序からすれば、ICG静注によりAPショックが発症する可能性があるが、その可能性は、ヨード剤過敏症者のみならず、アレルギー体質を有する者にもあり、APショックは即時型免疫反応であるため、同じ反応を示すアトピー性皮膚炎、鼻アレルギー及び喘息などを持つアレルギー体質の者に発症しやすく、また、アレルギー体質は遺伝的傾向があるところ、原告太郎は、正露丸の服用による薬剤アレルギー反応により顔面の浮腫発疹症状の既往歴があって(ただし、正露丸にはヨード剤は含有されていない。)、その際、医師の診察を受けたことがあり、また、長期にわたって鼻炎で悩まされ、原告花子が原告太郎の食事内容に殊更工夫を凝らしてきたものであり、さらに、原告太郎の娘にも喘息があるのであるから、C川医師としては、原告太郎を含む一家一族が何らかのアレルギー体質を有することを確診し得たものといえ、そして、アレルギー体質であれば、それがヨードアレルギー体質でもある可能性もあるのであるから、原告太郎に対してヨード剤を含有する本件薬剤を静注することにより、場合によっては、本件薬剤に含有されるヨード剤によるヨードアレルギー反応である本件AP反応が発症し、ひいて、本件APショックを発症することを予見できなくはなったものというべきであって、この意味において、ICGの知見を有し、ICG検査の臨床経験多数を有するC川医師には、本件ICG検査により原告太郎に本件APショックが発症することの具体的予見可能性があったものと認めるのが相当である。

(2)  被告は、原告太郎は、本件前回検査(平成一〇年三月一二日施行)ないしそれ以前の各種検査に際し、本件ICG検査時よりも遥に多量のヨード剤を摂取していたにもかかわらず、その際、原告太郎にはAPショックはおろか、AP反応の発症すらなかったのであるから、本件前回検査から一八日後に施行され、しかも、この時よりも遥に少量のヨード剤を静注したに過ぎない本件ICG検査により本件APショックを発症することの具体的予見可能性はC川医師にはなかった旨主張し、これに沿う甲八(C川医師の陳述書)及び証人C川の供述がある。

しかしながら、基本的事実によれば、AP反応等は、原則として、抗原物質である薬物が最初に体内に投与されたときには発症せず、その際、体内に入った抗原物質により、IgE抗体が体内で産生され、肥満細胞と結合し、感作の状態(IgE抗体の飽和状態)となった以降、更に同一の抗原物質が体内に入ることによって発症するのであって、過去にヨード剤を含む薬物が一度ならず数度にわたって体内に入った時にはその時点で何らAP反応等が発症しなかったとしても、それは、結果としては、その時点において、感作状態になっていなかっただけのことであり、むしろ、その度を増す毎に、感作の状態に接近することになる道理であるから、それ以降のAP反応等の発症が否定されるものではなく、被告が主張する事情をもって、C川医師に原告太郎に対する本件ICG検査による本件AP反応等の発症についての具体的予見可能性がなかったことの根拠とすることはできない。

したがって、この点の被告の主張は、理由がない。

三  争点(3)(問診・予診義務及びICG検査回避義務違反)

(1)  問診義務

ア 基本的事実によれば、ICGは、それに含有されるヨード剤に反応してショックを発症する可能性があり、ヨード過敏症の既往歴のある者に対する使用は禁忌であり、アレルギー体質を有する者に対して使用する場合には、適応の選択を慎重に行い、診断上、ICG検査が必要な場合には、使用に際してショック等の反応を予測するため、十分な問診を行うべきものである。

ところで、原告太郎は、上記のとおり、ICGである本件薬剤中のヨード剤によりアレルギー反応である本件AP反応、ひいて、本件APショックを発症したものであるが、原告太郎及び娘には、従前、正露丸による顔面の浮腫発疹、鼻炎及び喘息の既往歴ないし症状があり、これら既往歴ないし症状はアレルギー体質の発症と認めるのが相当であり、アレルギー体質には遺伝的傾向があることからすれば、それが、ヨードアレルギーであるか否かを事前に確定することはできないとしても、少なくとも、原告太郎が何らかのアレルギー体質を有することは、容易に確診が可能であったというべきである。そして、アレルギー体質であれば、それがヨードアレルギー体質である可能性も当然にあり得るわけであり、ヨードアレルギー体質であれば、ICGに反応してAP反応等を発症する虞れがあって、その場合には、上記のとおり、ICGが少なくとも慎重投与とすべきものとされるのであるから、C川医師としては、本件ICG検査を実施するに当たっては、あらかじめ、原告太郎及び家族に対し、改めて具体的な問診を実施し、同人らに存する上記既往歴及び症状を確認し(これにより原告太郎が永年鼻炎症状にあることも知り得たはずである。)、原告太郎がアレルギー体質であるか否かを確定すべき義務があったものと認めるのが相当である。ところが、C川医師は、本件ICG検査を実施するに当たり、原告太郎及びその家族に対し、同人らのアレルギーの既往歴及び症状、ひいて、原告太郎におけるそれを確認すべき問診を何ら実施していないことは、被告も自認するところであって、この点において、C川医師には過失があるというべきである。

イ 被告は、原告太郎に対しては、本件前回検査及びそれ以前において、本件薬剤よりも多量にヨード剤を含有する血管造影剤を投与していたにもかかわらず、アレルギーショックはおろか、AP反応さえ発症していなかったのであるから、C川医師には、本件ICG検査の実施に当たり、原告太郎がアレルギー体質を有するか否かを確診すべく問診を実施すべき義務はない旨主張する。

しかしながら、原告太郎は、上記のとおり、本件前回検査以前において、ヨード剤を含有する血管造影剤を継続的に投与され、体内の抗原が飽和状態に達した感作の状態にあったというべきところ、本件ICG検査によりヨード剤が更に体内に注入されたことにより、本件AP反応、ひいて本件APショックを発症したものと認めるのが相当である。そして、一般に感作がいつの段階で形成されるものかは判定し難いものであり、本件では、それがヨード剤に作用するものであったが、これがいったん体内に注入されれば、いつでも、感作状態になっている可能性があるのであるから、その状態で更にヨード剤を含有する本件薬剤を投与すれば、例えそれが少量の場合であったとしても、これにより、AP反応等を発症する可能性ある以上、本件前回検査以前において原告太郎にAP反応等が発症しなかったことをもって、C川医師の本件ICG検査の実施に先立つ問診義務が免責される理由とすることはできない。つまり、上記のとおり、ヨードアレルギー体質を有する者に対しては、ヨード剤を含有する血管造影剤等を投与すればするほど、AP反応等が発症する度合いが増す道理であるから、それ以前におけるヨード剤含有の血管造影剤検査では何事もなかったからといって、可能性としてそれにより感作を生じていることがあり得る以上、今回のヨード剤含有のICG検査でも安全と考えるのは早計というべきである。感作がいつの時点で生じるのか判定のしようがないということは、判定のしようがないから、何もしないで直ちにICG検査を実施したことに過失がないとすることは相当でないと解される。

したがって、この点の被告の主張は、理由がない。

(2)  アレルギー反応検査義務

原告らは、C川医師は、本検査である本件ICG検査を実施するに当たり、問診のみならず、原告太郎がアレルギー体質であるか否かを予備検査であるアレルギー反応検査を実施して確認すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った過失がある旨主張する。

しかしながら、基本的事実のとおり、予備検査であるアレルギー反応検査としては、各種の検査が考えられるが、このうち、パッチテストは、一般的にその精度が劣り、原告太郎に対してこれを実施したとしても、原告太郎がアレルギー体質であることを確診できたとはにわかには判断し難く、また、その余の検査は、そこで使用される試薬には、いずれも、その中に希釈されたICGを含有しているから、これにより、却って、AP反応、更にはAPショックを発症する虞れが懸念されるのみならず、原告太郎は、現に少量の本件薬剤の静注によって本件AP反応、さらに、本件APショックを発症したものであることに照らせば、C川医師に原告太郎に対してこれを実施すべき義務があったものとすることはできない。本件添付文書にもICG検査前にアレルギー反応検査を一律に実施すべき旨の記載はない。

したがって、この点の原告らの主張は、理由がない。

(3)  本件ICG検査回避義務

原告らは、C川医師は、問診、又は予備検査により原告太郎がアレルギー体質であることを確診することができたのであり、ICGはAP反応等を発症する危険性があるのであるから、他の方法による肝機能検査を実施すべきであって、ICGによる肝機能検査を回避すべき義務があった旨主張する。

ところで、本件病院の医療従事者から原告太郎、又は原告花子に対しては、本件入院当初、問診が実施され、過去において、原告太郎に薬剤アレルギーと思われるもの発症したことがあることや娘が喘息であることが看護記録に記録されているだけであり、それ以後、原告太郎がアレルギー体質であることについての問診等は一切実施されていなかったことは、上記のとおりであり、また、上記看護記録の記載からすれば、それが、ヨードアレルギーであるか否かは格別、原告太郎がアレルギー体質である可能性を示すものというべきであるから、本件ICG検査の実施に当たっては、更に具体的に問診を実施して原告太郎がアレルギー体質を有する者であること、又はこれが疑われる者であるか否かを確定し、少なくとも、アレルギー体質であることの合理的な疑いが消えない以上、本件手術の緊急性の有無、本件ICG検査の必要性の有無及びその程度、他の検査方法の有無及びその有効性の程度、ICG検査に伴う危険性の有無及びその程度等を総合的に検討した上で、本件ICG検査の実施の当否が決せられるべきであったと解するのが相当である。

ところが、本件ICG検査の実施日が本件事故当日と決められたのは、これに先立つ五日前の三月二五日であり、同日には、本件手術の実施予定日が約四週間先の四月二七日と決められたのであって、原告太郎に対して問診の実施その他上記検討を尽くすことが出来ないほどに本件ICG検査の実施が緊急を要するものであったとか、まして、本件手術が緊急に必要とされていたものではないのみならず、ICG検査は、それなりに有用な検査データを提供するものではあるが、本件術式の適否の判断をするための肝機能検査としては必須の検査とはされておらず、また、原告太郎には、ICG検査をすべき場合として上げられている肝機能障害があったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件術式により実施が予定されていた本件手術の実施の適否を判断するために、本件ICG検査は必須の検査とまではいい難いものである一方、含有するヨード剤によるAP反応等発症の危険性があるが、他方、肝機能検査としては、他にもヨード剤の静注をせずとも実施可能な総ビリルビン検査があり、GOT検査、GPT検査でもICG検査で得られるのと一部同様の検査データを得ることもできるとされているのである。

ところが、C川医師は、原告太郎に対し、問診はむろん、これら他の検査方法の当否についての検討を何らすることもなく、上記状態にあったAP反応等発症の危険性がある原告太郎に対し、いきなり、本件ICG検査を選択実施したのであって、C川医師にはICG検査回避義務に違反した過失があるものと解するのが相当である。

(4)  責任論の総括

ア 以上によれば、C川医師には、原告太郎に対するアレルギー体質についての問診義務を尽くさず、直ちに本件ICG検査を選択実施した点に過失があるものと認められる。

そして、C川医師の上記過失により、原告太郎に本件AP反応、更に本件APショックが発症し、ひいて同人が本件心停止となって無酸素脳症に陥り、それが本件後遺障害となって残存したものと認められる。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告は、原告らに対し、本件診療契約の債務不履行(履行補助者たるC川医師の過失)、又は不法行為(被用者たるC川医師の過失による使用者責任)による後記損害賠償義務がある。

イ 被告は、本件心停止ないし本件後遺障害は、本件心筋梗塞によるものである旨主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、一般的に言って、APショックから心筋梗塞を発症する場合があることが認められるが、本件の場合、本件事故当日、原告太郎に心筋梗塞特有のST波が出現したのは、午前九時九分ころに発症した本件心停止から約一時間経過後の午前一〇時五分以降のことであって、それ以前において、既に本件心筋梗塞が発症していたことを認めるに足りる証拠はないから、本件心筋梗塞は、上記のとおり、本件心停止から約一時間経過後に発症したものと認めるべきであって、本件心停止が本件心筋梗塞によるものであるとか、本件後遺障害の直接原因が本件心筋梗塞によるものと認めることはできない。

したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

四  争点(5)(損害の有無及びその額)

(1)  原告太郎分 七三一一万三三八八円

ア 逸失利益 一二〇九万二九〇七円

(ア) 原告らは、原告太郎の逸失利益の算定の基礎収入として、本件事故直前年の平成九年中に原告太郎がE原社から役員報酬として年額六六〇万円の支給を受けていた旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない(原告花子が同社から年額三三〇万円の役員報酬の支給を受けていた旨の主張も同様)。上記主張の原告太郎夫婦各人の役員報酬額は、僅かに《証拠省略》の原告花子の陳述書中に「夫太郎が有限会社E原社から平成九年度に支払いをうけた金額は年額六六〇万円で、私の平成九年度の賃料は三〇〇万円でした。」とあるだけであって、この記載をもって、直ちに原告太郎夫婦各自の逸失利益算定の基礎収入認定の証拠とすることはできないし、他に同人ら各自のE原社から支給されていた役員報酬額を直接確定するに足りる証拠はない。

(イ) したがって、原告太郎(証拠上学歴不明。山形県出身)の逸失利益算定の基礎収入としては、本件事故当年の平成一〇年賃金センサス中の産業計男子労働者高卒の六〇歳から六四歳までの賃金を採用するのが相当であるところ、その年収は、三四八万二九〇〇円である。

ところで、原告太郎は、本件事故による本件後遺障害により、労働能力を一〇〇%喪失したものと認められ、また、原告太郎は、本件入院前においても、心臓等胸部疾患に罹患していて、平成元年以来、入院手術を受けてその後も通院を継続し、そして、不安定狭心症の治療のために大動脈冠動脈バイパス手術を受ける予定で本件入院をしていたものであって、これらの事情及び本件事故当時の原告太郎の年齢に照らして、同人の就労可能年数を六七歳までの七年とするのが相当であるから、中間利息の控除につき七年に対応するライプニッツ係数五・七八六八を採用し、上記金額にこれに乗じて計算すると、次のとおり、二〇一五万四八四五円である。

348万2900円×5.7868=2015万4845円

なお、役員報酬であれば、労務提供の対価部分と利益配当の実質を持つ部分を分かち、前者を基礎収入として当該役員の逸失利益を算定すべきことになるが、本件の場合、原告太郎の基礎収入を賃金センサスで算定することにするから、その全額を労務提供の対価部分と認めるのが相当である。

(ウ) ところで、本件後遺障害による原告太郎の障害等級は一級であり、原告太郎は、身の回りのことを自らなし得ず、今後とも継続的に医療機関に入院し、原告花子を始めとする他者の付添介護を受ける生活を余儀なくされることが予測される。

そうすると、原告太郎の将来の生活費としては、専ら、病院における治療費、付添介護料及び入院雑費にほぼ限定され、通常の生活を営み、その場合に必要とされる労働能力の再生産に要する生活費は、ほぼその支出を必要としないものと解されるから、その部分の費用は、将来の得べかりし利益から生活費として控除されるべきであり、その割合は、本件の事案、賃金センサス中の産業計男子労働者学歴計を採用したこと及び後記認定の入院諸費用額に照らし、四〇%とするのが相当であり、上記(イ)の金額からこれを控除して計算すると、次のとおり、一二〇九万二九〇七円(小数点以下切り捨て)であり、これが、本件事故と相当因果関係にある原告太郎の逸失利益と認められる。

2015万4845×(100-40)%=1209万2907円

イ 入院診療費 七四九万七〇七〇円

(ア) 本件病院 一九五万四四五〇円

①の入院(平成一〇年三月三〇日~同年一一月四日)に要した入院費である。

(イ) E田リハビリテーションセンター 二一万三二七〇円

②の入院(平成一〇年一一月四日~同年一二月一一日)に要した入院費である。

(ウ) B野病院 三四万二〇六〇円

③の入院(平成一〇年一二月一一日~平成一一年二月八日)に要した入院費である。

(エ) E田リハビリテーションセンター 一一〇万五五二〇円

④の入院(平成一一年二月八日~同年九月一七日)に要した入院費である。

(オ) B野病院 二四万八一一〇円

⑤の入院(平成一一年九月一七日~同年一一月四日)に要した入院費である。

(カ) C山病院 二二一万五〇八〇円

⑥の入院(平成一一年一一月四日~平成一三年一月九日)に要した入院費である。

(キ) D川病院 一四一万八五八〇円

⑦の入院(平成一三年一月九日~平成一四年八月三一日)に要した入院費である(ただし、おむつ代を含む)。

ウ 入院雑費 二二二万一七〇〇円

原告太郎の①ないし⑦の各入院期間一七〇九日(ただし、本件口頭弁論終結の日まで)における入院雑費は、原告太郎の年齢、本件後遺障害の程度、原告太郎自ら排尿・排便することができず、寝たきり状態であり、常時、おむつ及び医療器具等を使用せざるを得ない状態にあること、その他本件に現れた一切の事情を考慮して、一日一三〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係にある入院雑費相当の損害と認めるのが相当であり、これにより算定すると、次のとおり、二二二万一七〇〇円である。

1300円×1709日=222万1700円

エ 入院付添費 六八三万四〇〇〇円

原告太郎が①ないし⑦の各入院をしていた上記各医療機関は、いずれも、いわゆる完全看護体制がとられているが、原告太郎の年齢、本件後遺障害の内容及び程度に照らして、家族・親族の付添いが必要、かつ、相当と認められるべきものであるところ、原告太郎は、上記各入院期間中(ただし、本件口頭弁論終結の日まで)、原告花子、原告一江、又は原告二江のいずれかの付添介護を受けていたものであり、これら医療機関は、近くは肩書住所の自宅近くから遠くは静岡県《地名省略》にも及ぶが、その往復には、交通機関を利用せざるを得ないものであったと認められ、また、その付添日数は、少なくとも、全期間一七〇九日の三分の二程度の一一三九日と認めるのが相当であり、そして、原告花子ら家族・親族の上記入院付添費は、一日当たり六〇〇〇円をもって相当と認められ、これにより算定すると、入院付添費は、以下の計算のとおり、六八三万四〇〇〇円である。

6000円×1139日=683万4000円

オ 交通費 〇円

原告らは、原告花子らの原告太郎に対する付添介護のための自宅と上記各医療機関との往復に要した交通費を損害として請求するが、付添人が付添介護のために病院との往復に支出した交通費は、それが直ちに損害と認められるものとはいい難く、また、上記のとおり、本件においては、それを入院付添費において考慮したから、交通費をこれとは別に損害と認めることはできない。

カ 診断書料 三万八八五〇円

平成一〇年四月二八日から同年八月一九日までの六回にわたり、本件病院から交付を受けた診断書八通及びその他の文書一通の消費税込みの費用である。

キ 鍼灸費 〇円

原告らは、平成一〇年八月二八日から同年一一月三日まで、原告太郎が鍼・灸B原夏夫学院B原秋夫(《住所省略》所在)において鍼治療を受けたことによる治療費合計三六万円を損害と主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、上記鍼治療は、特に医師が相当と認めて指示したところに従って受診したものではなく、原告花子の友人の勧めがあったために受診したものであることが認められ(《証拠省略》によれば、治療費は合計四〇万円である。)、しかも、これが原告太郎の症状軽快に必要、かつ、有効であることをと認めるに足りる証拠はない。

したがって、上記鍼・灸治療費は、本件事故と相当因果関係にある損害と認めることはできない。

ク 歯科治療費 〇円

原告らは、平成一一年二月三日、原告太郎がA川歯科医院D野冬夫(《住所省略》所在)により歯科治療を受けた治療費五八九〇円も、本件事故と相当因果関係にある損害と主張し、《証拠省略》によれば、原告太郎がB野病院に入院中、同病院に上記歯科医の往診を得て、ぐらついてきた歯を抜歯してもらった治療費であることが認められるが、しかし、歯科治療自体は本件事故と無関係であるのみならず、上記が往診を受けざるを得ないために支出を余儀なくされた費用と確定するに足りる証拠もないから、これを、本件事故と相当因果関係にある損害と認めることはできない。また、その他にも、《証拠省略》の各診療費領収書には、④、又は⑥の各入院中、歯科診療費として合計四六六〇円(④の入院中合計三八一〇円、⑥の入院中八五〇円)を支出した旨の記載があるが、これも、上記同様、本件事故と相当因果関係にある損害と認めることができない。

ケ 将来の入院診療費 四七三万九五九八円

原告太郎の将来の入院診療費は、既往の上記①ないし⑦の各入院における一日当たりの診療費は、おおむね(以下はいずれも十の位を省略)、①の入院では八三〇〇円、②の入院では五六〇〇円、③の入院では五四〇〇円、④の入院では四九〇〇円、⑤の入院では五〇〇〇円、⑥の入院では五一〇〇円、⑦の入院では三二〇〇円と漸減傾向を示していることからすれば、本件口頭弁論終結時以降の一日の入院診療費は、三〇〇〇円と認めるのが相当であり、これを基礎にして一年間(三六五日)の入院診療費を計算すると、一年間で一〇九万五〇〇〇円となるところ、原告太郎は、本件口頭弁論終結時満六四歳であり、もともと胸部疾患の既往歴があり、本件事故により、いわゆる植物人間となった等の事情に照らして、原告太郎の余命は、七〇歳までの五年四か月と認めるのが相当であり、中間利息の控除について、五年(四か月分切り捨て)に対応するライプニッツ係数四・三二八四を用いて算定すると、以下のとおり、四七三万九五九八円である。

109万5000円×4.3284=473万9598円

コ 将来の入院雑費 二三六万九七九九円

原告太郎は、今後、終生、医療機関での入院生活を余儀なくされることが予測されるところ、その将来の入院雑費は、一日当たり一五〇〇円、一年当たり五四万七五〇〇円をもって相当と認められるべきところ、本件口頭弁論終結時において、原告太郎は満六四歳であり、その余命は、上記のとおり、七〇歳までの五年四か月とすべきであるから、中間利息の控除につき、五年(同前)に対応するライプニッツ係数四・三二八四を用いて、これにより算定すると、将来の入院雑費は、以下のとおり、二三六万九七九九円である。

54万7500円×4.3284=236万9799円

サ 将来の入院付添費 六三一万九四六四円

将来の入院付添費については、その基礎金額を、上記過去の入院付添費一日当たり六〇〇〇円、一年当たり二一九万円を基礎とするのが相当と認められるところ、本件口頭弁論終結時における原告太郎の上記年齢及び余命、中間利息の控除につき五年(同前)に対応するライプニッツ係数四・三二八四を用いて、上記期間中の三分の二の期間において付添介護をするものとして、これを算定すると、将来の入院付添費は、以下のとおり、六三一万九四六四円である。

219万0000円×4.3284÷3×2=631万9464円

シ 慰謝料 二六〇〇万〇〇〇〇円

原告太郎は、一家の主柱と認められ、これに本件に現れた一切の事情を考慮すれば、その慰謝料は、二六〇〇万円をもって相当と認められる。

ス 精神鑑定費用 〇円

原告らは、事件本人を原告太郎とする横浜家庭裁判所平成一一年(家)第七二二号禁治産宣告申立事件の申立てをするに当たって、E田リハビリテーションセンターのA田春子医師による鑑定費用として二五万円を要した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

セ 弁護士費用 五〇〇万〇〇〇〇円

弁護士費用は、事案にかんがみ、五〇〇万円をもって相当と認められる。

(2)  原告花子分 二〇〇万〇〇〇〇円

ア 逸失利益 〇円

原告花子は、原告太郎が本件後遺障害を負ったため、本件会社を退職して原告太郎の付添介護を余儀なくされたとして、本件ICG検査実施時にE原社から役員兼従業員として支給されていた役員報酬年額三〇〇万円を基準とした逸失利益を損害である旨主張する。

しかしながら、上記のとおり、上記報酬額を認めるに足りる的確な証拠はないのみならず、原告花子がE原社を退職して専ら原告太郎の付添介助を継続せざるを得ないことについては、原告太郎に対して入院付添費が損害として認められるから、原告花子の上記役員報酬の喪失は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

イ 慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

原告花子は、夫である原告太郎が本件事故により本件後遺障害を受け、互いの意思疎通を図ることができなくなり、その終生にわたる介助を継続せざるを得ないこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮して、その慰謝料は、二〇〇万円をもって相当と認められる。

(3)  原告一江及び同二江分 各一〇〇万〇〇〇〇円

原告一江及び原告二江の慰謝料は、父である原告太郎と意思疎通を図ることができなくなり、その終生にわたる介助を継続せざるを得ないこと、その他本件に現れた一切の事情を考慮して、その慰謝料は、それぞれ、一〇〇万円をもって相当と認められる。

(4)  既往歴ないし本件心筋梗塞と寄与度

被告は、原告太郎の本件後遺障害は、本件心筋梗塞を原因とするものであり、しからずとするも、原告太郎には心臓疾患の素因があるのみならず、本件事故時発症した本件心筋梗塞の影響も考えられるから、これらは、損害額を確定する場合に考慮されるべき旨主張する。

しかしながら、上記のとおり、本件事故当日、原告太郎に発症した本件心筋梗塞は、本件心停止から約一時間後であって、これからすれば、原告太郎の無酸素脳症、ひいては、本件後遺障害は、心筋梗塞の既往歴があり、不安定狭心症により本件入院となり、本件事故発生時、本件ICG検査による本件薬剤の静注により本件APショックを発症し、これに起因して本件心停止に陥り、その後本件心筋梗塞が発症したものであるから、本件心筋梗塞が本件心停止の原因でもないし、本件後遺障害に寄与しているものと認めることはできない。したがって、本件心筋梗塞を損害に対する寄与として認めることはできない。また、原告太郎に存する胸部疾患の既往歴は、上記のとおり、逸失利益、将来の入院診療費・入院雑費・入院付添費の額を算定するについて考慮したから、改めて寄与度として考慮することはしない。

(5)  損害論の総括

以上の損害を総括すると、以下のとおりである。

ア 原告太郎の損害 七三一一万三三八八円

(ア) 逸失利益 一二〇九万二九〇七円

(イ) 入院診療費 七四九万七〇七〇円

(ウ) 入院雑費 二二二万一七〇〇円

(エ) 入院付添費 六八三万四〇〇〇円

(オ) 交通費 〇円

(カ) 診断書料 三万八八五〇円

(キ) 鍼灸費 〇円

(ク) 歯科治療費 〇円

(ケ) 将来の入院診療費 四七三万九五九八円

(コ) 将来の入院雑費 二三六万九七九九円

(サ) 将来の入院付添費 六三一万九四六四円

(シ) 慰謝料 二六〇〇万〇〇〇〇円

(ス) 精神鑑定費用 〇円

(セ) (ア)~(ス)合計 六八一一万三三八八円

(ソ) 弁護士費用 五〇〇万〇〇〇〇円

イ 原告花子 二〇〇万〇〇〇〇円

a 逸失利益 〇円

b 慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

ウ 原告一江 一〇〇万〇〇〇〇円

エ 原告二江 一〇〇万〇〇〇〇円

オ 総合計(ア~エ) 七七一一万三三八八円

五  結論

よって、原告らの各請求は、原告太郎において七三一一万三三八八円、原告花子において二〇〇万円並びに原告一江及び同二江において各一〇〇万円と、それぞれこれに対する平成一〇年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する(訴訟費用に対する仮執行宣言は相当でないのでこれを付さない。また、仮執行の免脱宣言も相当でないからこれを付さない。)。

(裁判長裁判官 櫻井登美雄 裁判官 前田英子 石山恵子)

<以下省略>

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