横浜地方裁判所 平成13年(行ウ)15号 判決 2004年6月30日
原告
X
訴訟代理人弁護士
池田眞規
被告
湯河原町
代表者町長
米岡幸男
訴訟代理人弁護士
鎌田哲成
同
廣井公夫
主文
1 被告が湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業の施行者として平成6年12月27日付けで原告に対してした換地処分のうち、清算金を定める部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを2分し、それぞれを各自の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告が湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業の施行者として平成6年12月27日付けで原告に対してした換地処分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要
本件は、湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業の施行者である被告において、施行地区内の原告が所有する宅地について、換地を定めるとともに清算金として合計221万4216円を徴収する旨の換地処分をしたところ、原告が、従前の宅地は幅員4メートルの道路に17メートルにわたり接していた土地であったのに対し、換地は長さ9メートルもの進入通路部分により接道するという「しゃもじ状」の土地であって、照応の原則に違反すること、原告と被告との間には清算金を徴収しない旨の合意があったこと及び清算金の算定過程に違法があることを理由として、上記換地処分の取消しを求めている事案である。
第3 基礎となる事実
(以下の事実は、当事者間に争いのない事実であるか、末尾に記載した証拠により容易に認められる事実である。)
1 当事者等
被告は、土地区画整理法(以下「法」という。)3条3項の規定に基づく、湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者である。
原告は、本件事業の施行地区内に所在する別紙物件目録記載1(1)及び(2)の各土地(以下、同目録記載1(1)の土地を「本件従前地1」、同目録記載1(2)の土地を「本件従前地2」といい、合わせて「本件従前地」という。)を所有していた者である。なお、別紙図面1において、本件従前地は赤線で囲まれた部分の土地である。
2 本件事業の概要
(1) 本件事業の施行地区は、神奈川県足柄下郡湯河原町の中心にある東海道本線湯河原駅の北東に位置し、北及び西は東海道本線に、東は2級河川新崎川に、南は県道湯河原箱根仙石原線にそれぞれ挟まれた平坦地であり、主として水田として耕作されていた地域であった。〔証拠略〕
(2) 被告は、昭和37年に同地区の中央に湯河原中学校が建設されたことなどから、同地区において部分的な造成によるスプロール化の傾向があったため、健全な市街地を造成することを目的として、土地区画整理事業としての本件事業を計画した。
そして、被告は、昭和46年10月1日、本件事業の施行規程として、「湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業施行条例」(以下「本件施行条例」という。)を制定した。
また、被告は、本件事業の換地設計について「湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業換地設計基準」(以下「本件換地設計基準」という。)を、本件事業における土地評価の方法について「湯河原都市計画事業湯河原中央土地区画整理事業土地評価基準」(以下「本件土地評価基準」という。)を定め、これらの基準に従って、本件事業における換地設計や土地評価を行った。〔証拠略〕
(3) 被告は、昭和46年12月24日、本件事業の事業計画において定める設計の概要について神奈川県知事の認可を受け、翌25日、事業計画を決定してこれを公告し、昭和48年12月から昭和60年6月にかけて仮換地の指定を行い、さらに、平成6年12月26日には換地計画について県知事の認可を受け、平成7年2月までに各宅地について換地処分を行った。〔証拠略〕
(4) 本件事業は、施行地区の面積が合計418,685.52平方メートル、対象となる宅地の筆数が1,609筆、減歩率が合計26.64%(公共用地として14.43%、保留地として12.21%。)との内容であった。〔証拠略〕
3 本件換地処分
(1) 原告は、昭和38年2月5日、本件従前地1を購入し、これと隣接する本件従前地2を同日に購入したBとの共有名義により、昭和39年ころ、この2筆の土地上に、共同住宅として賃貸に供する目的で、別紙物件目録記載1(3)の建物(以下「本件建物」という。)を建てた。本件建物は、別紙図面1の青色で表示した部分に位置し、本件換地処分後も、従前と同一の位置において存在している(同目録記載2(3))。
その後、原告は、昭和47年8月3日、相続により、上記B1(Bの氏が、離婚によりB1に変わった。)の有していた本件従前地2の所有権及び本件建物の共有持分権を取得し、本件従前地及び本件建物の所有権を単独で有するに至った。〔証拠略〕
(2) 被告は、平成6年12月27日付けで、原告に対し、本件従前地1について、換地を別紙物件目録記載2(1)の土地(以下「本件換地1」という。)と定め、徴収すべき清算金の額を110万9855円とし、また、本件従前地2について、換地を同目録記載2(2)の土地(以下、「本件換地2」といい、本件換地1と合わせて「本件換地」という。)と定め、徴収すべき清算金の額を110万4361円とする旨の換地処分(以下「本件換地処分」という。)をし、その旨を通知した。〔証拠略〕
なお、別紙図面2において、本件換地は赤線で囲まれた部分の土地であり、本件建物は青色で表示した部分に位置する。
4 本件換地処分に対する不服申立ての経緯
(1) 原告は、本件換地処分を不服として、平成7年2月24日付けで、神奈川県知事に対し、審査請求をした。これに対し、神奈川県知事は、平成11年1月5日付けで、審査請求を棄却する旨の裁決をした。〔証拠略〕
(2) さらに、原告は、同年2月4日付けで、建設大臣に対し、本件換地処分についての再審査請求をしたが、建設大臣は、平成12年12月7日付けで、再審査請求を棄却する旨の裁決をした。〔証拠略〕
(3) そこで、原告は、平成13年3月6日、本件換地処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
第4 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点
本件の主たる争点は、
<1> 本件換地処分における本件換地の指定が照応の原則に違反するかどうか、
<2> 原告と被告との間に清算金を徴収しない旨の合意が存在し、被告がこれに違反したかどうか、
<3> 本件換地処分中の清算金の算定過程、特に、本件従前地の評価において前面道路の影響を考慮する際の道路の幅及び間口の長さの算定方法に違法があるかどうか、
の3点である。
2 争点<1>(照応原則違反の有無)について
<被告の主張>
(1) 換地は、原則として従前の宅地の原位置に近い位置に指定されることが望ましい上、本件従前地には、原告が所有する鉄筋コンクリート造りの堅固な2階建ての共同住宅が存在し、これを移転することが困難であり、また移転することが適当でないと認められる状況にあったことから、被告は、本件従前地のほぼ原位置に本件換地を指定した。
そして、被告は、堅固な本件建物の存在を前提とした上で、各換地をそれぞれ道路に接するように配置した結果、本件換地はしゃもじ状の形状となり、地積も約20.2%増加することとなったが、いずれも本件換地設計基準に準拠し、これに適合した措置の結果であって、照応の原則に違反するものではない。
(2) 本件従前地は、道路に直接接していたものではなく、北東側に水路があり、その水路を挟んで、幅員約2.5メートルの町道吉浜312号線(以下「本件旧道」という。)が存在していたにすぎない。また、本件従前地は、東西に傾斜のある土地の途中に所在し、土地を掘削して一部を平坦な敷地とし、東例の基礎を高くすることによって本件建物が建てられていたものであり、本件旧道よりも地盤面が高い位置にあったため、自動車が駐車できる状況にはなかった。そして、本件旧道にも同様に傾斜があり、未舖装であった。
これに対し、本件換地は、一団の土地として、東側において、幅員約12メートルの都市計画道路(以下「本件新道」という。)に間口4メートルで接している。本件換地の進入通路部分には階段が設けられているが、これは本件建物の敷地部分から出ているものであり、進入通路のその余の部分は、本件新道とほぼ同じ高さの平坦な土地で、ここには自動車や自転車の駐車が可能である。なお、階段の取り付けは、原告と被告との協議により行われたものである。
さらに、本件事業の施行により、道路、公園、下水道等の公共施設が整備・改善され、それに伴い、周囲の環境が著しく良好となっているのであって、利用状況の点においても、照応の原則に反しているとはいえない。
(3) なお、本件換地のように、本件新道との接面のためにしゃもじ状ないし旗竿状等の不整形となった土地は、本件換地と同一街区内においても存在するほか、本件事業の施行地区内に多数存在するところであって、いわゆる横の関係においても、照応の原則に反するものではない。
<原告の主張>
(1) 本件のように、存在する建物が堅固な建物であるため移動が困難ということから、従前の建物の敷地に照応した換地を割り当てる場合、その換地は、従前の宅地の土地環境に照応し、基本形は矩形が原則、また、同時に従前の宅地の接道状況に照応することも原則である。
(2) 本件従前地は、自家用乗用車が自由に通り抜けて通行し、駐車もできる幅員4メートルの本件旧道に、約17メートルの間口で接しており、土地の利用効率は極めて良好であった。本件建物を建築した当時から、本件従前地と本件旧道との間には水路はなく、被告が水路と指摘する部分は、既に事実上廃止されて道路として造成されていた。
これに対し、被告は、道路に接面しない袋地上の換地を割り付けた上、建築基準法上の合法性を確保するために必要最小限度の進入通路、すなわち幅員4メートル、長さ9メートルの通路を継ぎ足した結果、本件換地は、進入通路がしゃもじの柄に該当する極めて異常な形状となった。しかも、この進入通路は、急斜面で、階段が設置されており、自動車や自転車が本件建物の玄関前に進入することはできない。このような進入通路を経由しなければならないという本件換地の形状は、利用価値から見ても、生活の利便性から見ても、本件従前地に比べ、極めて劣悪となった。なお、原告が階段の取り付けに同意した事実はない。
本件従前地と本件換地とを比較したとき、法89条1項が定める位置や利用状況が照応していないことは明らかである。
(3) また、被告は、原告に対する換地を袋地状の画地とする必然性は全くなかったにもかかわらず、周辺の地権者の利益を優先的に配慮して換地を割り付け、その結果、本件換地が袋地上の形状とされることとなったのであり、不公正な換地設計というべきである。
3 争点<2>(清算金の徴収に係る合意違反の有無)について
<原告の主張>
被告の担当者は、本件従前地に対する換地設計に対して不服を有していた原告を説得するために、原告に対し、原告については清算金が生じない旨を確約していた。しかしながら、被告は、この合意に反して、巨額の清算金を徴収する旨の本件換地処分をしたものであって、このような本件換地処分は違法というべきである。
<被告の主張>
原告の主張は、否認し争う。
4 争点<3>(清算金の算定過程の違法の有無)について
<被告の主張>
(1) 本件事業における徴収又は交付すべき清算金額は、本件施行条例20条の規定により、従前の宅地の評価額の総額に対する換地の評価額の総額の比を従前の宅地又はその宅地に存する権利の評価額に乗じた額と、当該宅地に対する換地又は当該権利について定められた権利の評価額との差額とするものとされた。
そして、具体的には、本件土地評価基準に基づき、原則として路線価式評価法を採用し、各宅地の評価を指数として換算した上で、得られた指数に指数単価を乗じることでその価額を算定した。
(2) 本件従前地の評価額の算定過程は、以下のとおりである。
従前の宅地の評価は、本件土地評価基準8条に基づいて、その地積に路線価指数を乗じて得られた基本指数に、加減算指数による修正を加えることにより、算定するものとされている。
ア 本件従前地の基本指数(本件土地評価基準8条1項)
基本指数は、区域図から図上求積した地積165.41平方メートルに路線価指数475個を乗じた、78,570個である。
イ 加減算指数(同条3項)
(ア) 正面加算指数
正面加算指数は、「間口長」に、接面する道路幅等による係数「加算幅」を乗じて計算上の加算面積を算定し、これに路線価指数である加算価指数を乗じることによって算出される。
a まず、加算価指数は、本件従前地が面していた本件旧道の路線価指数である413個である。
b 次に、本件従前地の接面道路である本件旧道の道路幅は2.5メートルであるが、これと本件従前地との間の水路が事実上道路状態をなしていたため、その幅約50センチメートルを加え、3メートル程度の道路幅と評価した。そして、加算幅は、本件土地評価基準別表第2に基づき、道路幅員が3.03メートル、路線価指数が400~500の場合に当たる係数1.51となる。
なお、本件旧道は幅員が2.5メートルの町道として認定されており、また、実際上も自動車がやっと通れる程度の幅にすぎず、その他関係証拠からも、原告が主張するように4メートルの幅員があったとは認められない。
c また、間口長については、前記の図上求積地積165.41平方メートルの土地が奥行15メートルである場合を想定し、11メートルとした。
間口の長さについては、標準画地(路線に直角に接し、その平均利用価値が最高とみなされる矩形地)の場合には問題がないが、不整形地については、間口の長さを算定する基準を設定する必要がある。この点について、本件土地評価基準は、別表第2において、画地の奥行きについては15メートルを基準とすることとし、不整形地の図上求積地積を基準奥行15メートルで除した数字を間口の長さとしている。本件従前地の間口長の値についても、これに従って算定した結果である。
なお、本件事業においては、本件従前地以外の不整形な従前の宅地の間口長の値も、上記と同様に奥行きの長さの基準値を15メートルとして算出している(ただし、実際の奥行きが15メートルを超える場合には、この基準値を用いると間口長の値が大きくなりすぎるので、実際の間口の長さを用いている。)。
d 本件従前地の正面加算指数は、上記aないしcの各数値によって算出される6,860個である。
(イ) 家屋のある画地の加算指数
家屋のある画地の加算指数は、「建築面積」に「修正率」を乗じて計算上の加算面積を算定し、これに路線価指数である加算価指数を乗じることによって算出される。
本件従前地の建築面積(現況重ね図による図上求積)は97.64平方メートル、修正率は0.05であり、これと加算価指数の413個を用いて算出される本件従前地の加算指数は、2,015個である。
ウ 本件従前地の平方メートル当たりの指数
本件従前地の平方メートル当たりの指数は、上記ア及びイの指数の合計値87,445個を本件従前地の地積である165.41平方メートルで除した、529個である。
エ 本件従前地の価額
(ア) 比例率
本件事業における、従前の宅地の評価額の総額に対する換地の総額の比(以下「比例率」という。)は、1.0613545202である。
(イ) 本件従前地の基準地積
本件事業においては、登記地積と実測地積との差を解消するため、従前の宅地の総登記地積に対する総実測地積の割合を算出し、この比率(按分率)(1.03900870)を従前の宅地の登記地積に乗じた数値を、清算金算定の基礎となる地積(基準地積)としている。
これにより、本件従前地1及び2の基準地積は、それぞれ、89.30平方メートル及び82.42平方メートルと算出される。
(ウ) 本件従前地の価額
本件従前地1及び2の価額は、それぞれ、上記(イ)の各基準地積に上記ウの数値を乗じ、さらに、上記(ア)の比例率及び指数単価67円を乗じて、335万5427円及び309万6874円と算出される。
(3) 本件換地の評価額の算定過程は、以下のとおりである。
換地の評価は、本件土地評価基準9条に基づいて、同基準10条以下の規定により、「画地ごとに平方メートル当り指数及び総指数を算出する」ものとされ、換地の指数は、同基準10条において分類された画地の種別ごとに規定された計算方法に従って、算出するものとされている。
ア 奥行逓減割合
本件換地は本件土地評価基準10条(5)の袋地に該当するところ、袋地の指数は、通路が接する路線価指数に地積を乗じて得た数値に、地積を通路の幅員で除したものの2分の1に当たる「計算奥行」について定められた「奥行逓減割合」を乗じ、これを地積で除して平方メートル当たりの指数を算出し、これに地積を乗じるものとされている(同15条)。
本件換地1及び2の奥行逓減割合は、本件土地評価基準別表第1により、それぞれ、0.865及び0.881となる。
イ 修正係数
本件換地は袋地であるから、その修正係数0.95が乗ぜられる、(同17条(4))。
ウ 本件換地の指数
本件換地1の指数は、路線価指数756個に地積107.32平方メートルを乗じて得た数値に、上記の奥行逓減割合及び修正係数を乗じ、66,672個と算出される。また、本件換地2の指数は、地積99.06平方メートルを用いて、同様の計算により62,679個と算出される。
エ 本件換地の平方メートル当たりの指数
本件換地1及び2の平方メートル当たりの指数は、上記ウの各指数をそれぞれの地積で除した621個及び633個と算出される。
オ 本件換地の価額
本件換地1及び2の価額は、それぞれ、上記エの数値に地積を乗じて総指数を算出し、これに指数単価67円を乗じて、446万5282円及び420万1235円と算出される。
(4) 本件従前地1に対する換地は本件換地1であり、その差額である110万9855円が徴収すべき清算金の額となる。また、本件従前地2に対する換地は本件換地2であり、その差額である110万4361円が徴収すべき清算金の額となる。
したがって、その合計221万4216円が、原告から徴収すべき清算金の額である。
<原告の主張>
(1) 被告は、本件換地が袋地となり、本件建物が建築基準法上の不適格建物となるような換地設計をしたことから、本件換地に幅員4メートル、長さ9メートルにも及ぶ進入通路を付け足さざるを得なくなった。このように、被告が自らの誤った換地設計を修正するために付け足した進入通路について、その価額を原告が清算金として負担する理由は、全くないというべきである。
(2) 本件従前地は、幅員4メートルの道路に17メートルにわたって接面していたのであるが、被告は、これと異なる事実を前提に清算金を算定しており、本件従前地の価額の評価に用いられた加減算指数等の指数は誤ったものである。
また、被告がした本件従前地の評価は、本件旧道と本件従前地との間に水路が存在することを前提としたものであったところ、被告は、本件従前地が道路に接面していたことを認めるに至った。そうすると、本件従前地の評価は原告の有利に修正されるべきである。
(3) このほか、被告がした清算金の算定過程は、不知である。
第5 当裁判所の判断
(末尾に証拠を掲げた事実は、当該証拠によって認められる事実である。)
1 争点<1>(照応原則違反の有無)について
(1) 照応の原則について
法89条1項は、換地計画において換地を定める場合には、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況及び環境等が照応するように定めなければならないとして、いわゆる照応の原則を規定している。
土地区画整理においては、施行者が、一定の施行地区において、多数の権利者の多様な利益状況を勘案した上で、土地の区画形質の変更を行い、また、公共施設の新設、変更を行う(法2条1項)という性質上、従前の宅地と換地とをすべての個別的要素において照応させ、また、すべての換地を他と同様の条件において定めるということは、換地設計上の技術的制約等から極めて困難であることにかんがみ、法89条1項は、所定の諸要素を総合的に勘案して、従前の宅地とおおむね同様の条件をもって換地が定められ、かつ、すべての換地がおおむね公平に定められるべきことを規定したものと解される。そして、法は、上記のような換地設計上の技術的制約等に基因する避けがたい不均衡を是正、調整するための制度として、別途、清算金の制度を設けている(法94条)ところである。
このようなことを考慮すると、その換地が法89条1項が示す諸要素等を総合的に考慮してもなお、従前の宅地と比較して社会通念上照応しないと認められる場合や、合理的な理由がないのに他の権利者と比較して著しく不利益な条件の換地が定められた場合においてはじめて、当該換地処分は、照応の原則に反する違法なものと判断すべきであると解するのが相当である。
(2) 本件換地処分に係る事実関係
そこで、上記のような観点から、本件換地処分に係る事実関係をみると、前記第3の基礎となる事実のほか、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件換地設計基準の定め
本件換地設計基準は、換地計算の方法として、従前の宅地の価額を評価して、区画整理後の土地の総評価額に比例分配した換地を算出する、評価式換地計算法を採用している(第2条)。
そして、本件換地設計基準は、換地の位置については、原則として、原位置付近において従前の宅地の位置に照応するように定めることとし(第4条1項)、さらに、従前の宅地に堅固な建築物及び工作物等があってこれを移転することが困難であり、又は適当でないと認められる場合には原位置に換地することとしている(同条3項)。また、換地の形状については、矩形を標準とし、従前の宅地の形状を考慮して定めることとしているが(第5条本文)、街区の形状又は他の画地との関連等において特別の考慮を必要とするものについてはこの限りではないとし(同条ただし書き)、さらに、地積について、原位置換地等のため必要がある場合は建築物等の状況に応じて換地面積を定めることができることとしている(第9条2項)。
イ 本件従前地について
(ア) 本件従前地は、別紙図面1のとおり、2筆合わせて、一棟の本件建物の敷地として利用されていたもので、北東側の一辺において、約17メートルの間口で本件旧道に面しており、その他の辺においては他の所有者の宅地と接していた。
(イ) 本件従前地が面していた本件旧道の幅員は、約2.5メートルであった。また、本件従前地と本件旧道との間には、もともと被告が管理する水路(以下「本件水路」という。)が存在したが、その幅は広くても50センチメートル程度であった(なお、本件旧道の幅員及び本件水路の存否等については、後記3(3)イにおいて詳述する。)。
本件旧道は、本件従前地付近において傾斜があり、西側が高く、東側が低くなっていた。また、本件従前地の西方には、湯河原町役場前を走る幅員の広い直線道路が存在していたところ、本件従前地付近から上記道路に出るためには、上り勾配で曲線状の本件旧道を経る必要があった。
(ウ) 原告は、昭和39年にBと共同して本件建物を建築し、以後、本件建物を8室を有する共同住宅(アパート)として使用した。原告は、熱海市に居住しており、本件建物には毎月の賃借料の集金に訪れていた。
本件建物は、鉄筋コンクリート造りの2階建て建物であり、本件旧道に向かって開いたL字方の形状で、その中央部分の本件旧道に面した位置に玄関があった。本件建物の敷地の地盤面は、本件水路ないし本件旧道よりも高い位置にあり、その境界の部分には石積みがされていた。また、本件従前地には自動車を駐車するスペースはなかった。
(エ) なお、本件従前地付近においては、本件事業が施行されるまで、下水道は整備されておらず、本件建物では浄化槽方式により汚水の処理をしていた。
ウ 被告による本件従前地に係る換地設計の経緯について
(ア) 被告は、本件建物が堅固な鉄筋コンクリート造りであり、移転することが著しく困難であったことから、本件従前地について、本件建物が存続できるように原位置換地とすることとし、さらに、原位置換地を前提として、本件建物を換地の敷地内に収め、かつ、換地を新たに築造する本件新道に接面させるためには、換地の地積を本件従前地よりも増加させる必要があったことから、いわゆる増換地の方法を採ることとした。
(イ) 被告は、上記の方針に基づき、本件従前地に対して本件換地を換地として定める旨の換地設計をし、これを昭和48年2月及び同年9月に縦覧に供し、昭和49年ころには原告に対する仮換地指定をした。
エ 本件換地について
(ア) 本件換地は、別紙図面2のとおり、2筆合わせて、一棟の本件建物の敷地として利用に供される関係にある。そして、本件換地は、本件従前地のほぼ原位置にあって、概して、本件従前地の東南側に本件新道からの進入通路部分が加えられた形状となっており、その結果、全体として、「しゃもじ」状ともいうべき形状の画地となっている。本件旧道は、本件事業の施行により廃止され、本件換地は、本件従前地が本件旧道に面していた北東側においては、他の所有者の換地に接している。
(イ) 本件換地は、幅4メートル、長さ約9メートルの進入通路部分によって、幅員12メートルの本件新道に接している。本件新道は、片道1車線の、両側端に歩道が設けられた直線道路で、本件換地付近においてはほぼ平坦であるが、その北側において若干の上り勾配がある。
また、本件換地の周辺には、本件新道のほか、幅員が5メートルないし8メートルの舗装道路が敷設され、そのほとんどが直線道路である。
(ウ) 原告は、現在も、本件建物を共同住宅として賃貸に供している。
本件換地の進入通路部分は平坦で、本件新道と同じ高さにあるが、進入通路部分から本件建物の玄関に至るには、幅約2.5メートルで6段からなる階段を経る必要がある。この進入通路部分には自動車を駐車することが可能であり、現在、本件建物の賃借人が自家用車を駐車している。
本件建物の玄関前の本件換地の北東側の土地は、現在駐車場として利用されており、本件換地との境界において盛土がされ、本件換地よりも一段高くなっている。
本件建物に係る日照については、本件事業の施行前後で特段の変化はない。
(エ) なお、本件事業の施行後、本件換地の周辺には下水道が整備された。
(オ) 本件換地の本件従前地の基準地積と比較した増歩率は、約20.2パーセントである。
オ 本件事業におけるその他の換地について
本件事業においては、建物が道路から離れた位置にあるために進入通路状部分を介して道路と接しているしゃもじ状ないし旗竿状の換地が、本件換地を含め35件存在し、本件換地と同一街区においてもそのような例が存在する。
(3) 本件従前地と本件換地との照応
上記の事実関係によれば、本件従前地は約17メートルの間口で本件旧道に面し、本件建物の玄関から直ちに道路に出ることができたのに対し、本件換地においては、幅4メートル、長さ約9メートルの進入通路部分によって本件新道と接し、道路から本件建物の玄関に至るにはこの進入通路部分及び階段を経なければならなくなったのであるから、この点においては、土地の位置ないし利用状況、形状等の悪化が認められるところである。
しかし、本件建物は堅固な建築物であって、移転することが著しく困難であったことから、原位置に換地を定める必要があったところ、これを前提として換地を本件新道に接面させるためには、上記のような進入通路部分を設けることもやむを得ないことであったといえる。したがって、本件換地の形状がしゃもじ状になったことは、やむを得なかったことというべきであるし、このように堅固な建築物がある場合には、原位置において矩形ではない形状の増歩の換地を定めることは、前記(2)アのとおり、本件換地設計基準自体が予定しているところである。そして、このような換地設計基準自体が不合理であるということもできない。
また、本件従前地は、本件旧道に面していたとはいえ、本件従前地付近は東西方向に傾斜があって、西側が高く東側が低いため、本件建物の敷地の地盤面と本件旧道との間に高さの差があったのであり、間口のすべてが必ずしも有効に活用されていたわけではなかった一方、本件換地の進入通路部分や階段についても、その長さ・幅や高さからすれば、その存在が日常生活を送る上において著しい支障をもたらしているとまではいえない(現に、本件建物の居住者から建物への出入りについての苦情が述べられたことはない(〔原告供述〕。)ことからすれば、前記のような利用状況等の悪化の程度が著しいものとまでは認められないところである。そして、このほか、本件換地について、本件従前地と比較して、位置、地積、土質、水利、環境等の条件において特に不利となったとみるべき事由は見いだせないし、原告が本件建物を賃貸することに支障が生じるようになったものとも認められない。
他方で、本件従前地が面していた本件旧道は、本件水路を含めても約3メートル程度の幅員にすぎず、しかも、本件従前地から比較的広い道路に出るためには、上り勾配で曲線状の本件旧道を経なければならなかったのに対し、本件換地が接する本件新道は、幅員12メートルのほぼ平坦な直線道路で、本件施行地区内の幹線道路として位置付けられた道路であり、その周辺にも幅員5メートルないし8メートルの舗装道路が設けられたのである。また、本件従前地においては、十分なスペースがなかったことや本件旧道との高低差のために、敷地内に車両が乗り入れることは不可能であったのに対し、本件換地においては、その進入通路部分が本件新道と同じ高さにあって、これに車両が乗り入れたり駐車をすることが可能となったところであって、これらの点については、条件が改善されたものと認められるのである。
これらの諸点を総合的に考慮すれば、上記認定のような利用状況等の条件の悪化の点を十分に考慮しても、本件換地は、本件従前地と比較して社会通念上照応しないものであると認めることはできないというべきである。
(4) 他の権利者との比較
本件換地の形状がしゃもじ状のものとなったことがやむを得ないものであり、本件換地設計基準が予定するところでもあることは上記(3)のとおりであるが、さらに、本件事業においては、本件換地の他にも、換地設計上の技術的制約等から、本件換地同様のしゃもじ状ないし旗竿状の換地が相当数存在するところであって(前記(2)オ)、他に、本件換地が、他の権利者の場合と比較して、合理的な理由がないのに著しく不利益な条件で定められたものと認めるに足りる証拠はない。
(5) 小括
そうであるとすると、本件換地処分における換地の指定が、法89条1項が規定する照応の原則に反する違法なものとすることはできないというべきである。
2 争点<2>(清算金の徴収に係る合意違反の有無)について
(1) 〔証拠略〕によれば、本件事業を担当していた被告の職員であるCと原告との間で、本件従前地に対する換地設計の段階から、複数回にわたり、その換地設計の内容についての説明又は話合いが行われ、原告は換地の形状等に不満を述べていたが、昭和48年9月の第2回換地設計縦覧のころまでには、原位置換地を前提に増換地の方法により本件換地のような形状で換地を定めることについて、原告も一応納得するに至ったことが認められる。
(2) この点について、原告は、換地設計を受け入れたのは、Cとの間で原告から清算金を徴収しない旨の合意ができたからである旨を供述する。
しかし、上記(1)の事実関係を前提としても、換地設計の段階において、しかも増換地を前提としながら、将来的に清算金の徴収をしない旨の合意ができたとまで推認することはできないし、また、Cがそのような約束はしていない旨を証言し、その他にも原告主張の合意の成立に係る客観的な証拠が何ら存在しないことからすれば、Cと原告との間において清算金を徴収しない旨の合意が成立したと認めることはできない。
(3) そうであるとすると、Cと原告との間での清算金を徴収しない旨の合意の違反を理由として本件換地処分の取消しを求める原告の主張は、その主張のような合意の存在を認めることができない以上、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。
3 争点<3>(清算金の算定過程の違法の有無)について
(1) 本件事業及び本件換地処分における清算金の算定方法
ア 本件施行条例20条は、換地清算に関して徴収又は交付すべき清算金額は、従前の宅地の評価額の総額に対する換地の評価額の総額の比(比例率)を従前の宅地又はその宅地に存する権利の評価額に乗じた額と、当該宅地に対する換地又は当該権利について定められた権利の評価額との差額とする旨を規定している。
さらに、被告は、本件土地評価基準において従前の宅地及び換地の具体的な評価方法を定め、これに基づいて従前の宅地及び換地を評価し、徴収又は交付すべき清算金額を算出した。〔証拠略〕
イ 本件土地評価基準は、画地の評価は原則として路線価式評価法によるものとし(第3条)、路線価については、整理後の路線価の最大値を指数1000個として、比較換算した指数(以下「路線価指数」という。)により表示するものとしている(第7条)。
そして、本件土地評価基準は、従前の宅地の評価(第8条)及び換地の評価(第9条以下)のそれぞれについて、画地の状況に応じた指数の加減算要件を定め、これに従って画地を指数によって評価することとした上で、画地の評定価額は画地の総指数に指数の単価を乗じて得た価額とし(第19条)、指数の単価については、公示評価額、相続税及び固定資産税標準価額を参酌し、評価員の意見を聞いて定めるものとしている(第20条)。〔証拠略〕
ウ 被告は、本件従前地について、区域図から図上求積して得られた地積に路線価指数を乗じた基本指数に、旧道に接していることを理由とする正面加算指数(本件土地評価基準第8条3項(1))及び家屋のある画地の加算指数(同項(4))を加算して、その総指数を算出し、これを上記図上求積地積で除して平方メートル当たりの指数を算出した上で、登記地積と実測地積との差を補正するため、本件従前地の登記地積に従前の宅地の総登記地積に対する総実測地積の比を乗じることによって基準地積を算出し、この基準地積に上記平方メートル当たりの指数を乗じて評定指数を算出し、さらに比例率及び指数単価を乗じて、本件従前地1の価額を335万5427円、本件従前地2の価額を309万6874円と評価した。
また、被告は、本件換地について、地積に路線価指数を乗じた指数に、袋地であることを理由とする単独奥行逓減割合(同第15条1項)及び袋地修正係数(同第17条(4))を乗じ、その指数に基づき平方メートル当たりの指数及び総指数を算出し、これに指数単価を乗じて、本件換地1の価額を446万5282円、本件換地2の価額を420万1235円と評価した。〔証拠略〕
(2) 本件換地の進入通路部分に係る清算金の徴収の可否について
原告は、そもそも、本件換地の進入通路部分の価額に相当する金額を原告から清算金として徴収することは許されない旨の主張をする(第4、4<原告の主張>(1))。
しかし、本件換地のうち進入通路に当たる部分についても、それ自体が客観的交換価値を有するものであり、これも本件従前地に対する換地として指定される以上、清算金の算定に当たって、その形状等を価額の評価に合理的に反映させるべきであるとしても、当該部分を含めて本件換地の価額が評価されることは当然のことというべきである。
したがって、本件換地の進入通路部分の価額に相当する価額も含めて清算金の額を算定し、徴収すべき金額が算出されれば、これを原告から徴収することに何ら違法はない。
(3) 本件従前地の評価における正面加算指数の算定過程の適否について
ア 正面加算指数の算定過程
本件土地評価基準第8条3項は、従前の宅地が旧道に接している場合には、同項が定める加算要領により加算指数を基本指数に加算することとし、そのうち、正面加算指数として「加算価指数×間口長×加算幅」との計算式を定めている(同項(1))。さらに、同別表第2は、この加算幅について、接面道路を「私道的で幅員等不規則不整備のもの」と「幅員的に整備されたもの(規格道路)」とに分けた上で、それぞれ、路線価指数及び道路の幅員に応じた係数の形式で規定している。〔証拠略〕
この本件従前地の正面加算指数について、被告は、加算価指数として本件旧道の路線価指数である413個、間口長として11メートル、加算幅として、道路が「私道的で幅員等不規則不整備のもの」であって路線価指数が401個から500個、道路の幅員が2.91メートルを超え3.03メートル以下の場合に該当する1.51との係数を、それぞれ使用して計算した。〔証拠略〕
イ 加算幅について
(ア) まず、原告は、被告が主張するような本件旧道と本件従前地との間の水路は存在しなかったと主張する。
しかし、公図やその他の地図において、本件旧道に沿って、本件従前地側に帯状の無番地の土地が記載されていること〔証拠略〕や、昭和50年ころに撮影された本件従前地付近の写真において、本件建物を含む建物から出た配水管が、本件旧道の西端(本件従前地側)に沿って地中に埋め込まれている状況が認められる〔証拠略〕など、この写真に撮られた本件従前地付近の本件旧道の状況からすると、もともと存在した本件水路部分が舗装されて地中に塩化ビニール管が埋設された旨の被告の説明は合理的なものと肯けることからすれば、本件旧道と本件従前地との間には本件水路があったものと認めることができる。もっとも、本件水路部分は遅くとも昭和50年ころまでには舖装され、本件水路を流れていた生活排水等は本件水路部分の舗装の下に埋設された塩化ビニール管を通して流下し、本件従前地の南側隣接地である1671番11の土地の東側を南北に走る水路に流入する状況となり、舖装された水路部分は、事実上、本件旧道と一体として道路として使用されていたものであり、被告も、これを前提に、本件水路の幅を約50センチメートルとし、本件旧道の幅員2.5メートルに加えた上で、なおその幅員が3.03メートル以下であるから前記加算幅の数値が算出されると主張するものであるから、結局、本件水路部分を含めた道路の幅員いかんが問題なのであって、本件水路の存否ないしその推移自体は、本件換地処分における清算金の算定の適否の判断に影響するものではない。
(イ) 次に、本件旧道の幅員について見ると、本件旧道は幅員2.5メートルの町道として認定されており(道路法3条4号、8条1項)〔証拠略〕、その他これに反する客観的な証拠もないことからすれば、本件従前地の接する本件旧道の幅員は約2.5メートルであったと認めるのが相当である。また、本件水路の幅員については、公図やその他の地図〔証拠略〕において記載された幅を本件旧道のそれと比較すると、50センチメートルを超えるものではないと認めることができる。
そうすると、本件旧道及び本件水路の幅員は、これを合わせても約3メートルを超えるものとは認められないから、被告が、正面加算指数の算定に当たり、本件従前地の接する旧道の幅員が2.91メートルを超え3.03メートル以下であることを基礎として加算幅の係数を採用したことは、相当として是認されるものというべきである。
原告は、本件従前地の接する本件旧道の幅員は4メートルであったと主張するが、客観的な裏付けを欠くものであって、上記の認定・判断を左右するものではない。
ウ 間口長について
(ア) 本件従前地の間口は、前記1(2)イ(ア)のとおり、約17メートルであったが、被告は、画地の奥行きの基準を15メートルと設定し、本件従前地の地積をこの数字で除して得た11メートルを「間口長」の値として使用し、正面加算指数を計算したところである。そして、このように、不整形地について、画地の奥行きの基準を15メートルとしてこれで地積を除して間口長の値を求める方法は、本件事業において、他の従前の宅地の価額の評価の際にも同様に採られていたものであった。〔証拠略〕
(イ) ところで、本件土地評価基準において、従前の宅地が旧道に接している場合に正面加算指数を加算することとしているのは、道路に接する宅地は、そのことによって利用価値が高まり、これに応じて価額も高くなることから、これを宅地の評価額に反映させるためであると解される。そして、正面加算指数を間口の長さと比例させているのは、一般に、宅地は、間口が広く、また道路に近い部分が多い方が利用価値が高く、したがって、その価額も高くなるからであると解される。
このような、正面加算指数の算定に当たって間口の長さを用いる趣旨からすれば、ここでの「間口長」の値は、各宅地の接道状況を当該宅地の価額評価に適正に反映させるため、実測値ないし図上計算値等の、当該宅地ごとの個別的な接道状況を表す値である必要があるというべきである。
これに対し、被告は、「間口長」の値について、従前の宅地の個別的な接道状況によることなく、宅地の地積を奥行きの基準値で除して計算上の間口の長さを算出し、この値を用いる方法を採ったものであるが、このような方法によった場合には、各宅地の個別的な接道状況を反映することができず、地積の大小が、直接かつ唯一、間口長の値の大小を決することとなり、それでは、結局、間口の長さではなく、地積の大小に応じた加算をしたにすぎないこととなる。そうであるとすると、被告が採用したこのような間口長の値の算定方法は、正面加算指数の算定にあたって間口の長さを用いようとする本件土地評価基準の定めの趣旨に反するものというほかない。
(ウ) そして、本件土地評価基準において、従前の宅地の評価に関し、上記の正面加算指数のほかには、宅地の接道状況を価額に反映させるための定めはなく、また、奥行きの長さに応じた指数の加減等の、宅地の道路からの奥行きの長さを価額に反映させるための定めもないことからすれば、本件従前地について前記(ア)のような方法でその価額を評価することは、宅地と道路との位置関係という当該宅地の価額に重大な影響を及ぼす要素を、宅地の評価額の算定に適正に反映させていないものとして、不合理な評価方法であるといわざるを得ない。
(エ) これに対し、被告は、不整形地についての間口長の値の調整の必要性を指摘する。確かに、不整形地の場合には、その形状によっては、間口の長さが利用価値の増加に結び付かない場合もあることが想定できるところではある。しかし、不整形地であることが宅地の接道による効果に影響を与えるか否かやその程度は、当該宅地の形状によって異なるのであって、正面加算指数の計算において、単に宅地が不整形地であることをもって、それらの宅地の個別的事情によらずに一律の奥行きの値を用いて間口長の値を算出することについての合理的な理由とすることはできない。
もともと、宅地の形状の点と宅地の道路との位置関係の点は、それぞれ異なる理由から宅地の価額に影響を与えるものであって、本来、別々に考慮すべき要素であるというべきところ(例えば、固定資産評価基準においては、画地の奥行距離に応じた奥行価格補正率や間口が狭小な場合の補正率を定めるとともに、不整形地についての補正率を定めているところであるし、本件土地評価基準においても、換地の評価については、奥行きの長さに応じた奥行逓減百分率及び間口が4メートル未満の場合の間口狭小修正係数を定めるとともに、宅地の形状に応じた修正係数を定めているところである(第17条)。)、本件土地評価基準は、従前の宅地について、宅地の形状による価額評価の補正に関する規定を置いていない〔証拠略〕。本件従前地が不整形地であるという宅地の形状の点は、本来、本件従前地の価額の評価に当たって考慮されるべき要素ではあるが、それが独立して考慮されないのは、被告が定めたこのような本件土地評価基準の規定に基因することであって、この要素を、宅地の道路との位置関係の点を評価すべき正面加算指数における間口長の値の算定において、しかも一律の奥行きの設定という方法で評価額に反映させることに、合理性を見いだすことは到底できないのである(このような間口長の値の算定方法を採る結果、正面加算指数の実質が、宅地の道路との位置関係を評価に反映させるものではなく、単に地積の大小に応じた加算という性質のものにすぎなくなることは、前記(イ)のとおりである。)。
さらに、土地区画整理事業においては、施行地区内における多数の権利者の権利を評価する必要があることから、合理性を失わない範囲において、簡易かつ統一的な評価方法を採ることも許容されるものということができる。しかし被告自身が奥行きが15メートルを超える従前の宅地については間口の実測値を用いたと主張するところであり、また、図上計算の手法を採ることも可能であることからすれば、本件事業の施行上、各従前の宅地ごとに間口の長さを測定することに大きな支障があったものとは窺えないところである。そればかりでなく、そもそも間口の長さに応じた指数の加算は、各従前の宅地の個別的な事情を適切に指数に反映させるために行うものであって、統一的な基準設定になじむような性質のものではないことからすれば、被告がした間口長の値の算定方法をもって、上記の簡易かつ統一的な評価方法の採用の要請に照らして許容されるべき、合理性を失わない範囲にある方法とすることもできないというべきである。
エ 正面加算指数の算定過程の違法性について
上記ウのとおり、被告がした本件従前地の正面加算指数の算定の過程のうち、間口長の値の算定方法は不合理なものというべきであるところ、この算定方法により、本件従前地は、間口が約17メートルであったにもかかわらず、間口長の値が11メートルであるとして正面加算指数が算出され、その結果、上記指数が過少に算定されたことにより、合理的な理由なく不利益を受けることとなったのであるから、本件従前地に係る正面加算指数の算定の過程には、違法があるものというべきである。
(4) 本件換地の価額の評価の適否について
被告がした本件換地の価額の評価は前記(1)ウ第2段落に認定したとおりであるが、この評価の過程に特段の不合理な点を認めることはできないから、被告がした本件換地の価額の評価に違法はないというべきである。
(5) 本件換地処分に係る清算金の算定の違法性について
本件換地処分に係る清算金の算定については、前記(3)のとおり、被告がした本件従前地の価額の評価の過程に違法があり、その価額は原告に不利益に過少に評価されたものであるところ、この評価額を基礎として算定された本件換地処分に係る原告から徴収すべき清算金の額は、過大に算定されたものといえるから、本件換地処分のうち清算金を定める部分が違法であることは明らかというべきである。
なお、上記のとおり、被告がした本件従前地の価額の評価の過程には違法があるが、本件換地は、前記1(2)ウのとおり、原位置換地を前提に、本件新道と接面させるために進入通路部分を設けるという方法により定められたものであり、本件従前地の評価額に基づいてその位置、地積、形状等が定められたものではないから、本件従前地の価額の評価の過程の上記違法が本件換地の指定の違法を導くものではない。そして、本件換地の指定が照応の原則に違反するものではないことは、前記1のとおりである。
(6) 小括
そこで、本件換地処分のうち、清算金を定める部分は違法であるから、これを取り消すべきである(なお、本件換地処分において原告から徴収すべきものとされた清算金の額のうち、本件従前地に係る正面加算指数の算定過程の違法に基因して過大に算定された金額を算出することは、本件施行地区内における他の宅地の所有者・権利者との関係を無視するとすれば、それ自体としては可能であるが、もともと、清算金の制度は、単に、当該の所有者との関係において、従前の宅地と換地との不均衡の是正・調整を図るための制度というものではなく、施行地区内の従前の宅地に係るすべての所有者及び権利者相互の関係においても、不均衡の是正・調整を図る制度であり、本件事業における徴収又は交付すべき清算金額についても、前記(1)アのとおり、本件施行条例20条において、従前の宅地の評価額の総額に対する換地の評価額の総額の比を従前の宅地又はその宅地に存する権利の評価額に乗じた額と、当該宅地に対する換地又は当該権利について定められた権利の評価額との差額とする旨を定めているところであるから、上記のように、原告の関係のみに限定して、過大に算定された徴収すべき清算金の額を算出することは不適切であるばかりでなく、不適法というべきであるから、本件判決においては、本件換地処分のうち清算金を定める部分については、これを全部取り消すほかはない。被告は、本件事業の施行者として、本件判決の趣旨及び法の定めるところに従い、改めて、関係する所有者・権利者相互間における徴収又は交付すべき清算金額の算定を行うべきものである。)。
第6 結論
以上のとおりであって、原告の本件請求は、本件換地処分のうち清算金を定める部分の取消しを求める部分については理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 貝阿彌亮)
物件目録〔略〕
別紙図面〔略〕