横浜地方裁判所 平成14年(ワ)1158号 判決 2003年9月12日
主文
1 被告は、原告に対し、3345万3132円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は、原告に対し、3352万0752円及びこれに対する平成12年8 月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は、水道事業者である被告が所有する水道施設である配水管(いわゆる本管)から分岐して、水道水の供給を受ける水需要者の使用場所(土地建物等)まで水道水を引き込む水需要者所有の給水装置である給水管(いわゆる引込管)が破裂した結果、それに近接して埋設されていた原告所有のガス管に穴が空き、ガス管内に水が浸入し、ガスの供給が停止する事故が発生したことから、原告が、給水管は、被告が事実上管理するものであるから「公の営造物」にあたり、これにつき被告の設置管理に瑕疵があったため、上記事故が発生したと主張して、<1>国家賠償法2条1項に基づき、同事故によって原告が被った損害の賠償を求め、また、<2>上記破裂箇所の近隣地域で原告からガスの供給を受ける第三者(以下「ガス需要家」という。)が、上記事故によるガスの供給停止等により受けた損害を、原告が被告のためにする意思をもってガス需要家に弁済したとして、主位的に事務管理に基づく費用の償還を、予備的に不当利得の返還を求めて、<1>及び<2>の合計3352万0752円及びこれに対する平成12年8月1日(事故の後もしくは催告日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 争いのない事実等
(1) 当事者
原告は、ガス供給等のガス事業を営む株式会社であり、被告は、水道法に基づき、横浜市内の水道事業を営むものである。
(2) 本件事故の発生
平成11年9月1日、横浜市栄区g町h丁目i番地j号先において、原告所有のガス管に穴が空き、ガス管の内部に水等が流入する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
本件事故は、公道の地下に埋設された被告所有の配水管(以下「本件配水管」という。)から分岐して、水需要者である私人の所有土地まで水道水を引き込む同人所有の給水管(以下「本件給水管」という。)が老朽化のために破裂して、水道水が噴き出した結果、破裂部分に近接して埋設されていた原告所有のガス管に対し、噴出した水道水に地下の土砂が混入したものが一定期間吹き付けられ(サンド・ブラスト現象)、これにより原告所有のガス管に穴が空き、そこから水道水と土砂がガス管内に流入したものである。
本件事故当時のガス管内の圧力が2.3キロパスカルであったのに対し、水道管内の圧力は600キロパスカルであり、ガス管内の圧力の約260倍にも及んだため、大量の水道水と土砂がガス管内に流入し、破裂箇所から北へ約280メートル、南へ約180メートル、東へ約60メートル、西へ約80メートルの範囲でガス管に水道水とこれに混入した土砂が流入し、水道水及び土砂の浸入を受けたガス管の総延長は約1400メートルに及んだ。また、本件事故により70軒のガス需要家へのガス供給が停止した。
3 争点
(1) 本件給水管は、国家賠償法2条1項の「公の営造物」にあたるか。
(原告の主張)
本件給水管の破裂箇所は、公道下に埋設された部分であって、本件給水管の所有者である私人が維持、管理することは不可能であること、被告はその方針として公道下の給水管の修理を全て無償で行っていること、本件事故に関しても水道の復旧工事の費用を本件給水管の使用者又は所有者に求償していないこと等にかんがみれば、本件給水管は、被告が事実上管理していたといえ、公の営造物にあたる。
(被告の主張)
公の営造物であるというためには、国又は公共団体が直接に公の目的に供している物であることが必要であるところ、そもそも給水管は、その使用者又は所有者である水需要者に水を供給するための水道管であり、もっぱら水需要者自身の用に供されるものであること、被告においては、横浜市水道条例17条により、給水装置の使用者又は所有者が、給水装置から水道水が漏水しないように管理する義務を課せられており、管理義務を怠ったために生じた損害の賠償は使用者又は所有者の責任とされていること等からすると、給水装置である給水管は公の目的に供される物ではない上、その管理義務はその使用者又は所有者にあり、被告は法律上も事実上も管理していないのであるから、給水管は公の営造物とはいえない。
(2) 本件事故と相当因果関係のある損害
(原告の主張)
ア 本件事故により、原告に下記の損害が生じた。
(ア) 外注工事費等(緊急修理分) 901万8967円
本件事故当日、本件事故により生じたガスの供給停止を回復するために、<1>掘削、水抜きによる緊急修理を行い、外注先の工事会社に対し支払った本体工事費及び管体材料費小計748万5157円並びに<2>トーヨコエンジニアリング株式会社との間で締結したガス漏洩に備えて作業班等を待機させることを内容とする契約及び交通誘導員を待機させること等を内容とする契約に基づき毎月支払っている費用のうち本件事故対応分を算出した金額153万3810円の合計額である。
(イ) 外注工事費等(本修理分) 1357万4042円
平成11年9月2日から同月29日にかけて、ガス管の完全復旧を行うために、外注により、掘削、水及び土砂の除去を内容とする本修理を行い、外注先の工事会社に対し支払った本体工事費、管体材料費及び道路復旧費並びに被告に支払った道路復旧事務監督費の合計額である。
(ウ) 社員出動費 467万4860円
本件事故に対応するために出動した原告社員の出動費及び車両損料を社内規定に基づき算出した合計額である。
(エ) 設計監督費 65万9234円
原告が本件事故による本修理の本体工事及び道路復旧工事を行ったことにより必要となった設計等の費用を社内規定に基づき算出した合計額である。
(オ) 諸経費 512万6878円
原告が、本件事故に対応するために要した諸経費を社内規定に基づき算出した合計額である。
(カ) ガスメーター修理費 25万4500円
本件事故により故障した原告所有のガスメーターの修理費の合計額である。
(キ) 深夜勤務者タクシー料金 1万8952円
本件事故当日に緊急出動した社員2名の帰宅時間が深夜に及んだために必要となったタクシー料金の合計額である。
イ 本件事故により、ガス需要家に下記の損害が生じた。
(ア) 機器修理費 12万5700円
本件事故により故障したガス需要家所有のガス機器の修理代金の合計額である。
(イ) 弁当代 6万7619円
本件事故によりガスの供給が停止したため食事の準備ができなくなったガス需要家に原告が配布した弁当の代金合計額である。
(3) 事務管理あるいは不当利得の成否
(原告の主張)
原告は、上記(2)イのガス需要家が被告に損害賠償請求し得る損害につき、義務なくして被告のために支払ったのであるから、事務管理が成立する。仮に被告のためにする意思が認められないとしても不当利得が成立する。
第3争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 証拠(甲A3の4、4の2、5の3、7の1、7の2、8、14の1の1ないし14の1の5、14の2及び14の3の各1ないし3、14の4の1ないし14の4の5、乙A1、3の7、5、証人 H 、証人 I、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告は、横浜市水道条例において、給水管を含む給水装置の使用者又は所有者は、水道水が漏水しないよう充分な注意をもって給水装置を管理しなければならないこと、その管理義務を怠ったために生じた損害の賠償は、使用者又は所有者の責任とすること、給水装置に異常があり、修繕を必要とするときは、その修繕に要する費用は、使用者又は所有者の負担とすること、ただし、被告の水道事業管理者が必要であると認めたときは、被告においてその費用を負担することができることを規定している。
イ 本件給水管の設置者であり当初の所有者である長銀不動産株式会社は、本件給水管を新設するにあたり、本件給水管について止水栓を開栓し盗水したり器具類を破損したりすることのないよう十分に管理することを被告に対し誓約している(乙A3の7)。
ウ 本件給水管の破裂箇所は、別紙図面のように本件給水管の所有者が所有する土地から見ると幅員6メートルの車道(公道)を挟んだ反対側の歩道(公道)下に埋設された部分に存し、上記歩道下に埋設された被告所有の直径150センチメートルの配水管に結合した部分からは上記私有地側に約15センチメートル離れた部分に存する。
エ 被告は、インターネット上で市民への広報活動を行っているが、そこにおいては、水道の故障の主な連絡先として、宅地内の漏水については水道局及び指定給水装置工事事業者としているのに対し、道路内の漏水については水道局のみとし、給水装置の使用者又は所有者に維持管理を要求する給水装置について、「各ご家庭内の給水管、止水栓及び蛇口などの器具をまとめて呼ぶ場合の名称」と定義している。また、被告は、昭和52年度から公道下の給水装置が漏水した場合についても、原則として無料で修理を行っている。
オ 被告は、平成7年6月18日に発生した本件事故と類似した事故に関し、その事故の被害者との間で示談するにあたって、事故の原因となった水道管は私人所有の給水管であるが、公道内にあって事実上被告が管理する水道管であり、公の営造物であると認められるため、被告が国家賠償法2条1項に基づく責任を負う旨の判断をしている。
カ 被告は、配管台帳図を管理しており、給水管のおおまかな場所と埋設時期については、検索すれば認識できるシステムになっている。
キ 被告は、本件事故後、本件事故発生か所である破裂した私人所有の本件給水管を持ち帰り、いったん管理下においたが、その後所在不明となっている。
(2) 争点についての判断
ア 被告が横浜市内の各家庭へ水を供給するために配水管を設置してこれを管理しており、配水管が市民に水を供給するという公の目的を有する公の営造物であることは当事者間に争いがないが、私人所有の給水管であっても、その設置場所及び瑕疵の部位から見て被告が事実上管理しており配水管と一体をなすと認められる部分については、配水管の延長部分として配水管と同様にこれを管理する義務を負うものと解するのが相当である。
本件給水管の破裂部は、本件給水管所有者の所有する土地から見ると幅員6メートルの車道を挟んだ反対側の歩道下に埋設されている部分に存するところ、一般に給水管の使用者あるいは所有者が公道下の給水管を管理することは非常に困難であり、また恒常的かつ積極的に管理する意思も有しないのが通常である。
これに対し、被告が、道路内の漏水についての連絡先は水道局のみであり、また給水管の使用者又は所有者に公道下の給水管についてまで維持管理を要求するものではないとの広報活動を行っていること、昭和52年度から道路内の漏水については原則として無料で修理していること、被告自身、平成7年発生の事故において、私人所有の給水管であっても、公道下に埋設されている場合は、事実上被告が管理する水道管であることを認めていること、本件事故後撤去した本件給水管を持ち帰り、いったん管理下に置いたが、本件給水管はその後所在不明となったことからすれば、被告には本件給水管の所有者が水需要者であることの認識が乏しいといわざるを得ないことに照らせば、被告には公道下の給水管を事実上管理する意思がうかがわれ、また、被告は、その管理する配管台帳図の検索により給水管の所在位置の概略と埋設時期を把握することができ、公道の掘削についても私人と同程度に困難であるとは到底いえず、公道下の給水管について事実上管理することが可能であることからすれば、公道下の給水管については被告が事実上管理するものというべきであり、かつ本件給水管の破裂箇所が水道施設である配水管の結合部から15センチメートル程度しか離れておらず、本件給水管の所有者である私人所有土地との距離と比較して相対的に極めて近接しているといえることからすれば、本件給水管の破裂部に対しては、本件配水管に対すると同様の注意を払わない限り、本件配水管そのものに対する十分な管理をしたことにはならないというべきであり、上記破裂部は、本件配水管の管理義務の範囲内に含まれると解するのが相当である。
イ(ア) これに対し、被告は、横浜市水道条例17条において、給水管の使用者又は所有者は、水道水が漏水することのないよう充分な注意をもって給水管を管理しなければならないこと、その管理を怠ったために生じた損害の賠償は、使用者又は所有者の責任とすること、給水管に異常があり、修繕を必要とするときは、その修繕に要する費用は原則として使用者又は所有者の負担とすることが規定されているから、そもそも給水管は公の営造物には当たらないと主張する。
しかし、前記のとおり、被告が公道下の給水管についてまで私人に恒常的かつ積極的な管理を要求しているとは考えにくく、公道下の給水管の修繕に要する費用については被告が原則として負担しているのが現状である。
(イ) また、被告は、本件給水管の設置者であり当初の所有者である長銀不動産が、本件給水管を新設するにあたり、十分に管理することを誓約したのであるから、本件給水管は、公の営造物には当たらないと主張する。
しかし、その誓約の内容は、本件給水管について被告に無断で止水栓を開栓し盗水したり、器具類を破損したりすることのないよう十分に管理することを内容とするものであって、一般的な管理まで誓約したものとは認められない。
ウ 以上より、本件事故は、公の営造物である配水管と同様に被告が管理義務を負う給水管部分が老朽化により破裂したことを原因とするものであるから、この給水管の管理の瑕疵は、公の営造物である配水管の管理の瑕疵と同一と評価することが相当である。
よって、被告は本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
2 争点(2)について
(1) 外注工事費等(緊急修理分)901万8967円(請求額認容)
ア 証拠(甲A6の1ないし3、15、甲B6ないし17(枝番とも)、37、40の1、証人H、証人J)によれば、原告は、本件事故当日である平成11年9月1日、ガス管に充満した水及び土砂を抜き、ガスの供給を回復するために、外注により、掘削や、水抜き等による緊急修理を行った。そして、下記のとおり、外注先の工事会社に対し、本体工事費及び管体材料費を支払った(ただし、<7>及び<8>については本体工事費のみ)ものであるが、下記外注工事費合計748万5157円は、本件事故により生じたガスの供給停止を回復するために必要な費用であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
<1>協和建興株式会社に対し、 169万2671円
<2>中央ガス株式会社に対し、 157万0501円
<3>株式会社関配に対し、 55万9415円
<4>株式会社日成に対し、 36万0035円
<5>リオテック株式会社に対し、 184万3741円
<6>トーヨコエンジニアリング株式会社に対し、115万5588円
<7>株式会社ハッコーに対し、 27万6286円
<8>トーヨコエンジニアリング株式会社に対し、 2万6920円
合計 748万5157円
イ 証拠(甲B18の1ないし3、19の1、19の2、37、証人J)によれば、原告は、トーヨコエンジニアリング株式会社との間で、本件事故より前からガス漏洩に備えて作業班等を待機させることを内容とする2か月単位の契約を締結し、毎月作業班の固定費の支払を行っており、またガス漏洩の際の道路掘削時に備えて交通誘導員を待機させること等を内容とする契約を締結し、毎月交通誘導員費の支払を行っていたものであるところ、本件事故修復作業に関係した時間分として作業班の固定費148万9890円及び同作業道路掘削時の交通誘導員費用4万3920円、合計153万3810円は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
(2) 外注工事費等(本修理分)1357万4042円(請求額認容)
ア 証拠(甲A15、甲B20ないし23、37、40の1、証人I、証人J)によれば、原告は、平成11年9月2日から同月29日にかけて、ガス管の完全復旧を行うために、外注により、掘削、水及び土砂の除去による本修理を行った。そして、下記のとおり、外注先の工事会社に対し、本体工事費及び管体材料費を支払った(ただし、<3>については、本体工事費のみ)ものであるが、下記外注工事費合計806万8115円は、本件事故により損傷を受けたガス管を復旧させるために必要な費用であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
<1>協和建興株式会社に対し、673万4623円
<2>株式会社日成に対し、 73万5994円
<3>株式会社ハッコーに対し、 59万7498円
合計 806万8115円
イ 証拠(甲B24の1ないし3の8、37、証人J)によれば、原告は、上記本修理に伴い道路の復旧工事が必要であったことから、外注により、上記本修理により掘削された道路の復旧工事を行い、外注先の協和建興株式会社に対し、道路復旧費545万3127円を支払ったものであるが、その費用は、本件事故により必要となった本修理に必然的に伴う工事に要した費用であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
ウ 証拠(甲B36の1、36の2、37、証人J)によれば、原告は、上記道路復旧工事に伴い、被告に道路復旧事務監督費として5万2800円を支払ったものであるが、その費用は、本件事故により必要となった本修理に必然的に伴う道路復旧工事を行うために必要な費用であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
(3) 社員出動費467万4860円(請求額認容)
証拠(甲B25の1、25の2、37、証人J)によれば、原告社員らは本件事故に対応するため出動し、昼に延べ610時間、夜に延べ128時間実働し、その際使用した車両の使用時間は延べ242時間であること、また原告の社内規定で、社員が他受工事に立ち会った場合の見積単価につき、昼間1時間5650円、夜間1時間8500円、車両損料につき1時間580円と定められていることが認められるところ、本件事故に対応するために原告社員らが出動し実働する必要があり、実際出動し実働したこと、その際、車両を使用する必要があり、実際使用したこと、また社内規定で決められた単価及び車両損料は不相当な額とはいえないことからすると、上記実働時間等及び単価等に基づき下記のとおり計算した額である467万4860円は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
<1>昼間出動費 5650×610=344万6500円
<2>夜間出動費 8500×128=108万8000円
<3>車両損料 580×242= 14万0360円
合計 467万4860円
(4) 設計監督費65万9233円(請求額65万9234円、1円棄却)
証拠(甲B20の1の1ないし24の3の8、25の3の3、37、40の1、証人J)によれば、原告社内規定(甲B25の3の3)に、原告が他者原因により必要となった本修理の本体工事及び道路復旧工事を行った場合に、その設計等の費用につき、本体工事費及び道路復旧費の合計額に5パーセントを乗じた額を請求することができる旨及び請求額の算出にあたっての端数処理は円未満の切捨てを行う旨の規定があること、本件事故による本修理の本体工事費は773万1546円、道路復旧費は545万3127円であることが認められるが、本件事故により本体工事及び道路復旧につき設計等が必要になったこと、原告は、実際に設計等に要した額を算定することが困難であることから社内規定で一定の計算方法を定めているところ、その計算方法は不相当であるとはいえないことからすると、原告社内規定に基づき下記のとおり計算した額である65万9233円は本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。
(773万1546+545万3127)×0.05
=65万9233円(円未満切捨)
(5) 諸経費512万6878円(請求額認容)
証拠(甲B25の3の3、3の4、37、証人A)によれば、原告社内規定に、原告が他者原因によってガス管を修理等した場合に、上記(1)ないし(4)の合計額に対し、1000万円までは19パーセント、1000万円を超える部分については18パーセントを乗じた額を諸経費として請求することができる旨の規定があること、諸経費の内容は、例えば経理部門の社員が本件事故に対応するための人件費、システムを使用することによる経費等であることが認められるが、本件事故に対応するために、原告が様々な間接諸経費を要したことは認められるところ、その金額を一つ一つ積み重ねるのはほとんど不可能であること、原告が過去の実績等から一定の計算方法を定めているところ、その計算方法が不相当であるとはいえないことからすると、原告社内規定に基づき下記のとおり計算した額である512万6878円は本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。
(1)ないし(4)の合計額 2792万7102円
1000万円までの諸経費
1000万×0.19=190万円
1000万円を超える部分の諸経費
1792万7102×0.18
=322万6878円(円未満切捨)
諸経費合計額 190万+322万6878=512万6878円
(6) ガスメーター修理費25万4500円(請求額認容)
証拠(甲B4の3、5の1、5の2、26の1の1ないし26の2、37、証人A)によれば、本件事故により、原告所有のガスメーター32台(NB型2号が1台、NB型3号が8台、NS型3号が2台、NI型3号が1台、NS型5号が1台、NB型5号が19台。なお、NI型3号はNA型3号、NB型3号と大きさが同じで価格も同じであるため、NA型3号、NB型3号と同じであると考えてよい。)が故障して修理を要したこと、原告社内規定でガスメーターの修理費が定められていること(NB型2号及びNS型3号は7300円、NB型3号は7400円、NS型5号及びNB型5号は8300円。なお、NI型3号は前記のとおりNB型3号と同じであると考えてよいため、修理費もNB型3号と同じ7400円である。)が認められるが、本件事故によって故障したガスメーターの修理費合計25万4500円(下記計算参照)は本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。
<1>NB型2号 7300× 1= 7300円
<2>NB型3号 7400× 8= 5万9200円
<3>NS型3号 7300× 2= 1万4600円
<4>NI型3号 7400× 1= 7400円
<5>NS型5号 8300× 1= 8300円
<6>NB型5号 8300×19=15万7700円
合計 25万4500円
(7) 深夜勤務者タクシー料金1万8952円(請求額認容)
証拠(甲B4の6、35の1ないし3の2、37、証人J)によれば、本件事故当日である平成11年9月1日、緊急出動した原告社員2名の帰宅時間が深夜に及んだため、それぞれタクシーで帰宅したこと、タクシー料金は合計1万8952円(消費税を含まない料金)であったことが認められるが、本件事故の対応のために緊急出動し、帰宅が深夜に及んだものであるから、本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。
(8) 機器修理費12万5700円(請求額認容)
証拠(甲B4の4、5の1、5の2、27ないし33、37、証人A)によれば、本件事故によりガス需要家6軒のガス機器7個(テーブルコンロ3個、暖房機、風呂釜2個、大型湯沸器)が故障し、その修理に合計12万5700円を要したことが認められるが、本件事故を原因として上記ガス機器が故障したものであるから、その修理代金は本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。
(9) お客様弁当代(請求棄却)
原告は、この代金として6万7619円が相当であると主張するところ、証拠(甲B4の5、34の1ないし3、37、証人J)によれば、原告が、本件事故によりガスの供給が停止した家庭を訪問し、在宅していた50世帯程度に対し、弁当を1世帯につき2、3個、合計100個配ったこと、弁当代の合計額が前記請求額(消費税を含まない価格)であったことが認められるが、ガスの供給が停止したことにより当然にガス需要家に弁当代金相当額の損害が生じたとはいえず、その他上記弁当代が本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるに足りる証拠はない。
(10) 以上より、本件事故と相当因果関係のある原告の損害額は3332万7432円であり、ガス需要家の損害額の合計額は12万5700円である。
3 争点(3)について
前述のとおり、本件事故によりガス機器が故障したガス需要家が、被告に対し、その修理代金相当額の損害賠償請求権を有することが認められるところ、証拠(甲B27ないし33、弁論の全趣旨)によれば、原告が無償でガス機器を修理したことが認められるのであるから、実質的には、ガス需要家が被告に対し損害賠償請求しうる損害につき、原告が被告に代わって支払ったといえ、また原告には被告のために支払う意思があったと認められる。
以上より、機器修理費について、事務管理が成立すると認められる。
なお、弁当代については、そもそも本件事故と相当因果関係がある損害と認めるに足りる証拠はないのであるから、その余について判断するまでもなく事務管理及び不当利得が成立するとは認められない。
4 以上のとおりであるから、原告の本件請求は、原告が被告に対し、3345万3132円及びこれに対する平成12年8月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田清 裁判官 加藤美枝子 裁判官 蒲田祐一)
(別紙図面)<省略>