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横浜地方裁判所 平成14年(行ウ)19号 判決 2004年10月20日

原告 有限会社A

代表者代表取締役 甲

訴訟代理人弁護士 佐藤修身

同 勝俣豪

被告 川崎南税務署長

山室晃

指定代理人 古川忠雄

同 佐藤昌永

同 齋藤秀樹

同 石川毅

同 栗原勇

同 堀久司

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  被告が平成12年4月17日付けで原告に対してした、平成8年5月から同年6月まで、同年8月から平成11年3月まで及び同年5月から同年8月までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

(2)  被告が平成12年4月17日付けで原告に対してした、平成8年5月1日から平成9年4月30日まで、同年5月1日から平成10年4月30日まで及び同年5月1日から平成11年4月30日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  事案の概要

本件は、被告が、原告に対し、原告において、大韓民国所在の外国法人から芸能人の派遣を受けてその人的役務の提供の対価を当該外国法人に支払うとともに、当該芸能人を日本国内のクラブ等に出演させてその出演の対価をクラブ等から受け取っているとして、前者については所得税法に基づき当該国内源泉所得について所得税を徴収しこれを国に納付する義務があるとして納税告知処分を、後者については消費税法に基づき消費税等の納税義務があるとして決定処分を、それぞれするともに、不納付加算税及び無申告加算税の賦課決定処分をしたところ、原告が、原告は上記大韓民国法人が芸能人を日本国内のクラブ等に派遣する際の諸手続の代行業務をしているにすぎず、所得税の源泉徴収義務や消費税等の納税義務はないとして、各課税処分の取消しを求めている事案である。

第3  課税処分等の経緯

1  被告は、平成12年4月17日付けで、原告に対し、原告の平成8年5月から同年6月まで、同年8月から平成11年3月まで及び同年5月から同年8月までの各月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)についての各納税告知処分(国税通則法36条1項2号。以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税(国税通則法67条1項)の各賦課決定処分(以下「本件不納付加算税各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)をした。

2  被告は、平成12年4月17日付けで、原告に対し、原告の平成8年5月1日から平成9年4月30日まで、同年5月1日から平成10年4月30日まで及び同年5月1日から平成11年4月30日までの各課税期間(以下、順次「平成9年4月期」、「平成10年4月期」及び「平成11年4月期」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る各決定処分(国税通則法25条。以下「本件各決定処分」という。)並びに無申告加算税の各賦課決定処分(国税通則法66条1項。以下「本件無申告加算税各賦課決定処分」といい、本件各決定処分と併せて「本件各決定処分等」という。また、本件各納税告知処分等と本件各決定処分等とを併せて「本件各課税処分」という。)をした。

3(1)  原告は、本件各課税処分を不服として、平成12年5月18日、被告に対し異議申立てをしたが、被告は、同年8月10日付けで異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。

(2)  さらに、原告は、平成12年9月12日、国税不服審判所長に対し、本件各課税処分についての審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成14年1月25日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

(3)  そこで、原告は、平成14年4月23日、本件各課税処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

4  なお、本件各課税処分及びこれに対する不服申立て等の経緯は、別紙1及び2のとおりである。

第4  本件各課税処分の根拠及び適法性に関する被告の主張

1  本件各納税告知処分等について

(1)  本件各納税告知処分の根拠

原告は、大韓民国(以下「韓国」という。)所在の外国法人である財団法人B協会(以下「本件協会」という。)から韓国の芸能人(以下「本件芸能人」という。)の派遣を受け、これを原告が契約した日本国内のクラブ等(以下「本件クラブ等」という。)に出演させることを業務としている。

そして、原告は、本件協会へ本件芸能人の派遣の対価を支払い(以下、この対価名目で支払った金銭を「本件金員」という。)、他方、本件クラブ等から本件芸能人を出演させることの対価の支払を受けている(以下、この対価名目で支払われた金銭を「本件報酬」という。)。

原告が、平成8年5月から同年6月まで、同年8月から平成11年3月まで及び同年5月から同年8月までの各月に、本件芸能人の派遣という役務の提供の対価として本件協会に支払った本件金員の額は、別表1の「支払額」欄のとおりであり、本件金員は所得税法161条2号の「国内源泉所得」に当たる。

そして、原告において、各月の本件金員の支払をする際、所得税法212条1項及び213条1項の規定により国に納付すべき義務がある源泉徴収税額は、本件金員の支払額に100分の20の税率を乗じて計算した別表1の「源泉徴収税額」欄記載の金額である。

(2)  本件各納税告知処分の適法性

原告が源泉徴収して納付すべき所得税額は別表1の「源泉徴収税額」欄記載の金額のとおりであり、本件各納税告知処分に係る所得税額は各月分とも当該金額と同額であるから、本件各納税告知処分は適法である。

(3)  本件不納付加算税各賦課決定処分の適法性

上記(2)のとおり本件各納税告知処分は適法であるところ、国税通則法67条1項の規定に基づき、本件各納税告知処分により納付すべきこととなった所得税額(同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)を基に計算した不納付加算税の額は、別表1の「不納付加算税額」欄記載の金額のとおりとなる。

本件不納付加算税各賦課決定処分の額は、各月とも当該金額と同額であり、国税通則法67条1項に規定する「正当な理由」も認められないから、本件不納付加算税各賦課決定処分は、適法である。

2  本件各決定処分等について

(1)  本件各決定処分の根拠

原告が支払を受けた本件各課税期間の本件報酬の金額は、別表2のそれぞれ「合計」欄のとおりである。

そして、本件各課税期間に係る各基準期間(消費税法2条14号)における課税売上高は別表3のとおりであり、いずれも3000万円を超えることから、本件各課税期間において、原告には消費税等の納税義務がある。

また、原告は、仕入れに係る消費税額の計算について簡易課税制度を選択しているところ、原告の事業区分についてはサービス業と認められることから、第五種事業(平成9年3月31日以前の事業区分については第四種事業)となる。

これを前提とした原告の本件各課税期間の消費税等の額の計算は、別表4のとおりである。

(2)  本件各決定処分の適法性

原告の本件各課税期間の消費税等の額は別表4の「⑪差引納付すべき合計税額」欄のとおりであるところ、本件各決定処分の金額は当該金額と同額である。

したがって、本件各決定処分は、適法である。

(3)  本件無申告加算税各賦課決定処分の適法性

上記(2)のとおり本件各決定処分は適法であるところ、国税通則法66条1項及び地方税法附則9条の9第1項の規定に基づき、本件各決定処分により納付すべきこととなった消費税等の額(国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)を基に計算した本件各課税期間に係る無申告加算税の額は、別表4の「無申告加算税の額」欄のとおりとなる。

本件無申告加算税各賦課決定処分の額は、本件各課税期間とも当該金額と同額であり、国税通則法66条1項に規定する「正当な理由」も認められないから、本件無申告加算税各賦課決定処分は適法である。

第5  争点

本件の争点は、

①  原告が、本件協会から本件芸能人の派遣に係る人的役務の提供を受けて、その対価として本件金員の支払をしたものであるか、すなわち、本件協会に対して「人的役務の提供に係る対価」(所得税法161条2号、同法施行令282条1号))の支払をする者として、本件金員について源泉徴収義務(同法212条1項)を負うかどうか、

②  原告が、事業として本件芸能人を本件クラブ等に出演させ、その対価として本件報酬の支払を受けたものであるか、すなわち、本件報酬が原告の事業として行われた「役務の提供」の対価に該当し(消費税法2項1項8号)、原告が、課税資産の譲渡等(同法2条9号)を行った者として、本件報酬について消費税の納税義務(同法5条1項)を負うかどうか、である。

なお、原告は、被告が前記第4のとおり主張する本件各課税処分の根拠のうち、原告・本件協会間での本件金員の授受及び本件クラブ等・原告間での本件報酬の授受に係る各事実並びにその金額については争わない。

第6  争点に関する当事者の主張

《被告の主張》

1  原告の業務の実態

原告は、本件協会から派遣された本件芸能人を原告が契約した本件クラブ等に出演させることを業務としているところ、原告と本件協会及び本件芸能人並びに本件クラブ等との関係等について詳しくみると、以下のとおりである。

(1) 原告と本件協会及び本件芸能人との関係

ア 本件協会は、韓国の政府機関である労働部(以下「韓国労働部」という。)の許可を受け、韓国国内の舞踊、歌謡及び演奏等の技能を持った芸能人を日本を含む国外へ派遣する、韓国所在の団体である。

韓国芸能人の海外派遣事業については、もともと、原告と立場を同じくする我が国の芸能プロダクションが韓国芸能人と直接契約していたところ、出演料の不払等韓国芸能人に不利益なトラブルが多発したため、平成2年ころから、韓国芸能人が国外において興行するためには、本件協会等の韓国労働部が許可した団体を通さなければならないこととなった。このため、原告は、韓国の制度上、直接本件芸能人と取引することはできず、本件芸能人の派遣を日本において受けるためには、本件芸能人とではなく、本件協会と取引することが必須の要件となる。

イ 原告は、本件芸能人派遣に係る取引の実質面において、本件芸能人を本件クラブ等において興行させるために、直接韓国へ出向き、芸能人の舞踊の種類、歌唱力及び容姿等について、本件協会が集めた芸能人を面接するなどして本件クラブ等の要望を考慮した選考を行い、自ら積極的に関与している。

ウ 本件クラブ等に本件芸能人を派遣する際には、我が国の出入国管理制度上、芸能人が法務大臣に対し在留資格の認定に係る証明書の交付を申請し、その交付を受けることが必要であるところ、原告は、本件芸能人に関して出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)7条の2第2項の申請「代理人」となり、在留資格認定証明書の交付を受けさせるために積極的な役割を果たしている。

すなわち、原告は、上記在留資格認定証明書の交付を受けるために必要な申請書類の1つとして、本件芸能人との間で雇用契約書を作成して入国管理局へ提出した上、自己の責任において、日本滞在期間中の本件芸能人の身元保証等も行っている。

エ また、原告は、本件芸能人を管理するため、本件金員の支払日ごとに、本件金員及びその他の支払額(衣装代及び道具代等)、その内訳、出演先クラブ名、本件芸能人名、出演期間並びに本件金員及びその他の支払の合計額(以下「本件金員等」という。)を記載した帳面を作成している。

なお、原告が本件協会に対して月ごとに支払う本件金員は、原則として、本件クラブ等がどこでも、一律に本件芸能人1人当たり、給料15万円及び手数料1万円の合計16万円とされている。

オ 原告は、自己の名をもって、上記帳面に記載された本件金員等の合計額を本件協会に対して支払い、本件協会から原告宛てに本件協会名義の領収証(以下「本件領収証」という。)を受領している。

カ 以上のことからすれば、原告は、まさに取引当事者として、本件協会との間に本件芸能人の派遣に関する直接の取引関係を有していることが認められる。

すなわち、原告は、本件協会との間で、本件芸能人を本件クラブ等に派遣させる芸能人派遣契約を締結し、独立した事業主として、本件協会から、出演先である本件クラブ等において舞踊・歌謡等の人的役務の提供をさせるための本件芸能人の派遣を受け、本件協会に対し、本件芸能人の派遣の対価である本件金員を支払ったものといえる。

(2) 原告と本件クラブ等との関係

ア 上記(1)イ記載のとおり、原告は、本件クラブ等の要望を考慮して、本件協会が集めた芸能人の選考に参加した上で、本件芸能人を本件クラブ等へ派遣している。

イ また、原告は、本件芸能人に係る日本国内の在留資格認定証明書の交付申請に積極的な役割を果たしている。

すなわち、原告は、上記在留資格認定証明書の交付申請のために必要な書類の1つとして、本件クラブ等との間で、原告が本件芸能人の雇用者であり本件芸能人に直接指揮命令を行うこと等を内容とした請負契約書を作成し、入国管理局へ提出している。

ウ 原告は、本件芸能人を管理するため、本件クラブ等ごとに、本件報酬の集金日、本件芸能人名、本件芸能人の出演人数、本件報酬の請求日、本件報酬及び本件金員等の支払日並びに本件報酬と本件金員との差額を記載した帳面を作成している。

また、原告が本件クラブ等に対して月ごとに請求する本件報酬は、1か月単位で計算された本件芸能人1人当たりの出演料に、実際に派遣し出演した本件芸能人の人数を乗じた金額とされている。

エ 原告は、自己の名をもって、本件クラブ等に対して本件報酬を請求し、同クラブ宛に、「出演料として」とのただし書のある自己名義の領収証を発行している。

オ 以上のことからすれば、原告は、本件クラブ等との間に本件芸能人の派遣に関する直接の取引関係を有しているものと認められる。

すなわち、原告は、本件クラブ等との間で、本件芸能人を本件クラブ等に派遣し出演させる請負契約を締結し、独立した事業主として、本件芸能人を本件クラブ等に出演させ、その対価として本件クラブ等から本件報酬の支払を受けたものといえる。

2  原告の業務が本件協会の業務の代行ではないこと

原告は、本件協会は本件クラブ等に本件芸能人を直接派遣して対価を得ており、原告は本件協会の業務の一部を代行している立場にすぎない旨を主張するが、以下の事情に照らせば、原告の業務が本件協会の業務の代行であるとはいえない。

(1) 本件芸能人が本件クラブ等において欠勤した場合、原告が本件協会に支払う金額は減額されないのに対し、原告が本件クラブ等に請求できる金額が減額されることで、原告の利益が減少することとなっており、本件芸能人の稼働に係るリスクは原告が負担している。また、原告は、本件芸能人が来日した月において、本件協会に対し、本件芸能人の飛行機代を支払っているところ、原告が本件クラブ等から受領する金銭には、飛行機代は加えられておらず、原告が航空運賃を事実上負担している。さら、原告は、本件芸能人の保険料も「女の子保険料」として自ら負担している。

上記の各事情は、原告が本件協会に代わって本件クラブ等から集金をしている旨の原告の主張に反するものである。

(2) 原告は、本件芸能人が入国後、本件芸能人を自らの責任で管理・監督している。現に、原告の従業員である乙証人は、入管法に抵触することがないように本件芸能人の管理をしていることや、本件芸能人に事故や逃亡があった場合、原告が営業停止になる旨を証言しているところである。

(3) 原告は、本件協会が韓国労働部の指導に反して本件クラブ等に直接本件芸能人を派遣している旨を主張するが、本件協会が韓国の法令に反してまで出演先に芸能人を直接派遣しなければならない必要性はどこにもなく、このような主張は、我が国の調査が及ばない韓国の本件協会にすべての責任を負わせる一方的な主張というべきである。

また、入管法令上、招へい機関と出演先施設が同一の機関となることは禁止されていないし、出演先が在留資格認定証明書の申請代理人となることも可能であるから、招へい機関としての原告に業務を委託する必要がある旨の原告の主張は失当である。

(4) 原告は、本件協会との間で、「手数料」として本件報酬のうちの約30パーセントを原告が受け取ることが決められており、控除後の金銭を本件協会に渡していた旨を主張するが、実際の「手数料」の割合は14パーセントから29パーセントであり、原告の主張は実際の計算に反するものである。本件報酬から本件金員等を控除した残額は、「手数料」ではなく、本件クラブ等から支払を受ける役務の対価である収入から、本件協会へ支払う同役務の対価である原価を差し引いた、原告の粗利益としての性質を有するものというべきである。

3  法令の適用

以上のとおり、原告は、本件協会から本件芸能人の派遣を受け、これを原告が出演契約を結んだ本件クラブ等に出演させることを主たる業務としている。そして、原告は、本件協会から本件クラブ等において本件芸能人による舞踊・歌謡等の人的役務の提供を受け、その対価としての本件金員を本件協会に支払い、他方、本件クラブ等から本件報酬を受けている。

これについて所得税法及び消費税法の規定を適用すると、以下のとおりである。

(1) 所得税法の適用

原告が本件協会に対して支払う本件金員は、所得税法161条2号及び所得税施行令282条1号に規定する「その他の芸能人」が受ける「当該人的役務の提供に係る対価」であり「国内源泉所得」に該当する。また、外国法人である本件協会は、「当該人的役務の提供に係る対価」の支払を受ける者であるから同法5条4項により所得税を納める義務がある。

そして、本件協会に対して国内源泉所得である「当該人的役務の提供に係る対価」の支払をする者である原告には、同法212条1項により当該国内源泉所得に係る源泉所得税を徴収し、これを国に納付すべき義務がある。

(2) 消費税法の適用

原告が本件クラブ等から受領する本件報酬は、本件芸能人の提供する人的役務の対価として、原告の事業により得られた対価に該当するものであるから、課税資産の譲渡等の対価といえる(消費税法2条1項8号、9号)。また、原告が消費税法上の課税事業者に該当するか否かについて検討すると、本件各課税期間に係る各基準期間における課税売上高は別表3のとおりであり、いずれも3000万円を超える。

したがって、本件各課税期間において、原告には消費税等の納税義務がある。

なお、原告は、仕入れに係る消費税額の計算について簡易課税制度を選択しているところ、原告の事業は人的役務を提供するサービス業であることから、簡易課税制度における原告の事業区分については、第五種事業(平成9年3月31日以前の事業区分については第四種事業)(消費税法37条及び消費税法施行令57条1項、5項4号)となる。

《原告の主張》

1  原告の業務の実態

(1) 取引の経緯等について

原告、本件協会及び本件クラブ等の三者間での取引の経緯等は、次のとおりである。

ア 本件クラブ等による本件協会への芸能人派遣の依頼

韓国人芸能人の派遣を希望する本件クラブ等は、韓国の本件協会に電話等で連絡を取り、渡韓して本件協会を訪れる。なお、本件協会が芸能人と雇用契約を締結している。

そして、本件クラブ等は、本件協会に対して派遣芸能人数等の希望を伝え、これに対し、本件協会は、芸能人一人当たりの金額を伝え、また候補となる芸能人の写真を示したりする。本件クラブ等は、その際に芸能人と面接し、希望人数の概ね半数程度をこのときに決めておく。

すなわち、この段階で本件協会と本件クラブ等との間で、芸能人の派遣についての契約が口頭で成立することになる。なお、この段階では原告は関与していない。

イ 原告による本件クラブ等の調査

本件協会と本件クラブ等との間で芸能人派遣契約が締結されると、本件協会は、原告に対し、本件クラブ等が入管法上芸能人を派遣することができる状況なのかどうかや、派遣可能人数の調査を依頼し、原告は、この依頼に基づき、出演先の本件クラブ等を調査し、その結果を報告する。

ウ 本件協会からの派遣連絡

本件協会は、原告からの連絡に基づき派遣可能人数を把握すると、本件クラブ等に対して、まだ決まっていない芸能人の候補について、既に決まってる芸能人と似たタイプの芸能人の写真を送付する。本件クラブ等が写真を見て問題ないと判断すれば、その写真の芸能人の派遣が決まり、問題があれば別の写真の送付を依頼する。

また、本件クラブ等は、写真と本人の容姿が違うことが不安な場合は、韓国に赴いて確認する。

なお、本件クラブ等が仕事の都合上どうしても渡韓できない場合は、原告代表者が渡韓する際に、写真と本人が一致しているかを確認することもある。被告は、原告が本件芸能人の選考に関与しているかの如く主張しているが、上記のとおり、原告は、写真と本人が一致しているかを確認しているだけである。また、原告は、本件協会と本件クラブ等の契約をスムーズに運ぶことが、本件協会や原告にもメリットがあることから、本件クラブ等に対してこのようなサービスをするものである。

このようにして、特定の出演先に派遣される芸能人の人数や派遣芸能人が最終的に確定する。

エ 派遣の開始

本件協会は、派遣が決定された芸能人について、入管手続上必要な書類を原告に送付し、原告は、当該芸能人について、入国手続をし、在留資格認定証明書を入手する。また、原告は、本件協会に代わって、本件クラブ等から、前払いとなっている芸能人派遣の報酬を集金する。

原告は、在留資格認定証明書と集金した報酬を持って渡韓し、帰りに本件芸能人を連れて日本に戻り、さらに芸能人を本件クラブ等に送り届ける。

また、芸能人が帰国するときは、本件クラブ等に芸能人を迎えに行く。

オ 芸能人の管理

芸能人は、本件クラブ等が用意した寮で起居する。そして、芸能人は、本件クラブ等とのトラブルや寮の変更等が生じた場合には、契約上の雇用主である本件協会に連絡をし、この場合、原告は、本件協会の依頼の下で調査等を行う。なお、本件クラブ等との関係で芸能人についての責任を負うのは、本件協会である。

カ 集金の代行

原告は、本件協会からの依頼により、本件協会が本件クラブ等に対して有する芸能人派遣の報酬の集金を代行する。

また、原告は、本件クラブから集金した金額から、下記の手数料を控除した残金を本件協会に支払う。

キ 原告と本件協会との契約

原告が、本件協会から依頼されているのは、①出演先である本件クラブ等の調査・報告、②入国手続の代行、③芸能人の送迎・飛行機の予約、④芸能人の滞在中の管理、⑤芸能人の状況の報告、⑥集金の代行といった業務及びこれに付随する業務である。

原告は、上記業務の対価として、本件協会から手数料の支払を受けるが、その手数料は次のようにして定まる。すなわち、本件クラブ等が本件協会に対して支払うべき報酬は両者間で既に定まっており、原告は、本件協会の集金依頼に基づきその金額を本件クラブ等に対して請求し、集金する。他方で、原告が本件協会に対して支払うべき金額も本件協会の指示に基づき本件協会と原告との間で定まっており、その内容は、芸能人一人当たり16万円であること(給料15万円及び手数料1万円の名目)、初回分について飛行機代を追加すること、衣装代や道具代を支払うこと等である。

そして、原告が集金した金額から、原告が本件協会に支払うべき金額を控除した残額が、原告の手数料となる。その額は、概ね、本件協会が本件クラブ等から受ける報酬の30%程度となるように配慮されている。

ク 会計処理

原告は、上記取引の実態に基づき、本件クラブ等から集金した金銭を仮受金として計上し、これを本件協会に支払った後の残額を売上げとして計上している。また、原告は、このような会計処理に基づいて税務申告をしている。

(2) 契約の形態

上記のような取引の態様からすれば、原告、本件協会、本件クラブ等及び芸能人との間には、

① 芸能人と本件協会との雇用契約

② 本件協会と本件クラブ等との芸能人派遣契約

③ 本件協会と原告との業務代行契約

という契約関係があり、原告と本件クラブ等との間に契約関係は存在しない。

すなわち、本件協会は、本件クラブ等から直接派遣依頼を受けて、出演先や出演料等を決め、本件クラブ等も芸能人の選出をした上で出演料の提示を受けるのであって、このことは両者間に芸能人派遣契約があることを意味する。また、本件協会は、原告に対し、出入国に関する手続や本件協会の売上金の集金等を依頼し、その手数料は、本件協会が本件クラブ等と決めた金額の約30パーセントとされているのであり、本件協会と原告との間には、業務代行(委託)契約があるといえる。

一方で、本件クラブ等は本件協会と直接取引しているのであるから、本件クラブ等と原告との間に契約関係は存在しない。原告は、本件クラブ等から出演要請等の契約の申込みを受けることはなく、自ら本件クラブ等に営業活動をすることもないのであって、両者間に契約関係がないことは明らかである。

2  原告の存在意義

本件芸能人が本件協会から本件クラブ等に直接派遣されるにもかかわらず、原告が取引に関与するのは、以下の事情による。

(1) まず、入管手続においては、「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令」興行欄一ロにより、外国人芸能人は「本邦の機関に招へいされること」とされている。しかし、韓国の本件協会は招へい機関になれないし、入管手続上招へい機関と出演施設が区別されていることから、本件クラブ等が招へい機関となることもできない。そこで、招へい機関としての原告に業務を委託する必要が生じるのである。

(2) また、韓国労働部は、芸能人と本件協会との雇用契約、本件協会から招へい会社への芸能人派遣契約、招へい会社から出演先への芸能人派遣契約を要求しており、本件協会から出演先への直接の芸能人の派遣を認めていない。そして、このような正規の取引の場合、本件協会は、容貌の優れた芸能人と劣った芸能人とを組み合わせて日本に派遣している。

しかし、出演先は自ら韓国へ行って容貌の良い芸能人のみを選別したいと考え、一方で、本件協会としても、出演先に芸能人を自ら選ぶ機会を与える見返りに、裏金を取得することができることから、両者間で直接契約することについて両者の利害が一致する。

このような直接契約は韓国労働部の上記指導に反し違法であるところ、本件協会に関する仕事をする会社が複数存在する地域においては、業者間の競争があり、裏金をもらって出演者の選別を許すという違法行為をすれば発覚するおそれがあるので、上記のような正規のルートでの派遣がされる。しかし、横浜においては、本件協会に関する仕事をするのは原告だけであり、違法行為が発覚するおそれがないため、本件協会と本件クラブ等が直接契約し、原告は本件協会の業務の代行をしているのである。

3  被告の主張に対する反論

(1) 芸能人が欠勤した場合でも、本件クラブ等の支払額に変化はないので、欠勤による損失は原告ではなく本件クラブ等が負担している。例外的に、芸能人が途中帰国した場合、本件クラブ等の支払額が日割り計算により減額され、一方で原告から本件協会へは月単位での支払をするので、この場合には原告が負担を負う。しかし、このような例は滅多にないし、原告としては、本件協会との関係が極めて重要であるので、これを受け入れているのである。

また、本件協会と本件クラブ等とは、芸能人の給料の額だけではなく飛行機代をも考慮して芸能人の派遣金額を決定しており、航空運賃を負担しているのは本件協会又は本件クラブ等である。航空運賃を含めた派遣の対価は、6か月という派遣期間を通して定められるもので、初回の支払分のみを取り出して議論すべきではない。

(2) 本件の金銭の授受に関し、本件協会名義の原告に対する領収証や、原告名義の本件クラブ等に対する領収証が発行されているが、これは、本件協会が韓国労働部の指導により出演先への芸能人の直接派遣が禁じられ、その指導に反する領収証(本件協会名義の本件クラブ等に対する領収証等)を発行できないからであって、原告の主張する取引態様の反対証拠とはならない。

(3) 原告は、入管手続において、芸能人との雇用契約書や本件クラブ等との請負契約書を提出しているが、これらは入管法上の要請から作成される便宜上の書類にすぎず、実体的な契約関係を示すものではない。

(4) 原告が本件協会から芸能人の派遣を受け、さらにこれを本件クラブ等に派遣するのであれば、原告の下で滞留する芸能人が存在してしかるべきであるが、本件協会から派遣される芸能人はすべて出演先が決まっており、原告の下に滞留芸能人は存在しない。

4  法令の適用

(1) 源泉徴収義務について

以上のとおり、原告と本件協会との間には、芸能人の派遣契約は存在せず、原告が本件協会に支払った金銭は、集金の代行委託に基づく預り金にすぎない。そうすると、原告は、本件協会に対して芸能人派遣という人的役務の提供の対価を支払う者ではないから、当該対価についての源泉徴収義務を負うものではない。

(2) 消費税の納税義務について

本件クラブ等が支払う芸能人の派遣に対する対価は、本件クラブ等が本件協会に対して支払っているものであり、原告はその集金を代行しているにすぎない。したがって、原告にとって、集金した金銭は原告の手数料分を除いて預り金であり、原告の課税資産の譲渡等の対価には当たらない。そして、本件各課税期間に係る各基準期間における原告の課税売上高は、いずれも3000万円以下であるから、原告は消費税の免税事業者に当たり、消費税の納税義務を負うものではない。

第7  当裁判所の判断

1  原告の業務の態様・性質等についての検討

(1)  原告の業務の態様等について

原告の業務の態様等に関し、証拠(各段落の末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 韓国の芸能人の派遣事業については、従来、日本の芸能社において韓国の芸能人と直接契約を結び、出演先に派遣していたところ、韓国政府は、平成2年ころから、韓国の芸能人が海外に出国するには、韓国政府が許可した財団法人を通さなければならないこととした。そして、本件協会は、韓国の政府機関である労働部から上記の許可を受けて、韓国国内の舞踊、歌謡及び演奏等の技能を持った芸能人を日本等の海外へ派遣することを業とする、韓国所在の団体である。〔乙1、2号証、弁論の全趣旨〕

一方、原告は、海外の芸能人の招へい等を目的として設立された有限会社である。〔乙21号証〕

イ(ア) 外国人が日本に上陸するに当たっては、入国審査官による、上陸のための諸条件に適合しているかどうかについての審査を経る必要がある(入管法7条)。

この上陸のための条件のうち、当該外国人が日本において行おうとする活動(同条1項2号)に関し、同号の基準を定める法務省令(以下「基準省令」という。)において詳細な基準が設けられ、当該外国人が本件芸能人のように「興行」活動に従事しようとする場合については、①申請人が従事しようとする活動が一定の要件に該当すること、②一定の要件に該当する本邦の機関に招へいされること、及び、③出演施設が一定の要件に適合することが必要とされている(基準省令興行欄一)。そして、②の招へい機関については、当該外国芸能人を管理する能力があることを示す一定の要件が規定されている(基準省令興行欄一ロ)。

また、上陸しようとする外国人に係る在留資格認定証明書の交付申請を代理人として行える者(入管法7条の2)の資格に関し、出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「入管法施行規則」という。)において、当該外国人が本邦において行おうとする活動に応じた規定がされ、「興行」を行う外国人については、当該外国人を招へいする本邦の機関又は当該外国人が所属して芸能活動を行うこととなる本邦の機関の職員とするものとされている(入管法施行規則6条の2第3項及び別表第四)。さらに、在留資格証明認定書の交付申請に当たっては、当該外国法人が本邦において行おうとする活動に応じて必要な資料を提出しなければならないものとされ(同規則6条の2第2項及び別表第三)、入国管理実務上、「興行」を行う外国人に係る交付申請については、外国人芸能人と招へい機関との間の契約書、招へい機関と出演先施設との間の契約書、職業芸能人としての実績に関する文書、出演先に関する文書等の資料の提出が要求されている。〔乙18号証〕

(イ) 原告は、本件協会が韓国の芸能人を日本に派遣するに当たって、本件芸能人の招へい機関として在留資格認定証明書の交付申請の代理人(入管法7条の2第2項)となり、その申請(同条第1項)を行っている。

そして、原告は、この在留資格認定証明書の交付申請に当たり、入管当局に対し、①原告及び本件芸能人の名義の、本件芸能人が原告の専属として本件クラブ等で公演を行い、本件芸能人に対して原告が出演料を支払うことなどを内容とする「契約書」、②原告及び本件クラブ等の名義の、本件クラブ等が原告に本件芸能人による公演を依頼し、原告がこれを請け負う旨の「請負契約書」、③原告名義の、法務大臣に対する、本件芸能人を直接指導監督することを誓約する旨の「身元保証及び誓約書」、並びに、④原告及び本件クラブ等の名義の、法務大臣に対する、原告が本件クラブ等と請負契約を締結したことや本件芸能人を管理することを誓約する旨の「誓約書」を提出している。〔乙7ないし11号証〕

(ウ) 原告は、入国管理手続上の規制に抵触することがないように本件芸能人の管理をしようとしている。〔証人乙の証言〕

ウ(ア) 本件協会が芸能人を日本に派遣する場合には、派遣に先立って、原告において、本件協会の依頼を受けて出演先のクラブ等が入管法上の基準を満たすかどうかなどの調査を行い、これを受けて本件協会が派遣を決定する。また、本件協会が派遣する芸能人は、本件協会に所属する芸能人の中から本件クラブ等が選ぶが、その際、原告において、本件クラブ等の希望を聞いた上で本件協会に赴き、その希望に沿った芸能人を選出することがある。〔甲10号証、乙25号証、乙証言〕

(イ) 原告は、本件芸能人が来日した際に、空港において出迎えて出演先の本件クラブ等に移動させるほか、その後も、外国人登録証の申請、生活用品の用意、帰国の準備等を行っている。〔乙10号証、乙証言〕

エ(ア) 原告は、本件クラブ等に対し、毎月、本件芸能人の出演料(本件報酬)を請求し、その支払に対して、自己の名義で、「出演料として税込みで」などと記載した領収証を発行している。〔乙6、23号証〕

(イ) 本件報酬の額は、本件芸能人1人当たりの月額に出演した人数を乗じることによって算出されている。本件芸能人1人当たりの月ごとの本件報酬の額は、出演先や派遣時期によって異なっているが、同一の派遣期間中においては原則として一定である。〔甲8号証、乙5号証〕

(ウ) 原告は、本件クラブ等別に、本件報酬の各月の支払ごとに、本件報酬の集金日、芸能人の名前、芸能人の人数、本件報酬の請求日、本件報酬の額、本件協会への本件金員その他の支払額とその支払日及び本件報酬と本件金員その他の支払額との差額を記載した帳簿を作成している。〔甲8号証、乙5号証〕

オ(ア) 原告は、毎月、本件協会から派遣された本件芸能人の人数に応じた金銭(本件金員)を本件協会に支払い、その支払に対して、本件協会から原告に宛てた領収証を受け取っている。〔甲8、9号証、乙3、4号証〕

(イ) 原告は、原則として、本件報酬を受領後、当該報酬に係る芸能人及び月に対応する本件金員を支払っているが、本件報酬を受領する前にこれに対応する本件金員の支払をすることもある。〔甲8号証〕

(ウ) 原告が月ごとに支払う本件金員の額は、原則として、出演先にかかわらず一律に、本件芸能人1人当たり、給料15万円及び手数料1万円の合計16万円である。また、原告は、本件金員とともに、本件協会に対し、毎月、本件芸能人1人当たり、衣装代10万5000円及び道具代5万5000円を支払っている。さらに、原告は、本件芸能人が派遣されて初めての月の支払の際には、本件協会に対し、本件金員、衣装代及び道具代に加えて、飛行機代6万5000円を支払っている。

なお、特定の月における本件芸能人の本件クラブ等への出演が1か月に満たなかった場合、出演日数に応じた日割り計算により本件報酬の額が減額されることがあるが、この場合においても、本件金員の額は、通常どおりの月額で計算され、減額されることはない。〔甲8号証〕

(エ) 原告は、本件金員の支払日ごとに、本件金員の支払日、本件金員その他の支払額とその内訳(給料、手数料、衣装代、道具代及び飛行機代)、本件芸能人の名前、出演先及び出演期間を記載した帳面を作成している。〔甲9号証、乙3号証〕

カ 原告は、会計処理上、本件報酬の額を仮受金として計上し、これと本件協会に対する本件金員その他の支払額との差額を、売上高として計上している。〔甲5号証〕

(2)  原告の業務の性質等について

原告の業務の態様等に係る事実関係は上記認定のとおりであるところ、その業務の性質等について、次のような点を指摘することができる。

ア 原告は、入管法に基づく本件芸能人の入国審査の過程において、本件芸能人の招へい機関として、在留資格認定証明書の申請代理人となり、入管当局に対し、本件芸能人との契約書や本件クラブ等との請負契約書、本件芸能人を指導監督する旨の誓約書等の資料を提出している。入国審査における招へい機関は、基準省令上の基準や入国管理実務上要求される資料の内容からすれば、入国する芸能人の受入れ機関として、当該芸能人の興行を管理し、指導・監督する者であることが要求されているものといえ、原告も、そのような本件芸能人を実質的に管理する者として、入国審査に関係しているものである。

そして、原告は、現に、出演先のクラブ等の芸能人の受入れ可能性について調査した上、本件芸能人の入国から帰国まで日本での滞在に必要な手続を行うなどして、入国管理手続上の規制に抵触することがないように本件芸能人を管理しようとしているのである。

そうすると、原告は、自らの責任において、入国審査上予定されている外国芸能人の招へい機関として、本件芸能人の我が国での興行に当たり、本件芸能人を受け入れ、管理しているものということができる。

イ また、原告は、本件協会からの本件芸能人の派遣に当たり、本件協会の依頼を受けて出演先である本件クラブ等の調査を行う一方で、芸能人の選考に当たっては、原告において、本件クラブ等の希望を聞いた上でその希望に沿った芸能人を選出することがある。このようなことからすると、原告は、本件芸能人の派遣について、派遣元である本件協会と最終的な出演先である本件クラブ等の双方の利益を調整・実現する立場において関与しているものということができる。

ウ そして、原告は、本件クラブ等からの本件報酬の支払に対して自己名義で領収証を発行した上、本件金員の支払に対して本件協会から原告宛ての領収証を受領している。また、原告は、本件報酬の受領状況と本件金員の支払状況とを別個の帳簿等で管理し、本件金員の額については内訳も含めて記録している。このような事情の下においては、原告が、本件協会とは独立した立場において、本件クラブ等から本件報酬の支払を受け、また、本件協会に対し本件金員の支払をしているものと見るのが自然であるということができる。

エ さらに、本件報酬の額と本件金員の額との関係を見ると、本件報酬の額が出演先や出演時期によって異なるのに対し、本件金員の額は、本件芸能人1人当たり月ごとに、一律に、給料及び手数料の合計16万円であり、両者の額の多寡に関連性は存在しない。また、本件芸能人の出演期間が1か月に満たなかった場合、本件報酬の額が減額されることがあるが、その場合であっても、本件金員の支払額は変化しない。そして、このことは、本件金員とともに本件協会に支払われる衣装代、道具代及び飛行機代についても同様である。

本件報酬は、本件芸能人が本件クラブ等に出演したことに対して本件クラブ等から支払われる対価であるところ、上記のとおり、この対価の多寡は、すべて原告の計算に帰するところなのである。

(3)  小括

以上のところからすれば、原告は、自己の独自の責任と計算において、本件協会との間の契約関係に基づいて本件協会から本件芸能人の派遣を受けてこれを受入れ、本件クラブ等との契約関係に基づいて本件芸能人を自らの管理の下に本件クラブ等に出演させているのであって、このような法律関係に基づいて、本件協会に対しては本件芸能人の派遣に係る対価(本件金員)の支払をする一方、本件クラブ等からは本件芸能人の出演の対価(本件報酬)の支払を受けているものと認めるのが相当である。

2  原告の主張について

(1)  原告は、本件報酬の額と本件協会への支払額との差額は本件協会の集金等の業務の代行の手数料である旨を主張する。

しかし、この差額は、原告が主張するように本件報酬の約30パーセントといった一定の割合で定まるものとは認められず、前記1(1)オ、(2)エのように、本件芸能人の本件クラブ等への出演の対価である本件報酬の額の多寡によって専ら変動すること、特に本件報酬の額は本件芸能人が本件クラブ等へ出演しなかった場合には減少するものであること、領収証及び原告の帳簿等の上でも、原告が受けた本件報酬の額から原告の本件協会への支払額を控除する形で処理、把握されていること、原告と本件協会の間での「手数料」に係る約定について何ら客観的証拠がないことなどからすれば、これを本件協会の業務の代行の手数料と見ることはできないというべきである(ちなみに、上記差額の経済的実質は、むしろ、原告にとって、本件芸能人の出演の対価として本件クラブ等から支払を受けた収入金額から、これを得るために本件協会に支払った収入原価を控除した、粗利益としての性質を有するものと認められるところである。)。

(2)  また、原告は、本件協会と本件クラブ等は直接契約を結んでいるとし、これは韓国の労働部の指導に反し違法であるものの、両者にとって利益があるためにそのような形態が取られていると主張する。そして、原告の場合だけ正規ではないルートでの派遣がされているのは、横浜において仕事をするのは原告だけであって業者間での競争がないため、違法行為が発覚しないからであると主張する。

しかし、原告が直接契約の動機と主張する「裏金」の授受の証拠はもとより、取引上作成されるべき書面その他、本件協会と本件クラブ等が直接契約を締結していることを裏付ける客観的証拠は何ら存在しない。また、原告の取引先の本件クラブ等は全国各地に存在しており〔甲8、10号証、乙証言〕、原告については業者間での競争がないから違法行為が発覚しない旨の主張も前提を欠くものである。

原告の主張は、領収証の記載内容や業務代行契約の契約書の不存在など、自らの主張に反する証拠関係を、専ら、本件協会と出演先との直接契約は違法であるからそのような証拠は残せないということによって説明しようとするものであるが、このような違法行為の主張自体が、合理的根拠を欠くものというべきである。

3  本件各納税告知処分等の適否

(1)  所得税法の適用

前記1(3)のとおり、原告は、本件協会から本件芸能人の派遣を受けて本件芸能人を本件クラブ等に出演させることにより、本件クラブ等から本件芸能人の出演の対価として本件報酬の支払を受けるとともに、本件協会に対し本件芸能人の派遣に係る対価として本件金員を支払っているものである。

そうすると、本件金員は、具体的には、原告が、本件協会から本件クラブ等における本件芸能人による人的役務の提供を受けることの対価として本件協会に支払ったものといえるから、所得税法161条2号に規定する「人的役務の提供に係る対価」として、同条の国内源泉所得に該当する。そして、外国法人である本件協会は、当該人的役務の提供に係る対価である本件金員の支払を受ける者であるから、同法5条4項の規定により、所得税を納める義務があり、本件協会に対して国内源泉所得である本件金員の支払をする者である原告には、同法212条1項の規定により、当該国内源泉所得に係る源泉所得税を徴収し、これを国に納付すべき義務がある。

そして、平成8年5月から同年6月まで、同年8月から平成11年3月まで及び同年5月から同年8月までの各月に、原告が本件協会に対して支払った本件金員が別表1の「支払額」欄に記載のとおりであることについて、当事者間に争いがない。そうすると、所得税法212条1項及び213条1項の規定により、原告において納付すべき義務がある源泉徴収税額は、本件金員の支払額に100分の20の税率を乗じて計算した、別表1の「源泉徴収税額」欄に記載の各金額であると認められる。

(2)  本件各納税告知処分の適法性

上記のとおり、原告が源泉徴収して納付すべき税額は、別表1の「源泉徴収税額」欄に記載のとおりであるところ、本件各納税告知処分に係る納付すべき税額は当該各金額と同額であるから、本件各納税告知処分はいずれも適法である。

(3)  本件不納付加算税各賦課決定処分の適法性

上記のとおり、本件各納税告知処分は適法であるところ、国税通則法67条1項の規定に基づいて計算した不納付加算税の額は、別表1の「不納付加算税額」欄に記載の各金額であると認められる。

そして、本件不納付加算税各賦課決定処分に係る不納付加算税の額は、各月分とも当該金額と同額であるから、本件不納付加算税各賦課決定処分はいずれも適法である。

4  本件各決定処分等の適否

(1)  法令の適用

前記1(3)のとおり、原告は、本件協会から本件芸能人の派遣を受けて本件芸能人を本件クラブ等に出演させることにより、本件クラブ等から本件芸能人の出演の対価として本件報酬の支払を受けるとともに、本件協会に対し本件芸能人の派遣に係る対価として本件金員を支払っているものである。そうすると、本件報酬は原告が事業として本件芸能人を本件クラブ等に出演させ、当該人的役務の提供の対価として受けたものといえるから、消費税法2条1項8号、9号に規定する「課税資産の譲渡等」の対価に該当する。そして、この場合に本件各課税期間に係る各基準期間における課税売上高が別表3のとおりいずれも3000万円を超えることについて当事者間に争いはない。したがって、原告には、本件各課税期間における本件報酬の収受について、消費税等の納税義務がある(同法5条1項、地方税法72条の78第1項)。

また、本件各課税期間の本件報酬の額が別表2に記載のとおりであることについても、当事者間に争いがない。

これらを前提に原告の本件各課税期間の消費税等の額を計算すると、別表4に記載のとおりと認められる。

(2)  本件各決定処分の適法性

上記のとおり、原告の本件各課税期間の消費税等の額は、別表4の「⑪差引納付すべき合計税額」欄に記載のとおりであるところ、本件各決定処分に係る納付すべき税額は当該各金額と同額であるから、本件各決定処分はいずれも適法である。

(3)  本件無申告加算税各賦課決定処分の適法性

上記のとおり、本件各決定処分は適法であるところ、国税通則法66条1項及び地方税法附則9条の9第1項の規定に基づいて計算した無申告加算税の額は、別表4の「無申告加算税の額」欄に記載の各金額であると認められる。

そして、本件無申告加算税各賦課決定処分に係る無申告加算税の額は、本件各課税期間とも当該金額と同額であるから、本件無申告加算税各賦課決定処分はいずれも適法である。

第8  結論

以上のとおりであって、原告の本件各請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 裁判官 貝阿彌亮)

別紙1

本件納税告知処分等の経緯

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別紙2

本件各決定処分及び本件無申告加算税各賦課決定処分の経緯

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別紙1

本件納税告知処分等の額

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別表2

本件各課税期間における本件報酬の額

file_5.jpg£83, 300, 000 2,700, 000

別表3

各基準期間における課税売上高

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別表4

本件各決定処分等

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