横浜地方裁判所 平成13年(ワ)2590号 判決 2001年11月29日
原告 志田硝子建材株式会社
同代表者代表取締役 X1
原告 X1
上記両名訴訟代理人弁護士 木戸口久義
被告 中小企業金融公庫
同代表者総裁 堤富男
同代理人 野口卓
同訴訟代理人弁護士 上野隆司
同 髙山満
同 浅野謙一
同 石川剛
主文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告の原告らに対する横浜地方裁判所平成12年(ケ)第1632号事件の抵当権に基づく強制執行は許さない。
第2事案の概要
本件は、原告らが、民事再生法上の再生計画により、被告の請求債権が減額され、かつ期限付き債権に変更されたことにより、原告会社による債務不履行はなくなったとして、被告の抵当権に基づく競売実行の不許を求めて、請求異議の訴えを起こしたものである。
1 争いのない事実及び証拠により明らかな事実
(1) 被告は、原告会社に対し別紙1の請求債権をもち、原告X1は原告会社の債務について連帯して保証した。被告は原告会社に対する前記請求権を担保するため、別紙3記載の各物件につき別紙2記載の根抵当権(本件根抵当権)を設定した。被告の原告会社に対する前記請求権については、平成12年7月19日、民事再生の申立により期限の利益を失う旨の特約が付された(乙3、4)。
(2) 原告会社は、平成12年7月24日、横浜地方裁判所に民事再生手続開始の申立をなし、平成12年9月26日、開始決定がなされた(平成12年(再)第9号)。被告は、原告らに対する債権として、金115,349,637円を届け出た。
(3) 被告は、原告会社が民事再生手続開始の申立てをおこなった平成12年7月24日時点で、特約により、期限の利益は失われたとして、本件根抵当権にもとづき、横浜地方裁判所に対し不動産競売開始の申立てをなし、平成12年11月27日、不動産競売開始決定がなされた(横浜地裁平成12年(ケ)第1632号不動産競売事件、甲4)。
(4) 原告会社は、平成12年12月25日、再生計画案を提出し、右計画案は平成13年3月26日債権者集会において可決され、同日横浜地方裁判所は再生計画を認可した(甲1、甲2)。
2 争点
(1) 本件根抵当権の被担保債権について、期限が到来しているといえるか。
(原告らの主張)
本件再生計画は、別除権を含む弁済案になっており、別除権者から異議がだされていないので、本件においては、別除権を含む再生計画の認可による権利変更の効力を受ける。本件根抵当権の被担保債権は、本件民事再生計画が認可されたことにより、減額され、かつ期限付債権に変更された。原告会社には再生計画案に基づく債務についての債務不履行ないし履行遅滞はなく、被担保債権の期限は到来していない。
(被告の主張)
別除権は、再生計画認可による権利変更の効力は受けない。被告の再生計画における権利行使は、根抵当権の実行により不足額が確定し、予定不足額が確定不足額となった場合に、その不足額分について再生計画の影響を受けるにとどまる(民事再生法182条本文)。
よって、本件再生計画の認可にかかわらず、民事再生手続申立て時点で、特約により期限の利益は失われ、被担保債権の期限は到来する。
(2) 被告の本件根抵当権の行使が、権利濫用であるか。
(原告らの主張)
被告の本件競売申立は権利の濫用であり許されないものである。
その理由としては、①原告らは、ほぼ約定通りの期間に全額の弁済を確約していること、②本件各物件は、原告会社の事業の再建に欠くことのできない資産であること、③被告は政府系金融機関であり、今すぐに物件を競売して弁済を急ぐべき特段の事情もないこと、④もし本件各物件が競落されれば再生計画に重大な支障をきたし、この再生計画に賛成した大多数の債権者に対する弁済ができなくなるおそれがあることが、挙げられる。
(被告の主張)
原告らの主張は、根拠を有しないものであり、主張自体失当である。
まず、原告ら主張①の点であるが、本件においては原告会社と被告との間にいわゆる担保協議による合意は存在しない。過半数ぎりぎりで成立し、監督委員から再生計画の遂行の見込みについて根拠が不十分であるとの意見書が出されるような計画案を前提にして、再生債務者が弁済を一方的に確約宣言をしたからといって別除権者がそれに従わなければならない理由はない。
原告ら主張②の点であるが、本件各物件は売却予定であることを原告らは債権者集会で明言し、監督委員も「再生計画に対する意見書」の中で本件各物件が事業の再建に欠くことができない資産であるという主張に対し疑問を呈しているということから、本件各物件が、事業の再建に欠くことができないとは認められない。また、仮に本件各物件が事業の再建に欠くことができない資産だとしても、民事再生法上、別除権者は、民事再生手続外での権利行使を認められているのであるから、被告は法の予定することを行ったにすぎない。民事再生法は、担保権消滅制度(民事再生法148条以下)を規定しており、再生債務者は、これにより別除権者との調整をはかることが可能である。
原告ら主張③の点であるが、別除権者の権利行使について、いつ行使するかについて民事再生法は何らの制限も設けていない。また、政府系金融機関であることは、別除権行使を控える理由とはならず、むしろ、債権を確実に回収することを要請する。
原告ら主張④の点であるが、再生債権者の大多数が賛成したという事実はなく、現実は議決権額で半数を上回ったにすぎない。また、被告は民事再生手続申立当初から担保権を実行することを明言していたのであるから、本件物件が競売されることを前提とせずに計画案を立てて、被告に責任転嫁することは許されない。
第3争点に対する判断
1 争点(1)について
原告らによる民事再生手続の申立て時点で、特約により、請求債権の期限の利益は失われている(乙4)。民事再生法上、別除権は再生手続によらないで行使できるとされ(民事再生法53条2項)、再生計画に従って権利行使をしなければならないのは、別除権行使後確定不足額についてのみである。したがって、本件でも、再生計画の認可により請求権の額及び弁済期が変更されるものではない。
2 争点(2)について
まず、原告ら主張①の点であるが、現実に債務不履行がある以上、今後の弁済を約束していることは、被告の権利濫用を認める理由とはならない。この主張によると、今後の弁済を約束されてしまえば、担保権の行使はできないことになるが、これは不合理である。
次に、原告ら主張②の点であるが、本件物件が事業の再建に欠くことができないほど重要であったか否かに関わらず、被告は別除権行使の権利を有するのであり、担保権設定不動産の価値が高いという事情は、被告の権利濫用を認める理由とはならない。民事再生法は、担保物件が事業の再建に欠くことができない場合であっても別除権として担保権の実行ができることを前提とした上で、再生債務者と別除権者との利益の調整の手段として、担保権の実行としての競売手続の中止命令(民事再生法31条)や担保権消滅制度(民事再生法148条)等を規定していると解される。
そして、原告ら主張③の点であるが、被告が政府系金融機関であり、弁済を急ぐべき特段の事情がないということは、別除権者の権利行使について、被告の権利濫用を認める理由とはならない。被告は、確かに中小企業の育成・助成をその職責とするが、正当な手段で債権を回収することは、他の中小企業への新たな融資にもつながるわけであり、明文上許されている別除権の行使が権利濫用だとはいえない。
最後に、原告ら主張④の点であるが、別除権の行使により再生計画に重大な支障があるという事情は、被告の権利濫用を認める理由とはならない。民事再生法は別除権者に再生計画外での権利行使を認めた上で、再生債務者と別除権者との利益の調整の手段を規定しているのであるから、別除権の行使により再生計画に重大な支障がでるおそれがあるのならば、再生債務者は、前記各制度を用いることによってこれを回避すべきである。原告らの主張によると再生計画さえ承認されれば、別除権者は、権利行使できないことになりかねず、再生手続外の別除権行使を認めた法(53条2項)の趣旨に反する。
以上により、被告の本件根抵当権行使は権利濫用とは認められない。
3 したがって、原告らの請求は理由がないから、棄却する。
(裁判官 渡辺真理)
<以下省略>