大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成13年(ワ)3578号 判決 2003年8月28日

原告

A野太郎

法定代理人成年後見人

A野花子

他3名

原告ら訴訟代理人弁護士

田中誠

大塚達生

宇野峰雪

鵜飼良昭

野村和造

福田護

被告

B山松夫

他7名

被告

E田一夫

他2名

被告E田三名訴訟代理人弁護士

榎本ゆき乃

主文

一  被告らは、原告A野太郎に対し、連帯して二億五三五五万九七〇二円及びこれに対する平成一〇年三月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告A野花子に対し、連帯して五五〇万円及びこれに対する平成一〇年三月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告A野一江に対し、連帯して二七五万円及びこれに対する平成一〇年三月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、原告A野一郎に対し、連帯して二七五万円及びこれに対する平成一〇年三月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は、被告らに生じたものは当該各被告の、原告らに生じたものは全て被告らの連帯負担とする。

六  この判決は、金銭支払を命じた部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立て(請求の趣旨)

主文同旨

第二事案の概要及び争点

一  原告らは、平成一〇年三月一二日夜間、勤務を終えた原告A野太郎が、自宅最寄駅である相模鉄道いずみ野線緑園都市駅から肩書住所地記載自宅に向けて徒歩帰宅中、横浜市《番地省略》遊歩道上(緑園サンステージ二番館前路上)にさしかかった際、当時少年であった被告B山松夫、被告C川春夫、被告D原秋夫、被告E田一夫及び元相被告C山三夫(以下、この五名を「被告少年ら」という。暴行の実行行為者でない者も含む)から暴行を受けて重篤な傷害を負い、いわゆる植物人間となった結果、同原告及びその妻子が物質的精神的損害を負ったとして(「本件不法行為」)、被告少年ら及び当時親権者であったその余の被告ら(以下、この被告らを「被告親権者ら」という)に対し、不法行為(民法七〇九条、七一九条)に基づく損害賠償を求めた。

二  これに対する被告らの答弁の要旨は以下のとおりである。

(1)  被告B山三名  被告B山松夫による本件不法行為の発生並びに被告B山竹夫及び被告B山梅子の不法行為責任は否認する。原告ら及び被告らの身分関係及び損害の発生は認める。

(2)  元相被告C山二名(訴訟外での和解成立により平成一五年五月一六日訴え取下げ)

元相被告C山三夫の不法行為責任は認めるが、元相被告C山三子の不法行為責任は否認する。

(3)  被告C川二名  なんら答弁しないので請求原因を認めたものと見做す。

(4)  被告D原三名  争いがない。

(5)  被告E田三名  被告E田一夫は共同正犯ではないので、不法行為責任は否認する。仮に本件不法行為に関与していたとしても、実行行為者ではなく関与度は低いので、損害賠償責任は、関与度に応じた割合で認められるべきである。

被告E田二夫及び被告E田二子は、監督義務を尽くしているから、不法行為責任を負わない。

原告らの損害は否認する。

三  原告と被告C川二名及び被告D原三名との間では、請求原因事実に争いがない。

原告と被告B山三名及び被告E田三名との間の争点は、①同被告ら特に当時親権者であった被告らの法的責任の有無、②被告E田一夫につき関与度に応じて責任を減ずることの可否及び③原告らに生じた損害額(この点は、原告と被告B山三名との間では争いがない)である。

第三主張(被告らの認否は、前記のとおりである)

(請求原因)

一  原告らの身分関係

原告A野太郎は、昭和二五年四月二五日生まれの男性であって、昭和五〇年三月A田大学大学院を卒業後、株式会社B野に就職し、本件不法行為当時は満四七歳で、同社本社輸送システム部部長であった。

原告A野花子は、原告A野太郎の妻である。

原告A野一江は、昭和五八年一月一〇日生まれ、原告A野一郎は、昭和六一年七月二四日生まれで、原告A野太郎と原告A野花子間に出生した長女、長男である。

二  被告少年らの身分関係

(1) 被告B山松夫  昭和五七年三月一日生 本件不法行為当時満一六歳

(2) 被告C川春夫  昭和五七年三月七日生 本件不法行為当時満一六歳

(3) 被告D原秋夫  昭和五七年一月一一日生 本件不法行為当時満一六歳

(4) 被告E田一夫  昭和五七年二月二一日生 本件不法行為当時満一六歳

(5) C山三夫(元相被告)  昭和五六年一一月八日生 本件不法行為当時満一六歳

三  その余の被告らの身分関係

(1) 被告B山竹夫及び被告B山梅子は、本件不法行為当時、被告B山松夫の親権者父母であり、同被告に対する監督義務を負っていた。

(2) 被告C川夏夫は、本件不法行為当時、被告C川春夫の親権者父であり、同被告に対する監督義務を負っていた。

(3) 被告D原冬夫及び被告D原一子は、本件不法行為当時、被告D原秋夫の親権者父母であり、同被告に対する監督義務を負っていた。

(4) 被告E田二夫及び被告E田二子は、本件不法行為当時、被告E田一夫の親権者父母であり、同被告に対する監督義務を負っていた。

四  不法行為(「本件不法行為」)及び責任原因

(1) 被告少年らによる原告A野太郎に対する強盗行為

平成一〇年三月一二日夜間、勤務を終えた原告A野太郎が、自宅最寄駅である相模鉄道いずみ野線緑園都市駅から自宅に向けて徒歩帰宅中、横浜市泉区《番地省略》遊歩道上(緑園サンステージ二番館前路上)にさしかかった際、当時少年であった被告B山松夫、被告C川春夫、被告D原秋夫、被告E田一夫及び元相被告C山三夫が、金品強取目的で、共謀のうえ、棒状の凶器で原告A野太郎の頭部を殴るなどの暴行を加え、原告A野太郎の鞄を奪って逃走した。

(2) それによる原告A野太郎の致傷

ア 原告A野太郎は、この暴行によって、頭骸骨陥没骨折、脳挫傷等の傷害を負い、救急車で病院に搬送以来現在まで意識不明である。

そして、次のとおり入院をし、現在も入院中である。

① 平成一〇年三月一二日から同年四月一三日まで

横浜宮崎脳神経外科病院

② 平成一〇年四月一三日から同年一二月三日まで

日本大学板橋病院

③ 平成一〇年一二月三日から現在まで

日立製作所戸塚総合病院

イ 将来にわたって意識回復の見込みはなく、生涯植物人間状態にあるものと見込まれている。

(3) 被告らの不法行為責任

ア 被告少年らは、強盗致傷の共同正犯であって、共同不法行為者としての責任がある。

イ また、当時被告少年らの親権者であった被告親権者らは、被告少年ら間の不良交際及び非行を漫然放置し、本件不法行為を惹起させたのであるから、監督義務違反による不法行為責任がある。

五  損害(訴状、第一、第二各準備書面)

(1) 原告A野太郎 合計二億五三五五万九七〇二円

詳細は、別紙原告A野太郎損害一覧表のとおり

(後記弁済を充当後、合計金額は一部請求)

(2) 原告A野花子 五五〇万円

慰謝料 一〇〇〇万円 (後記弁済を充当後五〇〇万円)

弁護士費用 五〇万円

(3) 原告A野一江 二七五万円

慰謝料 五〇〇万円 (後記弁済を充当後二五〇万円)

弁護士費用 二五万円

(4) 原告A野一郎 二七五万円

慰謝料 五〇〇万円 (後記弁済を充当後二五〇万円)

弁護士費用 二五万円

なお、元相被告C山三子は、所有自宅を売却処分して、その代金で、平成一五年五月一六日、原告らに対し、次のとおり慰謝料を支払ったので、原告らは、その損害に充当した。

(1) 原告A野太郎につき 一三九〇万〇一七五円

(2) 原告A野花子につき 五〇〇万〇〇〇〇円

(3) 原告A野一江につき 二五〇万〇〇〇〇円

(4) 原告A野一郎につき 二五〇万〇〇〇〇円

理由

第一  被告C川二名は、請求原因事実を争うことを明らかにしないので、これを自白したものと見做す。

したがって、同被告らに対する請求は理由がある。

第二  被告D原三名との関係では、請求原因事実に争いがない。

したがって、同被告らに対する請求も理由がある。

第三  被告B山松夫、被告B山竹夫、被告B山梅子との関係での前記争いのない部分を除く請求原因事実につき、同被告らは、本人尋問の呼出しを受けたにもかかわらず出頭しなかったが、これには正当な理由はないと認められるから、民事訴訟法二〇八条の規定により、尋問事項に関する原告らの主張である請求原因事実を真実と認める。したがって、同被告らに対する請求も理由がある。

第四  被告E田三名について

一  原告らの身分関係(請求原因一)は、当事者間に争いがない。

二  被告少年らの身分関係(請求原因二)は、当事者間に争いがない。

三  被告E田二夫及び被告E田二子が、本件不法行為当時、被告E田一夫の親権者父母であったこと(請求原因三の一部)は、当事者間に争いがない。

四  本件不法行為及び責任原因

(1)  被告少年らによる原告A野太郎に対する強盗行為

《証拠省略》を総合すれば、被告E田一夫の具体的行為態様を除いて、原告主張の事実を認めることができる。なお、被告E田一夫の具体的行為態様及び法的責任については、以下(3)で判断する。

(2)  それによる原告A野太郎の致傷

《証拠省略》によれば、原告ら主張の原告A野太郎の傷害及び後遺障害の発生を認めることができ、前掲各証拠によれば、これは、前記認定の被告少年らによる原告A野太郎に対する強盗行為によるものと認めることができる。

(3)  被告E田三名の責任(争点①)

ア 被告E田一夫の責任

(ア) 《証拠省略》を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

① 被告E田一夫は、平成六年四月に中学校に入学したが、二年生のころに自動車窃盗で補導され、三年生になってから、バイクのナンバープレート窃盗で補導されたりしたことがあり、また、髪を染めたり、喫煙をしたりしたため、父親である被告E田二夫から、怒られたこともあった。

② 平成九年四月に高等学校に進学したが、同月、両親に隠れて取得していたバイクを運転した共同危険行為で補導され、少年鑑別所に身柄を拘束された後、二〇歳までの保護観察処分に処せられたものの、行かなければならない保護司宅には半年しか行かず、遵守事項も守らなかった。

③ 同年六月ころから、鳶職として働いていたが、仕事に行く通勤手段が欲しいと考えて友人が窃取してきたバイクを運転して、直ぐ補導され、その後は、主に父の塗装業の手伝いをしていた。

④ 同年七月ころには、先輩の誘いで、暴走族に入り、両親には見つからないようにバイクを隠しておき、夜中も、両親が寝静まってから裏口からこっそり外出し、夜明け前に帰宅するなどして、暴走族の集会に参加していた。

⑤ 同年一二月には、休学状態であった高等学校を中退した。

⑥ 被告E田一夫は非行が悪いことであるとの認識を殆ど持つこともなくなってきており、暴走族に入ったころからは、他人を殴ることを当たり前のように思うようになった。

⑦ 平成一〇年三月一二日(本件不法行為当日)、被告E田一夫は、非行仲間のたまり場である元相被告C山三夫の自宅に他の被告少年らとともにいたが、そこにやって来た暴走族の先輩から、生活費がないから現金を集めるようにと指示を受けた。

⑧ そのため、元相被告C山三夫及び被告C川春夫が、他の被告少年らに強盗をしに行こうと提案をしたが、被告E田一夫は、全て元相被告C山三夫のせいにしてしまおう、自己が捕まらないのならば協力しようと考え、他の被告少年らの一人を乗せて、原付バイクを運転して本件不法行為現場に赴いた。

⑨ 本件不法行為現場で、兇器を探そうという話が出た際、被告E田一夫は、自己の責任が明確化することを恐れ、自分で探そうとはしなかった。

⑩ しかし、被告E田一夫は、本件不法行為現場を通りかかった原告A野太郎を襲おうという謀議に加わり、実行行為には加わらなかったが、付近に置いてあった原付バイクの近くに戻り、他の被告少年らを乗せて逃げるためにエンジンをかけて待っていたところ、被告E田一夫の希望に反して他の被告少年らが兇器を使ったことを認識したにもかかわらず、その場を立ち去ることをせずに、他の被告少年らが戻ってくるのを待ち続け、被告D原秋夫を乗せて、現場から逃走した。

⑪ その後、被告E田一夫は、家庭裁判所で、少年院送致の審判を受け、平成一二年三月まで、少年院で矯正教育を受けた。

⑫ 平成一三年八月二六日に、被告E田二夫及び被告E田二子が転居する形で被告E田一夫は、一人暮らしを始めた。

⑬ 被告E田一夫の本人尋問時(平成一四年一一月二五日)、同被告は、自己が現実に居住する住所を正確に供述することができず、安定した生活を送っているとは認められなかった。

⑭ また、被告E田一夫は、本人尋問直前の平成一四年九月九日、暴走族同士の抗争事件で敵対する暴走族のメンバーを兇器を使用して暴行監禁し、平成一五年四月に兇器準備集合罪等の容疑で逮捕されている。

(イ) このように、被告E田一夫の、暴力的性格傾向は、本件不法行為時においても強度であったと判断するしかないし、本件不法行為における同被告の行為は、少なくとも幇助行為には該当する。

したがって、被告E田一夫は、共同不法行為者として、本件不法行為につき損害賠償責任を負わなければならない。

(ウ) なお、同被告が主張する関与度の問題(争点②)は、せいぜい、不法行為者内部での求償関係を判断する際に考慮すべき事情であり、被害者である原告らとの関係では主張自体失当である。

イ 被告E田一夫の父母である被告E田二夫、被告E田二子の責任

(ア) 前記認定のように、被告E田一夫は、平成九年四月高等学校進学直後に二〇歳に達するまでの保護観察処分に処せられたが、行かなければならない保護司宅には半年しか行かず、遵守事項も守らなかった。

(イ) この状態を被告E田一夫の父母である被告E田二夫及び被告E田二子が真摯に改善しようとした事実は何も窺えない。

(ウ) この点だけとってみても、被告E田二夫及び被告E田二子は、被告E田一夫の監督義務を尽くしていたとはいえない。そして、被告E田二夫及び被告E田二子は、前記保護観察が効果を上げるべく、この監督義務を尽くしていたら、本件不法行為が発生しなかった蓋然性が高いと認められるから、被告E田二夫及び被告E田二子は、本件不法行為の発生に関し、不法行為責任を負うべきである。

五  損害

《証拠省略》によれば、原告ら主張の各損害の発生を認めることができる。

第五  (結論)

よって、原告らの請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田清)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例