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横浜地方裁判所 平成12年(行ウ)34号 判決 2006年6月21日

当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり

主文

1  被告三菱重工業株式会社は,横浜市に対し,9億5790万円及びこれに対する平成11年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告JFEエンジニアリング株式会社は,横浜市に対し,20億6000万円及びこれに対する平成13年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告横浜市長が,被告三菱重工業株式会社に対し,平成6年8月19日に実施された横浜市環境事業局旭工場改修工事(焼却炉築造工事)に係る請負契約の指名競争入札における談合行為について,民法709条に基づいて9億5790万円の支払を求める請求,及び,被告JFEエンジニアリング株式会社に対し,平成7年8月18日に実施された横浜市環境事業局金沢工場(仮称)建設工事(焼却炉築造工事)に係る請負契約の指名競争入札における談合行為について,民法709条に基づいて20億6000万円の支払を求める請求を怠る事実がいずれも違法であることを確認する。

4  原告らのその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告三菱重工業株式会社は,横浜市に対し,19億1580万円及びこれに対する平成6年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告JFEエンジニアリング株式会社は,横浜市に対し,41億2000万円及びこれに対する平成7年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告横浜市長が,被告三菱重工業株式会社に対しては19億1580万円の,被告JFEエンジニアリング株式会社に対しては金41億2000万円の各支払を求める請求を怠る事実が,違法であることを確認する。

第2事案の概要

本件は,横浜市の住民である原告らが,横浜市が発注した2件のごみ焼却施設建設工事(以下「本件各工事」という。)に係る請負契約(以下「本件各契約」という。)の指名競争入札(以下「本件各入札」という。)において,被告三菱重工業株式会社(以下「被告三菱重工」という。)及び被告JFEエンジニアリング株式会社(以下「被告JFE」といい,被告三菱重工と併せて「被告会社ら」という。)らが談合を行ったため,落札価格が不当に高くなり,横浜市は,談合がなければ形成されたであろう適正な落札価格との差額相当額の損害を被ったことにより,請負契約の相手方である被告会社らに対して民法709条に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っていると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ)242条の2。第1項4号に基づき,横浜市に代位して,被告三菱重工に対しては19億1580万円及びこれに対する遅延損害金,被告JFEに対しては41億2000万円及びこれに対する遅延損害金の各請求を求めるとともに(遅延損害金については,いずれも不法行為後である本件各契約締結日の翌日から民法所定の年5分の割合によるもの),同項3号に基づき,被告横浜市長(以下「被告市長」という。)に対し,上記各損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求めている事案である。

第3基礎となる事実

1  当事者

(1)  原告らは,いずれも横浜市の住民である。

(2)  被告会社らは,各種機械の製造及び販売等の事業を営む株式会社である。

なお,被告JFEは,平成15年4月1日に日本鋼管株式会社がJFEエンジニアリング株式会社に商号変更したものである(本件において問題となっている時期の商号は日本鋼管株式会社であるが,以下においてはすべて「被告JFE」という。)。

2  ごみ焼却施設の概要及び種類(甲サ11,22,29,丙審A4ないし6)

(1)  ごみ焼却施設の概要

市町村並びに地方自治法に定める地方公共団体の組合である一部事務組合及び広域連合(以下「地方公共団体」という。)が整備するごみ処理施設は,ごみの処理方法により,① ごみ焼却施設,② ごみ燃料化施設,③ 粗大ごみ処理施設,④ 廃棄物再生利用施設及び⑤ 高速堆肥化施設に区分される。

このうち,ごみ焼却施設は,燃焼装置である焼却炉を中心に,ごみ供給装置,灰出し装置,排ガス処理装置等の焼却処理設備を配置し,ごみの焼却処理を行う施設であり,その施設には灰溶融設備や余熱利用設備が付帯している場合がある。また,地方公共団体は,ごみ焼却施設を建設するに当たって,粗大ごみ処理施設及び廃棄物再生利用施設を併設することもある。

(2)  ごみ焼却施設の種類

ごみ焼却施設は,1日当たりの稼働時間により,① 24時間連続稼動する全連続燃焼式(以下「全連」という。),② 16時間稼動する准連続燃焼式(以下「准連」という。),及び,③ 8時間稼動するバッチ燃焼式に区分される。

また,ごみ焼却施設は,採用される燃焼装置の燃焼方式により,① ストーカ式燃焼装置(ごみをストーカ,すなわち火格子の上で乾燥させて焔燃焼させ,次に,おき燃焼させて灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(以下「ストーカ炉」という。),② 流動床式燃焼装置(けい砂等の不活性粒子層の下部から,加圧した空気を分散供給して,不活性粒子を流動させ,その中でごみを燃焼させ,灰にする装置をいう。)を採用する焼却施設(以下「流動床炉」という。),③ ガス化溶融式焼却施設(以下「ガス化溶融炉」という。)がある。

(3)  ごみ焼却施設建設工事の種類

地方公共団体が発注するごみ焼却施設の工事には,新設,更新及び増設工事(以下,総称して「建設工事」という。)がある。

新設工事とは,ごみ焼却施設を新たに建設することであり,更新工事とは,老朽化したごみ焼却施設の建替えや老朽化した焼却炉などの入替えを行うことであり,増設工事とは,既設のごみ焼却施設の処理能力を増加させるため,当該施設の一部として焼却炉等を新たに増設することであり,新設,更新及び増設工事のいずれも,ごみの焼却処理に必要な施設又は設備を新たに建設又は整備することになる。

(4)  プラントメーカー

ア 被告会社らは,建設業法の規定に基づき主務大臣の許可を受けて清掃施設工事業を営んでおり,ごみ焼却施設を構成する機械及び装置の製造,その据付工事,設備機器を収容する工場棟その他の土木建築工事といった当該ごみ焼却施設の建設を行っており,プラントメーカーといわれている。

イ 上記のようなプラントメーカーには,被告会社らのほかに,株式会社タクマ(以下「タクマ」という。),日立造船株式会社(以下「日立造船」という。)及び川崎重工業株式会社(以下「川崎重工」という。),株式会社荏原製作所(以下「荏原製作所」という。),株式会社クボタ(以下「クボタ」という。),住友重機械工業株式会社(以下「住友重工」という。),石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島播磨重工」という。),ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。),株式会社川崎技研(以下「川崎技研」という。),三機工業株式会社(以下「三機工業」という。),株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼所」という。)等がある。

3  ごみ焼却施設の発注方法等(甲サ11,22,29,丙審A6)

(1)  発注までの概略

地方公共団体は,ごみ処理施設を建設する実行年度の前々年度以前にごみ処理基本計画を策定する。ごみ処理基本計画において,地方公共団体は,将来の人口の増減予測に基づいてごみの種別ごとの排出量を推計し,リサイクルできるごみの量や地域内で処理が必要なごみの量などを把握した上,その処理のために設置すべき施設の整備計画の概要を取りまとめる。

地方公共団体は,その後,ごみ処理施設の建設用地の選定,環境アセスメント,都市計画の決定等の手続を経た上で,実行年度の前年度にごみ処理施設整備計画書を作成し,都道府県を経由して国に提出する。その際,工事費用を把握するため,将来の入札に参加させられる施工業者を選定し,工事の仕様を提示して参考見積金額を徴している。そして,国が国庫補助事業として予算計上した地方公共団体のごみ処理施設整備事業については,予算計上後に内示が行われ,当該地方公共団体は,この内示を受けた後に一般競争入札,指名競争入札,指名見積り合わせ又は特命随意契約のいずれかの方法により,発注する。

地方公共団体は,整備すべきごみ処理施設が焼却施設である場合,通常,ごみ処理施設整備計画書の作成時点までに,あらかじめ当該施設の燃焼方式をいずれとするかを定めているが,燃焼方式を一つに定めずに発注手続を実施する場合もある。

(2)  発注方法

ア 地方公共団体は,ごみ焼却施設の建設工事を指名競争入札,一般競争入札,指名見積り合わせ又は特命随意契約の,いずれかの方法により発注しているが,ほとんどの場合は指名競争入札,一般競争入札又は指名見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)の方法によっている。

また,地方公共団体は,ごみ焼却施設の建設工事の発注に当たり,ほとんどの場合,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び据付工事並びに土木建築工事を一括して,プラントメーカー又はプラントメーカーと土木建築業者による共同企業体(以下「JV」という。)に発注するが,ごみ焼却施設を構成する機械,装置の製造及び据付工事と土木建築工事とを分離して,前者をプラントメーカーに,後者を土木建築業者に発注する場合もある。

イ 地方公共団体は,指名競争入札又は指名見積り合わせの方法で発注するに当たっては,入札参加資格申請した者のうち,地方公共団体が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から指名競争入札又は指名見積り合わせの参加者を指名する。

また,一般競争入札に当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しようとする者の申請を受けて,その者が当該資格要件を満たすかどうかを審査し,資格を有する者だけを一般競争入札の参加者としている。

4  本件各工事に係る入札及び契約

(1)  旭工場工事に係る請負契約

ア 横浜市は,以下の内容の工事(以下「旭工場工事」という。)の請負契約を指名競争入札の方法により締結することとし,被告会社ら,タクマ,日立造船,川崎重工の5社(以下「本件5社」という。)を指名業者として選定し,予定価格を193億2730万0070円(予定価格から消費税を控除した入札書比較価格は187億6436万9000円)と定めて,平成6年8月19日,指名競争入札を行った(甲3の1,4,丁8の2)。

(ア) 工事名 環境事業局旭工場改修工事(焼却炉築造工事)

(イ) 焼却方式 全連続燃焼式ストーカ炉

(ウ) 焼却能力 540トン/日(180トン/日×3炉)

(エ) 発電能力 9000kw

イ 上記入札の結果は以下のとおりであり(甲3の1),本件5社とも入札金額が入札書比較価格を超えていたため,横浜市は,同年9月14日,一番低額で入札していた被告三菱重工との間で,随意契約の方法により,上記工事について,代金を191億5800万円(消費税を含む。)とする請負契約を締結した。

第1回入札

第2回入札

(ア) 三菱重工

192億円

188億円

(イ) J F E

198億円

190億円

(ウ) タクマ

203億円

191億円

(エ) 日立造船

207億円

191億2000万円

(オ) 川崎重工

212億円

191億5000万円

(2)  金沢工場工事に係る請負契約

ア 横浜市は,以下の内容の工事(以下「金沢工場工事」という。)の請負契約を指名競争入札の方法により締結することとし,本件5社を指名業者として選定し,予定価格を413億4209万3650円(入札書比較価格は401億3795万5000円)と定めて,平成7年8月18日,指名競争入札を行った(甲3の2,4,丁8の3)。

(ア) 工事名 環境事業局金沢工場(仮称)建設工事(焼却炉築造工事)

(イ) 焼却方式 全連続燃焼式ストーカ炉

(ウ) 焼却能力 1200トン/日(400トン/日×3炉)

(エ) 発電能力 3万5000kw

(オ) 焼却灰溶融炉 60トン/日(電気溶融方式)

イ 上記入札の結果は以下のとおりであり(甲3の2),被告JFEが入札価格400億円で落札し,横浜市は,同年9月21日,被告JFEとの間で,上記工事について,代金を412億円(消費税を含む。)とする請負契約を締結した。

第1回入札

(ア) 三菱重工

412億円

(イ) J F E

400億円

(ウ) タクマ

421億円

(エ) 日立造船

415億円

(オ) 川崎重工

433億円

5  公正取引委員会の排除勧告及び審判等

(1)  公正取引委員会は,平成10年9月17日,地方公共団体が発注するごみ焼却施設の入札に際して,プラントメーカーが談合を繰り返してた疑いがあるとして,被告会社らを含む10数社に立入検査をした(丁1)。

(2)  公正取引委員会は,平成11年8月13日,本件5社が,遅くとも,平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注する全連及び准連ストーカ炉(なお,本件で談合の存否が問題となっているのは全連及び准連のものであるので,以下,「ストーカ炉」という場合は,全連及び准連のものをいうこととする。)の建設工事について談合を行っていたとして,本件5社に対して排除勧告を行った(丁5の1ないし7)。

これを受けて,横浜市は,本件5社に対し,同年8月17日から同年10月16日までの間,指名停止措置をとった(甲4)。

(3)ア  公正取引委員会は,本件5社が上記排除勧告に応諾しなかったため,平成11年9月8日,審判開始決定をした(以下「本件審判」という)。

イ  平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に,指名競争入札等の方法により発注されたストーカ炉の建設工事は,別紙2〔省略〕のとおり,合計87件あるが,そのうち公正取引委員会の審査官が,違反対象であると主張する工事は別紙2の中で網掛けがされている合計60件の工事である(本件各工事は,工事番号18及び39である。甲ア24)。

ウ  本件審判は,平成15年11月10日に一度終結し,公正取引委員会から指定を受けた(又は指定されたものとみなされる)審判官らは,平成16年3月29日付けで,審決案(以下「本件審決案」という。)を作成した。本件審決案においては,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間において,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事の過半について本件5社による談合が行われたことが認定されている(甲ア24,丙ウ46)。

6  住民監査請求及び監査結果(甲1,4)

(1)  原告らは,平成12年5月10日,横浜市監査委員に対し,横浜市は,本件5社に対し損害賠償請求権を有しているのにこれを行使しないことが財産管理を不当に怠るものであるとして,被告市長に対しその行使をすることを求める旨の住民監査請求をした。

(2)  横浜市監査委員は,同年7月5日付けで,原告らに対し,上記監査請求を棄却する旨の監査の結果を通知した。

第4争点

1  本件各入札において談合が行われたかどうか。

2  横浜市が被った損害の有無及びその額

3  被告市長が被告会社らに対し損害賠償請求権を行使しないことが違法かどうか。

また,地方自治法242条の2第1項4号による損害賠償請求は,上記違法のあることが要件となっているかどうか。

第5争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件各入札において談合が行われたかどうか)について

【原告らの主張】

(1) 基本合意の存在

ア 本件5社は,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,以下の内容の合意をしていた。

(ア) 地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,各社が受注希望の表明を行い,

① 受注希望者が1名の工事については,その者を当該工事の受注予定者とする。

② 受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

(イ) 本件5社の間で受注予定者を決定した工事について,本件5社以外の者が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるように本件5社以外の者に協力を求める。

(ウ) 受注すべき価格は,受注予定者が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

イ 本件5社は,上記基本合意の下に,次の方法で受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。

(ア) 本件5社は,平成6年4月以降,随時,本件5社の営業責任者クラスの者が集まる会合で,地方公共団体が建設を計画しているストーカ炉の建設工事について各社が把握している情報を交換し,その情報を共通化する(リストアップする。)。本件5社は,この情報交換により得られた情報を基に,受注希望表明の対象となる工事を「確定」する。

(イ) この情報交換は,処理能力の規模別等に区分して行われ,その区分は,平成8年ころは,「大型」(全連400トン以上),「中型」(全連400トン未満)及び「准連」に区分され,平成9年ころからは,「大型」(全連400トン以上),「中型」(全連400未満200トン以上)及び「小型」(全連200トン未満)の3つに区分され,このうち,「小型」については,さらに「全連200トン未満60トン超」と「60トン以下」に小分類されていた。

(ウ) 本件5社は,随時,本件5社の営業責任者の会合で,上記(イ)の処理能力の規模別等により3つに区分された工事ごとに,各社が受注を希望する工事を表明する。各社が受注希望を表明した工事について,希望者が重複しなかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

(エ) 受注予定者は各社の受注の均等を念頭において決定する。この受注の均衡は,各社が受注する工事のトン数を目安とする。

(オ) 本件5社以外のプラントメーカーが入札に参加した場合,受注予定者等は,受注予定者が受注できるよう協力を求め,その協力を得るようにする。

(カ) 受注予定者は,自社の受注価格とともに他社が入札する価格をも定めて各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた価格で入札し,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

ウ 上記基本合意が証拠により認められること

(ア) 本件審決案(甲ア24)は113頁から176頁にかけて,「本件合意の存否について関係証拠から認定される事実」と題し,関係証拠による詳細な事実認定を行うとともに,証拠の評価等をめぐる本件5社の主張を吟味し,結局これを排斥している。

また,同審決案は176頁から186頁にかけて「上記1の認定事実に基づく本件合意の存否についての判断」と題し,上記基本合意を認定している。

上記審決案の判断は正当である。

(イ) なお,被告会社らは,被告三菱重工の甲の平成10年9月17日付け供述調書(甲サ28,46)の信用性を論難しているが,同人は,年齢を重ねた成人男性であり,しかも大手企業の管理職の地位にある者であって,特にその供述の任意性・信用性を損なうような客観的事情もない。よって,甲が指印した上記供述調書には高度の信用性がある。

また,被告会社らは,甲が上記以外の供述調書などにおいて受注調整を否定していることをもって受注調整の事実がなかったと主張する。しかし,甲は,本件審判の被審人である被告三菱重工の従業員なのであり,平成10年9月17日には真実を話していたが,その後,被告三菱重工からプレッシャ-を与えられ,同社の利益のためにあえて食言をしたと考える方が自然であり,甲の上記以外の供述調書などのうち受注調整を否定する部分については信用することができない。

エ 本件5社による受注調整の実質的基準について

本件5社が受注し,公正取引委員会が違反行為対象物件とした60物件について,審査官が指摘したやり方と同様の手法で,甲サ106号証をもとに算出した本件5社の受注指数をみると,受注成功率19~20%の割合で均衡し,かつ安定していて,本件5社均等の数値に収れんするように変動していることが分かる。これは偶然ではあり得ないことであって,この期間中,本件5社は,本件審決案認定の合意に基づいて,各社の受注数値がほぼ均衡するように,全国のストーカ炉の市場を違法に分割していたことを示している。

(2) 横浜市の本件各入札について

ア 本件審決案は,平成6年4月以降について,本件5社による受注調整の合意が認められるとしている。このことから,この期間中に本件5社が受注した工事については,それぞれ基本合意に基づいて合意の拘束を受け,受注予定者が決定され,受注したものであると推認できる。

本件審決案は,平成6年4月から平成10年9月17日までの間に指名競争入札等の方法により入札が行われたストーカ炉の建設工事のうち,具体的な証拠から,本件5社が受注予定者を決定したと推認される工事として30工事を指摘しているが,本件各入札に関しては,談合を推認させる「具体的な証拠」の存在を指摘していない。しかしながら,本件各入札においても談合がされていたことは以下の各点から認めることができる。

イ 落札率の高さ

(ア) 本件審決案が,上記30件の工事ばかりでなく,「ストーカ炉の建設工事の過半について」,談合が行われていたと認めた最大の根拠は,「本件5社のうちいずれかが落札した工事の平均落札率が高いこと」にある。そして,落札率について,場合を分けて整理すると以下の表のようになる。

第1類 談合に関する具体的証拠の指摘あり

第2類 談合に関する具体的証拠の指摘なし

A 本件5社が指名され,落札

A1(6件)

99.12%

A2(21件)

98.59%

B 本件5社以外も指名

本件5社が落札

B1(20件)

97.87%

B2(16件)

89.01%

C 本件5社以外も指名

アウトサイダーが落札

C1(3件)

96.97%

C2(18件)

88.56%

(イ) この表から読み取れることは,発注者が本件5社以外のプラントメーカー(以下「アウ トサイダー」という。)を指名業者に加えた場合(B及びC)には,談合を推認させる「具体的な証拠」を伴うケース(B1,C1)とそうでないケース(B2,C2)との間には8ないし9ポイントという有意な差があるのに対し,はじめから本件5社だけしか指名されていない場合には,本件審決案が「具体的な証拠」を援用したケース(A1)も,そうでないケース(A2)も,落札率における有意な差は全くなく,共に限りなく100%に近いということである。

(ウ) そして,B2のカテゴリーに属する16件のうち,落札率が低い4件(別紙2の工事番号67,28,40,41)だけが,アウトサイダーの説得に失敗して競争が成立してしまったケースであると推定されるところ,競争が成立すれば,落札率は,極端な場合を除いて,おおむね70ないし80%程度になることが推定される。したがって,本件5社が受注意欲を発揮すれば,入札書比較価格等を少なくとも20%以上は下回る価格で受注する能力があるといえる。

(エ) にもかかわらず本件各入札において,落札者以外の各社が,入札書比較価格を上回る札しか入れていないのは,あえて受注能力を発揮しないことが,あらかじめ本件5社間で合意されていたからである。

(オ) 被告会社らは,落札率が高いからといって談合が行われたとはいえないと主張するが,落札率と談合との間に関連性があること自体は争いのない考え方であり,落札率が高ければ談合を疑うのは常識である。自治体において談合防止について積極的な取組みや立入調査等を行った後において,顕著に落札率が低下していることは公知の事実である。そもそも,談合が行われるのは,特定の業者が落札することを確実にするばかりではなく,高い落札率で落札することに最大の目的があるのであるから,関連性があるのは当然である。

(カ) 被告会社らは,予定価格を予想することが可能であったことを指摘するが,入札参加者間に競争が成立していれば,仮に予定価格が事前に把握できていても,また,高額での落札を望んでもその願望のままに高い札を入れたのでは落札することはできない。談合により競争相手が自分より高い額の札を入れることが分かっている場合以外は,予定価格ギリギリの札を入れることは実際上できない。

ウ 甲供述及びA供述について

(ア) 被告三菱重工の甲は,本件5社の営業担当者が集まる会合において,受注予定者を決定しており,被告三菱重工が受注予定者となった場合は,ほぼ受注できる旨供述しており(甲サ46),上記会合で受注調整をしていた工事には,アウトサイダーが入札に参加した工事も含まれることからすると,本件5社だけが入札に参加した工事については,当然,受注予定者が受注していたことは見易いことである。

(イ) また,被告JFEのAは,本件5社のみで指名競争入札が行われる場合には,本件5社のルールによってあらかじめ物件ごとにチャンピオンが決められるという話を聞いた旨供述しており(甲サ44),本件各工事を含む29工事(前記イにおけるA分類)の入札にはアウトサイダーが参加しておらず,本件5社又は本件5社のいずれかの者だけが入札に参加した工事であることから,本件5社で受注予定者を決定すれば,当該受注予定者が受注できることは明らかである。

(ウ) 以上より,本件各工事の受注予定者は,本件5社内部の調整のみに基づき,アウトサイダーに妨げられることなく,独占的に受注したものと推認される。

エ Bメモ(甲サ107)について

川崎重工のBが作成したメモ(別紙4,甲サ107)は,本件5社が個別工事の受注予定者を決定することを繰り返し継続していたことを前提とするものであり,本件5社による談合の基本合意とそれに基づく個別談合の存在を推認させる。

そして,甲サ107号証には,平成6年3月31日まで,平成7年3月31日まで,同年11月30日(今回)までに分けて,A,B及びQという各数値が記載されている。したがって,このメモは,平成6年3月31日までの計算を前提として平成6年4月1日以降平成7年11月30日までの各対象工事分を加算し数値を記載したものである。

以上のことから,このメモは,少なくとも平成6年4月1 日以後平成7年11月30日までの間の各工事について,本件5社が基本合意に基づく個別談合を繰り返していたことの証拠と評価できる。

(3) 請求原因事実の特定の程度について

ア 被告会社らは,本件において,個別談合の日時,場所,具体的内容・方法について原告らが主張立証しなければならないと主張するが,談合による不法行為の場合には,どの工事について,入札参加者間における受注予定者の合意があったかを明らかにし,それについて,個別に受注予定者を決定するための話合いが行われたことを主張立証すれば足り,個別の協議について,その具体的な日時・場所・参加した担当者の氏名等まで原告らが主張立証する必要があるというのは不可能を強いるものである。

イ 原告らは,本件各入札における談合行為について,「遅くとも平成6年4月1日以降,本件各工事の入札期日までの間に,本件5社が持ち回りで,毎月1回程度,いずれかの会社の会議室において『受注調整』と称する会議を開き,その場において本件各工事のうち旭工場については被告三菱重工を,また金沢工場については被告JFEをそれぞれ受注者とし,他の入札参加者は,各受注予定者に受注させるために,あえて各受注予定者よりも高い金額で入札することにより,競争から離脱する旨を合意した上で,前記各入札期日において,この合意を実行したものである」旨を,訴状の段階から明確に主張してきた。したがって,請求原因事実の特定について欠けるところはない。

【被告三菱重工の主張】

(1) 請求原因事実の不特定

自由競争を不当に制限するか否かという観点から決定される公正取引委員会における審決と,被害者が現実に受けた損害を填補することを主たる目的とする民法上の不法行為制度に基づく損害賠償請求とでは,その主張立証命題が自ずと異なる。不法行為に基づく損害賠償請求訴訟においては,個々の工事について,入札参加者が事前に話し合い,受注予定者を決定したこと,そこで決定された受注予定者が当該工事を落札したことを主張立証しなければ,要件について主張立証がなされたことにはならない。

そして,かかる主張は,個々の工事についての話合いの態様が明らかになって初めて意味のある主張となるものであるし,被告としても防御が可能となるものであるから,原告らは,個々の工事についての話合いの態様について,時期,場所,内容を特定して主張立証すべきである。

しかしながら,原告らは,本件訴訟において,本件各入札に関する談合について具体的な主張をしていないから,主張自体失当である。

(2) 原告らの基本合意に関する主張に対する反論

ア 甲供述について

本件審決案は,談合の基本合意の存否について甲の供述調書(甲サ28及び46)に多くを依拠しているが,そもそも上記各供述調書は,公正取引委員会が立入検査を実施した平成10年9月17日当日,審査官の先入観又は偏見に基づき作成されたもので信用性に乏しい。その後,本件審判で審査官が提出を拒み続けた上記各供述調書以外の甲の供述調書等が提出され,甲が一貫して談合を否定していたことが明らかとなった。

甲は,乙1号証の証人調書において,審査官は供述したことをすべて調書にしてくれなかったこと,供述当日10分ということであったが午前11時から午後8時まで取調べを受けたこと,黙秘権の告知がなかったこと,否認ばかりすると明日もあさっても取り調べると言われ,会社では部下が証拠を破ろうとして公正取引委員会が差し押さえたとの虚偽の誘導があったこと,甲サ28号証及び46号証が事実に反しているので受注調整などしていないとする調書を取ってもらい修正してもらったこと,審査官はその調書を審判手続に出さないでいたところ,証拠開示の申立てをされてようやく出してきたものであることを証言しており,上記各供述調書の信用性及び証明力には疑問がある。

イ A供述について

被告JFEのA供述は,本件5杜の会合の出席者ではない者による,これまた会合の出席者でない者からの伝聞証拠であり,談合の基本合意の立証との関係でどれだけ証拠価値があるのかは疑わしい。

また,A供述等は,指数の勘案や受注希望対象物件の選定方法等談合の基本合意の重要な構成要素について,甲供述と齟齬しておりAの供述調書等は談合の基本合意の存在を立証する証拠とはなり得ない。

ウ 原告らが主張する本件5社による受注調整の実質的基準について

(ア) 原告らは,本件5社の受注指数を算出し,これが均等の数値に収れんするように変動していると主張するところ,審査官が指摘したやり方と同様の方法で算出したというが,審査官が問題とする指数と原告らがいう受注指数とは似て非なるものである。

したがって,原告らが,本件審判で論争の対象となった指数とは異なる数値を持ち出して,これをもって受注調整の基準としていたと主張するのであれば,まずはそのような数値が受注調整に際して使われていたという具体的な根拠を提示すべきである。

また,原告らの主張においては本件5社のいずれかが受注した物件のみが対象になっていることからすると,本件5社のすべて又はいずれかが指名に入り,かつ,本件5社のいずれかが受注した物件のみを対象に数値を算出し,入札後に,その数値を勘案して次の工事の受注予定者を決めることになる。これは,本件審判で争われた基本合意の内容とは異なるものであり,原告らとしては自ら設定した基本合意を一から主張立証すべきである。

(イ) 本件審判における審査官がいう,指数の低い者から受注希望表明するというのは,受注調整の場において関係者を拘束するルールといえることから,それが立証されれば基本合意の存在だけで公正取引委員会との関係では談合の立証がなされたといえるかもしれないが,原告らのいうように,割合が19~20%であればどこが受注予定者になってもよいというのでは,出発時点で分母が5~6万以降の分母,分子の増加は1回につき,ごく稀に1000程度ということからすると,それほどの変動は起きず,結局は毎回の話合いにおいて当事者を拘束するルールになるとはいえない。

(3) 旭工場工事に係る入札について

ア 落札率について

(ア) 旭工場工事の場合,発注者から引合いを受けたメーカーは参考見積りを作成するため,おおむねの仕様と予算金額を予想することが可能であったのであり,予定価格についても,予算の数%カットとおよその予定価格を推定予想すること可能だった。

この推定予定価格は,上記参考見積りの価格よりは低い価格であるので,メーカーにとっては採算上厳しい数字であるから,自ずと推定予定価格に近い金額での競争となる。

原告らは,落札率90%以上の物件は談合が行われた証拠であると主張するようであるが,10%カットして入札すると,間違いなく大赤字工事となり,会社経営上許されるものではない。

(イ) 旭工場工事に係る入札では,第2回入札で本件5社いずれの応札価格も横浜市の予定価格を上回ったことから,入札不調になり,最低価格を入れた被告三菱重工と交渉に入り,186億円で随意契約が成立した。

1社のみによる交渉であるから被告三菱重工としては小刻みに価格を下げていけばよく,横浜市としても被告三菱重工の提示する価格が予定価格内に入れば契約成立とするのであるから,当然第3回の提示価格は,2回目価格に比べ下げ幅は小さくなる。そのため,このようなケースでは落札率が高くなっても不思議はない。

イ 随意契約である点について

入札不調となった後,随意契約にするか否かは発注者である横浜市が決めることであり,随意契約として成立した以上,談合といわれる筋合いはない。

ウ 旭工場工事に係る入札の時期について

旭工場工事については,平成5年秋,遅くとも平成6年1月にはその予定が本件5社間で確定できたはずであるから,無駄な営業競争を避けるという意味では,その時点で受注予定者を決定することが本件5社の利害に合致するはずである。

このことは,仮に,百歩譲って旭工場工事に係る入札につき個別談合が存在したとしても,それは本件審判で対象となっている違反行為期間の始期である平成6年4月1日より前のことである可能性が高いことを意味する。

したがって,原告らとしては同日より前にも何らかの基本合意が存在し,当該基本合意の下で旭工場工事に係る入札についての個別談合がされたとし,基本合意から主張立証するか,又は個別談合そのものを明確に主張立証しなければならない。

エ Bメモ(甲サ107)について

甲サ107号証に記載の19件の工事はいずれも本件5社のうちのいずれかの者並びに荏原製作所及びクボタの双方又はいずれかの者が指名され,受注した物件であり,旭工場工事のような本件5社指名の工事は原告らがいう指数のカウント対象には入っていない。

旭工場工事の入札日が同号証の対象とする期間内に入っているのは事実としても,同工事が計算対象に入っていない以上,同号証をもって同工事についての個別談合の証拠とはならない。

【被告JFEの主張】

(1) 請求原因事実の不特定

原告らの主張は,結局のところ,「本件5社は基本合意に基づいて本件各工事について受注予定者を決定した」という以上の具体的内容を何ら述べないもので,個別談合の具体的内容・方法,その日時・場所等の具体的内容に関して,請求原因事実として最低限の特定すらされておらず,原告らの主張は主張自体失当である。

(2) 基本合意に関する原告らの主張に対する反論

ア ごみ焼却施設工事及びその営業の特殊性

(ア) ① ごみ焼却施設の建設工事は,材料や工法は指定せずに基本的な性能等のみを規定する,いわゆる性能発注の方法によってなされるため,メーカーごとの裁量の幅が大きくなること,② 工事は個々の地方自治体により発注されるものであって,その時期は当然ながらバラバラであり,決して定期的に発注されるような性質のものではないこと,③ 各地方自治体は,指名競争入札における指名業者の選定に際しては各業者の技術力や設計内容を重要な判断材料としているため,いくら各メーカーの営業担当者が受注に向け努力しても,地方自治体が技術力や炉の構造などの条件で指名業者を決定してしまうこともあり,必ずしも営業活動だけで指名が獲得できるというものではないこと等の特殊性があり,ごみ焼却施設の建設工事は,メーカー側にとってみれば,物件ごとの個別性と受注までの不確定要素が非常に大きいものである。

(イ) また,ごみ焼却施設については,メーカー各社とも長期にわたって多大の手間と費用をかけて,いくつもの物件についての営業活動を粘り強く行っており,そのため,1件の工事の受注までに要するコストも必然的に多額となる。

(ウ) にもかかわらず,原告らの主張によれば,各物件の受注予定者は,入札直前に行われるたった数回の話合い,またはその時点の指数を勘案して決まるということになる。これは,それまでに各社が要したに違いない費用と時間を考えると,あまりにも経済的合理性を欠く行動である。

イ 営業担当者の会合について

原告らは,5社が会合を開催して受注予定者を決定していたと主張するが,ごみ焼却施設メーカーの営業担当者は,公的機関での会合等において打合せ等を行う機会があり,これらの会合は原告らが主張するような受注予定者決定等を目的とする会合ではない。

ウ 甲供述及びA供述

(ア) 原告らは,基本合意を立証する証拠として,甲供述とA供述を挙げているが,「基本合意」とされるからには,当然のことながらその内容が一致していなければならないところ,甲の供述調書(甲サ28及び46)とAの供述調書等(甲サ35及び44)の記載内容は,例えば物件の分類基準等について一致していない。

(イ) 甲供述について

原告らが依拠する2通の甲の供述調書は,いずれも審査官が本件について立入検査を行った平成10年9月17日当日に,甲を公正取引委員会に半ば強制的に同行して作成したもので,その頁数としてそれぞれ6頁程度の短いものに過ぎない。その内容は,誰でも当然思いつくような抽象的かつあいまいな内容であって,実際に会合に出席した者でなければ知り得ない事実が含まれているわけではない。

その後に作成された多数の甲の調書は,受注調整行為の存在を一貫して否定しており,この内容に照らしても,甲は当初の2通の調書において具体的な事実関係を任意に述べたものとは解せない。

(ウ) A供述について

Aの供述調書等は,原告らが主張するところの「5社の会合」の出席者でもない被告JFEの社員から聞いた話を,これまた同出席者でもなく,ごみ焼却施設の営業経験すら乏しいAが供述等した再伝聞証拠で,その証明力は極めて乏しい。

また,甲サ44号証の作成に至った取調べについては,非常に過酷なものであったことや,審査官が「この調書は裁判に提出しない」などと言って,Aに対し調書に押印するよう申し向けたこと等,重大な問題があった。

さらに,甲サ44号証は,被告JFEの社員らが,Aに飲み屋で一杯やりながら話した内容であるとされているが,自分の会社が関わっている談合についての情報を社外の酒席で話すという事態は不自然かつ非常識である。

エ 指数論について

(ア) 原告らは,本件5社は,各社の受注実績等について一定の方式に従って算出した指数が各社均等となるように受注調整をしたなどとも主張している。

(イ) 原告らが指摘する甲サ107号証は,単に実際に受注が行われた後の工事について記載されたものであり,受注調整結果等を前提に記載されたものではない。したがって,同書面の記載からは,受注調整行為が行われたことを推認することはできない。

(ウ) 原告らがいう指数が本件5社共通のものとなっていたとは本件審判の審査官さえ主張していないことであり,5社共通の数値として受注状況が数値化されていなければ,受注調整行為のために数値化する意味はないから,仮に一部の企業による数値化があったとしても,本件5社による受注調整行為があったことを推認させるものではない。

(エ) また,原告らの主張する指数の算定方法に基づき,平成元年度から平成10年度までの本件5社の指数を計算しても,各社の指数は均等していない。

オ Bリスト(甲サ89)について

(ア) 甲サ89号証は,本件5社に共通して使用されていた書類ではなく,そのうちの川崎重工の担当者が社内的な分析資料の一つとして作成していたものであり,その表題も「年度別受注予想」と記載されているとおり,単なる受注予想である。

(イ) 同書面に記載された平成8年度から平成10年9月までの発注物件について,全連及び准連ストーカ炉に限ってみても,実際に発注された22工事のうち4件が同書面記載の者と受注者が不一致である。仮に受注予定者が話合いによりあらかじめ決定されていたのなら4件もの不一致が出ることはあり得ない。

(ウ) 甲サ89号証に列挙された92件すべてについて検討すれば,受注予想と実際の受注者が一致しない物件が多数存在する。

平成10年9月までに発注された37物件に絞ってみても,そのうち記載されているイニシャル会社と実際の受注者が一致しているものは19件にとどまり,受注予想の確率としてはまさに五分五分でしかない。

(エ) 甲サ89号証には,各年度に発注が予想される物件の全部が記載されているわけではなく,決して網羅的かつ確定的なものではない。

(オ) 各企業は,地方公共団体が発注を予定しているごみ焼却施設について,そのすべてを受注できる製造能力や営業資源を有しているわけではないから,会社の営業方針に基づき営業活動を重点的に行う物件を選別していた。そして,重点的な営業活動により,当該企業が落札する可能性は一般的にみて相対的に高くなり,このことは,同業他社も予測し得る。そうであれば,川崎重工が,その予想を受注予想表に記入することは,受注調整行為がなくても営業活動上十分にあり得ることである。

(3) 金沢工場工事に係る入札について

ア 個別談合に関する主張立証の欠如

ごみ焼却施設建設工事の入札手続は,それぞれの案件ごとに行われるものであり,仮に基本合意が存在したとしても,個別談合が行われない限りは当該案件に関する談合行為の実行はあり得ない。また,必ずしもすべての入札で談合が行われるとは限らない。

したがって,原告らが主張立証責任を負う具体的事実は,契約締結により横浜市に生じたとする損害と因果関係のある違法行為,すなわち,本件審判において審理の対象とされている基本合意の存在ではなく,民法上の不法行為となり得る本件各入札に対応した個別談合行為の存在である。

しかしながら,原告らから提出されている書証をみても,金沢工場工事に係る入札における談合に関する直接証拠は存在しない。原告らは,金沢工場工事が単に本件審判において違反対象とされた60件の工事に含まれていると主張するだけであって,談合がされたことの具体的かつ実質的な根拠は存在しない。

イ 落札率について

(ア) 原告らは,金沢工場工事に係る入札における落札率の高さを指摘するが,原告らが談合に関与していないと考えるクボタの平均落札率が98.6%に上るのに対し,本件5社による平均落札率はこれより低い96.6%であるから,落札率により談合の存在を推認することは,論理的・説得的ではない。

(イ) また,一般に,事前に予定価格が漏れることはないのであるから,金沢工場工事については,本件5社の競争に基づく適正な入札が行われたことを前提として結果的に原告が指摘するような落札率になったに過ぎず,このこと自体は談合の存在を裏付けるものではない。特に,各社の価格積算精度が向上し競争が激化する中で,いかに予定価格に近い金額で,かつ,予定価格をオーバーせずに一番低い札を入れるかについては,まさに営業担当者の経験と手腕によるのであり,他社との熾烈な競争を行っているのが実態なのである。

ウ 甲供述及びA供述について

原告らは甲供述やA供述が個別談合の証拠となるというが,両供述のように,具体的な日時,場所,対象物件が全く不明である供述には,個別談合についての証明力はない。

2  争点2(横浜市の被った損害の有無及びその額)について

【原告らの主張】

(1) 被告会社らは,本件各入札に関する談合により,他の入札参加業者との競争関係を何ら考慮することなく,専らその利益を最大にするため,自らの予想した予定価格に極めて近接する価格で入札することが可能となり,実際に被告三菱重工は,入札の不調により随意契約に移行した後,落札率にして99.12%という高額で旭工場工事を受注し,被告JFEは1回の入札で落札率99.66%という高額で金沢工場工事を受注した。

談合が行われず,入札参加業者間の自由競争によって落札業者が決定された場合と比較すると,被告会社らの各受注金額は不当につり上げられたといえる。

したがって,発注者たる横浜市は,被告会社らによる違法な談合によって,入札参加業者間の自由競争が成立したと想定すれば形成されていたであろう落札価格を前提とした契約金額と,実際の契約金額との差額分について,損害を被った。

(2) もっとも,上記の想定落札価格は,現実には存在しなかった価格であるから,具体的にこれを認定するのは困難である。しかも,落札価格は,入札当時の経済情勢,当該工事の種類・規模,競争者数,地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであり,談合が価格形成に及ぼした影響を正確に明らかにすることも困難である。

これらの事情にかんがみると,横浜市が被った損害については,その性質上金額の算定が極めて困難であるというべきであるから,民事訴訟法248条を適用して認定すべきである。

(3) そして,公正取引委員会審査官が本件審判において談合の対象から除外した「フリー物件」の落札率は,50.24%,75.97%,88.71%,90.87%,74.73%であること,その後広島市,下関市,尼崎市等が発注した工事について74.33%から90.37%の落札率が実現していることに照らすならば,控え目にみても,横浜市が被った損害額は本件各契約の契約金額の10%に相当する額は下らない。

【被告三菱重工の主張】

(1) 落札率は,談合と必ずしも関連性がないから,落札率を基準とする損害の認定は,合理性がない。

(2) 旭工場工事は,入札不調による随意契約であるから,横浜市としては被告三菱重工が提示する価格が予定価格内であれば契約するし,そうでなければ契約しないだけである。

予定価格内であれば契約となるのであるから,被告三菱重工としてはできるだけ高い価格で契約できるよう,小刻みに金額を下げて交渉すればよいのであって,最初から10から20%金額を下げて提示する必要もない。したがって,落札率が99.12%であっても何ら非難される筋合いはなく,また,随意契約による場合は,損害があるとはいえず,また因果関係もない。

【被告JFEの主張】

(1) 原告らは,現実の請負契約金額と原告らが主張するような談合行為が存在しなかった場合の適正な請負契約金額との差額がいくらになるのか,証拠に基づき具体的に主張することが必要であり,かかる主張立証を欠く原告らの主張は失当である。

(2) 民事訴訟法248条は,民事訴訟における主張立証の自己責任や弁論主義の大原則を変更する趣旨で規定されたものではなく,損害の発生や因果関係の証明がなされたことが前提で,適用されるものである。

そして,予定価格については積算ソフトを用いることで,発注者が決定する予定価格とメーカーが算出する価格が近似する状況にあることからすれば,談合が行われない場合にも,談合が行われた場合と同程度に落札率が高くなることは十分にあり得る。現に,受注調整行為がないとされている案件についても落札率が高い案件が存在する。

したがって,談合行為の存在と落札率が高いという事実のみで,損害の発生及び談合行為と損害との因果関係が証明されるものではない。実際の契約価格と適正価格との間に一定の差があったことが立証されない限りは,損害の発生について証明がなされたとはいえず,安易に民事訴訟法248条を適用して損害額を認定すべきでない。

3  争点3(違法な怠る事実の有無及び地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求の要件)について

【原告らの主張】

(1) 違法な怠る事実の存在

ア 地方自治法240条2項,同法施行令171条以下の規定から明らかなとおり,債権については,地方公共団体の長は,これを行使すべき義務を負い,行使するか否かについての裁量の余地はほとんどない。

したがって,地方公共団体の長が,同施行令171条の5に定める場合でないのに,相当期間債権を行使しないときは,それを正当化する特段の事情のない限り,違法である。

イ 本件審判において,被告会社らを含む本件5社が談合の事実を全面的に争っている状況にかんがみると,審決が確定するまでには,審決取消訴訟の帰すう等を含め,なお長期間を要することが想定される。

その間,被告市長が損害賠償請求権を行使しないでいるとすれば,地方公共団体の被った損害の回復が図られない状態が長期間継続し,地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償代位請求訴訟の目的に沿わないばかりか,将来,被告会社らから,上記損害賠償請求権の消滅時効が援用されるなどして,債権の行使に支障が生ずる危険性も生じかねない。

したがって,上記損害賠償請求権を行使しないことを正当とする特段の事情があるとはいえない。

(2) 地方自治法242条の2第1項4号請求の要件

同号に基づく請求は,地方公共団体が,当該職員ないし相手方に対し,実体法上同号所定の請求権を有するにもかかわらずこれを積極的に行使しようとしない場合に,住民による代位請求権を認めたものである。

すなわち,損害賠償請求権の存否だけが4号請求の要件であり,地方公共団体が当該請求権を行使しないことが違法評価を受けるかどうかは同項3号請求の要件の問題である。

【被告市長の主張】

(違法な怠る事実の不存在について)

(1) 仮に本件各入札において談合があり,横浜市が損害を被ったとした場合,公正取引委員会が談合の事実を認定した審決が確定する以前においては,民法709条に基づく損害賠償請求訴訟のみが可能であるが,同訴訟においては,私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)25条の損害賠償請求訴訟とは異なり立証責任の軽減等もないことから,基本合意及び個別合意の双方につき原告側で主張立証する必要があり,これらを裏付ける直接的証拠を欠く場合には,多くの間接事実の集積により談合行為を立証するほかはない。本件においても,本件各入札における談合の事実を裏付ける直接証拠は存在せず,また,これらを確実に推認させる程度の間接事実や間接証拠の集積はされていない。

(2) 被告市長としては,限られた財政事情の下,財産管理を行うに当たって最も有効かつ適切な方法を選択する必要があり,本件のように公正取引委員会の排除勧告を本件5社が正面から争っているケースにおいて訴訟を提起することとなれば,多額の費用と時間を費やすことになるのは必至であり,万に一つでも敗訴するような事態は避けなければならない。したがって,証拠等の立証手段に照らして相当な蓋然性をもって勝訴する見込みがない以上は,財産管理者としては損害賠償請求訴訟の提起は控えざるを得ない。

本件では,本件審判の証拠が明らかとなり,本件審決案が示された現時点においても談合の事実を立証するための証拠等は欠けており,相当な蓋然性をもって勝訴を見込める状況にはないから,被告市長に違法に財産管理を怠る事実などない。

(3) また,地方自治法242条の2第1項3号が単に「怠る事実」のみでなくそれが違法であることを要件としていること,住民訴訟が行政一般の非違を問うものではなく,その対象を財務会計行為に限定していること,「怠る事実」があったとしてもそれに対していかなる対応をすべきかの行政庁の第一次判断権をも考慮すべきこと等からすれば,怠る事実の結果,損害発生があると認められる場合でそれを放置することが公益を害することとなる場合に初めて「怠る事実」が違法の評価を受けるものと解すべきである。

仮に本件で現在まで提出されている証拠等により談合の事実を認定し得るとすれば,公正取引委員会の審決確定後に提起の可否を検討する独禁法25条の損害賠償請求訴訟においても談合の事実の立証は困難なものではないということになる。そして,独禁法25条に基づく損害賠償請求権は審決確定時までは消滅時効が進行しないとされていることからすれば,それまでに時効が完成して請求権自体が消滅するということもなく,審決確定以前の現時点で損害賠償請求をしていなくとも横浜市に財産的損害は発生しない。

したがって,損害賠償請求権の不行使により財産的損害が発生しない本件では,そもそも3号請求の要件を欠いている。

【被告三菱重工の主張】

(1) 違法な怠る事実の不存在について

民法709条に基づく損害賠償請求権と独禁法25条に基づく損害賠償請求権は別個の請求権であり,地方自治体の長は,これらの請求権のいずれをも行使することが可能であり,いずれかの請求権の行使により,地方自治体に生じた損害の回復が可能となるという関係にある。

かかる状況において,地方自治体の長には,事案ごとに,立証可能性,費用負担等を慎重に検討し,上記いずれの債権の行使が適切かどうかも含め,最も適切な回収の方法を選択し,損害の回復に努める義務がある。特に,独禁法に基づく審判手続が継続している場合,その確定を待って同法25条に基づく損害賠償請求を行っていくという選択肢も十分考えられるところである。

逆に,本件審判又は審決取消訴訟によって,談合の事実なしとの認定も予測されるのであれば,そのような蓋然性を認識し,審決確定前に不十分な証拠に基づいて訴訟を提起する行為こそが当該地方公共団体にとって損失となるという判断も考えられよう。

かかる選択肢が考えられるにもかかわらず,いまだ公正取引委員会における審判手続が継続している現時点において,被告市長による請求権の不行使が違法若しくは不当に財産の管理を怠っているとはいえない。

(2) 地方自治法242条の2第1項4号請求の要件

請求権の不行使につき必要な措置を講ずべきことを住民訴訟により求めることができるのは,当該地方公共団体が請求権の行使を違法に怠る事実により当該地方公共団体の被った損害を補てんすることを目的とする場合に限られるのであって,地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償の請求をする際には,地方公共団体が請求権を行使しないことが違法であることが必要である。

【被告JFEの主張】

(1) 違法な怠る事実の不存在について

ア 地方公共団体の債権の行使又は不行使について,地方公共団体の長に裁量の余地がないのは,前提としてその債権の存在が客観的に明らかである場合であって,当該債権の存否自体が確定していない場合についてまで,その確定していない債権を行使する義務を地方公共団体の長が負っているとは解せない。

本件5社は,談合行為の存在を全面的に争っており,損害賠償請求権の存在が客観的に明らかであるとはいえず,地方公共団体の長が上記請求権を主張してその支払を請求しないとしても,違法に怠る事実と評価されるべきものではない。

イ また,不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅時効にかかったとしても,独禁法26条2項は,同法25条による損害賠償請求権の消滅時効期間を審決が確定した日から3年と規定しており,審決の確定を待ってから請求権を行使することが可能である。したがって,先に不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことが違法に怠る事実であるとはいえない。

他方,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を先に提起し,原告ら側が立証不十分等により敗訴した場合には,その既判力及び事実上の推定力が発生し,その効力が及ぶ範囲において原告ら側及び地方公共団体側が不利益を被ることもあり得ることからすれば,不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を控えることには十分な合理性が認められる。

加えて,損害の回復が図られない状態が長期間継続することと,奏功するか見通しが不明な裁判を費用をかけて長期間続けることのどちらのリスクが大きいかは一義的に判断し難い。

ウ したがって,本件において被告市長が不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を控えていることには十分な合理性が認められる。

(2) 地方自治法242条の2第1項4号請求の要件

地方自治法第242条の2第1項柱書において,「裁判所に対し,242条第1項の請求にかかる違法な行為又は怠る事実につき,訴えをもって次の各号に掲げる請求をすることができる。」と規定されていることから,住民訴訟の対象は,職務上の行為又は不行為(怠る事実)のうち,違法の瑕疵があるものに限定されている。

また,住民訴訟が,「公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟」(行政事件訴訟法5条)とされ,究極的には行政の適正化を図ることを目的としていることからも,地方自治法242条の2第1項4号に基づいて損害賠償の請求をするについては,当該地方公共団体が当該請求権を行使しないことが違法と評価されることが要求される。

第6当裁判所の判断

1  争点1(本件各入札において談合が行われたかどうか)について

(1)  本件5社の地位等

証拠(甲サ13,14,16ないし18,20,23,24,28,29,31,33,34,42,45,47,50ないし53,87,118,120,123,149,156ないし160)及び弁論の全趣旨によれば,ストーカ炉の建設工事業界における本件5社の地位について,以下の事実が認められる。

ア 本件5社の技術力

本件5社は,ストーカ炉の建設工事の施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さから,ストーカ炉のプラントメーカーの中にあって「大手5社」と称されていた。

本件5社は,ストーカ炉を製造する技術が高く,特に1炉につき1日当たりのごみ処理能力トン数(以下,単に「処理能力」という。)が200トン以上の焼却炉を製造する能力が他社に比べて高かった。

イ 本件5社の情報収集力

ごみ焼却施設の建設については,最近では全く新規の需要というのは少なく,耐用年数を経た既存施設に代わる施設の建築,建替え需要が中心となっていた。

本件5社は,地方公共団体のごみ焼却施設の建設計画や保有するごみ焼却施設の稼働状況等の情報が掲載された業界紙等に基づいて,各地方公共団体ごとのごみ焼却施設の建設計画の有無や既存施設のおおむねの更新時期を把握していた。

また,本件5社では,営業担当者等が地方公共団体のごみ処理施設建設に関係する部署の担当者,ごみ処理基本計画などの作成を委託されているコンサルタント会社,建設計画に影響力のある政治家や地元の有力者等と接触して地方公共団体のごみ焼却施設の建設計画について情報収集をしていた。

加えて,地方公共団体がごみ焼却施設整備計画書を作成するに当たり,当該計画に係る参考見積書又は見積設計図書の作成依頼を受けることにより,ごみ焼却施設の建設計画についてより詳細な情報を把握していた。

ウ 指名実績

本件5社は,地方公共団体が実施するストーカ炉の建設工事の指名競争入札等において指名を受ける機会が多く,指名競争入札等に数多く参加していた。本件5社以外のプラントメーカーは指名を受ける機会が少なく,本件5社とそれ以外のプラントメーカーとでは指名実績において格差があった。

平成3年度から平成7年度(同年9月11日現在)において,100トン以上のストーカ炉建設工事において,指名を受けた実績は,被告三菱重工が95.4%,タクマが87.4%,被告JFEが86.0%,川崎重工が85.9%,日立造船が85.0%,荏原製作所が24.1%,クボタが17.2%,石川島播磨重工が4.7%,ユニチカが4.0%,住友重工が2.3%,三機工業が0.8%であった。

平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間,地方公共団体が指名競争入札の方法により発注したストーカ炉の建設工事につき指名を受けた実績(一般競争入札に参加した実績を含む。)は,タクマが95.4%,被告三菱重工が93.1%,被告JFEが93.1%,川崎重工が89.7%,日立造船が89.7%,クボタが54.0%,荏原製作所が50.6%,住友重工が17.2%,ユニチカが16.1%,川崎技研が10.3%,三機工業が10.3%,石川島播磨重工が6.9%であった。

エ 受注実績

本件5社は,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事を数多く受注していた。

平成4年度から平成9年度までの間の受注実績(受注したストーカ炉の処理能力トン数の合計トン数で比較する。)は,日立造船が6739トン,タクマが6520トン,被告三菱重工が5315トン,被告JFEが5297トン,川崎重工が3977トン,荏原製作所が1729トン,クボタが1620トン,住友重工が1324トン,ユニチカが457トン,三機工業が438トンであった。

平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間の地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の受注実績は,タクマが4733トン,日立造船が4680トン,被告三菱重工が4198トン,被告JFEが3811トン,川崎重工が3042トン,クボタが990トン,住友重工が795トン,荏原製作所が697トン,三機工業が319トン,川崎技研が134トン,ユニチカが60トンであった。

(2)  本件5社の営業担当者による会合について

証拠(甲サ16,20,23,28,33,46,104,105,139,丙審A8,B20,丙ウ41ないし44)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 本件5社は,ごみ焼却施設を担当する本社営業部署の部長,課長等が出席する会合を,遅くとも平成6年4月以降,各社持ち回りで月1回程度の頻度で開催していた(以下「本件会合」という。)。

イ 本件会合の出席者

平成6年4月から平成10年9月までの間における本件会合の出席者は,被告三菱重工が甲,被告JFEが乙,タクマが丙,日立造船が丁,川崎重工が戊1(平成8年4月まで)及び戊2(平成8年4月以降)であった。

ウ 本件会合の出席者の地位等

(ア) 被告三菱重工の甲は,昭和61年10月以降,機械事業本部環境装置第一部環境装置一課に所属し,平成6年4月に同課主務に,平成8年4月に同課課長に就任した者である。

被告三菱重工では,ごみ焼却施設工事の入札については,各支社が担当する案件については当該支社の担当課長と見積金額の算定を担当する横浜製作所の環境装置営業一課とですり合わせをした後,本社環境装置一課長名で起案をし,1億円未満で黒字の案件は同課長が,1億円以上30億円未満の案件は環境装置第一部長が,30億円以上の案件は機械事業本部長がそれぞれ決裁権限を有していた。

(イ) 被告JFEの乙は,平成6年ころ,環境プラント営業部第一営業室チーム主査に,平成10年1月,環境プラント営業部の組織変更に伴い環境エンジニアリング本部環境第一営業部第一営業室長に就任した者である。

被告JFEでは,技術部で製造原価を算定し,営業部で営業経費等を加算して見積書を作成した上,入札金額20億円未満は営業部長が,20億円以上100億円未満は環境エンジニアリング本部長が,100億円以上はエンジニアリング事業部長がそれぞれ決裁権限を有していた。

(ウ) タクマの丙は,平成6年3月,営業統轄本部東日本環境本部環境プラント第一部第二課専門課長に,平成7年8月,同部第二課長に,平成10年5月,環境プラント統轄本部東京環境プラント第一部第二課長にそれぞれ就任した者である。

タクマでは,課長が入札金額の決裁をできるのは3000万円までの案件であり,それ以上のものは本部長の決裁が必要であった。

(エ) 日立造船の丁は,平成2年6月,環境事業本部営業本部東京営業部に配属され,平成10年4月,同営業部長に就任した者である。

日立造船では,社内の見積部門が見積額を算定し,社内規定に基づいて入札価格の決裁が行われるが,営業管掌役員が最終的な権限を有していた。

(オ) 川崎重工の戊1は,機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第一営業部長であった者である。

同社の戊2は,平成8年4月,機械・エネルギープラント事業本部営業統括部環境装置第一営業部主査に,平成9年6月,機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第一営業部長に,平成10年1月,同営業本部営業開発第二部長にそれぞれ就任した者である。

エ 上記ウによれば,本件会合の出席者は,いずれも本社の環境装置の営業を担当する部門の課長クラスの者であり,これらの者自身がストーカ炉の建設工事の入札に係る物件の選定や入札金額決定の権限を有していたとは認められないが,受注すべき物件の選定や,入札価格の決定に関与する立場にあった者といえる。

被告会社らは,本件会合の出席者は,受注すべき物件の選定や入札価格の決定権限などは与えられておらず,これらの者が受注予定者を決定することはあり得ない旨主張するが,上記に認定したとおり,本件会合に出席していた者は,各社において相応の地位にある者であり,最終的な決定権限はないにしても,事前に社内で検討したところに基づいて受注希望を述べ,交渉する程度のことができないとは解されない。被告会社らの上記主張は,これら出席者の地位からして談合等があり得ないというものとすれば,採用できない。

(3)  具体的な本件会合の開催等に関する証拠について

原告らは,本件会合において談合が行われたと主張するところ,その具体的な開催等に関する証拠としては以下のものがある。

ア 平成8年12月9日の会合について

(ア) 被告三菱重工の甲が所持していたノート(甲サ67)には,400トン未満のごみ処理施設を列挙したとみられるリストの脇に,「1順目は自由,2順目は自由,3順目は200t/日未満」,「12/9」,「バッティングしたら12/18までに結着」と記載されており,この「12/9」は,この記載の7頁前に「H8.8.12課長会」との見出しが記載されていること,また,この記載の3頁後に「H8.11.5課長会」との見出しが記載されていることからして(甲サ179,180),平成8年12月9日を指すものと認められる。

(イ) また,被告JFEの環境第二営業部第二営業室統括スタッフのCが所持していた平成8年の手帳(甲サ76)には,ごみ処理施設を列挙したとみられるリスト(なお,このリストは上記甲のノートに記載されたリストの内容とほぼ符合している。)の下に,「①200t/日以上,②200t/日未満」,「12/9 2件①,②双方から,さらに1件②から,合計3件」,「粕屋5町はトン数確定せず 最初2件で選択されず残った場合は最後の1件(②区分)で選択可」との記載がある。

(ウ) 上記各記載は,被告会社らを含む会社間において,平成8年12月9日に,処理能力が200トン以上400トン未満のごみ焼却施設の建設工事及び200トン未満の同工事について,落札を希望する物件を,最初は自由に2件ずつ選択し,さらに200トン未満工事について1件を選択するという受注調整のための会合が開かれたことを疑わせるものである。

イ 平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日の会合について

(ア) 被告JFEの環境エンジニアリング本部等の関係者は,ごみ焼却施設の建設工事を「全連400トン以上」,「全連200トン以上400トン未満」及び「全連200トン未満」に区分したリスト(甲サ57ないし63)を所持していた(甲サ140)。

(イ) そのうち,平成9年9月1日ころに作成されたと認められる甲サ60号証には,「全連小型(200t未満)9/29 2~3件」,「大型10/16,1件」,「中型10/29,2件?」,「9/11 大,中,小対象物件確定」,「一緒になった場合,規模,管理者,建設用地(企業城下町) これらの指標をみて話し合い」,「救済措置あり 同規模追加できる 増えた会社次回調整」などの書き込みがある(この書き込み自体がされた日時は不明であるが,同様のリストである甲サ62,63号証が同年9月11日付けで作成されているから,それよりも前のことと推測される。)。

また,平成9年9月11日ころに作成されたと認められる上記甲サ62,63号証の表紙には,いずれも「全連200t未満 3件 9/29(月)」,「200t以上~400t未満 2件 10/29(水)」,「400t以上 1件 10/16(木)」との記載がある。

(ウ) 上記各記載は,被告JFEを含む会社間において,平成9年9月29日に小型工事について,同年10月16日に大型工事について,同月29日に中型工事について,それぞれ受注調整のための会合が開かれたことを疑わせるものである。

ウ 平成10年1月30日の会合について

(ア) 被告JFEの環境第一営業部第二営業室統括スタッフが所持し,平成9年12月17日ころに作成されたと推認される甲サ58号証には,「1/30 張付け」との書き込みがある。

(イ) また,日立造船の環境事業本部営業本部副本部長が所持し,平成10年1月27日に作成されたと認められる甲サ55号証には,「中型の対象物件送付します。1/30ハリツケする予定です。」との記載がある。

(ウ) 上記各記載は,被告JFE及び日立造船を含む会社間において,平成10年1月30日に中型工事について受注調整のための会合が開かれたことを疑わせるものである。

エ 平成10年3月26日の会合について

(ア) 被告JFEの環境エンジニアリング本部環境第一営業部長であるDの平成10年度版手帳(甲サ73)には,同年3月26目の欄に「業<中小型物件はりつけ>」との記載がある。

(イ) 被告三菱重工の機械事業本部環境装置第一部次長であるEの平成10年度版手帳(甲サ79)には,同年3月26日の欄に「最終決定」との記載がある。

(ウ) 被告三菱重工の中国支社機械一課長のFが作成したメモ(甲サ96,102)には,「甲K:3/26日 秘会合で中国五県の話は出なかった。引き続き営業強化宜しく」と記載があり,「3/26」とは,メモに「98.3.27」付けの検印が押されていることから,平成10年3月26日のことであると認められる。

Fは,上記メモに関して,「秘会合」との記載は,被告三菱重工の甲から聞いた言葉をそのままメモしたものであり,東京での受注調整のための会合であると認識していた旨述べている(甲サ102)。

(エ) 上記各記載及び供述は,被告会社らを含む会社間において,平成10年3月26日に,中型物件及び小型物件の工事について,受注調整のための会合が開かれたことを疑わせるものである。

(4)  具体的工事についての談合の存在をうかがわせる証拠について

ア 被告JFEのDが所持していたノート(甲サ85)について

甲サ85号証は,被告JFEの環境エンジニアリング本部環境第一営業部長のDが所持していたノートであり,甲サ145号証(Dの供述調書)によれば平成10年1月ころに記載されたものと認められる。

上記ノートには「津島」との記載の下に「元々Mのはりつけ物件」と記載されている。上記「M」は被告三菱重工を示すものとみられるところ,津島市ほか十一町村衛生組合が発注した物件(平成10年6月10日入札,別紙2の番号84)は被告三菱重工が実際に受注した物件であること,Dは,上記(3)エ(ア)のとおり,甲サ73号証の手帳の平成10年3月26日の欄にも「<中小型物件はりつけ>」の用語を用いており,前記の「はりつけ」の意義は受注予定者の決定を意味すると考えられることからすると,上記ノートの記載は,上記工事について,あらかじめ被告三菱重工が受注予定者として決定されていたことをうかがわせるものである。

イ 川崎重工のGが所持していたメモ(甲サ82,84)について

(ア) 甲サ82及び84号証は,川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部九州環境営業グループ参与であったGが所持していたメモである。

甲サ84号証には「国分については,過去数年前から,業界で,当社がチャンピ(オ)ンということであった。」,「更にストーカになっても,クボタ,住重の7社が参考メーカーであり,当社がチャンピオンで受注するためには,競合2社への当社のインパクトが必要であり」と記載されている。

また,甲サ82号証には,「今回は松浦方式で裏形営業はKG,表営業はKHI。しかし当社大手5社では認知物件であり,KGのルートとは別の裏形ルートで営業展開」と記載されている。

これらの記載について上記Gは,チャンピオンとは現時点では常識的に考えて建設業者の談合によって決められる受注予定者のことであると理解していると説明し,また,KG(川崎技研)が表に出ない黒子としての営業を担当し,KHI(川崎重工)が発注者への参考見積りの提出や入札等の表の営業を担当するが,国分組合の発注予定物件は本件5社では川崎重工の物件として認知されているとの趣旨である旨説明している(甲サ87)。

(イ) 上記各記載は,国分地区衛生管理組合発注の工事について川崎重工が受注予定者として業界内で決まっていたことをうかがわせるものである。

(5)  本件5社間で入札価格等の連絡が行われたことをうかがわせる証拠について

ア 被告JFEのHが所持していたメモ(甲サ124)について

(ア) 甲サ124号証は,被告JFEの環境エンジニアリング本部環境第二営業部長のHの所持していた甲サ61号証等の文書在中の袋内にあったメモである。

同メモには,以下のような記載がされている。

62.5億

(61億)

(60億)

65

最低より7000万円引き

同左

辞退

67

〃4000万円引き

69

〃3000万円引き

file_2.jpg〃5000万円引き

69.5

(イ) Hは,主として西日本におけるごみ焼却施設の営業を管理していたものであること(甲サ44),上記メモとともに保管されていた甲サ61号証が平成10年9月16日ころに作成されたストーカ炉の建設工事のリストであることから,同メモの記載は,別紙2の各工事のうちのいずれかの工事に係る入札状況についてのものと考えられる。なお,「M」とは被告三菱重工,「K」とは川崎重工,「H」とは日立造船,「T」とはタクマのことをいうと認められる(後述する「N」とは被告JFEのことをいうと認められる。)。

そして,甲サ29号証によれば,上記メモにおいて「①」として記載された第1回目の入札金額と思われる各金額は,別紙2の各工事のうち,賀茂広域行政組合発注の工事(平成10年8月31日入札,別紙2の番号87)の第1回目の入札金額と極めて類似していること,それ以外に別紙2の各工事の入札金額と類似する工事は見当たらないことからすると,上記メモは,賀茂広域行政組合発注の工事についてのものと推認できる(甲サ29号証によれば,上記工事の入札については,被告JFEが62億円,被告三菱重工が65億円,川崎重工が67億円,日立造船が69億円,タクマが69億5000万円で入札し,被告JFEが落札したものと認められ,被告JFE以外の4社の第1回目の入札金額と上記メモの記載は一致している。)。

(ウ) 同工事については,上記のとおり,被告JFEが第1回目の入札で落札しているにもかかわらず,上記メモには,「②」,「③」,「④」として,第2回目以降の入札金額と思われる金額等が記載されており,これは,Hが事後的に他の4社の入札金額を記載したものとか,単に4社の予想入札金額を記載したものとみることは困難であり,上記入札に際し,あらかじめ本件5社の入札金額を決定し,それを書きとめていたものとみるのが自然である。

イ 川崎重工のIが所持していたメモ(甲サ125)について

(ア) 甲サ125号証は,川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部東部営業部参事のIが所持していたメモであるが,同メモは,1枚目の日付の記載から平成7年5月2日ころに作成されたものと認められる。

同メモには,焼却炉工事の見積原価額が積算過程とともに示されており,「出し値」として第1回から第3回目までの入札価格と考えられる金額が記載され,「不調の場合の予定価格と最低入札額の想定」がされ,「入札結果に至る過程」として2つの案が示された上で最終案が示されており,同メモは,ストーカ炉の建設工事について,川崎重工の入札前の検討経過を記載したメモと考えられる。

そして,上記メモの4枚目には次のような記載がある。

① 6,220,000,000

② 6,150,000,000

③ 6,050,000,000

① 6,460,000,000

② 6,190,000,000

③ 6,100,000,000

① 6,310,000,000

② 6,195,000,000

③ 6,105,000,000

① 6,600,000,000

② 6,200,000,000

③ 6,125,000,000

① 6,690,000,000

② 6,215,000,000

③ 6,140,000,000

(イ) 別紙2の各工事の受注状況及び入札結果(甲サ29)と比較対照す

ると,上記記載は,佐渡広域市町村圏組合発注の工事(平成7年5月9日入札,別紙2の番号26)の第1回目から第3回目までの本件5社の入札金額と一致し,それ以外に別紙2には上記入札金額と類似する工事は見当たらないから,上記記載は同工事についての入札金額を記載したものと考えられる。

(ウ) そうすると,川崎重工は,上記工事の入札前に,本件5社の入札金額を把握していたということになるから,本件5社の間で,受注予定者を川崎重工とした上で,同社が落札するようにあらかじめ各社の入札金額を連絡していたことがうかがわれる。

(6)  本件5社が作成した工事リストについて

ア 川崎重工のBが所持していたリスト(甲サ89)について

(ア) 川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事であったBが所持していた甲サ89号証は,「年度別受注予想 H07.09.28」と題されていることからして,平成7年9月28日ころに作成されたものと考えられる。

その記載内容からすると,上記リストは,平成8年度から平成12年度以降に発注が見込まれるごみ焼却施設の建設工事を,年度別に「K」,「M」,「H」,「N」,「T」と大きく5つに分類した上で(これらは本件5社を示すアルファベットである。),それぞれのアルファベットごとに「-S」,「-F」の2つに分類し,その発注が予測される地方公共団体名及び処理能力を記載したものと認められる。

(イ) これらの工事のうち「-S」欄に記載された79の工事と,実際に平成10年9月17日までに指名競争入札等によって発注された別紙2のストーカ炉の建設工事とを比較すると,平成8年度に実際に発注された15件の工事のうち12件,平成9年度に実際に発注された21件の工事のうち9件,平成10年度に発注された7件の工事のうち1件(合計22件)が,上記リストに記載されている。

そして,上記リストにおいて「受注予想」された業者についてみると,上記合計22工事のうち日南地区衛生センター管理組合発注の工事(別紙2の番号46),久居地区広域衛生施設組合発注の工事(同番号52),函南町発注の工事(同番号71)及び東京都(中央地区清掃工場)発注の工事(同番号80)の4件を除く18件について,実際の受注業者と一致している。

(ウ) 以上によると,上記のリストを作成した川崎重工の社員は,平成7年9月28日の時点において,平成8ないし10年度に発注された22件のストーカ炉の建設工事のうち18件の物件についてその落札業者を的中させたことになるが,このような高確率で予測が的中するということは通常では考え難いところである。したがって,上記リストは,業者間であらかじめ受注予定者を決定し,それを記載していたものと考えるのが最も素直な見方というべきである。

(エ) ところで,上記リストの「-F」欄に記載された13工事はいずれも別紙2の各工事と対応するものがないので,ストーカ炉以外の焼却施設に係る工事を記載したものと考えられる。被告JFEは上記「-F」欄の記載を含めた92件中の実際に発注された37件についてみると予測が的中したのは19件であり,五分五分であるから同リストは談合があったことの証拠とはならない旨主張するが,本件ではストーカ炉の建設工事についての談合の存否が問題となっているのであるから,そのような主張はあまり意味のあることではない。

また,上記の「受注予想」が外れた4件については,いずれも本件5社以外の業者が入札に参加しており,そのうちの3件(別紙2の番号46,52,71)は,いずれも受注業者がクボタである。そうすると,この3件についての「受注予想」が外れていることは,必ずしも本件5社による談合がなかったことの根拠とはなり得ないというべきである。

なお,他の1件である東京都発注の中央地区清掃工場の工事(同番号80)については,上記「受注予想」ではタクマとされているが,平成10年1月21日及び23日に入札参加業者間で話合いがされ,同工事の受注を希望していた石川島播磨重工が東京都発注の他の工事(足立工場)の受注予定者となり,その代わりに東京都発注の中央地区清掃工場の工事については日立造船が受注予定者とされたことをうかがわせる証拠(甲サ111,112,114ないし118)が存在する。

このようにみてくると,甲サ89号証の記載内容は極めて正確というべきであり,単なる予想の域を超えているものといわなければならない。

イ その他のリストについて

本件5社のうちタクマ以外の4社は,平成7年9月から平成10年9月ころにかけて,将来発注される予定のストーカ炉の建設工事についてまとめたリストを作成していたことが認められる(日立造船について甲サ54ないし56,被告JFEについて甲サ58ないし63,川崎重工について甲サ64,65,153,155,被告三菱重工について甲サ66,67等。なお,これらのリストの記載を整理したものが甲ア21号証の別紙9である。)。

そして,上記アで述べたように,B所持に係るリスト(甲サ89)は平成7年9月28日ころに作成されたものと考えられ,これには年度別に「K」,「M」,「H」,「N」,「T」と5つに分類した上で将来的に発注が見込まれる79の工事名が記載されているが,その後に作成された上記各社のリストには,このB所持に係るリストに掲載された工事は全く記載されていないことが認められる。

このような特殊なリストが作成されているということは,少なくとも上記4社の間では既に受注予定者が決まり,受注のための努力やその調整を行う必要がなくなったために記載されなくなったものと考えれば了解できるが,他の理由によりこれを合理的に説明することは困難である。

(7)  受注割合に関する本件5社の指数について

ア 被告三菱重工のJが所持していたノート(甲サ106)について

(ア) 被告三菱重工の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課主務のJが所持していたノート(甲サ106)には,別紙3〔省略〕のとおりの記載がある。

(イ) Jは,甲の下でごみ焼却施設の営業を担当していたものであること(甲サ163),及び上記メモの記載内容からすると,同メモの横軸に,「12/24 新城 △18」「1/26 中央 420」「5/1 千葉 405×0.7 283」「5/11 富山 810」「5/21 賀茂 150」「6/2 米子 △30」「6/5 春日井 280」「7/2 名古屋 560×0.7 392」「高知」「1/26 中央 420」「5/25 西村山 100」「6/2 米子 270」「津島 330」とある記載は,ストーカ炉の建設工事を発注する地方自治体等の名称,入札日ないし入札予定日及び1日当たりの処理能力を記載したものと考えられる。

(ウ) そして,上記各記載は,別紙2の各工事と比較対照すると,「新城」とは新城広域事務組合発注の工事(平成9年12月24日に被告三菱重工が落札,処理能力60トン,別紙2の番号79),「中央」とは東京都(中央地区清掃工場)発注の工事(平成10年1月26日に日立造船が落札,処理能力600トン,同番号80),「賀茂」とは賀茂広域行政組合発注の工事(平成10年8月31日に被告JFEが落札,処理能力150トン,同番号87),「米子」とは米子市発注の工事(平成10年6月2日にJFEが落札,処理能力270トン,同番号83),「名古屋」とは名古屋市(五条川工場)発注の工事(平成10年7月30日に被告三菱重工が落札,処理能力560トン,同番号85),「高知」とは高知市発注の工事(平成10年8月17日に被告三菱重工業が落札,処理能力600トン,同番号86),「西村山」とは西村山広域行政事務組合発注の工事(平成10年5月25日に日立造船が落札,処理能力100トン,同番号81),「津島」とは津島市ほか十一町村衛生組合発注の工事(平成10年6月10日に被告三菱重工が落札,処理能力330トン,同番号84)を意味するものと認められる。

なお,上記記載の工事のうち,「千葉」,「富山」及び「春日井」に対応する工事は別紙2の中にはないが,丙審A4及び5号証によると,「千葉」とは千葉市(新港工場)発注の工事(川崎重工が落札,処理能力405トン),「富山」とは富山地区広域圏事務組合発注の工事(タクマが落札,処理能力810トン),「春日井」とは春日井市発注の工事(被告JFEが落札,処理能力280トン)を意味し,いずれも平成11年度に入札が行われた工事であると認められる。

(エ) 上記(ウ)で述べたことを前提にすると,同メモに記載された「新城」,「中央」,「米子」,「西村山」の各工事については,同メモに記載された日付が入札日と同一であるが,その他の各工事については実際の入札日とは異なる日付が記載されている。

また,同メモに記載された処理能力については,マイナスを付された「新城」及び「米子」は実際の処理能力と一致せず,「中央」,「千葉」及び「名古屋」は実際の処理能力に0.7を乗じた数値が記載されており,その他の各工事は実際の処理能力と一致した数値が記載されていることになる。

そして,Jが所持していたノートの別の頁に記載された手書きのメモ(甲サ95)には,「土建分離 JV 0.7」と記載されていることや甲サ107号証からすると,上記「中央」,「千葉」及び「名古屋」に記載のある数値は,焼却炉建設工事と土木建築工事とが分離されて受注される工事(土建分離工事),及び,プラントメーカーと土木建築業者の共同企業体によって受注される工事(JV工事)であるために,処理能力に0.7を乗じているものと考えられる。

(オ) 同メモに記載された分数についてみると,この数値は,分母が,各社が入札に参加した(又は参加する予定の)各工事に係るストーカ炉の処理能力を加算したものであり,分子が,各社が落札した(又は落札する予定の)ストーカ炉の処理能力を加算したものと認められる。

すなわち,まず,同メモの1枚目については,分子に加算されたトン数は,川崎重工が「千葉」の283トン,タクマが「富山」の810トン,日立造船が「中央」の420トンにそれぞれ対応し,被告JFEが「賀茂」の150トンと「春日井」の280トンの合計の430トンから「米子」の30トンを差し引いた400トン,被告三菱重工が「名古屋」の392トンから「新城」の18トンを差し引いた374トンに対応するものと推認され,本件5社の各分母にはそれぞれ2287トン(上記各数値の合計と一致する。)が加算されている。

次に,同メモの2枚目については,分子に加算されたトン数は,被告JFEが「米子」の270トン,日立造船が「西村山」の100トン,被告三菱重工が「津島」の330トンにそれぞれ対応し,7社(Eの荏原製作所,Qのクボタを含む。)の各分母にはそれぞれ700トン(上記各数値の合計と一致する。)が加算されている。

(カ) 以上によると,同メモの作成日は明確には分からないものの,このノートが公正取引委員会に領置されたのが平成10年9月17日であり,この時点で未発注の工事が含まれていることからすれば,同メモは,今後入札が行われる予定の工事についても,受注予定者が決定されていることを前提として,各社ごとにその受注割合を計算したものであると認められる。

イ 川崎重工のBが所持していたメモ(甲サ107)について

(ア) 川崎重工の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事のBの所持していた2枚の書類には別紙4〔省略〕のとおりの記載がある。

(イ) その記載内容からすると,これらの文書における「田辺」「鳥取」「芸北」等の記載は,ストーカ炉の建設工事を発注する地方自治体等の名称であると考えられる。

そして,上記メモにおいて「前回」と「現状」の欄に記載された各社の数値をみると,1枚目と2枚目は異なっているが,2枚目に手書きで記載された数字の下段の数値が1枚目の「現状」の欄に記載された数値と一致することから,1枚目が修正結果を踏まえた最終的なものと認められる。

(ウ) 次に,縦軸の「H06.03.31迄の計算」等の記載と別紙2の各工事とを比較対照すると,これらの記載は,「阿見」とは阿見町発注の工事(平成6年7月18日に川崎重工が落札,処理能力84トン,別紙2の番号6),「尾三」とは尾三衛生組合発注の工事(平成6年7月21日に被告三菱重工が落札,処理能力200トン,同番号9),「結城」とは下妻地方広域事務組合(旧結城郡衛生組合)発注の工事(平成6年7月29日に日立造船が落札,処理能力200トン,同番号14)等をそれぞれ意味するものと解される(なお,「田辺」「鳥取」「芸北」「堺」「草津」に対応する工事は別紙2の中にはない。)。

そして,これらの各工事は,いずれも本件5社のうちのいずれかの者並びに荏原製作所及びクボタの双方又はいずれかの者が指名され,受注した物件である(甲サ29,丙審A5)。

(エ) 同メモに記載されたストーカ炉の処理能力についてみると,別紙2の中に対応する工事があるものについては,すべて実際の処理能力と一致している。

なお,「港」「長岡」は実際の処理能力に0.7を乗じた数値が記載され,「比謝」については甲サ107の2枚目に「比謝訂正」「-21/-21」「JVの為」と記載されているが,これは前記アと同様,プラントメーカーと土木建築業者の共同企業体によって受注される工事であるためと考えられる。

また,同メモの記載は,例えば「結城」についてみると,「100/200」となっており,枠外に「B/A」という記載があることからすると,「100」は「B」,「200」は「A」に対応すると考えられる。

そして,「B」として記載されたものが「A」の2分の1の値になっている工事があるが,「太田」について,甲サ107号証の2枚目に「太田訂正」「-75/0」「入替工事の為」と記載されていることからすると,その他の各工事についても「入替工事」である等の事情があるために「B」数値が「A」の2分の1になっているものと考えられる。

(オ) 同メモに記載された入札参加業者についてみると,「5」との記載は本件5社,「7」とは本件5社に荏原製作所及びクボタを加えた7社,「9」とはさらにユニチカ及び三機工業を加えた9社,「U」とはユニチカのことを意味すると考えられ,甲サ29号証によると,「亀岡」以外の各工事については,実際の入札参加業者と一致している(なお,「比謝」については「比謝訂正」として記載された部分は一致していない。)。

(カ) 同メモにおいて計算されている数値についてみると,1枚目及び2枚目とも,「現状」の欄記載の「A」「B」の数値は,「前回」の欄記載の「A」「B」の数値に,「変更ポイント」の欄記載の「A」「B」の数値を加えたものになっている。

そして,2枚目における「変更ポイント」の欄記載の「189」は「東金 210」「比謝訂正 -21」を計算したもの,「-21」は「比謝訂正 -21」,「210」は「東金 210」に対応するものと考えられる(「-4」の意味は不明である。)。

次に,1枚目における「変更ポイント」の欄記載の「114」は2枚目の「189」に「太田訂正 -75」を計算したもの,「135」は2枚目の「189」に「太田訂正 -75」「比謝訂正 -21」を計算したもの(荏原製作所は「比謝」の工事の入札に参加していない。),「-96」は2枚目の「-21」に「太田訂正 -75」を計算したものと考えられる。

以上によると,「A」欄の数値は,入札に参加したストーカ炉の処理能力を一定の方法で加算した数値,「B」欄の数値は,落札したストーカ炉の処理能力を一定の方法で加算した数値であると推認できる。ただ,同メモには,その他にも数値の記載があるが,その意味内容は不明であり,また,どのような方法により計算されているのかについても上記に指摘した以上には不明というほかない。

(キ) 以上に検討したところからすると,同メモは,ストーカ炉の建設工事について,本件5社に荏原製作所及びクボタを加えた7社の入札参加状況及び落札状況を把握しようとしたものと認められる。

もっとも,同メモには,「H8/2調整済」との記載があるものの,作成日は本件証拠上からは明らかではないから,記載された各工事に作成日において未発注の工事が含まれているのかどうかが判然とせず,その意味では,ここに記載された各工事が受注された後に作成された可能性も否定できない。したがって,同メモは,それ自体が本件5社による談合行為の存在を直接的に推認させる証拠とまでいうことはできない。

(8)  関係者の供述について

ア 被告三菱重工の甲の供述調書(甲サ28,46)について

(ア) 被告三菱重工の甲は,昭和61年10月から,本社の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課に所属し,平成6年4月に同課主務に,平成8年4月に同課課長に就任し,前記(2)ウ及びエのとおり,地方公共団体発注に係るストーカ炉の建設工事について,営業の実質的な責任者として受注物件,入札価格等の決定に関与し得る立場にあった。

(イ) 甲の公正取引委員会審査官に対する平成10年9月17日付けの供述調書(甲サ28,46)には,次のような記載がある。

a 本件5社の営業責任者クラスの者が集まる会合があり,甲は,課長職相当となった平成6年4月以降,その会合に出席するようになった。

b 会合の出席者は,発注が予想される物件について,大分前から情報をつかんでおり,どのような物件があるかについて出席者全員が共通の認識をもっていた。

c この会合では,ごみ処理プラントの物件に関する受注調整を行っており,発注予定物件について各社が受注希望を出し,本件5社が平等になるような方向で各物件の受注予定者を決めている。この会で決めた受注予定者を「チャンピオン」と呼んでいた。

会合では,ごみ処理プラントの発注が予想される物件について,各出席者が,それぞれ受注を希望するか否かを表明し,受注希望者が1社の場合は,当該社が受注予定者つまりチャンピオンとなり,受注希望者が2社以上の場合は,希望者同士が話し合って,チャンピオンを決めている。チャンピオンを誰にするかは,各社が受注するごみ処理プラントの処理能力の合計が平等になるように決めていた。

受注希望者が2社以上になって話合いをしても決められない場合は,最終的には,どちらが多く受注しているかで判断することになるが,甲が会合に出席するようになってからは希望者同士の話合いですべてチャンピオンが決まっていた。

d 会合で話し合って,ごみ処理プラントの発注予定物件のチャンピオンを決めるに当たっては,ごみ処理プラントの処理能力によって1日400トン以上の大,200トン以上の中,200トン未満の小の3つに分けており,大,中,小それぞれに分けて,受注希望物件を確認して,チャンピオンを決めていた。

e 会合で決めたチャンピオンは,物件が発注された時点で会合のメンバーである本件5社以外の者が一緒に指名された場合は,相指名業者と個別に会って,自社が受注できるように協力を求めていた。また,かなりの回数,相指名となって自社が受注できるように協力させていた相指名業者には,ときには物件を受注させる必要が生じ,このような場合は,チャンピオンが会合に諮って了承を受けた後,メンバー以外の相指名業者に受注させていた。

f チャンピオンは指名を受けた物件について積算し,メンバーの本件5社を含めた相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を電話等で連絡して協力を求めていた。

甲が会合に出席するようになってからは被告三菱重工がチャンピオンとなった物件のほとんどすべては予定どおり被告三菱重工が受注していた。

(ウ) 上記各供述調書の信用性について

被告会社らは,上記各供述調書について,任意性及び信用性を争っている。

a そこで検討すると,上記各供述調書は,本件会合における受注予定者の決定方法,受注希望者が複数出た場合における調整方法,本件5社以外のプラントメーカーが指名業者に入った場合の調整方法等について,具体的に供述するものであるし,また,これまで指摘してきた客観的な証拠や後に述べる他の関係者の供述内容とも符合しており,その供述の信用性を疑うべき事情は見いだせない。

b 被告会社らは,甲の供述は任意にされたものではない旨主張するが,上記各供述調書が作成された際の事情聴取の経緯,状況等に関する甲の供述(甲サ165ないし173,182ないし189,乙1)をみても,その供述の任意性を否定すべき事情があるとは認められない。

また,甲は,後日,上記各供述調書(甲サ28,46)については内容を確認していないとか,そのようなことを述べた記憶はない等と述べている(甲サ182ないし189等)が,上記各供述調書は,甲が公正取引委員会審査官からその内容を読み聞かされた上で誤りがないとして署名押印したものと認められること(甲もこのこと自体は否定していない。),また,被告JFEの乙が所持していたメモ(甲サ36及び80)は,その記載内容からして,甲から直接,又は間接的に聞いた事情聴取の状況を乙がメモしたものと推認されるが,このメモには,甲が同事情聴取において本件5社による談合行為があったことを認める供述をしたことをうかがわせる記載があることからして,甲は同事情聴取において,上記各供述調書記載のとおりの供述をしたものと認められる。

c 被告会社らが指摘するように,甲は,上記事情聴取以降においては,一貫して談合行為を否定する供述をしており,また,甲以外の本件会合の出席者からも,談合行為の存在を認める供述は得られていない。

しかしながら,談合行為を認める甲供述が信用性の高いものであることは上記のとおりであって,これに対して,談合行為を否定するその余の供述は,既に検討した客観的な証拠によって認定される事実に反するか,これらの証拠に照らして説得力の乏しいものであって信用できない。

イ 被告JFEのAの供述調書等(甲サ35,44)について

(ア) 被告JFEのAは,平成8年7月から大阪支社機械プラント部環境プラント営業室長であった。

(イ) Aの供述調書(甲サ44)について

Aは,平成10年9月18日,公正取引委員会審査官の事情聴取に対して,次のとおり供述した。

a 被告JFEの方針として,大阪支社では,近畿一円の官公庁が発注するごみ焼却施設の指名競争入札における見積価格や入札価格は,すべて本社の環境プラント営業部第二営業部第一営業室から指示された価格で対応している。

b Aは,平成8年の秋から冬にかけて,本社環境プラント営業部第二営業部のH部長,同部第一営業室のK室長,L係長から,飲み屋で酒を飲みながらメーカー間で行われている受注調整の内容を聞いた。

c Hらは,Aに対し,本件5社のみで指名競争入札が行われる場合には,本件5社のルールによってあらかじめ物件ごとにチャンピオンが決められるが,本件5社に荏原製作所とクボタの2社が加わって指名競争入札が行われる場合には,被告JFEがチャンピオンとなっている物件についても,2社と話合いを行う旨を話し,ただ,後者の場合には,必ずしもすべて受注できるかどうか分からないので,その物件を発注する自治体に対して,荏原製作所とクボタの2社が指名通知を受けないように大阪支社からも働きかけてほしいと話した。

d また,Hらは,Aに対し,大手5社のルールについて,① 本件5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれる会議を年1回開催して,本件5社が情報を有しているストーカ炉の物件について,本件5社が平等に分け与える形で,物件ごとにあらかじめチャンピオンを決めていること,② その会議で本件5社の各社から,チャンピオンになりたい受注希望の物件を述べて,その物件の受注を希望する会社が1社の場合にはそのメーカーがチャンピオンになり,複数メーカーの場合にはそのメーカー間でチャンピオンを決めること,③ ストーカ炉物件ごとに400トン以上の大規模物件,100トン以上400トン未満の中規模物件,准連である100トン未満の小規模物件にそれぞれ分けて,本件5社の担当者が物件ごとにチャンピオンを決めていること,④ この会議でチャンピオンが決められた物件については,そのチャンピオンになったメーカーがその物件を受注する権利を持つとともに,本件5社以外の他のメーカーが入札に参加しないように発注先の自治体に働きかけるという義務があること,⑤ 実際の指名競争入札が数年後に行われた場合でも,チャンピオンとなったメーカーは,その物件を受注する権利を特つこと,⑥ 本件5社以外の他メーカーが入札に参加する場合には,一部でたたき合いという事態が起こることもあり,チャンピオンとなったメーカーが必ずしも受注できるとは限らないが,その分については補てんといった面倒はみないこと,といったことを話した。

e Hらは,Aに対し,シェアを維持する方法として地方公共団体から指名通知を受ける件数をできるだけ増やすことがよいと話した。

(ウ) Aが所持していたメモ(甲サ35)について

Aは,Hらから受注調整についての話を聞いた1週間くらい後に,部下を指導するためにこれをメモにまとめた(甲サ35)。同メモには,おおむね次のような記載がある。

a ストーカ炉は,大手5社(NK,日立造船,三菱重工,川重,タクマ)が中核メンバーで,エバラとクボタが準メンバー。但し,住重,ユニチカ等は話合いの余地はある。

b ストーカ炉大手5社のルール

① 大(400t以上),② その他全連(399t以下),③ 准連の3項目に分けて張り付け会議を行う。1年に1回。その時点で明確となっている物件をだいたい各社1個づつ指定する。その後は,その物件は100%その会社が守る権利と義務が発生する。その物件が何年先かは関係ない。同年度に重なったりゼロであったりする。比率は5社イーブン(20%)。

その物件に5社以外のメンバーが入った時はたたき合いとなる。業界は補てん等一切行わない。

20%のシェアを維持する方法は受注トン数/指名件数であり,そのために指名は数多く入った方がベター。

指定する物件は,故に,最も「5社指名が守りきれる」営業力の強い地域を優先するため,支社間のばらつきが発生する。

(エ) Aの供述調書等の信用性

a 被告会社らは,A及びHらは,いずれも受注調整に関わる行為を直接体験した者ではないから,Aの供述は再伝聞に過ぎず,信用性がない旨主張する。

しかしながら,Hは,本件会合の出席者ではないものの,被告JFE本社の環境プラント第二営業部長であって,主として西日本地区における営業活動を管理していた者であり(甲サ44),被告JFEが賀茂広域行政組合工事について他の入札参加業者4社の1回目から4回目までの入札価格等を算出した資料を所持していたこと(甲サ124,140)からも,受注調整に関わる情報を入手し得る立場にあったと認められる。

また,Aは,被告JFEの大阪支社において,近畿一円の官公庁が発注するごみ処理施設の受注業務等の責任者であるから,Hらが上記のような社内の機密に関わる話をAにするということは十分にあり得ることと考えられる。

したがって,Aの上記供述は再伝聞ではあるものの,それだけで直ちに信用性がないというのは相当でない。

b 被告会社らは,Aと甲との供述内容は,受注予定者を決める対象物件の区分等いくつかの点で相違し,矛盾している旨主張し,確かに,両者の供述等の間には若干のそごがみられる。

しかしながら,上記両供述は,本件5社が情報を有しているストーカ炉の建設工事について,物件ごとにあらかじめチャンピオンと呼ばれる受注予定者を決めていること,本件5社はストーカ炉の建設工事の対象物件を3つに区分して,区分ごとに受注予定者を決めるものであること,物件ごとに受注希望者が競合しなかった場合は,その希望者が受注予定者になり,受注希望者が2社以上の場合には希望者同士で調整して受注予定者を決めていたこと,といった談合の核心的部分について一致しており,両供述の間に若干の相違点があるとしても,これらの供述に信用性がないということはできない。

c 以上のことからすれば,Aの供述は,前述した客観的な証拠や他の関係者の供述内容とも符合しており,その基本部分において信用できるというべきである。

ウ 被告三菱重工のFの供述調書等(甲サ40ないし43,49,102)について

(ア) 被告三菱重工のFは,平成8年3月,中国支社機械一課に配属され,同年4月から同課課長となり,地方自治体が発注するごみ焼却施設の建設工事についての営業等を担当していた者である。

(イ) Fは,平成10年9月18日,平成11年7月26日及び同月27日,公正取引委員会審査官の事情聴取において,前任者から業務の引継ぎを受けた際に,引継事項の一つとして,ごみ焼却施設の受注については,大手5社の間で均等に受注するために受注予定者を決め,仲良く話合いをする慣行があること,実際の入札で特定の物件についてどの業者が受注予定者となるかについては各社の本社レベルで話合いが行われていること等を聞かされた旨供述している(甲サ42,43,49,102)。

(ウ) また,Fが前任者からの引継事項をメモしたとするノート(甲サ40)には「ごみ」「MHI,川重,NKK,日立造船,タクマ」「仲5社機会均等」「全連24H/DAY:東京仲」「准連18H/DAY東京仲」との記載が,また,Fのノート(甲サ41)には「ブロック会ギ2回/年」「業界で決まった事が最優先→支社は必ず聴取のこと」との記載がある。

エ 被告三菱重工のMの供述調書等(甲サ47,108)について

(ア) 被告三菱重工の中国支社機械一課主任のMは,昭和62年5月,中国支社化学環境装置課(後に機械一課と名称が変更された。)に配属され,平成元年4月から官公庁向けのごみ焼却施設等についての営業を担当するようになった者である。

(イ) Mは,平成11年2月4日及び同月5日,公正取引委員会審査官の事情聴取において,次のとおり供述した(甲サ47,108)。

a Mは,平成元年4月に前任者から「業界(機械別)の概況について」(甲サ37)と題する文書を引き継いだ。

b Mは,前任者から,ストーカ炉の建設工事の受注については,大手5社の間に受注調整のための協定が存在し,それにより,受注の機会を均等化しているとの説明を受けた。そして,Mがごみ焼却施設の営業を担当するようになってからも受注調整行為は行われていたものと思う。このような受注調整行為は支社レベルではなく本社レベルで行われている。

c 本社からは,自治体等に対する営業活動に当たっては「大手5社に絞り込め。」と言われ,指名を受ける業者を本件5社とさせるような営業活動を行うように指示されていたため,Mも自治体等の行う指名を本件5社に絞らせるような営業活動を行っていた。

中国支社では各年度において営業目標として必注案件を設定し,これを本社に報告していた。本件5社の間には,指名を得た件数又は処理トン数を分母とした一定の計算式があるのではないかと思う。

(ウ) Mが所持していたメモ(甲サ37)

Mが前任者から引き継いだ文書(甲サ37)には「※全連:大手5社協有受注機会均等化(山積)…極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う。)」「必注案件は強力な営業事情をBaseに本社にて主張させるべきバックグラウンド作りが肝要(他社案件でも指名入りで分母積み上げを図る要あり)」と記載されている。

オ タクマのNの供述調書(甲サ45)について

(ア) タクマのNは,平成10年6月,環境プラント本部取締役本部長になり,ごみ焼却施設等についての営業責任者であった。

(イ) Nは,平成10年9月17日,公正取引委員会審査官の事業聴取に対して,タクマの環境プラント本部営業部長から,受注獲得のための営業方針として,何としてもタクマが受注したい物件については,タクマが他社との間で話合いを行い,タクマの入札価格よりも高い価格で他社が入札することについて応じてもらい,他社の協力を得て受注し,他方,他社がどうしても受注したいという物件についてはタクマが協力するという話を聞いた旨供述した。

カ F,M及びNの供述調書等の信用性

以上のF及びMの各供述は,これを裏付けるメモやノートがあり,前述した客観的な証拠や他の関係者の供述内容とも符合していることからすれば十分に信用できるというべきであるし,Nの供述にしても,タクマの環境プラント本部取締役本部長という地位にある者の供述であって,これを疑うべき事情もない。

(9) 小括

ア 以上によれば,以下のようにいうことができる。

(ア) 本件5社は,ごみ焼却施設を担当する部署の課長等が出席する会合(本件会合)を毎月1回程度,持ち回りで開催しており,その会合の中には本件5社社内のメモ等の客観的な証拠により談合が行われたことを疑わせる会合がいくつか存在する(前記(3))。

(イ) 地方公共団体が発注したストーカ炉の建設工事について,メモ等の客観的な証拠により,本件5社間で事前の談合が行われたことがうかがえるいくつかの工事が存在する(前記(4)及び(5))。

(ウ) 本件5社のうち4社に,談合の存在を推測させるストーカ炉建設工事のリストがあった(前記(6))。

(エ) 被告三菱重工には,ストーカ炉建設工事の受注に関して,ストーカ炉の処理能力を基にした数値計算をするなどして,本件5社の将来の受注割合を把握していたと考えられる者がいた。また,川崎重工には,本件5社あるいは荏原製作所及びクボタを加えた7社の受注割合を指数化して把握していた者がいた(前記(7))。

(オ) 被告三菱重工の甲は,本件会合に出席し談合を行っていた旨具体的に供述しており,この供述を疑うべき事情はない(前記(8)ア)。

(カ) 本件会合の出席者ではないが,本件5社の営業担当者等に,本社レベルでストーカ炉建設工事について談合が行われていた旨を供述する者が複数おり,これらの供述を疑うべき事情もない(前記(8)イないしカ)。

イ 以上のことを総合するならば,上記(ア)ないし(カ)といった事情が併存しているということは,たんなる偶然と認めることはできず,これらの諸事情を合理的に説明し得るだけの根拠も見いだせない以上は,本件5社は,甲が本件会合に出席したと供述している平成6年4月よりも相当前から,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について談合を繰り返していたものと認めるのが相当である。

すなわち,本件5社は,平成6年4月よりも相当前から,営業担当者が集まる本件会合において,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,その処理能力の規模等により3つに区分された工事ごとに,各社が受注を希望する工事を表明し,希望者が重複しなかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望者間で話し合い,受注予定者を決定していたものであって,受注予定者の決定は各社の受注が均等になることを念頭に置き,また,受注予定者に決定した社は自社の入札価格とともに他社の入札価格をも定めてそれぞれの社に連絡し,連絡を受けた各社その価格で入札して受注予定者が落札できるように協力していたものと認められる。

(10) 被告会社らの主張について

ア 被告会社らは,本件5社の会合は受注調整を行うために開催されていたのではなく,環境問題等様々な問題について話し合っていた旨主張する。

確かに,本件の証拠中には,ごみ焼却炉の業界では,業界団体の会合や懇談会等があり,業界団体としての議題等のほか,ダイオキシン等の環境問題,広告の問題,新型炉についての情報交換等を行っており,本件会合でも,このようなことが話し合われたとは認められるが,このことと,本件会合において談合が行われていたという前記認定とは相容れないものではない。

被告会社らの上記主張は,本件会合において談合が行われていたことを否定する趣旨のものとしては採用できない。

イ 被告JFEは,ごみ焼却炉建設工事の特殊性からすれば,基本合意だけで決定するとか,あらかじめ数年先の受注予定者を決定するなどといったことは営業実態からしてあり得ない旨主張する。

確かに,証拠(甲サ12ないし22,乙審A9,10,乙審B19,乙審C9)及び弁論の全趣旨によれば,本件5社を始め各プラントメーカーは,工事の受注に向けて,営業担当者等が様々な情報収集活動をしたり,多大の費用と時間をかけて発注元の地方公共団体への営業活動を行っており,これにより,各工事の入札参加資格を得て入札に参加していること,地方公共団体のごみ処理設備の整備計画は,発注の数年前から判明することもあるが,様々な要因により基本計画の見直し等が行われることも少なくないこと,また,整備計画に基づく機種の選定は性能発注によることも多く,地方公共団体においてあらかじめ見積設計図書による技術審査を行い,これに合格した者につき,当該工事の入札参加資格が与えられ,この者との間で指名競争入札等の入札手続が行われること,したがって,地方公共団体発注にかかるごみ焼却炉建設工事については,地方公共団体の計画の見直しや技術審査等による業者の選定等,業者が受注するについては不確定要素のあることが認められる。

しかしながら,本件5社が,地方公共団体発注に係るストーカ炉建設工事において,その製造能力,指名実績等において本件5社以外のプラントメーカーに比べて優位にあることは前記認定のとおりであって,ストーカ炉建設工事が発注される場合に,本件5社のみで入札が行われるケース,あるいは本件5社に他のプラントメーカー一,二社が加わって入札が行われるケースが数多くあり(甲サ29),被告JFEが主張するような不確定要素があるとしても,結局のところ,現実に受注できる会社の範囲は限られているのであって,その枢要な位置を占める本件5社において談合することが,その受注に関して大きな影響を与えることは明らかというべきである。

本件5社において熾烈な情報収集や地方公共団体に対する営業活動を展開していたとしても,それ自体は入札参加資格を得る等のために必要なことであり,それが後日の受注調整に反映される可能性もあることからすれば,本件5社が上記のような活動を展開していたことと談合が行われていたということとは直接抵触するものとは認められない。

被告JFEの上記主張は,本件会合において談合が行われていたことを否定する趣旨のものとしては採用できない。

(11)  本件各入札における談合の有無について

ア 別紙2の各工事のうち,本件審決案において,「具体的な証拠から,本件5社が受注予定者を決定したと推認される工事」として指摘された工事は,別紙2の番号26,45,46,49ないし56,58ないし62,71,74ないし77,79ないし87の各工事(合計30件)であり,被告らが指摘するとおり,横浜市発注の本件各工事はこれに含まれてはいない(甲ア24)。

そして,本件において,本件各工事について談合が行われたことを直接裏付ける具体的な証拠のないことも被告会社らが指摘するとおりである。

イ しかしながら,本件においては以下の事情を指摘できる。

(ア) 甲は,平成6年4月に被告三菱重工本社の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課主務に就任すると同時に,E課長に代わって本件会合に参加するようになったと供述しており,本件会合は甲の上記主務就任前から行われていたものと推認できる。

(イ) 前記のとおり,甲サ37号証は被告三菱重工のMが平成元年4月ころに前任者から引き継いだ文書であるが,これにも既に本件5社による談合の存在を推認させる記載がある。

(ウ) 甲らの供述には,本件会合等において,あらためて談合するかどうかといったことが話題になったような形跡はなく,すべてのストーカ炉建設工事を対象として継続的に談合が繰り返されていたことがうかがえる。

そして,被告三菱重工のJが所持していたノート(甲サ106)や川崎重工のBが所持していたメモ(甲サ107)については,いくつかの解釈が可能としても,このように本件5社の受注状況を指数化して把握するということは,上記のような継続的な談合の存在を前提とした場合に最も自然に理解できるし,本件5社のうちの4社に継続的な談合の存在を前提にしないと理解が困難なストーカ炉工事のリストがあったことも継続的な談合の存在を裏付けるものといえる。

ウ 以上のことからするならば,本件5社による上記談合が繰り返されている間におけるストーカ炉建設工事の入札については,これを否定する具体的な事情が認められない限りは,すべての工事について本件5社による談合が行われていたものと推認するのが相当である。

これを本件各入札についてみると,旭工場工事についての入札が行われたのが平成6年8月19日であり,金沢工場工事についてのそれが平成7年8月18日であって,各入札期日の相当期間前に談合が行われることが必要としても,上記イ(ア)及び(イ)の事情に照らすならば,これら各工事が発注されることが本件5社に認識されたころには本件5社による上記談合が行われていたものと推認される(仮に,上記認識時には未だ談合が行われていなかったとしても,下記事情に照らすならば,本件各入札について談合が行われないままに本件各入札に至ったとは考えにくい。)。

そして,本件各入札については,いずれも,本件5社のみが参加していること,本件各工事は1日当たりの処理能力がそれぞれ540トン(旭工場),1200トン(金沢工場)と規模が大きいストーカ炉であること,落札率(落札価格を予定価格で除した数値)もそれぞれ99.12%,99.66%と高いことが認められるのであって,他方,これらの工事について談合が行われなかったと疑うべき事情は見当たらない。

以上のことからするならば,本件各入札については,本件5社による談合が行われ,あらかじめ受注予定者を被告会社らとする旨が合意され,本件5社の間で入札価格の調整が行われた結果,被告会社らが落札したものと認めるのが相当であり,本件中にはこの認定を覆すに足りる証拠はない。

エ 被告会社らの主張について

(ア) 請求原因事実の特定について

被告会社らは,原告らは個別談合について具体的な主張をしておらず,請求原因事実の特定がされていないと主張する。

しかしながら,談合はその性質上,客観的な証拠が残りにくく,秘密裡に行われるものであって,実際に本件会合も秘密裡に行われている。にもかかわらず,自ら談合について調査することが困難な原告らに対して,個別の談合についてその日時,場所等の具体的な事実の主張,立証を要求することは不可能を強いるものであって相当ではない。

本件においては,原告らは,遅くとも平成6年4月1日から本件各工事の入札期日までの間に,本件各工事について,本件5社の営業責任者が集まる本件会合において,基本談合に基づいた内容の談合が行われたことを主張しているのであって,被告らが防御するのに特段の支障があるとも思えないから,この程度の主張をもって,請求原因事実の特定としては十分であると解すべきである。

(イ) 随意契約である点について

被告三菱重工は,旭工場工事に係る入札は不調となり,随意契約となったことから,随意契約にするか否かは発注者が決めることであって談合といわれる筋合いはない旨主張する。

確かに,最初の入札及び再度の入札において落札者がいない場合,必ず随意契約によらなければならないわけではないが,そうだからといって,本件5社の間であらかじめ受注予定者及び入札価格を決めていたことと,被告三菱重工が横浜市と随意契約を締結するに至ったこととの間に因果関係がないということはできない。旭工場工事の場合,横浜市は,再度の入札において一番低い入札価格を入れた被告三菱重工と随意契約を締結したものと認められるから(なお,付言すれば,別紙2の各工事のうち,入札不調を原因として随意契約となったものは,すべて一番低い入札価格を入れた業者と随意契約を締結している。),横浜市が被告三菱重工と随意契約を締結したのは,本件5社の間であらかじめ受注予定者を決め入札価格を調整し,被告三菱重工が一番低い入札価格を入れた結果にほかならないというべきである。したがって,仮に上記の談合がなかったとすれば,入札が成立した可能性は否定できないのであり,同談合で受注予定者とされた被告三菱重工が予定価格を上回る入札しかせず,結果として随意契約が締結されることとなったとしても,当該談合と随意契約締結との間に因果関係がないということはできず,上記被告三菱重工の主張は失当である。

(ウ) 被告三菱重工は,旭工場工事の入札がされたのが平成6年8月19日であって,談合がされたとしても同年4月1日以前である可能性が高いと主張するが,既に述べたとおり,同工事についての談合が行われたのが同日以前であっても,本件における各証拠からその存在を認定することができる。

オ 結論

以上のとおり,本件各入札において本件5社による談合が行われたことが認められ,これは横浜市に対する不法行為に当たるというべきである。

2  争点2(横浜市の被った損害の有無及びその額)について

(1)  以上のとおり,本件各入札における本件5社の談合の内容は,指名競争入札前に受注予定者を決め,その者が落札できるように互いに入札価格を調整する等して,当該受注予定者に落札させるものである。このような合意が存在した場合には,前記のとおりの本件5社の情報収集能力の高さも踏まえると,被告会社らは,予定価格に近い価格で入札し,落札することができることとなる。現に本件各入札における落札率はそれぞれ99.12%(旭工場工事),99.66%(金沢工場工事)と高くなっている。

これに対して,談合が行われず,公正な競争の上,落札業者が決定する場合には,予定価格がある程度推測できるにしても,その価格を僅かに下回るだけでは落札できない可能性もあることから,横浜市はより低い価格で本件各契約を締結できた可能性が高いといえる。

(2)  この点に関して,被告会社らは,談合が行われなかった場合でも落札率が高くなることは十分にあり得る等と主張する。

ア しかしながら,以下のストーカ炉建設工事は,本件における公正取引委員会の立入検査(平成10年9月17日)以降に入札が行われたものであるが,それらの落札価格をみると以下のとおりである(甲12ないし15)。

(ア) 広島市発注の工事

平成11年5月31日に日立造船,川崎重工,被告会社らが入札に参加し,被告三菱重工が落札したケースの落札率は88.78%である。

(イ) 下関市発注の工事

平成12年5月26日に石川播磨重工,荏原製作所,神戸製鋼所が入札に参加し,神戸製鋼所が落札したケースの落札率は88.71%である。

(ウ) 尼崎市発注の工事

平成12年8月22日に本件5社及び荏原製作所が入札に参加し,タクマが落札したケースの落札率は90.37%である。

(エ) 大月都留広域事務組合発注の工事

平成13年3月7日に荏原製作所,住友重工,神戸製鋼所,石川島播磨重工,ユニチカ,クボタ,三機工業,日立金属株式会社が入札に参加し,日立金属株式会社が落札したケースの落札率は74.33%である。

イ 別紙2の各工事のうち,談合が行われた工事と行われなかった工事とを証拠上明確には区分けできないが,少なくとも,本件審決案において,「具体的な証拠から,本件5社が受注予定者を決定したと推認される工事」であり,受注予定者と推認される者が落札した工事であると指摘された工事27件(別紙2の番号26,45,49ないし51,53ないし56,58ないし62,74ないし77,79ないし87)と,それ以外の工事のうち,本件5社のみが入札に参加した工事22件(別紙2の番号1ないし5,10,11,13,15,17ないし20,22,27,32,35,38,39,43,57,73)については,既に検討したことからすれば,一応談合が行われたものと推認することができる。これらの合計49件のうち予定価格が明らかではない2件(番号20,86)を除いた47件の落札率の平均は,98.35%である。

ウ 以上を前提に検討すると,公正取引委員会による立入検査後においては,本件会合は開かれなくなった(甲サ139等)ということから,同検査後の各工事は談合が行われていない場合が多いと一応いうことができるとすれば,上記アの落札率は談合が行われていない場合の数値とみることが可能である。

そして,これらの数値は,上記イの談合が行われたと推認される47件の工事の平均落札率とは明らかな格差があるのであって,談合が行われた場合には,落札率が上がり,発注者に損害が生じることは明らかというべきである。

落札率が高いということから直ちに談合があったとはいえないが,逆に,談合があった場合には,受注予定者は他の入札者の入札額を気にすることなく,予定価格に近い額で落札できるのであるから,一般的に,談合がない場合に比して落札額が高くなることは当然である。

エ 被告三菱重工は,旭工場工事については,入札不調による随意契約であり,この場合には,同被告としては小刻みに金額を下げて交渉すればよいから,損害及び因果関係がない旨主張する。

しかしながら,この場合でも,談合が行われなかったならば,各社の入札価格が低くなっていたであろうことは変わりなく,被告三菱重工は上記工事を受注することができなかった可能性があるし,受注希望が強ければ当初からより低い価格で入札したものということができる。したがって,随意契約の場合には,損害がないとか不法行為との間に因果関係がないということはできない。

(3)  以上のとおり,本件各入札における談合により横浜市が損害を被ったことが認められる。

もっとも,本件各入札において,談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格は,本件各入札と同一の条件の下で公正な競争を前提として入札をしないことには明らかにならず,落札価格というものは,入札に係る工事の規模・種類や特殊性のほか,入札指名業者の数や各業者の事業規模,入札当時の社会経済情勢,地域特性等種々の要因が複雑に影響して形成されるものであるから,これを正確に把握することは困難である。

したがって,本件においては,横浜市において損害が生じたことは認められるものの,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるというべきであるから,民事訴訟法248条を適用して,相当な損害額を認定すべきである。

そこで検討すると,上記(2)で述べた事情に加えて,損害額の算定が困難な中で被告会社らに対し損害賠償義務を負わせる以上,ある程度確実と思われる範囲で損害額を認定すべきと考えられることや,本件各工事の予定価格及び契約金額,その他諸般の事情を考慮すると,被告会社らの談合により横浜市が被った損害額は,本件各契約の契約金額の5%に相当する9億5790万円(旭工場工事)及び20億6000万円(金沢工場工事)と認めるのが相当である。

したがって,横浜市は,不法行為に基づく損害賠償請求権として,被告会社らに対し上記各金額の損害賠償請求権を有する。

(4)  原告らは,さらに,上記各損害について各契約締結日からの遅延損害金を請求している。

しかしながら,横浜市に損害が発生するのは各契約締結日ではなく本件各契約に基づいて請負代金を支払った時点であり,遅延損害金の起算日は代金支払時であると解すべきであるが,本件証拠上では,横浜市が被告会社らに対して,上記契約金額を何時,どのような方法で支払ったのかを明確に認定できるだけの証拠はない。

しかしながら,旭工場工事に係る現場説明書(乙2)によれば,工期は契約締結の日から7日以内に着工し,完成期限は平成11年3月31日とされ,支払条件はその間5年度にわたり,上記竣工時までに分割支払するものとされていること,及び,旭工場については上記工期内に竣工したものと認められること(丁8の2)からすれば,同工場工事についての請負代金は遅くとも平成11年3月31日までには被告三菱重工に対して全額が支払われたものと推認することができる。また,金沢工場工事についても,上記旭工場工事とほぼ同様の支払条件であったものと推測され,同工場工事の工期は平成7年9月から平成13年3月までとされていたこと(丁8の3),同工事が平成12年度末(平成13年3月31日)までに竣工したことは公知の事実であることからすれば,同工場工事の請負代金は遅くとも平成13年3月31日までには被告JFEに対して全額が支払われたものと推認できる。

したがって,原告らの遅延損害金の請求については,被告三菱重工に対し,9億5790万円に対する平成11年3月31日から,被告JFEに対し,20億6000万円に対する平成13年3月31日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるものと認めるのが相当である。

3  争点3(違法な怠る事実の有無及び地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求の要件)について

(1)  違法な怠る事実の有無について

以上のとおり,横浜市は被告会社らに対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているが,これらを行使していない。そこで,まず,その不行使が違法であるかどうかについて検討する。

ア 地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,同法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はないと解される(最高裁判所平成16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号892頁参照)。

したがって,横浜市において,上記のとおり,被告会社らに対して損害賠償請求権を有していると認められる以上は,これらを行使しないことを正当化し得るような特段の事情でもない限りは,その不行使は違法というべきことになる。

被告らは,この点について,上記損害賠償請求権を行使しないことに合理的な理由がある旨主張するので,これらの点について検討する。

イ まず,被告市長は,本件各入札における談合の事実を主張,立証し得るだけの証拠を有しておらず,勝訴について相当の蓋然性がない以上は時間と費用のかかる損害賠償請求訴訟の提起は控えざるを得ない旨主張する。

しかし,この点については,既に検討したとおり,本件各入札における談合行為を認定するに足りる証拠は存在しているというべきであるし,少なくとも,相当の蓋然性をもって勝訴が見込めるだけの証拠が存することは明らかというべきであるから,上記主張は採用できない。

ウ 次に,被告らは,仮に横浜市に損害が生じているとすれば,独禁法25条に基づく損害賠償訴訟を提起すれば足りる旨主張する。

(ア) 独禁法25条は,一定の独禁法違反行為について,いわゆる無過失損害賠償責任を定め,同法26条はこの損害賠償請求権は審決が確定した後でなければ裁判上主張することができないと規定している。

しかし,上記の規定は,この方法によるのでなければ同法違反の行為に基づく損害賠償を求めることができないとするものではないから,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,これに対する審決の有無に関らず,別途,損害賠償請求をすることが妨げられるものではない(最高裁判所平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁参照)。

(イ) 被告らの上記主張は,独禁法25条に基づく損害賠償請求権と民法上の損害賠償請求権は,共に被害者がその被った損害の填補を図る機能を持つものであることから,いずれかの請求権を選択して行使すれば損害の回復を図ることができることをいうものと解される。

確かに,独禁法25条による損害賠償請求については,同条2項により,被害者は,違反行為者の故意,過失を立証する必要がないとされている等の点で,民法上の損害賠償請求権を行使するのに比して主張,立証の負担が軽減されているという面はあるが,審判審決において公正取引委員会が認定した事実が裁判所を拘束するわけでもなく,その負担に決定的な差があるとは解されない。ことに,本件では,原告らが公正取引委員会の事件記録の閲覧,謄写を受け,その内容は明らかとなっているのであるから,横浜市が被告らに対して民法上の不法行為に基づいて損害賠償の請求をするにつき格別の支障があるとは認められない。

そして,一般的に考えれば,被害者が民法上の損害賠償請求権が行使できるのに,これを行使せずに独禁法25条の損害賠償請求権の行使のみを行うこととすると,公正取引委員会における審判に時間がかかるような場合には,民法上の損害賠償請求権が消滅時効にかかる危険があるし,公正取引委員会において審判手続が係属しているからといって,同委員会が違反行為が認定するとも限らない以上は,将来において,被害者に独禁法25条に基づく損害賠償請求ができることが保障されているわけでもない。また,結果的に上記損害賠償請求ができたとしても,被害の回復が遅れる可能性は否定できない。

(ウ) 以上のことからすると,本件において,独禁法25条に基づく損害賠償請求により被害の回復が図れる可能性がある,あるいはその可能性が大きいといったことは,被告市長が民法上の損害賠償請求権を行使しないことを正当化し得るような特段の事情とは解されない。

なお,被告市長は,独禁法25条に基づく損害賠償請求訴訟が可能である以上,現時点で横浜市に財産的損害は生じていないと主張するが,本件で,原告らは被告市長に対し怠る事実の違法確認を求めているだけであるから,怠る事実による損害の発生は不要であって,被告市長の上記主張は当を得ない。

(2)  以上のとおり,被告市長が民法上の損害賠償請求権を行使しないことは違法である(したがって,地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求の要件として,同違法性が必要であるかどうかについては判断する必要がない。)。

第7結論

以上によれば,原告らの請求は,被告三菱重工に対し,横浜市に9億5790万円及びこれに対する平成11年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うこと,被告JFEに対し,20億6000万円及びこれに対する平成13年3月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うこと,被告市長に対し,被告会社らに上記各請求権(損害賠償請求権)の行使を怠ることが違法であることを確認する限度で理由があるから,その範囲でこれらの請求を認容し,その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村吉晃 裁判官 植村京子 裁判官 高橋心平)

別紙1当事者目録

原告

8 名

原告兼上記原告ら訴訟代理人弁護士

大川隆司

上記原告ら訴訟代理人弁護士

木村和夫

篠原義仁

佐伯剛

森田明

小沢弘子

井上啓

渡辺登代美

東京都港区港南2丁目16番5号

被告

三菱重工業株式会社

同代表者代表取締役

西岡喬

同訴訟代理人弁護士

藤井正夫

島田邦雄

田子真也

筬島裕斗志

東京都千代田区丸の内1丁目1番2号

被告

JFEエンジニアリング株式会社

同代表者代表取締役

土手重治

同訴訟代理人弁護士

伊集院功

内藤潤

同訴訟復代理人弁護士

墳崎隆之

横浜市中区港町1丁目1番地

被告

横浜市長

中田宏

同訴訟代理人弁護士

村瀬統一

二川裕之

大和田治樹

谷山哲也

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