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横浜地方裁判所 平成12年(わ)3087号 判決 2002年1月31日

(被告人A)平12(わ)3087号,平13(わ)166号,平13(わ)510号,平13(わ)1132号,平13(わ)1330号,平13(わ)1616号

(被告人B)平12(わ)3087号,平13(わ)166号,平13(わ)510号,平13(わ)828号,平13(わ)1330号,平13(わ)1616号

(被告人C)平12(わ)3087号,平13(わ)166号,平13(わ)510号,平13(わ)1132号,平13(わ)1616号

(被告人A)住居侵入,強盗致死,強盗致傷,窃盗,強制わいせつ,強盗

(被告人B)住居侵入,強盗致死,強盗致傷,窃盗,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反,有印私文書偽造,同行使,詐欺,強盗

(被告人C)住居侵入,強盗致死,強盗致傷,窃盗,強制わいせつ

主文

被告人3名をそれぞれ無期懲役に処する。

被告人Bに対し,未決勾留日数中280日をその刑に算入する。

被告人Bから,押収してある覚せい剤4袋(平成13年押第10号符号1ないし3)及び大麻2袋(同号符号4,5)を没収する。

理由

(犯罪事実)

第1被告人A,同Bは,Dほか数名と共謀の上,金品を強取しようと企て,平成11年12月9日午後9時55分ころ,横浜市a区b○丁目○番○号c○号及び○号E(当時58歳)方居室に○号室北側ベランダの肘掛け窓から侵入し,同所において,同人及びF(当時47歳)に対し,「顔を見てないな。見たら殺すぞ」「静かにしろ。騒ぐな」などと語気鋭く申し向け,同人らの口唇部・両眼・両手首等をそれぞれ所携のガムテープで緊縛した上,けん銃様のものを上記Eに突き付けるなどの暴行・脅迫を加えて同人らの反抗を抑圧し,同人ほか5名所有又は管理に係る現金約1214万円及び腕時計6個ほか49点(時価合計約3432万円相当)を強取し,

第2被告人3名は,Gと共謀の上,

1  金品を強取しようと企て,同12年1月12日午後6時30分ころ,長野県d郡e村大字f○番地H(当時67歳)方玄関から同居宅内に押し入って侵入し,同所において,同人に対し,その頸部に所携のスタンガンを押し当てて通電し,更にこもごも手けんでその頭部等を殴打したり,その胸腹部等を足蹴にするなどの暴行を加える一方,同人の妻I(当時66歳)に対し,手けんでその顔面を殴打し,所携のナタを突き付けながら,「静かにしろ。殺すぞ」旨申し向けて脅迫した後,両名の口唇部・両眼・両手首等を所携のガムテープ等で緊縛した上,クロロホルムを浸み込ませたタオルで両名の鼻口部をふさぎ,これを吸引させて両名を人事不省に陥らせてその反抗を抑圧し,両名ほか1名所有の現金約139万1250円及びホーム金庫1基ほか7点(時価合計1万1000円相当)を強取し,その際,前記各暴行により,前記Hに対し,全治までに約4週間を要する頭部打撲・挫創,胸部打撲,右肋骨骨折等の傷害を負わせ,前記Iに対し,全治までに約1週間を要する左顔面打撲,左眼球結膜下出血の傷害を負わせ,

2  金品を窃取しようと企て,同月19日ころ,東京都新宿区g○丁目○番○号第hマンション○号室J方玄関扉の施錠部分を所携のバールで破壊して同居室内に侵入し,同所において,同人所有に係る指輪10点ほか1457点(時価合計2230万2100円相当)及び株券196枚を窃取し,

第3被告人Bは,K,L,Mらと共謀の上,

1  不正に入手した郵政省発行に係るJ名義の郵便貯金通帳等を利用して郵便貯金払戻名下に金員を詐取しようと企て,同月21日午前9時ころから同日午前9時27分ころまでの間,東京都中央区i○丁目○番○号jホテル1階ロビーラウンジほか数箇所において,行使の目的をもって,ほしいままに,ボールペンを用いて,委任状用紙の委任者氏名欄に「J」と記入し,その名下に「J」と刻した印鑑を押捺し,代理人氏名欄に「K」などと記入して上記JがKを代理人に委任する旨のJ名義の委任状1通を偽造し,さらに,払戻金額欄に「¥6000000」,おなまえ欄に「J 代理人K」と記入するなどして郵便貯金払戻金受領証1通を各偽造した上,同日午前9時32分ころ,同区k○丁目○番○号l郵便局において,同局局員Nに対し,上記偽造に係る上記郵便貯金払戻金受領証及び上記委任状を,上記通帳とともに提出して行使し,KがあたかもJの正当な代理人として郵便貯金の払戻等の権限があるかのように装って,現金600万円の払戻しを請求し,上記Nらをして当該請求は正当な権限に基づく払戻請求である旨誤信させ,よって,即時同所において,上記Nらを欺いて,同人らから郵便貯金払戻名下に現金600万円を交付させ,

2  不正に入手した郵政省発行に係るJ名義の定額郵便貯金証書2通等を利用して定額郵便貯金解約名下に金員を詐取しようと企て,同月24日,東京都千代田区m○丁目○番○号ホテルn1階飲食店oにおいて,前同様にJ名義の委任状1通を偽造した上,同日午前11時42分ころ,同区m○丁目○番○号p郵便局において,同局局員Oに対し,前記定額郵便貯金証書2通の各表面に記載された受取書部分のおなまえ欄に「J代理人K」と記入するなどしたJ名義の定額郵便貯金証書2通とともに上記偽造に係る委任状を提出して行使し,前同様に装って,現金1570万8000円の解約を請求し,上記Oらをしてその旨誤信させ,よって即時同所において,上記Oらを欺いて,同人らから貯金解約名下に現金1570万8000円を交付させ,

第4被告人A,同Cは,Pと共謀の上,婦女子のみ居住する居宅に侵入して金員を強取した上,強いてわいせつな行為をしようと企て,同年2月19日午後8時20分ころ,静岡県q郡r町s○番地Q(当時45歳)方居宅に無施錠の掃き出し窓から侵入し,同所において,

1  上記Q及びR(当時15歳)に対し,「声を出すな。動くと殺すぞ」などと語気鋭く申し向け,同人らの両腕をつかんで後ろ手に締め上げて床に押さえ付け,同人らの口唇部・両眼・両手首等をそれぞれ所携のガムテープで緊縛した上,手けんで上記Qの頭部を殴打するなどの暴行・脅迫を加えて同人らの反抗を抑圧し,さらに,S(当時80歳)に対し,やにわにその口唇部・両眼・両手首等を所携のガムテープで緊縛して同人の反抗を抑圧し,上記Qほか1名所有又は管理に係る現金約497万4000円及びクレジットカード1枚を強取し,その際,上記Qに対し,上記暴行により加療約2週間を要する頭部打撲・血腫,左前腕皮下血腫等の傷害を負わせ,

2  上記Qに対し,同人が上記暴行・脅迫により抗拒不能の状態であるのに乗じて,同人の上衣に手を差し入れてその乳房を揉むなどしてもてあそんだ上,同人のズボンとパンティを無理矢理脱がし,同人の陰部を手指でなで回すなどし,もって強いてわいせつな行為をし,

3  上記Rに対し,同人が上記1の暴行・脅迫により抗拒不能の状態であるのに乗じて,同人の上衣をまくり上げてその乳房を手指で揉むなどしてもてあそんだ上,同人のズボンとパンティを無理矢理脱がし,同人の太股を開いて陰部を露出させてこれを写真撮影するなどし,もって強いてわいせつな行為をし,

第5被告人3名は,Dほか数名と共謀の上,平成12年4月30日午前零時ころ,東京都t市u○丁目○番○号T方東側ガラス窓から同家屋内に侵入し,同所において,同人ほか1名所有に係る絵画1点ほか29点(時価合計589万6000円相当)及び株券77枚を窃取し,

第6被告人3名は,U,Dほか数名と共謀の上,金品を強取しようと企て,同年5月1日午後6時5分ころ,被告人Bらにおいて,宅配便の配達員を装って,v市w○番○号V(当時64歳)方居室玄関から同室内に押し入って侵入し,同所において,同人の身体を押さえつけながらクロロホルムを染み込ませたタオルをその鼻口部に押し当て,これを吸引させて同人を失神させた後,同人の口唇部・両眼・両手等を所携のガムテープで緊縛するなどしてその反抗を抑圧し,同人から現金約9万円及び指輪7個ほか70点(時価合計627万7380円相当)を強取し,その際,上記クロロホルムの薬理作用等により,同人に胃内出血を伴う胃粘膜裂創等の傷害を負わせ,そのころ,同所において,同人を上記胃内出血による気道内血液吸引に基づく窒息により死亡させ,

第7被告人Bは,

1  法定の除外事由がないのに,同年9月9日ころ,x市y町○丁目○番地の○付近路上に駐車中の普通乗用自動車内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用し,

2  みだりに,同月12日,x市y町○丁目○番地付近路上に駐車中の普通乗用自動車内において,覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶4.467グラム,大麻を含有する樹脂状固形物1.262グラム及び同乾燥植物細片0.618グラムを所持した。

(証拠)省略

なお,被告人B及びその弁護人は,判示第2の1の事実について,強取した現金は多くても6,70万円にすぎない旨供述・主張しているが,被害者Hは,金庫の中の茶封筒に入っていた50万円が盗まれた旨,同Iは,夫から年末に預かった現金50ないし52万円及び娘からもらった現金7万1250円が盗まれた旨,同Wは,実家である本件被害現場に置いていたアタッシュケースが盗まれており,中には現金30万円くらいが入っていた旨,それぞれ明確に供述しており,同人らの供述には信用性が認められることからして,被害金額は約139万1250円であると優に認定することができる。

(量刑理由)

1(1)  本件各犯行は,被告人Bのみに関する事件(第3,第7)を除いては,被告人らが,時に不良中国人グループと共に,約4か月という短期間に強窃盗等を繰り返していたものであって,いずれの犯行も金銭獲得目的の職業的犯行であり,極めて悪質である。

(2)  以下,事件ごとに述べるに,判示第1の犯行は,被告人A及び同Bが,不良中国人グループらと共に,金品のあるマンションの情報を入手した上行った計画的犯行である上,被害者方居室に侵入するや,いきなりその手足等をガムテープで緊縛するといった暴行を加えるという凶悪な犯行であり,被害金額も合計で4500万円あまりという多額にのぼっている。次に判示第2の1の犯行は,被告人3名がBの舎弟であったGと共に行ったものであるが,やはり多額の金員の保管されているという民家の情報を入手した上,犯行に用いる凶器等を準備して行った計画的な犯行であり,道を教えようとした被害者の善意に乗じて居宅内に侵入するなど悪質である。さらに,被告人らはスタンガンを用いたり,被害者にクロロホルムを吸引させて失神させるといった危険性の高い暴行を加えており,また,多額の金品が強取されるとともに,被告人らの暴行により被害者夫婦が負傷するに至っている。

判示第2の2,第5の各犯行も計画的,悪質な犯行であり,窃取された株券の時価相当額もあわせれば,被害金額は2件合計で2億数千万円にも上っている。さらに,被告人A及び同Cが知人のDとともに犯した判示第4の犯行では,やはりガムテープで被害者を緊縛するといった暴行を加えて多額の金品を強取している上,被害を警察に届けられることを防止するため,わいせつ行為にも及んでおり,被害者らの人格を蹂躙する卑劣かつ悪質な犯行である。

(3)  そして,被害者が死亡するに至るという深刻な被害結果の発生した判示第6の犯行についてみるに,被告人らは前記各犯行と同様に,多額の金品のありそうな家の情報を入手し,現場の下見などの周到な準備をした上,中国人グループらと共謀して,犯行に及んでいるのであって,計画的で悪質な犯行であり,また多額の金品獲得のみを目的とした犯行動機に酌量の余地はない。犯行態様も,宅配便の配達を装って被害者宅に侵入するや,いきなり被害者を殴打したり,クロロホルムを吸引させ失神させた上,顔面や手足等をガムテープで緊縛するといった凶悪なものである。

なお,上記判示第6事件の犯行態様に関し,被告人Cは,自分は見張りなどをしていただけであり,被害者をガムテープで緊縛したり,クロロホルムを吸引させたことはない旨供述しているが,被告人Cだけが被害者に対する暴行に加わらなかったというのは,被告人らの犯行態様や,共犯者間における立場などに照らし不自然であり,被告人Cの供述には,クロロホルムの所持状況等について,捜査段階と公判とで内容が齟齬する部分が見られ,被告人Bが具体的かつ明確に被告人Cとともに被害者をガムテープで緊縛し,また,再度クロロホルムを吸引させた旨供述していることに照らし,信用できない。

(4)  また,被告人Bは,判示第2の2において窃取した預金通帳等を利用し,合計2000万円以上の現金を詐取しており(判示第3の1,2),これも共犯者と役割を分担した上行われた計画的犯行であって被害結果が大きく,さらに,上記各犯行後に覚せい剤などの違法薬物を所持し使用するに及んでいる(判示第7の1,2)。

(5)  以上のように,被告人らによる各犯行とも被害結果は重大であり,被告人らにより被害弁償等がなされる見込みもない。被害を受けた被害者の処罰感情は誠に厳しく,被告人らに対する厳罰を求めるのももっともであるが,ことに,夫や父を突然理不尽な形で失うことになった判示第6の事件の遺族の悲しみ,悔しさは察するにあまりある。

2(1)  進んで,以下被告人ら個別の情状についてみるに,被告人Aは,本件各犯行の際,被告人ら犯行グループの中心的存在として活動しており,時に中国人グループと連絡を取り合って犯行を計画するとともに,いずれもの犯行についてもこれを主導したものである。また,現在は暴力団を脱退しているものの,依然として暴力団と深い関係を有しており,これまでも窃盗罪などで多数回服役しているなど,その犯罪性向は高く反社会性も明らかである。

(2)  次に被告人Bは,時に自らの舎弟を犯行に参加させるなど,被告人Aと共に各犯行において主導的な役割を果たしたものであって,判示第6の事件の際も,実行犯として被害者を緊縛したりクロロホルムを吸引させるなどの行為を行っており,積極的に犯行に関与している。また,犯行当時は暴力団幹部として活動しており,本件各犯行も暴力団員としての活動資金獲得目的などで行われたことが窺われ,これまで前科4犯があることなどからやはり犯罪性向は高く,規範意識も欠如しているといわざるを得ない。

(3)  さらに被告人Cは各犯行当時被告人Aの舎弟として活動しており,各犯行についても被告人Aに誘われて参加したものであって,共犯者間における立場が従たるものであることは否定できないが,犯行に参加するに至ったのは,被告人Aとの関係上やむを得ず参加したといったものでは全くなく,各犯行において実行行為を分担して行うなど主体的,積極的に関与している。判示第6の事件でも被告人Bらと共に被害者に対する暴行を分担して行っていると認められ,各犯行に際して果たした役割は決して小さなものではない。また,かつては暴力団員として活動していて前科も6犯あり,犯行当時も被告人Aの舎弟として犯罪行為を繰り返し行っていたなど,やはり反社会性は顕著である。

3  以上からすれば,被告人らの刑事責任は極めて重大であり,判示第6の事件に関し,被告人らに殺意は認められず,被害者が死亡したのは被告人らにとっても意外なことであったと認められる上,他の強盗致傷の際も,被告人らの主たる目的は財物の奪取であり,被害者らに傷害を負わせようとする積極的な意図は窺われないこと,各被告人とも各犯行を概ね認めており,遅きに失するとはいえ被害者に対して謝罪の意を表明するなど反省の情が窺われること,被告人Aについては,知人が出廷し,被告人の更生を望む旨述べていること,被告人Bについては,被告人Bが供述したことにより判示第6の犯行の詳細が捜査機関に明らかになったという経緯が窺われること,被告人Cについては,自首が成立するとは認められないものの,判示第4の犯行に関し,取調べに応じて素直に事実を認めたことといった被告人らのために有利に斟酌すべき事情等を考慮しても,被告人らの刑事責任の重大さに鑑みれば,被告人らについて酌量減軽をするのは相当でなく,いずれも求刑どおりの無期懲役刑に処するのが相当である。

(検察官中村融,国選弁護人前田一(被告人Aについて),同中野勇夫(被告人Bについて),同鈴木義仁(被告人Cについて)各出席)

(求刑-3名とも無期懲役,被告人Bにつき没収)

(裁判長裁判官 矢村宏 裁判官 柳澤直人 裁判官 石井芳明)

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