横浜地方裁判所 平成12年(ワ)4978号 判決 2006年9月21日
原告
神奈川県厚生農業協同組合連合会労働組合(以下「原告組合」という。)
代表者執行委員長
A
原告
X1(以下「原告X1」という。)
原告
X2(以下「原告X2」という。)
原告3名訴訟代理人弁護士
伊藤幹郎
同
杉本朗
同
菊地哲也
被告
神奈川県厚生農業協同組合連合会(以下「被告連合会」という。)
代表者代表理事
Y1
被告
Y1(以下「被告Y1」という。)
被告両名訴訟代理人弁護士
植松宏嘉
同
近衛大
主文
1 被告連合会は,原告組合に対し,660万円(ただし,330万円の限度で被告Y1と連帯して)及びこれに対する平成13年1月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y1は,原告組合に対し,被告連合会と連帯して330万円及びこれに対する平成13年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告組合のその余の請求並びに原告X2及び原告X1の各請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告組合に生じた費用の20分の19,被告連合会及び被告Y1に生じた費用の各10分の8を原告組合の負担とし,原告X2に生じた費用,被告連合会及び被告Y1に生じた費用の各10分の1を原告X2の負担とし,原告X1に生じた費用,被告連合会及び被告Y1に生じた費用の各20分の1を原告X1の負担とし,原告組合に生じた費用の40分の1,被告連合会に生じたその余の費用を被告連合会の負担とし,原告組合及び被告Y1に生じたその余の費用を被告Y1の負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
以下においては,別紙「関係者一覧表」記載の略称を使用する。
第1請求の趣旨
被告らは,連帯して,原告組合に対し8500万円,原告X2に対し1000万円,原告X1に対し500万円及びこれらに対する被告連合会については平成13年1月12日から,被告Y1については同月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 被告連合会は,昭和24年に設立認可を受けた医療,保健,老人の福祉に関する事業等を営む法人であり,相模原協同病院(以下「相模原病院」という。),伊勢原協同病院(以下「伊勢原病院」という。)等を開設し,その従業員は約1200名である。
被告Y1は,昭和56年12月に伊勢原病院に就職し,平成8年4月に相模原病院の事務長になり,平成11年7月に被告連合会の参事に就任した。
イ 原告組合は,昭和54年11月24日,相模原病院職員労働組合と伊勢原病院職員労働組合とが合併して設立された労働組合であり,その組合員数は,平成11年6月1日当時約950名であったが,現在は約100名である。原告組合には,相模原支部,伊勢原支部等がある。
原告X2は,平成7年7月に原告組合の臨時専従,翌8月に正規専従になり,現在は原告組合の書記次長を務めている。
原告X1は,昭和48年3月にa薬科大学を卒業し,昭和50年に被告連合会に薬剤師として採用され,平成3年4月に伊勢原病院の薬局長となったが,平成9年4月に資材部(現在は総務企画部)資材課長に配転になった。他方,原告X1は,平成8年11月に原告組合中高年対策専門委員及び伊勢原支部特別執行委員・相談役になり,現在は原告組合執行委員及び伊勢原支部相談役を務めている。
(2) 被告らの原告組合に対する不法行為
ア 被告連合会による組合費のプールとプール金の返還
被告連合会は,平成6年8月31日,原告組合との間で,「労働組合費チェック・オフに関する協定」を締結し,同年10月から,この協定に基づきチェック・オフを開始した。
被告連合会は,かねてより(遅くとも平成8年ころから)原告組合の弱体化を企図し,その一環として原告組合の財政に打撃を与えるため,相模原病院総務課職員であるEをして,平成8年6月に原告組合に脱退届を提出させ,平成9年7月にその脱退が有効であることを前提に原告組合を被告とする組合費返還請求訴訟(以下「E事件」という。)を提起させた。被告連合会は,同年9月9日付け「組合費のチェック・オフについて」と題する書面で,原告組合に対し,被告連合会にチェック・オフ中止依頼書を提出した職員のうち原告組合から中止要請のない者については,同月分給与よりチェック・オフに相当する金額をプールし,E事件の一審判決の内容等を勘案し,その処理の結論を出したい旨通告した。そして,被告連合会は,平成11年6月9日に「組合員がその所属の労働組合から自らの意思により脱退することは自由」であるなどとするE事件の一審判決が言い渡されると,原告組合に対し,同月28日付け「会でプールしている労働組合費の取り扱いについて(通知)」と題する書面により,プールした金を職員全員に返還することを通知するとともに,同日付け「労働組合費のチェック・オフについて」と題する書面により,原告組合に脱退届を提出したことを理由に労働組合費の給与天引きの中止を申し出た職員については,同年7月からチェック・オフを行わない,新入職員については,同月以降組合費控除依頼報告書に本人の署名押印がなければチェック・オフを行わない旨通知した。被告連合会は,同月3日,101名の対象者にプールしていた組合費を返還した。
被告連合会の上記行為は,原告組合の弱体化という不当労働行為意思に基づいて行われた違法行為であるから,被告連合会は不法行為責任を負う。
イ 被告らによる脱退勧奨
(ア) 相模原病院b病棟のF婦長(看護部の所属長)は,平成11年6月16日,看護婦らにE事件の判決文を示して,原告組合に入るも入らないもどちらでもよくなった旨発言した。また,同日,組合脱退の自由に関する判示部分に印が付けられた同判決文が,同病棟看護室のスチール棚に取り付けられ,病棟の連絡文等を入れておくためのビニール袋に入れられていた。
伊勢原病院c病棟のG婦長(看護部の所属長)は,同月中旬,ところどころに朱線が入ったE事件の判決文を病棟のホワイトボードに掲示した。
被告連合会は,E事件の判決が言い渡された直後ころ,その判決理由を利用して原告組合を弱体化させることを企図し,F婦長らに指示して上記脱退勧奨行為を行わせ,これにより原告組合の団結権を侵害したから,不法行為責任を負う。
(イ) 被告Y1は,平成11年6月16日,相模原病院が診療報酬を不正に請求しているとの内部告発があったとして,神奈川県福祉課から事情聴取を受けた。原告組合が,同月22日の団体交渉において,入院患者の退院一律1日延長問題を取り上げ,不正行為を指示した被告Y1と相模原病院のH院長の責任を追及したところ,被告連合会は,同月25日と翌26日,相模原病院に勤務する全職員を対象に診療報酬不正請求問題についての説明会を開催した。この席で,H院長は,「一連の問題は証拠がないが,提出された資料を見れば組合の上の者がやったとの判断が付く。投書をした人は組合員で組合の重要なポストにおられる医師です。」「組合が病院をつぶそうとしている。」などと発言し,被告Y1は,「同じ職員を管理職から降ろせと要求する組合はどうなのか。大損害を与えられて病院がつぶされてしまうかもしれない。会につくのか,組合につくのか,それはみなさんの判断です。」「今回,憲法の上で脱退が自由だという判決が出ました。」などと発言した。
被告らは,共謀して,原告組合が診療報酬不正請求問題について被告Y1らの責任を追及したことを逆手にとって原告組合を一挙に壊滅させようと企図し,被告Y1及びH院長をして上記脱退勧奨を行わせ,これにより原告組合の団結権を侵害したから,不法行為責任を負う。
(ウ) 相模原病院のF婦長は,平成11年6月25日,b病棟のナースステーションの机の上に,原告組合への要望書や脱退届の用紙を広げて看護婦らに閲覧させるとともに,告発文らしき文書を置いて脱退を勧めた。F婦長は,同年7月6日ころ,新人看護婦らに対し,「病院がつぶされてしまうのにあなたたちは脱退しなくても平気なの。」と発言した。
相模原病院のI副看護部長(兼病棟婦長)は,同年6月25日,看護婦らに対し,原告組合への要望書や脱退届と合わせて,「病院を守る会」の呼び掛け文書を提示した。また,I副看護部長は,原告組合のJ執行委員(相模原病院看護部所属)に対し,「あなただまされているわよ。組合が病院をつぶしにかかっているのよ。乗っ取ろうとしているのよ。それが駄目ならということで病院に何を言ってきていると思う。専従が和解金として億単位を要求しているのよ。」と述べた。
被告連合会は,原告組合を壊滅させることを企図し,F婦長らに指示して,上記のとおり原告組合の運営に対する支配介入及び脱退勧奨を行わせたのであり,これにより原告組合の団結権を侵害したから,不法行為責任を負う。
(エ) 被告連合会は,平成11年6月30日,同年7月1日及び同月8日,伊勢原病院に勤務する全職員を対象に診療報酬不正請求問題についての説明会を開催した。この席で,同病院のK院長は,「告発した医者,あえて医者と呼ばせてもらいますが,絶対に許せない。それに呼応するようにして労組のなんと言いますか,専行,独断専行といいますか。告発を公にするようなことを私は絶対に認めるわけにはいかない。病院の存続に関わる問題だと思っている。」などと発言した。また,伊勢原病院のL事務長は,「大きな問題というのは,まず告発文書が出たこと,それに労組が関わっている点が想定されるわけです。」「事務長と院長を交替しろというような要求を出している,労組がいつも言っているように本当に病院や職員を守るためならこのようなことはしない。」「支部の方でも説明会をやるとでておりますけど,是非,会や病院の言うことが信用できるのか,労組の言うことが信用できるのか,皆さんもよくそこいらを御判断いただきたい。」などと発言するとともに,告発文書について「文章の中に言葉が同じようなものが非常に出てきている」「だれが見ても労組がいつも作っているような新聞と非常によく似ている」などと発言した。
被告連合会は,原告組合を壊滅させることを企図し,K院長らに指示して,上記のとおり原告組合の団結権侵害行為を行わせたから,不法行為責任を負う。
(オ) 平成11年6月25日,相模原病院においてはI副看護部長ら7,8名が,伊勢原病院においては放射線室のM室長ら11名が,「病院を守る会」を発足させた。さらに,この会を基盤にして第2組合が,同年8月上旬に相模原病院において,同年9月1日に伊勢原病院において結成された。
被告連合会は,原告組合の壊滅策の第2弾として組合分裂を策し,上記管理職らをして,「病院を守る会」を発足させた上で第2組合の結成を支援し,これにより原告組合の団結権を侵害したから,不法行為責任を負う。
(カ) 以上のように,被告らは,脱退勧奨をしそれにより原告組合の団結権を侵害したから,原告組合に対し不法行為責任を負う。仮にこれが認められないとしても,(ア)ないし(オ)に記載の各人の行為は被告連合会の業務の執行につきされたものであるから,被告連合会は,使用者責任を負う。
(3) 被告らの原告X2に対する不法行為
ア 被告Y1は,平成9年3月27日,相模原病院整形外科医であるN医師と面談した際,原告X2について,「いまリードしているのは済生会にいたらしい。守衛をやっていて,闘争をやっているらしい。その組織をつぶしたなってことが勲章になっていく人たちである。」などと発言した。
イ H院長は,同年12月19日に行われた相模原病院の薬局職員の忘年会において,原告X2について,「相模原警察がマークしている,彼は共産党だ。」などと発言した。
ウ 原告組合が平成11年6月24日相模原病院において診療報酬不正請求問題について説明会を開催した際,O婦長は,「組合の幹部がやめるとき,お金をもらって逃げると聞いたんですが,どうなんですか。」と発言した。
エ I副看護部長は,(2)イ(ウ)に記載のとおり,同月25日,J執行委員に対し,「組合が病院をつぶしにかかっているのよ。乗っ取ろうとしているのよ。それが駄目ならと言(ママ)うことで病院に何を言ってきていると思う。専従が和解金として億単位を要求してきているのよ。」と発言した。
以上の各発言は,いずれも被告らによる悪意ある意図的なデマであり,これにより原告X2の名誉や信用を著しく傷つけたから,被告らは,原告X2に対し不法行為責任を負う。仮にこれが認められないとしても,被告Y1らの上記発言は被告連合会の業務の執行につきされたものであるから,被告連合会は,使用者責任を負う。
(4) 被告らの原告X1に対する不法行為
被告Y1は,平成8年8月21日,原告X1の妻A2を勤務時間中に呼び出し,原告X1について,「最近,組合活動を大分熱心にやっているようだ。これ以上,より一層,組合活動に力を注ぎ頑張るということは,事務長としての職責上,自分も体を張って対抗する。牙をむき出しにしても闘う。それはA2さんの旦那であっても闘うから承知しておいてくれ。」などと発言した。被告Y1は,このように原告X1に敵意を抱いていたことから,被告連合会に働きかけて,平成9年4月,原告X1を伊勢原病院薬局長から厚木本所内の部下一人の資材部資材課長に配転させ(以下「本件配転」という。),薬剤師としての主要な仕事を奪った上に,病院運営情報から遮断させた。さらに,被告連合会は,平成11年11月1日,当時の唯一の部下である資材課のP課次長も他へ配転させ,原告X1を職員から隔離してその影響力を断ち切り,組合活動を困難な状況にした。
他方,被告連合会の医薬品の価格交渉は年々日本文化厚生農業協同組合連合会(以下「文化連」という。)に委託する割合が増加していたこと,建値制度の完全実施に伴い医薬品の価格交渉に薬剤師が関与する必要性が減少し,資材部に薬剤師を置く必要はなかったこと,T常務理事も平成6年4月ころに今後資材部に薬剤師はいらない旨発言したこと,他県の厚生農業協同組合連合会では資材部に薬剤師が配置されていないこと,P課次長は優秀であり,被告(ママ)X1が配置されなくても資材部の運営は可能であったこと,被告連合会では薬剤師が不足していたことからすれば,本件配転は業務上の必要性に基づいて行われたものではない。
被告らの上記行為は,原告X1に対する差別的取扱いであり,労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に該当し違法であるから,被告らは,原告X1に対し不法行為責任を負う。
(5) 原告組合の損害 8500万円
ア プール金 910万円
(2)アに記載のとおり,被告連合会は,組合員の給与からチェック・オフした組合費を原告組合に引き渡す義務があるにもかかわらず,平成9年9月分から平成11年6月分までのチェック・オフした組合費910万円をプールした上,脱退組合員に引き渡した。よって,原告組合は,組合費910万円の損害を被った。
イ 組合費喪失分 6090万円
(2)イに記載のとおり,被告らは,平成11年6月25日から原告組合に対し大がかりな脱退煽動などの攻撃を行い,その組合員数を約100名にまで減少させた。かかる被告らの不法行為がなければ,同月16日時点での組合員959人分に相当する組合費269万7250円が毎月チェック・オフされて原告組合に納入されたはずであるところ,平成12年12月15日時点で実際に納入されたのは組合員98人分に相当する組合費30万7730円である。原告組合は,その差額6090万円の損害を被った。
ウ 慰謝料 1000万円
原告組合は,被告らの不法行為によって組織的打撃を被り,名誉と信用が傷つけられた。その慰謝料は,1000万円が相当である。
エ 弁護士費用 500万円
原告組合は,被告らに対する本件訴訟を提起するために,3名の弁護士に訴訟委任し,弁護士報酬契約を締結した。その弁護士費用は,500万円が相当である。
(6) 原告X2の損害 1000万円
ア 賃金喪失相当分 650万円
原告組合は,被告らの原告組合に対する打撃により組合員が急激に減少したため,平成11年11月以降原告X2に対し賃金を支払えなくなった。よって,原告X2は,賃金相当額である650万円の損害を被った。
イ 慰謝料 350万円
原告X2は,被告らの誹謗中傷によってその名誉と信用を著しく傷つけられた。その慰謝料は,350万円が相当である。
(7) 原告X1の損害 500万円
原告X1は,薬剤師としての主要な業務を奪われた上,病院運営情報から遮断され,一人職場に隔離されたことにより名誉と信用が著しく傷つけられた。その慰謝料は,500万円が相当である。
(8) よって,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償として,原告組合は8500万円,原告X2は1000万円,原告X1は500万円及びこれらに対する不法行為後の日(訴状送達の日の翌日。被告連合会にあっては平成13年1月12日,被告Y1にあっては同月13日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求する。
2 請求原因に対する認否
(1)ア 請求原因(1)アは認める。
イ 同イのうち,原告組合の組合員数が現在約100名であること,原告X2が平成7年7月に原告組合の臨時専従,同年8月に正規専従になったことを否認し,その余は認める。
(2)ア 請求原因(2)アのうち,被告連合会が,原告組合の弱体化を企図し,その一環として原告組合の財政に打撃を与えるため,Eをして原告組合に脱退届を提出させ,組合費返還請求訴訟を提起させたこと及びプールした金を職員全員に返還することを通知したことを否認し,被告連合会が不法行為責任を負うとの主張を争い,その余は認める。
イ 同イ(ア)の事実は否認し,主張は争う。
ウ 同(イ)のうち,被告Y1が平成11年6月16日神奈川県福祉課から事情聴取を受けたこと,原告組合が同月22日被告Y1とH院長の責任を追及したこと,被告Y1とH院長の同月25日及び翌26日に開催された説明会での発言内容及び被告らが共謀して原告組合が診療報酬不正請求問題について被告Y1らの責任を追及したことを逆手にとって原告組合を一挙に壊滅させようと企図して被告Y1及びH院長をして脱退勧奨を行わせこれにより原告組合の団結権を侵害したことを否認し,被告らが不法行為責任を負うとの主張は争い,その余は認める。
被告Y1とH院長は,事実を説明し,意見を表明したにすぎない。また,被告連合会が,原告組合が内部告発をしたと判断するに十分な根拠があった。
エ 同(ウ)の事実を否認し,主張は争う。
オ 同(エ)のうち,被告連合会が,原告組合を壊滅させることを企図し,K院長らに指示して原告組合の団結権侵害行為を行わせたことを否認し,その余の事実は認め,被告連合会が不法行為責任を負うとの主張は争う。
K院長とL事務長は,事実を説明し,意見を表明したにすぎない。また,被告連合会が,原告組合が内部告発をしたと判断するに十分な根拠があった。
カ 同(オ)のうち,第2組合が病院を守る会を基盤にして結成されたこと,被告連合会が原告組合の壊滅策の第2弾として組合分裂を策し管理職らをして「病院を守る会」を発足させた上で第2組合の結成を支援しこれにより原告組合の団結権を侵害したことを否認し,被告連合会が不法行為責任を負うとの主張は争い,その余は認める。
キ 同(カ)の主張は争う。
(3) 請求原因(3)のうち,ア及びエを否認し,イ及びウは不知,被告らが不法行為責任を負うとの主張は争う。
(4) 請求原因(4)のうち,被告Y1の発言内容,被告Y1が原告X1に敵意を抱いていたことから,被告連合会に働きかけて,原告X1を配転させて薬剤師としての主要な仕事を奪い,病院運営情報から遮断させて組合活動を困難な状況にしたことを否認し,被告らが不法行為責任を負うとの主張は争い,その余は認める。
本件配転は,前任者の退職に伴い,薬局長であった原告X1が適任であったので,その後任の資材課長に任命したものであり,業務上の必要性に基づくものである。なお,この人事は,本所の課長への昇進である。
(5) 請求原因(5)ないし(7)は否認する。
第3当裁判所の判断
1 事実経過
争いのない事実,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実が認められる。
(1) 当事者
ア(ア) 被告連合会(原告組合との交渉の場等では,単に「会」と呼ばれることもある。)は,昭和24年4月2日に農業協同組合法に基づき設立された農業協同組合連合会であり,医療,保健,老人の福祉に関する事業等を目的とし,横浜市に主たる事務所(「本所」と呼ばれている。)を置き,相模原病院,伊勢原病院,健康管理センター(厚木市所在)等を開設・運営している。本所の一部部局は健康管理センター内にあり,これは厚木本所と呼ばれている。
(イ) 被告連合会は,役員として会長,副会長,常務理事等を置き,理事を補佐し会長の定めるところにより業務執行を統轄・統制する職として参事(一般職員の最上級職)を置いている。
(ウ) 相模原病院及び伊勢原病院には,それぞれ病院長及び副院長が置かれ,その下に診療部,看護部及び事務部等が置かれている。
診療部には診療各科,薬局,放射線室,検査室等が(薬局以下は平成11年4月1日から新設の医療技術部に所属),看護部には総婦長及び副総婦長(同日から看護部長及び副看護部長に改称)の下に手術室等の各部門及び病棟の各フロアごとにそれぞれ婦長が,事務部には事務長(事務部を統轄して所管事務を処理するとともに,病院全般の管理業務に参画し,院長を補佐する。)及び事務次長の下に総務管理課等が置かれている。
各病院では,病院長,副院長,総婦長及び事務長が「四役」と呼ばれる最高幹部職員である。病院勤務職員のうち,診療各科の部長ないし医長,薬局長,室長,婦長及び課長は,所属長とされ,所属職員を指揮監督し,所管業務を処理する。所属長は,所属職員の人事考課につき,課次長及び主任については第一次評価者,一般職については最終評価者である。
各病院は,事業運営のための協議機関として,毎月1回,病院長,事務長,総婦長,医師の代表者,所属長等で構成される病院運営会議を開催している。病院運営会議の内容は,所属長を通じて所属職員に説明されている。
イ 被告Y1は,昭和56年12月,伊勢原病院に就職し,平成8年4月に相模原病院事務長になり,平成11年7月,被告連合会の参事に就任した。
ウ 原告組合は,昭和54年11月24日,相模原病院職員労働組合と伊勢原病院職員労働組合とが合併して設立された労働組合であり(略称は神厚労),相模原病院に相模原支部,伊勢原病院に伊勢原支部,健康管理センターに厚木支部を置き,組合員数(組合費をチェック・オフされていた人数)は平成11年6月16日当時959名であった。
エ 原告X1は,昭和48年3月にa薬科大学を卒業し,昭和50年に被告連合会に薬剤師として採用され,昭和51年7月から1年間,相模原病院職員労働組合の執行委員長を務め,原告組合結成後の昭和58年7月から1年間,伊勢原支部執行委員を務めた。原告X1は,平成3年4月に伊勢原病院薬局長となり,平成9年4月1日に厚木市所在の本所資材部資材課長に配置転換された(本件配転)。
オ 原告X2は,昭和54年から昭和58年まで,済生会神奈川県病院に当直兼守衛として勤務し,その間労働組合の執行委員長を務めたことがあった。原告X2は,平成7年7月21日,原告組合に臨時専従者として採用され,平成8年8月10日の組合定期大会において書記次長(専従)に選出された。
(2) 看護委員会の設立
原告組合は,平成元年8月,Q委員長(当時書記長)を委員長とする看護委員会を設立し,このころから,看護委員会を中心に看護職員の夜勤についての労働条件改善を求める取組を開始した。原告組合は,平成3年1月7日,被告連合会との間で,看護職員の夜勤は原則として2人以上の体制で行い,1か月当たり8回以内とすること等を定めた「夜勤協定書」を締結した。同協定は,平成5年4月1日から施行され,看護委員会は,そのころから,同協定の遵守状況を確認するため,婦長らが作成する看護職員の勤務表をチェックするようになった。
(3) 原告組合の組合員の範囲をめぐる争い
ア 原告組合設立当初から,被告連合会の各病院の課長,薬局長,室長,婦長等の所属長以下の職員のほとんどが原告組合に加入していたが,本所勤務職員は原告組合に加入していなかった。被告連合会は,原告組合の組合員の組合費につきチェック・オフを行っていた。なお,被告連合会と原告組合との間では,ユニオン・ショップ協定は,締結されていない。
イ 原告組合は,平成6年5月,団体交渉の席上,被告連合会に対し,チェック・オフ協定の締結を求め,同年8月31日に「労働組合費チェック・オフに関する協定」が締結された。その後,被告連合会は,同協定に基づき組合費のチェック・オフを行った。
他方,被告連合会は,上記団体交渉の席上,原告組合に対し,組合員の範囲を整理し,婦長等の所属長,課次長,主任等を組合員から除外することを提案し,以後,組合員の範囲等につき団体交渉が行われたが,合意に達しなかった。
ウ 原告組合は,平成6年3月の大会で,組合費の値上げ,一時金からも組合費を徴収すること等を決議した。同年の夏期一時金支給後,婦長の一部は,自分たちの組合費は高額であると受け止めていたこと,一時金からも組合費を徴収されたこと,婦長の職責である看護職員の勤務割に対して看護委員会から意見が出されること等に不満を抱き,原告組合から脱退したいとの意向を総婦長に伝えた。
被告連合会は,同年10月ころ及び平成7年1月ころに,両病院の総婦長よりその旨報告を受けたが,原告組合と組合員の範囲について協議中であるから結論が出るまで待つように求めた。また,同年4月の病院運営会議においては,婦長らから被告連合会に対し,原告組合からの脱退について質問があったが,被告連合会は,原告組合との協議終了時点で報告すると答えた。
エ 被告連合会と原告組合は,平成6年12月,労働協約検討委員会を設置し,組合員の範囲等について協議を開始した。この中で,被告連合会は,課長職(婦長・課長・室長・薬局長)の所属長及びこれより上位の職位にある者のほか,課次長,主任及び本所の人事担当者を非組合員とすることを提案した。これに対し,原告組合は,本所勤務職員及び健康管理センター勤務職員については課次長以下の職位の者,病院勤務職員については,課次長以下の職位の者のほか,婦長,室長及び薬局長を組合員とすることを提案した。
労働協約検討委員会は,組合員の範囲等について合意に至らず,平成7年3月20日,議論を打ち切った。その後,被告連合会と原告組合は,同年5月24日,組合員の範囲等に関する労働協約の締結につき団体交渉を行ったがここでも合意には至らず,組合員の範囲について,被告連合会は関与しないこととして,協議は終了した。
オ 被告連合会は,平成7年6月22日の伊勢原病院の病院運営会議,翌23日の相模原病院の病院運営会議において,上記団体交渉の経緯等について,「結果:組合への加入脱退は会が関与することでないので,組合員の自由意志とする。チェック・オフについては,組合員が会に組合を脱退した旨を言ってきた場合,会は組合に確認し組合より脱退の通知があった者だけをチェック・オフしないこととする。」と記載した書面を配布して説明した。また,U婦長は,同病院運営会議において,組合の加入脱退は自由意思でよいか再度確認し,L事務長は,「脱退届を出せばいいと思います。自由意思ですので,事務局からはあまり言えません。不当労働行為になってしまいますので」と答えた。
(4) 婦長らの脱退届提出(平成7年)
ア 伊勢原病院のV副総婦長と婦長らの11名は,平成7年7月10日付けで,原告組合に対し,同月31日で脱退する旨の脱退届(統一書式によるもの)を提出した。相模原病院のW婦長は,同月13日,原告組合相模原支部に対し,加入は個人の自由意思が第一と考えており,「組合員になるか否かは本所の方からは本人の自由意志であると聞きおよんでいます。」と記録した書面を提出した。
イ 原告組合は,平成7年7月15日付け抗議文で,被告連合会に対し,上記病院運営会議における説明((3)オ)につき,組合への加入脱退は自由意思とするなどと協議した覚えはなく,入職すると労働組合員となって自動的に組合費のチェック・オフがされてきた慣例を無視して自由意思と一方的に言うことは不当労働行為に匹敵する旨抗議した。
なお,原告組合は,その規約に脱退に関する定めはなく,組合員が本所の管理職になった際等に脱退を申し出た場合には,大会決議でその可否を決する取扱いにしていた。
ウ 伊勢原病院の管理課長は平成7年8月2日付け,検査室長は同月4日付けで原告組合に脱退届を提出した。また,相模原病院のI副看護部長(当時は婦長),F婦長ら14名の婦長は,同月31日付けで,原告組合に脱退届(連名によるもの)を提出した。
エ 原告組合は,平成7年9月4日に伊勢原支部,同月18日に相模原支部で,脱退届を提出した婦長らを対象とする説明会を開催し,脱退を思い止まるよう説得の上,脱退届を留保する取扱いとした。また,原告組合は,同年11月7日付け書面で,被告連合会に対し,組合員の範囲及び組合運営に対する干渉等についての謝罪,ユニオン・ショップ協定の締結などを求めた。被告連合会と原告組合は,労働協約検討委員会を再開した。
(5) 原告組合の専従配置
ア 原告組合は,平成7年7月21日,原告X2を臨時専従者として採用し,同年8月5日の定期大会において,規約を改正して,原告X2を書記局専従事務局員とし,原告X2は組合員となった。被告連合会の職員以外の者が組合員となったのは,原告X2が初めてであった。
イ Q委員長は,平成4年8月から原告組合の執行委員長を務めているが,平成8年3月末に被告連合会を退職し,組合専従者となった。
ウ 原告組合は,平成8年3月30日付け書面で,被告連合会に対し,Q委員長及び原告X2は今後専従役員として団体交渉に参加し発言する旨を通告した。
エ 原告X2は,平成8年8月10日の定期大会において書記次長(専従)に選出された。
(6) 脱退届の提出とチェック・オフ中止依頼等(平成8年)
ア 相模原病院のX放射線室長は,平成8年6月1日付けで,原告組合に脱退届を提出し,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出した。また,平成7年8月31日付けで脱退届を提出した相模原病院の婦長14名((4)ウ)のうちF婦長ら11名は,平成8年6月10日付けで,原告組合に再度脱退届(統一書式によるもの)を提出し,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出した。
被告連合会のB総務部長は,同月3日,原告組合に対し,組合員である役付職員から組合脱退の意思表明とチェック・オフ中止の申出があって困っていると述べた。これに対し,原告組合は,同月11日付け「チェック・オフ手続きに関する申し入れ」と題する書面で,被告連合会に対し,チェック・オフは長年にわたる実質的なユニオン・ショップの労使慣行の一環であるとして,労使慣行を踏まえた対応を求めた。被告連合会は,同月13日付け「組合費のチェック・オフ(給与天引き)について」と題する書面で,原告組合に対し,組合員の脱退届及びチェック・オフ中止願につき,本人から要望書が提出された以上チェック・オフを中止せざるを得ないと考えているが,原告組合としてどのように対処するのかにつき回答を求めた。原告組合は,同月15日付け書面で,被告連合会が意識的に脱退の自由があるとの見解を述べ,結果として事実上脱退を教唆していると抗議し,この問題について労働協約検討委員会で協議するのは困難であるから第三者機関に解決を委ねざるを得ないと通知した。原告組合は,同月19日,神奈川県地方労働委員会に対し,ユニオン・ショップ協定の締結及び組合員の範囲の確定を求めて,あっせんを申請した。被告連合会は,同月24日付け書面で,原告組合に対し,ユニオン・ショップが存在しているとの認識はない,職員よりチェック・オフ中止要望が出されておりチェック・オフを中止しないと労働基準法24条に抵触しかねないので早急に処理したい,組合への加入脱退につき干渉した覚えはない旨回答した。
イ 相模原病院総務課職員のEは,平成8年6月24日付けで,原告組合に脱退届,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出した。
被告連合会は,同年7月2日付け書面で,原告組合に対し,「チェック・オフ協定が締結されている場合でも,組合員が使用者に対しチェック・オフの中止を申し入れたときは,使用者は当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきである。」との最高裁判所判決(平成5年3月25日)を引用し,チェック・オフ中止依頼をしている職員に対する原告組合の対処につき再度回答を要請した。
これに対し,原告組合は,被告連合会に対し,平成8年7月9日付け書面で,ユニオン・ショップの労使慣行が成立しているとの認識を前提にチェック・オフの継続を申し入れ,脱退表明者については同月中に話し合い理解と納得を得られるよう努力する旨伝え,同月13日付け書面で,脱退表明者の半分と話合いを持ち,神奈川県地方労働委員会のあっせんの結果が出るまで待つよう説得したところ,複数の者が了承し,他の者にも,毎月の組合費を原告組合が留保し最終結論が出た段階でその取扱いの結論を出すと伝えた旨,また,被告連合会が脱退の動きを誘導していると感ぜざるを得ず抗議する旨通知した。そこで,被告連合会は,原告組合に対し,説得に応じた者からチェック・オフ継続の意思が確認できたらチェック・オフを継続するので,本人又は原告組合からのその旨の報告を求めたところ,原告組合は,説得に応じた,応じないにかかわらず,脱退表明者全員につきチェック・オフを継続すべきである旨主張した。これを受けて,被告連合会は,原告組合に連絡した上,同月19日付け書面で,チェック・オフ中止願の提出者に対し,最終意思を確認したいので,連絡するように求めた。
ウ 平成8年6月10日付でチェック・オフ中止願を提出していたF婦長ら11名((6)ア)及びEは,被告連合会から意思確認を受け,チェック・オフ中止の意思に変わりはない旨回答した。被告連合会は,同年8月28日付け書面で,原告組合に対し,これらの12名について,最高裁判所判決の趣旨に従って同年9月分給与からチェック・オフを中止する旨を通知した。また,相模原病院のZ健康管理課長は同年7月21日付け,同病院医事課所属のT2は同月22日付け,同課所属のU2は同月23日付けで,被告連合会に対し,チェック・オフ中止願を提出した。被告連合会は,同年8月30日付け書面で,原告組合に対し,これらの3名についてもチェック・オフを中止するが,原告組合が翻意を促し,本人から撤回の意思表示があればチェック・オフを継続する旨通知した。これに対し,原告組合は,翌31日付け書面で,被告連合会に対し,チェック・オフの継続を求めた。
また,同病院のV2健康管理課次長も,同月29日付けで,被告連合会に対し,チェック・オフ中止願を提出した。
エ 被告連合会は,平成8年9月3日,神奈川県地方労働委員会のあっせん手続において,公益委員からチェック・オフ継続の要請を受けて,これを受け入れ,同月12日付け書面で,チェック・オフ中止願の提出者に対しあっせん手続終了までチェック・オフを継続すると通知し,原告組合にもその旨通知した。神奈川県地方労働委員会は,同月26日,被告連合会及び原告組合に対し,組合員の範囲につき,婦長及び診療部の次長以上は本人の自由意思に委ねる層とし,主任以上は労使協議に委ねる層とするとの案を中心に協議を進めてはどうかと提案したが,このあっせんは,平成9年3月27日,不調となった。しかし,被告連合会は,原告組合が同年4月25日不当労働行為の救済申立てをしたことなどから,その後もチェック・オフを継続した。
(7) E事件提起と組合費のプール(平成9年)
ア 平成8年6月24日付けで原告組合に脱退届を提出したEは,脱退届提出者の扱いに関しても討議されると聞き,同年8月10日の組合定期大会に出席したが,結論は出されなかった。Eは,平成9年3月17日,再度,原告組合に脱退届,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出した。同日,相模原病院の婦長11名(そのうち8名は平成7年8月31日に脱退届を提出した者)も,原告組合に脱退届,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出した。
原告組合は,平成9年4月10日,組合員の範囲につき,婦長のみを自由意思に委ねる層とする案を次期定期大会に諮ることを決定し,同月19日付け「神厚労ニュース」に神奈川県地方労働委員会から同趣旨の収束案が示されたとの記事を載せた。
原告組合は,同月17日付け書面で,Eに対し,Z課長((6)ウ)と組んで脱退教唆をしているとして行動を自粛するようにと勧告した。Eは,同月18日,U2,T2((6)ウ)とともにS2相模原支部長と原告組合からの脱退について話し合い,婦長に対しては説明があるのに自分たちには説明がない理由等を質問した。Eは,同月25日,原告組合から,脱退しないでほしい旨の回答書を受領したが,その後Eらと原告組合との間で話合いは行われなかった。
イ E,T2及びV2((6)ウ)の3名は,平成9年7月14日,当庁相模原支部に対し,原告組合を被告として,脱退したことを理由に,徴収された組合費につき不当利得として返還を求める等の訴訟を提起した(E事件)。Eら3名の訴訟代理人弁護士は,同日到達の書面で,被告連合会に対し,原告組合に対する上記訴訟提起を通知するとともに,改めてチェック・オフの中止を要請し,応じないときは被告連合会に対してもしかるべき措置を講じざるを得ないと通知した。
ウ 被告連合会は,平成9年7月19日付け「貴組合への訴訟提起者等の取扱について(照会)」と題する書面で,原告組合に対し,Eを含めたチェック・オフ中止依頼者に対する原告組合としての対応について回答を求めた。これに対し,原告組合は,同年8月2日の定期大会での討議を踏まえて近々考えを整理して回答すると伝えた。
なお,被告連合会は,同年7月24日,Eら3名の訴訟代理人弁護士に対し,チェック・オフ中止の猶予を求めた。
エ 原告組合は,平成9年8月2日の定期大会において,規約を改正して,組合員の資格につき「婦長(士長)は自由意思にゆだねる層」とし,脱退届を提出していた婦長らについては脱退承認決議をし,E及びU2を除名処分,T2及びV2を除籍処分とした。そして,原告組合は,同年9月5日付け「チェック・オフをめぐる訴訟提起者等の扱いについて」と題する書面で,被告連合会に対し,団結権侵害を抑止する義務があるとしてZ課長,Eらの懲戒処分を求めた。
オ 被告連合会は,顧問弁護士の,チェック・オフの取扱いにつき原告組合と係争中であるからチェック・オフを中止せずに被告連合会でプールしておいてはどうかとの助言に従い,平成9年9月9日付け「組合費のチェック・オフについて(通知)」と題する書面で,原告組合に対し,被告連合会にチェック・オフ中止依頼書を提出している職員のうち原告組合から中止要請のないものについては,同月分給与よりチェック・オフに相当する金額をプールし,E事件の一審判決の内容等を勘案し,その処理の結論を出したい,今後他の職員からチェック・オフ中止依頼書が提出された場合も同様とする旨通知した。そして,被告連合会は,チェック・オフ中止依頼書を提出している職員のうち原告組合から中止要請のないものにつき,同月分給与から組合費相当額を控除したが,原告組合には交付せず,自ら保管した。
当初,チェック・オフ相当額のプール対象職員は,1名であった(Eは除名され,婦長は脱退が承認されたこと等による。)。しかし,その後,同年8月から平成10年8月までの間に,婦長3名,課長,課次長,主任等29名,一般職員42名が原告組合に脱退届を提出し,これに伴い,プール対象職員数は,増加した。これらの脱退届は,職場ごとに連名によるものや統一書式によるものが多数あった。
なお,伊勢原病院では,平成9年12月25日の病院運営会議において,L事務長が,原告組合が被告連合会は管理職等を使って脱退工作を行っていると主張しているので,そのような誤解を招くような言動がないよう留意してほしいと口頭で要請し,被告連合会は改めて平成10年1月21日付け書面で同旨の要請をし,L事務長は同年7月23日の伊勢原病院運営会議において所属長に対し再度同様の注意をした。
(8) E事件判決及びプール金の返還(平成11年)
ア 当庁相模原支部は,平成11年6月9日,E事件の判決を言い渡した。同判決は,「組合員がその所属の労働組合から自らの意思により脱退することは自由であり,いわれなく組合脱退の自由を制約することは許されないから,脱退に組合の承認を要するとすることは組合員の脱退の自由を制約するものであって無効である。」と判示して,原告組合に対し,Eに対する組合費の返還を命じた(T2及びV2については,脱退届が原告組合に到達したとは認められないとして,組合費返還請求を棄却した。)。なお,原告組合は,同判決を不服として控訴したが,東京高等裁判所は控訴棄却の判決を言い渡したので,さらに上告したが,最高裁判所は,平成12年6月13日,上告を棄却した。
原告組合は,平成11年6月11日付け「E氏らの『組合費返還請求』訴訟の一審判決と組合費チェック・オフ金額のプールについて(申し入れ)」と題する書面で,被告連合会に対し,E事件の一審判決を利用してプールした組合費を本人に返すことや組合脱退を勧誘することができないことはいうまでもないから,そのようなことをしないよう申し入れた。
イ F婦長は,平成11年6月16日,午前8時ころ出勤し自席でE事件の判決書を読んでいたところ,出勤してきた部下職員4,5人から同判決の内容につき質問を受けたため,同判決書の組合脱退自由に関する判示部分にマーカーで線を引きながら説明した。その後,E事件の判決書(組合脱退自由に関する判示部分にマーカー付き)が相模原病院b病棟看護室の連絡用ビニール袋に入れられていた。
また,伊勢原病院c病棟では,同月中旬,ホワイトボードに,ところどころに朱線が引かれたE事件の判決書が掲示されていた。
ウ 被告連合会は,顧問弁護士の意見を聞いた上,原告組合に対し,平成11年6月28日付け「会でプールしている労働組合費の取り扱いについて(通知)」と題する書面で,E事件の一審判決を受けて近日中にプール金を職員に返還することを通知し,また,同日付け「労働組合費のチェック・オフについて」と題する書面で,同年7月よりチェック・オフの中止を申し出た職員についてはチェック・オフをしないこと,新入職員については本人の意思確認のため組合費控除依頼報告書に本人の署名押印を求め,これがなければチェック・オフをしないことを通知し,同年7月3日,これまでプールしていた職員101名分のプール金を各職員本人に返還した。また,被告連合会は,チェック・オフ中止を願い出た職員及びチェック・オフを依頼しなかった新入職員について,同月分から組合費相当額を控除せずに賃金を支給するような(ママ)った。
原告組合は,同月6日付け「チェック・オフ協定の履行についての協議の申し入れ」と題する書面で,被告連合会に対し,脱退届は被告連合会の組織的な脱退勧誘によるものであるから無効であり,チェック・オフ中止も不当労働行為であるから抗議するとともに,チェック・オフの継続を求める旨通知した。
(9) 内部告発問題(平成11年)
ア(ア) 被告連合会は,経営改善対策の柱の1つとして,全入院患者を対象に退院を1日延長することを提案する,このことが実現すれば,年間2億円,半期で1億円の収入増加が見込まれると記録した「平成10年度下期経営改善に向けて(提案)」と題する書面を作成し,同年10月30日の相模原病院運営会議でこの提案を説明した。病院長は,同年11月2日付け「下期経営改善対策について(お願い)」と題する書面で,各医師に対し,入院患者の退院1日延長を是非とも検討いただきたいと依頼した。
なお,当時,原告組合は,このことを問題として取上げはしなかった。
(イ) 相模原病院整形外科では,プロスタグランディン製剤を保険適用対象外の病名の治療に使用し,保険適用対象の病名を付して診療報酬を請求したことがあり,平成8年ころ,このことが内部告発により厚生省(当時)に発覚して,厚生省から不正請求額相当の返還を命じられた。被告連合会は,この不正請求事件について,相模原病院整形外科の医長であったW2医師を担当医師として減給処分,被告Y1,当時の相模原病院長及び副院長を譴責処分とした。
W2医師は,平成11年5月末ころに被告連合会を退職し,同年6月以降は非常勤で相模原病院に勤務するようになった。なお,平成8年当時W2医師と共に相模原病院整形外科の医長であったN医師は,平成10年7月に原告組合に加入し,平成11年5月当時も相模原病院整形外科に所属していた。
イ 平成11年5月,厚生省に対し,<1>相模原病院において,経営改善対策として全入院患者を対象に退院を1日延期することを医師に伝えた,早急に個別指導,監査をして,管理者に良識のある人がなるようにしてくださいとの内部告発文書及び<2>相模原病院整形外科の特定の医師と管理者が組織ぐるみで現在でもプロスタグランディン製剤を保険適用対象外の病名の治療に使用し,保険適用対象の病名を付して診療報酬を不正請求している,事実を把握してください,相模原病院が良識のある人によって運営されることを望みますとの内部告発文書が送付された(以下これらの内部告発を「本件内部告発」という。)。
<1>の内部告発文書には上記「平成10年度下期経営改善に向けて(提案)」と題する書面が添付され,<2>の内部告発文書には,医師でなければ書けないような医学上の専門的な記録があり,不正請求代表症例と題する一覧表で16件のカルテ番号,患者のイニシャル,保険区分,診療経過が記録された資料が添付されていた。
ウ 被告Y1は,平成11年6月16日,厚生省から連絡を受けた神奈川県福祉部から,本件内部告発があったとの説明を受けて事情聴取を受け,事実関係の調査と改善計画書の作成・提出を求められた。
エ 原告組合は,平成11年6月22日未明,被告連合会に対し,同日に予定されていた団体交渉の議題として,相模原病院における入院日数の引き延ばし問題を追加することを申し入れる旨の書面をファックス送信した。
なお,この議題追加申入れは,Q委員長及び原告X2の2人で決めたものであり,事前に原告組合の執行委員会等で協議されたものではなく,団体交渉直前まで団体交渉参加者その他の組合員には知らされていなかった。
オ Q委員長は,平成11年6月22日の団体交渉の席上,追加議題につき,6月に匿名の職員から電話で内部告発があり,その職員から,外部にも同様の告発をしたと聞いたため,緊急に議題を追加した旨説明の上,退院1日延長を指示したのが被告Y1及びH院長であることを指摘し,被告連合会の対応を同月25日までに回答するよう求め,組合員又は職員が不正行為に荷担したということにならないならそれで収めていこうとの考えもあるが,そうでないときは,告発者が行ったようなしかるべき対応を原告組合としてもせざるを得ないし,声明も出さざるを得ないと発言した。なお,この際,原告組合は薬品の不正使用問題は指摘しなかった。
次いで,原告X2は,医療法28条(都道府県知事は一定の場合には病院管理者の変更を命ずることができる旨の規定)に言及の上,被告Y1及びH院長を管理職から外すことを要求した。
(10) 説明会の開催及び守る会と労働組合の結成(平成11年)
ア 相模原病院及び伊勢原病院は,平成11年6月24日,それぞれ病院運営会議を開催して,本件内部告発があったこと,原告組合が団体交渉で退院1日延長問題を取り上げ,H院長及び被告Y1の交替を要求し,これに応じなければ原告組合も告発者と同様の行動を取るとの発言があったことを報告した。
この報告の内容は,各所属長を通じて職員全体に知れわたることとなり,多くの職員が大きな関心を寄せ,今後の病院運営に危機感を持つに至った者も少なくなかった。
イ 原告組合は,平成11年6月24日,非組合員にも呼びかけて,説明会を開催した。参加者からは「組合が薬の問題で厚生省や県に投書したと聞いた。」「マスコミに流すと言っていると聞いた。」などの質問が出たが,原告X2は,薬の問題は知らなかった,原告組合が被告連合会に指摘したのは退院1日延長問題だけであり,薬の件を団体交渉で問題にしたことはない,マスコミに流すことは絶対ないと説明した。
また,当時組合員であったO婦長は,同説明会において,「組合の幹部がやめるとき,お金をもらって逃げると聞いたんですが,どうなんですか。」と質問した。
ウ その後,今後の病院運営に危機感を持った婦長らが中心となって,原告組合に対する要望書に署名を集める準備を行い,また,病院を守ることを目的とした会合の開催を呼びかけた。
そして,両病院の各部署ごとに,平成11年6月24日から同月28日にかけて,原告組合に対し,「今回の組合の行動について,私たちの意志を無視したやり方には,ついていけません。患者,病院職員を窮地に陥れる行動は,絶対にやめてください。」等と記載された要望書を送付した。この要望書に署名した職員総数は,約290名に上った。
エ 被告連合会は,多くの職員から説明を求める声が寄せられたので,相模原病院において平成11年6月25日(初回は午前9時ころ)及び翌26日に計5回,伊勢原病院において同月30日,翌7月1日及び同月8日に計4回,全職員を対象とする説明会を開催した。これらの説明会における被告連合会側の発言は,次のとおりであった。
(ア) 同月25日の相模原病院での説明会
H院長は,「一連の問題は証拠はないが,提出された資料を見れば,組合の上の者がやったとの判断がつく。組合の四役も支部長も知らないところで,もっと神厚労のトップのごく一部の者が投書を出した医師と画策して厚生省に情報を流した。投書をした人は,組合員で組合の重要なポストにおられる医師です。」と発言した。
次いで,被告Y1は,「同じ職員を管理職から降ろせと要求してくる組合はどうなのか。私に辞めろっていうことですね。大損害を与えられて病院がつぶされてしまうかもしれない,会につくのか,組合につくのか,それはみなさんの判断です。よろしくお願いします。」「Eさんたちの起こした裁判の結果はもうすでにみなさんは聞いているでしょうが,今回,憲法の上で脱退が自由だとの判決が出ました。」と発言した。
(イ) 同年7月1日の伊勢原病院での説明会
K院長は,「この告発の文書,内容からみて相模原の整形外科の医師である。」「いろいろな状況から考えて労組に加盟している医師以外に考えられない。」「この告発した医者,あえて医者と呼ばせてもらいますが,絶対に許せない。それに呼応するようにして労組のなんと言いますか,専行,独断専行といいますか,そういう形でこういう情報を公開にする,告発を公にするようなことを私はこれ絶対に認めるわけにはいかない。病院の存続に関わる問題だと思っている。」「きちっと認識していただいて,危機感を持って,いかに病院を守っていくかということを是非皆さんに真剣に考えていただきたい。」と発言した。
次いで,L事務長は,「大きな問題というのは,まず告発文書が出たということ,それに労組が関わっている点が先ほど院長も言いましたように私も大きく想定がされるわけです。」,告発文書は「だれが見ても労組がいつも作っているような新聞と非常によく似ている」「事務長と院長を交替しろというような要求を出している」「労組がいつも言っているように本当に病院や職員を守るためなら,このようなことはしない。」「組織を売るようなこういう行為は,私は絶対に許せません。」「支部の方でも説明会をやると出ておりますけど,是非,会や病院の言うことが信用できるのか,労組の言うことが信用できるのか,皆さんもよくそこいらを御判断いただきたい。」と発言した。
オ 原告組合は,平成11年6月25日付け抗議文で,被告連合会に対し,団体交渉では神奈川県当局から改善計画書の提出を求められていることを隠し,逆に病院危機をあおり脱退工作と労組つぶしに打って出た,H院長及び被告Y1が相模原病院での説明会で上記エ(ア)のとおり発言して脱退を教唆した,原告組合は団交参加者に箝口令を敷き,職員の動揺,患者への影響を出さないために被告連合会の対応を待ったのに,団交の翌日から今日まで被告連合会自らわざと混乱を作り出し,病院危機をあおって,大がかりに組合脱退工作をかけた等と抗議した。
なお,原告組合は,同月28日,神奈川県福祉部に対し,被告連合会にどのような指導をするのかを尋ねた。
カ(ア) F婦長は,平成11年6月25日午前,相模原病院b病棟ナースステーションのテーブル上に,上記ウの要望書の用紙,脱退届の用紙等を広げて部下職員らに閲覧させ,数名の職員がこれらに署名した。また,F婦長は,同年7月6日ころ,新人看護婦らに対し,「病院がつぶされるかもしれないのよ。このまま組合に入っていていいの?」と述べた。
(イ) I副看護部長は,同年6月25日午後5時ころ,J執行委員に対し,「組合は病院をつぶしにかかっているのよ。乗っ取ろうとしているのよ。それが駄目なら,ということで病院に何を言ってきてると思う?専従が和解金として億単位を要求しているのよ。」と述べた。
キ 平成11年6月25日夕刻,伊勢原病院ではM室長(婦長から発起人となることを依頼された。)ら11名を発起人とする「病院を守る会」(以下「守る会(伊勢原)」という。)が発足し,相模原病院では「病院と仲間を守る会」(以下「守る会(相模原)」という。)が発足し,I副総婦長らが発起人として署名した。
ク 守る会(伊勢原)は,平成11年6月29日に被告連合会,同年7月1日に原告組合から説明を受けた上,同月6日,M室長が作成した被告連合会及び原告組合に対する要求書に賛同者の署名を求めた。この要求書には,被告連合会に対しては,一連の問題に対し十分な反省を行い速やかに再発防止のための改善案を提出することと,守る会(伊勢原)の職員の待遇と身分保障を要求し,原告組合に対しては,今回の問題は一部の執行部の意見で要求がされていることにあり,病院勤務職員による専従制といった改善がされない限り,再発は防げないので,職員外専従制の廃止と職員専従制の確立を要求する旨記載されていた。
しかし,守る会(伊勢原)は,同月22日,基本方針を定めることができないとして,新たなメンバーによる新たな会の発足を提案した。そして,かつて原告組合の執行委員であった伊勢原病院放射線室所属のCは,同日,原告組合から脱退した同病院従業員による組織の結成を呼びかけ,同年9月1日,Cを執行委員長とする伊勢原協同病院従業員組合が結成された。
なお,上記要求書は,被告連合会にも原告組合にも提出されなかった。
ケ 守る会(相模原)は,平成11年7月30日,第2回目の会合を開き,発起人が,特定幹部の牛耳る原告組合の病院つぶしにつながるような行動から病院を守り,労働諸条件の維持向上を図るための活動に力を入れていく必要がある旨説明し,守る会(相模原)が労働組合となることが承認された。これを受けて,同年10月13日,D(相模原病院検査室所属。元原告組合執行委員長)を執行委員長とする相模原協同病院労働組合が結成された。
コ 原告組合の組合員数(組合費をチェック・オフされていた人数)は,平成11年6月16日当時959名(チェック・オフ総額269万7250円)であったが,同日から同月24日までの間に12名が脱退届を提出し,その後,脱退届提出者数は,同月25日が57名,同月26日が20名,同月28日が21名,同月29日が53名,同月30日が54名,同年7月1日が20名,同月5日が1名,同月6日が53名,同月7日が85名,同月8日が16名,同月9日が40名,同月10日が14名,同月12日が51名であり,相模原病院で説明会が開かれた同年6月25日から同年7月12日までの脱退届提出者数は合計485名に達した。
原告組合の組合員数は,その後も脱退者が続き,平成12年5月には148名,同年12月には98名に減少した(チェック・オフ総額約30万円)。
なお,同年5月現在,相模原協同病院労働組合の組合員数は271名,伊勢原協同病院従業員組合の組合員数は192名となっている。
(11) 本件内部告発問題の顛末
ア 被告連合会は,平成11年7月6日,神奈川県福祉部に改善計画書案を提出した。
イ 読売新聞社は,平成11年7月15日,被告連合会に取材した上,翌16日「”医業”増収へ退院延期」との見出しで退院1日延長問題を報道した。その直後,他の新聞各社や各テレビ局も,被告連合会に取材を申し入れ,退院1日延長問題を報道した。また,同月11日には,薬剤不正使用問題も報道された。
ウ 神奈川県福祉部は,平成11年8月5日に被告連合会の調査・個別指導を行い,同月12日,被告連合会に対し,その結果を通知した。その内容は,経過観察とするが,<1>退院1日延長問題については,保険診療を逸脱する行為を画策したことについて改善策を講ずること,<2>薬剤不正使用問題については,一部で適用外使用が確認されたのでその診療報酬額を返還し,また,自主点検を行い他にも適用外使用が認められた場合はその診療報酬額も返還することを求め,指摘事項に関する改善報告書及び自主返還金に関する書類を作成して提出することを求めるというものであった。なお,退院を延長した実例は指摘されなかった。
エ 本件内部告発問題により,平成11年11月ころ,H院長は院長職を解かれて辞職し,被告Y1は参事職2箇月停止及び減給6箇月の懲戒処分を受けた。
(12) 原告X2に関する発言(平成9年)
ア 相模原病院のN医師は,平成9年3月27日,被告Y1と面談し,一部の医師が業者からリベートを取っているらしいとして適正な対応を求めた。この面談の際,被告Y1は,病院経営が苦しい旨述べた後,原告組合に話題を転じ,「労組にしたってそうなんだよ。じゃ,僕がやっていることがベストだとは思わない。ね,だったら対案を示してくれ,とね。つぶれかかったときに,あの人たちが責任取ってくれるか,と。特に今,外部専従主導でしょう。あの人たち,職員でもなんでもないわけですよ。パッと去っちゃって,固定職員じゃないんだもの。また次の・・・。彼は,今リードしているのは,済生会にいたらしいんだけれど,東神奈川の済生会病院で,何をやっていたかっていうと,守衛やってて,それで,なんか闘争やってるらしいんだね。あそこで。今度それが終わったらここへ来て,またどっかへ行くんでしょう。」「全然困らないよね。むしろそれが勲章になっているわけですよ。闘争をやってね,大きく,こう,むしろその組織をつぶしたなってことが勲章になっていく人たちですから。難しいですよ。ただ,われわれは,職員の生活を守んなけりゃいけないし・・・」と述べた。
なお,N医師は,当時は,非組合員であり,原告X2のことを知らなかった。
イ 相模原病院薬局職員は,平成9年12月19日,各人が会費を出し合って忘年会を開催し,H院長を招待した。H院長は,この忘年会の席で,原告X2について「相模原警察がマークしている。彼は共産党だ。」と言った。
原告X2は,平成10年1月20日付け公開質問状で,被告連合会に対し,H院長が上記発言をしたことは事実か,事実ならその根拠等を尋ねたところ,被告連合会は,同年2月20日付け書面で,忘年会は参加者が会費を支払い自主的に開催したプライベートなもので,被告連合会は一切関与していないから,回答する意思はない旨回答した。
(13) 本件配転(平成9年)
ア 原告X1は,薬剤師であり,平成3年4月,伊勢原病院薬局長に就任した。平成8年当時,原告X1には,同病院薬局内に23名の部下職員がいた。
イ 原告X1は,昭和58年7月から1年間原告組合伊勢原支部の執行委員を務めた後は,組合役員となったことはなく,団体交渉にも出席しなかったが,平成8年8月10日の原告組合定期大会の議長を務めた。原告X1は,同大会の議長あいさつで,議長を引き受けたのは相模原病院で婦長らが先頭に立って組合脱退を促しているからであり,また,同病院長(当時)が頻繁にセクハラをしている旨述べた。
ウ 伊勢原病院のL事務長は,平成8年8月14日,原告X1を呼び出し,原告X1が組合大会の場で他病院(相模原病院)の院長のセクハラ問題に言及したことを注意し,また,原告組合は各種要求をしているが,病院の経営は苦しく,病院の経営がおかしくなったら組合もなくなってしまうのではないかと述べた。被告Y1(相模原病院事務長)は,L事務長が原告X1に注意したことで労使間の紛争が拡大することを懸念し,同月21日,原告X1の妻である相模原病院健康管理課のA2主任を呼び出して,原告X1に自重を促すよう求めた。
原告X1は,同月27日,Q委員長に対し,妻であるA2主任が同月21日被告Y1から「今の地位を保ちたかったら,あまりやらないほうがいいよ。A2さんから組合に情報が筒抜けだ。」と威嚇されたと連絡した。原告組合は,同年9月24日付け書面で,被告連合会に対し,L事務長の原告X1に対する発言につき抗議し,合わせて,「別の管理ルートからも『現在の身分を守りたかったら,今後はあまり組合に関わらないほうがいい』という旨の『不利益扱い』を前面に出してのX1氏への威嚇が続いている」と申し入れた。
エ 原告X1は,平成8年11月21日,原告組合執行委員会において中高年対策担当の専門委員(規約上の役員)に,同月28日,原告組合伊勢原支部執行委員会において同支部の特別執行委員としての相談役に選任され,このことは,原告組合の同年12月16日付け「神厚労ニュース」に掲載された。
なお,原告X1は,その後も本件配転の内示を受けるまで団体交渉や労使協議に出席したことはなく,また,原告組合は,役員改選の都度被告連合会に書面で通知していたが,原告X1の上記役員就任については通知しなかった。
オ 被告連合会は,昭和58年4月,両病院で使用する医薬品の一括購入によるメリットを図るため,本所に薬剤部を設置し,初代薬剤部長に薬剤師であるR2相模原病院薬局長を昇格させ(相模原病院薬局長と兼務),平成2年4月,R2薬剤部長の退職に伴い,その後任として薬剤師であるR伊勢原病院薬局長を昇格させた。薬剤部は,平成6年4月,医薬品のほか医療材料の購入も扱うこととされ,資材部と改称されて,同部に資材課が置かれた。資材部では,平成7年4月以降,R部長が資材課長を兼務し,その下にP課次長(薬剤師ではない事務職)が配置されており,職員数は2名であった。なお,資材部は,平成9年4月以降,厚木本所に移転することが予定されていた。
資材部の業務は,医薬品,医療材料等の購入計画の立案,価格調査と価格交渉,購入資材の選定に関する両病院との調整,文化連(医薬品,医療材料,医療器械などの共同購入を通じて会員の経営改善に資することを目的とする農協の全国連合会)との連絡・調整,薬剤等の情報収集と資料作成,両病院の薬局業務の指導等であった。
被告連合会は,購入する医薬品の相当部分につき文化連に価格交渉を委託してきた。その割合は年々高まり,平成8年4月から平成9年3月までは,購入価格総額約41億円のうち文化連委託分は約82.6パーセント(被告連合会の直接交渉分は約17.4パーセント)に達し,その後も文化連委託分の割合は高まることが予定されていた。なお,文化連に薬剤師はいない。
カ 被告連合会は,平成9年2月末,R部長が同年3月末で管理職としての定年に達するので退職すると申し出たため,急遽,資材部長の後任の人選を検討した。被告連合会は,従来資材部長(当初は薬剤部長)が各病院薬局長から選任されていたことから,伊勢原病院薬局長原告X1(当時50歳。勤続21年8月)と相模原病院のS薬局長(当時43歳。勤続21年)とを比較し,原告X1がS薬局長より年齢が7歳上であったことから,原告X1を後任とするが,当時,被告連合会には原告X1より年齢が上で勤続年数が長いが部長職より低位の検査室長,放射線室長がいたことを考慮し,資材部長ではなく資材課長とすることとし,同年3月21日,原告X1に対し,同年4月1日付け資材部資材課長への配置転換(本件配転)を内示した。なお,資材部資材課長と薬局長は同格である。
原告組合は,同年3月22日付け書面で,被告連合会に対し,原告X1にぜん息の持病があること等の健康上の問題及び組合役員業務に支障があることを理由に本件配転の見直しを申し入れ,これに対し,被告連合会は,同月25日付け書面で,本件配転はR部長の退職に伴う業務上の必要性によるものである,原告X1が望むなら本所に配転後も組合員であり続けることは拒まないと回答した。
原告X1は,伊勢原病院長及びL事務長に同月26日付け文書で本件配転の撤回を求め,同月29日の団体交渉に出席し,辞令には従うが撤回を求めて争う旨述べた。
キ 被告連合会は,平成9年4月1日,本件配転を含む人事異動を発令し,資材部長はK2参事(薬剤師ではない。)が兼務し,資材課長に原告X1,資材課次長に引き続きP課次長を配置した。本件配転に伴い,相模原病院のS薬局長が原告X1の後任の伊勢原病院薬局長に就任し,D2相模原病院薬局次長が同病院薬局長に昇格した。
ク 原告X1は,本件配転の日に定期昇給を受けたほか,給与に変動はなかったが,その年度末以降の賞与は減額された。これは,全職員一律の支給基準の変更及び被告連合会による人事考課の結果であった。
原告X1は,本件配転後,毎週両病院に各2回程度出張し,各病院の医薬品の需要等の情報収集等をした(平成10年以降は週1回程度)。
原告X1は,本件配転により,部下が23名からP課次長(非組合員)1人となって,他の組合員に対する影響力・発言力が小さくなり,本所職員となったために病院運営会議に出席することもできなくなった。原告X1の通勤時間は,本件配転により約10分長くなった。
本件配転当時,両病院とも薬剤師の人数が法定数より不足しており,パート職員で補っていた。被告連合会の文化連に対する医薬品の価格交渉委託分は,本件配転後,平成9年4月から平成10年3月までが約87.7パーセント,同年4月から平成11年3月までが約99.2パーセントに増加した。また,被告連合会は,本件配転当時,院外処方箋の導入を予定しており,直接購入する医薬品の絶対量の減少が予定されていた。関東各県の他の厚生農業協同組合連合会の資材部には,薬剤師はいない。
ケ 原告組合は,平成9年4月25日,神奈川県地方労働委員会に対し,本件配転のほか,被告連合会の管理職等による組合脱退勧誘等,組合専従者の参加を理由とする団体交渉拒否などの被告連合会の不当労働行為を主張して救済を申し立てた。
2 原告組合の請求について
(1) 請求原因(2)ア(組合費のプールとプール金の返還)について
原告組合は,被告連合会が,原告組合の弱体化を企図しその一環として原告組合の財政に打撃を与えるため,Eに組合費返還請求訴訟(E事件)を提起させた上,組合費をプールし,E事件の一審判決後プール金を職員に返還したと主張する。
ア 上記1の認定事実によれば,被告連合会が組合費をプールし,その後プール金を職員に返還した経過は,次のとおりであった。
被告連合会は,平成6年5月,原告組合に対し,婦長その他の所属長等を非組合員とすることを提案した。婦長の一部は,原告組合に不満を持ち脱退したいとの意向を有していたところ,このことは,同年10月ころ以降,複数回にわたり被告連合会に伝えられた。被告連合会は,婦長らに対し,原告組合との間で組合員の範囲についての協議が終了するまで脱退を待つように求めていたが,協議は合意に達しなかったので,平成7年6月,「組合への加入脱退は会が関与することでないので,組合員の自由意志とする。」との見解を明らかにした。被告連合会の見解を聞いた婦長らの一部は,同年7月以降,原告組合に脱退届,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出するようになった。被告連合会は,チェック・オフ中止願の提出者につきチェック・オフを中止しようとしたが,平成8年9月,神奈川県地方労働委員会の公益委員の要請を受けて,方針を変更し,チェック・オフを継続した。Eらは,平成9年7月,原告組合を被告としてE事件を提起し,被告連合会は,Eらの訴訟代理人弁護士から改めてチェック・オフ中止を求められた。被告連合会は,顧問弁護士の助言に従い,チェック・オフ中止願の提出者につき同年9月分から組合費相当額をプールした。被告連合会は,E事件につきEの組合費返還請求を認容した一審判決を受けて,顧問弁護士の意見を聞いた上,平成11年7月,101人分のプール金を職員本人に返還した。
イ 以上の事実経過によれば,一部の婦長らが原告組合に脱退届,被告連合会にチェック・オフ中止願を提出したのは,被告連合会が組合からの脱退は組合員の自由意思によるとの見解を明らかにしたことを一つの契機としたものであったことは否定できない。
しかし,組合からの脱退は組合員の自由意思によるとの考え方自体は,被告連合会と原告組合との間にユニオン・ショップ協定が締結されていない以上,誤りではない。そして,被告連合会は,上記見解表明前の平成6年10月ころから繰り返し脱退の意向を示していた婦長に対して,原告組合との協議終了まで脱退することは待つように求めており,協議終了に伴い原告組合からの脱退につき婦長らに説明する必要があった。また,上記見解においては,組合脱退は自由である旨に加えて,チェック・オフにつき原告組合に確認の上原告組合から脱退通知があった者についてだけ中止すると述べて(1(3)オ),原告組合の意向にも配慮している。
これらのことと,次のウに記載のその後の被告連合会のチェック・オフ等に対する対応も考慮すると,被告連合会が組合脱退は自由である旨の見解を明らかにしたことが組合員に脱退を促し原告組合を弱体化させようとの意思に基づくものであったとは認められない。
ウ 被告連合会は,平成9年9月からチェック・オフ中止願の提出者につき組合費相当額をプールし,その後,プール金を本人に返還した。
しかし,被告連合会は,遅くとも平成8年7月には,「チェック・オフ協定が締結されている場合でも,組合員が使用者に対しチェック・オフの中止を申し入れたときは,使用者は当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきである。」との判例(最高裁判所平成5年3月25日判決・集民168号下127頁,労働判例650号6頁)の存在を知っており,チェック・オフ中止願を提出した組合員に対してチェック・オフを継続することが不法行為又は賃金の一部不払いとなりうることを認識していた。それにもかかわらず,被告連合会は,一部組合員からチェック・オフ中止願の提出を受けても,直ちにチェック・オフを中止せず,原告組合に対し,繰り返し,チェック・オフ中止願の提出者に対する原告組合の方針を照会し,また,原告組合が本人に翻意を促し本人がチェック・オフ中止願を撤回すればチェック・オフを継続する旨通知している。そして,被告連合会は,E事件の訴訟代理人から法的責任を追及する可能性に言及されたことを契機として,E事件提起後,顧問弁護士からの助言に従い,チェック・オフ中止願の提出者につき,給与から控除した組合費相当額を原告組合には交付せず,自ら保管(プール)するようになったものである。
これは,被告連合会としては,上記判例の趣旨に従いチェック・オフを中止することも選択肢としてあり得たところ,E事件の一審判決を待ってプール金の処理を決めることとしたものであり,同判決の結果いかんによってはプール金を原告組合に交付する可能性も残したものであって,原告組合にも一定の配慮をしたものである。
そして,被告連合会は,組合脱退は自由である旨判示してEの組合費返還請求を認容したE事件の一審判決を受けて,顧問弁護士の意見を聞いた上,平成11年7月,プール金を職員本人に返還したものである。
エ 上記ウの組合費相当額のプールに至る経過のほか,被告連合会は,平成9年12月から平成10年7月にかけて,所属長らに対し,組合脱退工作と誤解されるような言動をしないように注意していたこと(1(7)オ)も考えると,被告連合会が当時組合員らの脱退届及びチェック・オフ中止願の提出並びにEら3名のE事件提起に関与していたとは認め難い。
なお,脱退届及びチェック・オフ中止願は,同時期に複数の者により統一書式又は連名で提出されることが多かったが,同一の職場等に勤務する複数の者が脱退を希望して相談の上共同歩調を取ってこれらの書類を提出したとの可能性を否定することはできず,また,被告連合会及び原告組合に提出する正式な書面の作成は人によっては必ずしも容易とは言い難く,書面の記載内容や体裁についても事前に脱退希望者間で相談したとしても,不自然ではない。したがって,脱退届等が統一書式又は連名であったことから,被告連合会の関与を推認することはできない。
また,相模原病院図書室内に「事務長専用」と記載されたフロッピーディスクがあり,この中に相模原病院職員名義の平成9年3月19日付け「労働組合の脱退について」と題するワープロ文書(脱退届及びチェック・オフ中止願を提出したが未だにチェック・オフが行われている,脱退届提出時に遡ってチェック・オフされた金額の返還と組合からの脱退を切望する旨の内容)が記録されている(<証拠略>)。しかし,相模原病院事務長である被告Y1はワープロを打つことができず(<証拠略>),このワープロ文書の作成経緯についての確たる証拠はなく,また,被告Y1がこの文書の作成に関与し組合脱退工作に使用していたとすれば,当該フロッピーディスクの保管管理に相当の注意を払っていたと考えられるところ,当該フロッピーディスクの発見経緯も明らかでないから,このフロッピーディスクをもって,被告Y1が組合脱退工作に関与していたと認めることはできない。
オ 以上によれば,被告連合会が組合員に脱退を働きかけたとは認められず,組合費相当額をプールした後プール金を職員本人に返還したことが原告組合の弱体化を図ることを目的としたものであったとも認められないから,被告連合会にこの点で不当労働行為ないし違法行為があったとは認められない。
(2) 請求原因(2)イ(ア)(F婦長及びG婦長の判決を利用した言動)について
ア 上記1(8)イの認定事実によれば,F婦長は,平成11年6月16日,複数の部下職員から尋ねられて,E事件の一審判決書にマーカーで線を引き組合脱退は自由であると判断された旨説明したことが認められ,かかるF婦長の言動は,組合員の原告組合からの脱退の意思決定を容易にするものであることは否定できない。
しかしながら,被告連合会がF婦長に指示して上記言動をさせたと認めるに足りる証拠はない。
また,F婦長は,E事件の判決に関心を持っていた部下職員からの求めに応じて同事件の一審判決の内容を説明したのであり,同判決内容をそのまま説明することを超えて,部下職員に対し積極的に組合脱退を勧めたとの客観的な証拠はないから,F婦長の上記言動が違法であるとまでは認められない。
なお,E事件の一審判決書(組合脱退自由に関する判示部分にマーカーが引かれたもの)は,その後,相模原病院b病棟看護室の連絡用ビニール袋に入れられていたが,F婦長が入れたとの事実を認めるに足りる客観的な証拠はない。
イ 上記1(8)イの認定事実によれば,平成11年6月中旬,伊勢原病院c病棟のホワイトボードに,ところどころに朱線が引かれたE事件の一審判決書が掲示されていた。
原告組合は,同病棟のG婦長が掲示したと主張し,I2の陳述書(<証拠略>)にはこれに沿う部分があるが,これは,G婦長が同判決書を入手したのは同月下旬(26日)になってからであること(<証拠略>),病棟のホワイトボードの掲示物は一般患者の目につく可能性があること,G婦長が同判決につき部下職員らに説明した形跡が見られないことから,不自然の感を否めず,裏付けとなる証拠もないから,採用することができない。他にG婦長がE事件の一審判決書を病棟のホワイトボードに掲示したことを認めるに足りる証拠はない。
ウ したがって,これらの点に関する原告組合の主張は,採用することができない。
(3) 請求原因(2)イ(イ)及び(エ)(H院長,被告Y1,K院長及びL事務長の説明会における発言)について
ア 上記1(10)エの認定事実によれば,<1>H院長は,平成11年6月25日の相模原病院における説明会で「一連の問題は証拠はないが,提出された資料を見れば,組合の上の者がやったとの判断がつく。組合の四役も支部長も知らないところで,もっと神厚労のトップのごく一部の者が投書を出した医師と画策して厚生省に情報を流した。投書をした人は,組合員で組合の重要なポストにおられる医師です。」と発言し,<2>被告Y1は,同説明会で「同じ職員を管理職から降ろせと要求してくる組合はどうなのか。私に辞めろっていうことですね。大損害を与えられて病院がつぶされてしまうかもしれない,会につくのか,組合につくのか,それはみなさんの判断です。よろしくお願いします。」「Eさんたちの起こした裁判の結果はもうすでにみなさんは聞いているでしょうが,今回,憲法の上で脱退が自由だとの判決が出ました。」と発言し,<3>K院長は,同年7月1日の伊勢原病院における説明会で「この告発の文書,内容からみて相模原の整形外科の医師である。」「いろいろな状況から考えて労組に加盟している医師以外に考えられない。」「この告発した医者,あえて医者と呼ばせてもらいますが,絶対に許せない。それに呼応するようにして労組のなんと言いますか,専行,独断専行といいますか,そういう形でこういう情報を公開にする,告発を公にするようなことを私はこれ絶対に認めるわけにはいかない。病院の存続に関わる問題だと思っている。」「きちっと認識していただいて,危機感を持って,いかに病院を守っていくかということを是非皆さんに真剣に考えていただきたい。」と発言し,<4>L事務長は,同説明会で「大きな問題というのは,まず告発文書が出たということ,それに労組が関わっている点が先ほど院長も言いましたように私も大きく想定がされるわけです。」,告発文書は「だれが見ても労組がいつも作っているような新聞と非常によく似ている」「事務長と院長を交替しろというような要求を出している」「労組がいつも言っているように本当に病院や職員を守るためなら,このようなことはしない。」「組織を売るようなこういう行為は,私は絶対に許せません。」「支部の方でも説明会をやると出ておりますけど,是非,会や病院の言うことが信用できるのか,労組の言うことが信用できるのか,皆さんもよくそこいらを御判断いただきたい。」と発言した。
イ 上記1の認定事実によれば,H院長らが上記各発言をした経過は,次のとおりであった。
被告連合会は,平成10年10月,経営改善策として全入院患者を対象に退院を1日延長することを各医師に依頼した。また,相模原病院整形外科では,プロスタグランディン製剤を保険適用対象外の病名の治療に使用し,保険適用対象の病名を付して診療報酬を不正請求していたことがあった。これらの問題につき,平成11年5月,厚生省に内部告発文書が送付され,被告Y1は,同年6月16日,神奈川県福祉部から本件内部告発があったとの説明を受けて事情聴取を受けた。被告連合会は,同月22日の団体交渉で,原告組合から,本件内部告発問題のうち退院1日延長問題を指摘されて,この問題に責任がある被告Y1(事務長)及びH院長の更迭を要求され,これに応じなければ問題を公表せざるを得ない旨追及された。被告連合会は,原告組合が本件内部告発をしたものと判断した。被告連合会は,同月24日,各病院運営会議で,原告組合の上記要求を説明した。このことは所属長を通じて直ちに職員全体に広まり,職員の多くは,保険診療の指定が取り消されたり,原告組合がマスコミに公表して問題が大きくなったりして,病院の経営が危うくなるのではないかと危機感を抱き,被告連合会に説明を求めた。そこで,被告連合会は,同月25日以降,両病院で説明会を開催し,その場でH院長らが上記各発言をした。
そして,H院長らの発言内容は,本件内部告発は原告組合が組合員である医師と協力して行ったものであり,原告組合のこのような活動は被告連合会の経営を揺るがすものであると強い調子で非難し,原告組合に同調しないように求めたものであった。
ウ このように,H院長らは,本件内部告発に原告組合及び原告組合の組合員であったN医師が関与したと判断して,上記アのとおりの発言をしたものである。
しかし,原告組合が本件内部告発をしたとの事実を認めるに足りる確たる証拠はない。また,本件内部告発文書の内容(1(9)イ)からみて,本件内部告発に相模原病院の医師が関与した可能性は否定できないとしても,平成8年及び平成11年の内部告発時に相模原病院整形外科に在籍した医師はN医師のみではなかったこと,被告連合会もN医師に事前調査をしていないことからすれば,本件内部告発に関与した医師がN医師であると特定することはできない。また,上記1の認定事実によれば,原告組合が平成11年6月22日の団体交渉において指摘したのは入院日数の延長問題のみであり,この問題とともに本件内部告発の対象とされた薬品の不正請求問題については言及していない。Q委員長も団体交渉の席上で,本件内部告発への原告組合の関与を否定していたところである。これらの事実及び本件の事実経過によれば,被告連合会は,上記発言の当時,原告組合及びN医師が本件内部告発に関与したと信ずべき相当の理由や十分な証拠を有していたとも認められない。
そうすると,H院長らは,十分な根拠がないのに,原告組合が本件内部告発をしたと断言し,原告組合のせいで被告連合会の経営が危機に瀕するおそれがある旨述べて,職員の原告組合に対する不信感を増大させたものである。
そして,被告連合会は,自ら各医師に入院患者全員の退院1日延長を依頼したにもかかわらず,神奈川県当局がその事実を把握し,そのことにより多くの職員が危機感を持つに至るや,説明会において,職員に対し,本件内部告発で指摘された問題の事実関係,現在でもそのような問題があるかどうか,神奈川県当局への説明の予定,今後の対応策・見通し等を説明して,職員の不安感を少しでも減少させようとの対応をせずに,かえって,原告組合が本件内部告発をしたと断定の上,問題とすべきは本件内部告発の対象となった病院の行為ではなく本件内部告発という行為そのものであるとして,本件内部告発をした原告組合に責任があると原告組合を非難することに終始したものである。
したがって,H院長,被告Y1,K院長及びL事務長が上記各発言をしたことは,原告組合の名誉・信用及び団結権を侵害する違法なものと評価せざるをえない。
被告らは,H院長らは事実を説明して意見を表明したに過ぎない旨主張するが,当時原告組合が本件内部告発をしたと信ずべき相当の理由があったとは認められないから,H院長らの上記断定的な発言は,自由な意見表明の範囲を逸脱したものというべきである。
エ したがって,被告連合会はH院長,被告Y1,K院長及びL事務長の上記発言につき原告組合に対し使用者責任を負い(H院長らの発言が被告連合会の業務の執行につきされたものであることは,明らかである。),被告Y1は原告組合に対し不法行為責任を負う。
なお,被告Y1は,当時相模原病院の事務長として病院全般の管理業務に参画し,院長を補佐する地位にあり,自らもH院長とともに説明会で説明をしているので,H院長と事前に説明内容につき相談していたものと推認することができるから,H院長の発言についても不法行為責任を負い,被告連合会の使用者責任とは不真正連帯債務の関係にある。
(4) 請求原因(2)イ(ウ)(F婦長及びI副看護部長の言動)について
ア 上記1(10)カの認定事実によれば,F婦長は,平成11年6月25日,相模原病院b病棟ナースステーションのテーブル上に,原告組合あての要望書の用紙,脱退届の用紙等を広げて部下職員らに閲覧させ,同年7月6日ころには,新人看護婦らに対し「病院がつぶされるかもしれないのよ。このまま組合に入っていていいの?」と述べ,I副看護部長は,同年6月25日,J執行委員に対し,「組合は病院をつぶしにかかっているのよ。乗っ取ろうとしているのよ。それが駄目なら,ということで病院に何を言ってきてると思う? 専従が和解金として億単位を要求しているのよ。」と述べた。
イ F婦長及びI副看護部長のこれらの言動は,原告組合を非難して,部下職員に脱退を勧め,又は原告組合に同調しないよう求めたものである。
そして,原告組合が被告連合会やその経営の病院をつぶそうと意図しているとか,億単位の和解金を要求しているとの事実は認められず,当時このような話が噂としてあったとしても確たる根拠もなかったから,F婦長及びI副看護部長の上記発言は,これらの両名にも組合の在り方や活動に関して意見を表明し批判する自由があることを考慮しても,原告組合の名誉・信用及び団結権を侵害する違法なものと評価すべきである。
ウ F婦長及びI副看護部長の上記発言が被告連合会の指示によるものであると認めるに足りる証拠はない。しかし,F婦長は所属長として部下職員の評価者であり,I副看護部長はその上の職位にあり,両名は当時すでに原告組合に脱退届を提出していたこと,当時,被告連合会と原告組合とは本件内部告発問題をめぐって対立し,被告連合会が原告組合に対する非難を強めていたことを考えると,F婦長及びI副看護部長の上記発言は,いずれも被告連合会の事業の執行につきされたものと認めるのが相当である。
エ したがって,被告連合会は,F婦長及びI副看護部長の上記発言につき,原告組合に対し使用者責任を負う。
(5) 請求原因(2)イ(オ)(守る会と第2組合の結成)について
原告組合は,I副看護部長,M室長ら管理職に各「守る会」を発足させた上で第2組合の結成を支援したと主張する。
ア 上記1の認定事実によれば,被告連合会は,平成11年6月22日の団体交渉において,原告組合から退院1日延長問題の追及及び被告Y1らの更迭要求を受けて,同月24日に病院運営会議でこの件を報告し,報告内容を聞いて危機感を持った婦長らが中心となって,同月25日,伊勢原病院では守る会(伊勢原),相模原病院では守る会(相模原)が結成され,その後,これらの守る会の活動とメンバーを基礎に,同年9月1日に伊勢原協同病院従業員組合,同年10月13日に相模原協同病院労働組合が結成された。
そして,守る会(伊勢原)では,原告組合に対する要求のほか,被告連合会に対する要求(一連の問題に対し十分な反省を行い速やかに再発防止のための改善案を提出することと,職員の待遇と身分保障)も記載した要求書を作成して,賛同者の署名を募ったのであるから,守る会が婦長等の所属長が中心となり,I副看護部長,M室長ら管理職が発起人となって結成されたとの事実から,守る会が被告連合会の指示・関与の下に結成されたとの事実を推認するには足りず,他に守る会並びにこれを基盤とする相模原協同病院労働組合及び伊勢原協同病院従業員組合が被告連合会の指示・関与の下に結成されたとの事実を認めるに足りる客観的な証拠はない。
なお,上記(3)に説示のとおり,H院長らの同年6月25日以降の説明会での発言は多くの職員に原告組合に対する不信感を与えたものであるが,(証拠略)によれば,同日の被告連合会による説明会開催前の時点で,守る会の開催通知が配布されていたこと,守る会のメンバーが中心となって集めた原告組合に対する要望書が同月24日の時点で提出されていることが認められるから,H院長らの説明が原因となって守る会が結成されたとは認められない。
イ したがって,この点に関する原告組合の主張は,採用することができない。
(6) 請求原因(5)(原告組合の損害)について
以上によれば,被告連合会はH院長,被告Y1,K院長及びL事務長の各発言((3))並びにF婦長及びI副看護部長の言動((4))につき使用者責任を負い,被告Y1は自己及びH院長の発言((3))につき不法行為責任を負うので,これらの行為による原告組合の損害につき判断する。
ア プール金について
被告連合会がチェック・オフ中止を求めた組合員の組合費相当額をプールし,その後当該組合員にプール金を返還したことが違法でないことは,上記(1)に説示のとおりであるから,プール金相当額は原告組合の損害とは認められない。
イ 組合費喪失分について
原告組合は,被告らの脱退勧奨等の不法行為により組合員が減少したとして,平成11年6月16日以後減少した組合員の組合費相当額の損害を受けたと主張する。
H院長及び被告Y1の同月25日の発言,K院長及びL事務長の同年7月1日の発言並びにF婦長及びI副看護部長の同年6月25日以降の言動(以下「H院長らの発言」という。)は,その内容及び同日以降多数の脱退者が出たことからみて,組合員の脱退を促進する効果を有するものであったと認められ,同日以降の組合員減少の一因となったことは否定できない。
しかしながら,婦長らの一部には前々から脱退の意向があったところ,H院長らの発言前の時点において,脱退は自由である旨判示したE事件の一審判決が言い渡されて,その内容が職員の間に広まっていたこと,また,その時点においては,すでに原告組合に対する不満を表明した原告組合あての要望書が提出され,原告組合とは一線を画して病院を守る活動をするための会合の開催が計画されていたこと(1(10)ウ),H院長らの発言は原告組合の行動により被告連合会の経営が危うくなるおそれがある旨のものであったが,守る会(伊勢原)は,この説明を聞いた後,被告連合会に対し十分な反省を行い速やかに再発防止のための改善案を提出することを要求しようとしており(1(10)ク),これは内部告発問題が被告連合会にも責任があると認識していたことを示すものであり,原告組合だけの問題とは捉えていなかったと認められること,被告連合会が同月28日付けでチェック・オフ中止を申し出た者についてはチェック・オフをしないとの方針を表明し,これらの者に対して翌月分の賃金から組合費相当額の控除が行われなくなったこと(1(8)ウ)から考えて,H院長らの発言がなくとも,相当数の組合員が早晩脱退の意思表示をした相当程度の可能性を否定することはできない(このことは,H院長らの発言があった時期からかなりの日数が経過してからも相当数の脱退者があったこと(1(10)コ)からも,うかがわれるところである。)。
したがって,H院長らの発言と組合員の同月25日以降の脱退との間に相当因果関係があるとまでは認められない。
ウ 慰謝料について
診療報酬不正請求問題とこれが神奈川県当局に知られたことに起因する病院の経営危機問題は原告組合に責任がある旨のH院長,被告Y1,K院長及びL事務長の発言並びに原告組合が病院をつぶそうとしている,億単位の和解金を要求している旨のF婦長及びI副看護部長の発言は,確たる根拠なく原告組合の名誉と信用を傷つけたものであり,また,H院長らのこれらの発言が組合員減少の一因となり,現在では少数派の労働組合となったことにより,原告組合は,相当程度の無形の損害を受けたものと認めることができる。
原告組合の上記損害に対する慰謝料は,上記諸事情その他本件の一切の事情を考慮すると,600万円が相当であり,このうち,被告Y1が被告連合会と連帯して支払義務を負う慰謝料は300万円が相当と認める。
エ 弁護士費用について
被告連合会の使用者責任と相当因果関係がある弁護士費用相当損害金は60万円,このうち,被告Y1が被告連合会と連帯して支払義務を負う弁護士費用相当損害金は30万円が相当と認める。
3 原告X2の請求について
原告X2は,<1>被告Y1の平成9年3月27日のN医師に対する発言,<2>H院長の同年12月19日の忘年会における発言,<3>O婦長の平成11年6月24日の説明会における発言及び<4>I副看護部長の同月25日のJ執行委員に対する発言はいずれも原告X2の名誉・信用を傷つけた違法なものであると主張する。
(1) 上記1(12)アの認定事実によれば,被告Y1は,平成9年3月27日,N医師に対し,病院経営が苦しい旨述べた後,原告組合について,「労組にしたってそうなんだよ。じゃ,僕がやっていることがベストだとは思わない。ね,だったら対案を示してくれ,とね。つぶれかかったときに,あの人たちが責任取ってくれるか,と。特に今,外部専従主導でしょう。あの人たち,職員でもなんでもないわけですよ。パッと去っちゃって,固定職員じゃないんだもの。また次の・・・。彼は,今リードしているのは,済生会にいたらしいんだけれど,東神奈川の済生会病院で,何をやっていたかっていうと,守衛やってて,それで,なんか闘争やってるらしいんだね。あそこで。今度それが終わったらここへ来て,またどっかへ行くんでしょう。」「全然困らないよね。むしろそれが勲章になっているわけですよ。闘争をやってね,大きく,こう,むしろその組織をつぶしたなってことが勲章になっていく人たちですから。難しいですよ。ただ,われわれは,職員の生活を守んなけりゃいけないし・・・」と発言した。
被告Y1の上記発言中,原告組合の専従(原告X2のこと)が闘争の末他病院をつぶしそのことが勲章になっている旨の部分は,そのような事実の証拠が皆無であり,不当な発言であることは明らかである。しかし,被告Y1の発言は,その全体をみれば,原告組合を強く非難することに主眼があり,その文脈の中で原告組合は病院職員でない組合専従者が主導しているから病院経営を考慮していない旨を指摘したものであり,また,直接原告X2に対してこの発言をしたわけではなく,この発言の相手方であるN医師は,当時原告X2のことを知らなかったから,被告Y1の発言により原告X2につき悪い印象を持つことはなかった。
これらの点を考えると,被告Y1のN医師に対する上記発言は,原告X2の社会的評価や信用を低下させたものとして原告X2に対する不法行為を構成するものと評価することはできない。
(2) 上記1(12)イの認定事実によれば,H院長は,平成9年12月19日,相模原病院薬局職員の忘年会において,原告X2について「相模原警察がマークしている。彼は共産党だ。」と発言した。
原告X2が警察からマークされていたとの証拠はなく,また,当時そのように信ずべき相当の理由があったとの証拠もないから,H院長の上記発言が不当なものであることは,明らかである。しかし,被告らがH院長に上記発言をさせたとの証拠はなく,また,この発言は,私的な忘年会の席上でのものであって,被告連合会の業務の執行につきされたものとは認められない。
(3) 上記1(10)イの認定事実によれば,O婦長は,平成11年6月24日,原告組合が開催した説明会において,「組合の幹部がやめるとき,お金をもらって逃げると聞いたんですが,どうなんですか。」と発言した。
しかし,被告らがO婦長に上記発言をさせたとの証拠はなく,また,この発言は,原告組合主催の説明会において,当時は組合員であったO婦長が組合執行部に質問したものであって,被告連合会の業務の執行につきされたものとは認められない。
(4) 上記1(10)カ(イ)の認定事実によれば,I副看護部長は,平成11年6月25日,J執行委員に対し,「組合は病院をつぶしにかかっているのよ。乗っ取ろうとしているのよ。それが駄目なら,ということで病院に何を言ってきてると思う? 専従が和解金として億単位を要求しているのよ。」と発言した。
この発言は,上記2(4)のとおり,原告組合に対する違法行為であり,被告連合会の業務の執行につきされたものであるから,被告連合会は,原告組合に対し使用者責任を負う。そして,I副看護部長の発言は,その内容からみて,原告組合を非難することに主眼があり,専従が億単位の和解金を要求しているとの発言も,原告X2が個人で要求しているとの趣旨ではなく,原告組合の役員として要求しているとの趣旨である。また,I副看護部長は,直接原告X2に対しこの発言をしたわけではない。
これらの点を考えると,I副看護部長の発言は,原告組合に対する不法行為に加えて,原告X2に対する不法行為をも構成するものと評価することはできない。
(5) したがって,原告X2の請求は,理由がない。なお,原告X2は,組合員減少に伴う原告組合からの賃金喪失分の損害賠償も請求しているが,被告らの違法行為と組合員減少との間に相当因果関係があると認められないことは,上記2(6)イのとおりである。
4 原告X1の請求について
原告X1は,本件配転は原告X1に対する差別的取扱いであって労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に該当して違法であり,被告Y1は被告連合会に本件配転をするよう働きかけたと主張する。
(1) 上記1(13)の認定事実によれば,原告X1は,平成8年8月,原告組合の定期大会の議長を務め,その直後,L事務長から議長あいさつの内容につき注意を受け,また,原告X1の妻であるA2主任も被告Y1から原告X1に自重を促すように求められた。また,被告連合会は,平成9年2月当時,複数の組合員が脱退届及びチェック・オフ中止願を提出し,原告組合と緊張関係にあったから,原告組合やその役員その他の組合員の動向に関心を持って注視していたものと推認される。そして,原告X1が原告組合の中高年対策担当の専門委員及び伊勢原支部の相談役に選任されたことは平成8年12月16日付け「神厚労ニュース」に掲載されたところ,「神厚労ニュース」は容易に入手することができたものである。これらの事情を考えると,被告連合会は,平成9年2月当時,原告X1が原告組合の役員(中高年対策担当の専門委員)等に選任されたことを知っていたものと推認することができる。
そして,原告X1は,本件配転により,部下が23名から非組合員であるP課次長1人に激減して,勤務場所も伊勢原病院から厚木本所に変更となって,他の組合員に対する影響力・発言力が小さくなるとの不利益を受けた。また,原告X1は,病院運営会議に出席することもできなくなった。
なお,証拠(<証拠略>)中には,被告Y1が平成8年8月21日A2主任に対し,原告X1について「最近,組合活動を大分熱心にやっているようだ。これ以上,より一層,組合活動に力を注ぎ頑張るということは,事務長としての職責上,自分も体を張って対抗する。牙をむき出しにしても闘う。それはA2さんの旦那であっても闘うから承知しておいてくれ。」と発言したとの部分がある。しかし,これは,原告X1はその数日後にQ委員長に被告Y1のA2主任に対する発言につき今の地位を守りたかったらあまりやらないほうがいいとの内容であった旨報告しているにとどまり(1(13)ウ),被告Y1が上記のような激しい言葉で原告X1の組合活動を攻撃したとすると,原告X1がその旨Q委員長に報告していないことは不自然の感を免れず,また,相模原病院事務長の被告Y1が他病院である伊勢原病院の薬局長である原告X1と「事務長としての職責上,・・・闘う」と言ったというのも不自然であるから,採用することはできない。
(2) 他方,上記1(13)の認定事実によれば,資材部長には当初から薬剤師である病院薬局長が任命されてきたところ,本件配転は,資材部のR部長が平成9年3月末で退職することになったので,伊勢原病院薬局長であった原告X1と相模原病院のS薬局長のうち年齢が7歳上の原告X1をR部長の後任とすることとしたものである。そして,被告連合会は,購入する医薬品の相当部分につき価格交渉を文化連に委託しており,本件配転当時,文化連に対する委託割合が増加し,被告連合会自ら価格交渉をする割合は減少する見込みであったが,それでも当時,被告連合会が自ら価格交渉をする医薬品の購入総額は7億円を超えており(41億円の17.4パーセント),また,購入する医薬品の選定等についての両病院との調整や文化連との連絡・調整の業務があり,資材部にはなお医薬品に関する業務が存在しており,これらの業務の性格上,医薬品に関する専門的な知識と経験を有する薬剤師の資格がある薬局長を資材部に配置する業務上の必要性があったものと認められる。
証拠(<証拠略>)によれば,被告連合会のT常務理事は,平成6年4月,資材部には必ずしも薬剤師を配置する必要はない旨述べたことが認められるが,その後も薬剤師であるR部長が平成9年3月まで資材部長であったことからすると,資材部に薬剤師を配置しないことが被告連合会の確定した方針であったとは認められない。両病院の薬剤師の人数は,当時,法定数に満たなかったが,資材部は億単位で医薬品の購入を担当する本所の重要な部局であるから,両病院の不足する薬剤師はパート職員で補ってでも,薬局長を資材部に配転する業務上の必要性があったものと認められる。なお,関東各県の他の厚生農業協同組合連合会の資材部に薬剤師は置かれていないが,被告連合会は,資材部(当初は薬剤部)発足当初から薬剤師を配置しており,資材部には薬剤師が必要であると認識していたものである。
(3) そうすると,本件配転は,業務上の必要性があり,原告X1を人選したことにも合理性が認められる。そして,原告X1は,本件配転当時,原告組合の専門委員(役員)をしていたが,原告組合は原告X1の専門委員選出を被告連合会に通知しなかったところであり,専門委員の原告組合における位置付けや被告連合会にとっての意味合いは明確でない。また,原告X1は,当時,団体交渉に出席したことはなく,平成8年8月の組合大会議長を務めたほかは,表立った組合活動や被告連合会が嫌悪するような組合活動をしていたとの証拠もない。さらに,本所勤務職員はこれまで原告組合に加入していなかったが,被告連合会は,原告組合に対し,原告X1が厚木本所の資材部に配転後も原告X1が望むなら組合員であり続けることを拒まないと明言している。
以上の諸点からすると,被告連合会が,原告X1が組合員であることや原告X1の組合活動を抑圧・制限することを決定的な動機として本件配転をしたものとは認められない。
(4) したがって,被告連合会が原告X1に本件配転を命じたことが不当労働行為ないし違法とは認められない。なお,被告Y1が被告連合会に本件配転をするよう働きかけたとの事実を認めるに足りる客観的な証拠はない。
以上によれば,原告X1の請求は,理由がない。
5 結論
以上の次第であるから,原告組合の請求は,被告連合会に対し使用者責任に基づく損害賠償660万円(ただし,330万円の限度で被告Y1と連帯)及びこれに対する不法行為後の平成13年1月12日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金,被告Y1に対し被告連合会と連帯して不法行為責任に基づく損害賠償330万円及びこれに対する不法行為後の同月13日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各限度で理由があるが,その余の請求は理由がなく,原告X2及び原告X1の請求はいずれも理由がない。
したがって,主文のとおり判決する。
(裁判官 貝原信之 裁判官 伏見英 裁判長裁判官菊池洋一は,転任のため,署名押印することができない。裁判官 貝原信之)
関係者一覧表(肩書は本件当時)
「H院長」は「H」相模原病院長
「N医師」は「N」相模原病院整形外科医師
「被告Y1」は「被告Y1」相模原病院事務長
「S薬局長」は「S」相模原病院薬局長
「I副看護部長」は「I」相模原病院副看護部長兼d病棟婦長
「F婦長」は「F」相模原病院b病棟婦長
「O婦長」は「O」相模原病院e病棟婦長
「E」は「E」相模原病院総務課職員
「K院長」は「K」伊勢原病院長
「L事務長」は「L」伊勢原病院事務長
「原告X1」は「X1」伊勢原病院薬局長(現在は本所資材課長)
「M室長」は「M」伊勢原病院放射線室長
「G婦長」は「G」伊勢原病院c病棟婦長
「R部長」は「R」本所資材部長
「P課次長」は「P」本所資材課次長
「Q委員長」は「Q」原告組合執行委員長
「原告X2」は「X2」原告組合書記次長
「A2主任」は原告X1の妻「A2」。相模原病院健康管理課主任
「J執行委員」は原告組合の「J」執行委員。相模原病院e病棟助産婦