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横浜地方裁判所 平成12年(行ウ)44号 判決 2004年2月04日

原告 株式会社A

代表者代表取締役 甲

訴訟代理人弁護士 大貫端久

同 深澤信夫

被告 川崎南税務署長

添野壯

指定代理人 兼田加奈子

同 引地俊二

同 藤井弘之

同 渡部美和子

同 中村豊

同 脇孝喜

同 梅津恭男

同 木村政文

主文

1  被告が原告に対し平成10年2月27日付けでした原告の平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度に係る法人税の更正処分(ただし、平成12年6月12日付け裁決により変更された後のもの)のうち所得金額4408万8436円を超える部分を取消し、かつ、過少申告加算税賦課決定処分のうち上記取消しに対応する過少申告加算税の額の部分を取り消す。

2  被告が原告に対し平成10年2月27日付けでした原告の平成7年10月1日から平成8年9月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分(ただし、平成12年6月12日付け裁決により変更された後のもの)のうち所得金額2370万8735円を超える部分を取り消す。

3  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用はこれを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告が原告に対し平成10年2月27日付けでした原告の下記法人税に係る各更正処分のうち確定申告額を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(ただし、平成12年6月12日付け裁決により変更された後のもの)をいずれも取り消す。

ア 原告の平成5年3月19日から同年9月30日までの事業年度の法人税

イ 原告の平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度の法人税

ウ 原告の平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度の法人税

エ 原告の平成7年10月1日から平成8年9月30日までの事業年度の法人税

オ 原告の平成8年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度の法人税

(2)  被告が原告に対し平成10年2月27日付けでした原告の下記消費税に係る各更正処分のうち確定申告額を超える部分及び重加算税の各賦課決定処分(ただし、平成12年6月12日付け裁決による変更後のもの)をいずれも取り消す。

ア 原告の平成6年10月1日から平成7年9月30日までの課税期間の消費税

イ 原告の平成7年10月1日から平成8年9月30日までの課税期間の消費税

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  事案の概要

本件は、原告において、被告がいずれも平成10年2月27日付けでした原告の各事業年度の法人税に係る各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(ただし、平成12年6月12日付けにより変更された後のもの)の取消しと、原告の各課税期間の消費税に係る各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分(ただし、平成12年6月12日付け裁決により変更された後のもの)の取消しを求めた事案である。

第3  基礎となる事実

(以下の事実は、いずれも、当事者間に争いがない事実であるか、記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

1  当事者等

(1)  原告

原告は、料理飲食店の経営・指導・管理、不動産の賃貸・管理・売買・仲介及び有価証券の売買を目的として平成5年3月19日に設立された株式会社であり、法人税について青色申告の承認を受けている法人である。

原告の代表取締役は甲(以下「甲社長」という。)であり、経理事務は経理担当取締役乙(以下「乙取締役」という。)及び女子従業員が担当し、決算関係書類の作成及び納税申告書の作成は乙取締役が担当している。

原告は、設立後の同年4月1日、有限会社Bから営業譲渡を受け(以下「本件営業譲渡」という。)、同日から上記業務を行っている。

〔証人佐藤、甲3号証、6号証の1、24号証、乙1号証〕

(2)  各関連会社

川崎市川崎区所在の株式会社C(以下「川崎店」という。)、横浜市鶴見区所在の株式会社D(以下「鶴見店」という。)、東京都大田区蒲田所在の株式会社C(以下「蒲田店」という。)、大田区大森北所在の株式会社E(以下「大森店」という。また、これらの4社を併せて「各関連会社」という。)は、いずれも寿司店の経営を主たる業務としている会社である。

各関連会社の代表取締役はいずれも甲社長で、その株主はいずれも甲社長及び妻の甲順子であり、各関連会社には管理部門がなく、その従業員は寿司職人及び店員のみである。

各関連会社も、川崎店は有限会社Fから、鶴見店は有限会社Gから、蒲田店は有限会社Fから、大森店は有限会社Hからというように、それぞれ設立後に、各関連会社と同名の有限会社から営業譲渡を受けている。

〔甲3号証、6号証の2ないし5、24号証、弁論の全趣旨〕

(3)  原告と各関連会社との関係

原告は、各関連会社との間で、平成5年4月1日(川崎店及び鶴見店)又は同年10月1日(蒲田店及び大森店)、原告が各関連会社のために各関連会社の仕入れ、現金の管理、従業員の管理、日常の事務及び経理事務を代行し、各関連会社はその売上額に応じた一定割合(川崎店及び鶴見店は15パーセント、蒲田店及び大森店は10パーセント)の代行手数料を原告に対して支払う旨の各業務委託契約を締結した(以下、各契約を併せて「本件各業務委託契約」という。)。

原告は、各関連会社の寿司店舗の日々の売上げの管理、仕入れの注文、代金の支払、給与その他経費の支払を代行し、各関連会社の飲食店(寿司店)としての食品衛生法上の営業許可も原告名義で取得している。

〔甲24号証、39号証、乙2号証〕

2  原告の確定申告

(1)  法人税関係

原告は、平成5年3月19日から同年9月30日までの事業年度(以下「平成5年9月期」という。)、同年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度(以下「平成6年9月期」という。)、同年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度(以下「平成7年9月期」という。)、同年10月1日から平成8年9月30日までの事業年度(以下「平成8年9月期」という。)及び同年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度(以下「平成9年9月期」という。また、これらの事業年度を併せて、以下「本件各事業年度」という。)の法人税について、各法定申告期限までに別表1の1ないし5の各「確定申告」欄にそれぞれ対応する「所得金額」、「納付すべき法人税額」欄記載のとおりの確定申告をした。

(2)  消費税関係

原告は、平成6年10月1日から平成7年9月30日までの課税期間(以下「平成7年9月課税期間」という。)及び同年10月1日から平成8年9月30日までの課税期間(以下「平成8年9月課税期間」という。また、これらの課税期間を併せて、以下「本件各課税期間」という。)の消費税について、各申告期限までに別表1の6及び7の各「確定申告」欄にそれぞれ対応する「課税標準額」、「課税標準額に対する消費税額」、「控除税額」及び「納付すべき消費税額」欄記載のとおりの確定申告をした。

3  本件税務調査

被告所部係官らは、平成9年9月16日、原告の法人税及び消費税の調査のため、原告及び各関連会社の本社事務所及び甲社長の自宅に臨場した。

被告所部係官丙上席国税調査官(以下「丙係官」という。)らは、青色申告法人が備え付けることとされている原告の帳簿書類及び各関連会社の帳簿書類の提示を求めたところ、乙取締役において、フロッピーディスクにデータとして保存していた原告の総勘定元帳並びに原告及び各関連会社の合計残高試算表(その写しが乙8号証ないし12号証)を出力した。

丙係官らは、乙取締役の了解を得て同取締役の机の引出しを確認したところ、同取締役が作成した振替伝票と題するメモ(その写しが乙4号証。以下「本件振替伝票メモ」という。)と、これとは別のメモ書き(その写しが乙5号証。以下「本件メモ書き」という。)を発見した。また、経理担当女性従業員から、賃貸物件に係る平成7年3月以降の不動産賃貸料収入及び企画料収入に係る収入明細を記載した書面(その写しが乙6号証。以下「本件収入明細」という。)と、平成2年3月8日以降の株式の売買の内訳を記載したノート(その写しが乙7号証。以下「本件株式売買ノート」という。)の提示を受けた。

さらに、丙係官らは、原告から、原告の売上げに関する資料として、業務委託契約書(その写しが乙2号証。以下「本件業務委託契約書」という。)及び賃貸借契約書(その写しが乙13号証。以下「本件賃貸借契約書」という。)の提示を受けた。

〔証人丙、乙36号証〕

4  本件各更正処分等

(1)  法人税関係

被告は、原告の本件各事業年度の法人税について、平成10年2月27日付けで、別表1の1ないし5の各「更正・賦課決定」欄にそれぞれ対応する「所得金額」、「納付すべき法人税額」欄記載のとおりの各更正処分をし(以下「本件法人税各更正処分」という。)、各「更正・賦課決定」欄にそれぞれ対応する「重加算税の額」欄記載のとおりの各重加算税賦課決定処分をし(以下「本件法人税各重加算税賦課決定処分」という。)、その旨を原告に通知した。

(2)  消費税関係

被告は、原告の本件各課税期間の消費税について、同日付けで、別表1の6及び7の各「更正・賦課決定」欄にそれぞれ対応する「課税標準額」、「課税標準額に対する消費税額」、「控除税額」及び「納付すべき消費税額」欄記載のとおりの各更正処分をし(以下「本件消費税各更正処分」という。また、本件法人税各更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)、各「更正・賦課決定」欄にそれぞれ対応する「重加算税額」欄記載のとおりの各重加算税賦課決定処分をし(以下「本件消費税各重加算税賦課決定処分」という。また、本件法人税各重加算税賦課決定処分と併せて「本件重加算税各賦課決定処分」という。)、その旨を原告に通知した。

〔甲1ないし3号証〕

5  不服申立ての経緯

(1)  異議申立て及び異議決定

原告は、平成10年4月28日、被告に対し、本件消費税各更正処分及び本件消費税各重加算税賦課決定処分について、異議申立てをした。

被告は、同年7月23日、上記原告の異議申立てをいずれも棄却する異議決定をし、その旨を原告に通知した。

(2)  審査請求及び裁決

ア 法人税関係

原告は、平成10年4月28日、国税不服審判所長に対し、本件法人税各更正処分及び本件法人税各重加算税賦課決定処分について審査請求をした。

国税不服審判所長は、平成12年6月12日付けで、別表1の1ないし5の各「裁決」欄にそれぞれ対応する「所得金額」、「納付すべき法人税額」、「過少申告加算税の額」及び「重加算税の額」欄記載のとおりの各裁決をした(以下、「本件法人税各更正処分」、「本件法人税各重加算税賦課決定処分」という場合は、特に明示しない限り、上記裁決による変更後のものをいう。)。

イ 消費税関係

原告は、平成10年8月24日、国税不服審判所長に対し、本件消費税各更正処分及び本件消費税各重加算税賦課決定処分について審査請求をした。

国税不服審判所長は、平成12年6月12日付けで、別表1の6及び7の各「裁決」欄にそれぞれ対応する「課税標準額」、「課税標準額に対する消費税額」、「控除税額」、「納付すべき消費税額」及び「重加算税額」欄記載のとおりの各裁決をした(以下、「本件消費税各更正処分」、本件消費税各重加算税賦課決定処分」、「本件各更正処分」、「本件各重加算税賦課決定処分」という場合は、特に明示しない限り、上記各裁決による変更後のものをいう。)。

(3)  本件訴訟の提起

原告は、平成12年9月11日、本件訴訟を提起した。

第4  争点

本件の主要な争点は、次のとおりである。

1  本件法人税各更正処分の違法性の有無

(1)  売上高の計上除外の有無・金額

ア 事務代行手数料収入の金額

~各関連会社の売上げ及び原告の事務代行手数料の発生する時期等

イ 不動産賃貸料収入及び企画料収入の帰属

~不動産賃貸料収入及び企画料収入は、原告に帰属するか、甲社長個人に帰属するか

(2)  有価証券に関する収益の計上除外の有無・金額

ア 株式の受贈益の有無・金額

~取得価額(引継価額)が時価より低い場合における受贈益発生の有無及び金額

イ 株式の売却益の金額・帰属

(ア) 株式売却益の金額

(イ) 本件I株の売却益の帰属

~平成5年4月1日売却のI株の売却益は原告に帰属するか、有限会社Bに帰属するか

(3)  雑収入の計上除外の有無・金額

ア 各決算期末における減額処理の正当性の有無

イ 各関連会社の従業員から徴収した食費は原告に帰属するか、各関連会社に帰属するか

2  本件消費税各更正処分の違法性の有無

3  本件重加算税各賦課決定処分の違法性の有無

~次の項目についての隠ぺい又は仮装の有無

①  不動産賃貸料収入・企画料収入

②  仕入高

③  給与手当

④  株式売却益

4  手続的違法の有無

(1)  更正の理由の差替えの可否

(2)  更正の理由附記の不備の有無

(3)  更正の期間制限徒過の有無

第5  争点に関する当事者の主張

1  本件法人税各更正処分の違法性の有無

【被告の主張】

被告が本訴において本件各事業年度の法人税に関して主張する原告の所得金額及び納付すべき税額は、別表2の1の各「④所得金額(①+②-③)」欄及び「⑩差引法人税額(⑧-⑨)」欄記載のとおりであり、これらはいずれも本件法人税各更正処分における「所得金額」及び「納付すべき法人税額」の各金額(別表1の1ないし5)と同額か、これを上回るから、本件法人税各更正処分は適法である。

以下、主たる争点に即して、その根拠を主張する。

(1) 売上高の計上除外の有無・金額について

原告が本件各事業年度の損益計算書に「売上高」として計上した金額は別表3の各「事業年度」欄中の「損益計算書」欄に対応する各「売上高」欄記載のとおりであって、その内訳は不明であり、同表の各「事業年度」欄中の「総勘定元帳」欄に対応する各「売上高」、「不動産賃貸料」、「企画料」欄記載のとおり、総勘定元帳の記載は、「売上高」、「不動産賃貸料」、「企画料」の各勘定科目が事業年度によりまちまちで、その合計額は損益計算書の売上高とは一致せず、これらの金額の内訳・算出根拠につき、被告は原告に説明及び資料の提示を求めたが、原告は応じなかった。

したがって、被告は、原告の本件各事業年度の損益計算書及び総勘定元帳に記載された金額をそのまま適正なものとして処分の基礎とすることができず、原告の収入である事務代行手数料、不動産賃貸料、企画料の各勘定科目ごとに、下記の方法により、益金の額に算入すべき売上高の金額を算出した。その結果、益金の額に算入すべき売上高は、別表4の1の各「事業年度」欄に対応する各「③益金の額に算入すべき売上高(①+②)」欄記載のとおりであり、申告から漏れていた額は、同表の各「事業年度」欄に対応する各「⑤売上除外額(③-④)」欄記載のとおりである。

ア 事務代行手数料収入の金額について

原告は、本件業務委託契約により事務代行手数料を受領しており、これらの事務代行手数料収入は益金に算入されるべき収益に該当する。本件各事業年度の事務代行手数料収入額は別表4の2の各「期間」(各事業年度)欄に対応する各「⑤事務代行収入の合計額」欄記載のとおりであり、これは各関連会社の1日1日の売上高の金額を各関連会社の総勘定元帳の売上高勘定から認定し、これを本件各事業年度の期間ごとに集計して算出した金額(同表の各「期間」欄に対応する各「各関連会社」欄中の各「売上高」欄記載の数値。消費税を含まない。)の合計に本件各業務委託契約に基づく一定割合を乗じたもの(同表の各「期間」欄に対応する各「各関連会社」欄中の各「事務代行収入①~④×10又は15%」欄記載の数値)の合計である。

各事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものであるところ、企業会計処理の基準によれば、収益及び費用は発生時を基準に計上されるべきであり、収益のうち売上高は、商品等の販売又は役務の給付により代金請求等を実行できるものに限り計上され、売上げの内容が物の引渡しを要しない請負による収益の額は、当該請負契約で約した役務を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入すべきである。

本件業務委託契約は、原告が各関連会社の仕入れ、現金及び従業員の管理、日常の事務及び経理事務を代行する等の業務を行い、各関連会社がその報酬として代行手数料を支払うことを合意したものであるから、物の引渡しを要しない請負契約であり、日々完了する性質のもので、寿司販売に係る各関連会社の売上げは個々の寿司の販売の都度その代金請求権として実行されたものとなるので、各関連会社の売上金額を基準に定まる代行手数料も日々売上げとして計上されるべきである。

とすれば、代行手数料は、原告が役務を完了する日々において各関連会社に請求できるものであり、日々の各関連会社の売上高を基準として、本件各業務委託契約に従って10パーセント(蒲田店及び大森店)又は15パーセント(川崎店及び鶴見店)を乗じることにより算出された代行手数料額を当該日の属する事業年度の益金の額として算入すべきである。なお、本件各業務委託契約による計算方法以外に算定の拠りどころとする根拠・資料はない。

原告は、各関連会社の売上金額は各関連会社の事業年度計算期間の決算全額が確定する各3月31日まで確定しないので、原告が受領すべき事務代行手数料は各3月31日まで発生しない旨主張するが、契約上そのような合意はなく、原則どおり、原告の役務が日々完了するものである以上、事務代行手数料も日々発生するのであるから、これを日々算出すべきである。

また、原告は、各関連会社のカード売上分は入金があり貸倒れにならないことが明確になって初めて売上げとして計上すべきであるから、カード売上分についてはカード売上げが発生した事業年度の売上げとして計上することはできない旨を主張するが、企業会計処理の基準によれば、カードの売上げであっても、寿司の販売時に売買代金を請求できるようになれば売上げとして計上すべきであり、カードの売上げにより発生した売掛金が回収不能となり、貸倒れとなったときは、貸倒損失として、当該貸倒れとなった事実が発生した事業年度の損金となるにすぎず、カード売上げが発生した事業年度にさかのぼって売上げが減少するわけではないから、原告の主張は失当である。

さらに、原告は、蒲田店及び大森店との業務委託契約は平成5年10月1日に締結されているので、それ以前の事務代行手数料は発生しない旨を主張する。しかし、原告は、蒲田店の前身である有限会社F及び大森店の前身である有限会社Hの経営業務を請け負っていた有限会社Bから平成5年4月1日に営業譲渡を受けており、平成5年9月期の総勘定元帳には上記営業譲渡を受けた日から上記2店に関する記帳(本支店勘定及び資金諸口勘定)をし、「売上及仕入原価率」表等の会計書類を作成していたので、業務委託契約関係は実際には上記営業譲渡の日からあったといえるのである。

なお、原告は本件業務委託契約書に契約上の不備があったため、事務代行手数料の計上額について原告と各関連会社のそれぞれの処理に整合性がなく、処理に不具合が生じたと主張するが、原告と各関連会社の経理処理、決算関係は、いずれも原告の経理担当の乙取締役が責任者として行っているのであり、同一担当者が行う処理であることから、原告主張の不具合が生じることはありえない。

イ 不動産賃貸料収入及び企画料収入の帰属について

有限会社Bは、平成3年3月5日、有限会社I(以下「I」という。)から東京都大田区大森北所在のJビル5階部分(以下「本件賃貸物件」という。)を賃借したが、本件営業譲渡の際に、原告は、有限会社Bから賃借権の譲渡を受けて、原告とIとの間で本件賃貸物件に関する賃貸借契約が更新されている(以下「本件賃貸借契約」という。)。Iは、原告に対し、本件賃貸借契約に基づく支払電気料などを請求し、原告は、Iに対し、賃借料及び支払電気料を支払っていた。

有限会社Bは、平成3年ころ、丁に対し、フィリピン・タレント・パブの経営を目的として、本件賃貸物件を転貸し、別途企画料を受け取る旨合意し、上記のパブの経営者が有限会社K(以下「K」という。)として法人化した後は、同社との間で同様の契約を締結している。原告は、Kに対し、自己名義で賃貸料及び企画料を請求し、Kは、原告に対し、上記料金を支払っていた。なお、甲社長は、所得税の確定申告において、受取賃貸料、受取電気料及び企画料を収入金額として申告していない。

以上からすれば、賃貸料及び企画料は、原告とKとの間の賃貸借契約等に基づき、原告が受領していたものであり、原告に帰属するものであるから、当該受領日の属する本件各事業年度における益金に算入され、Iに支払った支払賃借料及び支払電気料は損金に算入されるべきである。原告は、Kから受領した賃貸料及び企画料につき、本件収入明細に記録しており、その内容は適正と認められるので、本件各事業年度における益金の額に算入すべき受取賃料収入及び企画料収入の額は別表4の3の各「事業年度」欄にそれぞれ対応する各「①本件賃貸料」欄及び各「②本件企画料」欄記載のとおりである。

原告は、賃貸料収入及び企画料収入は甲社長個人に帰属するものであるとし、その根拠として、甲社長個人の名義に切り替えると名義変更料が発生するおそれがあるからであると主張するが、有限会社Bから原告へと契約当事者が変更した際に名義変更料を支払った形跡はなく、契約書上もそのような定めはない。

また、原告は、賃貸料収入及び企画料収入について甲社長個人に帰属するものとして申告すると、賃貸借による収入は経費を差し引いた場合に赤字となり、甲社長個人の入国管理局や金融機関に対する信用を失って、店の経営や金融に支障が生じると主張するが、賃貸借による収入につき経費を差し引いた場合に赤字となるとの証拠はない。

さらに、原告は、賃貸料収入及び企画料収入は甲社長個人に帰属するが、決算時に収益相当分を甲社長個人からの借入金勘定に振り替えて相殺したので、いったんは原告の収益に計上しつつも損益計算書の売上高には計上されていないのであり、原告名義でIに賃借料が支払われているのは、原告の甲社長個人に対する借入金の返済として処理されていたと説明する。しかし、賃貸料収入及び企画料収入あるいは賃借料の支払を甲社長からの借入金に振り替えたのであれば、そのような経理処理の記録ないしその根拠となるべき資料があるはずであるが、原告はこれらを提出しない。

このほか、原告は、原告においては甲社長に代わって賃貸料及び企画料の請求、入金の管理などを代行していたにすぎないので、原告に賃貸料及び企画料の入金があることは甲社長からの借入金の発生にあたり、原告が賃借料を支払うことが甲社長からの借入金の返済にあたると主張する。しかし、原告は、本件賃貸物件に係る受取家賃をそれぞれ本件各事業年度の総勘定元帳の不動産賃貸料勘定(収益勘定)に計上しているのであって、代行をしている場合に行う会計処理はされておらず、仮に代行しているとすれば、甲社長に対する預かり金として預かり金勘定(負債勘定)に計上するはずであるし、原告と甲社長との間に業務委託契約もない。

なお、原告は、保証金の支出、内装工事等の費用の支出がある旨主張するようであるが、いずれも支出の事実、金額、原告の費用となるべきものかどうかも不明であり、損金計上を認めなくても費用収益の原則に反するものではない。

(2) 有価証券に関する収益の計上除外の有無・金額について

原告は、本件営業譲渡により、有限会社Bから別表5の1の「銘柄名」欄記載の各株式(以下「本件各株式」という。)を譲り受けたが、その取得価額と当時の時価との差額は有限会社Bから無償譲渡を受けたものとして受贈益となり、本件各株式を含む取得株式の売却価額と取得当時の時価との差額は売却益となり、いずれも収益として、それぞれの収益の発生日の属する事業年度の益金に算入されるべきである。なお、原告は、損益計算書及び総勘定元帳に本件各株式の取得の事実を一部しか記載しておらず、また、株式の売却の事実は全く記載していなかった。

ア 株式の受贈益の有無・金額について

購入した有価証券の帳簿価額は原則として購入代価及び経費の合計額によるべきであるが(法人税法施行令(平成12年政令145号による改正前のもの。以下、同じ。)38条1項3号)、有価証券を無償又はその取得のために通常要する価額(以下「適正価額」という。同項5号)を下回る価格で購入した場合は、適正価額がその有価証券の帳簿上の取得価額となり、適正価額と実際の取得価額との差額は受贈益として取得時の属する事業年度の益金の額に算入される(法人税法22条2項)。

この場合、適正価額とは、取得の時における時価をいい、取得の時における時価とは、その有価証券が証券取引所に上場されている株式である場合は、特段の事情がない限り、証券取引所が公表した取引日当日の最終価格であると解される。

原告は、本件営業譲渡により、本件各株式を取得したが、その帳簿価額の合計額は別表5の1の「引継価額(帳簿価額)」欄に対応する「合計」欄記載のとおり5572万円であり、これは東京証券取引所が公表した平成5年4月1日(本件営業譲渡の日)の最終価格の合計額5969万9000円(別表5の2参照)を下回っているので、その差額397万9000円は受贈益として本件各株式を取得した日の属する平成5年9月期の益金の領に算入される。

原告は、本件営業譲渡により、有限会社Bの所有する株式だけではなく、債権債務のすべてを引き継いだので、引継価額(取得価額)は有限会社Bの帳簿価額とするのが適正な処理であると主張する。しかし、営業譲渡を受けた場合でも、資産及び負債の譲受けは個別に行われていると解され、その取得価額は個々に認定・計上されるべきである。また、会社の合併の場合は特別な取得価額が定められているのに対し、営業譲渡についてはこのような特例はないので、原則どおり、取得時における時価によるべきである。

イ 株式の売却益の有無・金額・帰属について

(ア) 株式売却益の金額について

原告は、その保有する株式の譲渡原価について、有価証券の評価方法の届出書を被告に提出していないので、その売却益は法人税法施行令34条1項1号イ(1)に規定されている総平均法により算出した取得価額による原価法により算出することとなる。

L証券大森支店の原告名義の売買取引明細〔乙19号証〕及び本件株式売買ノート〔乙7号証〕によれば、原告は別表5の3の銘柄名別各表の各「売付」欄に対応する各「年月日」欄のとおりその保有する株式を売却しており、これについて上記原価法により算出した譲渡原価及び売却益の額は別表5の4の「売却益」欄記載のとおりとなり、同額は売却日の属する事業年度の益金として算入すべきである。

(イ) 本件I株の売却益の帰属について

平成5年4月1日付け売却にかかるI株(以下「本件I株」という。)について、原告は、本件営業譲渡は平成5年4月1日午後5時であり、本件I株は同日同時刻以前に売却されたものであるから、その売却益は有限会社Bに帰属すると主張する。しかし、本件営業譲渡の契約書には、譲渡の効力を発する日として平成5年4月1日と記載されており、このように日付のみが記載されている場合、原則として同日の午前零時に営業譲渡されたものと解すべきであり、本件営業譲渡が同日午後5時にされたとする根拠はない。また、本件I株の売却代金は、L証券大森支店の原告名義の口座に入金され、同口座を通じて行われた原告の数度にわたる株式売買による残金と一緒に、平成7年9月5日、M銀行川崎支店の原告名義の当座預金口座に振り込まれ、原告に帰属するものとして経理処理が行われている。他方、有限会社Bの平成5年9月期の損益計算書には有価証券売却益の計上はないので、本件I株の売却益は原告に帰属する。

(3) 雑収入の計上除外の有無・金額について

ア 各決算期末における減額処理の正当性の有無について

雑収入については、以下に指摘する各事業年度において総勘定元帳に計上された金額と損益計算書に計上された金額との間には別表3の各「事業年度」欄中の各「差引」欄記載のとおり、大幅な開差があり、また、期末処理において大幅な減額がされている。しかし、以下に述べるとおり、上記開差及び減額処理には適正な決算処理がされているという根拠はなく、損益計算書の計上額が正しいものと認める特段の事情もないことから、損益計算書の作成の基となり、取引の都度、日々記録される会計伝票に基づいて作成される総勘定元帳に計上された金額の雑収入があったものと認めるのが相当であり、同額が各事業年度の益金に算入されるべきである。

(ア) 平成5年9月期については、原告は、総勘定元帳の雑収入勘定の残高707万5064円について、うち700万円を短期借入金勘定(甲社長からの短期借入金)に振り替えて減額する会計処理を行い、最終的な総勘定元帳の残高及び損益計算書の雑収入勘定には、別表3の「平成5年9月期」欄の「総勘定元帳」欄及び「損益計算書」欄に対応する「雑収入」欄記載のとおり、いずれも7万5064円のみを計上している。しかし、収益(雑収入)の残高を減少させて負債(借入金)の残高を増加させるという会計処理自体が簿記会計上の処理として不合理である上に、甲からの短期借入金があったことについては契約書等の証拠はなく、上記の振替処理は前提を欠いているし、適正な決算調整を行つていれば総勘定元帳に記載されるべき修正後の残高金額の記載はなく、現在に至るまで適正な処理を裏付ける決算修正に関する資料の提出はないので、上記減額に根拠はない。

(イ) 平成6年9月期及び平成7年9月期については、別表3の「平成6年9月期」欄及び「平成7年9月期」欄の「総勘定元帳」欄及び「損益計算書」欄に対応する「雑収入」欄記載のとおり、総勘定元帳の雑収入勘定の期末残高がそれぞれ1212万9412円及び1068万2914円であるのに、各同期の損益計算書の雑収入勘定に計上された金額はそれぞれ12万9412円及び268万2914円で、それぞれ1200万円及び800万円もの多額かつラウンド金額の減額があった。しかし、上記減額についても総勘定元帳に修正後の残高金額の記載はなく、減額処理の根拠について具体的な説明・資料の提出はないので、上記総勘定元帳の記載額が益金として算入されるべきである。

イ 各関連会社の従業員から徴収した食費は原告に帰属するか、各関連会社に帰属するかについて原告は、雑収入に計上していた各関連会社の従業員から徴収した食費は各関連会社に帰属するので、原告の雑収入とはならないと主張するが、いったん原告の雑収入として計上していることから自己の収入と認識していたものと認められるし、原告及び各関連会社はいずれも代表者が甲社長で株主が甲社長とその妻であるから、原告と各関連会社の認識は同一であるはずであり、総勘定元帳の記載に従って原告の雑収入として益金に算入されるべきである。なお、原告が提出する振替伝票(甲22号証)、総勘定元帳、給与明細書(甲23号証)、貸付金台帳等によっても、原告の上記の会計処理が適切であると認めることはできない。

【原告の主張】

(1) 売上高の計上除外の有無・金額について

確かに、原告の本件各事業年度における総勘定元帳、損益計算書、貸借対照表には別表3に「売上高」などとして記載された金額が計上されているが、実際の金額は一部そのとおりではない部分があるので、被告の主張する原告の本件各事業年度の益金、損金の金額は正しくない。

ア 事務代行手数料収入の金額について

(ア) 事務代行手数料は、各関連会社の売上金額により計算されるものであるが、各関連会社の売上金額は各関連会社の決算が終了してから確定するものであり、各関連会社の決算期はすべて1月であることから、各関連会社の平成6年1月期の売上金額は、平成5年9月30日の段階では確定せず、各関連会社からの事務代行手数料収入を計算することはできないので、原告の平成5年9月期における事務代行手数料収入は発生しない。

(イ) 被告は各関連会社の売上高について日割計算をすべきと主張するが、売上高の中には未確定の債権を含んでいるので、確定した金額に基づいて算出する事務代行手数料の計算に適用するには無理がある。すなわち、売上げの約10パーセントを占めるカード売上分については、後に貸し倒れとなる危険性があって、カード売上時においては未確定債権であり、入金の事実をもって売上げと認識すべきものであるから、それ以前の段階において売上高として認識して事務代行手数料を計算することはできない。

(ウ) また、蒲田店及び大森店については、平成5年10月1日に原告との間で業務委託契約書が締結されているので、それ以前の段階において、蒲田店及び大森店についての事務代行手数料収入は発生しない。

(エ) このように、事務代行手数料の額は各関連会社の売上高に応じて契約書に基づく一定割合を乗じた方法では計算できないので、実際には原告は各関連会社の事業年度(2月1日から翌年1月31日までの期間ごとの計算)の単位で計算をした売上げを参考に概算で算出した金額を各関連会社から事務代行手数料として受領しているのであって、その金額は別表4の4記載のとおりであり、これは関連会社の売上高に応じて契約書に基づく一定割合を乗じて算出した金額とは異なっているので、各関連会社の売上高に本件業務委託契約書上の一定割合を乗じて事務代行手数料の額を算出するという被告の主張する方法は誤りである。なお、被告の主張する別表4の2に記載された金額も、各関連会社の事業年度の区分とは異なった区分によるものなので、正しい金額かどうか不明である。

イ 不動産賃貸料収入及び企画料収入の帰属について

本件賃貸物件は原告ではなく甲社長個人がIから賃借したもので、Kへ転貸しているのも原告ではなく甲社長個人である。

Kの経営する店は第三国人を雇用する業務で風俗営業に属するため、原告及び各関連会社に風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、出入国管理及び難民認定法等の違反による処罰、処分、規制による影響が及ばないよう甲社長個人が契約したものである。なお、Kから受領する賃貸料の中には、甲社長個人が8000万円を支出して設置した造作什器の賃料相当額が含まれているが、原告はこれらの費用を負担していない。

原告の総勘定元帳に「不動産賃貸料」、「企画料」とあるのは事務処理の関係上、勘定科目として設定していたもので、決算処理の時点で甲社長個人の借入金勘定と相殺しているものであり、原告が甲社長個人に代わって賃貸料の請求、入金の管理、賃料の支払を代行していたのである。

Iからの賃借人の名義が原告となっているのは、甲社長個人の名義に切り替えると名義変更料等が発生するおそれがあるため、損益計算書及び申告書では、いったん総勘定元帳で原告の売上げとして計上していたものを甲社長個人に属するものとして減額したのである。

また、平成10年9月期において、原告の営業状況が悪化し、融資を求めるのが困難になったため、本来は甲社長個人の収入である賃貸料収入を、見せかけ上、原告の収入として計上し、賃借料等の経費は計上しないという方法により、原告の経営改善を図ったこともあった。

なお、甲社長は、平成2年度及び平成3年度の確定申告書において本件賃貸物件の賃貸料及び企画料を自己の収入として申告していたが、平成4年度以降は賃貸借による収入は経費を差し引いた場合に赤字額が大きくなった。Kの店舗についての入国管理局の営業許可は甲社長個人で取得しており、毎年甲社長の確定申告書控えを入国管理局に提出しなければならないが、所得金額が減少してしまうと、入国管理局が許可するタレントの数に影響があって支障が生じるし、金融機関に対する信用を失って、店の経営や金融について支障が生ずる可能性があるので、申告を控えていたのである。

(2) 有価証券に関する収益の計上除外の有無・金額について

ア 株式の受贈益の有無・金額について

原告は、本件営業譲渡により、有限会社Bの債権債務のすべてを引き継いだのであり、株式のみを引き継いだものではないから、引継価額は有限会社Bの帳簿価額であり、適法な処理である。

イ 株式売却益の金額・帰属について

(ア) 株式売却益の金額について

本件I株を除く本件各株式は、本件営業譲渡時の時価が株価の低落により当初取得価格よりかなり低かったので、将来の株価の回復を見込んで時価よりも高い価額で原告が取得したこととなっているが、実際には株価は回復せず、売却により損失が生じているので売却利益を生ずる余地はない。

(イ) 本件I株の売却益の帰属について

本件I株については、平成5年4月1日の株式の売却後である同日午後5時に本件営業譲渡があったので、本件I株は、本件営業譲渡時に原告に引き継がれておらず、その売却代金は有限会社Bに返却すべきものである。

(3) 雑収入の計上除外の有無・金額について

雑収入については振替伝票(甲22号証)に収入先、理由、金額、摘要が記載されており、これを基にして総勘定元帳を作成している。本件賃貸物件の転貸によりKから入金される電気・ガス・水道等の光熱費・電話料金及び各関連会社の従業員の食費は、原告に帰属するのではなく、それぞれ甲社長個人又は関連会社に帰属するので、振替えがされている。繁忙かつ絶対的人手不足により概算の数値で減額し、各関連会社に振り替えたものである。

原告は、各関連会社の従業員に対し、直接金銭の貸付け、社員寮の貸与をしており、雑収入のうち従業員への貸付金の金利及び寮費は原告に帰属するので、各関連会社の損益計算書にこれらの記載がなくその確認ができないのは当然のことである。原告は、その根拠となる資料として金銭貸付台帳及び従業員の給与明細書を被告に提出している。

なお、借入金勘定は相殺勘定としても使用しているので、収益(雑収入)の減少、負債(借入金)の増加という会計処理は不合理ではない。

2  本件消費税各更正処分の違法性の有無

【被告の主張】

被告が本訴において本件各課税期間の消費税に関して主張する原告の「課税標準額」「課税標準額に対する消費税」「控除税額」「納付すべき消費税」は別表2の2の各課税期間に対応する各「課税標準額」「消費税額」「控除対象仕入税額」「納付すべき税額」欄記載のとおりである。

被告が、上記において本件各課税期間の確定申告に係る課税標準額に加算した金額、控除対象仕入税額に加算・減算する金額、これらの加算・減算の根拠は上記1の被告の主張において述べたのと同様の理由によるものである。

上記の被告の主張する各課税期間の課税標準額等は、いずれも本件消費税各更正処分に係る各金額と同額(平成8年9月課税期間分)か、これを上回る(平成7年9月課税期間分)ことから、本件消費税各更正処分はいずれも適法である。

【原告の主張】

被告の主張する加算・減算項目については、上記1の原告の主張のとおりであり、争う。

3  本件各重加算税賦課決定処分の違法性の有無について

【被告の主張】

(1) 原告の隠ぺい又は仮装の意図の発現行為について

過少申告加算税の規定に該当する場合において、納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、それに基づいて納税申告書を提出していたときは、重加算税を賦課することとなっている(国税通則法68条1項)。

本件では、原告は、①当初から所得を過少に申告することを意図し、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことを予定しつつ、売上げ(事務代行収入、不動産賃貸料収入及び企画料収入)、有価証券受贈益及び売却益、雑収入につき、収入の一部を除外してあえて計上せず、仕入れ及び給与手当につき費用を架空計上して損益計算書を作成し、②雑収入の除外額及び費用の架空計上額を本件振替伝票メモに書き留め、税務調査において資料の提出を求める税務職員に対して虚偽の答弁をしたり非協力的な態度をとり、隠ぺいのための売上除外額を確認できる本件メモ書きを作成するなどの隠ぺいの意図の発現と認められる行為をした上で、その意図に基づいて、当該損益計算書の内容に従って本件各事業年度の法人税の確定申告をしたものであるから、国税通則法68条1項の重加算税賦課要件を満たしている。

すなわち、原告の経理担当の乙取締役が、原告の決算事務及び申告書の作成等の本件各事業年度の経理事務を行い、原告の業務として各関連会社の本件各事業年度の決算及び申告書を作成したのであるが、乙取締役は、約10年の税務署勤務の経験を有し、昭和62年に有限会社Bに入社し、平成5年から原告の取締役に就任する等、経理事務及び税務に関する相当の経験・知識を有し、有限会社B、原告及び各関連会社の業務内容及び経理処理等を熟知していたので、原告の経理事務及び申告事務について、経験不足あるいは知識の欠如により誤りを犯す可能性は極めて低かった。にもかかわらず、税務調査の際、丙係官が乙取締役に対して決算修正資料の提示を求めたところ、乙取締役は虚偽の供述をして、総勘定元帳と損益計算書などの不一致を隠匿しようとしたり、丙係官が総勘定元帳と損益計算書との数値の開差について説明・資料を求めたのに対し、乙取締役はいわれのない抗議をして、説明・資料の提出をせず、過少申告の事実を隠ぺいするために税務調査に対して非協力的な態度をとった。

(2) 各項目ごとの検討

ア 事務代行手数料、不動産賃貸料収入及び企画料収入について原告は、明らかに原告の収入と認められる事務代行手数料及び本件賃貸物件に係る賃貸料収入及び企画料について、ことさら減額した損益計算書を作成して本件各事業年度の申告書を提出した。乙取締役は、本件税務調査の前から作成していた本件メモ書きに、原告の実際の事務代行手数料、不動産賃貸料収入、企画料収入の額を記載していた。これは、原告が納税申告の際に、自己の正当な収益の額を正確に把握し、これを収益として計上すべきであることを熟知しながら、ことさらその一部を除外した金額を申告する意図を有していたことを示すものである。

イ 株式の受贈益及び売却益について

原告は、本件営業譲渡により本件各株式を取得し、その際に作成した営業譲渡契約書、本件株式売買ノート、証券会社の取引資料等により、本件各株式の取得及び本件各株式を含め株式取得後の売却の経過を熟知していたにもかかわらず、本件I株の取得及び本件各株式を含む株式売却の事実について、総勘定元帳、損益計算書及び貸借対照表に記載しなかった。

ウ 雑収入について

原告は、平成5年9月期の雑収入について、甲社長からの短期借入金であると仮装して700万円を減額し、平成6年9月期及び平成7年9月期については、それぞれ1200万円及び800万円の多額かつラウンド金額の収入を除外した。乙取締役は、平成6年9月30日付け及び平成7年9月30日付けの本件振替伝票メモの各貸方科目欄に「雑収入」としてそれぞれ1200万円、800万円と記載しており、また、給与手当の金額の記載についても、総勘定元帳計上額と損益計算書計上額との開差の額と同額の記載をしていることから、本件振替伝票メモは、原告が決算時に把握していた雑収入の一部をことさら除外し、給与手当を架空計上するに当たって作成したものと考えられる。これは、申告当初からの隠ぺい・仮装の意図を端的に示す行為である。

エ 給与手当について

原告の平成6年9月期の給与の支出について総勘定元帳に記載し、損益計算書に計上した額は、別表3の「平成6年9月期」欄の「総勘定元帳」欄及び「損益計算書」欄にそれぞれ対応する「役員報酬」欄、「給与手当」欄、「賞与」欄、「雑給」欄、「退職金」欄記載のとおりであり、総勘定元帳と損益計算書には360万円の差額がある。

上記差額について、原告には「役員報酬360万円」と記載された本件振替伝票メモ〔乙4号証の3〕があるのみで、原告は、総勘定元帳の給与手当などの合計金額を損益計算書作成の際に増額させた理由及びその算定根拠となる具体的な支給明細を明らかにせず、同額の支払があったと考えることはできないので、上記360万円の計上は、損益計算書の作成の際にことさら架空の給与手当を計上したものと考えられる。

これについて、原告は、臨時の職人の雑給処理は原告において行われるのであり、360万円の雑給はノートにより明らかであり、各関連会社への振替処理の漏れをもって架空計上とするのは誤りであると主張するが、平成6年9月期の総勘定元帳の「給与手当」勘定、「雑給」勘定及び「賞与」勘定の支給対象者はいずれも原告の役員及び従業員であり、各関連会社の従業員は含まれていないから、各関連会社への振替漏れが原因で上記の差額が生じたものでないことは明らかである。

そして、本件振替伝票メモには、平成6年9月期の給与手当の総勘定元帳と損益計算書の開差360万円についてのものと思われる同額の数字の記載もあることからも、同メモは、決算時に給与手当を架空計上する際に作成したものであると考えられる。

オ 仕入高について

原告は、本件業務委託契約に基づき、各関連会社の材料仕入れ及び代金の支払を一括代行しているにすぎず、各関連会社の材料仕入れを行った都度、総勘定元帳の仕入高の勘定科目に仕入金額を計上し、同金額を仕入勘定から各関連会社に対する債権債務勘定に振り替える経理処理を行っていたので、原告の損益計算書に仕入勘定が発生する余地はなく、したがって、原告は仕入高が発生しないことを熟知しながら、別表3の「平成7年9月期」欄及び「平成8年9月期」欄の「損益計算書」欄にそれぞれ対応する「仕入高」欄記載のとおり、平成7年9月期は2935万0309円を、平成8年9月期は1617万円をそれぞれ仕入れとして計上し、本来は最終的には0円となるはずの仕入高について多額の架空経費を計上しているが、このような行為は仮装、隠ぺいの意図を表す行為である。

(3) まとめ

上記のとおり、原告は本件各事業年度の所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出していることから、本件法人税各重加算税賦課決定処分は適法である。また、原告は、本件各課税期間において課税売上高とすべき金額を作為的に圧縮し、課税仕入れを架空計上して納付すべき税額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出していることから、本件消費税各重加算税賦課決定処分も適法である。

【原告の主張】

(1) 隠ぺい又は仮装の意図はないことについて

被告が指摘する総勘定元帳と損益計算書との数値の開差は、原告と各関連会社との間の処理基準が曖昧だったことや、原告の事務処理の体制が不備であったことによる事務処理上のミスのために生じたものであり、原告は開差が生じた根拠について説明しようとしたが、被告の方がまったく聞く耳を持たなかったのである。したがって原告が本件各事業年度の益金・損金につき隠ぺい又は仮装をしたとはいえない。

(2) 各項目ごとの検討

ア 賃貸料収入及び企画料収入について

不動産賃貸料収入及び企画料収入については、甲社長個人に帰属するものであるから、原告の売上げとして計上していないことは当然であるし、仮に、原告に帰属するものであったとしても、費用を差し引いた場合の収支は赤字となり、原告が敢えて所得を隠したとはいえないので、隠ぺい又は仮装には当たらない。

イ 仕入高について

仕入高について、別表3に記載されているような総勘定元帳と損益計算書との開差が生じたのは、原告が各関連会社の仕入れを一括して行った後に各関連会社に振り替えるべきところ、振替えを忘失したため過大計上となってしまったものである。

いったん原告が仕入れをしていることは事実であり、原告の関連会社への振替処理のミスにより生じたものであるから、隠ぺい又は仮装に該当するものではない。

ウ 給与手当について

給与手当について、別表3に記載されているような総勘定元帳と損益計算書との開差が生じたのは、各関連会社の雑給は、いったんは原告が支払った後に各関連会社に振り替えるべきものであるが、本件各事業年度においては、振替えを忘失していたため、過大計上となってしまつたのであり、あくまで事務処理のミスで発生したものである。

なお、平成6年度9月期の給与手当の360万円の差額は、各関連会社の臨時の職員の雑給の事務処理に関するものであり、本来は各関連会社において給与手当として計上すべきものであり、原告の給与手当として計上したのは単なる誤りであるが、役員報酬を二重に計上したわけではない。ノート(原告従業員鈴木誠子作成の従業員の雑給記載の写しであるB6版のもの)がその根拠となる資料であり、架空計上したものではないから隠ぺい又は仮装にはあたらない。

4  手続的違法の有無について

【原告の主張】

(1) 更正の理由の差替えの可否について

平成5年9月期の本件法人税更正処分の根拠を記載した更正通知書の理由には本件各株式について受贈益なる概念の記載はなく、受贈益なる言葉は裁決の段階で初めて登場するものであるから、被告が本件訴訟において同事業年度の本件法人税更正処分の根拠として有価証券の受贈益を主張することは、理由の差替えに該当し、理由附記を潜脱するものであって許されない。

(2) 更正の理由附記の不備の有無について

平成5年9月期及び平成8年9月期の本件法人税各更正処分の更正通知書の理由に、原告はL証券「川崎支店」を通じて株式の売買をしたと記載されていたが、原告はL証券川崎支店を通じて株式取引を行ったことはなく、青色申告法人の更正について理由附記が要求されていることからすれば、単に「川崎支店」と「大森支店」の支店名を間違えた誤記であるとして、裁決の段階における訂正により治癒されるものではない。

また、原処分の理由附記においては「売上計上もれ」であったものを裁決では「売上除外」と文言を変更しているが、これは本来は単なるミスによる漏れであったものを、そのままでは重加算税の対象とし得ないものであることから「除外」という言葉に変更したものであって、理由の差替えというべきであり、許されない。

(3) 更正の期間制限徒過の有無について

原告の行為は偽りその他不正の行為によるものではないので、国税通則法70条1項1号により、平成7年9月期以降の事業年度の分しか更正することはできない。

【被告の主張】

(1) 更正の理由の差替えの可否について

ア 青色申告に係る法人税の更正については、当該更正通知書にその更正の理由を附記しなければならないが(法人税法130条2項)、青色申告者の提起する更正処分取消しの訴えの審理の対象は当該処分の違法性一般であり、訴訟法上許される主張を必要以上に制限されるべきではない。したがって、理由の差替えを認めることにより、青色申告納税者の正当な利益を保護しようとする理由附記制度の趣旨が没却されない範囲において、あるいは理由の差替えを認めることが納税者の正当な利益を害するような特段の事情がある場合ではない限り、理由の差替えも認められる。

イ 本件においては、附記理由に記載のある加算額は、本件I株の帳簿上の取得価額と売却額との差額であるところ、本訴における被告の追加主張は、本件I株の本件営業譲渡による取得時の時価を取得価額とし、実際の取得価額との差額を受贈益と認定し、これと売却の際の売却益を加算したものであって、いずれも本件I株につき、原告が有限会社Bから取得してその後売却したことの差額についての損益計算書の額に関するものであり、本件I株の取得及び売却に係る原告の一連の取引という意味では基本的な課税要件事実の同一性が失われない範囲のものなので、理由の差替を認めても理由附記制度の趣旨を没却するようなことはなく問題ない。

そして、原告は、本件株式売買ノートにより、本件I株の取得及び売却の価額につき熟知していたので、本件I株に係る損益の理由を有価証券売却益から有価証券売却益と有価証券受贈益に変更しても、原告が本件法人税各更正処分を争う上での格別の不利益を受けることはなく、原告の正当な利益を害するような特段の事情はないので理由の差替えは認められる。

(2) 更正の理由附記の不備の有無について

理由附記が要求される理由は、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制し、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与えるためであるところ、上記更正処分通知書の理由には、取得・売却に係る株式の銘柄、株数、買付日・売付日、購入金額・売却金額が明確かつ正確に記載され、原告は、L証券大森支店を通じて行った株式の取引に関する記述であることを容易に理解できるので、違法な理由不備であるとはいえない。

また、原告は、「売上計上もれ」という文言が「売上除外」という文言に置き換えられていることを不当である旨主張するが、いずれも正当な金額に比べて過少の金額しか帳簿に記載されていないことに変わりはなく、更正処分の内容にも影響を及ぼすものではないから、原告の主張は失当である。

(3) 更正の期間制限徒過の有無について

原告は、前記3【被告の主張】のとおり、事務代行手数料収入、不動産賃貸料収入及び企画料収入、株式の受贈益及び売却益、雑収入を益金から除外し、給与手当、仕入高を損金に架空計上して、法人税額等を一部免れているので、国税通則法70条5項の「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた場合」に該当する。

したがって、被告は、原告に係る法人税の法定申告期限から7年を経過する日まで、更正をすることができるから、被告がした原告の平成5年9月期及び平成6年9月期に係る法人税更正処分について、更正の期間制限徒過の違法はない。

第6  当裁判所の判断

1  本件法人税各更正処分の違法性の有無について

(1)  売上高の計上除外の有無・金額について

ア 事務代行手数料収入の金額について

(ア) 原告の売上高として計上されるべき事務代行手数料収入については、本件各事業年度における総勘定元帳と損益計算書の金額が異なるなど、原告の総勘定元帳ないし損益計算書の金額は信ぴょう性に乏しく、これをそのまま正しい事務代行手数料収入の金額と認めることはできない。

そして、前記第3の基礎となる事実1のとおり、各関連会社の主たる業務はいずれも寿司店の経営であり、その従業員は寿司職人及び店員のみで、経理等の事務を行う管理部門がなく、他方、原告は、各関連会社の寿司店舗の日々の売上げの管理、仕入れの注文、代金の支払、給与その他経費の支払を代行することを業とし、川崎店及び鶴見店との間では、平成5年4月1日、原告が上記2店舗の仕入れ、現金の管理、従業員の管理、日常の事務及び経理事務を代行し、上記2店舗はその売上額の15パーセントの代行手数料を支払うという内容の、蒲田店及び大森店との間では、同年10月1日、原告が上記2店舗の仕入れ、現金の管理、従業員の管理、日常の事務及び経理事務を代行し、上記2店舗はその売上額の10パーセントの代行手数料を支払うという内容の、本件各業務委託契約を締結しているところである。

原告と各関連会社との上記のような関係からすれば、本件各業務委託契約に従って、各関連会社の売上額に応じた一定割合(15パーセント又は10パーセント)により算出される金額が、各関連会社から原告に支払われるべき事務代行手数料の額であり、これらは、原告が各関連会社から受け取るべき事務代行手数料の額と一致するはずである。

(イ) 各関連会社の決算期はいずれも1月31日であるところ、各関連会社の総勘定元帳には、各関連会社の日々の売上金額が記載されており、これらを原告の決算期である9月30日と各関連会社の決算期である1月31日で区切った場合の合計金額は以下のとおりであることが認められる。〔乙113号証ないし128号証〕

a 川崎店

平成5年4月1日から同年9月30日まで     7910万3320円

同年10月1日から平成6年1月31日まで    5545万2700円

平成6年2月1日から同年9月30日まで     9997万0300円

同年10月1日から平成7年1月31日まで    5067万4660円

平成7年2月1日から同年9.月30日まで    9170万4307円

同年10月1日から平成8年1月31日まで    5101万4170円

平成8年2月1日から同年9月30日まで     9579万3910円

b 鶴見店

平成5年4月1日から同年9月30日まで     7627万4070円

同年10月1日から平成6年1月31日まで    5192万5570円

平成6年2月1日から同年9月30日まで     9953万7660円

同年10月1日から平成7年1月31日まで    5380万7980円

平成7年2月1日から同年9月30日まで     9781万1570円

同年10月1日から平成8年1月31日まで    5114万8980円

平成8年2月1日から同年9月30日まで   1億0014万2090円

c 蒲田店

平成5年4月1日から同年9月30日まで     7737万7995円

同年10月1日から平成6年1月31日まで    5653万2280円

平成6年2月1日から同年9月30日まで     9760万2990円

同年10月1日から平成7年1月31日まで    4844万6030円

平成7年2月1日から同年9月30日まで     9365万9044円

同年10月1日から平成8年1月31日まで    4958万6920円

平成8年2月1日から同年9月30日まで     8235万7380円

d 大森店

平成5年4月1日から同年9月30日まで   1億2398万2305円

同年10月1日から平成6年1月31日まで    8274万0997円

平成6年2月1日から同年9月30日まで   1億5146万0840円

同年10月1日から平成7年1月31日まで    7683万4485円

平成7年2月1日から同年9月30日まで   1億4534万0140円

同年10月1日から平成8年1月31日まで    7022万8580円

平成8年2月1日から同年9月30日まで   1億3545万5184円

(ウ) 以上からすれば、各関連会社の売上高を原告の本件各事業年度ごとに区切った金額の合計は、別表4の2の各「期間」欄に対応する各「各関連会社」欄中の各「売上高」欄記載のとおりである。そして、上記のとおり、本件各業務委託契約によれば、原告が受け取るべき事務代行手数料は各関連会社の売上高に約定された一定割合を乗じる方法で算出されることとなるから、本件各事業年度における各関連会社ごとの原告が受け取るべき事務代行手数料の額は、別表4の2の各「期間」欄に対応する各「各関連会社」欄中の各「事務代行収入①~④×15%又は10%」欄記載のとおりとなると認められる。

(エ) 原告の主張(ア)について

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によれば、収益及び費用は発生時を基準に計上されるべきであるから、各関連会社の売上げは、商品等を販売し又は役務を提供したことにより代金請求等ができる場合に計上されるべきである。

そして、各関連会社は、個々の寿司販売の都度、その代金を請求することが可能となるのであるから、各関連会社の売上げは、個々の寿司販売の都度、計上されるべきものである。

そして、企業会計処理の基準によれば、売上げの内容が物の引渡しを要しない請負による収益の額は、当該請負契約で約した役務を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入すべきところ、原告の売上げは、各関連会社の仕入れ、現金及び従業員の管理、日常の事務及び経理事務を代行する等の業務によるものであって、物の引渡しを要しない請負契約に基づくものとして日々完了する性質のものであるから、各関連会社の日々の売上げに応じて日々計上されるべきものである(なお、後に決算により各関連会社の売上げに修正があった場合には、その次の原告の事業年度において、原告の売上げも修正すれば足りるのである。)。このことは、本件各業務委託契約に基づく原告の受託事務の性質を準委任契約に基づくものと把握しても、異なることはない。

したがって、原告の上記主張は、失当というべきである。

(オ) 原告の主張(イ)について

上記のとおり、各関連会社においては、個々の寿司販売の都度売上げが発生するのであり、このことは個々の寿司販売についての顧客から各関連会社に対する代金支払の方法が現金であってもカードであっても異なるところはなく、経理処理上、売上げに対応する勘定科目として現金による入金として計上するか、売掛金として計上するかの違いがあるだけである。なお、カードによる売掛金が回収不能となり、貸倒れが発生したときは、別途、貸倒損失として、当該貸倒れが発生した事業年度の損金として計上すれば足りるのである。

したがって、原告の上記の主張も失当というべきである。

(カ) 原告の主張(ウ)について

原告は蒲田店の前身である有限会社F及び大森店の前身である有限会社Hの経営業務を請け負っていた有限会社Bから平成5年4月1日に営業譲渡を受けたものであるところ、原告の平成5年9月期の総勘定元帳の資金諸口勘定〔乙35号証〕及び売上高勘定〔乙37号証〕には蒲田店及び大森店の本支店勘定の記帳をしているところである。また、原告は、平成5年4月から同年10月までの間、蒲田店及び大森店についての「売上及仕入原価率」表等の会計書類〔乙29号証〕を作成していたところである。

このようなことからすれば、原告は、平成5年4月から業務委託契約に基づく受託業務を実行していると認められるのであって、蒲田店及び大森店との間の各業務委託契約関係は、実際には上記営業譲渡の日からあったとものと認めるのが相当である。

したがって、原告の上記の主張も理由がないというべきである。

(キ) 原告の主張(エ)について

原告が事務代行手数料として計上した金額は、別表3の各「事業年度」欄に対応する「売上高」欄記載の金額であるが、総勘定元帳に記載された金額と損益計算書に記載された金額とが異なっているばかりではなく、これらは、いずれも各関連会社が損益計算書に計上した事務代行手数料の額とも異なっている。したがって、原告の各事業年度の総勘定元帳記載の金額又は損益計算書記載の金額をそのまま原告の事務代行手数料として認めることはできず、また、各関連会社が損益計算書に計上した金額をそのまま原告の事務代行手数料として認めることもできないことも明らかである。そして、原告が、その主張のように各関連会社から本件業務委託契約と異なる方法により計算された金額の事務代行手数料を受領していたこと及びその主張のような金額が実際の事務代行手数料収入の金額であることを認めるに足りる的確な証拠はないのである。

そうであるとすれば、上記(イ)及び(ウ)のとおり、各関連会社の総勘定元帳に計上された売上げまでさかのぼり、これらを日々集計して原告の本件各事業年度ごとの区切りに合わせた売上金額を求め、これに本件業務委託契約に基づき各関連会社の売上げに一定割合を乗じて算出した金額をもって、原告の本件各事業年度における事務代行手数料収入の金額と認めるのが相当というべきである。

イ 不動産賃貸料収入及び企画料収入の帰属について

(ア) 有限会社Bは、平成3年3月5日、下記の約定でIから本件賃貸物件を賃借した。〔乙13号証〕

賃貸期間 平成3年3月5日から平成6年3月4日までの3年間

賃料 月45万3200円

保証金 2600万円

電気・ガス・下水道料金等の諸費用は賃借人の負担

転貸には賃貸人の同意が必要

賃借人の連帯保証人 甲

(イ) その後、上記賃貸借契約は、賃借人を原告として更新された。すなわち、平成6年3月4日付け賃貸借契約書によれば、貸主をIとし、借主を原告として、賃貸期間が平成6年3月5日から平成9年3月4日までの3年間と、賃料が月49万8520円(消費税1万4955円を含まない。)と改定された以外は、上記(ア)の賃貸借契約と同一の内容の契約が原告とIとの間で締結されていた。以降も、この賃貸借契約は賃貸期間の経過に伴い更新されてきた。また、これらの契約においては、賃借人(原告)の連帯保証人はいずれも甲社長となっている。

〔乙22号証〕

(ウ) Iへの賃料の支払は、原告名義で毎月振込みにより支払われ、Iからの電気料等の諸費用の請求も原告に対してされ、原告は、これを支払っている。〔乙16、22号証〕

(エ) 有限会社Bは、平成3年10月ころ、丁(以下「丁」という。)に対し、本件賃貸物件を転貸し、丁は、本件賃貸物件でフィリピン・タレント・パブ「トップガン」の営業を始めた。なお、この「トップガン」についての風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業の許可は甲社長個人の名義で受けていた。

〔原告代表者の供述、甲7、9、15号証、弁論の全趣旨〕

(オ) 有限会社Bと丁は、平成3年10月22日付けで、本件賃貸物件の転貸に際し、次の内容の「業務提携契約」を締結した。〔甲9号証〕

ⅰ 丁は、その責任と計算で本件賃貸物件においてフィリピン・タレント・バーを経営する。

ⅱ 風俗営業上の許認可等は有限会社B・甲が取得する。

ⅲ 業務提携費用月150万円

ⅳ 店舗賃借料・光熱費等は原告の請求後、丁が原告に対し支払う。

Ⅴ 契約期間平成3年10月22日から3年間

なお、原告と丁は、平成9年10月22日付で、業務提携費用及び店舗賃料の合計額を月額130万円とするほかは、上記業務提携契約と同様の内容の「業務提携契約」を締結している。

(カ) 丁は、上記店舗の経営につき、平成3年12月16日、丁を代表取締役としてKを設立した。

そして、原告は、自己の名義で、Kに対して、本件賃貸物件についての賃料・企画料及び電気料等の諸費用の支払を請求し、Kも、原告に対して上記費用等を支払っており、原告は、その支払についての領収書を発行している。〔乙23号証〕

(キ) 原告は、本件各事業年度より後の平成9年10月1日から平成10年9月30日までの事業年度の損益計算書においては、不動産賃貸料1600万円及び企画料50万円を、平成13年10月1日から平成14年9月30日までの事業年度の損益計算書において不動産賃貸料1560万円を、売上高としてそれぞれ計上している。〔乙17、137号証〕

(ク) 他方、甲社長は、自己の平成3年分から平成8年分までの所得税の確定申告書においては、本件賃貸物件に関する収入金額・必要経費の計上をしていない。

〔甲12号証〕

(ケ) 上記の諸事実からすれば、本件賃貸物件をIから賃借し、丁ないしKに転貸していたのは、甲社長個人ではなく、有限会社B及び同社から営業譲渡を受けた原告であると認められ、したがって、上記不動産賃貸料収入及び企画料収入は、甲社長個人ではなく、原告に帰属するものであることは明らかである。

(コ) 上記の点について、原告は、Kの営業は外国人を雇用した風俗関係の業務であることから、関係法令の規制や違反による処罰、処分等の影響が原告及び各関連会社に及ばないようにするため、甲社長個人が本件賃貸物件の賃貸借及び転貸借の当事者となったとの趣旨の主張をするが、実際には、各契約書自体において、原告が当事者となっているのであるから、原告の上記主張は、そもそも前提を欠くものであり、失当である。

その他、原告は、上記不動産の賃料等の支払や転貸料等の収入に係る経理処理がいろいろな思惑から企図した仮装のものであって、本来は甲個人に帰属するものであったとの趣旨をあれこれ主張しているが、甲社長自身、その陳述書〔甲15号証〕において、本件賃貸物件は「会社」(有限会社Bの意味>が賃借したと記述し、原告代表者尋問においても、いったん有限会社Bが賃借したうえで、本件賃貸物件における事業の営業内容により、事業主を有限会社Bないし原告とするか甲個人とするか決めようと思っていたとの趣旨を供述しているのであって、上記不動産賃貸料収入及び企画料収入の帰属主体が、当初は、Iから本件賃貸物件を賃借した有限会社Bであり、その後は、有限会社Bから本件営業譲渡を受けた原告であることは明らかである。

(サ) そして、原告が本件各事業年度における不動産賃貸料収入として総勘定元帳に記載した金額は、別表3の各「事業年度」欄に対応する各「不動産賃貸料」欄記載のとおりであるところ、これは上記(オ)に認定の契約書記載の業務提携費用名目の店舗賃料月額150万円と概ね整合するところであるから、不動産賃貸料収入は、平成5年度9月期については4月分から9月分までの6か月分の900万円、平成6年9月期から平成8年9月期までは1年分の1800万円であると認めるのが相当である。

次に企画料については、契約書等の直接資料がないことから、約定の金額は不明であるが、原告が総勘定元帳に記載した本件各事業年度の企画料の金額は別表3の各「事業年度」欄に対応する各「企画料」欄記載のとおりであり、原告が企画料について作成した本件収入明細〔乙6号証〕によれば、平成7年3月から平成9年3月までの企画料は概ね月45万円であり、上記期間の分については、原告が総勘定元帳に計上した金額とおおむね一致すると認められることから、本件各事業年度における企画料収入の金額は、原告が総勘定元帳に記載した企画料収入の金額と同一の金額と認めるのが相当である。

ただし、証拠〔甲22号証、乙24号証〕によれば、平成6年9月期については、同年2月から6月分までの5か月分の企画料合計225万円が雑収入として計上されていることが認められるところ、これは企画料収入として仕分けし直して計上するのが適切であるから、同事業年度の企画料収入の金額は、総勘定元帳に記載した金額にこの225万円を加算した360万円となる。

したがって、本件各事業年度における原告の本件不動産賃貸料収入及び企画料収入の金額は、別表4の3の各該当欄記載のとおりである(ただし、平成6年9月期の本件企画料収入については、上記のとおり360万円である。)。

(2)  有価証券に関する収益の計上除外の有無・金額について

ア 株式の受贈益の有無・金額について

(ア) 法人税法22条2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額の一つとして、「無償による資産の譲受け」に係る当該事業年度の収益の額を掲げているところ、このように資産を無償で譲り受けた場合の収益の額とは、その譲受け時における当該資産の客観的な価額、すなわち、当該資産の時価をいうものと解される。そして、ある資産について時価よりも低い対価(取得価額)での譲受け(資産の低額譲受け)があった場合においても、時価とその対価(取得価額)との差額部分については、上記の「無償による資産の譲受け」があったものとして、その額は、その資産の取得価額の一部を構成するとともに、収益の額として当該事業年度の益金の額に算入すべきものと解するのが相当である。

(イ) また、法人税法施行令38条1項3号は、購入した有価証券の取得価額は、その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)とする旨を規定し、同項5号は、同項1号から4号までに規定する方法すなわち払込み、購入、合併・出資・株式交換等以外の方法により取得した有価証券の取得価額は、その取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額、すなわち、適正価額とする旨を規定しているところである。

そして、ここでいう適正価額とは、その有価証券の取得の時における客観的な価額、すなわち、当該有価証券の時価をいうものと解されるのであり、その有価証券が証券取引所に上場されている株式である場合には、特段の事情がない限り、証券取引所が公表した取引日当日の最終価格をもって時価相当額と認めるのが妥当である。

(ウ) 上記のような法人税法22条2項、同法施行令38条1項等の関係規定の解釈よりすれば、取引市場に上場されている株式について、時価よりも低い代価による譲受けがあった場合には、時価とその代価との差額部分については、上記の「無償による資産の譲受け」があったものとして取り扱われることになる。

したがって、この場合は、その株式の時価が取得価額となり、時価と代価との差額は、収益の額として当該事業年度の益金の額に算入すべきものである。

(エ) 本件において、有限会社Bは、別表5の1の各「銘柄名」欄記載のいずれも上場株式である本件各株式をこれに対応する「有限会社Bの取得価額(帳簿価額)」欄の各「買付日」欄記載の日に各「単価:円」欄記載の単価で各「株数」欄記載の株式を購入し、その購入金額は各「金額:円」欄記載の額(手数料も含む。)であった(ただし、「買付日」欄の平成2年8月1日を同月6日に、平成2年8月8日を同月15日に、平成3年3月27日を同年2月27日に、それぞれ訂正する。)〔乙7号証〕。

原告は、本件営業譲渡の際、本件各株式を有限会社Bから譲り受けたが、総勘定元帳上、I株を除く本件各株式について、上記の各購入時の価格(手数料を除く。)で引き継いだものとしている(この事実は、I株を除く本件各株式の上記購入価格(手数料を除く)の合計額5572万円と原告の平成5年9月期の総勘定元帳の有価証券勘定の平成5年2月1日付け甲からの「長期借入」として計上されている金額5572万円〔乙112号証〕とが一致することから、認めることができる。)。

そして、この引継価格すなわち取得価格は、上記のとおり、本来であれば、本件各株式が上場されている東京証券取引所における原告が本件各株式を譲り受けた日である平成5年4月1日の最終価格すなわち時価により計上されるべきであり、他方、時価とこれより低い代価との差額部分は、無償譲渡を受けたことにより得た収益として、平成5年9月期の益金の額に算入されるべきところ、本件各株式の東京証券取引所における平成5年4月1日の最終価格は別表5の2の各「銘柄」欄に対応する各「時価:円」欄記載のとおりであり〔乙111号証〕、その合計額は同表の「合計」欄に対応する「金額:円」欄記載のとおり5969万9000円であるから、この時価とこれより低い代価である5572万円との差額である397万9000円は、本件各株式に係る受贈益として、原告の平成5年9月期の益金の額に算入されるべきである。

(オ) 原告は、本件営業譲渡により、有限会社Bから株式だけではなく債権債務のすべてを引き継いだので、本件各株式の引継価額(取得価額)は有限会社Bの帳簿価額とするのが適正な処理であると主張する。しかし、営業譲渡は、譲受会社が譲渡会社からその個々の資産、債権及び債務等を譲り受けるものであるから、個々の財産の譲受けは個別に行われているのであり、その取得価額は個々に認定・計上されるべきであり、上記のとおり、その際の譲受資産の取得価額は時価によるべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。

イ 株式売却益の金額・帰属について

(ア) 株式売却益の金額について

法人税法(平成12年法律14号による改正前のもの)30条1項によれば、有価証券の評価の方法は、評価方法の届出をしなかった場合は、法人税法施行令37条1項により、法人税法34条1項1号イ(1)に規定されている総平均法により算出した取得価額による原価法により算出することとなる。

そして、本件株式売買ノート〔乙7号証〕及び原告が本件各株式の取引に利用していたL証券大森支店の顧客勘定元帳(取引経過記録)〔乙19号証〕によれば、原告は、別表5の3の各「銘柄名」欄記載の各株式を各「年月日」欄記載の各年月日に、これに対応する各「買付」欄中の各「単価:円」欄記載の単価で各「株数」欄記載の株数を各「金額:円」欄記載の金額(手数料を含む。)で購入し、同表の各「銘柄名」欄記載の各株式を各「年月日」欄記載の各年月日に、これに対応する各「売付」欄中の各「単価:円」欄記載の単価で各「株数」欄記載の株数を各「金額:円」欄記載の金額(手数料を含む。)で売却したことが認められる(ただし、N株の平成5年10月15日の買付けの株数5万株を6万株に、同株の同月25日の買付けの株数5万株を4万株と、同株の「売付」欄の「金額:円」の合計額3841万8376円を3841万8381円と、それぞれ訂正する。)。

そこで、上記の各株式を総平均法による原価法により評価した価額を譲渡原価とし、上記認定の売却価額との差額を求めると、別表5の4の各事業年度別の表における各「銘柄名」欄に対応する各「売却益」欄記載のとおりの金額となる(ただし、「平成8年9月期」の表中の「N株」の「譲渡価額単:円」欄の小計3841万8376円を3841方8381円と、同表の「N株」の「売却益」欄の1617万2572円を1617万2577円と、同表の「売却益」欄の「合計」637万8968円を637万8973円と、それぞれ訂正する。)から、これらの金額は、株式の売却益として、それぞれ対応する事業年度における益金の額に算入されるべきである。

(イ) 本件I株の売却益の帰属について

本件I株の売却も本件営業譲渡もいずれも平成5年4月1日にされているところ、本件営業譲渡が、原告が主張するように、同日午後5時にされたものと認めるに足りる証拠はない。むしろ、平成5年3月20日付の営業譲渡契約書〔甲18号証〕によれば、平成5年4月1日現在をもって有限会社Bに属する営業の全部を原告に譲渡するものとされ、譲渡資産の引継時期も同日とするものと合意されているところ、本件営業譲渡の目的は、有限会社Bの営業を拡大するために営業形態を株式会社とすることにあったこと〔原告代表者の供述、甲20号証〕からすれば、本件I株も本件営業譲渡により原告に引き継がれるべき資産の一部を構成していたものと認めるのが相当であり、その売却代金は原告に帰属したものと認められるのである。

したがって、本件I株の売却益は原告に帰属するものであり、原告は、この売却益を原告の平成5年9月期の益金の額に算入すべきである。

(3)  雑収入の計上除外の有無・金額について

ア 各決算期末における減額処理の正当性の有無について

(ア) 原告は、平成5年9月の期雑収入について別表3の「平成5年9月期」欄に対応する「雑収入」欄記載のとおり、総勘定元帳及び損益計算書のいずれにおいても、雑収入勘定を7万5064円として記載ないし計上しているが、総勘定元帳において、雑収入勘定の残高は平成5年9月26日の時点で707万5064円であったところ、同月30日付けで、そのうち700万円を短期借入金勘定(甲社長からの短期借入金)に振り替えることにより、700万円を減額する会計処理を行い、7万5064円を残高としている。

〔乙21号証、30号証の2、129号証〕

しかし、短期借入(負債の増加)の相手方科目として雑収入の残高減少(収益の減少)を計上するのは、企業会計処理の基準による仕分けの方法としては不合理であるし、このような振替処理の前提としての甲社長からの短期借入金の存在を裏付ける契約書等の証拠は提出されていない。その他、上記の会計処理が適正なものであることを裏付ける決算修正に関する証拠資料もない。

したがって、下記イで認定判断する原告が各関連会社の従業員から徴収した食費の点を除けば、平成5年9月期においては707万5064円の雑収入があったものと認めるべきであり、同額が平成5年9月期の益金の額に算入されるべきである。

(イ) 原告は、平成6年9月期及び平成7年9月期の雑収入について、別表3の「平成6年9月期」欄及び「平成7年9月期」欄にそれぞれ対応する「雑収入」欄記載のとおりの金額を計上しているところ、平成6年9月期においては、総勘定元帳の雑収入勘定の期末残高の金額は1212万9412円であるのに〔乙24号証〕、損益計算書の雑収入勘定に計上した金額は12万9412円にすぎず〔乙31号証の2〕、また、平成7年9月期において総勘定元帳の雑収入勘定の期末残高の金額は1068万2914円であるのに〔乙25号証〕、損益計算書の雑収入勘定に計上した金額は268万2914円にすぎない〔乙32号証の2〕。

しかし、企業会計処理の基準に従った処理によれば、同一勘定については、総勘定元帳の期末残高と損益計算書に計上される金額が一致するか、一致しない場合は、決算処理により決算修正がされ、かつ、その修正が適正な処理であることを裏付ける資料が存在するはずであるところ、本件においては、そのいずれでもないことから、企業会計処理の基準に従った適正な会計処理がされていないといわざるをえない。そして、本件において損益計算書に計上された金額が正しいものと認めるべき特段の事情もないことから、基本的には、損益計算書の作成の基となり、取引の都度、日々記録される会計伝票に基づいて作成される総勘定元帳に記載された金額が、原告の雑収入についての正しい金額と認めるのが相当である。

したがって、下記イで認定判断する原告が各関連会社の従業員から徴収した食費の点を除けば、平成6年9月期及び平成7年9月期においては、上記の各総勘定元帳に記載された各金額の雑収入があったものと認めるべきである(なお、この点は、平成8年9月期についても同様である。)。

イ 各関連会社の従業員から徴収した食費の額は原告に帰属するか、各関連会社に帰属するかについて

(ア) 原告の雑収入については、振替伝票〔甲22号証〕を基にしてその総勘定元帳が作成されているところ、原告が各関連会社の従業員から徴収した食費については、いったん上記総勘定元帳に記載された後に、各関連会社に帰属するものとして、各関連会社の雑収入への振替処理がされているところである。

(イ) この点について、被告は、原告が、各関連会社の従業員から徴収した食費の額が原告に帰属するものと認識していたからこそ、原告の雑収入として計上したものであるから、総勘定元帳の記載に従って原告の雑収入として益金の額に算入されるべきであると主張する。

しかし、前記第3の基礎となる事実1のとおり、原告と各関連会社との関係は、原告において、各関連会社のために仕入れ、現金の管理、従業員の管理、日常の事務、経理事務を代行するというものであって、このような関係からすれば、原告がした各関連会社の従業員からの食費の徴収は、本来、各関連会社が自己の計算において行う業務を代行したものにすぎないのであるから、その経済的効果は各関連会社に帰属すべき性質のものであることが明らかであるから、原告において、各関連会社の従業員から徴収した食費をいったんは原告の雑収入として記帳したからといって、後に、これらを各関連会社の雑収入として振り替えた経理処理が不自然・不合理なものであるとすることはできないというべきである。

したがって、原告が徴収した各関連会社の従業員からの食費の額は、原告に帰属するものとすることはできず、各関連会社に帰属するものと認めるのが相当である。

(ウ) もっとも、上記のように、原告が各関連会社の従業員から徴収した食費の額が各関連会社の雑収入として各関連会社に帰属するものとしても、原告が主張するような概算額の振替は、企業会計処理の基準に従った適正な会計処理であるということはできない。

そして、証拠〔甲22号証、乙21号証、24号証、25号証、34号証、43号証、129号証〕によれば、原告が各関連会社の従業員から徴収した食費の合計額は、平成5年9月期は339万7100円、平成6年9月期は655万8800円、平成7年9月期は607万6100円、平成8年9月期は597万7300円であると認められる(別表6参照)。

ウ 雑収入に計上すべき金額について

したがって、雑収入については、まず、上記アのような振替処理がされた金額、すなわち、平成5年9月期については700万円、平成6年9月期については1200万円、平成7年9月期については800万円から、各事業年度において各関連会社の従業員から徴収した上記イ(ウ)の食費の額を控除した金額を計上すべきである。

また、下記イで認定判断する原告が各関連会社の従業員から徴収した食費の点を除けば、上記(1)イ(サ)のように、平成6年9月期については、雑収入として計上されていた合計225万円の企画料を本件企画料収入として仕分けし直して計上することとしたので、同額を平成6年9月期の雑収入から控除すべきである。

そうすると、各事業年度において、原告の雑収入に加算されるべき額は、別表6の各「事業年度」欄に対応する「当裁判所が認定した雑収入除外額」欄記載のとおりとなる。

(4)  益金の額についてのまとめ

以上のとおり、原告の本件各事業年における益金の額のうち、売上高については、上記(1)ア、イのように、事務代行手数料収入、不動産賃貸料収入及び企画料収入が計上除外されていたので、その金額を当該事業年度の益金の額に加算すべきであり、また、有価証券に関する収益については、上記(2)ア、イのように、株式の受贈益及び売却益が計上除外されていたので、その金額を当該事業年度の益金の額に加算すべきであり、さらに、雑収入については、上記(3)アないしウのように、各決算期末において不当に減額処理されていた金額等があるので、これらの金額を当該事業年度の益金の額に加算すべきである。

(5)  損金について

次に、本件各事業年度の損金の額について整理する。

ア まず、仕入高についてみると、原告は、別表3の「平成7年9月期」欄及び「平成8年9月期」欄の「損益計算書」欄にそれぞれ対応する「仕入高」欄記載のとおり、平成7年9月期は2935万0309円、平成8年9月期は1617万円をそれぞれ損益計算書に計上していること、そして、これらは原告が関連会社のためにその仕入れを一括して行ったことによる金額であり、最終的には各関連会社に振り替えられるべきものであることについては争いがないから、上記各金額は、原告の当該事業年度の損金の額から控除されるべきである。

イ また、給与についてみると、原告が平成6年9月期の給与の支出につき総勘定元帳に記載し、損益計算書に計上した額は、それぞれ別表3の「平成6年9月期」欄の「総勘定元帳」欄及び「損益計算書」欄にそれぞれ対応する「役員報酬」欄、「給与手当」欄、「賞与」欄、「雑給」欄、「退職金」欄記載のとおりであることについては争いがないところ、損益計算書に計上されたこれらの金額の合計は総勘定元帳に記載された金額より360万円ほど多額である。この点について、被告が、同額を給与として計上する根拠・資料がない以上、架空計上と認めるべきである旨を主張するのに対し、原告は、各関連会社に帰属する雑給を各関連会社に振替するのを忘失していたものとの趣旨を主張するところ、原告の主張するとおりであったとしても、いずれにせよ、原告がその「給与手当」として自らの損金に計上することは誤りであることは明らかであるから、同額は、原告の当該事業年度の損金の額から控除されるべきである。

ウ そして、その他の経費についみると、原告が本件各事業年度の総勘定元帳に記載し、損益計算書に計上した地代家賃、租税公課、修繕費、水道光熱費、車両関連費、広告宣伝費、福利厚生費、接待交際費、消耗品費、旅費交通費、雑損失の各経費は、別表3の各「事業年度」欄に対応する各「地代家賃」欄、「租税公課」欄、「修繕費」欄、「水道光熱費」欄、「車両関連費」欄、「広告宣伝費」欄、「福利厚生費」欄、「接待交際費」欄、「消耗品費」欄、「旅費交通費」欄、「雑損失」欄記載のとおりであり、損益計算書において総勘定元帳に記載した金額を減額した形の開差があることについては争いがないところ、損益計算書における減額の根拠となる資料はなく、減額の理由も不明であることから、損益計算書の金額が正しいと認めることはできず、また、これらの経費については総勘定元帳以外に計上額の基となる証拠資料はないことから、総勘定元帳記載の金額の方が正しいものと取り扱わざるを得ない。

したがって、総勘定元帳と損益計算書の差額分については損金の額に算入すべきであるところ、その金額は、別表2の1の各「事業年度」欄に対応する「減算」欄中の各「地代家賃」欄、「租税公課」欄、「修繕費」欄、「水道光熱費」欄、「車両関連費」欄、「広告宣伝費」欄、「福利厚生費」欄、「接待交際費」欄、「消耗品費」欄、「旅費交通費」欄、「雑損失」欄記載のとおりとなる。

(6)  小括

以上のところに従って所要の加算ないし減算した結果得られる原告の本件各事業年度の所得金額は、平成5年9月期が1866万8027円、平成6年9月期が4408万8436円、平成7年9月期が961万3398円、平成8年9月期が2370万8735円、平成9年9月期が▲1008万8283円(▲は欠損金額をを示す。)であり(別表6参照)、平成5年9月期、平成7年9月期及び平成9年9月期の各所得金額は、本件法人税各更正処分における所得金額と同じかこれを上回るので、これらの事業年度の本件法人税各更正処分は適法であるが、平成6年9月期及び平成8年9月期の各所得金額は、いずれも本件法人税各更正処分における所得金額を下回るので、これらの事業年度の本件法人税各更正処分は、いずれも上記認定の所得金額を上回る部分について違法であるから、その部分については取り消しを免れない。

2  本件消費税各更正処分の違法性の有無

(1)  本件各課税期間における課税売上げに係る計上漏れ(雑収入に係るものを除く)は、前記1(1)のところから、別表2の1の「平成7年9月期」欄及び「平成8年9月期」欄に対応する「売上除外」欄記載のとおり(別表2の2の各「課税期間」欄に対応する「課税売上計上もれ」欄記載のとおり)の金額である。

(2)  雑収入についての課税売上げに係る計上漏れは、Kからの受取り電気料等であり、前記1(1)で検討したとおり、これは甲個人ではなく原告に帰属するものであるから、課税標準額に加算されるべきであるところ、その金額は、別表2の2の各課税期間に対応する「課税売上計上もれ(雑収入)」欄記載のとおりであると認められる〔甲3号証、弁論の全趣旨〕。

(3)  「課税仕入れとなる費用等」については、前記1(5)のところから、別表2の1の「平成7年9月期」欄及び「平成8年9月期」欄に対応する「減算」欄の各「賃借料等の損金算入額」、「電気料等の損金算入額」、「水道光熱費」、「車両関連費」、「広告宣伝費」、「接待交際費」、「旅費交通費」、「雑損失」欄記載のとおり(別表2の2の各「課税期間」に対応する各「地代家賃」、「電気料等」、「水道光熱費」、「車両関連費」、「広告宣伝費」、「接待交際費」、「旅費交通費」、「雑損失」欄記載のとおり)の金額である。

(4)  「課税仕入れとならない仕入高」については、前記1(5)のところから、別表2の1の「平成7年9月期」欄及び「平成8年9月期」欄に対応する「加算」欄中の「仕入高の架空計上」欄記載のとおり(別表2の2の各「課税期間」欄に対応する各「課税仕入れとならない仕入高(税込価額)」欄記載のとおり)の金額である。

(5)  小括

したがって、本件各課税期間の消費税は、別表2の2の各「課税期間」欄に対応する各「課税標準額」、「消費税額」、「控除対象仕入税額」及び「納付すべき税額」欄記載のとおりであり、これらは別表1の6及び7記載の各「課税標準額」、「納付すべき消費税額」等と同額(平成8年9月課税期間分)か、これを上回る(平成7年9月課税期間分)ので、本件消費税各更正処分はいずれも適法である。

3  本件各重加算税賦課決定処分の違法性の有無について

(1)  隠ぺい又は仮装の意義について

国税通則法68条1項は、過少申告加算税の規定(同法65条1項)に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて、重加算税を課する旨を規定する。

この「事実の隠ぺい・仮装」とは、典型的には、二重帳簿を作成し、あるいは、売上伝票、納品書等の証拠書類を廃棄するなどして売上げを除外する、注文伝票や領収証等を偽造するなどして架空仕入れ、架空経費を計上する、税務調査に対して虚偽の答弁をする等、本件に係る法人税及び消費税に即していえば、納税者が、その納税義務の全部又は一部を免れるために、意図的に、存在する益金ないし課税資産の譲渡等の全部又は一部を隠し、あるいは、存在しない損金ないし課税仕入れとなる費用等が存在するように装うことを指すものと解される。

(2)  本件における隠ぺい・仮装の有無について

本件においては、別表1の2ないし4、6及び7の各「裁決」欄にそれぞれ対応する「重加算税」欄記載のとおり、平成6年9月期、平成7年9月期及び平成8年9月期の各法人税並びに平成7年9月課税期間及び平成8年9月課税期間の各消費税について重加算税の各賦課決定処分がされているところ、これらの処分の前提として具体的に隠ぺい又は仮装があったとされる益金(課税資産の譲渡等)又損金(課税仕入れとなる費用等)に係る事実は、①不動産賃貸料収入及び企画料収入(各事業年度の法人税、各課税期間の消費税共通)、②株式の売却益(平成8年9月期の法人税)、③仕入高(平成7年9月期及び平成8年9月期の法人税並びに各課税期間の消費税)、④給与手当(平成6年9月期の法人税)、である〔甲3号証〕。そこで、以下、①ないし④の各項目ごとに、上記の隠ぺい又は仮装の有無について検討することとする。

ア 不動産賃貸料収入及び企画料収入関係

前記1(1)イで認定したとおり、有限会社Bは、平成3年3月5日、本件賃貸物件をIから賃借する旨の契約を締結し、その際、甲社長が賃借人の連帯保証人となったものであるが、この賃貸借契約は、本件営業譲渡後は、賃借人を原告として、賃料が改定されたこと以外は、同一の内容で、逐次、更新されており、甲社長が賃借人である原告の連帯保証人となっていること、Iへの賃料及び電気料金等の諸費用の支払は、原告名義で、毎月振込によりされていること、有限会社Bは、平成3年10月22日付けで、丁との間で、本件賃貸物件の転貸やフィリピン・タレント・パブ「トップガン」の営業に関する業務提携契約を締結し、賃貸料及び企画料を受領しており、本件営業譲渡後は、原告と丁との間で、ほぼ同一の内容の業務提携契約が締結され、原告名義の預金口座に賃貸料・電気料金等及び企画料が振り込まれていることからすれば、原告は、上記賃貸料収入及び企画料収入が自己に帰属していたことを認識していたと認められるのであり、現に、上記賃貸料収入及び企画料収入は、いったんは原告の益金として原告の総勘定元帳に記載されているところである。

にもかかわらず、原告は、本件収入明細を作成して、簿外で上記賃貸料及び企画料を自己の収入として記録し〔乙6号証〕つつ、確定申告に当たっては、賃貸料収入及び企画料収入を損益計算書に計上せず、また、Iに対する賃料及び電気料金等の経費を損益計算書に計上せず、結局、上記賃貸料収入及び企画料収入に係る売上げ及びその経費を除外したところである。

上記の事実からすれば、原告は、上記賃貸料収入及び企画料収入が自己に帰属するものであるとを認識しながら、この益金を損益計算書に計上しないで除外することにより、賃貸料収入及び企画料収入が存在する事実を隠ぺいし、これを前提として賃貸料収入及び企画料収入を益金として申告しなかったのであるから、このような原告の行為に係る事実は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものとして、重加算税の賦課の対象となることは明らかというべきである。

イ 株式の売却益関係

前記1(2)イで認定したとおり、原告は、L証券大森支店を通じて株式の売買を行い、これらの売買に関して原告の従業員が簿外で本件株式売買ノート〔乙7号証〕に取引内容を記載しているにもかかわらず、I株を除く各株式について、有限会社Bからの取得の事実は記帳しているものの、同支店を通じた取得及び売却の事実のすべてを会計帳簿に記帳していない。

したがって、原告は、上記株式の売却益が自己に帰属するものであることを認識しながら、これらの株式取得の事実の一部及び売却の事実の全部を簿外とすることにより、株式の売却益があることを隠ぺいし、これを前提として、株式の売却益を益金として申告しなかったのであるから、このような原告の行為に係る事実が重加算税の賦課の対象となることは明らかというべきである。

ウ 仕入高関係

前記第3の基礎となる事実の1及び前記1(5)で認定したとおり、原告は、各関連会社の材料仕入れ等を一括して行い、これらをいったん原告の仕入高として計上した後、各関連会社の仕入高に振り替える扱いをしていたのであり、現に原告は、仕入高の一部を振り替えることにより、仕入高の総勘定元帳の残高は平成7年9月期225万8379円、平成8年9月期0円となっているのである。にもかかわらず、原告は、決算処理の際に、平成7年9月期については2709万1930円、平成8年9月期については1617万円を上乗せした金額を損益計算書に仕入高として計上している。

しかし、これらは、いったん各関連会社への振替処理をした後に再度計上したものであるから、原告の主張するような単なる振替処理の失念であったと認ることはできない。むしろ、原告しては自ら認めているとおり、各関連会社の仕入れをいったんは原告の仕入高として記帳するとしても、それらは最終的にはすべて各関連会社の仕入高に振替処理しなければならない立場にあるのであるから、原告は、決算処理において上乗せ計上した仕入高は原告の仕入高ではないことを認識したうえで、あえて意図的に計上したものと推認されるのである。したがって、原告は、仕入高について架空の計上をしたものと認められるのである。

上記のように、原告は、仕入高について、意図的に損益計算書において架空の計上をし、これに基づいて過少の申告をしているのであるから、このような原告の行為に係る事実が重加算税の賦課の対象となることは明らかというべきである。

エ 給与手当関係

前記1(5)イで認定したとおり、原告が平成6年9月期の給与手当として、損益計算書において総勘定元帳より360万円も多い金額を計上したことについて、原告は、各関連会社の臨時職人の給与手当を誤って損金の額に算入したものであり、水増し計上あるいは架空計上したものではないと主張する。

しかし原告は、何らその主張の根拠となる証拠資料を提出しないし、乙取締役は、審査請求手続において、国税不服審判所に対し、原告が損金の額に算入した給与手当360万円は決算処理で計上したもので、根拠はない旨述べているところである〔甲3号証〕。そして、平成6年9月期の総勘定元帳の「給与手当」勘定、「雑給」勘定及び「賞与」勘定の支給対象者はいずれも原告の役員及び従業員であり、各関連会社の従業員は含まれないことからすれば、各関連会社への振替漏れが原因で上記の差額が生じたものと認めることもできない。

そうであるとすれば、原告は、給与手当として計上した上記360万円については、原告の給与手当ではなく、また、各関連会社としても支給の事実はないことを認識し、総勘定元帳においては記載していなかった「給与手当」について、何らの根拠・資料もないまま、決算処理の段階において損益計算書に架空の計上をしたものと認めるのが相当である。

そして、原告は、給与手当について、意図的に損益計算書において架空の計上をし、これに基づいて過少の申告をしているのであるから、このような原告の行為に係る事実が重加算税の賦課の対象となることは明らかというべきである。

(3)  小括

したがって、本件重加算税各賦課決定処分はいずれも適法というべきである。

4  手続的違法の有無について

(1)  更正の理由の差替えの可否について

ア 法人税法130条2項は、青色申告書に係る法人税の更正をする場合は、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨を規定しているところ、その趣旨は、青色申告法人に対しては、法定の帳簿書類の備付け、記録、保存が義務づけられており(同法126条1項)、これらの帳簿書類は、その備付け、記録、保存が適正に行われている限り、そこに記載された会計事実については真実であることについて高度の蓋然性を有するものといえ、課税要件を基礎づける会計事実を認定するための証拠資料として高度の信用性が認められることから、税務署長において、このような帳簿書類の調査等により課税標準の計算に誤りがあると認めて更正をしようとする(同法130条1項)ことについて、更正を慎重ならしめ、その公正さと妥当性を担保し、処分庁の恣意を抑制するとともに、青色申告法人の不服申立てについて便宜を図ろうとしたものであると解される。

他方、青色申告法人の提起する更正処分の取消訴訟における審理の対象も、一般の行政処分の取消訴訟と同様に、当該更正処分の違法性一般であると解されるところであって、これらのことを考慮すると、青色申告法人の提起する更正処分の取消訴訟において、被告税務署長が処分の適法性を主張立証するため更正の理由を差し替えることが許されるのは、それを認めることにより青色申告法人の正当な利益を保護しようとした上記理由附記制度の趣旨を損なわない範囲に限られるものと解するのが相当であり、かつ、その範囲にとどまるものである以上、これが許されないものとする根拠はないものというべきである。

イ これを本件についてみると、原告において、附記理由の差替えの違法を主張しているのは、原告が、平成5年9月期において、有限会社Bから本件営業譲渡により本件各株式を取得し、これを売却した事実経過に関する収益に係るものであるところ、この点について、被告が更正通知書に附記した更正の理由は、原告が保有していたI株の売却益についての計上漏れが存在するというものである〔甲1号証の1〕。これに対し、被告が本件訴訟において主張する内容は、原告が本件各株式を取得した際の時価よりも低い価額による譲受けによる利益(受贈益)と、原告が保有していたI株を売却したことによる利益(売却益)の計上漏れが存在するというものである(前記第5、1の【被告の主張】(2)ア、イ)。

そこで、両者を対比してみると、いずれも、基本的には、I株を含む各株式の取得から売却に至る過程において原告が得た収益の評価に関するものであって、評価の手法は異なるものの、その経済的取引に係る基礎的な課税要件事実は同一であるということができる。そして、原告は、本件I株を取得した事実はないから、その売却による利益は、原告ではなく、本件I株の前所有者である有限会社Bに帰属するとして争っているのであるが、原告は、本件営業譲渡後の平成5年4月2日のI株5000株の取得及び同月16日の合計1万株のI株の売却の事実についても、青色申告法人として備え付けておくべき法定の帳簿書類に一切記載していないのである。もとより、原告は、本件各株式の取得及び本件I株を含むI株の売却についての事実関係は、本件株式売買ノートに記載するなどして、これを知悉していたところである。

このようなことからすれば、本件訴訟において上記のような内容の更正の理由の差替えを認めたとしても、更正を慎重ならしめ、その公正さと妥当性を担保し、処分庁の恣意を抑制するとともに、青色申告法人の不服申立てについて便宜を図ろうとした更正の理由附記制度の趣旨を損なうことにはならないことは明らかである。

したがって、本件訴訟において、被告が、原告の平成5年9月期に係る法人税更正処分の適法性を主張立証するに当たり、本件各株式についての受贈益及び本件I株を含むI株についての売却益の計上除外の主張をすることは許されるというべきである。

(2)  更正の理由附記の不備の有無について

上記のとおり、法人税法130条2項が青色申告書に係る法人税の更正処分について理由附記を要求しているのは、更正を慎重ならしめ、その公正さと妥当性を担保し、処分庁の恣意を抑制するとともに、青色申告法人の不服申立てについて便宜を図ろうとしたものであるところ、原告が本件で理由附記の不備の違法があるとして問題としているのは、原告が株式取引を行っていた証券会社の支店が、正しくは「大森支店」であるのを「川崎支店」と誤記したとの点である。

しかし、当然のことながら、原告自身において、その株式取引は大森支店を通じて行っていたことを承知しているのであるから、上記のような支店名の誤記により、原告の不服申立てにおける主張立証活動に不当な不利益を与えることにならないことは明らかである。

したがって、原告の主張は、理由がない。

なお、原告は、裁決における「売上除外」の文言と更正処分における「売上計上もれ」との文言の違いも問題とするが、このような単なる言葉遣いの違いによって重加算税賦課処分の適法性が左右される関係にないことは明らかであるから、その主張自体、当を得ないものというべきである。

(3)  更正の期間制限徒過の有無について

ア 国税通則法70条1項柱書、同項1号は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨を規定している。他方、同条5項柱書、1号は、「偽りその他不正の行為により」その全部も若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨を規定している。

ところで、本件法人税各更正処分は、いずれも平成10年2月27日付けでされているから、原告の平成5年9月期及び平成6年9月期の法人税各更正処分は、法定申告期限から3年を経過した日以後にされていることになる。したがって、この2事業年度の法人税各更正処分については、国税通則法70条5項柱書に規定する要件が存在することが、その適法要件となる。

イ そこで、以下、これを本件について検討する。

まず、平成6年9月期の法人税の確定申告において、前記3(2)ア、エのとおり、原告は、不動産賃貸料収入及び企画料収入について、これらが自己に帰属するものであることを認識しながら、この益金を損益計算書に計上しないで除外し、かつ、原告は、給与手当についても、それが原告の給与手当ではなく、各関連会社としても支給の事実がないことを認識しつつ、意図的に損益計算書に給与手当として架空の経費を計上して、その法人税額の一部を免れたのであるから、これが国税通則法70条5項柱書に規定する「偽りその他不正の行為により」その一部の税額を免れたとの要件を充足するものであることは明らかである。

次に、平成5年9月期の法人税の確定申告においても、前記1(1)イのとおり、原告は、不動産賃貸料収入があったにもかかわらず、これを益金として損益計算書に計上しないで除外したものであるが、これに関する基礎的な事実関係は上記平成6年9月期におけるそれと同一であり、かつ、原告は、前記(1)イのとおり、I株の売却益について、それが自己に帰属するものであることを認識しながら、これを会計帳簿に記帳せず、益金から除外するなどして、その法人税額の一部を免れたのであるから、これが国税通則法70条5項柱書に規定する「偽りその他不正の行為により」その一部の税額を免れたとの要件を充足するものであることは明らかである。

ウ したがって、被告がした原告の平成5年9月期及び平成6年9月期に係る本件法人税各更正処分に、更正の期間制限を徒過した違法があるとは認められない。

5  平成6年9月期の法人税に係る過少申告加算税賦課決定処分の適法性について前記1のように、原告の平成6年9月期に係る法人税の更正処分は、所得金額4408万8436円を超える部分について取消しを免れないところ、これは、同事業年度における原告の所得金額の計算上、損金に算入すべき金額を122方5000円ほど過少に認定したことに基因するものである。

そして、被告は、原告の上記事業年度の法人税に係る過少申告加算税として126万8000円の額を賦課決定しているが、上記更正処分の取消しに伴い、この取消し部分に対応する過少申告加算税の金額部分はその基礎を失うから、当該部分については取消しを免れない。

第7  結論

以上のとおりであるから、原告の本件請求は、上記認定説示の範囲で理由があるからその限度でこれらを認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵里 裁判官 村上誠子)

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