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横浜地方裁判所 平成11年(ワ)838号 判決 2004年10月15日

原告

破産者株式会社ココ山岡宝飾店破産管財人

長谷川正之訴訟承継人

破産者株式会社ココ山岡宝飾店破産管財人

牧浦義孝

上記常置代理人弁護士

山村清

内山修一

谷村朋子

懸俊介

三谷淳

被告

株式会社Y1

上記代表者代表取締役

Y2

被告

Y2

上記2名訴訟代理人弁護士

松本和英

河上元康

橋元四郎平

柳沼八郎

渡部保夫

松本和英訴訟復代理人弁護士

徳嶺和彦

被告

Y3

Y4

上記2名訴訟代理人弁護士

虎頭昭夫

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告らは,原告に対し,各自36億円及び内金31億円に対する平成11年3月25日から,内金5億円に対する同年12月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

第2  事案の概要

本件は,原告が,被告らにおいて共謀の上,破産者株式会社ココ山岡宝飾店(以下「ココ山岡」という。)から被告株式会社Y1(以下「被告Y1」という。)に,少なくとも117億9994万3004円の利益を不正に流出させたとして,被告Y1に対しては,主位的に不法行為(民法709条,719条,44条),予備的に不当利得返還請求権(民法703条)に基づき,被告Y2に対しては,不法行為(民法709条,719条)に基づき,被告Y3及び被告Y4に対しては,不法行為(民法709条,719条)又は取締役の会社に対する責任(商法266条1項5号)に基づき,損害金又は不当利得金117億9994万3004円のうち36億円及び内金31億円に対する平成11年3月25日から,内金5億円に対する同年12月4日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  基本的事実

以下の事実は,当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実である。

(1)  ココ山岡は,貴金属,宝石,真珠,その他の装身具等(以下「宝飾品」という。)の販売,修理及び加工並びにこれに関する物品の販売業などを目的とする株式会社である。

ココ山岡は,平成9年1月9日,横浜地方裁判所に対し,破産の申立てを行い,同月10日午前10時,同裁判所から破産宣告を受け,長谷川正之弁護士が破産管財人に選任された。その後,平成14年10月12日に同人が死亡したため,同裁判所は,原告をココ山岡の破産管財人に選任した。

被告Y3は,昭和27年ころ,当時,ココ山岡の創業者であるBが個人営業を行っていたココ山岡宝飾店に就職し,同店が有限会社に改組された昭和42年4月ころ,有限会社ココ山岡宝飾店の専務取締役に就任し,同社が更に株式会社に改組された後の平成元年1月から平成5年6月ころまでココ山岡の代表取締役社長を務め,その後,同社の破産宣告時まで同社の代表取締役副会長を務めていた者である。

被告Y4は,昭和54年3月ころ,ココ山岡に就職し,昭和57年3月ころに業務本部商品部次長に,昭和60年8月ころに業務本部総務部長に,平成元年1月ころに取締役総務部長に,平成5年1月ころに専務取締役総務部長に就いた後,同年6月ころ,被告Y3に替わって同社の代表取締役社長に就任し,平成8年11月ころに代表取締役社長及び取締役を辞任した後,同社の破産宣告時まで同社の相談役を務めていた者である。

被告Y1は,平成2年9月28日,株式会社Zとして設立された後,同年10月4日,その商号を「株式会社Y1」と変更したものであり,宝飾品の加工などを目的とする株式会社である(甲3の1)。

被告Y2は,被告Y1設立当初からの代表取締役である。

(2)  ココ山岡は,昭和56年1月ころ,商品の購入から5年を経過した後は,ココ山岡が購入者からの当該商品の買取請求に応じる旨の特約を付して,消費者に対して商品を販売し始めた(以下,この特約を付して行う販売方法を「5年後買取制度」という。)。

ココ山岡は,5年後買取制度を開始した当初は,その対象商品をダイヤモンド1個付きの指輪で,購入価格が30万円以上の商品とし,購入から5年を経過した後の買取請求に対しては,購入価格と同額で,購入から10年を経過した後の買取請求に対しては,購入価格の5割増しの額で応じるものとしていた。その後,ココ山岡は,同制度の変更を重ね,平成元年4月ころ以降は,その対象商品をダイヤモンド1個付きの商品とし,購入から5年後の買取請求に対して,購入価格が90万円以上の商品については購入価格と同額で,購入価格が30万円以上90万円未満の商品については購入価格の7割の額で応じるものとしていた。

(3)  被告Y2は,昭和58年2月8日,株式会社Y1(同社は,被告Y1とは異なる法人であり,後に被告Y1に吸収合併される株式会社である。以下,昭和58年2月8日に設立された株式会社Y1を「旧Y1」という。)を設立し,同社の代表取締役社長に就任した(甲4の1)。

(4)  昭和58年3月14日以降のココ山岡,株式会社山岡宝飾(以下「山岡宝飾」という。)及び旧Y1の各種帳簿には,ココ山岡が旧Y1との間で,概要,以下の内容の取引を行ったとの記載がある(以下,この取引を「本件取引」という。なお,本件取引が偽装されたものか否かについては,後記のとおり争いがある。)。

ア ココ山岡は,その有する宝飾品である商品(以下「本件取引対象商品」という。)を,旧Y1に対して売却する(以下「本件廉価売却」という。)。その売却価格(以下「本件廉価売却価格」という。)は,およそ,本件取引対象商品の仕入価格の10分の1とする。

イ ココ山岡本社商品部は,本件取引対象商品が陳列又は保管されているココ山岡各店舗から,本件取引対象商品を,その仕入伝票と共に,いったん引き上げる。

ウ 旧Y1は,ココ山岡に対し,本件取引対象商品のすべてについて販売を委託する。

ココ山岡本社商品部は,本件取引対象商品のタグを,「J」マークの付いたものに付け替えた上,元のココ山岡各店舗に戻し,ココ山岡各店舗は,「J」マークの付いたタグに付け替えられた本件取引対象商品(以下「本件販売委託商品」という。)を店頭に陳列する。

エ そして,ココ山岡各店舗において本件販売委託商品が消費者に販売されたときは,山岡宝飾は,旧Y1から,消費者に販売された当該商品を本件廉価売却価格のおよそ10倍の価格で仕入れ(以下,この山岡宝飾が旧Y1から仕入れることを「本件仕入」といい,その価格を「本件仕入価格」という。),ココ山岡は,山岡宝飾から,当該商品を本件仕入価格に一律5%を上乗せした価格で仕入れる。

(5)  平成2年9月28日,株式会社Zが設立され,被告Y2が同社の代表取締役となった。そして,同年10月4日,株式会社Zは,「株式会社Y1」と商号変更し,被告Y1となった。旧Y1は,同日,「株式会社Z」と商号が変更された後,平成3年7月1日,被告Y1に吸収合併された。

(6)  昭和58年3月14日から平成2年10月3日までの間のココ山岡,山岡宝飾及び旧Y1の各種帳簿には,ココ山岡が,本件取引により,8万6145個の宝飾品を旧Y1に売却し,そのうち4万4434個の宝飾品を消費者に販売したので,山岡宝飾を通じて,旧Y1から4万4434個の宝飾品を仕入れたとの記載がある。

旧Y1は,平成2年10月3日,当時はまだ株式会社Zの商号であった被告Y1に対し,本件取引を含めて営業譲渡を行った。ココ山岡,山岡宝飾及び被告Y1の各種帳簿には,この営業譲渡により,当時旧Y1が在庫として保有していた4万1711個の本件取引対象商品が被告Y1に引き継がれ,ココ山岡と被告Y1との間で,引き続き本件取引が行われていたとの記載がある。

(7)  平成5年3月22日以降のココ山岡と被告Y1の各種帳簿には,これまで記載のあったココ山岡と被告Y1との間の本件廉価売却についての記載がなくなった。

(8)  被告Y1と山岡宝飾は,同年6月15日,本件取引内容のうち本件仕入価格を,本件廉価売却価格の10倍から5倍へと変更した。これにより,同日以降のココ山岡と山岡宝飾の各種帳簿には,ココ山岡が山岡宝飾から本件販売委託商品を本件廉価売却価格の5倍に一律5%を上乗せした価格で仕入れたとの記載がある。

(9)  平成9年1月9日までのココ山岡,山岡宝飾及び被告Y1の各種帳簿には,ココ山岡が自己破産の申立てをした平成9年1月9日まで,ココ山岡と被告Y1が本件仕入を行ったとの記載がある。

これによれば,ココ山岡は,平成2年10月4日から平成5年3月22日までの間,ココ山岡及び被告Y1の各種帳簿には,ココ山岡が,本件取引により,被告Y1に対し,4万8392個の宝飾品を売却した。

また,ココ山岡は,平成2年10月3日から平成9年1月9日までの間に,本件取引により,旧Y1から被告Y1に引き継がれた宝飾品のうち2万2249個及びココ山岡が被告Y1に売却した宝飾品のうち3万6177個を消費者に販売したので,山岡宝飾を通じて,被告Y1から,合計5万8426個の宝飾品を仕入れた。

被告Y1は,平成9年1月10日当時,旧Y1から営業譲渡によって引き継いだ宝飾品のうち1万9462個及びココ山岡が被告Y1に本件廉価売却した宝飾品のうち1万2215個の合計3万1677個の在庫を保有していた。

2  争点

(1)  本件取引の成否

(原告の主張)

ア 本件取引に関する事情

(ア) 本件取引は,高額・大規模な取引であるにもかかわらず,ココ山岡と旧Y1及び被告Y1(以下,旧Y1及び被告Y1を共に指す場合には,「被告Y1ら」という。)との間で,契約書が交わされていない。のみならず,ココ山岡から被告Y1らに一度も本件取引対象商品が現実に引き渡されることなく,ただココ山岡商品部でJマークのタグに取り替えられるだけであって,被告Y1らが本件取引対象商品を検品することもなかった。

(イ) 本件取引の内容は,ココ山岡に一方的に損害を与え,被告Y1らに一方的に利益が流出する仕組みになっている。

(ウ) 本件取引においては,被告Y1らは本件廉価売却時にその代金を支払うことなく,本件仕入が行われた時点で,本件廉価売却代金と本件仕入代金とを精算するという方法が採られていた。

(エ) 本件取引は,ココ山岡では,被告Y3,被告Y4ら一部の者が知っているだけで,ココ山岡各店舗の従業員にはもちろん,ココ山岡の創業者であり,オーナーであるBにも知らされることはなかった。

(オ) 被告Y3の指示により,ココ山岡取締役会が本件取引を承認したとする取締役会議事録が偽造された。

(カ) 被告Y3は,被告Y1らに,被告Y3の知人などに対して給与等の名目で多額の金銭を交付させ,また,被告Y4ら被告Y1らの役員となったココ山岡の幹部は,被告Y1らから役員報酬等の名目で多額の金銭の交付を受け,他方,被告Y1の代表者である被告Y2も,その親族等に対して給与等の名目で多額の金銭を交付するなどしており,本件取引は,ココ山岡の財産を私的に流用することにその目的があった。

イ 本件取引の不成立,不存在

上記アの事情からすれば,本件取引は,正常な商行為とはいえず,単に被告Y3及び被告Y4らココ山岡の幹部が私的蓄財を図るために,ココ山岡から被告Y1らに利益を移転させるだけの取引であり,本件廉価売却及び本件仕入が売買の形式でされるといっても,帳簿上の操作が行われるだけで,本件取引が成立しているとは到底いえない。

(被告らの主張)

本件取引においては,確かに,ココ山岡と被告Y1らとの間で契約書は交わされず,また,ココ山岡から被告Y1らに対して本件取引対象商品の現実の引渡しがされてはいない。しかし,宝飾品業界における取引は,契約書を作成することなく伝票の交付によって行うのが通例であるところ,本件取引は,その都度,伝票によってされ,本件取引対象商品の引渡しは,占有改定によって行われている。また,代金決済をいつ行うかは取引当事者の私的自治にゆだねられる事項であるところ,ココ山岡と被告Y1らは,本件取引の都度,被告Y1振出しの先日付小切手で代金決済を行っていたものであって,代金決済についても何ら問題はない。

(2)  本件取引に経済的合理性があるか

(原告の主張)

ア 本件取引には経済的合理性がない

本件取引は,要するに,10で仕入れたものを1で売って,再び10又は5で買い戻すものであるから,ココ山岡に9又は4の損失が生じるのは自明であり,以下のとおり,経済的合理性に欠ける取引であることは明らかである。

(ア) 本件取引において,ココ山岡は,本件廉価売却を行うことにより多額の売却損が発生するため,この売却損に対応する納税額の減少が売却損の一部を穴埋めすることがあるとしても,売却損すべてを穴埋めすることは不可能である。売却損を回避するためには,ココ山岡が本件廉価売却価格と同額で再度仕入れるしかない。しかるに,ココ山岡は,本件廉価売却価格ではなく,そのおよそ10倍又は5倍の価格で買戻しを行っていた。このように,本件取引は,被告Y1らへの利益の移転を固定化させるものであって,ココ山岡に利益をもたらすどころか多大な損害を与える取引にほかならない。

(イ) 長期在庫品の管理,すなわち,長期在庫品を資金化し,この資金をココ山岡の多店舗展開の原資とするためであれば,当初の仕入額で売却すればよいのであって,本件廉価売却価格で売却する必要はない。

(ウ) 本件取引により,確かに,本件はココ山岡が負担すべき長期在庫品や5年後買取制度によって買い取られた商品(以下「買取商品」という。)のリサイクル費用を,被告Y1らの負担に替えることができるという利点があるものの,本件取引対象商品は,長期在庫品や買取商品に限られないので,かかる利点は,長期在庫品及び買取商品ではない本件取引対象商品には該当しない。また,そもそも,このような利点があったところで,僅少なリサイクル費用を免れるために本件廉価売却を行って莫大な売却損を被るというのは,通常の経済観念からは到底理解し難い。

さらに,本件取引対象商品は,長期在庫品ではないし,仮に長期在庫品であったとしても,陳腐化することのない宝石そのものの価値が,リング等を含めた宝飾品の価値の大部分を占めており,長期在庫品であるからといって商品価値が乏しくなるものではない。

(エ) 上記(ア)のように,在庫品を減らすことによる納税額の減少は,本件廉価売却による売却損による多大な損失がある以上は無意味であるし,上記(ウ)のように,本件取引対象商品である宝飾品は,陳腐化しない宝石そのものの価値が商品価値であるから,商品価値が下がることはなく,ココ山岡が在庫を保有するリスクはなかった。

イ 法律的主張

(ア) 不法行為,取締役の会社に対する損害賠償責任

被告Y3及び被告Y4は,ココ山岡の代表取締役として職務を行うに当たり,ココ山岡に損害を与えないよう注意すべき善管注意義務ないし忠実義務を負っているところ,上記のように,経済的合理性を欠く本件取引を行ってココ山岡から被告Y1らに利益を移転させるなど,善管注意義務ないし忠実義務に違反する行為により,ココ山岡に損害を与えた。

(イ) 不当利得返還請求

a 通謀虚偽表示

仮に,法律上,本件取引が成立し存在しているとしても,上記アの事情からすれば,ココ山岡と被告Y1らは,いずれも,真実,本件取引対象商品の所有権をココ山岡から被告Y1らに移転させる意思がないのに,その意思があるかのように帳簿上の処理を仮装したものであって,本件取引は無効である。

b 公序良俗違反

本件取引は,経済的合理性を欠き,また,ココ山岡の損害の下に被告Y2や被告Y3,被告Y4を含むココ山岡の幹部の私的蓄財を図る不正な目的で行われたものであるから,公序良俗に反し,無効である。

(被告らの主張)

本件取引は,結果的には,被告Y1らにも多くの利益をもたらすものであったが,それと同時に,ココ山岡にも多くの利益をもたらしており,以下のとおり,経済的合理性を有するものである。

ア 多額の納税額の圧縮

本件取引は,ココ山岡の在庫品を合法的に減少させるとともに,ココ山岡に多大な納税額の圧縮効果をもたらすものであった。すなわち,現在の会計原則においては,在庫品であっても仕入額で資産として計上される結果,貸借対照表上では利益がふくらむため,納税額も多額になるが,本件取引のように,長期在庫品を仕入額よりも廉価で売却すれば,売却損が発生し,その分,損益計算上の利益が減少し,納税額も圧縮される。

イ 豊富な資金の取得と多店舗展開

在庫品は,会計原則では資産であるが,その実体は,流動性がない遊休資産,いわば眠った資産にすぎない。ココ山岡は,本件取引により,在庫品を処分できるとともに,現金を取得することができ,加えて,上記アのように,納税額の圧縮効果によって,更に豊富な資金を得ることができた。ココ山岡は,これらの資金を原資とすることによって,多店舗展開等の事業の拡大をすることができた。

ウ 長期在庫品のリサイクル機能

ココ山岡には,卸業者から仕入れた商品以外に,買取商品や消費者から返品を受けた商品(以下「返品商品」という。)があったが,買取商品や返品商品は,そのままでは店頭に並べることはできない。また,卸売業者から仕入れた商品でも,長期間にわたって販売できなかったものは,その商品価値が乏しくなる。そこで,ココ山岡は,これら買取商品,返品商品及び商品価値の乏しい商品を本件取引対象商品として被告Y1らに売却し,その負担で,宝石の枠を替えるなどのデザインの変更や宝石の再研磨,再鑑定を行わせることができ,自らは何らの負担もなく新たな商品として店頭に並べることが可能になった。

エ リスクなしの商品の確実な確保

ココ山岡は,本件取引によって,在庫品を抱えるというリスクを負担することなく,従来どおり店頭商品を確実に確保することができた。すなわち,被告Y1らは,ココ山岡に販売委託した本件取引対象商品が売れれば,仕入値の9割ないし4割の利益が得られるものの,逆に,売れなければ,本件廉価売却代金は持ち出しとなるばかりか,本件取引対象商品は被告Y1らの在庫品となり,在庫品を抱えるというリスクは,ココ山岡に代わって被告Y1らが負担することになっていたのである。

オ シミュレーション

本件廉価売却によりココ山岡が取得ないし社内留保した資金を再投資したことによる利益についてシミュレートすると,次のようになる。

(ア) シミュレーションの前提

a 回転率は,年1回とする。

b 消費者への販売価格は,仕入値の2.5倍とする。

c 本件取引対象商品は,一律,3年後に消費者へ売却されるものとする。

d 実効税率は,60%とする。

(イ) 本件取引を行わない場合

a 商品を100仕入れ,そのうち90を2.5倍で消費者に売却すると,売上225(90×2.5),利益135(225−90),税金81(135×60%)となり,残り資金は,144(225−81)となる。

b 3年後,在庫品である残りの10を2.5倍で消費者に売却すると,売上25(10×2.5),利益15(25−10),税金9(15×60%)となり,追加される資金は,16(25−9)となる。

c 3年後の資金は,160(144+16)となる。

(ウ) 本件取引を行った場合

a 商品を100仕入れ,そのうち90を2.5倍で消費者に売却し,残りの10を10%で廉価売却すると,売上226(90×2.5+10×10%),利益126(226−100),税金75.6(126×60%)となり,残り資金は,150.4(226−75.6)となる。

b 残り資金150.4から,上記(イ)aの残り資金144を控除した6.4が,次年度への再投資額となる。

c 第1年度においては,再投資額6.4で,商品を6.4仕入れ,それを2.5倍で消費者に売却すると,売上16(6.4×2.5),利益9.6(16−6.4),税金5.76(9.6×60%)となり,残り資金は,10.24(16−5.76)となる。

d 第2年度においては,第1年度の残り資金10.24で,商品を10.24仕入れ,それを2.5倍で消費者に売却すると,売上25.6(10.24×2.5),利益15.36(25.6−10.24),税金9.22(15.36×60%)となり,残り資金は,16.38(25.6−9.22)となる。

e 第3年度においては,第2年度の残り資金16.38で,商品を16.38仕入れ,それを2.5倍で消費者に売却すると,売上40.96(16.38×2.5),利益24.58(40.96−16.38),税金14.75(24.58×60%)となり,残り資金は,26.21(40.96−14.75)となる。

f 3年後の資金は,170.21となる。

(エ) 上記(イ)及び(ウ)からすると,本件取引を行わない場合より本件取引を行った場合の方が,3年後に取得する資金が多額であるばかりか,本件取引を行った場合に取得できる資金は,第2年度において,既に,本件取引を行わない場合に取得できる資金を上回っている。このシミュレーションの結果からしても,本件取引に経済的合理性があることは明らかである。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)について(本件取引の成否)

(1)  証拠(甲21,26,38,41,47,48,49,80,乙4,24,)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

被告Y2は,営業のためココ山岡各店舗を回っている際,ココ山岡各店舗には,ケースに並べられている商品以外にも,地金が変色したり,デザインが相当古くなっている多数の在庫品が存在し,ココ山岡各店舗がその処分に困っていることに気が付いた。そこで,被告Y2は,ココ山岡各店舗が処分に困っている在庫品をココ山岡から廉価で仕入れた上,宝飾品の卸売業者仲間に売りさばけば,利益を上げることができるのではないかと考え,被告Y3に話を持ちかけてみることにした。

被告Y2は,昭和57年夏ころ,被告Y3に,ココ山岡各店舗にある在庫品を安く売ってくれるよう依頼した。被告Y3は,被告Y2の依頼を契機として,ココ山岡各店舗の在庫品を被告Y2に売り,それを再び委託商品としてココ山岡各店舗に戻して,ココ山岡各店舗がその委託商品を消費者に販売した段階で精算するという,本件取引の原案を思い付いた。被告Y3は,この原案を実行に移すためには,ココ山岡の商品を管理しているココ山岡本社商品部の当時の部長であったCの協力が必要不可欠であると考え,Cに対し,被告Y2からココ山岡の在庫品を廉価で仕入れたい旨の依頼が来ていること及び被告Y3が考えた原案を話して協力を要請するとともに,被告Y2との間で取引条件等を詰めるように指示した。

被告Y2は,被告Y3にココ山岡の在庫品の廉価売却を依頼してから数か月経っても何らの返事も得られなかったので,再度,被告Y3に対して,ココ山岡の在庫品を廉価売却してくれるよう依頼をしたところ,被告Y3から,Cと相談しろとの回答を得た。そこで,被告Y2は,Cの所に出向いたところ,Cから廉価売却を受けた在庫品の処分方法を尋ねられたので,地方に持っていって売却するつもりである旨答えた。これに対して,Cは,それでは困ると告げた上,仕入値より低廉な額で廉価売却を行うこと,1回的な取引ではなく継続的な取引とすること,ココ山岡が廉価売却した商品すべてをココ山岡に販売委託すること,ココ山岡が提示する商品はすべて引き取ること及び新たな会社を設立して当該取引を行うことなどを取引の条件とすることを告げた。被告Y2は,Cが提示した条件では,ココ山岡から廉価売却を受ける商品が売れる物であれば非常に魅力的な取引であると考えたが,他方で,廉価売却を受ける商品を自由に選ぶことができず,また,売却を受けてもすべて委託商品となるため売れるか売れないかはココ山岡次第ということになる危険もあったことから,しばらく検討したい旨答えた。

その後,被告Y2は,知り合いで公認会計士のDに,Cから提示された条件などについて相談したところ,多店舗展開を行っているココ山岡であれば商品も売れるのではないかとの見通しをDが述べたので,被告Y3に対し,Cから提示された条件でココ山岡と取引を行いたい旨の返事をした。その後,Cが被告Y2にサンプルとして在庫品を示したり,取引の概要についてメモを書いたりするなど,Cと被告Y2は,具体的な事項について詰めの作業を行い,昭和58年初めころ,被告Y2が新たに会社を設立することも含めて,上記基本的事実(4)記載の本件取引の内容を確定させた。

(2)  上記認定のとおり,昭和58年初めころまでに,ココ山岡の代表者であった被告Y3と旧Y1の代表者であった被告Y2との間で,本件取引を行うことについて合意がされ,その後,この合意に基づいて後記認定のとおり実際に本件取引が行われ,さらに,上記基本的事実(6)のように,旧Y1から被告Y1に本件取引を含めて営業譲渡がされているのであって,これらの事実からすると,本件取引は,被告Y3と被告Y2との間における上記合意に基づき実体として存在しており,旧Y1から被告Y1への営業譲渡により,これが旧Y1から被告Y1に引き継がれたものというべきである。

この点に関し,原告は,契約書が作成されなかったこと,本件取引が一方的に被告Y1らに利益が流出する仕組みになっていることなどを根拠に,本件取引が存在しなかったと主張するが,上記認定のように本件取引に関わる双方当事者の間で合意がされている以上,本件取引の有効性を争うのはともかく,原告の指摘するような事情をもって,本件取引の成否を論じることはできないというべきであり,かかる原告の主張は採用できない。

2  争点(2)について(本件取引に経済的合理性があるか)

(1)  証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。<省略>

(2)  本件取引の経済的合理性

ア 本件廉価売却価格が仕入額のおおよそ10分の1の価格であり,本件仕入価格が仕入額かその2分の1の価格であることからすると,ココ山岡が本件取引を行えば,ココ山岡に損失が生じることは明らかである。すなわち,例えば,本件取引対象商品の仕入額を100,消費者への販売価格を100+xとした場合,ココ山岡は,本件取引を行わなければ,100で仕入れた物を100+xで消費者に売るのであるからxの利益を得ることになるのに対し,本件取引を行えば,本件廉価売却により10の現金を得るものの,その後,委託に基づき消費者へ100+xの価格で販売すると,本件仕入により,本件仕入価格の100又は50を被告Y1らに支払うことになるから,結局,x−90又はx−40の利益を得ることしかできない。そして,この利益に対しては課税されるものの,課税額は,生じた利益に対して一定の税率を乗じて課されるものである以上,この得た利益を超えるものではない。

したがって,原告として,本件取引によって生じた損失は,直ちにココ山岡の損害ということができる。

イ(ア)  しかし,本件取引対象商品が消費者に販売できない商品であれば,本件廉価売却によって生じた損失をもって,直ちにココ山岡の損害であるということはできない。すなわち,本件取引を行った結果,ココ山岡に少なくとも次のメリットが生じる。まず,①本件廉価売却により,ココ山岡は,仕入額の1割の現金を手に入れることができ,次に,②ココ山岡は,本件廉価売却によって生じた損失により,ココ山岡が他の取引によって生じた利益を圧縮することができ,本件取引を行っていなければ納税していたはずの,当該損失額に実効税率を乗じた額を納税しないで済むことになって,その額の現金が手元に残り,③さらに,本件取引においては,本件取引対象商品のすべてを本件販売委託商品として店頭に並べることができるから,消費者への販売の機会を逸することもないし,④その上,ココ山岡は,消費者に本件販売委託商品が売れた段階で,本件仕入価格を支払えばよいことから,資金繰りに窮することもない。さらに,本件取引対象商品を本件廉価売却したことによって手元に残る現金で新たに業者から宝飾品を仕入れることができ,本件取引対象商品も全品がココ山岡に販売委託されるので,本件廉価売却を行う以前の状態と比べるとココ山岡各店舗の店頭に陳列することができる商品が豊富になるということもできる。

(イ) この点,被告らは,以上のメリットを可視的に数値で表そうと,上記のとおりシミュレーションを行うが,その前提条件によっては結果が大きく異なるし,また,その前提条件が実態と符合するのか否かを検証することも不可能であるから,被告らの上記シミュレーションに関する主張を採用することはできない。

もっとも,上記シミュレーションは採用し得ないとしても,本件取引対象商品が消費者に販売できないものであると仮定した場合には,上記(ア)のとおり,本件取引を行う場合の方が本件取引を行わない場合に比べてココ山岡に利益をもたらすことは,次の試算結果からも明らかである。すなわち,例えば,仕入額を100とすると,本件取引を行わない場合には,ココ山岡は,仕入時に業者等へ100を支払うのであるから,当該宝飾品が消費者に販売できない以上,仕入額である100につき損害を被ったままとなるが,これに対して,本件廉価売却を行う場合には,ココ山岡は,本件取引対象商品を10で被告Y1らに販売することから,仕入額から10を引いた90の損失で済ますことができ,また,その生じた損失により他の取引によって生じたココ山岡の利益が圧縮されることによって,損失である90に実効税率を乗じた額の現金を納税しないで済み,同額がココ山岡に還元されることになる。したがって,本件取引対象商品が消費者に販売できないものであると仮定した場合には,ココ山岡が本件取引を行わなければ,ココ山岡は100の損害を被ることになるのに対して,ココ山岡が本件取引を行えば,損失である90からこれに実効税率を乗じた額を差し引いた額に損害をとどめることができる。

この点に関し,原告は,宝飾品は食料品などとは異なり腐敗するなどして価値が減少することはないから,仮に宝飾品が消費者に販売できないものであったとしても当該宝飾品を在庫として保有していれば,ココ山岡には仕入額相当の資産が残る旨の主張をする。しかしながら,宝飾品の価値は,客観的・普遍的なものではなく,流行(消費者の需要)やデザインの優劣などに左右されるものであることに加え,宝飾品には通貨のような通用性はないのであるから,消費者に販売できなければ,潜在する価値を現実化することもできない。したがって,そのような宝飾品を在庫として保有している場合には,会社の計算上資産に計上されようとも,実質的にはココ山岡に資産が残っているものと評価することはできないのであって,上記原告の主張は採用できない。

ウ  以上からすれば,本件取引は,本件取引対象商品が販売できない商品である場合であって,かつ,本件廉価売却を行わなければ納税していたはずの現金が手元に残る場合,すなわち,他の売れ筋の商品の販売において利益が出ている場合には,経済的合理性を認めることができないではない。

エ ところで,一般に,本件取引のような消費者に販売できない商品の処分方法には,仕入業者への返品,消費者への廉価売却その他種々の方法があるところ,仕入業者との今後の取引関係の悪化,廉価売却を行うことによるブランドイメージの低下など,これらの方法には一長一短があるから,経済的合理性を有する処分方法のうちいずれの方法を最適と考え,採用するかについては,経営者の裁量にゆだねられているものと考えられる。そして,事後的・客観的に他の方法がより良い処分方法であったといえるとしても,当該処分方法に経済的合理性が認め得る以上,当該処分方法を選択したことについては,上記経営者の裁量の範囲内であって,経営者の法的責任を追及することはできないものというべきである。

オ  そして,宝飾品が消費者に販売できる商品であるか否かは,実際に当該商品が消費者に販売されるまでは知ることができないが,本件取引を採用する場合,経営者は,ある時点において,ある商品を本件取引対象商品とするか否かを判断する必要があり,ある商品が消費者に販売されるまで待っていたのでは,本件取引を行う機会を逸してしまうことになる。そこで,事後的・客観的に上記ウに当たる場合のみならず,経営者が上記ウに当たるものと判断してもやむを得ないといえる場合にも,本件取引を行うことに経済的合理性があるものとするのが相当である。

(3)  本件取引対象商品の特性

そこで,本件取引を行うことによってココ山岡に損害が生じたのかを判断するためには,まず,本件取引対象商品の特性を検討する必要がある。

ア 旧Y1との間の本件取引対象商品

上記基本的事実及び上記認定事実によれば,ココ山岡が旧Y1に対し本件廉価売却した合計8万6145個の宝飾品は,旧Y1が被告Y1に本件取引を含む営業を譲渡した当時までに,その51.6%に当たる4万4434個がココ山岡各店舗において消費者に販売され,その後,被告Y1に本件取引が承継されてからココ山岡に対する破産宣告がされるまでの間に,残り4万1711個の宝飾品のうち2万2249個がココ山岡各店舗で消費者に販売され,結局,最終的に,本件取引対象商品合計8万6145個の77.4%に当たる6万6683個が消費者に販売された。また,22.5%に当たる1万9462個の宝飾品は,少なくとも営業譲渡時からココ山岡に対する破産宣告までの約6年2か月の間,ココ山岡各店舗の店頭に並べるも消費者に販売されることはなかった。

なお,これ以上の詳細は,証拠上,不明である。

イ 被告Y1との間の本件取引対象商品

(ア) 上記基本的事実及び上記認定事実によれば,ココ山岡が被告Y1に対し本件廉価売却した合計4万8392個の宝飾品のうち,その74.8%に当たる3万6177個が,被告Y1に本件取引を含む営業が譲渡されてからココ山岡に対する破産宣告までの間に,ココ山岡各店舗において消費者に販売された。

他方,25.2%に当たる1万2215個の宝飾品は,少なくとも被告Y1に対する本件廉価売却が打ち切られてからココ山岡に対する破産宣告までの約3年10か月の間,ココ山岡各店舗の店頭に並べるも消費者に販売されることはなかった。

(イ) 証拠(甲87)によれば,上記3万6177個の宝飾品が本件廉価売却時からココ山岡各店舗で消費者に販売されるまでの期間は,次のとおりであると認められる。なお,記載のパーセンテージは,上記3万6177個を母数とするものである。

a 本件廉価売却時から1年以内

1万8210個(50.3%)

・ 30日以内 462個(1.3%)

・ 31日〜60日以内 2398個(6.6%)

・ 61日〜90日以内 2841個(7.9%)

・ 91日〜120日以内 2569個(7.1%)

・ 121日〜150日以内 2075個(5.7%)

・ 151日〜183日以内 1740個(4.8%)

・ 184日〜213日以内 1229個(3.4%)

・ 214日〜243日以内 1155個(3.2%)

・ 244日〜273日以内 1019個(2.8%)

・ 274日〜303日以内 960個(2.7%)

・ 304日〜333日以内 836個(2.3%)

・ 334日〜365日以内 926個(2.6%)

b 本件廉価売却時から1年〜2年以内

1万0731個(29.7%)

c    〃     2年〜3年以内

4158個(11.5%)

d    〃     3年〜4年以内

1866個(5.2%)

e    〃     4年〜5年以内

942個(2.6%)

f    〃     5年〜6年以内

252個(0.7%)

g    〃     6年超

18個(0.04%)

そして,証拠(甲87)によれば,本件廉価売却時から上記3万6177個の宝飾品が消費者に販売されるまでの平均日数は,460日であると認められる。

(ウ) 証拠(甲87)によれば,上記3万6177個の宝飾品のうち,2万6948個(77.5%)に鑑定番号が付され,6034個(16.7%)に鑑別番号が付されていた。

(エ) 証拠(乙6)によれば,次の事実が認められる。

a 捜査機関は,ココ山岡が被告Y1に対し本件廉価売却した上記4万8392個の宝飾品のうち,押収や任意提出を受けることができたココ山岡,被告Y1及びUの各種帳簿等から,その54.8%に当たる2万6518個について仕入実態を把握することができた。ココ山岡各店舗が消費者から5年後買取制度による買取りや返品を受けたときに記帳する古物台帳については,捜査機関は,ココ山岡各店舗から約31%の古物台帳しか入手できなかった。

b ココ山岡において上記2万6518個の宝飾品を業者から仕入れ又は消費者から5年後買取制度による買取り等を受けてから,本件廉価売却するまでの平均日数は,223日である。

c 上記2万6518個の宝飾品の仕入先等の取得先は,次のとおりである。なお,記載のパーセンテージは,上記2万6518個を母数とするものである。

(a) 業者から仕入れた商品

1万7035個(64.2%)

・ ココ山岡本社商品部による仕入

3345個

・ ココ山岡各店舗による仕入

1万3690個

(b) 消費者からの買取商品又は返品

8754個(33.0%)

(c) ココ山岡各店舗移動商品

729個(7.5%)

なお,上記(c)の商品は,ココ山岡各店舗の間で移動されていた商品であり,もともとがココ山岡が業者から仕入れた物か消費者からの買取商品又は返品であるのかは,不明である。

d 上記ココ山岡本社商品部が業者から仕入れた3345個の宝飾品が業者から仕入れられてから本件廉価売却されるまでの期間は,次のとおりである。なお,記載のパーセンテージは,上記3345個を母数とするものである。

(a) 仕入から1年以内 2730個(81.6%)

・ 30日以内 1個(0.03個)

・ 31日〜60日以内 0個(0%)

・ 61日〜90日以内 12個(0.4%)

・ 91日〜120日以内 15個(0.5%)

・ 121日〜150日以内 52個(1.6%)

・ 151日〜183日以内 57個(1.7%)

・ 184日〜213日以内 687個(20.5%)

・ 214日〜243日以内 444個(13.2%)

・ 244日〜273日以内 696個(20.8%)

・ 274日〜303日以内 115個(3.4%)

・ 304日〜333日以内 214個(6.4%)

・ 334日〜365日以内 437個(13.0%)

(b) 仕入から1年〜2年以内 613個(18.3%)

(c)  〃  2年〜3年半未満 2個(0.06%)

e 上記ココ山岡各店舗が業者から仕入れた1万3690個の宝飾品が業者から仕入れられてから本件廉価売却されるまでの期間は,次のとおりである。なお,記載のパーセンテージは,上記1万3690個を母数とするものである。

(a) 仕入から1年以内 7376個(53.9%)

・ 30日以内 124個(0.9%)

・ 31日〜60日以内 137個(1.0%)

・ 61日〜90日以内 181個(1.3%)

・ 91日〜120日以内 141個(1.0%)

・ 121日〜150日以内 178個(1.3%)

・ 151日〜183日以内 219個(1.6%)

・ 184日〜213日以内 1261個(9.2%)

・ 214日〜243日以内 520個(3.8%)

・ 244日〜273日以内 402個(2.9%)

・ 274日〜303日以内 640個(4.7%)

・ 304日〜333日以内 996個(7.3%)

・ 334日〜365日以内 2577個(18.8%)

(b) 仕入から1年〜2年以内 6260個(45.7%)

(c)  〃  2年〜3年以内 0個(0%)

(d)  〃  3年以上 53個(0.4%)

f 上記ココ山岡各店舗が消費者から5年後買取制度により買い取ったり返品を受けた8754個の宝飾品が消費者から取得してから本件廉価売却されるまでの期間は,次のとおりである。なお,記載のパーセンテージは,上記8754個を母数とするものである。

(a) 取得してから30日以内 8331個(95.1%)

・ 取得日当日 5761個(65.8%)

・ 1日〜5日以内 1701個(19.4%)

・ 6日〜10日以内 464個(5.3%)

・ 11日〜15日以内 194個(2.2%)

・ 16日〜20日以内 102個(1.2%)

・ 21日〜25日以内 59個(0.7%)

・ 26日〜30日以内 50個(0.6%)

(b) 取得してから30日〜1年以内303個(3.4%)

(c)  〃    1年〜2年以内108個(0.1%)

(d)  〃    2年以上 12個(0.1%)

g 上記(エ)aのとおり,2万1874個の宝飾品については仕入実態を把握することはできなかったが,ココ山岡が被告Y1に交付した納品書控から,上記2万1874個を含め,ココ山岡が被告Y1に本件廉価売却した全4万8392個の宝飾品の仕入先等の取得先が次のとおり判明した。なお,記載のパーセンテージは,上記4万8392個を母数とするものである。

(a) 業者から仕入れた商品

1万7726個(36.6%)

・ ココ山岡本社商品部による仕入

3371個

・ ココ山岡各店舗による仕入

1万4355個

(b) 消費者からの買取商品又は返品

2万9937個(61.9%)

(c) ココ山岡各店舗移動商品

729個(1.5%)

(オ) 弁論の全趣旨によれば,ココ山岡と被告Y1との間の本件取引のうち5286個の宝飾品に関する取引につき,被告Y3,被告Y4及び被告Y2が起訴されたことが認められる。そして,証拠(乙39)によれば,この5286個の宝飾品については,次の事実が認められる。

a 上記5286個のうち,2317個がココ山岡が業者から仕入れた宝飾品,1869個がココ山岡が消費者から返品を受けた宝飾品,1099個がココ山岡が5年後買取制度により買い取った宝飾品である。残りの1個については,乙39には「加工」と記載されているが,その詳細は不明である。

b 上記ココ山岡が業者から仕入れた2317個が本件廉価売却された後にココ山岡各店舗で消費者に販売されるまでの期間は,次のとおりである(ただし,1年を365日,半年を186日とする。)。

(a) 1年未満 0個(0%)

(b) 1年から1年半未満 5個(0.2%)

(c) 1年半から2年未満 10個(0.4%)

(d) 2年から2年半未満 103個(4.5%)

(e) 2年半から3年未満 225個(9.7%)

(f) 3年から3年半未満 387個(16.7%)

(g) 3年半から4年未満 441個(19.0%)

(h) 4年から4年半未満 379個(16.4%)

(i) 4年半から5年未満 313個(13.5%)

(j) 5年から5年半未満 400個(17.2%)

(k) 5年半から6年未満 50個(2.1%)

(l) 6年から6年半未満 2個(0.1%)

(m) 6年半から7年未満 0個(0%)

(n) 7年から7年半未満 1個(0.04%)

(o) 7年半から8年未満 1個(0.04%)

ウ 検討

(ア) 買取商品及び返品商品

上記(3)イ(ウ)gによれば,ココ山岡が被告Y1に本件廉価売却した宝飾品4万8392個のうち約61.9%に当たる2万9937個が買取商品や返品商品など消費者から取得した宝飾品である。これら消費者から取得した宝飾品は,買取商品については,少なくとも消費者の下で5年もの期間使用されていた中古品であり,また,返品商品についても,買取商品のように使用されていた期間を特定することはできないものの,消費者の下で使用された中古品であるといえる。

そして,これら中古品については,ココ山岡にあっては,消費者に販売できない商品であると経営者が判断してもやむを得ないものと判断される。すなわち,上記(1)ア(ク)によれば,5年後買取制度により消費者に販売した宝飾品には,買い取った商品は,ココ山岡において再販売することはせず,別の業者に転売する旨が記載された5年買取保証書が添付されていたし,また,ココ山岡は新品の宝飾品を消費者に販売する業者であるのに,そのココ山岡が仮に中古品を廉価で消費者に販売したとすると,販売価格の低下や販売機会の喪失など,本来販売したい新品の宝飾品の販売に悪影響をもたらすおそれがあるといわなければならず,ココ山岡としては,これら中古品をそのままではココ山岡各店舗の店頭に陳列することはできないからである。

(イ) 業者からの仕入商品

a 上記(3)イによれば,証拠上,本件取引対象商品の特性のうち期間に関しては,①当該商品を取得してから本件廉価売却をするまでの期間,及び②本件廉価売却をしてから消費者に販売されるまでの期間が判明している。そして,当該商品が消費者に販売できない商品か否かを判断する際には,①及び②のいずれもがその判断資料となり得るけれども,上記(2)オ記載のように,本件取引を採用する場合には,経営者はある時点で当該商品が消費者に販売できない商品か否かを判断し,本件取引を行うか否かを決定する必要があるところ,②のような事後的に判明する判断資料をもってこのような判断をすることは不可能であるから,②の判断資料ではなく,①の判断資料から本件取引対象商品が消費者に販売できない商品であると経営者が判断してもやむを得ないか否かを検討する必要がある。

b そして,上記(3)イ(エ)d及びeによれば,本件取引対象商品の一部である2万6518個のうち,ココ山岡本社商品部及びココ山岡各店舗が業者から仕入れた宝飾品1万7035個についてみると,業者からの仕入後184日が経過した後から本件廉価売却数が顕著に増加していることが認められる。そして,上記2万6518個はココ山岡から被告Y1に対して本件廉価売却された宝飾品であるところ,ココ山岡が被告Y1に本件廉価売却した宝飾品の総数は4万8392個であり,上記2万6518個がこれの約54.8%に当たり,資料として全体の約半分を占めることからすれば,業者から仕入れた宝飾品のうち仕入後184日,すなわち,半年を経過した商品であることが,本件取引対象商品の特性の一つであると認定することができる。

c ところで,被告Y3の,「半年たって売れないもののうちですね,記帳品と呼んでましたけども,台帳に記入しているもの,売値が5万円以上だと記憶していますけど,それについて行うと。」(甲47・434頁),「1つは,仕入れして店頭に並べておいて半年以上売れないようなものは転籍しろというような指示を私は出したと思いますね。」(乙24の1・22頁)との供述及び弁論の全趣旨によれば,被告Y3は,業者から仕入れて半年を経過した宝飾品を本件取引対象商品とすることを認識していたものと認められ,被告Y3の本件取引対象商品についての認識と実際の本件取引対象商品の特性とは一致するものといえる。

d そして,被告Y3は,業者から仕入れて半年を経過した商品を本件取引対象商品とした理由について,「100万円ぐらいのダイヤモンドを売っていたわけなんですが,そういうものがどういうプロセスで売れるかと言いますと,売手側がその商品に惚れ込んでいませんと売れないんですね,販売員と顧客との気持ちのつながりのようなもので最終的に高額品というのは売れるんでして,売手のほうがその商品にこれはいい商品だと確信を持っていませんと,それがお客に伝わらないんですね,そういうことがありまして,半年店頭に置いてあって売れないというのは,販売員が売る気がない商品だというふうに私は認識するんです,ですから半年たって売れないようなものは10年置いておいたって売れないというのが私の考え方ですね。」(乙24の1・22頁)と供述している。

そこで,かかる被告Y3の商品に対する考え方が相当なものであるか否かを検討する必要がある。

この点,ココ山岡において管理本部長を務めた経験があるEは,「売るのは女性社員ですから,女性社員が,自分たちが会社から譲ってもらえる金額より廉価だという認識を強く持った人であれば,それなりにお客さんに大変強い説得力になると思いますから,やはりそういう方がお客さんにお勧めすれば,そこそこは売れたかもしれませんですね。」(甲80・12頁)と供述し,また,ココ山岡において商品部次長,総務部長,代表取締役社長を務めた経験がある被告Y4は,「被告Y3が言うように,同じ店に半年以上置いておいて実際に売る女性たちが飽きてしまったものはなかなか売れないというのは私も理解しています。半年たって女性たちが見ていて飽きた商品はなかなか売りづらいというのは,これは事実だと思います。ただ,例えば,陳列する店を替えてみたり,枠を替えてみたりすれば,また売れていくというのは,これは事実かなと思います。」(乙25・59〜60頁)という趣旨を供述し,さらに,主に宝飾品の卸業を営み,ココ山岡以外の宝飾品販売業者にも出入りした経験のある被告Y2は,「山岡さんに行くと,商品がものすごい量があるわけですね。種類も多いけど,本数も多いんです。それで宝石の売り子というのは,やはりその商品をずっと見ていますと,飽きるわけですね。それは卸し屋も同じなんです。飽きが来るんです。そうすると,金庫の中にしまっちゃうわけです。結局もうずっと見ていると,飽きが来るんですね。それで新しい商品,新しい商品がどんどんどんどん入ってきますから,どうしてもそちらへそちらへそちらへ,営業の力というのがいくわけですよ。ですから,これがずーっと,不良在庫になるわけです。」(甲100・56〜57頁)という趣旨を供述している。E,被告Y4及び被告Y2は,要するに,ココ山岡各店舗の販売員が当該商品に飽きて当該商品を売ろうと努力しないと,当該商品は売れないということを述べているものと解される。そして,E,被告Y4及び被告Y2は,本件取引の関係者であるものの,長年,宝飾品業界に携わってきた者であるから,これらの者の上記供述は信用できるものと考えられる。そうすると,E,被告Y4及び被告Y2の上記供述並びにこれと同趣旨を述べる上記Y3の供述によれば,ココ山岡においては,仕入れてから半年を経過した商品は,販売員が売ろうと努力しなくなるため,ココ山岡各店舗において消費者に販売することが難しい商品であると認識されていたというべきである。

以上より,ココ山岡本社商品部又はココ山岡各店舗が業者から仕入れて半年を経過した商品は,ココ山岡が本件取引対象商品としてこれらの商品を選定する時点においては,消費者に販売できない商品と経営者が判断してもやむを得なかったということができる。

エ  以上に検討したところからすれば,本件取引対象商品は,買取商品及び返品商品並びにココ山岡が業者から仕入れて半年を経過した商品であって,いずれも消費者に販売できない商品であると経営者が判断してもやむを得ない商品であったというべきである。

(4)  本件取引とココ山岡における他の取引との関係

上記(2)ウ記載のように,本件取引が経済的合理性を認めることのできるスキームであるというためには,本件廉価売却時において,本件取引対象商品以外の売れ筋商品の販売においてココ山岡に利益が出ていることが必要である。そこで,本件廉価売却が行われていた期間中,ココ山岡が本件取引以外の取引において利益を上げていたか否かについて検討する。

ア 上記(1)ウ(イ)g(b)及び上記(1)オ(ウ)bで認定したように,ココ山岡は,被告Y1らとの間で本件廉価売却を行っていた約10年の間,損失を生じさせる本件廉価売却を行っても,なお毎期約13億円ないし約43億円の経常利益を上げていたものである。

イ また,上記(1)オ(ウ)aと上記(1)オ(エ)aで認定した本件廉価売却が行われていた期間のココ山岡と被告Y1の売上高を比較すると,ココ山岡の売上高合計が約1726億4100万円であるのに対し,被告Y1の売上高合計は約101億6700万円であり,被告Y1の売上高はココ山岡の売上高の約5.9%である。個々的に見ても,その割合は,ココ山岡第24期では約2.9%,同25期では約6.2%,第26期では約6.5%である。このように,ココ山岡の売上高と被告Y1の売上高とを比較して明らかなように,ココ山岡の全取引における本件取引の占める割合はそれほど大きなものではない。

ウ  以上のように,ココ山岡が本件廉価売却を行ってもなお経常利益を上げており,かつ,ココ山岡の全取引に占める本件取引の割合がそれほど大きくないことからすれば,本件廉価売却が行われていた期間中,ココ山岡は本件取引以外の取引において利益を上げていたものと判断される。

(5)  ココ山岡における本件取引導入の目的

ア 上記(1)ア(キ)で認定したように,昭和55年ころ,ココ山岡において,期末棚卸資産除外による脱税が行われるようになったが,この方法による脱税を行うよう指示をしたのは被告Y3であり,棚卸明細書の抜き取り作業を実際に行っていたのはFとGであって,ココ山岡が脱税を行っていることを知っていたのは,これら被告Y3,F及びGの3名のみであり,抜き取られた棚卸明細書に対応する商品について,これら3名は識別することもできず,当該商品は以前としてココ山岡各店舗で他の商品同様陳列されていたものである。そして,これらの事情からすると,ココ山岡において上記脱税が行われていることを知っていた被告Y3,F及びGは,除外した棚卸明細書に対応する商品を処分するなどして利益を得ることができなかったと考えられるから,被告Y3が棚卸明細書の抜き取り作業を行うよう指示した目的は,自己の利益を図る目的ではなく,専ら,ココ山岡の納税額を減少させることにあったものと判断される。

ところで,証拠(甲81)によれば,期末棚卸資産の除外による脱税は,棚卸明細書を抜き取り,帳簿上の期末棚卸資産の額を実際の額より減らすことによって行われるところ,期末棚卸資産の額が次期の期首棚卸資産の額になることから,脱税の効果を維持するためには,次期以降も同額の棚卸資産が除外されなければならず,また,次期以降も同様に脱税を行おうとすると,前の期の額に加えて,更に棚卸明細書を抜き取る必要があることが認められる。このことからすれば,期末棚卸資産除外による脱税は,回数を重ねれば重ねるほど,実際の棚卸資産の額と帳簿上の棚卸資産の額とが乖離することになるため,おのずと限界があり,継続的に行うことは困難であると考えられる。

イ  上記(1)キによれば,被告Y3は,被告Y1ら又は被告Y2に対し,種々の利益を自己又は第三者に供与するよう申し出て,実際に,総額約3億2000万円ほどの利益を被告Y3又は第三者が得ていたものである。しかしながら,これらの利益は約15年間にわたって得ていたものであるところ,上記(1)オ(エ)bで認定したように,被告Y1の7年間の経常利益額は約91億2700万円であり,被告Y3又は第三者が得た利益は,被告Y1らが得た利益に比べれば僅少であるといえる。また,上記(1)アで認定したように,被告Y2は被告Y1らのほかにもVやWを経営しており,これら会社の主な取引先がココ山岡であったこと及び上記(1)キで認定した各事情からすると,被告Y3は,必ずしも被告Y1らに対して利益の供与を要求をしたというわけではなく,ココ山岡の取引先の会社の経営者としての被告Y2に対して利益の供与を要求し,これを受けて被告Y2が被告Y1ら又は他の被告Y2の関連会社から利益分を支出したものと考えられる。

ウ  上記ア及びイで説示した点並びにココ山岡において本件取引が開始されたのがココ山岡が期末棚卸資産除外による脱税を始めて約3年ほど経ったころであるという事情を総合考慮すると,本件取引は,期末棚卸資産除外による脱税に替わるべきものとして開始されたと考えられるのであり,被告Y3が自己又は第三者の利益を図るために始めたものではなく,飽くまで,ココ山岡の納税額を減少させることが目的であったものと推認するのが相当である。本件においては,上記(1)カ(コ)及び(サ)のように,被告Y3と被告Y2がココ山岡社員会の者らに口止め料を支払い,また,捜査機関の取調べに備えて被告Y1の代表者印の返還時期について口裏を合わせたなどの事情があるが,この点は,上記の認定を左右すべき事情とはいえず,他に上記の認定を覆すに足る証拠もない。

(6)  小括

以上のように,ココ山岡が本件取引を行ったことには経済的合理性を認めることができないではなく,また,本件取引の目的も,被告Y3が私腹を肥やすことにあったのではなく,むしろ,ココ山岡の納税額を減少させることにあったものである。したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件取引が無効であり,本件取引を行った被告Y3,被告Y4,被告Y2及び被告Y1に不法行為責任又は取締役の会社に対する責任があるとする原告の主張は,いずれも採用することができない。

3  結論

したがって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・河邉義典,裁判官・小林元二,裁判官・内藤大作)

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