横浜地方裁判所 平成11年(行ウ)60号 判決 2001年10月10日
原告
A株式会社
同代表者代表取締役
甲
上記訴訟代理人弁護士
藤沢抱一
同
細谷裕美
被告
鶴見税務署長
村瀬次郎
同指定代理人
松本真
同
川上昌
同
長谷川良則
同
渡部美和子
同
寺端正
同
梅津恭男
同
松永秀行
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
原告の平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度の法人税について、被告が平成9年7月7日付けでした更正のうち、所得金額7673万2644円及び納付すべき税額2903万1900円を超える部分、並びに同日付けでした過少申告加算税賦課決定を取り消す。
第2事案の内容
1 概要
本件は、外国に子会社を設立しその名義で外航船を取得したとする原告が、子会社はいわゆるペーパーカンパニーであり、外航船は実質的に原告の所有であるとして、その取得に租税特別措置法上の特定資産の買換えの特例を適用した金額(船舶圧縮記帳額)、当該外航船の減価償却費及びその購入等のための諸費用を、原告の損金に算入して確定申告したところ、被告からこの損金算入を認めない更正及び過少申告加算税賦課決定を受けたため、その取消しを求めた事案である。
2 基礎となる事実(末尾に証拠等の記載がない事実は争いがない。証拠等の記載があるものは主に当該証拠等により認定した事実である。)
(1) 当事者
原告は、海運業等を営む株式会社で、被告から青色申告の承認を受けている。
(2) 租税特別措置法上の特定資産の買換えの特例
平成8年法律第17号による改正前の租税特別措置法65条の7第1項22号は、法人が、昭和45年4月1日から平成8年3月31日までの間に、その有する船舶(船舶法1条に規定する日本船舶に限る。)を譲渡した場合において(以下、この譲渡した船舶を「譲渡船舶」という。)、当該譲渡の日を含む事業年度において、船舶(前同)を取得し(以下、この取得した船舶を「買換船舶」という。)、かつ、当該取得の日から1年以内に当該買換船舶をその法人の事業の用に供したとき、又は供する見込みであるときは、当該買換船舶につき、圧縮記帳をすることができる旨を定めている(以下「本件特例」という。)。
すなわち、後記の圧縮基礎取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の80パーセントに相当する金額(以下「圧縮限度額」という。)の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を損金経理により引当金勘定に繰り入れる方法により経理したときに限り、その減額し、又は経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
ここに、「圧縮基礎取得価額」とは、当該買換船舶の取得価額と、当該譲渡船舶の譲渡に係る対価の額のうちいずれか少ない金額をいい(同条10項3号)、「差益割合」とは、当該譲渡船舶の当該譲渡に係る対価の額のうちに、当該対価の額から当該譲渡船舶の譲渡直前の帳簿価額(当該譲渡に要した経費の額を加算する。)を控除した金額の占める割合をいう(同項4号)。
(3) B社及び原告の平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)における状況
ア B社の設立
平成7年10月2日、キプロス共和国(以下、単に「キプロス」という。)において、いわゆるペーパーカンパニーか原告とは別の実体のある法人かは別として、B・シッピング・リミテッド(以下、特に断らない限り、法人格性の有無をあいまいにしたまま「B社」という。第3の1(2)においても同じ。)が設立された。B社の資本金は5000キプロス・ポンドで、原告名義で4500キプロス・ポンド、原告の前代表取締役乙名義で500キプロス・ポンドが出資された旨が登録されている。(外形事実は争いがなく、詳細は甲24)
イ B社による造船の発注
平成7年10月16日、B社から、C株式会社(以下「C」という。)に対し、6200トン型鋼製貨物船1隻(以下「本件船舶」という。)の建造が代金8億6800万円で発注された(以下「本件造船契約」という。)(甲3の2、乙1)。
同日、その代金内金として、B社から3000万円が支払われた(乙2)。
本件造船契約の契約書(以下「本件造船契約書」という。)においては、本件船舶の代金の支払期限は、契約時に3000万円、起工時に5500万円、進水時に1億3300万円、竣工時に6億5000万円とされている(5条)。
ウ 本件船舶の登録関係
本件船舶は、平成8年2月21日までに、キプロス共和国において、「Bマル」として仮登録され(甲2の2の14頁)、その後本登録された(弁論の全趣旨)。
エ 本件船舶の残代金の支払
平成8年2月27日及び同年3月6日、B社から、本件船舶代金の内金として、Cに対し、それぞれ1億8800万円及び6億5000万円が支払われた(乙4・7)。
オ 原告による内航船の売却と本件船舶の供用
原告は、その所有のD丸を平成8年2月26日に売却した(甲6)一方、本件船舶は、同年3月6日から、外航船として原告の事業の用に供されている(甲1、弁論の全趣旨)。
(4) 原告の本件事業年度に係る法人税の確定申告
原告は、平成8年5月31日、本件事業年度に係る法人税について、B社がいわゆるペーパーカンパニーであるとの前提に立ち、下記の各金額の合計1億8581万3253円について原告の損金に算入した(以下、まとめて「本件損金算入」という。)上、所得金額を7673万2644円、納付すべき税額を2903万1900円として確定申告をした(以下「本件確定申告」という。)。
記
ア D丸を譲渡船舶、本件船舶を買換船舶として本件特例を適用して計算した船舶圧縮記帳損(以下「本件圧縮記帳損」という。) 1億2882万3336円
イ 本件船舶の減価償却費(以下「本件減価償却費」という。) 5504万7810円
ウ 以下の租税公課((ア))並びに支払手数料((イ)(ウ)(エ)(カ)(キ)(ケ)(コ))及び雑費((オ)(ク))(以下「本件諸費用」という。) 計194万2107円
(ア) 本件造船契約書の貼用印紙代(乙1) 10万0000円
(イ) 本件船舶代金内金の送金手数料(平成7年10月16日。乙2) 6000円
(ウ) O株式会社あてのB社の設立手数料(同年11月20日。甲11、乙9) 37万5389円
(エ) (ウ)の費用の送金手数料(同日。乙9) 6000円
(オ) 本件船舶の登録関係費用(平成8年1月25日。乙3) 79万8799円
(カ) (オ)の費用の送金手数料(同日。乙3) 6000円
(キ) 本件船舶代金内金の送金手数料(同年2月27日。乙4) 6000円
(ク) 本件船舶上の抵当権設定登録関係費用(同年3月5日。乙5) 63万5419円
(ケ) 本件船舶代金のローン契約に係る弁護士報酬の送金手数料(同月13日。乙8、甲6) 6000円
(コ) 原告への返金送金手数料(同月14日。乙10) 2500円
(5) 被告による更正及び過少申告加算税賦課決定
被告は、平成9年7月7日、原告に対し、本件損金算入をいずれも否認し、別表のとおりの計算根拠により本件事業年度に係る所得金額を2億6254万5897円、法人税額を1億0332万1400円とする旨の更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税968万0500円の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。本件更正と本件賦課決定とを併せて「本件更正等」という。)をし、その旨の通知をした。
本件損金を否認した理由は、本件船舶がB社の所有であって原告の所有ではないこと、B社が負担した本件諸費用は原告の損金とはならないというものであった。
(6) 審査請求の経由
原告は、本件更正等を不服として、平成9年8月15日、国税不服審判所長に対してその取消しを求めて審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成11年6月30日付けでこれを棄却する旨の裁決をし(甲2の2)、同年7月5日ころ、これを原告に対して通知した(甲2の1)。
3 主な争点
本件の争点は本件損金算入の可否であり、これを細分化すると以下のとおりである。
(1) 本件船舶に係る法律関係の帰属に関する争点(本件損金算入の全部に関係する争点)
ア B社の法人格の有無及び法人格否認の主張の制限の有無
イ 実質所得者課税の原則の趣旨及び本件船舶の所有関係
ウ 本件更正等の公正会計処理基準違反の有無
(2) 本件特例上の船籍要件に関する争点(本件損金算入のうち、本件圧縮記帳損の算入にのみ関係する争点)
ア 本件特例上の船籍要件の趣旨と本件船舶の同要件該当性の有無
イ 本件更正等の付記理由の差替えの可否
4 争点に関する両当事者の主張
(1) B社の法人格の有無及び主張の制限の有無(争点(1)ア)
(原告の主張)
ア 法人格の不存在
原告は、これまでの内航船による運航収入だけでは将来の展望ができないために、外国航路貨物の定期傭船契約を受注し、外航船である本件船舶を建造することとしたが、運航コストの低減をはかるために外国人の船員を乗船させる必要があり、それには本件船舶を外国籍としなければならなかった。というのは、船籍を日本に置く場合には低賃金の外国人船員を配乗することができないという日本における特殊事情(昭和29年のI組合と海運会社との労働協約)があるためである。原告は、それ故にキプロスにおいてB社を設立し、同社を本件船舶の形式的な所有者として本件船舶を同国において船籍登録した。
同社は、本件船舶をキプロス船籍にするためだけのいわゆるペーパーカンパニーで、社屋・施設を有さず、従業員も存在せず、原告は、同社を社内1部門として認識して、事実、当初から本件船舶に係る資産所有の計上を行い、また、売上高及び諸経費を原告のものとして会計処理している。
本件造船契約の実質的な発注者は原告であり、本件船舶の建造代金借入れのためのローン契約の実質的な債務者も原告である。
イ 法人格否認の主張の自由(信義則違反の不存在)
原告は、税務処理上、一貫して、B社が原告の1部門で本件船舶の実質的所有者が原告であるとしており、恣意的に法律上の主張又は取扱いを異にしているわけではない。原告がB社を原告の1部門であると主張することは、信義則上許されないものでも、第三者の利益を侵害するものでもない。
(被告の主張)
ア 法人格否認の主張の不当性
法人格否認の法理は、相手方保護の必要性の見地から立論されるものであり、一定の経済目的を達成するために、一定の法形式を自ら選択・利用し、それによって所期の経済目的を達成する等して、その法形式を選択、利用した利益を享受した者自らが、別の場面においては、その法形式を選択した結果としての法律関係を否認する等し、別個の法律関係を主張することは、信義則上許されない。このような主張を許せば、かかる者が不当な利益を享受し、あるいは、そのような法律関係又はこれを前提とした法律関係に立った相手方又は第三者の利益を不当に侵害する結果を招来するおそれがあるから、到底許されるべきものではなく、この理は、私法上の法律関係についてだけでなく、公法上の租税法律関係についても妥当する。
これを本件についてみると、原告は、まさに本件船舶を外国船籍とするという目的のためにB社を設立し、本件船舶を同社の所有とするという法形式を自ら選択し、これを利用して本件船舶がキプロス船籍であることを前提とする種々の経済的利益を享受しているのであって、このような原告が、こと課税関係においては、B社は実体のないいわゆるペーパーカンパニーであり、本件船舶は実質的に原告が所有しているものである等として、その法形式の背後にある経済的実態を主張し、その法形式を選択、利用したことによる不利益を回避しようとするがごとき主張は到底許されない。
原告の主張は、それ自体失当である。
イ B社の実体性
B社は、Cとの間で本件造船契約を締結し、本件船舶建造の代価もB社から支出されたもので、その一部にはB社が借り入れた金員が充てられ、本件船舶は、同社が本件船舶の登録諸費用をも支出して、現実にキプロス船籍で登録され、同船籍の船舶として外国航路貨物の定期傭船として使用されている。
したがって、B社は、法律上はもちろん、経済活動上もその実体が存在し、本件船舶は同社が取得しこれを所有するものであることは明らかである。
(2) 実質所得者課税の原則の趣旨及び本件船舶の所有関係(争点(1)イ)
(原告の主張)
課税所得の帰属者の判定においては、課税所得と特定の者との間の結び付きの有無につき、法律的な結び付きをその判定基準に用いようとする考え方と、経済的な結び付きをその判定基準に用いようとする考え方との対立があるところ、法人税法11条等に定める「実質所得者課税の原則」は、経済的基準説を採る旨を法律で規定したものといえ、この規定の下において、資産又は事業から生じる収益については、単なる名義人ではなく、当該資産又は事業を実際上管理・運営し、経済上の収益を享受する者に対して所得が帰属するものとして課税することになる。
また、法律的な結び付きを判定基準とする考え方によっても、一般に、物の所有者又は所得の帰属を判断する場合には、その所得を生む契約当事者が誰であるか、その所有に基づく収益又は経済的効果が誰に帰属するかということが重要であるところ、原告は、平成8年2月29日付けでE事務所(以下「E事務所」という。)との間で本件船舶の定期傭船契約を締結し、同契約上の傭船料は原告の収益として計上している。もともと、原告は、その営業目的から、本件船舶を取得することとした経緯があり、本件造船契約の発注に実質的に関与し、本件船舶の購入代金の実質的負担者は原告である。以上から、本件船舶の実質的な所有者は原告である。
(被告の主張)
法人税法11条の「実質所得者課税の原則」は、法人税における法人の所得の帰属について、その法律上の形式イコール実質でないという場合に、当事者が選択した法形式に徒らにとらわれることなく、課税上は、当事者が真に意図したところを探求し、その真に存在する法律関係に従って課税要件の充足の有無を判断すべきということにその趣旨があり、形式イコール実質でない場合に、その真に存在する法律関係を全く無視したままで、単にその経済的実態に即して課税すべきことを求めるものではない。原告の見解は、独自の見解であり、実質所得者課税の原則とは直接関係がない。
しかも、原告は、キプロスにB社を設立し、B社が本件船舶を所有しているとの法形式をあえて選択し、現在に至るもその法律関係を維持することにより、これを外航航路に運航させている。そうすると、本件において、原告が真に意図したところは、まさに運航コストの低減を図る目的で本件船舶を外国籍としなければならなかったことから、B社に本件船舶を所有させ、その法律関係を前提として、原告が本件船舶の傭船契約によって一定の利益を享受するということにあり、真の法律関係は、原告が自ら選択した法形式どおり、B社が本件船舶を所有しているというものである。したがって、実質所得者課税の原則によっても、その真に存在する法律関係、すなわちB社が本件船舶を所有しているという法律関係に即して課税要件の充足の有無が判断されるべきである。
(3) 本件更正等の公正処理基準違反の有無(争点(1)ウ)
(原告の主張)
被告が主張するように解釈して会計処理を行うと、収入は原告に帰属するが、その収入を生む本件船舶に係る経費の算入が認められないことになって、利益だけを計上した所得金額に基づいて課税される結果を招く。本件更正等は、収益と費用等の対応において利益を計算するという法人税法22条4項に定められた企業会計の基本原則である「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(以下「公正処理基準」という。)に違反する。
(被告の主張)
法人税法22条4項はいわば補充規定として位置づけられ、基本規定のうち税務上特別の定めをしたもの又は別段の定めがある場合には、この補充規定の適用はないこととなるところ、同条2項の規定は、無償による資産の譲渡と無償による役務の提供からも収益が生ずることを擬制した創設的規定であると解されるから、その部分については同条4項の公正処理基準の規定の適用はない。
(4) 本件特例上の船籍要件の趣旨と本件船舶の同要件該当性の有無(争点(2)ア)
(被告の主張)
仮に原告が本件船舶を取得したものとしても、本件船舶は、そもそも船舶法1条に規定する日本船舶ではないから、本件特例を適用する余地はない。
原告は、本件船舶については、実質的な日本船舶と解釈して、本件特例を適用すべきである旨主張する。しかし、特定資産の買換えの制度が、一般に、土地政策に合致する買換えを認めるという当然の趣旨で譲渡資産及び買換資産について地域を限定しているのと同様に、本件特例は、船舶について日本船舶でなければならないとの限定を付しているものであり、これが、一定の政策目的のために、種々の要件を充足する資産の譲渡に限ってのみ、その収益に対する課税の繰延べを例外的に認めようとする臨時の措置であることにかんがみれば、本件特例の各要件が厳格に解釈されるべきものであることは論を待たない。本件特例の要件を、類推、趣旨解釈すべきであるとするがごとき原告の主張は失当である。
(原告の主張)
課税要件を定めた法令の規定の文理解釈によって明らかに不当な結果となるような場合においては、当該文言の通常の用例に係る意味内容や法令によって定義された内容を拡大若しくは縮小し、又はこれに別意を付与して解釈することができるとされているところ、特定資産の買換えの特例の制度は、第一義的には、譲渡資産の譲渡益に課税することを延期しようとするものであり、本件特例が買換船舶を日本籍の船舶に限るとした趣旨は、これを外国籍の船舶でもよいとすると、買換えによって圧縮した資産から生ずる運航収益が国外に流れることになり、課税の繰延べ制度の目的にかなわないからである。
これを本件についてみると、本件船舶の運航収益は原告に帰属し、原告は、その収益に対しては我が国の法人税が課せられ、また、将来において本件船舶を譲渡した場合には、譲渡課税の対象になることを前提として法人税の申告をしているから、本件船舶の取得に本件特例を適用したとしても課税上の弊害が生ずることはなく、かえって課税の公平にかなうものである。本件船舶は、形式的には外国籍であっても、実質的な日本籍の船舶と解釈して本件特例を適用すべきである。
(5) 本件更正等の付記理由の差替えの可否(争点(2)イ)
(原告の主張)
法が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合のその趣旨は、処分庁の判断の慎重さ、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあり、青色申告に対する更正の場合は、納税者が帳簿の記載を無視して更正されることのないことを保障されているのであるから、その付記理由としては、更正に係る勘定科目とその金額のほか、そのような更正をした具体的根拠を上記帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を明示することを要するものと解すべく、その付記理由の記載自体においてその程度に更正の理由が付記されていない更正は違法として取消しを免れず、その不備の瑕疵は、後に審査請求に対する裁決等において処分の具体的な理由が明示されたとしても、それによって遡って治癒するものではない。
本件特例の圧縮記帳が認められる船舶は日本船舶に限るものとされているとの理由を本件更正等に付加することは、上記に述べたところからしても、原告に格別の不利益を与えるか否かという観点からしても、本件船舶の所有者が誰であるかという主体の問題以外に、船籍という客体の登記・登録という全然別個の争点を付加するもので、許されない。
(被告の主張)
そもそも課税処分の取消訴訟における審判の対象は、当該処分の実体上及び手続上の違法性一般であり、この実体上の違法性は、課税処分によって存在するものとされている課税標準又は税の額が客観的に存在するか否かという租税債務の存否自体の問題である(いわゆる総額主義)から、当該処分が手続上適法にされた後は、課税庁は、当該処分によって存在するものとされた課税標準の額等が存在することを根拠付けるため、処分時に具体的に認識されていた会計事実や法的評価以外の新たな租税債務の発生原因事実又は法的評価を主張し、その適法性を維持できる。
これに対し、青色申告書による申告についてした更正の取消訴訟については、仮に理由の差替えを無制限に認めた場合に、処分庁の恣意抑制及び相手方の不服申立ての便宜という青色申告に係る更正の理由付記の趣旨、目的を阻害する事態が生じることがあり得ないではないことを考慮すべきである。しかし、青色申告に係る更正においても、上記趣旨、目的を全く無意義ならしめ、又はこれを認めることが納税者の正当な利益を害するような特段の事情がある場合を除き、課税庁においてその処分理由を差し替えることに何ら制限は存しないというべきである。そして、(4)の主張が、青色申告に係る更正の理由付記の趣旨、目的を全く無意義ならしめたり、原告の正当な利益を害するものではないことはいうまでもない。
(6) まとめ
(原告の主張)
よって、本件損金算入は認められるべきであるから、原告は、被告に対し、本件更正のうち本件確定申告に係る額を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求める。
(被告の主張)
争う。本件特例は、譲渡船舶を譲渡した法人と、買換船舶を取得した法人とが同一であることを前提として、圧縮記帳を認めているところ、本件船舶は、原告が取得した資産ではないから、本件特例の買換船舶に当たらず、本件圧縮記帳損は、原告の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない。また、本件船舶は、原告の所有する減価償却資産ではなく、本件諸費用は、いずれもB社が負担すべきものであり、原告が負担すべきものではないから、同諸費用及び本件減価償却費も、原告の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない。これらは、法人税法が関係会社の損益を合算して課税する方式を採用していないことの当然の帰結である。
したがって、本件損金算入を否認した本件更正は適法であり、本件更正により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」事情は存しないから、本件賦課決定も適法である。
第3当裁判所の判断
1 B社の法人格の有無
(1) 判断の順序
被告は、B社に法人格があるとして、本件船舶がB社の所有であって原告の所有ではなく、したがって、本件船舶の取得について原告との関係で本件特例の適用がなく、B社が負担した本件減価償却費及び本件諸費用は原告の損金とはならないことを本件更正等の基本的な根拠とする。これに対し、原告は、B社は原告のいわゆるペーパーカンパニーであり、法人格がなく、本件船舶の実質的な所有者が原告であり、本件船舶の取得に本件特例が適用され、また本件減価償却費及び本件諸費用は原告の損金とされるべきである旨を主張する。
そこで、まず、B社に法人格が認められるかを検討する。
(2) 事実の経緯
証拠及び弁論の全趣旨(認定事実の後に適宜記載する。)によれば、B社の設立に関し、次の事実が認められる。
ア (原告による外航船の運航事業計画)
原告は、従前は内航船の運航事業を行ってきたが、平成7年頃から外航船の運航事業を計画し始め、E事務所(F株式会社、G株式会社、H株式会社の共同企業体。E事務所)との間に、原告を船主、E事務所を傭船者とする傭船契約を締結する目処がついた。(弁論の全趣旨)
イ (計画の具体化と外国法人設立の必要)
そこで、原告は、外航船を建造する計画を立てた。ところで、アジア及びロシアを中心とする近海航路においては、アジア各国の船会社との運賃競争が激しいので、原告は、運航コストを下げるために、フィリピン人等の外国人の船員を乗船させる必要があるとの経営判断に立った。ちなみに、日本人船長のほかに本件船舶に乗船している15名のフィリピン人船員を、概ね同年齢の日本人船員に変更したと仮定した場合には、月額で乗員人件費は690万円程度高額となる試算結果がある(甲20・27)。ところが、日本船舶に低賃金の外国人船員を乗船させることは、I組合とJ協会との間で締結された労働協約によって、事実上できないこととされていた(甲26)。
そこで、原告は、ロシア航路の運航に便利なキプロスに法人を設立して、建造する外航船を当該法人に所有させ、その船籍をキプロス籍とすることを計画した。(イ全体につき、弁論の全趣旨)
ウ (B社の設立)
B社については、平成7年10月2日付けで、キプロス共和国に本店が所在する法人であり、またその役員が乙、丙及び丁であるとの、同月10日付けで、株主が原告45株、乙5株であるとの、キプロス共和国の商業工業観光省の法人登記部門の登記官作成の各証明書が発行されている(甲2の2の3頁、弁論の全趣旨)。
B社の会社設立に関しては、「B社(乙)」名義でK銀行鶴見支店に依頼して、B社の会社設立手数料37万4659円が代行会社であるO株式会社に対して送金されている(乙9)。なお、「乙」とは、乙のことであり、同人は、当時、原告の代表取締役であった(甲1、弁論の全趣旨)。
エ (本件船舶の造船とB社)
(ア) 本件船舶の造船に関しては、本件造船契約の締結に先立つ平成7年9月22日付けで、建造者のCと原告との間に確認書(甲3の1)が交わされ、同年10月5日までに建造契約を締結すること、建造資金については、E事務所を傭船者とする等の所定の傭船契約を原告の責任において締結することを前提として、700万ドル(アメリカ合衆国・ドル。以下同じ。)を限度にCが資金調達先を仲介すること、残代金は原告所有の内航船D丸の売却代金を充当すること等を内容とする確認書が作成された。
そして、この確認書を基礎にして、B社を発注者、Cを建造者として、平成7年10月16日付けの本件造船契約が締結された。本件造船契約書(甲3の2)によると、代金は8億6800万円であり、これを契約時3000万円、起工時5500万円、進水時1億3300万円、竣工時6億5000万円、引き渡しは平成8年2月29日までと定められている。
(イ) 代金の支払関係をみると、契約時の3000万円は、B社がK銀行鶴見支店に開設した口座(非居住者外貨普通預金口座。乙6。以下「B口座」という。)からCに支払った(乙2)。ただし、B口座は、原告が用意したものであり、この時の支払代金分相当額(3060万1503円)も原告が用意した。原告は、この金員をB社に対する貸付金として経理処理し、本件事業年度末にこのうちの3000万円を船舶勘定に振り替えた。(乙13、甲6、弁論の全趣旨)
起工時の5500万円と進水時の1億3300万円を合計した1億8800万円の支払代金について、平成8年2月27日にB社からCに対し、B口座を通じて支払われた(乙4)。この資金も、原告が負担したものである。すなわち、原告は、平成8年2月26日に、D丸を売却して消費税を含む代金2億0087万4192円を得て、同月27日、B社に1億8836万1965円を貸し付け、B社は、同日、本件船舶の代金内金として、Cに1億8800万円を支払った。
なお、原告は、貸付金として経理処理していたものにつき、本件事業年度末に船舶勘定に振り替えた。(甲6、乙13、弁論の全趣旨)
竣工時の6億5000万円の支払代金の調達については、B社が平成8年3月4日、L(香港)株式会社(以下「L(香港)」という。)から680万ドルを借り受け、L(香港)に対し、本件船舶上に第1順位の抵当権を設定した上、本件船舶に係る傭船料請求権等の一切の債権も同社に差し出す旨を、原告及び乙は、B社のL(香港)に対する同契約上の債務を保証する旨を、それぞれ合意した(甲16。以下、まとめて「本件ローン契約」という。)。そして、B社は、平成8年3月6日、本件船舶代金としてCに6億5000万円を支払い、Cは、同日、同社の岸壁において、本件船舶をB社に引き渡した(甲2の2の14頁、弁論の全趣旨)。
(ウ) B社は、平成8年1月25日キプロス共和国のM法律事務所(以下「キプロスの法律事務所」という。)にB口座から本件船舶の登録関係費用7434.15ドルを支払い(乙3)、本件船舶について、B社を所有者としてキプロス共和国において船籍登録されている船舶である旨の同国の船舶登録部門の平成8年5月8日付けの証明書が発行されている。(甲2の2の3頁、弁論の全趣旨)
オ (B社の活動)
B社は、キプロスの法律事務所と同じ住所に本店を置いていて(甲24)、同国における手続関係の処理は全て同事務所の弁護士に任せており、乙をはじめとしたB社関係者は同所に赴いたことはなく(弁論の全趣旨)、同所に本店としての設備はないと解される。
B社は、これといった活動をしているわけではないが、本件船舶の船籍登録後はその維持のために年間トン税、キプロスの法律事務所への委託手続費用の支払が必要であり、これをOに代行してもらい、平成9年3月期についていえば、平成8年11月19日に、その費用3711.30ドルをB口座から送金して支払っている(甲11、甲13の1・2)。また、B社は、平成8年3月5日、本件船舶上の抵当権設定登録関係費用として、キプロスの法律事務所に6022.93ドルを送金した(乙5)。費用は原告が負担し、原告は、その分として63万7919円をB社に貸し付ける経理処理をした(甲6、乙13)。
(3) 評価
ア (2)で認定した事実によれば、B社は、原告が本件船舶を外国船籍の船舶とするためにキプロスに設立した法人である。その目的は、B社がキプロスにおいて法人となり、かつ、本件船舶の船主となり、本件船舶のキプロス船籍を維持することである。B社は、そのような目的を達成するために、法人となった後に、本件造船契約の発注者となり、船籍登録において本件船舶の所有者となり、これを維持するための手数料を払っている。このような事務をすることだけがB社の目的であるから、B社には事務所や人もほとんど不要であり、キプロスの法律事務所に依頼する方法をもってその事務を実施することができるので、そのような方法で上記の事務を実施している。
また、B社が上記のような目的を実行するためには、本件船舶の取得代金等の資金が必要であるが、これを自身で用意することは必ずしも必要ではなく、原告などに代わって負担してもらうことも可能であるため、現にそのようにしている。
イ そうすると、B社は、法人としての目的と実体をそれなりに有しているということができる。もちろん、事務内容だけに着目すると、このような事務は、他の法人がその業務の一部としてすることも可能である。しかし、このようなB社の事務を本件の原告が自らできるかというと、そこには原告の経営目的から来る一定の限界がある。
すなわち、外国人船員を乗船させたいという原告の経営計画を前提とすると、本件船舶がI組合とJ協会間の労働協約の適用のある日本船籍の船舶であってはならず、キプロス船籍のような外国船籍の船舶であることを必要とするので、その船主には原告が自らなることができない。また、ロシア航路においてはキプロス船籍の船舶が有利であるという事情もあった。したがって、原告は、B社を設立し、B社に必要な資金を提供するが、そこまでしかするつもりはなく、原告自身が本件船舶を所有していることにはならないようにすることが原告の意思である。本件訴訟のような租税法律関係においては、原告は本件船舶を所有していると主張したいようであるが、雇傭労働関係においては、反対に、本件船舶を所有していないようにし、B社が本件船舶の所有者であるとするのが、原告の意思である。
ウ 以上を総合すると、B社は法人としての実体を有すると認めるのが相当であり、B社は、客観的にも主観的にも法人としての実体を有しているものというべきである。
原告は、B社の法人としての独立性の有無について、時宜により取扱いを異にしたことはない旨を主張するが、租税法律関係と雇傭労働関係で取扱いが異なるのは前記のとおりである。また、B社を専ら社内1部門と認識していたのだとすれば、社内部門であると主張する原告とB社相互間の送金について、事業用に格別の現金の必要もないのに、手数料を原告の経費として会計処理する(乙13、前記第2の2(4)ウ(コ)の損金算入)のは合理的であるとはいえず、このような点においても必ずしも取扱いが一貫しているともいえない。
(4) 原告の主張が制限されるとの被告の主張について
なお、被告は、B社の法人格という形式を自ら作出した原告が、課税関係においては、B社は実体のないいわゆるペーパーカンパニーである等として、その法形式を選択、利用したことによる不利益を回避しようとするがごとき主張することは許されない旨を主張する。
しかし、後記2(2)のとおり、課税は法律的実質に従って決することが法の要請であり、租税法律主義の観点からも実質に即さない課税は許されないというべきであって、租税関係に関しては、形式を作出していた者自らがその形式を否認する主張をすること自体は禁止されないと解すべきである。したがって、原告の主張自体が失当であるとの被告の主張は採用することができないのであり、上記のとおり、証拠に基づいて、事実を認定した上、B社が法人格を有するかを判断したものである。
2 実質所得者課税の原則の趣旨と本件船舶の所有関係(争点(1)イ)
(1) 原告の主張
原告は、実質所得者課税の原則の見地からみて、本件船舶の所有者は原告である旨を主張する。
(2) 租税関係の基礎と法人税法11条の趣旨
ア そこで、まず、実質所得者課税の原則の趣旨を検討するに、租税は、担税力を推定させる物又は行為等を課税物件として課されるものであるから、その担税力を推定させる物又は行為等が実質的に帰属する者に対して課税されるとの考え方に基づき法律で定められている。すなわち、物を課税物件として課される租税であれば法律上の所有権、行為を課税物件とする租税であれば法律行為の効果が、それぞれ帰属していることをもって、担税力が推定され、課税される。課税物件が単に形式的に帰属するのみでは担税力があるとはいえず、実質的に権利又は法律効果が帰属して初めて担税力が推定されるので、この者を納税義務者として課税されるべきことになる。
したがって、「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。」と定める法人税法11条は、法律上の収益の帰属者の形式と実質が異なる場合には実質に従って租税関係が定められるべきであるという、担税力の観点に立ち帰って考察した場合には当然の事理を、法人税に関して確認的に定めた規定であるということができる。そして、同条文の文言上は「収益」についてしか規定されていないが、上記説示は「費用」についても全く異なるところはない。
イ 原告は、法人税法11条は法律上の形式と経済上の実質の異なる場合について定めた規定であると主張する。
確かに、条文の文理そのものからはそのように読めないことはないし、経済上の実質はより端的に担税力をうかがわせるものであるともいえるから、そのような立法政策も全くあり得ないではない。
しかし、経済的実質に従って課税するとなった場合には、課税庁は、法律効果の帰属者とは別に、経済上の受益者又は費用の出捐者を常に探求すべきことになるところ、その把握は容易ではないし、徴税コストが膨大になるという問題も生ずる上、納税者側の法的安定性も過度に害されることになる。現行法がそのような事態を予定しているとは到底解されない。法人税法12条が、経済上の受益者を把握しやすい信託関係についてのみ経済的実質に従って租税関係を定める旨を規定しているのも、そのことを前提にしているものと解され、同法11条において、既に経済的実質に従って租税関係が定められるべき旨定められているのだとすれば、同法12条のような規定をそれとは別に設ける必要はないというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(3) 本件船舶に係る法律関係の帰属
ア そこで、上記の見地に立って、本件船舶に係る法律関係の実質的な帰属を検討する。
イ(ア) この点に関しては、まず、第2の2(3)イ及びウ並びに第3の1(2)エに認定のとおり、本件造船契約の当事者と本件船舶に係る登録関係がB社の名義になっている事実がある。
(イ) そして、本件船舶を平成8年3月6日以降E事務所に対して定期傭船する旨を平成8年2月29日に合意した契約(甲1。以下「本件傭船契約」という。)の当事者はその名義こそ原告になっているが、本件船舶の残代金6億5000万円を調達するために設定された本件ローン契約上は、本件傭船契約上の債権がB社に帰属していることを当然の前提として、B社がそれを貸主であるL(香港)に差し出す旨の意思が表示されていて(甲16)、その旨がB社における株主・取締役総会決議文(甲14)にも明示され、その債務の返済(甲18の2)や本件船舶に係る関係諸経費の送金(甲12、甲13の1・2、甲19の1から3)も全てB社によってB口座を通じてされている上、本件傭船契約上の傭船料、同契約違反に基づく損害賠償請求権その他同契約上のB社の全ての権利並びに弁済期の到来しているその他全ての金銭債権は、平成10年6月5日にL(香港)に譲渡された旨も、同日付けでB社からE事務所に対して通知されており(甲15)、これらの事実からすれば、本件傭船契約の実質的な当事者もB社である可能性がある。
(ウ) これらの事情に加えて、前記1でみたとおり、B社が法人格を有すると考えられ、原告の経営計画の目的は本件船舶を外国籍のものとしてJ協会とI組合との労働協約違反にならないようにすることにあったことを総合考慮すると、本件船舶に係る契約は、いずれもB社においてされたもので、その法律効果はB社に帰属するというべきである。本件船舶の所有者が原告であるということはできない。
ウ(ア) なお、B社がN株式会社に本件船舶の運航管理業務を委託する旨の契約書及びその細目を定めた協定書には、平成8年2月26日及び同月29日、原告が記名捺印している(申10の1から3)。
しかし、この契約書(甲10の1)及び協定書(甲10の2・3)の各本文冒頭における当事者はB社であって、原告ではない。原告が署名した部分は何らかの誤記か、親会社として、B社のために署名したものであろうと思われる。いずれにしろ、これらに原告の署名があることが本件船舶の法的な帰属を判定する上で重要な意味を持つとは思われない。
(イ) また、原告の帳簿上、本件船舶が原告の資産とされ(甲6)、原告が本件船舶に係る固定資産税を納付した(甲22の1から4)事実が認められるが、それらは本件更正等に係る租税財務につき本件特例を受けるための外形的状況を整えるためであったものと考えるのが相当であり、これを根拠にして本件船舶の所有権が原告に帰属しているとは認められない。特に固定資産税の納付の事実については、当初これを納付していなかった(乙11・12)ところ、本訴でこの点を指摘された後にこれを納付したものにすぎない(甲22の1から4の受付印日付を参照)。
(ウ) 本件傭船契約(甲1)の当事者については、もとより船舶の所有者以外の者が傭船契約を締結すること自体は可能であると解されるが、前記イ(イ)のとおりのことがいえる以上には法律関係が明らかでなく、当事者の意思自体が混乱していると考えられるので、これ以上に言及することはしない。
エ 以上によれば、本件船舶の購入は、もともと原告自身が外航船による海運事業の進展を図るために始めた計画であり、原告は資金面でB社に協力しているから、実質的な経済上の負担は原告に帰しているものといえるが、(2)でみたとおりの法的な帰属の観点からは、法人格を有するB社が、原告の経営意図を実現するために、所有権を含めた本件船舶に係る法律関係の帰属主体となっているというべきである。
(4) まとめ
よって、本件船舶は、法律上B社が所有しているものというべきであり、原告には、同一法人が船舶の買換えをしたことを前提とする本件特例の適用はなく、本件圧縮記帳損の算入は認められないし、本件船舶に係る費用(本件減価償却費・本件諸費用)もB社が負担すべきで、原告がこれを負担すべきいわれはない。
3 本件更正等の公正処理基準違反の有無(争点(1)ウ)
(1) 原告は、本件更正等は本件船舶に係る収益と費用との対応関係を考慮しておらず、公正処理基準に違反して違法である旨を主張する。
(2) しかし、そもそも、前記2のとおり、本件船舶に係る法律関係はB社に帰属すると考えられ、本件傭船契約上の傭船料の支払もB口座に仕向けられる(甲18の2)等の処理がされている以上、本来、本件船舶に係る費用のみならず収益も一旦はB社に帰属するとして租税法律関係が適用されるべきなのかもしれない。そして、次にB社と原告との間における本件船舶購入資金の貸付け、株式配当等の法律関係の処理が必要となり、これが原告の租税法律関係に反映されるべきであるのかもしれない。
いずれにしても、公正処理基準違反の有無の論点の場合にあっても、まず所得の帰属者を法的に確定し、その確定された帰属者それぞれについて、同基準違反の有無が判断されるべきである。原告の主張は、原告がB社を実質的・経済的に支配していることを正面に打ち出したものであろうが、所得の法的帰属者の判定の問題を省略して、所得の経済的帰属者である原告について、かつ、一面的にのみ収益と費用の対応を考えようとするものであり、採用することはできない。
(3) そして、このような考え方に立てば、原告は、本件確定申告において、所得の種類、収益と費用の帰属者等を誤ったということかもしれないが、原告自身が特定の目的をもって確定申告という公法上の行為をした(甲28)以上、上記の誤りは、本来、更正の請求といった方法によってしか是正することはできなかったものである。しかも、(2)のような諸点に照らすと、その是正は、原告に帰属するとしたB社に係る傭船料収入(本件事業年度については、平成8年3月6日からの1か月弱で概算約1500万円。弁論の全趣旨)をB社に帰属することとするほか、原告がB社のためにした支出がどのように扱われるべきか等、原告とB社との関係を明確なものとしなければできないのであり、そのための具体的主張もない本訴において、これ以上この問題に仮定的に言及することは適当でない。
(4) 原告の上記主張は、いずれにせよ、既にその前提において失当であって、採用することができない。
4 結論
以上によれば、船籍要件の趣旨と本件船舶の同要件該当性の有無、付記理由の差替えの可否(争点(2))について判断するまでもなく、本件損金算入は全て認められないから、これを否認した本件更正等は適法というべきであって、原告の請求は理由がない。
よって、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 裁判官 平山馨)
別表
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