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横浜地方裁判所 平成13年(ワ)1174号 判決 2001年11月27日

主文

1  原告と被告の別紙物件目録記載の各土地についての賃貸借契約に基づく賃料が平成12年5月10日以降月額金135万6000円であることを確認する。

2  その余の原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  原告と被告の別紙物件目録記載の各土地についての賃貸借契約に基づく賃料が平成12年5月10日以降月額金113万1000円であることを確認する。

(2)  訴訟費用は、被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は、被告から、昭和32年11月1日より別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という)を賃借していたが、原被告は、昭和52年12月12日、上記賃貸借を、堅固建物所有目的、期間を同年11月1日から50年間、賃料月額金47万5870円と変更した(以下、「本件賃貸借」という。)。

(2)  本件賃貸借の賃料は、昭和53年1月1日に月額金53万9929円、昭和54年4月1日に月額金55万1674円、昭和63年4月1日に月額金56万2730円、平成元年4月1日に月額金56万8065円、平成2年4月1日に月額金82万3565円、平成3年4月1日に月額金98万5530円に改定され、その後、別件の東京高裁の平成9年7月31日地代増額確認請求事件判決(以下「本件高裁判決」という。)により平成4年7月15日から月額金145万円、平成6年4月27日から月額金176万7000円に増額された。

(3)  原告は、被告に対し、平成12年5月10日、本件賃貸借の賃料を月額金113万1000円に減額する旨の意思表示をし、被告が減額請求に応じなかったため、原告は被告に対し調停を申し立てたが、不調となった。

(4)  原告が被告に対して行った前記(3)の賃料減額の意思表示は、本件土地について、1平方メートルあたりの固定資産税及び都市計画税の額が、平成6年度に6469円であったところ平成12年度には3983円と低下するなど、本件土地に対する租税その他の公課の減少、及び本件土地の価格の低下があったためであり、相当なものである。

(5)  よって、原告と被告の別紙物件目録記載の各土地についての賃貸借契約に基づく賃料が平成12年5月10日以降月額金113万1000円であることの確認を求める。

2  請求原因に対する認否

請求原因(1)ないし(3)の事実は認める。同(4)及び(5)は争う。現行賃料を認定した東京高裁平成9年7月1日の判決が採用する鑑定は、算定法として用いた利回り法、賃料事例比較法、スライド法、差額配分法によって試算して得た各賃料の中庸値176万7022円を、平成7年4月27日時点の適正賃料として評定しているところ、原告主張の減額事由は地価及び公租公課に限定されたものであり、賃料の減額を請求しており相当ではない。

理由

1  土地の賃貸借及び賃料減額の意思表示について

請求原因(1)ないし(3)の事実は当事者間に争いはない。

2  賃料減額事由について

ア  <証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

本件土地は、JR根岸線関内駅北西方約600メートル、市営地下鉄伊勢佐木長者町北方約400メートル、京浜急行線日ノ出町駅南方約400メートルに位置する、人の流れの多い商業地域であり、いずれも幅員約6メートルの市道に等高に接する間口約25メートルから33メートル、奥行約26メートルないし27メートルの画地である。

鑑定人甲野太郎による本件鑑定(以下「本件鑑定」という。)は、本件土地の賃料の鑑定評価を行うにあたり、利回り法による賃料、スライド法による賃料、差額配分法による賃料及び比準賃料を関連づけて、鑑定評価額を算出している。

すなわち、第一に利回り法による算出にあたっては、本件土地の更地価格を算定するに、取引事例比較法を適用して比準価格を試算して更地価格を求め、この更地価格に土地と建物の利用における制約及び底地割合を乗じて、基礎価格を決定し、本件高裁判決での平成6年4月27日時点の地代を最終合意賃料とした上で算出した継続賃料利回りによって、月額賃料を1平方メートルあたり月額金541円と算出した。

第二に比準賃料については、本件土地と同様な地域に存する継続賃料の賃貸事例により、それに地域格差、個別格差等の修正を加え、1平方メートルあたり月額金1066円とした。

第三にスライド法による賃料については、本件高裁判決での平成6年4月27日の賃料をもとに、一般の物価水準との対比から消費者物価指数による変動及び公租公課の変動を加味し、1平方メートルあたり月額金929円とした。

第四に差額配分法による賃料については、底地価格に対する期待利回り3パーセントと公租公課から正常賃料を算出し、実際支払賃料との差額部分について均等に配分した結果、1平方メートルあたり月額金959円とした。

その上で、以上の各試算賃料はそれぞれの方式による一長一短があることを考慮し、これらの中庸を得た賃料を中心として1平方メートルあたり月額金874円、本件土地全体につき月額金135万6000円と評価している。

イ  当裁判所も、本件鑑定は、その鑑定の資料及び手法等からして、鑑定の結果を相当と考える。

ウ  一方、被告は、この本件鑑定の手法に対して、<1> 差額配分法は配分の仕方について明確な基準がないとの批判があり、<2> 利回り法は、地価が乱高下しているときの基礎価格の決め方や期待利回りの設定に問題があり、<3> スライド法は、物価指数が落ち着いているときには現状にそぐわないことがあるという批判があり、<4> 賃貸事例比較法は、事例の収集選択の相当性、比較補正の正当性の検証が容易でないとの批判があると指摘した上で、本件鑑定には、これらの問題をそのまま含んだ鑑定を行っているとした上で、本件高裁判決の際の鑑定人甲野太郎の鑑定(以下「前回鑑定」という。)と本件鑑定との間において、土地の基礎価格の変動の程度をも考慮に入れていないで、同様の期待利回りを設定していること、本件鑑定においては賃貸事例など収集した事例が前回鑑定と比較して少ないこと、さらに各算定法を用いた試算賃料が現行賃料と比較して格差がそれぞれ大きいのに、その軽重を吟味することなく、単に平均値を採用しているので信用性がないと主張する。

しかしながら、そもそも、本件訴訟は、原告被告間における本件高裁判決によって定められた賃料の継続賃料を定めるべきものであるから、従前の賃料との継続性を考慮に入れる必要があること、従前の賃料は前回鑑定に基づいて定められたこと、前回鑑定と本件鑑定は同一の鑑定人によって行われており、本件鑑定人の選任も原告被告双方の合意の上で行われたこと、確かに被告が指摘するとおり前回鑑定と今回鑑定との間においては、参考となる事例数の差はあるものの、基本的には、同一の鑑定人によって、ほぼ同一の手法で鑑定されていること等からしてみると、本件鑑定の手法が妥当性を欠くとする被告の主張は、本件一件記録中にはこれを認めることはできない。

3  結論

以上の次第で、原告の請求は、本件土地についての賃貸借契約に基づく賃料が平成12年5月10日以降月額金135万6000円であることの確認を求める限度において正当であるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法64条本文、61条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙)物件目録<略>

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