横浜地方裁判所 平成13年(行ウ)66号 判決 2003年10月01日
原告
株式会社サメジマコーポレーション
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
出縄正人
同
福山靖子
同
新保雄司
各事件被告
神奈川県高津県税事務所長 千葉隆三
第3事件被告
神奈川県緑県税事務所長 宮本弘文
被告ら訴訟代理人弁護士
庄司道弘
庄司道弘訴訟復代理人弁護士
青木康郎
被告ら指定代理人
小島誉寿
同
能勢祐二
同
長谷川美視
同
人美学
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第6 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 本件規定の性格について
地方税法700条の3第1項及び第2項は、特約業者又は元売業者からの「軽油」の引取りについて軽油引取税を課する旨を規定している。この「軽油」の意義については同法700条の2第1項1号が規定するところであり、軽油とは、「温度15度において0.8017をこえ、0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい、政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。」としている。
次に本件規定(地方税法700条の3第3項)は、1項及び2項に規定する場合のほかにも、「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で、1気圧において温度15度で液状である物を含む。)」であって、「軽油」又は「揮発油」(揮発油税法に規定する揮発油を指す。)以外のものを軽油引取税の課税対象とする旨を定めている。すなわち、本件規定は、その体裁それ自体からしても、軽油引取税の課税物件を、「軽油」又は「揮発油」以外の「炭化水素油」に拡大する旨を定めた規定であることは明らかである。
(2) 本件規定にいう「炭化水素油」の意義について
地方税法700条の2第1頂第1号の「軽油」の定義に用いられている「炭化水素油」の意義それ自体については、法令上、格別の定義規定はおかれていない。しかし、これをその文言に即して自然に理解しようとすれば、それは「炭化水素を主成分とする油」を指すものと解釈するのが常識的であるというべきであり、事実、「地方税法及び同法施行令に関する取扱についての依命通達」においても、「炭化水素油とは、炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で、常温、常圧において液状をなしているものをいい、単一体の炭化水素化合物はこれに含まれない」ものとされ、課税実務においてはこの解釈に基づく運用がされてきたところである(〔証拠略〕)。また、揮発油税法が規定する「揮発油」の定義に用いられている「炭化水素油」の意義についても、「軽油」におけるのと同様に解され、運用されてきたものである〔弁論の全趣旨〕。
これに対し、本件規定は、上記(1)のように、軽油引取税の課税物件を「軽油」又は「揮発油」、すなわち、上記の「各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物としての炭化水素油」であって、それぞれの定義規定において比重等により更に限定された範囲の炭化水素油である「軽油」又は「揮発油」に含まれない炭化水素油にも拡大しようとして設けられた規定である〔弁論の全趣旨〕。そして、本件規定は、同規定において課税物件としようとする「炭化水素油」に該当するものとして、わざわざかっこ書を設け、「炭化水素とその他の物との混合物…を含む」と注記したところである。
上記のような検討を踏まえて、本件規定を合理的に解釈するとすれば、原告が主張するように、本件規定にいう「炭化水素油」を「炭化水素とその他の物との混合物」も含め、「炭化水素を主成分とする油」を指すものと解する余地はないといわざるを得ない。
すなわち、上記の地方税法を改正して軽油引取税の課税物件を拡大しようとした経緯や本件規定の文言に照らせば、課税物件である「炭化水素油」に関し、わざわざかっこ書を設け、「炭化水素とその他の混合物…を含む」と注記した趣旨は、従前、単に「炭化水素油」というと炭化水素を主成分とする油を指すものと解されてきたところから、本件規定における「炭化水素油」は、これまでとは異なり、炭化水素を主成分とする油に限られず、広く炭化水素とその他の物との混合物である油を指すものであることを明らかにしようとしたものと解するのが合理的であるからであり、原告が主張するように本件規定を解するとすれば、本件規定において課税物件としての「炭化水素油」の意義について、わざわざ「炭化水素とその他の物との混合物」を含むものと注記したことの意味を合理的に説明することはできないというほかはないからである。
(3) 地方税法の改正と「安全燃料」ないし「コーレス燃料」との関わりについて
原告は、昭和45年の地方税法改正は、「安全燃料」及び「コーレス燃料」に代表されるような自動車用燃料も軽油引取税の対象とするために行われたものであり、それは、炭化水素を主成分とするもの及び単一の炭化水素化合物を対象とするものであるから、本件燃料は課税の対象とはならない旨の主張をする(前記第5、1(2)ウ)。
そこで、以下、念のため、上記地方税法の改正の経緯についてみてみることとする。
「安全燃料」は、灯油が45パーセント程度、トルエンが50パーセント程度、メタノールが5パーセント程度の混合物であり〔証拠略〕、炭化水素化合物の割合は95パーセント程度となる。一方、「コーレス燃料」は、トルエンを主成分とする燃料で、単一の炭化水素化合物である〔証拠略〕。
そして、上記(2)のように、地方税法に基づく軽油引取税の課税関係においては、上記依命通達により、「炭化水素油とは、炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で、常温、常圧において液状をなしているものをいい、単一体の炭化水素化合物はこれに含まれない」ものとされ、この解釈に基づく運用がされてきたところから、「安全燃料」は炭化水素化合物を主成分とする燃料であったものの、炭化水素ではないメタノールが5パーセント程度混入されていたため、これが上記の「炭化水素油」に含まれるかどうか疑義が生じなくもなく、また「コーレス燃料」は、トルエンという炭化水素化合物を主成分とするものではあるが、単一の炭化水素化合物によって構成されたものであったため、上記通達に基づく解釈・運用の上ではこれに対する軽油引取税の課税は困難と考えられるというような状況が生じたのであった。このように「安全燃料」や「コーレス燃料」といった自動車用燃料の出現に件い、そのような自動車用燃料に対する軽油引取税課税の可否という問題が生じ、これが地方税法の改正への動きの一つになったとの事実は、これを認めることができるのである〔弁論の全趣旨〕。
しかし、「「安全燃料」等に対する軽油引取税の取扱いについて」昭和44年5月23日各都道府県税務主管課長あて自治省府県税課長内かん)においては、「軽油引取税の取扱いについては、炭化水素化合物以外のものの混人量が多量である燃料に対する取扱いをも含め総合的に課税の方針を定める必要があり、目下この点について検討中」であるとあるのであって、当時の自治省は、「安全燃料」の取扱い以外にも、炭化水素化合物以外のものの混入量が多量である燃料に対する取扱いも検討していたことが認められるのである〔証拠略〕。そして、昭和45年の地方税法の改正に係る国会審議の過程における、昭和45年4月9日の、参議院地方行政委員会において、説明員から「軽油引取税の目的からいたしまして、これは御承知のように目的税でございまして、自動車の運行に使う油であれば全部かけるということでございまして、これらのものはいろいろな形をとっておりますけれども、結局は自動車の燃料になるわけでございますので、そういう観点から、自動車の燃料になるものはすべて自動車保有者の段階においてかけるということにしたわけでございます。という法改正の趣旨についての説明がされていることが認められるのである〔証拠略〕。
これらの昭和45年の地方税法の改正に関する立法事実ないし経緯よりすれば、この法改正は、「安全燃料」及び「コーレス燃料」といった特定の種類の自動車用燃料を課税の対象に加えようとした趣旨のものではなく、むしろ、「自動車の燃料になるもの」については広く軽油引取税をかけていこうとする趣旨であったと認められるところである。
したがって、この点に関する原告の主張も採用することはできない。
(4) 本件規定の課税物件について
上記のとおり、本件規定の文言、法改正の経緯、道路に関する費用に充てる(地方税法700条参照)という軽油引取税の道路損傷負担金的な性格を総合的に判断すれば、本件規定の課税物件には、炭化水素化合物を主成分としない自動車用燃料も含まれると解すべきであることは明らかである。
そうすると、本件燃料の成分ないし性状は前記第3、2のとおりであるから、本件燃料は、本件規定の課税物件に該当するものというべきである(なお、本件燃料は、炭化水素化合物を主成分とするものではないから、揮発油には該当しない。)。
2 争点2について
本件規定は、「燃料炭化水素油」を自動車の燃料として販売した場合において、その「販売量」を課税標準とする旨を明記しており、文言上、原告が主張するような炭化水素を含有する割合に応じた限定的な課税を予定しているものと解する余地はない。
また、軽油引取税課税は炭化水素部分にその担税力を求めている旨の原告の主張自体が根拠に乏しいというばかりでなく、実質的な観点からしても、軽油引取税の道路損傷負担金的な性格からすれば、その販売した自動車用燃料の全量について課税するとすることが不当であるとは認め難いというべきである。
したがって、炭化水素を含有する割合に応じた限定的な課税がなされるべきという原告の主張を採用することはできない。
3 争点3について
本件規定は、燃料炭化水素油の販売に関して軽油引取税を課すのは、これを自動車の「内燃機関」の燃料として販売した場合と定めているところ、「内燃機関」とは、「外燃機関」に対する語であって、シリンダー内で燃料を爆発燃焼させ、その熱エネルギーによって仕事をする原動機をいうのであり〔弁論の全趣旨〕、ガソリンエンジンもこれに含まれるものである。また、軽油引取税は、上記のとおり、道路に関する費用に充てるための税であって、道路損傷負担金的な性格を有するものである。
このような軽油引取税の課税要件に関する本件規定の文言や軽油引取税の性質等に照らせば、本件規定にいう自動車とはディーゼルエンジン車のみを指すものと限定的に解釈すべきであるとする原告の主張は合理性を欠くものであって、採用の限りではない。
4 まとめ
以上のとおりであるから、本件燃料は本件規定の課税物件に該当し、別紙1ないし7の各課税標準量欄に記載された数量が自動車の内燃機関の燃料として販売されたのであるから、その数量について軽油引取税が課せられることになる(なお、別紙1ないし7の各課税標準量欄に記載された数量は、原動機付自転車の燃料タンクの容量が最大で14リットルであることを考慮して、原告の本件燃料の販売のうち、1回当たり14リットル以下の販売を除外して、算出されているものと認められる〔証拠略〕)。
したがって、本件各課税処分は適法というべきである。
第7 結論
上記のとおりであって、原告の本訴請求は、すべて理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 堤雄二)