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横浜地方裁判所 平成13年(行ウ)10号 判決 2003年2月05日

原告

被告

平塚市長 吉野稜威雄

同訴訟代理人弁護士

石井幹夫

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

(証拠により直接認められる事実を認定する場合には、原則として、認定事実を先に記載し、当該証拠を後に略記する。一度説示した事実は、原則としてその旨を断らない。認定に用いた書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。)

1  判断の順序

本件においては、原告が公開請求をしている本件請求文書がそもそもどのような文書を意味するかについての双方の見解にも微妙な違いがうかがわれるので、まず、本件請求文書がどのような文書かについて検討し、その後、各争点について判断する。

2  本件請求文書の範囲・内容について

(1)  本件公開条例上の「公文書」の意義

本件公開条例(〔証拠略〕)2条2項は、同条例に基づいて公開を求めることができる「公文書」(以下、単に「公文書」ということがある。)とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書及び図画であって、実施機関において定めている決裁、供覧その他これらに準ずる手続が終了し、文書管理に関する定めに基づいて当該実施機関が管理しているものをいうと規定している。

(2)  公開請求文書の内容の捉え方

本件公開条例8条2号は、公文書の公開の請求方法として、「公文書の公開の請求に係る公文書の内容」を請求書に記載して実施機関に提出するものとし、同条例9条1項は、前記請求書を受理した実施機関は、受理した日から15日以内に公開又は非公開の決定をしなければならないとしている。このように、公開請求の方式が書面によるもので、請求後短期間に公開するか否かの決定をすべきものとされていることからすれば、請求者が公開を求める公文書は、原則として請求書に記載された内容から判断すべきである。

なお、同条例8条柱書のただし書は、一般に公表することを目的として実施機関が作成した公刊物その他実施機関が定める公文書の場合は、その公開を求める際に公文書公開請求の方式による必要はない旨規定している。

(3)  本件請求文書の内容

ア  本件設計文書の内容

前記第2の2(2)のとおり、本件設計文書についての本件公開請求における申請書の「公開の請求に係る公文書の内容又は件名」欄には、「下水上一般廃棄物最終処分場の図面一式及び設計書。」と記載されており、この記載からすれば、本件設計文書とは、本件処分場を設置する工事のために作成された図面・設計図書等の文書であると解される。

原告は、本件擁壁文書も本件設計文書に含まれるとの主張をしていると思われる面もあるが、本件擁壁文書は、後記4(1)エのとおり、本件処分場の操業停止後、本件処分場の敷地を地権者に明け渡すにあたり、平塚市が、同敷地の北側に擁壁を設置する工事を行うための契約書・設計図書等であり、本件処分場を設置するための工事に関する文書ではないから、本件設計文書には含まれないと解するべきである。

イ  本件統計文書の内容

前記第2の2(2)のとおり、本件統計文書についての本件公開請求における「公開の請求に係る公文書の内容又は件名」欄には、「下水上一般廃棄物最終処分場の年度別埋立て量。」と記載されており、この記載からすれば、本件統計文書とは、本件処分場の各年度の埋立量が複数年分まとめて記載されている文書又は各年分の埋立量を記載した文書複数をまとめた複合文書であると解される。

なお、「行政概要」には、本件処分場の各年度における月ごとの埋立量(昭和49年度から昭和59年度分。〔証拠略〕)ないし年度別の数年分の埋立量(平成9年度から平成12年度。〔証拠略〕)が記載されているところ、「行政概要」は「一般に公表することを目的として実施機関が作成した公刊物」に該当するので、前記(2)後段のとおり、公文書公開請求の方式により閲覧すべき公文書の範囲からは除外される。

3  本件処分(統計文書)取消請求に係る訴えの利益の有無(争点1)について

(1)  被告の主張

被告は、「行政概要」に本件統計文書の内容が記載され、原告がそれを入手しているから、本件統計文書の公開請求却下処分の取消請求に係る訴えの利益がない旨を主張する。

(2)  公開請求の制度の趣旨と訴えの利益の有無

本件公開条例における「公文書の公開」とは、実施機関が本件公開条例に定めるところにより公文書を閲覧に供し、又は公文書の写しを交付することをいい(2条3項)、同条例5条各号のいずれかに該当する者であれば誰でも、実施機関に対して公文書公開請求をすることができるとされている(5条)。そして、同条例には、請求に係る公文書の内容を知り、その写しを取得したり、請求に係る公文書と同じ内容、情報が記載された他の文書を閲覧し、その写しを取得している場合に当該公文書の公開を制限する趣旨の規定はない。

以上からすれば、本件公開条例5条の各号に該当する公開請求権者は、公開を求める公文書に記載されている内容を知っているかどうか、当該公文書自体の写しを入手しているか否かにかかわらず、同条例に基づき公文書公開請求をし、所定の手続により請求文書につき閲覧・写しの交付を受けることを求める法律上の利益を有するというべきであり、非公開決定処分の取消訴訟において請求された公文書が書証として提出された場合でも同非公開決定処分の取消しを求める訴えの利益は消滅するものではないと解するのが相当である(最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号467頁参照)。

(3)  「行政概要」を入手している本件の場合の訴えの利益の有無

本件においては、原告は本件統計文書そのものを閲覧したり、その写しを入手したわけではなく、そこに記載されている情報と同じ情報が記載された文書である「行政概要」を閲覧し、その写しを入手していたにすぎない。そして、前記(2)のとおり、当該公文書自体の写しを入手している場合でも訴えの利益が消滅しないのであるから、「行政概要」を入手しているだけの場合は、なおさら訴えの利益は消滅するものではないと解するべきである。

したがって、本件処分(統計文書)の取消しを求める訴えの利益は消滅しておらず、この点に関する被告の主張は採用することができない。

4  本件請求文書の存否(争点2)について

(1)  本件請求文書の記載事項に関する事実関係(本件処分場の建築等の状況)

ア  本件処分場

本件処分場は、平塚市土屋字上三笠及び下水上の土地約80筆の上に設置された平塚市の設置・管理していた一般廃棄物最終処分場であり、他のごみ焼却場等で焼却後の一般廃棄物の残灰及び不燃物を搬入して廃棄して(埋め立てて)、これに覆土をしていく施設であった。本件処分場は、昭和47年に設置され、廃棄物で処分場空間が一杯になった昭和59年まで稼働していた。本件処分場の敷地は、その一部は以前から平塚市の所有であったが、多くの部分は従来は私有地であったところ、平塚市は、昭和47年2月に3万7381平方メートルを賃借し、その後うち数筆を買い取った。(〔証拠略〕)

イ  本件水処理施設

本件処分場の廃棄物(埋立残灰)及び覆土の上から降った雨は浸み出してくるが、その浸出水を処理するために、当初は浄化槽が設けられていたが、それが老化していたため、昭和58年に浸出水処理施設(以下「本件水処理施設」という。)が本件処分場の敷地のすぐ隣(平塚市土屋字上三笠2086―1番地)に設置された。本件処分場自体はアのとおり昭和59年に廃棄スペースが廃棄物及び覆土で満杯となって稼働を終了したが、本件処分場から出る浸出水を処理するための本件水処理施設は、現在も稼働している。本件水処理施設の処理能力は、1日あたり100立方メートルで、処理方式は酸性凝集沈殿方式である。本件水処理施設の施工・設計はオルガノ株式会社が行った。本件水処理施設の浸出水処理量は現在でも平塚市環境部環境管理課(以下「環境管理課」という。)で測定され、その情報を記載した文書は公文書として管理されている。(〔証拠略〕)

ウ  本件処分場の敷地のその後の状況

本件処分場の敷地は、本件処分場がアのとおり昭和59年に操業を停止した後、その大部分が社団法人神奈川県トラック協会に買い取られた。そして、前記トラック協会は、残りの敷地についても賃借して、本件処分場の敷地全体を「平塚総合運動場」とし、多目的グラウンド、テニスコート、クラブハウス、広場、駐車場等を設置して現在に至っている。(〔証拠略〕)

エ  本件擁壁の設置工事

平塚市は、本件処分場の敷地を地権者に明け渡すにあたり、昭和60年から昭和61年にかけて、同敷地の北側(一部は三笠川に面している。)に擁壁(以下「本件擁壁」という。)を設置する工事を行った。その工事に関する契約書・設計図書等が本件擁壁文書(〔証拠略〕)である。(〔証拠略〕)

オ  遠藤原処分場

本件処分場の操業停止後は、平塚市の一般廃棄物の最終処分は、遠藤原一般廃棄物処分場(以下「遠藤原処分場」という。)で行われるようになり、同処分場は現在も稼働し、浸出水処理施設も設置されている。平塚市における一般廃棄物最終処分場は、昭和59年までは本件処分場の1か所のみであり、同年以降は遠藤原処分場の1か所のみである。(〔証拠略〕)

カ  遠藤原処分場に関する資料の保管

環境管理課は、遠藤原処分場の埋立量を把握し、その量を記載した文書を保管している。遠藤原処分場の設計図等は、工事契約書と共に一連のものとして、文書保存室に保管されており、環境管理課でも控えを保管している。(証人A)

(2)  平塚市における公文書の管理

ア  保存期間

平塚市では、公文書の保存・管理は、平塚市文書取扱規程(以下「取扱規程」という。)に従って行われ、公文書の保管期間は、文書の内容により、永年、10年、5年、3年、1年、用済後直ちに廃棄、に分かれている。本件設計文書は、仮に作成されていたとすれば、永年保管となると考えられる。(〔証拠略〕)

イ  保存場所

公文書の保管場所は、作成されてから2年間は当該作成部署であり、文書分類表兼ファイル基準表(取扱規程の改正前は「ファイル基準表」)に記載される。2年を過ぎると文書主管課の管理に引き継がれ、同課が管理する市庁地下の文書保存室に保管され、文書引継票兼保存文書台帳(以下「保存台帳」という。取扱規程の改正前は「引継書」)に記載される。(〔証拠略〕)

ウ  廃棄の方法

公文書の廃棄は、各部署に保管されているものは各主管課の長の決裁を得て、文書保存室に保管されているものは文書主管課長の決裁を得た後、各主管課の長に通知して行われる。文書を廃棄したときは、保存台帳(取扱規程改正前はファイル基準表又は保存台帳)に廃棄年月日を記入しなければならない。(〔証拠略〕)

(3)  環境管理課の本件請求文書に関する対応

ア  埋立量簡易表の交付

原告は、焼却炉や廃棄物処理施設の水処理施設の設計をしていたことから、本件処分場の水処理の実態について興味を持つようになり、本件処分場に関する資料につき閲覧・写しの交付を希望するようになった。(原告本人)

原告は、平成2年以降、環境管理課を訪れて、本件処分場の埋立量を知りたいと述べたところ、環境管理課の職員は、昭和47年度から平成元年度までの本件処分場の埋立量を記載した表の写し(埋立量簡易表)を原告に交付した(原告が平塚市から交付を受けたことは争いがない。)。

イ  平成8年における図面の交付

原告は、平成8年ころ、環境管理課を訪れて、Aに、本件処分場に関する図面・設計書を見せてほしいと述べた。環境管理課は、一般廃棄物の処理の計画を立てたり、不法投棄の対処・処理をする課であるところ、Aは、文書保存室に行って調べ、本件処分場の平面図1枚(以下「本件平面図」という。)を見つけ、原告に見せた。原告がこれは違うと述べたので、Aは、他には文書はなかったと原告に伝えて、本件平面図を元のところに戻した。(〔証拠略〕)

ウ  平成10年における対応

原告は、平成10年ころ、環境管理課を訪れ、平成9年4月から平成11年6月まで環境部長の職にあったBと面会し、本件処分場に関する図面を見せてほしいと述べた。Bは、Aに該当する図面を探させたが、発見することができず、原告に対し、図面は探したが、なかったと述べた。原告は、上記の2回以外にも数度、環境管理課を訪れて、本件文書に関する図面・設計書を見せてほしいと述べたが、Aは、その都度、該当する文書はないと述べた。(〔証拠略〕)

エ  本件公開請求を受けた際のCの対応

原告は、平成12年11月6日、本件公開請求をしたので、Cは、同月13日、文書保存室で同室に備え付けの保存台帳の文書目録を確認した。Cは、保存台帳には、本件設計文書と関係のありそうな記載を見つけることはできなかったが、本件擁壁文書が保管されているのを発見した。次に、Cは、環境管理課の部屋の中に保管されている書類の中で探したが、本件設計文書はなかった。(〔証拠略〕)

また、Cは、本訴提起後に、被告訴訟代理人の石井幹夫弁護士から、「行政概要」作成の基となった本件処分場の年度別埋立量について記載されている文書を提出してほしいとの依頼を受け、平成14年6月11日、文書保存室で、昭和46年度から昭和58年度までの保存文書を調査したが、該当する文書はなかった。(〔証拠略〕)

オ  原告のファックスの受領

原告は、平成14年1月7日、「環境事業センター」の職員Dから本件処分場の昭和49年度以降の残灰量を記載したファックスを受領した(〔証拠略〕)。

(4)  本件設計文書の存否に関する判断

ア  本件設計文書の不存在を示す事情

前記(3)のとおり、本件公開請求を受けた平成12年当時のCの調査の結果、本件設計文書は保存台帳に記載がなく、その存在を確認することができず、平成8年及び平成10年に原告から本件設計文書の閲覧請求を受けた際のAの調査の結果においても本件平面図1枚(内容は不明)を除き同様である。

イ  原告の指摘事項からの検討(その1)

(ア) 原告は、本件処分場は、昭和47から昭和59年までの間に約20万トンもの廃棄物を埋め立てた巨大な施設であり、本件水処理施設は現在でも稼働しているし、擁壁部分の工事についても図面等が作成されていることなどから、本件設計文書は存在するはずであると主張する。

(イ) 確かに、本件処分場には、昭和47年から昭和59年まで残灰量約15万トン以上が埋め立てられており(〔証拠略〕)、このような施設を施工するためには一定の工事が必要である。そして、現在、一般廃棄物最終処分場は、原告指摘のとおり、その処理方法・施設の設備・管理につき、例えば透水層を粘土等の層と遮水シートを組み合わせた二重シートとする等の厳しい基準を充足することが課せられている(廃棄物の処理及び清掃に関する法律9条の3第1、3、5項、8条の2第1項1号、一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令〔以下「技術基準命令」という。〕1条。〔証拠略〕)。

しかし、技術基準命令は昭和52年に初めて制定されたもので、それ以降に環境に関する世間の関心の高まりと共に改正を繰り返しながらその基準は厳しいものとなって現在に至っているもので、本件処分場が設置された昭和47年には同命令による規制はなかった。環境影響を度外視して極論すれば、一般廃棄物処分場に最小限度で必要なものは残灰と覆土を廃棄するスペースであり、その見地からすると、環境問題についての認識が甘かった昭和47年ころにおいては、本件異議決定(〔証拠略〕)における理由に記載されているとおり、本件処分場の施設は、市が直営で周辺の樹木を伐採する程度の簡易な造成工事を行っただけのもので、その設計図書等の書類は、公文書としては存在していなかったとしてもあながち不自然であるとはいえない。本件水処理施設や遠藤原処分場は、昭和58年から59年ころに設置され、当時の技術基準命令が適用されたために、一定の設備を具備することが要求され、その設計図が保管されているところ、昭和47年に設置された本件処分場に関する本件設計文書の存否の状況が異なっていたとしても決して不自然ではないともいえる。

(ウ) 原告は、本件処分場が現行の技術基準命令の要求するような基準をどの程度満たしているかといった点に深い関心を抱いて、本件設計文書の公開を請求するに至ったわけであるが、上記の意味においては、原告の危惧するとおり、本件処分場は、環境の保全という観点からは不十分な点があるかもしれないが、当時の世間の環境に対する関心の未成熟さ・法令の整備・廃棄物処理の技術等の点からすれば、本件設計文書が存在しないことはやむを得ないことである。

ウ  原告の指摘事項からの検討(その2)

(ア) 原告は、次のとおり主張する。

平成8年ころに本件設計文書の閲覧を請求したとき、Aは平面図1枚の存在を確認しているし、被告は、従来存在しないと述べてきた本件擁壁文書を本件訴訟において提出していることから、環境管理課の職員の本件設計文書の有無についての態度・証言は変遷しており、その供述は虚偽であって信用できない。

(イ) しかし、前記(3)イ及びウのとおり、A及びBは、平成8年及び平成10年ころに原告から本件処分場に関する図面・設計書の閲覧を要望された際に、文書保存室を調べ、平成8年に本件平面図1枚があったのみで、平成10年には本件平面図もなく、他の文書もなかったため、その旨原告に伝えている。

原告は、AやBが本件設計文書について存在するかもしれない、探したいので時間がほしい等と述べたことを根拠に、本件設計文書は存在するはずであると主張するが、AもBも本件設計文書の存在を肯定したことはなく、Aは原告から閲覧を求められ文書を探す前に、存在の可能性はあると述べたにとどまるのであって(〔証拠略〕)、AやBの供述が変遷しているとはいえないし、これらの者の言動が本件設計文書の存在を根拠づけるものとは到底いえない。

(ウ) 本件平面図が公文書として保管されていたものか否か、本件設計文書に含まれるか否か並びに平成8年当時存在していた本件平面図が平成10年及び平成12年にはその存在を確認できなかった理由については不明である。そして、本件平面図が公文書であるとすれば、前記(2)のとおり、取扱規程の保管期間の間は保管し、各関係者の決裁を経た上で保存台帳に破棄年月日等を記載して破棄するという手続を踏まなければならないところ、保存台帳にこのような記録がないから、その管理についてはずさんな面があったのかもしれない。

しかし、仮に本件平面図が公文書に該当し、本件設計文書に含まれるものであったとしても、平成8年当時存在したのは本件平面図だけであるから、このことを根拠に平成12年の本件公開請求時において、本件平面図以外の本件設計文書が存在したと結論づけることはできない。しかも、本件平面図については、これが公文書であって本件設計文書に含まれるものであったと認めるに足りる証拠はないし、上記の説示に照らし、本件平面図が平成12年の本件公開請求時に存在したと認めることもできない。

(エ) なお、前記2(3)ア及び4(1)エのとおり、本件擁壁文書は本件設計文書には該当しないので、本件擁壁文書があることをもって本件設計文書が存在することの根拠とすることはできない。

エ  まとめ

以上からすれば、本件設計文書が本件公開請求時点において存在していたと認めることはできない。

(5)  本件統計文書の存否に関する判断

ア  本件統計文書の不存在を示す事情

前記(3)エのとおり、本件公開請求を受けた平成12年にCが調査した結果、本件統計文書は保存台帳に記載がなく、その存在を確認することができず、本件訴訟提起後の平成14年6月の調査時においても同様である。そして、平成7年から平成11年まで環境管理課に勤務していたAも本件統計文書を見たことはないと述べている(証人A)。

イ  原告の指摘事項からの検討(その1)

(ア) 原告は、年度別の埋立量を把握することなく埋立を実施するようなことは通常あり得ないとして、本件統計文書の存在を主張する。

(イ) 確かに、本件処分場は埋立式の一般廃棄物最終処分場であり、中間処分場で残灰となった廃棄物を搬入して埋め立てていくものであるから、一般廃棄物処分に関する計画策定及び一定期間ごとの残灰の搬入量・埋立量等を把握することは不可欠であるといえる。

そして、本件処分場を含む平塚市内のごみ処理状況に関する情報を記載した文書としては「行政概要」の該当部分があり、同文書には、前記2(3)イのとおり、当該発行年度の月別あるいは当該年度を含む過去数年分の年度別の埋立量についての記載がある。

(ウ) しかし、「行政概要」は、前記2(3)イのとおり公文書公開請求の方式により閲覧すべき公文書ではないので、本件統計文書には該当しない。しかも、「行政概要」があれば、埋立量の把握という前記の目的は達成することができるので、埋立量の把握が不可欠との見地だけで、「行政概要」以外で本件処分場の年度別埋立量が記載された文書が存在するはずであるということはできない。

ウ  原告の指摘事項からの検討(その2)

(ア) 原告は、平成8年ころAから本件処分場の年度別埋立量が記載された埋立量簡易表を渡され、平成14年にDから昭和49年度以降の残灰量の記載のあるファックスを受領したことを根拠に、本件統計文書が存在する旨を主張する。

(イ) しかし、Dからのファックス送信文書は、その体裁からDの手書きによる私的なメモと推認され、公文書であるとは考えにくい。

(ウ) また、埋立量簡易表は何かの文書の一部を抜き取ってコピーしたもののよう思われるが、基の文書が公文書かそうでないかは分からない。

この点に関し、被告は、埋立量簡易表は「行政概要」のコピーであると主張するが、昭和49年度から昭和59年度、平成12年度及び平成13年度の「行政概要」の一部の写し(〔証拠略〕)とは明らかに体裁が異なっていることから、埋立量簡易表は、「行政概要」のコピーであると認めることはできない。したがって、埋立量簡易表はどのような経緯で作成され保存されていたかどうか、それ自体が公文書であるか否か等は不明である。

(エ) ただ、平塚市内においては、本来、公文書は前記(2)の手続に従って保存されることとなっているところ、本件統計文書について保存台帳に記載がなく、前記(3)エのとおり、平成12年と平成14年にCが調査した際に、「行政概要」とは別に、本件処分場の年度別埋立量を記載した公文書を発見することができなかったことからすれば、平塚市においては、本件処分場の埋立量に関する情報は、公文書としては「行政概要」の形式でしか保存せず、「行政概要」以外に公文書として保管する運用はしていないとも考えられる。なお、異議決定(〔証拠略〕)において「年度別埋立量を記載した文書は当初から存在しない。現在ある資料としては、「行政概要」のごみ処理状況表となる。」旨が記載されているところ、これも同趣旨と思われる。したがって、埋立量簡易表及びDからのファックスのいずれも「行政概要」から埋立量に関する数値を転記したという可能性もある。

(オ) いずれにせよ憶測の域を出るものではなく真相は不明であるが、埋立量簡易表及びDからのファックスを根拠として、平成12年の本件公開請求当時、「行政概要」以外の公文書で、本件処分場の年度別埋立量を記載した文書(本件統計文書)が存在し保管されていたとまで認めることはできない。

エ  原告の指摘事項からの検討(その3)

原告は、「行政概要」が存在する以上、その基となったデータを記載した文書があるはずであると主張するようである。

しかし、「行政概要」の基となる年度別埋立量を記載した公文書が存在するとの事実は認められない。そうすると、「行政概要」がどのようにして作成されたかが問題となるが、「行政概要」は、各年度の埋立量を記載したメモのような文書を基礎に作成することもできると考えられ、しかも、「行政概要」ができれば、基となったメモは廃棄されることもあるので、原告の上記の主張のように当然にいうことはできない。この点に関して、被告から明確な説明がないが、そのことは結論を左右するような事情とまではいえない。

オ  まとめ

以上からすれば、本件統計文書が存在していたと認めることはできない。

5  結論

そうすると、本件請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 村上誠子)

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