大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成12年(行ウ)36号 判決 2002年3月18日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の請求

1  被告が原告に対し平成12年7月31日付けでした行政文書公開拒否処分のうち,公開請求書別紙記載3の文書(平成4年度乃至平成12年度神奈川県体育スポーツ振興期成会分支出命令票及び附属書類一式)に係る部分を取り消す。

2  被告が原告に対し平成12年7月31日付けでした行政文書公開諾否決定期間特例延長処分のうち,公開請求書別紙記載4に係る文書(平成4年度乃至平成12年度国庫補助金の交付及び支出が明らかになる書類一式)の諾否の決定を行う期限を平成15年3月31日とする部分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が神奈川県情報公開条例(平成12年条例第26号。以下「新公開条例」という。別紙参照)4条に基づき,被告に対し公文書公開請求をしたところ,被告が一部につき文書を管理していないことを理由に公開拒否決定を,一部につき文書が著しく大量であるということを理由に諾否決定期間特例延長決定をそれぞれ行ったことについて,原告がその取消しを求めた事案である。

第3前提となる事実(証拠により直接認められる事実については適宜証拠を事実の前後に記載する。それ以外は,争いのない事実である。)

1  本件公開請求

原告は,平成12年7月17日付けで,被告に対し,神奈川県情報公開条例(新公開条例。なお,神奈川県を「県」ということがある。)4条に基づき,下記のとおり7つの文書(以下,(1)の文書を「本件(1)文書」のようにいう。)を別紙に記載してその公開請求(以下「本件公開請求」ということがある。)をした(甲1)。

(1)  平成10,11年度神奈川県体育指導委員連合会分支出命令票及び附属書類一式

(2)  平成10,11年度神奈川県駅伝競走大会分支出命令票及び附属書類一式

(3)  平成4年度乃至平成12年度神奈川県体育スポーツ振興期成会分支出命令票及び附属書類一式

(4)  平成4年度乃至平成12年度国庫補助金の交付及び支出が明らかになる書類一式

(5)  平成12年7月14日付け閲覧・交付した執行伺い49件に関する第三者告知に伴う書類一式

(6)  平成4年度乃至平成12年度「職務に専念する義務の特例に関する条例」「同規則」,「同規則第2条第7号の承認事項」該当分書類一切

(7)  国体派遣旅費に関する平成4年度乃至平成8年度執行伺票兼支出命令票及び旅費請求書,旅行命令簿,出張伺い等附属書類一式(ただし,上記執行伺い49件分は除く。)

2  公開拒否処分等

被告は,平成12年7月31日付けで,原告に対し,本件(3)(5)(7)の各文書について公開拒否決定(以下「本件拒否処分」という。)をしその旨の通知書(甲2)を,また本件(1)(2)(4)(6)の各文書について公開諾否決定期間特例延長処分(以下「本件延長処分」という。)をしその旨の通知書(甲3)を送付し,原告はそれらを同年8月7日に受け取った。

3  本件(3)文書についての本件拒否処分の理由

原告は,本訴において,本件拒否処分のうち,本件(3)文書に係る部分の取消しを求めるが,その部分に係る本件拒否処分の理由は,「県教育委員会が文書を管理していないため」というものであった。

4  本件(4)文書についての本件延長処分の内容及び理由

原告は,本訴において,本件延長処分のうち,本件(4)文書に係る部分の取消しを求めるが,その部分に係る本件延長処分の内容及び理由は,「公開請求に係る行政文書が著しく大量であるため。」「諾否の決定を行う期限」を「平成15年3月31日」とするというものであった。

5  異議申立て

原告は,平成12年8月8日,被告に対し,本件拒否処分,本件延長処分について異議申立てを行った。

第4争点及び争点に関する双方の主張

1  争点1(本件(3)文書に係る本件拒否処分の適否)

(1)  本件(3)文書(平成4年度乃至平成12年度神奈川県体育スポーツ振興期成会分支出命令票及び附属書類一式)についての原告の公開請求は,県の神奈川県体育スポーツ振興期成会(以下「期成会」という。)に対する支出に関する県作成の文書も含む趣旨か否か。

(原告の主張)

ア 本件(3)文書は,平成4年度ないし12年度に関する,県の期成会に対する支出に関する県作成の文書と被告の管理する期成会作成の文書の両方を意味する。

イ その理由は以下のとおりである。

(ア) 本件(3)文書にある「支出命令票」という用語は,神奈川県財務規則において,被告が日常行政職務を遂行する際に使用する用語であり,任意団体である期成会が支出する際に使用するものではない。したがって,本件(3)文書は,被告作成の文書を意味するのであり,被告は原告のそのような請求内容を確かに理解していた。仮に,被告がそれを誤解したとしても,それは被告の判断の誤りである。

(イ) 本件公開請求の本件(1)文書には「神奈川県体育指導委員連合会分支出命令票」とあり,本件(2)文書には「神奈川県駅伝競走大会分支出命令票」とあるところ,被告が管理する分も連合会が管理する分もいずれも公開決定されている。被告の主張は整合性がない。

(被告の主張)

ア 原告の主張のうち,事実は否認し,法的な主張は争う。

イ その理由は以下のとおりである。

(ア) 本件(3)文書にある「期成会分」とは,期成会作成の文書と解するのが合理的である。原告も,本訴の当初の段階では,そのように解していた。また,このような意味であるとされると,原告の求めていたものと相違するというのであるとしても,それは原告自身による請求文書の特定が不十分であったということにすぎない。

(イ) 原告は,本件(1)文書にある「神奈川県体育指導委員連合会分」の支出命令票等について,被告が管理する分も連合会が管理する分のいずれも被告が公開決定したと主張するが,誤りである。本件(1)文書にある「神奈川県体育指導委員連合会分」について被告が公開決定したのは,同連合会作成の文書のみである。県作成の連合会の文書について原告に対し公開したのは,平成12年6月29日付けの別の公開請求に対するものである。以上のように,被告は,一貫して,本件(1)文書の「連合会分」を「連合会が作成した文書」と,本件(3)文書の「期成会分」を「期成会が作成した文書」と理解している。

(2)  原告の請求した本件(3)文書について,本件公開請求当時,被告が管理していたか否か。

(原告の主張)

ア 期成会の文書は,新公開条例3条1項の文書(「実施機関の職員がその分掌する事務に関して職務上作成し,又は取得した文書であって,当該実施機関において管理しているもの」)に該当し,被告は同文書を管理していると解釈すべきであり,又は,被告と期成会事務局とが共同管理しているものと解釈すべきである。

イ その根拠は以下のとおりである。

(ア) 期成会の運営には県費が使用されており,被告のスポーツ課(以下「スポーツ課」という。)の電話,ファックス,事務用品,保管場所等すべて被告のものが使用されている。さらに,期成会はスポーツ課内に設けた任意団体で,期成会の事務局長はスポーツ課課長代理のAであり,期成会の預金通帳の名義はスポーツ課課長代理のAの名義である。以上から,期成会の文書はスポーツ課で保管され,県職員により管理されている。

(イ) 被告は,原告に対し,期成会の預金通帳等を2回にわたり公開した(平成12年4月10日公開請求,同年5月8日公開。平成13年1月4日公開請求,同月18日公開決定,同月30日交付)から,本件(3)文書も同様に公開するべきである。さもないと,整合性がない。

(ウ) 被告は,期成会の事業内容を「県における体育,スポーツの振興に関する施策の進展を期する」と主張し,さらに,本訴において,期成会の公共性の高い設立目的及び活動内容を示している。そうであれば,不正使用等はないのであろうから,期成会の文書を原告に対し公開したとしても,支障はないはずである。

(エ) 職務に専念する義務の特例に関する規則2条1号は,職務に専念する義務が免除される(以下「職専免」ということがある。)事由として,「職員が県行政と密接な関係を有し,県が指導育成を行うことを必要とする団体に従事する場合」と規定しているから,期成会の文書は公開されるべき文書である。

(オ) 新公開条例25条1,2項の規定,県が発行する「神奈川県情報公開条例の解釈及び運用の基準」の記載などに照らし,期成会の文書は,公開されるべき文書である。

(カ) スポーツ課は,県内市町村を対象に,市町村スポーツ主管係長会議(平成12年度からは市町村スポーツ主管課長会議と呼ばれている。以下「市町村スポーツ主管課長会議」という。)を毎年開催しているが,同会議の議題に「期成会」を掲げ,県内市町村職員に説明している。さらに,市町村スポーツ主管課長会議と期成会の会議の主催者,参加者は同じで,ともに地方公務員である。

(被告の主張)

ア 原告の主張のうち,期成会の事務局はスポーツ課内に設置され,スポーツ課課長代理が期成会の事務局長を務めるとともに,期成会の通帳の名義人がスポーツ課課長代理であることは認めるが,その余の事実は否認し,法的な主張は争う。

イ 期成会は,被告とは別の団体であり,新公開条例3条2項に規定された公文書公開に関する実施機関ではない。さらに,期成会の文書は,新公開条例3条1項に規定された行政文書でもない。原告が公開請求をした本件(3)文書は,第三者が管理する第三者の文書である。仮に,第三者の管理の点が認められないとしても,本件(3)文書は,第三者の文書であるから,新公開条例5条2項のその他の団体の文書に該当し,公開対象ではない。

さらに,期成会は被告の指定(新公開条例25条3項)を受けていないから,本件(3)文書は新公開条例25条による情報公開の対象でもない。

ウ 上記ア及びイの期成会に関する部分を詳しく述べると,以下のとおりである。

(ア) 期成会は,その規約により,被告及び県内市町村教育委員会で組織され(乙2の4条),会長,副会長,監査などの役員には,もっぱら市町村教育委員会の職員が就任し(乙2の5条),県職員は会には存在せず,総会の召集,決算の承認は会長が行うこととなっている(乙2の8条,乙3の7条,9条)。

(イ) 期成会の運営費は,規約により,会員が負担することとなっており,被告による補助金の負担は一切ない。

(ウ) 期成会は,県及び市町村の体育施設を整備するための財源確保を推進すること等を目的として設立され,毎年,文部科学省・財務省等を始めとする国家機関へ陳情活動を行っている団体であり,県のみの施策の進展のために活動を行う団体でない。

(エ) 期成会の事務局は,規約により,スポーツ課内に設置され,スポーツ課の職員が事務局員として,会長の命を受けて事務を執り行っているが,当該職員は,職専免の承認(地方公務員法35条,職務に専念する義務の特例に関する条例2条4号,同規則2条1号)を受けている。

(オ) 期成会の文書は,職専免を受けて期成会の職務に従事する職員が,被告の文書とは別に管理している。

(カ) 期成会の会議は,市町村スポーツ主管課長会議終了後に行われ,議長も期成会の会長等が務めるなど,市町村スポーツ主管課長会議とは別である。

2  争点2(本件(4)文書に係る本件延長処分の適否)

(原告の主張)

(1) 本件(4)文書に係る本件延長処分は,被告に与えられた裁量を逸脱して,著しく妥当性を欠いた処分であり,違法である。

(2) 本件(4)文書に係る本件延長処分が違法であることのより詳細な根拠は,以下のとおりである。

ア 新公開条例10条は諾否決定の延長を認めているが,行政に与えられた裁量は無制限なものではなく,延長の規定にある日数と比較して合理的・整合的なものでなければならない。ところが,被告は,本件延長処分において,合理的・整合的ではない2年8か月という不当な長期間を決定した。

イ 被告は,諾否決定に要する時間に公開実施のための処理期間を含めて主張しているが,相当ではない。すなわち,本来,新公開条例の趣旨に則して諾否決定を行えば,本件(4)文書について,1日当たり4時間従事するとして,文書保管箱1箱当たり,諾否決定の作業には2日間もあれば十分であり,38箱分の文書が対象であるとしても76日間で終了し,勤務日数を考慮しても,3か月あれば十分である。また,横浜市が現に行っているように,被告も,公開の日時及び場所については「後日調整」として,まず公開の可否について,速やかに判断をすることができるはずである。

被告は,後記のように,公開する文書の写しを作成する作業に必要な時間も本件延長処分の根拠として主張しているが,それらの事柄は行政文書の公開の実施(新公開条例13条)に関する作業の問題であり,諾否の決定の問題(同条例10条)とは別である。

ウ 公開請求に対して延長処分をするためには,公開請求対象の文書の種類・延長期間算定の根拠が明白でなければならないところ,被告は,本件延長処分において,これらを勘案することなく,乱暴に処理した。

エ 被告の後記事務処理の方法は,上記イに記載したような問題点のほか,昨今の行政改革・省資源化の要請をまったく無視し,すべての行政文書の写しを取って公開諾否決定の伺いに添付して決裁権者に示すこと,具体的な作業マニュアルはなく,人員・機器についてなんら対応策を取っていないことなどに見られるとおり,非能率なもので,これにより諾否決定は不当に遅延させられた。

オ 被告は,後記のとおり,平成12年12月19日,本件(4)文書のうちの一部について分割公開の提案を試みたが,原告が不当に拒否したと主張するところ,この事実は否認する。同日,被告が行政文書の原本を持参しなかったため,原告は閲覧・写しの交付を受けられなかったにすぎない。

(被告の主張)

(1) 本件(4)文書に係る本件延長処分の根拠は,以下のとおりである。

すなわち,平成10年度に県において第53回国民体育大会が開催され,それに向けて県及び県内市町村には多くの競技施設が整備され,その施設に対し国庫補助金が交付されたため,国庫補助金に関する文書量は,約7万6000枚,文書保管箱(1箱約2000枚収納)で38箱に及ぶ。

そして,国庫補助金に関する文書のほとんどを占める施設に対する補助金関係文書には,市町村の入札予定価格の基礎となる設計図書など,様々な書類が添付されており,文書個々に公開・非公開の判断が必要であり,それらの判断,それを踏まえての文書の写しの作成等には,文書保管箱1箱当たり,約3週間を要する。

そこで,被告は,本件(4)文書について,諾否の決定を行う期限を,原告が本件公開請求を行った平成12年7月から起算して2年8か月後の平成15年3月とする本件延長処分を行ったものである。

(2) 所要時間の点をさらに具体的に説明すると,以下のとおりである。

ア まず,38箱の文書保管箱(1箱約2000枚収納)を保管場所から搬入するのに,職員が1日当たり8時間従事するとして,計13日間を要する。

イ 次に,文書1件ごとに,公開・非公開の検討を加え,非公開と判断される部分に,墨塗りを行う必要があり,これらの検討・墨塗りに,職員が1日当たり8時間従事するとして,文書保管箱1箱当たり3日間を,38箱で114日間を要する。

ウ さらに,文書に非公開部分があった場合には,非公開部分を墨塗りした上で,さらにもう一度写しを作成する必要がある。その際,文書に添付されている図面については,大きすぎるため,分割しなければ被告に備え付けの複写機では写しを作成できない。そのため,分割して写しを作成し,それらを貼り合わせる作業を要する。以上のような文書の写しの作成には,職員が1日当たり8時間従事するとして,文書保管箱1箱当たり5日間を,38箱で190日間を要する。

エ 以上を合計すると,計317日間となるが,実際には,この職務に従事するのは,1日当たり4時間が限度であるため,634日が必要な期間となる。そして,1か月当たりの勤務日20日で計算すると,上記の作業には32か月(2年8か月)を要する。

(3) 分割公開の提案とその拒否

本件延長処分における平成15年3月31日までの期間は最長に見積もった日数であり,それ以前でも作業の終了した部分につき,被告は,原告に対し,分割して公開していくつもりである。現に,被告は,平成12年12月19日,本件(4)文書のうち「平成7年度及び8年度国庫補助金収入関係書類」を,平成12年12月25日に公開することを原告に通知した。そして,同日,被告が同文書を原告の閲覧に供したにもかかわらず,原告は自己の独自の見解に固執し,閲覧を拒否し,被告が行った分割公開の提案を拒否し,直ちに異議申立てを行った。

第5争点に対する判断(証拠により直接認められる事実は,当該証拠を事実の前後に記載する。一度説示した事実は原則としてその旨を断らない。認定に用いた書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。)

1  争点1(1)(本件(3)文書に係る公開請求の内容)について

(1)  原告は,本件公開請求の対象である本件(3)文書は,県の期成会に対する支出に関する県作成の文書と被告の管理する期成会作成の文書の両方を意味すると主張する。これに対し,被告は,県作成の文書は含まれないと主張する。

(2)ア  そこで,検討するに,本件公開請求における本件(3)文書に係る請求書の記載は,「平成4年度乃至平成12年度神奈川県体育スポーツ振興期成会分支出命令票及び附属書類一式」という記載であった。その表現だけからは,本件(3)文書が県の期成会に対する支出に関する県作成の文書も含むものであったか否かを直ちに判断することはできない面が感じられる。そこで,この争点については,請求書の表現だけでなく,被告が請求を受けた時点で推し量ることのできた原告意思を考慮して決定すべきことになる。そして,その判断のためには,本訴における原告の訴訟態度,本件公開請求後の原告の行動等から遡って請求時点での原告の意思を推し量ることも有用である。

イ  ①ところで,原告は,被告に対し,本訴係属中の平成13年1月4日,スポーツ課の管理する「神奈川県体育スポーツ振興期成会に関する金融機関取引内容の全て(貯金・預金通帳等)」,「神奈川体育スポーツ振興期成会に関する執行伺票・支出命令票の全て(支払通知合計表:内訳)(支払通知一覧表:支払通知書、集合伝票の支払通知書、内訳)」について行政文書公開請求書を提出した。②この「期成会に関する執行伺票・支出命令票」との記載文言からは,県作成の期成会に関する文書と解されるところ,被告は,同公開請求について,同月18日に公開決定を行い,同月30日,原告に対し,県教育庁経理課作成の期成会に対する分担金支出に関する執行伺票・支出命令票(平成8年3月15日付け,平成9年3月14日付け)を公開した(甲11,12,25の1,2,原告本人,弁論の全趣旨)。③一般に同一人が同一文書の公開請求を重ねてすることは考えられない。

以上からすると,平成12年7月17日付けでされた本件(3)文書に係る本件公開請求書上は,県作成分と期成会作成分とが明確に文言上区別はされていなかったものの,県作成の期成会についての文書は同請求対象には含まれていないと解するのが合理的である。

なお,原告が,県作成の期成会の文書が本件(3)文書に係る本件公開請求の対象であるかのように主張し始めたのは平成13年3月19日の第5回口頭弁論期日からであり(同期日の口頭弁論調書参照),それ以前はそのような態度を取ってはいなかったことからも,上記の結論は裏付けられる。

(3)ア  したがって,本件(3)文書中に含まれる県作成の文書はそもそも公開請求の対象ではないから,それが公開されなくても何ら違法ではないことになる(なお,仮に本件(3)文書に県作成の期成会関係文書が含まれると,平成8年3月15日及び平成9年3月14日起票に係る県教育庁経理課作成の期成会に対する分担金支出に関する執行伺票・支出命令票(甲11,12)がこれに該当することとなる。しかも,これらは被告が管理していた文書であるから,これらの分を管理していないことを理由に非公開とすることはできなかったことになるが,それらについては,原告に対して別の公開請求により開示されている(甲11,12,乙6,証人B,弁論の全趣旨)ので,この分に係る取消請求は訴えの利益がないことなる。)。

イ  なお,原告は,平成12年7月17日の本件公開請求における本件(1)(2)の各文書である「神奈川県体育指導委員連合会分」,「神奈川県駅伝競走大会分」の各支出命令票等について,被告がその管理する分も連合会が管理する分も,いずれも公開決定し,公開したと主張する。しかし,被告は,原告の同公開請求について,神奈川県体育指導委員連合会が作成し,被告が管理する文書について公開決定し,公開したが,その際,県が作成した文書について公開決定したことはない。県が作成した神奈川県体育指導委員連合会に関する文書が原告に対し公開されたのは,本件公開請求に対してではなく,別件である原告の平成12年6月29日付け公開請求に対する公開決定に基づくものである(乙13,弁論の全趣旨)。以上から,原告の上記主張は公開すべきことの理由にならない。

さらに,任意団体であるという期成会が支出する際に支出命令票という用語は使用されないという原告の主張は,乙3に照らし,理由がない。

ウ  ところで,公開請求の対象となる文書は,実施機関が作成し,取得した文書等であって,当該実施機関(本件では被告)が管理するものでなければならない(新公開条例3条1項)。

そこで,2において,本件(3)文書に含まれる期成会作成の文書を被告が管理しているかどうかを検討する。

2  争点1(2)(被告による本件(3)文書の管理の有無)について

(1)  期成会の法的性格及び実態

証拠(乙2,3,4,6,8,10,11,証人B,弁論の全趣旨)によれば,標記に関して,次の事実が認められる。

ア 期成会は,県における体育・スポーツの振興に関する施策の進展を期することを目的とする任意団体である(規約2条)。

期成会の上部団体は,昭和55年に設立された全国組織である全国体育・スポーツ振興期成会(以下「全国期成会」という。)であり,期成会はその構成組織となっている。

イ 期成会は,上記目的を達成するため,体育・スポーツ施設整備のための財源確保の推進,その他目的達成に必要な事業を行う(規約3条)。具体的には,期成会は,体育・スポーツ施設整備のための予算を確保する立場から,全国組織である全国期成会の総会へ出席し,文部科学省,財務省等を始めとする国家機関,国会議員への陳情活動等を行っており,時には,県とは無関係に,市町村のみの補助金獲得のための活動を行うこともある。

ウ 期成会は,被告及び市町村教育委員会をもって組織する(規約4条)。

エ 期成会の役員は,会長1名,副会長2名,監査2名であり,会長は期成会を代表し,会務を総理し,副会長は会長を補佐し,会長に事故あるときは,その職務を代行し,監査は期成会の会計を監査する。そして,会長,副会長,監査はいずれも神奈川県市町村教育長会連合会会長,同副会長,同監査の所属する教育委員会の職員をもってあてる(規約5・6条)。

オ 規約の制定,改廃,予算の議決,決算の承認,その他期成会の運営に関する重要事項は,総会出席者の過半数の議決により決し,総会は会長が召集し,会長が議長となる(規約8条)。

このように期成会の運営に関する重要事項は,総会出席者(会員である被告と37の市町村教育委員会の出席者)の過半数の議決により決する。

カ 期成会の事務を処理するため,スポーツ課に期成会の事務局を置き,事務局長,その他の事務局員を置く(規約9条)。

スポーツ課課長代理が期成会の事務局長を務めるとともに,すべての期成会の事務職員は県の職員をもって宛てられ,期成会の事務局は無償でスポーツ課の居室等を利用している。そして,期成会の事務職員は,同時に,スポーツ課の職員でもあり,双方の仕事を兼ねて行っている。ただし,上記アのような期成会の活動内容からして,期成会の業務は県の本来業務には当たらないため,当該県職員は県から職専免を受けている(この点,神奈川県体育指導委員連合会の業務と異なる。)。

キ 期成会の経費は,分担金及びその他の収入をもってあてる(規約10条)。期成会の経費は,会員である被告及び市町村教育委員会の会費(分担金)のみで賄われることとなっており,期成会は,県から補助金など財政的な支援を受けていない。ただし,被告の分担金は,総会の議決により,現在は免除となっている。

期成会の会計処理は,神奈川県体育・スポーツ振興期成会会計事務取扱規程(乙3)に基づき,会長の決裁により執行しており,県職員の恣意的な予算執行はできない状況にあり,監査も期成会の役員(監査)である市町村職員が行う。

ク なお,県が国から補助金を受けたことにより,県から期成会に会費(分担金)が支出されたことがあり,それに関する県作成の被告管理の文書として前述の執行伺票・支出命令票(甲11,12)が存在し,それ以外には県作成で被告が管理する期成会関連の文書は存在しない。

(2)  期成会の文書の管理

被告が管理する行政文書は共用のキャビネットに保管されている。これに対し,期成会の文書は,期成会の事務局を担当するスポーツ課の職員が被告の管理する行政文書とは区別して,期成会の事務職員としての自己の机の中に保管している。その保管期間は特に定まっていないが,通常2,3年後には廃棄されている。(乙6,証人B,弁論の全趣旨)

(3)  まとめ

そうすると,期成会は,規約上も実態上も,被告とは別個独立の団体であるから,期成会が作成し又は取得した文書は,実施機関である被告の職員が分掌する事務に関して職務上作成した文書ではない。また,期成会作成の文書を被告が取得し,管理している事実は認められない。したがって,本件(3)文書中の期成会の作成した文書は,新公開条例における文書公開の対象となる文書には当たらない。また,本件(3)文書中の県作成の期成会関連の文書で被告が管理しているものは,前記の執行伺票・支出命令票(甲11,12)しかないところ,それについての本件拒否処分の取消請求が理由のないことは前記1(2)イのとおりである。

なお,期成会の事務局は無償でスポーツ課の居室等を利用しており,期成会の事務職員は,同時に,スポーツ課の職員でもある。しかし,上記の県の職員は,県の本来業務からその一部につき職務専念義務を免除されて,期成会の事務局の職務を行うのであるから,これらの者が期成会の文書を管理する場合におけるその管理は,県の職務専念義務を免除されて期成会の職務としてするものというべきであって,反対にこれを被告が管理するというのは無理である。

よって,本件(3)文書は,本件公開請求の対象ではない(県作成のもの)か,被告が管理していない(期成会作成のもの)ので,これを非公開とした本件拒否処分には,違法はない。

(4)  原告の主張に対する判断

ア(ア) 原告は,期成会の預金通帳が文書公開請求により公開されたこととの整合性を主張する。

(イ) 確かに,期成会の通帳については,通帳の重要性に鑑み,例外的に,事故防止のため,スポーツ課の金庫においてスポーツ課の通帳と一緒に管理されている。

そして,本訴において提出された期成会の通帳の名義人は,「期成会事務局長A」(甲9,10の通帳)となっていたところ,上記(1)カのような事情から,同人はスポーツ課課長代理である。なお,その後,期成会事務局長が交替したから,名義人はAではなくなったと推測される。

しかも,被告は,原告に対し,期成会の預金通帳を,原告の2度にわたる公開請求に基づき,平成12年5月8日及び平成13年1月18日に公開決定し,それぞれその後公開した。もっとも,公開決定に際し,期成会の通帳を公開するについては,被告の内部においてはその是非について議論があったが,当時原告は,スポーツ課に係る県費の執行及び管理についての不信感に基づき,スポーツ課に対し頻繁(平成12年8・9月の2か月間に約30件)に文書公開請求を行っていたため,被告は,原告の疑念を晴らすため,スポーツ課で事実上管理しているすべての通帳を公開することとしたのであった。他方,被告は,原告の平成13年8月28日付けの公開請求について,期成会の通帳はスポーツ課が管理していないという理由により,公開を拒否した。

((イ)全体について,甲9,10,乙6,13,証人B,弁論の全趣旨)

(ウ) 上記のとおり,被告が原告に対し期成会の預金通帳を公開したことは事実だが,それは,例外的なものであり,このことを他の一般の行政文書に普遍化できないものであると解される。

イ 次に,原告は,新公開条例25条1,2項を論拠としてあげる。

しかし,同条項は,出資団体等は情報の公開に努めるものとすること,実施機関は出資団体等の情報の公開が推進されるよう必要な施策を講じなければならないことを規定したものである。すなわち,被告が県の職員を期成会の事務局員として勤務することを認め,もって財政上の援助をしていると解するとしても,上記規定(25条1項)上,情報の公開に努めるべきとされているのは財政的援助を受ける期成会であって,援助をする被告自体ではない。また,上記25条2項の規定も,実施機関である被告に対して必要な施策を講じなければならないことを規定したものであり,被告に対し,期成会(同条項上の出資団体等)の文書を公開することを法的に義務づけるようなものではない。原告の主張は採用できない。

ウ さらに,原告は,市町村スポーツ主管課長会議の議題,同会議と期成会の会議の主催者・参加者の同一性を論拠としてあげる。

そこで,検討するに,平成11年に行われた市町村スポーツ主管課長会議において,「期成会について」の議題が市町村スポーツ主管課長会議本来の議題と一緒に付議されている(甲13の2・3,甲15)。これは,期成会の会議と市町村スポーツ主管課長会議の各参加者が同一であるため,便宜一緒に議事を進行させたものと推測できる。

以上のような議事進行方法は安易の感を否めない。しかし,だからといって,原告が請求した本件(3)文書が被告の管理する文書ということはできない。

3  争点2(本件延長処分のうち本件(4)文書に係る部分の適否)について

(1)  本件(4)文書に係る本件延長処分の内容

本件延長処分のうち本件(4)文書に係る部分は,新公開条例10条5項に基づき,「60日以内に行政文書のすべてについて諾否の決定を行うことができない理由」として,「公開請求に係る行政文書が著しく大量であるため。」,本件(4)文書についての「諾否の決定を行う期限」として「平成15年3月31日」としたものである。

なお,被告は,本件延長処分をしたうちの本件(1)(2)(6)の各文書については,平成12年9月14日,そのうちの保存期間経過で廃棄済みの文書については公開拒否の決定を,そのうちの保存期間内の文書については個人情報等の箇所を除き公開決定(枚数にして,約1000枚くらい)を行い,公開した(乙7,証人C)。

(2)  延長日数の根拠

原告は,60日以内に諾否を決定できないときは相当期間これを延長することができるとされている新公開条例10条5項の措置として,被告が延長期間を2年8か月とするのは不当であり,裁量権の濫用である旨を主張する。

そこで,検討するに,被告が,原告の本件公開請求のうち本件(4)文書について,諾否の決定を行う期限を平成15年3月31日と決定した理由・経緯は,以下のとおりである。

ア 対象文書の量

原告が公開請求をした本件(4)文書である平成4年度ないし平成12年度の国庫補助金の交付及び支出に関する書類のうち,平成4年度ないし6年度の文書は,本件公開請求当時,すでに保存期間が経過し廃棄されていた。

これに対し,被告が保管する平成7年度から12年度までの該当する文書の量は,調査の結果,文書保管箱で38箱に及ぶことが判明した。被告スポーツ課の職員(副主幹)であるCらは,過去の経験から,文書保管箱1箱当たりで約2000枚の文書が収納されているものと認識していたことから,該当する文書の量は合計約7万6000枚に及ぶものと理解した。

ちなみに,国庫補助金に関する大量の文書が県に存在したのは,平成10年度に第53回国民体育大会が県において開催され,それに向けて県及び県内市町村において多くの競技施設が建築・整備され,それらの施設の建築等に関し国庫補助金が多数交付されたためであった。(ア全体について,乙7,12,証人C)

イ 諾否決定事務手続

本件公開請求当時,本件(4)文書の公開をするか否かを決定する(以下「諾否決定」ということがある。)権限は,スポーツ課の課長にあった。そして,スポーツ課内における事務分担の定めによれば,情報公開に関する事項はスポーツ課の企画調整班の担当であり,具体的には,その班長と副主幹の2名が担当であった。

このうち,副主幹であったCが情報公開に関する実務を担っており,行政文書公開請求があると,上司である班長の指導・助言のもと,対象文書について1枚1枚公開,非公開の判断を行い,非公開と判断した場合には,その事由も示して,諾否決定の伺文書(案)を作成した上,スポーツ課の課長の決裁に回し,その決裁を得た上諾否の決定を行うという手続を取ることとされていた。(イ全体について,乙7,8,証人C)

ウ 本件(4)文書に関する諾否決定のための具体的な作業手順の見込み

(ア) まず,被告担当者は,対象文書が保管されている川崎市内の文書保管場所に自動車で赴き,文書保管箱を同自動車により被告に搬入する。川崎市内にある同保管場所は電気,水道のない建物の4階にあり,職員が手作業で文書保管箱を運び出し,トラックがないため普通乗用自動車で運ぶので,38箱の文書保管箱を被告に搬入するのには,ある程度の日数がかかると見込まれる。Cの試算では,1日当たり8時間従事するとして,1回の搬送量は3箱,計13日と見込まれた。

(イ) 次に,被告担当者は,非公開事由の存否について1枚1枚調査を行い,非公開と判断される部分に墨塗りを施す必要があり,かつ,決裁権者の決裁を得る関係で,文書の全部について一旦コピーを取ることが必要である。Cの試算では,これらの調査・墨塗りに,職員が1日当たり8時間従事するとして,文書保管箱1箱当たり3日間を,38箱で114日間を要すると見込まれた。

(ウ) 次に,スポーツ課の課長の決裁がおりると,被告担当者は,非公開部分があった文書で(イ)のとおり墨塗りした部分につき,再度コピーをする。これは,墨塗りしただけでは,透けて文書の非公開部分の内容が判読できてしまうおそれがあるので,完全に隠すためである。

Cの試算では,(イ)のコピーとここでのコピーとを合わせ,文書の写しの作成に,職員が1日当たり8時間従事するとして,文書保管箱1箱当たり5日間を,38箱で190日間を要する((イ)のコピーに95日間,(ウ)のコピーに95日間)と見込まれた。

(エ) これらの作業期間を合計すると,計317日間となるが,Cは,実際に情報公開の実務を担当する他にも,議会関係事務の取りまとめ,課の予算編成及び執行計画並びに調整,その他の種々の仕事を担当しており,情報公開の職務に従事するのは,実際上,1日当たり4時間が限度である。そこで,上記の作業に必要な期間は,634日となり,1か月当たりの勤務日を20日で計算すると,32か月(2年8か月)を要すると見込まれた。(ウ全体について,乙5,7,8,12,証人C,弁論の全趣旨)

(3)  延長日数の当否

ア 諾否の決定と公開事務との分離の可否

(2)の期間を計算するに当たり,諾否の決裁後の上記(2)ウ(ウ)記載の事務(公開に係る事務)も含めて考慮することの是非を検討する。

被告は,新公開条例13条1項において,「実施機関は,公開決定をしたときは,速やかに,行政文書の公開をしなければならない。」と規定されていること,行政文書の一部を公開するとき,請求者に対し発する通知文書(行政文書一部公開決定通知書,乙9,15)には,「行政文書の公開の期日及び場所」という欄があることなどから,諾否決定に当たり,公開に係る事務についても準備しておくことが必要であるとの考え方に立って,本件延長処分の延長日数を定めている(乙7,9,15,証人C)。

このような考え方はそれなりに一個の合理的な見解である。

反対に,仮に諾否の決定だけを先にした場合を検討してみる。この場合でも,決定後現実の公開までに相当の日数(1日8時間従事を前提とすると95日間,1日4時間従事を前提とすると190日間)を要する。ただし,非公開のものについては,諾否の決定が先にされると,請求者は不服の有無等の検討にその決定時点から着手できるので,諾否の決定だけ先にされる方が請求者にとっては便宜ともいえるが,公開すると決定されたものについては,現実に閲覧等することがすべてであろうから,諾否決定と現実の公開事務とを分離するかどうかにより請求者の受ける利益状況に大差はない。

イ 作業の改善の可否

(2)の手順は,もちろん人数を増やすとか,従事時間数を増やすとかすれば,それに要する延長日数は短縮できるであろうが,ここでは,このような運用面の改善ではなく,備品等の設備の面からもたらされる制約の状況を検討する。

(ア) 本件(4)文書に該当する文書のうちのかなりの部分は国庫補助金の申請に関する文書であり,市町村の入札予定価格の基礎となる設計図書など様々な書類が添付されており,建築関係の図面等は用紙の大きさがまちまちで,かつ,通常の文書の大きさと比べると大きなものが多い。そこで,被告がそれらの写しを,被告に設置されている通常の複写機を用いて作成するのには,分割して複写した上,それらを貼り合わせる作業が必要となり,かなりの手間・時間を要する。

(イ) 諾否の決定を行うに当たり,補助対象が市町村の施設であると,被告は当該市町村の意向を聴取する必要があり,それも煩雑な作業である。

(ウ) 本件公開請求当時,被告において,スポーツ課がコピー機を独占して使用するような状況にはなく,同課を含めた3課が2台のコピー機を共用している状況であった。

(エ) 非公開と判断される部分を隠す方法としては,墨塗りを行う方法のほか,黒テープを貼る方法が考えられるが,後者の方法は,時間・労力・費用などの点で,2度のコピーを要する前者の方よりもなお劣る。(イ全体について,乙5,7,証人C,弁論の全趣旨)

ウ 分割公開の影響

被告は,平成15年3月31日までを期限とする2年8か月の延長を決定したが,他方で,最大延長期限以前においても,分割公開が可能ならば原告に対し分割公開をしていく方針を本件延長処分の決定当時から有していた。現に,被告は,平成12年12月19日,本件(4)文書のうち「平成7年度及び8年度国庫補助金収入関係書類」を,同月25日に公開することを原告に通知した。

しかし,被告が同文書(一部非公開部分もある。)を原告の閲覧に供するため,同日指定した時間・場所に,同文書の写しを持参した(新公開条例13条3項は,行政文書を複写したものを公開することを認めている。)ところ,原告は写しではなく原本を持参すべきである,諾否決定は即時一括でできるはずであるという自己の見解に固執し,同写しの閲覧を拒否し,同所を辞去し,同日直ちに異議申立てを行ったものである。(全体について,乙7,15,16,証人C,原告本人,弁論の全趣旨)

(4)  本件(4)文書に係る本件延長処分の適否

ア 以上の(1)から(3)によれば,Cの試算した延長期間2年8か月は,それ自体として相当な長期間に及ぶものであるうえ,その細目を検討すると,多少は短縮の余地があるのではないかとも思われる。しかし,他方で,もともと対象文書数が約7万6000枚と見込まれのであり,さらに上記(3)イの事実(全体をまとめてコピーをするのが困難な大きな図面があること,諾否の決定を行うに当たり,補助対象が市町村の施設であると,当該市町村の意向を聴取する必要があること,コピー機が少ないこと)があり,加えて,被告が分割公開により作業を終えた部分から少しずつでも公開することを提案していることなどを総合すると,本件(4)文書にかかる本件延長処分は,なお合理的なものと評価することができ,適法であると解するのが相当である。

イ 原告の主張に対する判断等

(ア) まず,原告は,諾否決定に公開実施の処理期間を含めてはならないと主張する。

しかし,新公開条例13条1項は,「実施機関は,公開決定をしたときは,速やかに,行政文書の公開をしなければならない。」と規定しているから,対象文書の量が膨大で,将来公開される文書の量もかなり多量になるものと予測される本件のような場合には,諾否決定の期限を決定するに当たり,公開実施事務の処理期間を含めて算定することは相応の合理性がある。特に分割公開を行うことを前提とすると,公開実施事務の処理期間を含めることには,一層合理性が認められる。

この点に関し,原告は,横浜市の取扱いを指摘するが,県と横浜市においては,そもそも文書公開の根拠となる条例が異なるから,これは採用することができない。

(イ) 次に,原告は,被告の作業手順は,昨今の行政改革・省資源化の要請をまったく無視し,すべての行政文書の写しを取って,公開諾否決定の伺い書に添付して決裁権者に示すこととされ,具体的な作業マニュアルはなく,人員・機器についてなんら対応策を取っていないなどの点で非能率なもので,これにより諾否決定は不当に遅延させられたと主張する。

しかし,上記作業の方法は,被告・スポーツ課内の事務分担,人員配置,決裁制度,機器の配備状況等を前提とすると,一応の合理性を持った方法と評価するのが相当である。また,それらについて改善を図れば,延長期間を多少短縮する余地もうかがわれるが,それにも限界があり,現状を前提としてされた延長期間の見込み(2年8か月)は本件延長処分の適否を左右するものとは到底いえない。

(ウ) さらに,原告は,被告が平成12年12月19日,本件(4)文書のうちの一部について,分割公開の提案を試みたが,原告が不当に拒否したとの事実を否認し,同日,被告が行政文書の原本を持参しなかったため,原告が閲覧・写しの交付を受けられなかったにすぎないと主張する。

しかし,被告は,平成12年12月19日,本件(4)文書のうち「平成7年度及び8年度国庫補助金収入関係書類」を,同月25日に公開することを原告に通知した(乙15)ことは証拠上明らかな事実であり,被告は,前記のとおり,同日指定した時間・場所に,同文書の写しを持参している。このように,被告が,分割公開の提案を試みたことが肯定できるので,原告の主張は採用できない。

(エ) 原告は,その他縷々主張するが,いずれも採用できない。

第6結論

よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 裁判官 村上誠子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例