大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成13年(行ウ)36号 判決 2004年1月21日

原告 甲

訴訟代理人弁護士 鳥飼重和

同 好美清光

同 多田郁夫

同 村瀬孝子

同 今坂雅彦

同 橋本浩史

同 吉田良夫

同 権田修一

同 内田久美子

同 高田剛

同 小出一郎

同 國貞美和

同 間瀬まゆ子

平成13年(行ウ)第36号事件訴訟復代理人弁護士

平成14年(行ウ)第50号事件訴訟代理人弁護士

佐藤香織

同 加藤祐一

同 松本賢人

同 野口葉子

訴訟復代理人弁護士 福﨑剛志

同 堀招子

同 堤博之

補佐人税理士 原木規江

同 佐野幸雄

被告 鎌倉税務署長

扇谷克彦

指定代理人 植田浩行

同 森脇江津子

同 中村芳一

同 佐藤昌永

同 藤井弘之

同 中村豊

同 石川毅

同 小宮山隆

同 笹﨑好一郎

同 黒子雅則

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  被告が、原告に対し、平成12年5月31日付けでした、原告の平成10年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分のうち、課税総所得金額1億1743万1000円、納付すべき税額4073万4500円を超える部分を取り消す。

(2)  被告が、原告に対し、平成13年6月27日付けでした、原告の平成11年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分のうち、課税総所得金額6663万5000円、納付すべき税額1803万7600円を超える部分を取り消す。

(3)  被告が、原告に対し、平成13年6月27日付けでした、原告の平成12年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分のうち、課税総所得金額1003万6000円、還付金の額に相当する税額138万8400円を下回る部分を取り消す。

(4)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  事案の概要

本件は、原告が、平成10年分ないし平成12年分の所得税について、自己の勤務する会社の親会社から付与されたストック・オプションを行使して得た利益(権利行使利益)を給与所得として申告した後、上記権利行使利益は一時所得に当たるとして更正の請求をしたところ、被告が、これらに対していずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、原告が、これらの処分は違法であるとして、その取消しを求める事案である。

第3  基礎となる事実

(以下の事実は、当事者間に争いがない事実であるか、各段落等の末尾に記載した証拠ないし弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

1  ストック・オプションについて

(1)  ストック・オプションの内容

ストック・オプションとは、会社が自社又は子会社の役員、従業員等(以下「従業員等」という。)に対して付与する、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利である。

このようなストック・オプションを会社が自社又は子会社の従業員等に付与する制度(ストック・オプション制度)は、米国において考案され、発展してきたものであり、長期インセンティブプランとしての報酬制度の一類型と位置付けられるものである。

(2)  ストック・オプション制度に関する我が国の法規制の推移

ア 会社がストック・オプション制度を実施するためには、その従業員等に対して付与する自社株式を手当てする必要があるところ、これについては、従前の商法の下においても、新株の有利発行又は自社株式の取得という方法により対応することが可能であったが、前者については株主総会の決議の効力が6か月に制限され、後者についても自己株式の償却期間が6か月に制限されていたことから、法制度上、我が国の会社がストック・オプション制度を導入することは実質的に困難な状況にあった〔乙3号証〕。

イ しかし、平成7年11月、特定新規事業実施円滑化臨時措置法(以下「新規事業法」という。)の改正(平成7年法律第128号)により、商法の特例措置として、特定の株式未公開企業に限り、自社の取締役又は使用人に対する新株の有利発行のための株主総会の特別決議の効力を10年に延長することなどが規定され、これらの企業については、新株の有利発行の方法によるストック・オプション制度の導入が可能となった〔乙3号証〕。

ウ さらに、平成9年5月、商法の改正(平成9年法律第56号)により、株式会社について、自社の取締役又は使用人に譲渡するための自己株式の取得に関し、取得可能な自己株式の数量が増加し、償却期間も10年に延長されたこと(商法210条ノ2)などにより、自己株式を取得する方法によるストック・オプション制度の導入が可能となり、また、一定の要件の下に自社の取締役又は使用人に新株引受権を付与する方法のストック・オプション制度も新設された(同法280条ノ19)。

しかし、この時点では、我が国の株式会社がその株式を子会社の従業員等に付与する形式のストック・オプション制度の導入を可能にするための規定は設けられなかった。〔乙2号証〕

エ なお、その後、平成13年11月の商法改正(平成13年法律第128号)による新株予約権制度の導入(商法280条ノ19)により、ストック・オプション制度は新株予約権の有利発行の一場面として位置付けられるとともに、自社の従業員等以外の者にもストック・オプションを付与することができるとされるなど、我が国の株式会社のストック・オプション制度の利用に関する法規制が大幅に緩和されるに至っている。

(3)  ストック・オプションに関する課税上の取扱いの推移

ア 平成7年11月の新規事業法の改正以前においては、ストック・オプション一般に関する課税上の取扱いについて規定した法令及び通達は存在しなかった。

もっとも、当時の商法下でも、株主総会決議後6か月間に限って、従業員等に有利な発行価額により新株等を取得する権利を付与することは可能であったところ、これが付与された場合の課税について、所得税法施行令(平成10年政令第104号による改正前のもの)84条は、上記権利に係る所得税法36条の収入金額を、原則として、当該権利に基づく払込みに係る期日における新株等の価額から当該新株等の発行価額を控除した金額による旨を規定し、また、所得税基本通達23~35共-6(ただし、平成8年6月の改正前のもの。)は、発行法人から有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合には、それを行使して新株等についての申込みをしたときに、その付与された権利に基づく発行価額と権利行使時の株価との差額に対し、一時所得として課税することを原則としつつ、当該権利がその発行法人の役員又は使用人に対し支給すべきであった給与等又は退職手当等に代えて与えたと認められる場合には、給与所得又は退職所得として課税することとしていた。

イ 平成7年11月の新規事業法の改正により、一定の範囲で新株の有利発行の方法によるストック・オプション制度の導入が可能となったことに伴い、平成8年3月、租税特別措置法29条の2が改正(平成8年法律第17号)され、新規事業法上のストック・オプションについて、一定の場合には、権利の行使による株式の取得に係る経済的利益については所得税を課さず、取得した株式の譲渡時に、払込価額を取得価額とした上で、譲渡所得として課税を行う旨が定められた。

他方、商法上の有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合に関する所得税基本通達23~35共-6についても、平成8年6月、当該権利を与えられた場合の所得について、一時所得とする原則を維持しつつ、当該発行法人の役員又は使用人に対しその地位又は職務等に関して当該権利を与えたと認められる場合には給与所得とし、これらの者の退職に基因して当該権利を与えたと認められる場合には退職所得とすると改められた。        〔乙8、9号証〕

ウ さらに、平成9年5月の商法の改正によって、自己株式方式及び新株引受権方式によるストック・オプション制度がすべての株式会社に認められるようになったことを踏まえて、平成10年3月、所得税法施行令84条が改正(平成10年政令第104号)され、商法上のストック・オプションに係る所得税法36条の収入金額を、権利行使により取得した株式のその行使の日における価額から権利行使価格を控除した額とする旨が定められるとともに、租税特別措置法29条の2が改正(平成10年法律第23号)され、一定の要件を満たす商法上のストック・オプションについては、権利の行使による株式の取得に係る経済的利益については所得税を課さず、取得した株式の譲渡時に、譲渡所得として課税する旨が定められた。

また、所得税基本通達23~35共-6についても、上記各法令の改正に対応し、平成10年10月、ストック・オプションに関する課税上の取扱いを明確にするための改正がされ、商法210条ノ2第2項の決議に基づいて与えられた同項3号に規定する権利(所得税法施行令84条1号)及び商法280条ノ19第2項の決議に基づいて与えられた同項に規定する新株の引受権(所得税法施行令84条2号)を取締役又は使用人が行使して株式を取得した場合の所得について、原則として給与所得とし、主として職務の遂行に関連を有しない利益の供与の場合には雑所得とすることとされた。

しかし、この時点でも、親会社から子会社の従業員等に対して付与される親会社の株式に係るストック・オプション等、上記以外のストック・オプションに関する課税上の取扱いについて、直接、明文をもって定めた法令の規定は存在せず、また、通達上も、特段の定めは設けられなかった。      〔乙10、11号証〕

エ なお、その後、平成13年11月の商法改正を受けて、租税特別措置法29条の2が改正され(平成14年法律第15号)、株式の取得に係る経済的利益の非課税特例の適用対象となる権利として新株予約権が加えられ、また、同特例の適用対象者に、ストック・オプションの付与会社が直接又は間接に100分の50を超える数の株式等を保有する関係にある他の法人の従業員等が加えられた〔乙25号証〕。

また、上記商法の改正を受けて、所得税法施行令84条についても所要の改正がされた(平成14年政令第103号)。

さらに、所得税基本通達23~25共-6についても、平成14年の改正により、有利発行による新株予約権(所得税法施行令84条3号)を与えられた者がこれを行使した場合に、雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利を与えられたと認められるときは、所得税法施行令84条1号及び2号に掲げる権利を与えられた場合に準じた取扱いをすることとされ、さらに、発行法人が外国法人の場合についても、同様の取扱いとすることとされた。

2  本件ストック・オプションについて

(1)  米国A社と日本A社との関係

米国の会社であるA(以下「米国A社」という。)は、昭和49年に日本法人としてA(日本)株式会社(以下「日本A社」という。)を設立した〔甲20号証〕。米国A社は、日本A社の全株式を保有している。

なお、日本A社は、平成12年6月1日、商号を「B日本株式会社」に変更している〔乙12号証〕。

(2)  原告の地位

原告は、平成3年に日本A社の代表取締役社長に就き、米国A社から本件のストック・オプションを付与された時期を含め、平成10年4月30日まで、日本A社の代表取締役社長を務めていた者である〔甲20号証、弁論の全趣旨〕。

(3)  米国A社のストック・オプションの内容

米国A社は、同社のストック・オプション制度に関し、「1990年長期インセンティブ・プラン」(以下「本件A・プラン」という。)を定めているところ、本件A・プラン及びその契約細則等を定めた規定の内容は、概要以下のとおりである。

まず、同社のストック・オプションは、同社及びその子会社(以下、併せて「Aグループ各社」という。なお、本件A・プラン上、子会社とは、米国A社が直接又は間接に議決権株式の過半数を所有する法人とされている。)の一定の従業員に対して付与され得るものとされている(本件A・プラン第1条)。

この本件A・プランに基づくストック・オプション制度は、米国A社及び子会社の一定の定額給従業員に対し、Aグループ各社での勤務を続けることを促し、Aグループ各社の成功に対する関心を高めるための動機を提供することを目的とし、ストック・オプション等の権利を従業員(employee)に付与することによって、この目的を達成することを意図するものとされている(本件A・プラン第1条(a))。

そして、米国A社の取締役会は、同取締役会の報酬オプション委員会によって指名された者の中から、同取締役会が選定するAグループ各社の役員及びその他の主要な定額給従業員(取締役会の構成員であるか否かを問わない。)に対して、同取締役会が指定する数のストック・オプションの付与を許可することができる(本件A・プラン第5条(a))。

また、本件A・プランに基づくストック・オプションは、ストック・オプション付与契約日(以下「本契約日」という。)から1年が経過するまでは行使してはならず、また、それ以後は、以下のように分割して行使することができるものとされている。

① 本契約日の1年後から、付与されたストック・オプションの対象株式総数の25パーセントまでの行使が許される。

② 本契約日の2ないし4年後からは、さらに対象株式総数の25パーセントずつまでの行使が許される。

③ それぞれの期間に行使されなかった分については、次期以降の行使が許される株式数に加算されていくものとする。それぞれの期間に割り当てられた株式の全部につき一括してオプションを行使しても、あるいは一部だけを行使しても、いずれでもよい。

そして、本件A・プランに基づくストック・オプションを付与された者のAグループ各社における雇用が、最初に権利行使が可能となった日より前に終了した場合には、原則として、当該被付与者のストック・オプションを行使する権利は、当該雇用終了日をもって終了することとされている。また、ストック・オプションを付与された者のAグループ各社における雇用が、免職、会社の最善利益のための解雇又は自発的な辞職により終了した場合には、その時期を問わず、ストック・オプションを行使する権利は、当該雇用終了日をもって終了することとされている。一方、ストック・オプションの被付与者の定年、障害又は死亡を理由として雇用が終了した場合で、かつ、本契約日より6か月以上雇用が継続していた場合には、ストック・オプションを行使する権利は本契約日から10年間有効に存続するものとされているなど、一定の事由による雇用の終了の場合には、雇用終了後も一定の期間権利を行使することができることが定められている(本件A・プラン第5条(f))。

さらに、本件A・プランに基づくストック・オプションは、遺言又は相続法による場合を除き、譲渡することはできず、ストック・オプションの被付与者が存命中は、同人かその後見人又は法律上の代表者のみが行使できるものとされている(本件A・プラン第9条(b))。

〔甲17、29、30、31号証、乙13号証〕

(4)  原告のストック・オプションの行使

原告は、日本A者に代表取締役社長として勤務中に、米国A社から、本件A・プランに基づき、同社の株式に係るストック・オプションを付与された。そして、原告は、日本A社の代表取締役を退任後、平成10年から平成12年にかけて、これらを行使した(以下、原告が米国A社から付与され、平成10年ないし平成12年に行使したストック・オプションを「本件ストック・オプション」という。)。

本件ストック・オプションの行使により、原告は、平成10年に1億8047万3774円、平成11年に1億3034万3393円、平成12年に1970万9590円の経済的利益をそれぞれ得た。これらの利益は、ストック・オプションの行使によって取得した株式の権利行使時の時価から権利行使価格を控除したものに相当する(以下、ストック・オプションを行使することにより得られる、取得株式の権利行使時の時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益を「権利行使利益」という。

また、原告が本件ストック・オプションの行使により得た権利行使利益を「本件権利行使利益」という。)。

3  本件課税処分の経緯等

(1)  原告は、平成10年分ないし平成12年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税について、いずれも、上記各年に取得した本件権利行使利益が給与所得に該当するものとして、確定申告をした。

その後、原告は、本件権利行使利益が一時所得に該当するとして、被告に対し、平成11年3月25日に平成10年分の所得税について、平成13年3月7日に平成11年分の所得税について、平成13年6月19日に平成12年分の所得税について、それぞれ更正の請求をした。

(2)  これに対し、被告は、原告に対し、平成12年5月31日付けで平成10年分について、平成13年6月27日付けで平成11年分及び平成12年分について、それぞれ更正をすべき理由がない旨の通知処分をした(以下「本件各通知処分」という。

また、更正をすべき理由がない旨の通知処分を、単に「通知処分」という。)。

(3)  原告は、平成10年分の所得税に係る通知処分を不服として、被告に対し、平成12年6月27日、異議申立てをしたが、被告は、同年11月30日付けで異議を棄却する旨の決定をした。

そこで、原告は、国税不服審判所長に対し、同年12月27日、平成10年分の所得税に係る通知処分について審査請求をしたが、審査請求の日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がされなかったことから、平成13年8月1日、平成10年分の所得税に係る通知処分についての取消訴訟を提起した(平成13年(行ウ)第36号事件)。

(4)  また、原告は、平成11年分及び平成12年分の所得税に係る各通知処分を不服として、被告に対し、平成13年8月16日、異議申立てをしたが、被告は、同年11月14日付けで異議をいずれも棄却する旨の決定をした。

これに対し、原告は、国税不服審判所長に対し、平成13年12月12日、平成11年分及び平成12年分の所得税に係る各通知処分について審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成14年6月21日付けで、本件各通知処分に係る審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした〔甲第32号証、乙第1号証〕。

そこで、原告は、同年8月26日、平成11年分及び平成12年分の各通知処分についての取消訴訟を提起した(平成14年(行ウ)第50号事件)。

(5)  なお、原告の本件係争各年分の所得税に係る確定申告、更正の請求、通知処分及びこれらに対する不服申立て等の経緯は、それぞれ別表1ないし3記載のとおりである。

第4  本件各通知処分の根拠に関する当事者の主張

<被告の主張>

1  主位的主張

本件権利行使利益は給与所得に該当するものであり、これに基づく原告の本件係争各年分の課税総所得金額及び納付すべき税額並びにその根拠は、別紙課税根拠表に記載のとおりである。

2  予備的主張

仮に、本件権利行使利益が給与所得に該当するものでないとすれば、本件権利行使利益は雑所得に該当する。

本件権利行使利益が雑所得に該当する場合、本件権利行使利益の額から手数料の額を控除した額がそれぞれ本件係争各年分の雑所得の金額に加えられ、原告の本件係争各年分の納付すべき税額は、同各年分の確定申告に係る納付すべき税額をいずれも上回る。

<原告の主張>

被告の主張のうち、本件係争各年分の権利行使利益の額はいずれも認めるが、本件権利行使利益は一時所得に該当するものである。そこで、被告の主張のうち、本件権利行使利益が給与所得に該当するとして計算された本件係争各年分の給与所得の金額、総所得金額、課税総所得金額、課税総所得金額に対する税額及び納付すべき税額は、いずれも否認し、争うが、その余の金額は認める。

原告は、本件各通知処分のうち、それぞれ本件権利行使利益を一時所得として計算した場合の正しい課税総所得金額、納付すべき税額を超える部分(平成12年分については、還付金の額に相当する税額を下回る部分)の取消しを求めるものである。なお、本訴における主張額が更正の請求の際の金額と異なっているのは、本訴において、本件権利行使利益の額を正しい為替レートに基づいて計算し直したためである。

第5  争点

本件の主たる争点は、本件ストック・オプションの権利行使利益(本件権利行使利益)の所得区分、すなわち、本件権利行使利益は、給与所得、雑所得、一時所得のいずれに該当するかである。

第6  争点に関する当事者の主張

1  争点(本件権利行使利益の所得区分)について

<被告の主張>

本件権利行使利益は、所得税法上、給与所得に該当する。仮にそうでないとしても、雑所得に該当する。

(1) ストック・オプションの性格

ア ストック・オプションを付与された従業員等は、当該株式の時価が権利行使価格を上回った場合、この権利を行使して株式を取得し、当該株式の時価と権利行使価格の差額相当の経済的利益(権利行使利益)を享受することができる。

ストック・オプション制度は、ストック・オプションを従業員等に付与することにより、当該従業員等の精勤意欲の向上が期待され、付与会社も、優秀な人材を誘引、確保するとともに会社の業績向上を図ることを期待することができるという、長期インセンティブ報酬(業績連動型報酬)制度の一種である。この長期インセンティブ報酬の目的を達成するために、付与の対象となるのは従業員等のみであり、また、付与契約において一定期間の勤務、権利行使期間、権利行使価格等の条件が定められ、さらに、付与されたストック・オプションの譲渡が禁止され、退職等により雇用契約等(雇用契約又は取締役等の役員についての委任契約をいう。以下同じ。)が消滅した場合等には、権利が消滅したり権利行使期間が制限されたりするのが通常である。

このように、ストック・オプション制度は、「付与→一定期間の勤務→株価の上昇→権利行使による時価より低額での株式売買」という一連の過程を経て、初めて従業員等において権利行使利益を取得できるもので、インセンティブ報酬として勤務先会社における勤務と不可分に結びつけられた仕組みである。従業員等としての地位にあるからこそストック・オプションが付与され、かつ、現実に勤務を継続しなければ権利行使の機会を得られず、したがって権利行使利益も得られないのである。

イ ストック・オプション付与契約は、従業員等とその勤務先会社との雇用契約等に付された従たる契約(予約)というべきものであって、権利行使利益を従業員等に取得させるため、会社と従業員等との間の雇用契約等を不可欠の前提として締結される、売買(株式譲渡)の一方の予約に類似する契約であり、従業員等の地位にあるストック・オプションの被付与者(以下、単に「被付与者」ということがある。)のみが予約完結権を行使するものとして譲渡が禁止され、かつ、会社における一定期間の勤務等という停止条件が付されたものということができる。

そして、従業員等の地位にある被付与者が、労務を提供してストック・オプション(予約完結権)を行使することができるようになり、これを行使して初めて株式譲渡契約(本契約)が成立し、被付与者は、付与会社に対し、具体的な株式引渡請求権を取得する一方、付与会社は、被付与者に対し、権利行使価格相当額の金員支払請求権を取得することとなり、その結果、付与会社が当該株式を市場で売却(発行)すれば得られたはずのキャッシュフロー(当該株式の時価から権利行使価格相当額を差し引いた額)を、被付与者である従業員等にその労務の対価として移転するものである。

(2) ストック・オプションに係る課税の対象及び時期について

ア 所得税法は、「現実収入」があったときに「収入金額」(同法36条1項)が発生したとして課税することを原則としつつ、いまだ現実収入はないが「(現実)収入の原因となる権利」が確定したときはその時点で「収入金額」が発生したとして課税するという、権利確定主義を採用しているものと解される。

そして、所得税法36条の規定に照らせば、金銭以外の物、権利又は経済的利益も現実収入となり得るが、現実収入に対しては所得税課税がされることから、「現実収入」に該当するためには、経済的・実質的観点から、所得税課税にふさわしい内実のある利益等でなければならず、容易に現金に換価され得るものを受領した場合であることを要すると解される。また、「収入の原因となる権利」とは、現実収入としての金銭、物、権利又は経済的利益の交付ないし引渡しを請求する権利であると考えられる。

イ これをストック・オプションについてみると、本件ストック・オプションのように、譲渡が禁止され、被付与者以外は行使できず、これを取引の対象とする市場も存在しないものについては、これを付与されただけでは、換価可能性がないものを与えられたにすぎないから、付与されたストック・オプションそれ自体が現実収入に当たるとはいえない。市場性のないストック・オプションのように、将来権利行使利益を得ることに対する期待権にすぎないものについて、所得税を課税することはあり得ないのである。

そうすると、本件のようなストック・オプションにおいては、権利行使利益が「現実収入」であり、ストック・オプションを行使して発生する株式引渡請求権が「収入の原因となる権利」に該当するものというべきである。

ウ 以上のとおり、本件ストック・オプションにおける所得税課税の対象は、権利行使利益であり、その課税時期が権利行使時であることは明らかである。

そして、このように解することは、商法上のストック・オプションに関し、租税特別措置法29条の2及び所得税法施行令84条が、権利行使時における権利行使利益に対する課税を前提とした規定をしていることとも整合的である。

(3) 本件権利行使利益が給与所得に該当することについて

ア ストック・オプションに関する課税実定法規について

租税特別措置法29条の2は、第2章「所得税法の特例」、第3節「給与所得及び退職所得」の中に置かれていることからすれば、ストック・オプションの行使により生じる経済的利益は原則として給与所得として課税されることを前提とした上で、同条所定のいわゆる税制適格型のものについては、権利行使時において権利行使利益に所得税を課さずに、株式の譲渡時まで課税の繰延べを認める趣旨のものと解される。また、所得税法施行令84条は、商法上のストック・オプションについて権利行使利益に課税する旨を明示している。

そうすると、現行法上、租税特別措置法29条の2の要件を充たさない税制非適格型のストック・オプションについては、権利行使時に権利行使利益に対して給与所得として課税されるものであって、これと同様の性質を有する本件ストック・オプションについても、所得税法36条の解釈として、権利行使時に権利行使利益に対して給与所得として課税されると解するのが、上記各規定の趣旨に照らしても相当である。

イ 給与所得の意義について

給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」(所得税法28条1項)であり、勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供された労務の対価を広く含むものである。

そして、その認定に際しては、支払者と受給者間の形式的法律関係のみではなく、支払の原因となった法律関係についての支払者と受給者の意思ないし認識、労務の提供や支払の具体的態様等を考察して、客観的、実質的に判断すべきである。また、この給与所得の本質は非独立的・従属的労働の対価という点にあるが、この場合の対価は、雇用契約等の反対給付(取締役委任契約に基づく報酬、雇用契約に基づく給料等)に限定されるものではなく、従業員等の地位に基づいて給付される限り、労務の対価としての性質を有し、給与所得に該当するというべきである。

ウ 勤務先会社からストック・オプションが付与される場合について

(ア) ストック・オプション付与契約は、前記(1)のとおり、従業員等とその勤務先会社との雇用契約等を不可欠の前提として締結される契約であって、権利行使利益を、従業員等に労務の対価として取得させるためのものである。したがって、従業員等の地位に基づいて付与されたストック・オプションの行使に係る経済的利益(権利行使利益)は、労務の対価としての性質を有するから、給与所得に該当することとなる。

(イ) これに対し、ストック・オプションの被付与者が権利行使利益を取得するかどうか及び取得する利益の額は、株価の変動という偶発的な要素や被付与者の権利行使の時期に関する判断に大きく基因するものであるから、権利行使利益は付与会社から被付与者に対して与えられた経済的利益と評価することはできないといった見解がある。

しかし、このような見解は、株価の変動を前提とする権利行使利益に一時的、偶発的な要素があることにとらわれすぎて、労務と不可分に結び付けられたストック・オプション制度の本質を見誤ったものである。もともと、株価の変動や被付与者に権利行使時期の選択を委ねているといった要素は、いずれもストック・オプション制度自体に内在するものであり、ストック・オプション自体が、いわば価格の変動等を織り込み済みのものとして、その制度の枠内で一定期間の勤務等の条件を満たした被付与者が権利を行使する限り、付与会社において、その従業員等に労務の対価として低額譲渡の利益を与えるものである。会社に勤務していたからこそストック・オプションが付与され、かつ、現実に勤務を継続したからこそ権利行使利益を取得できたという点で、権利行使利益は労務の対価としての性質を有するのであり、そうである以上、権利行使利益の額がいかに株価変動の偶然性や行使時期に関する判断といった要素に左右されようとも、権利行使利益は給与所得に該当することは明らかである。

(ウ) また、使用者から受ける給付が「労務の対価」であると評価できるためには従業員等が提供した労務の質ないし量と当該給付との間に経済的合理性に基づいた相関関係があることが必要であるとし、この観点からストック・オプションの権利行使利益の「労務の対価」性すなわち給与所得性を否定する見解もある。

しかし、このように給与所得該当性に関し、労務の質ないし量と給付との間に何らかの相関関係を要求する見解は、従来の判例・実務の一般的な理解とは異なる独自の見解である。「労務と給付額との相関関係」は給与所得の要件ではなく、当該従業員等が提供した具体的な労務の質ないし量と給付額との間に何ら相関関係がなくても、従業員等としての地位に基づいて受ける給付は、すべて労務の対価であり、給与所得に該当するというべきである。

なお、仮に、労務の質ないし量と給付との間に何らかの相関関係を要するとの立場に立ったとしても、ストック・オプションの付与会社は、従業員等の貢献度等に応じて、付与するストック・オプションの数量、権利行使価格、権利行使期間等権利行使利益の多寡に影響する一定の条件を決めているのであるから、その点において、給付としての権利行使利益は労務の質ないし量と相関関係を有するものということができる。

(エ) 以上によれば、勤務先会社から付与されたストック・オプションに係る権利行使利益が給与所得に該当することは、明らかである。

エ 親会社からストック・オプションが付与される場合について

(ア) 付与会社が親会社の場合に異なるのは、付与会社が直接の雇用契約等の当事者でないという点のみであり、従業員等が勤務先会社に勤務していたからこそストック・オプションを付与され、かつ、現実に勤務を継続していたからこそ権利行使利益を取得できたという点では何ら異なることはない。

(イ) 所得税法28条1項は、給与所得を雇用契約等の当事者である使用者からの給付に限定するとは規定しておらず、使用者以外の第三者からの給付であることのみをもって、当該給付を給与所得から除外しているとは解されない。

この点に関連して、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁(以下「最高裁昭和56年判決」という。)は、「使用者から受ける給付」であることを給与所得の要件としているようにもみえるが、同判決は、給与支給者と雇用契約等の当事者(使用者)とが一致する通常の場合について判断したものであり、同判決が雇用契約等の当事者以外の第三者からの給付を給与所得から除外する趣旨とは解されない。

また、租税特別措置法29条の2は、親会社から付与されたストック・オプションが、子会社に対する労務提供の対価であることを当然の前提としており、本件でも同条の趣旨を踏まえた解釈がされるべきである。

(ウ) 給与所得に該当するか否かの判断要素は、従業員等の立場からみて、それが従業員等としての地位に基づき、一定期間に空間的・時間的な支配を受けつつ労務を提供したことの対価と認められるか否かという実質的な点に求められるべきである。そして、この場合、空間的・時間的支配を受けた先が親会社であるか子会社であるかは従業員等の立場からは特段の意味を持つとはいえないから考慮する必要はないし、親会社においても、従業員等に対する子会社の空間的・時間的支配を前提に給付しているのであるから、それは従業員等の地位に基づく給付とみて支障はなく、本件権利行使利益についても、給与所得に該当することは明らかであり、このように解しても何ら所得税法28条1項及び判例に反するものではない。

被付与者である子会社の従業員等は、子会社の従業員等の地位にあって、子会社の指揮命令に服して一定期間勤務して初めて権利行使利益を取得することができるのであり、このような労務の提供なくしては権利行使利益を得られない関係にあるから、権利行使利益に労務の対価性があることは明らかである。

また、親会社が、被付与者である子会社の従業員等に対し、実質的には自らの負担において経済的利益(権利行使利益)を与える理由は、被付与者の子会社における労務の提供にある。これは、被付与者の子会社における勤務により子会社の業績が向上すれば、親会社も利益を受ける関係にあると認識されているからにほかならない。

さらに、使用者は、従業員等の勤労の成果が使用者に帰属するという関係にあるからこそ従業員等に給与を支給するものであるところ、使用者以外の第三者であっても、使用者を通じてその従業員等の労働力を利用し勤労の成果を得ることができる関係にある者が、当該従業員等に支給した金銭ないし経済的利益は、給与ということができる。この点、親会社は、株式や出資持分の保有を通じて、子会社を経営支配しており、子会社の従業員等の労働力を利用し、その勤労の成果を得ることができる関係にあるといえるのである。

加えて、親会社が子会社等のグループ企業の従業員等をも対象とするストック・オプション付与制度を有している場合には、その子会社等も、その従業員等の勤労意欲の向上等により会社の業績が向上することを期待できるから、自社における労務を前提として、その従業員等に対し、親会社が権利行使利益を与えることを容認しているものといえる。

(エ) このような事情に照らせば、被付与者である子会社の従業員等が取得するストック・オプションに係る権利行使利益は、直接の雇用契約関係にない親会社から受けるものであるが、使用者である子会社の指揮命令に服しての労務の提供に基因して得られるものであり、子会社における労務の対価として給与所得に該当するものというべきである。

オ 本件権利行使利益の給与所得該当性

原告の勤務していた日本A社が本件ストック・オプションの付与会社である米国A社の100パーセント子会社であることから、日本A社が原告の勤労の成果を得る結果、米国A社も利益を受ける関係にある。さらに、米国A社のストック・オプション制度に照らせば、本件ストック・オプションの付与は、原告が日本A社に勤務し、同社に対し労務を提供することを基礎として、米国A社が、当該労務提供の対価として、権利行使利益を原告に与える趣旨のものと認められる。

そうすると、本件権利行使利益が給与所得に該当することは明らかというべきである。

(4) 一時所得に該当しないことについて

ア 偶発的、一時的な性格について

ストック・オプションの権利行使利益の取得自体が、行使時期の判断を委ねられている従業員等による選択の結果であり、従業員等は、確実に意図した利益を得ることができる状況の下で権利を行使しているのであるから、権利行使利益は偶然に取得したものとはいえない。この点において、宝くじが当たるのとは質的に異なる。

イ 一時所得の消極的要件としての対価性について

一時所得(所得税法34条1項)に該当するためには、その所得が「労務その他の役務・・・の対価としての性質」を有しないものでなければならない。この一時所得の消極的要件としての「役務の対価性」の点は、その所得が一時所得か、それとも雑所得かの区分の基準となるところ、ここでいう「対価」とは、給与所得に関して述べたとおり、双務契約における一方の履行に対する他方の給付という狭い意義にとどまらず、当該労務その他の役務を提供したことを評価し、これに対して金銭その他の経済的利益が給付された場合を含むものである。そして、ストック・オプションに係る権利行使利益は、子会社の従業員等としての地位及びその勤務に密接に関係する所得であることは明白であって、所得税法34条1項の「労務その他の役務・・・の対価としての性質」を有するから、一時所得には該当しないものである。

ウ 偶発的、一時的な要素を持つ所得についての所得区分についてそもそも、一般に所得は何らかの経済取引から生じるものであり、その発生過程の中に、物の価格等の偶発的な要素及び当該所得を稼得した者の経済状況についての判断が含まれることは、むしろ当然である。このような要素は、所得の有無や多寡を決定する要素にすぎないのであって、所得税法が所得の源泉ないし性質に応じて所得区分を定めた趣旨に照らせば、当該要素をそれらの経済活動によって発生した所得の所得区分を判定する、基礎とするのは誤りであるから、株価の変動が偶発的であるからという理由で、株式を対象として生じた所得が一時所得になるということはできない。

エ 小括

以上のように、仮に本件権利行使利益が給与所得に当たらないとしても、一時所得と解する余地はなく、同利益は、少なくとも雑所得には該当する。

<原告の主張>

本件権利行使利益は、所得税法上、一時所得に該当する。

(1) ストック・オプションに係る課税の対象及び時期

被告は、ストック・オプションに係る所得税の課税の対象及び時期について、権利確定主義を根拠に、ストック・オプション自体に対する課税はあり得ず、権利行使時に権利行使利益に対して課税すべきであると主張する。しかし、課税実務上、ストック・オプションの行使前において相続が開始した場合の相続税について、相続時における株価と権利行使価格との差額をもってストック・オプションの価格と評価されていることや、擬似ストック・オプションのうち、いわゆる成功報酬型ワラントについて、ワラントの付与時の課税が採用されていることからすれば、ストック・オプション自体も経済的な価値を有するものとして課税の対象となるはずであり、権利確定主義を根拠に権利行使時における権利行使利益に対する課税を説明することはできない。ストック・オプションについて権利行使時に権利行使利益に対して課税する理由は、むしろ、ストック・オプション付与時の価値を算定することが事実上困難であることにあるものと解される。

(2) 給与所得に該当しないことについて

ア 租税特別措置法29条の2の解釈について

被告は租税特別措置法29条の2の存在を指摘するが、同条は我が国の商法上のストック・オプションに関する規定であって、ストック・オプション一般についての所得区分を明らかにした規定ではない。また、同条は、ストック・オプションについて、権利行使時に給与所得として課税することを前提として定められたものということもできない。

イ 給与所得の意義について

給与所得(所得税法28条1項)の解釈につき、最高裁昭和56年判決は、「給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示した。

これに従えば、給与所得に該当するためには、①雇用契約又はこれに類する関係において使用者の指揮命令の下に労務を提供すること、②付与される経済的利益が当該労務提供の対価であること、が必要になる。

ウ 権利行使利益は会社から従業員等に給付されるものではないことそもそも、ストック・オプションの付与会社は、その権利行使に伴って特別の出捐をしたり損失を被るわけではなく、権利行使利益は、いわば既存株主全体から権利行使をして新たに株主となった者へ移転されるものであって、これをストック・オプションの付与会社からの給付とみることはできない。法人税法上、ストック・オプションを付与した法人があらかじめ定められた譲渡価額によって自己株式を譲渡したときは、その譲渡は正常な取引条件でされたものとして計算することとされているように(同法施行令136条の4)、権利行使時の当該株価と譲渡価額との差額は、当該法人には帰属していないものというべきであり、当該法人がこの差額相当の利益を従業員等に与えたものということはできないのである。

エ 雇用類似要件を欠くこと

所得税法上の給与所得は、使用者から支給される給付であることを当然の前提としており、使用者以外の者から給付される対価についてこれを給与所得とするには、立法上の手当てが必要というべきである。上記最高裁判決も、使用者から支給される給付をもって給与所得に該当すると解していることは明らかである。

本件の事案である親会社から子会社の従業員等へのストック・オプション付与の場合、親会社と子会社の従業員等には雇用契約や委任契約といった契約は存在せず、しかも親会社に事実上勤務するような実態もない。また、ストック・オプション付与契約において、子会社への勤務が原因や条件とされているとしても、親会社が子会社の従業員等に一定の空間的、時間的な拘束の下における労務の提供を義務付けたものではないことは明らかである。

本件ストック・オプションは、親会社から子会社の従業員等に支給され、かつ、当該従業員等が親会社に対して何らの勤務関係を義務付けられていない以上、法的には、このような親会社と子会社の従業員等との間に雇用契約又はこれに類する原因があるとはいえない。親会社及び子会社といったグループ関係にある企業であっても、別個独立した存在であり、仮にこのようなグループ間の関係を広義の雇用関係もしくは委任関係に類するものとして課税するのであれば、少なくとも税法上明文のみなし規定が必要であるというべきである。

このように、親会社と子会社の従業員等との間に、雇用契約又はこれに類する原因が存在するということはできないのである。

オ 労務の対価に当たらないこと

(ア) 労務の対価性の有無を検討するに当たっては、ストック・オプション自体の対価性と権利行使利益の対価性とを区別して考えなければならない。すなわち、権利行使利益が給与所得に該当するかを検討するに当たっては、この利益が労務の対価であるかどうかを判断しなければならない。

(イ) ストック・オプションの権利行使利益は、原告の精勤以外の株式市場の動向等の様々な要因によってもたらされる株価の変動によって生じるものであり、株価の変動や被付与者の投資判断によってそもそも利益が得られなかったり、得られても収入金額が大きく変わったりする。このようなものを、原告の精勤と対価関係のある収入ということはできない。

また、権利行使利益を労務の対価とみると、同じ条件のストック・オプションを付与された複数の従業員等が付与会社に対して同様の貢献をした場合であっても、各人の権利行使の時期により、その受け取る給与の額に差が生じることになるが、その不合理性は明らかである。

(ウ) また、労務の対価というためには何らかの労務の提供が必要であるが、その労務については、給付をする者との関係で当該労務の提供が義務付けられているか、又は義務付けられていないのであれば、その者に対して事実として労務の提供があったことが必要である。しかし、原告が海外親会社に対して労務の提供を義務付けられたという事実も、また現実に労務の提供を行ったという事実も存しない。

(エ) これらのことからすれば、本件権利行使利益が労務の対価でないことは明らかである。

カ 給与としての性質を有しないこと

所得税法28条1項は俸給、給料等を例示しているところ、これらは、使用者において金額等や支給のタイミングを決めて自らの判断で支給するものであるのに対し、権利行使利益は、従業員等の自らの判断で権利を行使して得られる利益であり、余りに性質を異にするから、これが同項の「これらの性質を有する給与」に該当するということはできない。

キ 小括

以上のことからすれば、本件権利行使利益を給与所得と解することはできないというべきである。

(3) 一時所得に該当することについて

一時所得に該当するには、①利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得に該当しないこと、②一時の所得であること(一時性・偶発性)及び③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであることが必要である(所得税法34条1項)。

これを本件権利行使利益についてみると、これが給与所得に該当しないことは上記(2)のとおりであり、その他の7つの所得区分にも該当しない。また、本件権利行使利益が労務の対価でないことは、上記(2)オのとおりである。

そして、ストック・オプションの権利行使利益は株価の上昇により生じるものであるところ、株価は、将来の予想収益、金利、為替等の不確実な要素により変動し、しかも複数の要素が総合的に作用して形成されるものであるから、そのような偶発的な事実によって実現するストック・オプションの権利行使利益が偶発性を有する所得であることは明らかである。ストック・オプションの付与自体が臨時的な給付であるし、仮にストック・オプションの付与自体に偶発性がなかったとしても、権利行使利益は上記のとおり偶発性を有する所得であり、オプションの付与とその行使による利益とは、明確に区別されるべきである。

このように、本件権利行使利益が一時所得に該当することは明らかである。

(4) 雑所得に該当しないことについて

上記のとおり、本件権利行使利益が一時所得に該当することは明らかであるから、本件権利行使利益は雑所得には該当しない。

2  本件各通知処分の適法性について

<被告の主張>

本件権利行使利益が給与所得に該当する場合の、原告の本件係争各年分の納付すべき税額は、前記第4、1のとおりで、いずれも原告の確定申告に係る納付すべき税額を上回る。また、本件権利行使利益が雑所得に該当する場合の納付すべき税額も、いずれも原告の確定申告に係る納付すべき税額を上回る。

そうすると、本件係争各年分の確定申告に係る納付すべき税額が過大でないことは明らかであるから、本件各通知処分は適法である。

<原告の主張>

前記の原告の主張のとおり、本件権利行使利益は一時所得と解すべきところ、本件係争各年分の確定申告に係る納付すべき税額は、本件権利行使利益を一時所得として計算した額を上回っているから、各更正の請求にはいずれも理由があり、これらに理由がないとして被告がした本件各通知処分は、いずれも違法である。

第7  当裁判所の判断

1  争点(本件権利行使利益の所得区分)について

(1)  論点の整理

ア ストック・オプションは、前記第3の基礎となる事実1(1)のとおり、会社が自社又は子会社の従業員等に対して付与する、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で取得することができる権利である。

このストック・オプションを付与された者は、付与契約に定められた条件を満たせば、付与会社の株式の時価が権利行使価格を上回っている場合に、権利を行使して付与会社から株式を取得し、その時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益すなわち権利行使利益を得ることができる。そして、ストック・オプションを行使した被付与者は、権利の行使によって取得した株式を、権利行使後即時に又は時機を見て譲渡することによって換価し、その経済的利益を金銭的に把握することができる。

本件ストック・オプションも上記のような性質を有するものであるが、前記基礎となる事実2のとおり、本件ストック・オプションは、米国の親会社から我が国の子会社の役員に対して付与されたものであって、原則として譲渡が禁じられ、一定の事由による場合を除き、雇用契約等(日本A社の役員であった原告にストック・オプションが付与されていることからすれば、本件A・プランにいう雇用とは、役員についての委任契約も含む趣旨と認められる。)が終了すれば権利が消滅するなどの条件が付されたものであった。

イ そして、原告が本件ストック・オプションを行使した平成10年ないし平成12年当時、ストック・オプションを付与された者が得る所得に対する所得税の課税については、前記基礎となる事実1(3)のとおり、新規事業法又は商法上認められたストック・オプションに関する課税上の取扱いを定める法令の規定が存在したものの、本件ストック・オプションのように親会社から子会社の従業員等に対して付与されたものの取扱いについて、直接、明文をもって定めた法令の規定は存在しなかった。

したがって、本件ストック・オプションに係る原告の所得についての課税関係は、所得税法その他租税関係法令の規定の解釈によって決せられることとなる。

ウ ところで、本件は、原告が本件ストック・オプションを行使することにより本件権利行使利益を取得した事実に関し、被告において本件権利行使利益をもって本件ストック・オプションに係る所得税法上の課税所得であると把握してした本件各通知処分の適法性が争われている事案であるところ、被告は、本件権利行使利益が所得税法の所得区分における給与所得に該当するものであり、仮にそうでないとしても雑所得に該当すると主張しているのに対し、原告は、本件権利行使利益が課税の対象になることについては争わず、本件権利行使利益は一時所得に該当すると主張し、本件各通知処分の適法性を争っているところである。

このように、本件における課税の根拠に関する争点は、本件権利行使利益が給与所得又は雑所得(被告の主張)あるいは一時所得(原告の主張)のいずれに該当するか、という所得区分の問題そのものである(ちなみに、ストック・オプションの行使により被付与者が得る株式の時価と権利行使価格との差額に相当する権利行使利益は所得税法上の所得に該当するところ、被付与者は、権利を行使することにより、付与会社に対して当該権利行使に対応した株式の引渡請求権を取得し、これにより、権利行使利益を収入すべき権利が確定することになる(所得税法36条1項参照)から、この権利行使時において、権利行使利益を対象として課税をすることに合理的な根拠があることは明らかである。)。

したがって、当裁判所は、ストック・オプションの付与時ないし権利行使が可能となった時点における所得税課税の可否等の論点に立ち入ることなく、以下、端的に、争点である本件権利行使利益の所得区分の問題について検討することとする。

(2)  所得税法における所得区分の意義と区分の仕方について

ア 所得税法の定める所得区分についてみると、同法は、居住者に対して課する所得税に関し、所得を、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類の所得に区分し、これらの各種の所得ごとに、所得の金額の計算方法を規定している(同法23条ないし35条)。

イ そして、所得税法が、上記のように、所得を10種類に区分し、各種の所得ごとに所得の金額の計算方法を規定しているのは、所得はその源泉ないし性質に基因して担税力を異にしていると考えられることから、各種の所得ごとの担税力に応じた課税を実現し、居住者の租税負担の公平を図ろうとしたものと解されるところである。

したがって、本件権利行使利益の所得区分についての検討は、このような所得税法における所得区分の意義を踏まえたものでなければならないことはいうまでもない。

ウ ところで、所得税法は、給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(給与等)に係る所得をいう」と規定し(同法28条1項)、また、一時所得とは、雑所得以外の、給与所得を含む他の8種類の所得以外の所得のうち、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう」と規定し(同法34条1項)、さらに、雑所得とは、他の所得区分のいずれにも該当しない所得をいうと規定している(同法35条1項)。

このような所得税法における所得区分の仕方からすれば、本件権利行使利益の所得区分については、まず給与所得に該当するかどうかを検討した上で、これに該当しない場合には、一時所得に該当するかどうか、さらには雑所得に該当するかどうかを検討するのが相当というべきである。

そこで、以下、このような観点から本件権利行使利益の所得区分について検討を進めることとする。

(3)  本件権利行使利益が給与所得に該当するかどうかについて

ア 給与所得の意義について

(ア) 所得税法28条1項に規定する給与所得、すなわち「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(給与等)に係る所得」とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として受ける給付をいうものと解される(最高裁昭和56年判決参照)。

このような給与所得の意義からすれば、一定の所得が給与所得に該当するといえるためには、①雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して労務を提供したこと(雇用契約類似原因関係の存在)、②当該労務の対価として受ける給付であること(労務の対価性の存在)、が必要であり、かつ、それで十分であるというべきである。

(イ) そして、被告が本件権利行使利益の給与所得該当性の基礎として主張している労務とは、原告が日本A社に対して提供した労務であるから、本件においては、①当該労務が雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者である日本A社の指揮命令に服して提供したものであるかどうか、②本件権利行使利益が当該労務の対価としての性質を有するものであるかどうか、を検討すべきであるということができる(なお、原告は、①の雇用契約類似原因関係の存否の点に関し、所得税法上の給与所得は「使用者から支給される給付」であることを当然の前提としているとし、この立場から論旨を展開している(争点に関する原告の主張(2)エ)。

しかし、当裁判所はそのような限定的な解釈をとるものではないので、労務の対価の支給者と使用者の同一性の要否の点については、別途、後記エにおいて、当裁判所の見解を示すこととする。)。

イ 雇用契約類似原因関係の存否について

前記基礎となる事実2のとおり、原告は、本件ストック・オプションが付与された時期を含め、平成10年まで、日本A社の代表取締役社長を務めていた。そして、原告が、日本A社に勤務中、日本A社との雇用契約等の契約関係に基づき、これによる義務の履行として同社の指揮命令に服して同社に労務を提供していたことについては、当事者間に争いがない。

会社とその役員との間の委任契約も雇用契約に類する原因に当たるというべきであるから、原告は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者である日本A社の指揮命令に服して労務を提供していたものと認めることができる。

ウ 労務の対価性の存否について

(ア) 所得税法は、上記(2)ア、イのように、租税負担の公平を図るために、所得をその源泉ないし性質に応じて区分し、それぞれの担税力に応じた課税を実現しようとしているところである。

そして、労務は、一般に、これにより利益を受ける者による当該労務に対する給付を期待することができるという点において、所得の源泉としての性質を有するものであるところ、所得税法は、その所得区分において、このような労務に基因する勤労性所得のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供するという労務の性質と、これに対応する担税力に着目して、そのような非独立的・従属的労務の対価としての性質を有する所得を給与所得として規定したものと解される。

そうすると、本件において労務の対価性を問題とする意義は、本件権利行使利益が、上記のような労務の有する所得の源泉としての性質の現れとして、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付である、といえるかどうかを識別することにあるということができる。

(イ) ところで、上記のような本件における労務の対価性の意義を踏まえて、本件権利行使利益が労務の対価としての性質を有するものであるかどうかを検討する前提として、本件権利行使利益の給付者が誰であるかを確定する必要がある。

そこで、まず、この点について検討すると、ストック・オプションの被付与者は、付与会社との間で締結されたストック・オプション付与契約に定めるところに従って、ストック・オプションを行使して付与会社から株式を取得することにより、当該株式の時価と権利行使価格との差額に相当する権利行使利益を得るところ、反対に、付与会社は、この権利行使により、市場において売却ないし発行すれば時価相当の経済的利益を得ることのできる自社株式を、被付与者に権利行使価格をもって取得させることにより、当該権利行使利益の額に相当する経済的利益を得る地位を失うという関係にあるのであるから、ストック・オプションの権利行使利益は、権利行使に伴いストック・オプションの付与会社から被付与者に移転するものというべきであり、これは、ストック・オプション付与契約に基づいて付与会社が被付与者に対してした給付であるということができる。そして、このようにみることは、もともと、ストック・オプション制度自体が長期インセンティブプランとしての報酬制度の一類型と位置付けられるものであることや、後記(ウ)b、cのような本件A・プランの内容等から窺われるストック・オプション付与契約を締結した当事者の意思にも整合するものというべきである。

確かに、ストック・オプションの権利行使利益の額は権利行使時における当該株式の価格によって変動するものであるから、権利行使利益の額は、被付与者がいかなる時点でいかなる量のストック・オプションを行使するかによって最終的に定まるものであるが、ストック・オプションの付与会社は、付与契約に従い、このように確定した権利行使利益を被付与者に給付すべき地位にあるのであって、上記の点は、権利行使利益の給付者が誰であるかについての認定判断を何ら左右するものではない。

また、この点に関し、原告は、法人税法施行令136条の4の規定との整合性を問題とするが(争点に関する原告の主張(2)ウ)、同条は、内国法人が、平成13年法律第79号による改正前の商法210条ノ2第2項の決議に基づき内国法人とその役員又は使用人との間に締結された契約によりこれらの者に対して与えられた株式譲渡請求権を行使した者に対し、あらかじめ定められた譲渡価額(権利行使価額)をもって自己の株式を譲渡した場合における、当該内国法人の所得の金額の計算の方法について、このような株式譲渡請求権に係る自己株式の譲渡に関する法人税課税の合目的性の観点から、その取扱いを明らかにした規定にすぎないのであって、同条の規定を論拠として、被付与者が得た経済的利益であって、所得税課税の対象となる所得としてのストック・オプションの権利行使利益に関し、課税の前提となる所得区分の観点から考察した上記のような権利行使利益の給付者についての認定判断が不当であるとすることもできない。

以上のところよりすれば、本件権利行使利益は、本件ストック・オプションの付与会社である米国A社が、被付与者である原告に対して給付したものというべきである。

(ウ) そこで、次に、本件権利行使利益が、原告が日本A社に対して提供した労務の対価としての性質を有するものといえるかどうかについて検討する。

本件権利行使利益が、上記(ア)のように、労務の有する所得の源泉としての性質の現れとして、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付であるといえるかどうかを判断するについては、本件権利行使利益の給付の原因となった本件ストック・オプション付与契約の性質ないし目的についての検討が基本であることはいうまでもない。また、本件においては、上記のように、本件権利行使利益を原告に給付した者が、原告の使用者ではない米国A社であるという特質が認められるところ、このような本件における給付の特質に照らすと、本件権利行使利益が、労務の有する所得の源泉としての性質の現れとして、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付であるといえるためには、給付者である米国A社において、原告の当該労務により自らが得る利益を認識し、当該労務に対応するものとしてした給付であることが必要であると解するのが相当である。

そこで、以下、上記のような観点から、検討を進めることとする。

a 前記基礎となる事実2(3)のとおり、本件A・プランによれば、米国A社のストック・オプションは、被付与者に対し、Aグループ各社での勤務を続けることを促し、Aグループ各社の成功に対する関心を高めるための動機を提供することを目的としている。

そして、本件A・プランに基づくストック・オプションは、その付与日から1年が経過するまで行使できず、また、付与日から1年後ないし4年後にかけて、行使可能な範囲が毎年25パーセントずつ段階的に増加するものとされている。さらに、このストック・オプションは、原則として譲渡できず、被付与者のみが行使することができ、また、死亡や定年退職等の一定の場合を除き、原則として、Aグループ各社との雇用契約等が終了すれば、権利が消滅することとされている。

b このように、本件A・プランが、原則として、ストック・オプションの譲渡を禁止して権利行使を被付与者に限定し、かつ、雇用契約等が終了すれば権利が消滅することとして権利行使時において被付与者がAグループ各社と雇用関係等にあることを要求しているのは、米国A社において、被付与者が、権利行使利益を得るために、付与時から権利行使までの間、フオードグループ各社との雇用契約等を継続し、労務を提供することを企図しているからであるということができる。すなわち、被付与者は、ストック・オプションの付与による経済的利益を取得するためには、自ら権利を行使する必要があり、しかも、この権利を行使するためには、付与時から権利行使までの間、Aグループ各社との雇用契約等を継続し、労務を提供する必要があるから、米国A社としては、このような内容のストック・オプションを有能な人材に付与することにより、有能な人材が権利行使利益を取得するためにAグループ各社との雇用契約等を継続し、労務を提供することを合理的に期待することができるのである。本件A・プランに基づくストック・オプションが、付与日から一定期間は行使できず、また、その後も行使可能な範囲が段階的に増加するものとされているのも、雇用契約等の期間に応じて権利行使の可能な範囲が増加するものとすることで、米国A社において、被付与者が、権利行使利益を取得する目的で、特に権利行使が可能になるまでの期間、雇用契約等を継続して労務を提供することを意図しているからというべきである。

また、ストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及び利益の額は、付与会社の株価の変動に応じて変化するところ、米国A社としては、その従業員等にストック・オプションを付与することにより、被付与者が、より多額の権利行使利益を取得しようとしてより有益な労務を提供することを期待しているものといえるが、このことは、本件のように、被付与者が米国A社がその全株式を保有している子会社の従業員等である場合にも、同様にいえることである。すなわち、会社の業績が当該会社の株価の基本的な形成要素であることはいうまでもないが、その全株式を保有する子会社の業績自体も、当該親会社の株価の形成要素となるものであることから、子会社である勤務先会社の親会社の米国A社からストック・オプションを付与された者は、勤務先会社の業績向上のために、勤務先会社に対しより有益な労務を提供することが動機付けられる関係にあるからである。米国A社が、長期インセンティブ報酬の一種として発達したストック・オプションを、子会社の従業員等にも付与しているのは、このような効果を企図したものと解するのが合理的である。

そして、本件A・プランにおいて、米国A社のストック・オプション制度の目的として、被付与者に対し、Aグループ各社での勤務を続けることを促し、Aグループ各社の成功に対する関心を高めるための動機を提供することを掲げているのは、本件A・プランに基づくストック・オプションが上記のような性質を有しているからにほかならないのである。

c 本件A・プランに基づく本件ストック・オプションも、米国A社において、原告が、日本A社との雇用契約等を継続し、労務の提供をすること、また、日本A社に対しより有益な労務を提供することの動機付けとなることを期待して、付与したものと認めることができる。

そして、米国A社が原告に対し本件ストック・オプションを付与したのは、原告の日本A社に対する労務の提供が、自社の利益になると認識していたからであることは明らかである。すなわち、米国A社は、日本A社の全株式を保有する親会社であり、実質的に日本A社の経営を支配しているものであるから、日本A社の業績の向上は米国A社の業績の向上につながる性質を有しており、このような両社の関係からすれば、原告が日本A社に対して提供する労務について、米国A社の利益をもたらす性質のものと認識することに合理性を肯定することができるのであり、米国A社が原告に対し本件ストック・オプションを付与したのは、このような自社の利益に着目したものと認められるのである。

また、既に述べたとおり、本件A・プランに基づく本件ストック・オプションの内容として、原告が権利行使利益を取得するためには、原則として、権利行使時まで日本A社との雇用契約等を継続し、労務を提供することが条件とされており、原告は、日本A社に対して権利行使時まで労務の提供を継続することによって、権利行使利益を取得することができるという関係にある(本件において、原告は、日本A社を退社後に権利を行使したものであるが、この場合には、本件A・プランで雇用契約等終了後も一定期間の権利行使が認められる事由によって雇用契約等が終了するまで、日本A社に対して労務の提供を継続することによって、権利行使利益を取得できるという関係にある。)。そして、上記のように、このような原告の労務の提供及びその継続に対する期待が、米国A社が原告に対し本件ストック・オプションを付与した理由であることからすれば、本件ストック・オプションの付与は、米国A社において、その権利行使利益を、原告の日本A社に対する労務の提供及びその継続に対応するものとして給付しようとする趣旨のものということができる。

そうであるとすれば、本件ストック・オプションは、米国A社において、原告が日本A社に対し継続して提供する労務(具体的には、本件ストック・オプションの各付与時から雇用契約等終了時までのもの。)により自らが得る利益を認識し、原告に対し、当該労務に対応するものとしての権利行使利益を給付しようとする趣旨で、本件ストック・オプション付与契約に基づき付与したものと認めることができ、したがって、このような本件ストック・オプションの行使により原告が取得した本件権利行使利益は、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付であると認めることができる。すなわち、本件権利行使利益は、原告が日本A社に対して提供した労務の対価としての性質を有するものというべきである。

d この点について、原告は、権利行使利益はストック・オプションの被付与者の精勤以外の様々な要因による株価の変動と被付与者の投資判断によって定まるものであるから、本件権利行使利益は原告の労務の対価とはいえないとの趣旨の主張をする(争点に関する原告の主張(2)オ(イ))。

確かに、ストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及び利益の額は、様々な要因による株価の変動と被付与者の権利行使の時期によって最終的に定まるものである。

しかし、ストック・オプションは、このように権利行使利益の額が株価の変動に対応して変化することから、被付与者が有利な時期を自ら選択して権利を行使することができるという魅力を有するのであり、そうであるからこそ、米国A社は、同社のストック・オプションについて、原則として、譲渡を禁じるとともに権利行使時までの雇用契約等の継続を要求して、権利行使利益をもって、被付与者が権利行使時まで勤務先会社との雇用契約等を継続し、労務を提供する誘因たらしめているのである。

また、ストック・オプション制度がインセンティブ報酬制度として機能しているのは、被付与者の労務の提供が権利行使利益の額の形成要因の一つであるということが関係者間の共通認識となっているからであって、それゆえ、被付与者が勤務先会社に対するより有益な労務の提供を動機付けられるからである。そして、本件のような子会社の従業員等の労務の提供が親会社の株価の変動要因として寄与する程度は相対的に低いということを否定できないが、このことは、当該ストック・オプションの精勤のインセンティブとしての機能の程度の問題にすぎないのである。

このように、権利行使利益の発生の有無及び利益の額が株価の変動に対応して変化するということは、むしろ、権利行使時まで、原告が日本A社との雇用契約等を継続し、労務を提供する誘因として機能するものということができるのであって、米国A社は、まさにそのような性質の権利行使利益を原告の労務の対価として給付したものというべきであり、権利行使利益の額が様々な要素によって変動することをもって労務の対価性を否定する論拠とすることはできない。

なお、これまで述べてきたことからすれば、ストック・オプションの権利行使利益が、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務に基因する給付として、当該労務の対価としての性質を有するものといえるためには、権利行使利益の額と被付与者が提供した労務の質ないし量との定量的な相関関係を必要と解すべき合理的な理由がないことは明らかである。

e また、原告は、労務の対価性が認められるためには、対価の給付者との関係で当該労務の提供が義務付けられているか、又は事実として給付者に対して当該労務を提供したことが必要であるとも主張する(争点に関する原告の主張(2)オ(ウ))。

しかし、労務の提供を直接受ける者以外の者であっても、当該労務により利益を受ける立場にある者が、その利益を認識し、当該労務の提供をさせるために、あるいは提供された労務に対して一定の給付をすることは、取引社会の通念に照らしても何ら不合理な経済活動とはいえないところである。そして、このような給付が、当該給付の原因となった法律関係の性質いかんによっては、所得税課税の観点から、給与所得における労務の対価としての性質を有するものと評価される場合があり得ることは当然であって、そのような場合において、原告が主張するような要件を加重することにより、当該給付に対する給与所得としての課税を否定する合理的な理由は見出し難いというべきである。

そして、本件における給付である本件権利行使利益は、上記cのとおり、米国A社において、原告が使用者である日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供する労務により自ら得る利益を認識し、本件ストック・オプション付与契約に基づき、原告に対し、当該労務に対応するものとして、本件ストック・オプションを付与することにより給付したものであって、これが、給与所得における労務の対価としての性質を有するものである以上、原告が、当該労務を直接米国A社に提供していないことをもって、本件権利行使利益の給与所得該当性を否定することはできないというべきである。

エ 労務の対価の支給者と使用者の同一性の要否について

(ア) 上記イ、ウのとおり、原告は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者である日本A社の指揮命令に服して労務を提供し、当該労務の対価として、米国A社から本件権利行使利益の給付を受けたものであるから、上記アの説示よりすれば、本件権利行使利益は、給与所得に該当することになる。

しかし、原告は、所得税法上の給与所得は「使用者から支給される給付」であることを当然の前提としているとし、この点からも本件権利行使利益は給与所得に該当しないとの趣旨の主張をする(争点に関する原告の主張(2)エ)ので、労務の対価の支給者と使用者が同一であることが、当該対価が給与所得に該当するための要件であると解すべきかどうかについての当裁判所の見解を示しておくこととする。

(イ) 既に繰り返し述べてきたとおり、所得税法は、租税負担の実質的公平を図るため、所得をその源泉ないし性質に応じて分類し、それぞれの担税力に応じた課税を実現しようとしているところ、所得区分上、給与所得は、労務に基因する勤労性所得について、その所得の源泉である労務の性質に着目し、勤労性所得のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して労務を提供したことに基因する所得について規定したものと解するのが相当である。そして、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として受ける給付は、それが使用者以外の者によるものであったとしても、そのような労務の性質と、これに対応する担税力に着目して給与所得という区分を設けた法の趣旨に照らせば、これを使用者からの給付の場合と区別して取り扱う合理的な理由はないというべきである。

もとより、所得税法28条1項は、文言上、給与等の支給者を使用者に限定しているものではなく、同条2、3項の給与所得控除制度も、給与所得が雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価であるという性質に着目した課税方法の定めと解されるのであって、これが使用者からの給付のみを前提とした規定であると解すべき根拠を見出すことはできない。また、最高裁昭和56年判決も、業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するに際し、使用者と給付者が一致する通常の事案において、当該所得の所得区分の判断の基準とすべき労務の提供の態様について判示したものであって、使用者以外の者からの給付は給与所得の範囲から当然に除外されることを前提とした判断であるということはできない。

確かに、使用者と給与の支給者とは、通常の場合、一致するものであるが、それは、一般の取引社会において、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価を使用者以外の者が支給することが経済的合理性に適合するという利益状況が存在することが少ないからにすぎない。仮に、給与所得に該当するための要件として「使用者から支給される給付」であることが必要であるとすれば、本件のように、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して労務を提供したことにより、当該労務の対価としての性質を有する給付を受けた場合であっても、その給付者と使用者との同一性が肯定されない場合には、給付の給与所得該当性が否定され、その結果、その余の所得として(それは、労務の対価性が否定されない以上、一時所得に該当することはなく、結局、雑所得として取り扱われることになろう。)課税されることになるが、給付者が使用者ではないという理由のみによってこのような区別をする合理的理由は見出し難いといわなければならない。

(4)  小括

以上のとおり、本件権利行使利益は、給与所得に該当するものというべきである。

(5)  現行の租税関係法令の規定との整合性について

なお、付言すると、所得税法施行令84条は、商法上のストック・オプションについて、これを与えられた場合における当該権利に係る所得税法36条の収入金額は権利行使利益によることとして、権利行使利益をもって所得税の課税の対象とすることを明らかにしている。

そして、租税特別措置法29条の2は、商法上のストック・オプションのうち、同条が定めるいわゆる税制適格型のものについて、権利行使による株式の取得に係る経済的利益(権利行使利益)については所得税を課さないこととして、課税の繰り延べを認めているが、同条が租税特別措置法第2章「所得税法の特例」、第3節「給与所得及び退職所得」の中に置かれていることからすれば、同条は、権利行使利益が給与所得として課税される性質のものであることを前提にして、その課税上の特例を設けたものと解することが自然である。また、同条が付与会社がその発行済株式の総数の100分の50を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係にある法人の取締役又は使用人等に付与されたストック・オプションについても、上記非課税特例の対象としていることからすれば、同条は、付与会社と被付与者との間に直接の雇用契約等がある場合に限らず、このような子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに係る権利行使利益についても、給与所得に該当することを前提にしているものと理解されるところである。

これに対し、本件ストック・オプションは、外国法人から我が国の子会社の従業員等に付与されたものであるが、その権利行使利益について、上記のような商法上のストック・オプションの場合と比較して、所得税課税における所得区分上、有意な性質の差異を見出すことはできない。

そうであるとすると、当裁判所は、既に説示してきたように、本件ストック・オプションに係る本件権利行使利益の所得区分の問題について、主として、本件ストック・オプション付与契約の性質や所得税法28条が規定する給与所得の意義についての検討に基づいて、本件権利行使利益が給与所得に該当するとの判断に至ったものであるが、この判断は、上記のような現行の租税関係法令の規定から導き出される所得税課税におけるストック・オプションに係る権利行使利益の位置付けとの関係においても整合性を有しているものということができる。

2  本件各通知処分の適法性

前記第4のとおり、原告の本件係争各年分の所得税の課税根拠について、本件権利行使利益の所得区分を除けば当事者間に争いはないところ、前記1のとおり、本件権利行使利益は給与所得に該当するものであり、これを前提とした原告の本件係争各年分の所得税に係る課税総所得金額及び納付すべき税額は、別紙課税根拠表の各年分の課税総所得金額及び納付すべき税額欄にそれぞれ記載のとおりの額と認められる。

これらの額は、いずれも原告の本件係争各年分の所得税の確定申告に係る額を上回るから、原告の各更正の請求について更正をすべき理由がないとしてされた本件各通知処分は、いずれも適法である。

第8  結論

以上のとおりであって、原告の本件各請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 裁判官 貝阿彌亮)

(別表1)

通知処分の経緯(平成10年分)

file_2.jpgKD |e it onk|e moon mo c|R mk cle em OR RB PARLE SAO | SenRLAE SAIS | HERRIOAE SASL 2 oR aT | Pai2seLLASOR | PRei2eI2AITA Br & sm] 200,282,640 | 118, 964,060 118, 964, 060, 118, 964, 060 em BO ee) 199,18,50 132 — spi 69,828, 199 199 30,628,199 wean em) iyi | rion [RETSERB) 4104 129 1,164,129 SOR Osa ae Ri @BiO eam] 1,003,153 | 1,609,153 1,609,158 109,15: Masi SHAoR] 198,599,000 | 117,270,000 117,270,000 rot mB wl 916,400 216, 400 216, 400 21, 400 ait + <= sim] 1,313,500 | 40,654, 40, 654, 000 CH) ORR, BARE 2822 BOR

(別表2)

通知処分の経緯(平成11年分)

file_3.jpgEP |e em & ee ee a a a ee es ar PRR 3A OF | SEnRISAE 3A 7A | HEnRIOAE fl2TA | senRISKE BALOR | vPrRISHELLALAA ARIE BADIA a & w o77,sss | 68,864, 799 68, 864, 749 68, 864, 739 SAO 2 208 2,088, 000, 2,088, 000 2,088, 000 HO eee 64,831, 112 64, 831, 112 64, 891, 112 R ROS 945,627 Ete ah eH eH RRERO SHE 702 2,919, 702 FRAN SASS 658, 00 00 66, 545, 000 toe MR wl 9,659,200 ¥-< = RM! 39,506,100 | 21,881, 600 21,881, 600 21, 881, 600 7H, HARE 2 LOA LBOMTE LS 2IO1 ROBMCHS,

(別表3)

通知処分の経緯(平成12年分)

file_4.jpg(ite «BD a eee ee ee a ee ar PRISE 3A 7A Paks oA2TA | PoRIGKE BALOR | Pots LALA | PrIseLOR LZR | Pree BAZ mF & & wm] 18,042,630 | 11,598,208 298 298 4 RIAD S| 16,992,479 ° ° a HBO Stet | 1,950,151 RH RA RRtROsH eR! 1.5 wen sm AwI| 17,423,000 | 10,019, 000 10, 019, 000 10,019, 000 2,919, 200 2,919, 200 2,919, 200, wat <2 am 1, 9, S082 wah we Ho, MAROC MST SRM HS

別紙

課税根拠表

file_5.jpgiti + FAD SPAR OF SFR LE FR 2 aE #5 8 Oe 199,423,817 125, 204,318 17,004, 10 ere eca 180,473,774 130, 249, 98 19, 709, 590 LOROBEMAM 31,285, 508 3,240, 100 - ere Oo & & 1,164, 129 1,945,627 1,950,151 e oF 8 & & 200, 587, 946 127, 149, 948 19,974, 261 ree R OH 1, 693, 153 2,319, 702 1,518, 650 RR RF 8 2H 198,894,000 124, 830,000 17,455,000 wet + < =F RB 81, 466, 000 39, 569, 800 Beereemiens § 93, 417,000 49, 697, 100 4,006, 500 s wo om RH 57,000 - = Qle 8 eR mt - 250,000 250, 000 t+ £€ # R 916, 400 3, 659, 200 2,919, 200 RR ee mM 10, 977, 581 218, 100 - @ 1 BORE ORML, GAMO AEH BARE 2 8 A 3 RULE OHS TERE eR LEROSM CHS, 2 WRORTAEMIE, IBEBANME1 1 84 1 ROBLEITLY 100 OFA OMRE MD HKD SH CHS, 3 MMTSE BRIE, EL 1 94 ROMVEILED 10 OPRBOMIME DY CRED SCH A FAR 1 OFF FOR BIRBLERS, ER 1 OFT OMBIMBLD Eo MORNE 4 ROME E BbOTHS, 5 PRL LERROGAR 2S OMB ASICS SRB, MRO RICE CR BCMA S BARR OVEN Bi RANMA IC BPS DAR A OR IA LC 6 FAL LRA ROUER 1 2 es OTe MRA MRC RIMICLSLOTHS. ChS,

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例