横浜地方裁判所 平成14年(行ウ)27号 判決 2004年9月22日
原告 甲
訴訟代理人弁護士 吉野正三郎
被告 川崎北税務署長
小林靜次
指定代理人 植田浩行
同 中村芳一
同 佐藤昌永
同 曽我高佳
同 成田兼二
同 中村豊
同 小宮山隆
同 笹﨑好一郎
同 伊藤英一
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告が、原告に対し、平成13年2月27日付けでした原告の平成9年分所得税に係る更正処分のうち、課税総所得金額989万7790円、納付すべき税額474万4600円を超える部分を取り消す。
2 被告が、原告に対し、平成13年2月27日付けでした原告の平成10年分所得税に係る更正処分のうち、課税総所得金額1075万5874円、納付すべき税額1680万4000円を超える部分を取り消す。
3 被告が、原告に対し、平成13年2月27日付けでした原告の平成11年分所得税に係る更正処分のうち、課税総所得金額1130万3999円、納付すべき税額3394万3200円を超える部分(但し、平成13年7月30日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。
第2 事案の概要
原告は、平成9年分ないし平成11年分の所得税について、自己の勤務する会社の親会社から付与されたストック・オプションを行使して得た経済的利益(権利行使利益)及び親会社の従業員株式購入制度に基づく権利を行使して得た経済的利益(権利行使利益)をいずれも株式等の「譲渡所得」として申告したところ、被告は、これらの権利行使利益はいずれも「給与所得」に当たるとして更正処分をした。
これに対し、原告が、上記ストック・オプションに係る権利行使利益は「一時所得」に当たるので、これらの更正処分は違法であると主張し、各更正処分のうち、上記申告における税額を超える部分の取消を求めたのが本件事案である(なお、原告は、本件訴訟において、上記従業員株式購入制度に基づく権利行使利益が給与所得に該当することについては争わなかったので、この点は本件訴訟における争点とならなかった。)。
第3 基礎となる事実
(以下の事実は、当事者間に争いがない事実であるか、記載の証拠ないし弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)
1 当事者等
(1) A(以下「米国A社」という。)は、米国ワシントン州所在の法人であり、A株式会社(以下「日本A社」という。)は、昭和61年2月17日、米国A社の100パーセント子会社としてを設立された日本の法人である。
(2) 原告は、平成3年11月に日本A社に入社し、平成12年7月に退社するまで、同社において開発部長等の従業員として勤務していた者である。
2 ストック・オプションの概要
ストック・オプションとは、会社が自社又は子会社の役員、従業員等(以下「従業員等」という。)に対して付与する、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格(通常は、付与時における株式の時価)で取得することができる権利である。
ストック・オプションの付与を受けた従業員等は、ストック・オプション付与契約の定める条件に従って権利を行使することにより、取得する株式の権利行使時における時価と権利行使価額との差額に相当する経済的利益すなわち権利行使利益を取得することができる。
このようなストック・オプションを会社が自社又は子会社の従業員等に付与する制度(以下「ストック・オプション制度」という。)は、米国において考案され、発展してきたものであり、長期インセンティブプランとしての奨励報酬制度の一類型と位置付けられるものである。
3 米国A社のストック・オプション制度の内容
(1) 米国A社の「1991年ストック・オプション・プラン」(以下「本件ストック・オプション・プラン」という。)によると、同社のストック・オプション制度の概要は、次のとおりである。〔乙12号証〕
ア 本件ストック・オプション・プランの目的は、米国A社又は子会社が雇用する従業員(ここでは、役員も含むものとされている。以下「従業員等」という。)の経済的利益と株式を長期に保有することによる価値を結びつけることにより、実質的に責任ある職に最も相応しい人材を誘引しかつ維持すること、当該人材に対して、付加的なインセンティブを提供すること、及び、米国A社の事業の成功を促進することである(1条、2条(h))。
イ ストック・オプションは、米国A社の取締役会又はこれによって任命された委員会(以下、単に「取締役会」という。)によって運営され、この取締役会が、ストック・オプション付与の対象となる従業員及び付与株数、権利行使期間、権利行使価格等の諸条件を決定する(4条、5条、8条、9条)。
ウ ストック・オプションは、米国A社又はその子会社が雇用する従業員等に対してのみ付与され得る(5条(a))。
エ ストック・オプション保有者の「従業員としての継続的な地位」(従業員としての役務の中断又は終了が存在しないことを意味する(2条(f)))が終了した場合、当該オプション保有者は、その終了の日に行使できる限度まで、ストック・オプションを行使することができる。当該行使は、当該終了の日の後3か月以内に、かつ、オプション付与契約に定められたオプションの期間の終了日以前に行わなければ当該オプションは消滅する。オプション保有者が当該終了の日にオプションを行使する権利を有しない場合は、オプションは消滅する(9条(b))。
オ オプション保有者が全体的かつ永続的な障害の結果として「従業員としての継続的な地位」を終了した場合や、その死亡の場合には、当該終了の日ないし死亡の日から一定の期間、権利行使をすることができる。また、上記の定めにかかわらず、取締役会は、適切とみなす場合に発行済みのオプションの終了日を延長する権限を有している(9条(c)ないし(e))。
カ ストック・オプションは、遺言又は相続法による場合を除き、売却、質入れ、譲渡、担保権設定、移転又は処分をすることができず、オプション保有者が生存中は、その者のみが行使することができる(10条)。
(2) 米国A社のホームページにおける同社のストック・オプション制度の説明によれば、同社のストック・オプションは、付与の日から1年後に対象株式の8分の1について権利行使が可能となるもので、その後半年ごとに順次8分の1ずつ権利行使が可能となり、付与の日から4年半後に全株式についての権利行使が可能となるものとされている〔乙15号証〕。
(3) また、米国A社のストック・オプションの付与対象者や付与株数等は、上記のとおり、取締役会において決定されるが、その際、過去における実績、将来に及ぶ米国A社への長期的貢献及び当該個人が退職した場合の潜在的な影響といった要因等を考慮して決定されている〔乙14号証〕。
4 原告に対するストック・オプションの付与及びその行使
(1) 原告は、平成5年以降、日本A社に勤務中に、米国A社から、ストック・オプションを付与された。
(2) そして、原告は、平成7年から平成12年にかけて上記ストック・オプションを行使した(このうち、原告が平成9年ないし平成11年に行使したストック・オプションを「本件ストック・オプション」という。)〔甲4、5、7号証、弁論の全趣旨〕。
(3) 本件ストック・オプションの行使により、原告は、平成9年に2486万5433円、平成10年に8845万8988円、平成11年に1億7954万7312円の経済的利益すなわち権利行使利益を、それぞれ得た。これらの権利行使利益は、ストック・オプションの行使によって取得した株式の権利行使時における時価から権利行使価格を控除した金額に相当する(以下、原告が本件ストック・オプションの行使により得た権利行使利益を「本件権利行使利益」という。)〔甲4、5、7号証、弁論の全趣旨〕。
5 本件各更正処分等の経緯(以下の記述については、別表1ないし3参照。)
(1) 原告は、平成9年分ないし平成11年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税について、上記各年に取得した本件権利行使利益及び米国A社の従業員株式購入制度に基づく権利行使利益がいずれも株式等に係る譲渡所得に該当するとして確定申告をした(なお、原告は、平成9年分の所得税については、住宅取得控除の関係で修正申告をした。)。
(2) 被告は、原告に対し、平成13年2月27日付けで、本件係争各年分の所得税について、上記の本件権利行使利益等は給与所得に該当するとして、それぞれ更正処分をした。
(3) 原告は、被告に対し、平成13年4月27日、上記各更正処分を不服として異議申立てをしたところ、被告は、平成13年7月30日付けで、上記各更正処分のうち、平成9年分及び平成10年分の各処分に対する異議申立てについてはいずれも棄却する旨の決定をし、平成11年分の更正処分について一部を取り消す旨の決定をした。
(4) 原告は、国税不服審判所長に対し、平成13年8月30日、上記異議決定後の各更正処分について審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成14年3月25日付けで、上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
(5) 原告は、平成14年6月6日、上記各更正処分(但し、平成11年分の更正処分については上記異議決定による一部取消し後のもの。以下「本件各更正処分」という。)の取消しを求めて、本件訴訟を提起した。
6 ストック・オプション制度に関する我が国の法規制の推移
(1) 会社がストック・オプション制度を実施するためには、その従業員等に対して付与する自社株式を手当てする必要があるところ、これについては、従前の商法の下においても、①新株の有利発行又は②自社株式の取得という方法により対応することが可能ではあったが、①については新株の有利発行のための株主総会の特別決議の効力が6か月に制限され、②についても自己株式の償却期間が6か月に制限されていたことから、ストック・オプションの付与から権利行使までの期間が6か月に制限されてしまい、長期インセンティブとしての機能を期待することができず、法制度上、我が国の会社がストック・オプション制度を導入することは実質的に困難な状況にあった〔乙2号証の1〕。
(2) しかし、平成7年11月、特定新規事業実施円滑化臨時措置法(以下「新規事業法」という。)の改正(平成7年法律第128号)により、商法の特例措置として、特定の株式未公開企業に限り、自社の取締役又は使用人に対する新株の有利発行のための株主総会の特別決議の効力を10年に延長することなどが定められ、これらの企業については、新株の有利発行の方法によるストック・オプション制度の導入が可能となった〔乙2号証の1、2〕。
(3) さらに、平成9年5月、商法の改正(平成9年法律第56号)により、株式会社について、自社の取締役又は使用人に譲渡するための自己株式の取得に関し、取得可能な自己株式の数量が増やされ、償却期間も10年に延長されたこと(商法210条ノ2)などにより、自己株式を取得する方法によるストック・オプション制度の導入が可能となり、また、一定の要件の下に自社の取締役又は使用人に新株引受権を付与する方法のストック・オプション制度も新設された(同法280条ノ19)。しかし、この時点では、我が国の株式会社がその株式を子会社の従業員等に付与する形式のストック・オプション制度の導入を可能にするための規定は設けられなかった〔乙1号証〕。
(4) その後、平成13年11月の商法改正(平成13年法律第128号)による新株予約権制度の導入(商法280条ノ19)により、ストック・オプション制度は新株予約権の有利発行の一場面として位置付けられるとともに、自社の従業員等以外の者にもストック・オプションを付与することができるとされるなど、我が国の株式会社のストック・オプション制度の利用に関する法規制は大幅に緩和されるに至っている。
7 ストック・オプションに関する課税上の取扱いの推移
(1) 平成7年11月の新規事業法の改正以前においては、ストック・オプション一般に関する課税上の取扱いについて規定した法令及び通達は存在しなかった。
もっとも、当時の商法下でも、株主総会決議後6か月間に限って、従業員等に有利な発行価額により新株等を取得する権利を付与することは可能であったところ、これが付与された場合の課税について、所得税法施行令(平成10年政令第104号による改正前のもの)84条は、上記権利に係る所得税法36条の収入金額を、原則として、当該権利に基づく払込みに係る期日における新株等の価額から当該新株等の発行価額を控除した金額による旨を規定し、また、所得税基本通達23~35共-6(ただし、平成8年6月の改正前のもの。)は、発行法人から有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合には、それを行使して新株等についての申込みをしたときに、その付与された権利に基づく発行価額と権利行使時の株価との差額に対し、一時所得として課税することを原則としつつ、当該権利がその発行法人の役員又は使用人に対し支給すべきであった給与等又は退職手当等に代えて与えたと認められる場合には、給与所得又は退職所得として課税することとしていた。
(2) 平成7年11月の新規事業法の改正により、一定の範囲で新株の有利発行の方法によるストック・オプション制度の導入が可能となったことに伴い、平成8年3月、租税特別措置法29条の2が改正(平成8年法律第17号)され、新規事業法上のストック・オプションについて、一定の場合には、権利の行使による株式の取得に係る経済的利益については所得税を課さず、取得した株式の譲渡時に、払込価額を取得価額とした上で、譲渡所得として課税を行う旨が定められた。
他方、商法上の有利な発行価額による新株等を取得する権利を与えられた場合に関する所得税基本通達23~35共-6についても、平成8年6月、当該権利を与えられた場合の所得について、一時所得とする原則を維持しつつ、当該発行法人の役員又は使用人に対しその地位又は職務等に関して当該権利を与えたと認められる場合には給与所得とし、これらの者の退職に基因して当該権利を与えたと認められる場合には退職所得とすると改められた。
〔乙7、8号証〕
(3) さらに、平成9年5月の商法の改正によって、自己株式方式及び新株引受権方式によるストック・オプション制度がすべての株式会社に認められるようになったことを踏まえて、平成10年3月、所得税法施行令84条が改正(平成10年政令第104号)され、商法上のストック・オプションに係る所得税法36条の収入金額を、権利行使により取得した株式のその行使の日における価額から権利行使価格を控除した額とする旨が定められるとともに、租税特別措置法29条の2が改正(平成10年法律第23号)され、一定の要件を満たす商法上のストック・オプションについては、権利の行使による株式の取得に係る経済的利益については所得税を課さず、取得した株式の譲渡時に、譲渡所得として課税する旨が定められた。
また、所得税基本通達23~35共-6についても、上記各法令の改正に対応し、平成10年10月、ストック・オプションに関する課税上の取扱いを明確にするための改正がされ、商法210条ノ2第2項の決議に基づいて与えられた同項3号に規定する権利(所得税法施行令84条1号)及び商法280条ノ19第2項の決議に基づいて与えられた同項に規定する新株の引受権(所得税法施行令84条2号)を取締役又は使用人が行使して株式を取得した場合の所得について、原則として給与所得とし、主として職務の遂行に関連を有しない利益の供与の場合には雑所得とすることとされた。
しかし、この時点でも、親会社から子会社の従業員等に対して付与される親会社の株式に係るストック・オプション等、上記以外のストック・オプションに関する課税上の取扱いについて、直接、明文をもって定めた法令の規定は存在せず、また、通達上も、特段の定めは設けられなかった。
〔乙9、10号証〕
(4) その後、平成13年11月の商法改正を受けて、租税特別措置法29条の2が改正され(平成14年法律第15号)、株式の取得に係る経済的利益の非課税特例の適用対象となる権利として新株予約権が加えられ、また、同特例の適用対象者に、ストック・オプションの付与会社が直接又は間接に100分の50を超える数の株式等を保有する関係にある他の法人の従業員等が加えられた〔乙28号証〕。また、上記商法の改正を受けて、所得税法施行令84条についても所要の改正がされた(平成14年政令第103号)。
さらに、所得税基本通達23~25共-6についても、平成14年の改正により、有利発行による新株予約権(所得税法施行令84条3号)を与えられた者がこれを行使した場合に、雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利を与えられたと認められるときは、所得税法施行令84条1号及び2号に掲げる権利を与えられた場合に準じた取扱いをすることとされ、さらに、発行法人が外国法人の場合についても、同様の取扱いとすることとされた。
第4 本件各課税処分の根拠に関する当事者の主張
《被告の主張》
1 主位的主張
本件権利行使利益及び米国A社の従業員株式購入制度に基づく権利行使利益は、いずれも給与所得に該当するものであり、これに基づく原告の本件係争各年分の所得税に係る課税総所得金額及び納付すべき税額並びにその根拠は、別紙課税根拠表に記載のとおりである。
2 予備的主張
仮に、本件権利行使利益が給与所得に該当するものでないとすれば、これらの利益は、雑所得に該当する。その場合の原告の本件係争各年分の所得税に係る課税総所得金額及び納付すべき税額は、いずれも主位的主張のものよりも多額になる。
《原告の主張》
被告の主張する本件権利行使利益の金額は、いずれも認めるが、これらの利益は、一時所得に該当する。
そこで、被告の主張のうち、本件権利行使利益が給与所得に該当することを前提とする部分については、いずれも否認し、争うが、その余の点については争わない。
第5 争点
本件の争点は以下の各点であるが、①が中心的争点である。
① 本件ストック・オプションに係る権利行使利益(本件権利行使利益の所得区分、すなわち、本件権利行使利益は、給与所得、雑所得、一時所得のいずれに該当するか。
② 本件各更正処分は、租税法律主義等に反し、違法であるかどうか。
③ 本件各更正処分は、信義則に反し、違法であるかどうか。
第6 争点に関する当事者の主張
1 争点①(本件権利行使利益の所得区分)について
《被告の主張》
本件権利行使利益は、所得税法上、給与所得に該当する。仮にそうでないとしても、雑所得に該当する。
(1) ストック・オプションの性格
ア ストック・オプションを付与された従業員等は、当該株式の時価が権利行使価格を上回った場合、この権利を行使して株式を取得し、当該株式の時価と権利行使価格の差額相当の経済的利益(権利行使利益)を享受することができる。
ストック・オプション制度は、ストック・オプションを従業員等に付与することにより、当該従業員等の精勤意欲の向上が期待され、付与会社も、優秀な人材を誘引、確保するとともに会社の業績向上を図ることを期待することができるという、長期インセンティブ報酬(業績連動型報酬)制度の一種である。この長期インセンティブ報酬の目的を達成するために、付与の対象となるのは従業員等のみであり、また、付与契約において一定期間の勤務、権利行使期間、権利行使価格等の条件が定められ、さらに、付与されたストック・オプションの譲渡が禁止され、退職等により雇用契約等(雇用契約又は取締役等の役員についての委任契約をいう。以下同じ。)が消滅した場合等には、権利が消滅したり権利行使期間が制限されたりするのが通常である。
このように、ストック・オプション制度は、「付与→一定期間の勤務→株価の上昇→権利行使による時価より低額での株式売買」という一連の過程を経て、初めて従業員等において権利行使利益を取得できるもので、インセンティブ報酬として勤務先会社における勤務と不可分に結びつけられた仕組みである。従業員等としての地位にあるからこそストック・オプションが付与され、かつ、現実に勤務を継続しなければ権利行使の機会を得られず、したがって権利行使利益も得られないのである。
イ ストック・オプション付与契約は、従業員等とその勤務先会社との雇用契約等に付された従たる契約(予約)というべきものであって、権利行使利益を従業員等に取得させるため、会社と従業員等との間の雇用契約等を不可欠の前提として締結される、売買(株式譲渡)の一方の予約に類似する契約であり、従業員等の地位にあるストック・オプションの被付与者(以下、単に「被付与者」ということがある。)のみが予約完結権を行使するものとして譲渡が禁止され、かつ、会社における一定期間の勤務等という停止条件が付されたものということができる。
そして、従業員等の地位にある被付与者が、労務を提供してストック・オプション(予約完結権)を行使することができるようになり、これを行使して初めて株式譲渡契約(本契約)が成立し、被付与者は、付与会社に対し、具体的な株式引渡請求権を取得する一方、付与会社は、被付与者に対し、権利行使価格相当額の金員支払請求権を取得することとなり、その結果、付与会社が当該株式を市場で売却(発行)すれば得られたはずのキャッシュフロー(当該株式の時価から権利行使価格相当額を差し引いた額)を、被付与者である従業員等にその労務の対価として移転するものである。
(2) ストック・オプションに係る課税の対象及び時期について
ア 所得税法は、「現実収入」があったときに「収入金額」(同法36条11項)が発生したとして課税することを原則としつつ、いまだ現実収入はないが「(現実)収入の原因となる権利」が確定したときはその時点で「収入金額」が発生したとして課税するという、権利確定主義を採用しているものと解される。
そして、所得税法36条の規定に照らせば、金銭以外の物、権利又は経済的利益も現実収入となり得るが、現実収入に対しては所得税課税がされることから、「現実収入」に該当するためには、経済的・実質的観点から、所得税課税にふさわしい内実のある利益等でなければならず、容易に現金に換価され得るものを受領した場合であることを要すると解される。また、「収入の原因となる権利」とは、現実収入としての金銭、物、権利又は経済的利益の交付ないし引渡しを請求する権利であると考えられる。
イ これをストック・オプションについてみると、本件ストック・オプションのように、譲渡が禁止され、被付与者以外は行使できず、これを取引の対象とする市場も存在しないものについては、これを付与されただけでは、換価可能性がないものを与えられたにすぎないから、付与されたストック・オプションそれ自体が現実収入に当たるとはいえない。市場性のないストック・オプションのように、将来権利行使利益を得ることに対する期待権にすぎないものについて、所得税を課税することはあり得ないのである。
そうすると、本件のようなストック・オプションにおいては、権利行使利益が「現実収入」であり、ストック・オプションを行使して発生する株式引渡請求権が「収入の原因となる権利」に該当するものというべきである。
ウ 以上のとおり、本件ストック・オプションにおける所得税課税の対象は、権利行使利益であり、その課税時期が権利行使時であることは明らかである。
そして、このように解することは、租税特別措置法29条の2及び所得税法施行令84条が、商法上のストック・オプションに関し、権利行使時における権利行使利益に対する課税を前提とした規定をしていることとも整合的である。
(3) 本件権利行使利益が給与所得に該当することについて
ア ストック・オプションに関する課税実定法規について
租税特別措置法29条の2は、第2章「所得税法の特例」、第3節「給与所得及び退職所得」の中に置かれていることからすれば、ストック・オプションの行使により生じる経済的利益は原則として給与所得として課税されることを前提とした上で、同条所定のいわゆる税制適格型のものについては、権利行使時において権利行使利益に所得税を課さずに、株式の譲渡時まで課税の繰延べを認める趣旨のものと解される。また、所得税法施行令84条は、商法上のストック・オプションについて権利行使利益に課税する旨を明示している。
そうすると、現行法上、租税特別措置法29条の2の要件を充たさない税制非適格型のストック・オプションについては、権利行使時に権利行使利益に対して給与所得として課税されるものであって、これと同様の性質を有する本件ストック・オプションについても、所得税法36条の解釈として、権利行使時に権利行使利益に対して給与所得として課税されると解するのが、上記各規定の趣旨に照らしても相当である。
イ 給与所得の意義について
給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」(所得税法28条1項)であり、勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供された労務の対価を広く含むものである。
そして、その認定に際しては、支払者と受給者間の形式的法律関係のみではなく、支払の原因となった法律関係についての支払者と受給者の意思ないし認識、労務の提供や支払の具体的態様等を考察して、客観的、実質的に判断すべきである。また、この給与所得の本質は非独立的・従属的労働の対価という点にあるが、この場合の対価は、雇用契約等の反対給付(取締役委任契約に基づく報酬、雇用契約に基づく給料等)に限定されるものではなく、従業員等の地位に基づいて給付される限り、労務の対価としての性質を有し、給与所得に該当するというべきである。
ウ 勤務先会社からストック・オプションが付与される場合について
(ア) ストック・オプション付与契約は、前記(1)のとおり、従業員等とその勤務先会社との雇用契約等を不可欠の前提として締結される契約であって、権利行使利益を、従業員等に労務の対価として取得させるためのものである。したがって、従業員等の地位に基づいて付与されたストック・オプションの行使に係る経済的利益(権利行使利益)は、労務の対価としての性質を有するから、給与所得に該当することとなる。
(イ) これに対し、ストック・オプションの被付与者が権利行使利益を取得するかどうか及び取得する利益の額は、株価の変動という偶発的な要素や被付与者の権利行使の時期に関する判断に大きく基因するものであるから、権利行使利益は付与会社から被付与者に対して与えられた経済的利益と評価することはできないといった見解がある。
しかし、このような見解は、株価の変動を前提とする権利行使利益に一時的、偶発的な要素があることにとらわれすぎて、労務と不可分に結び付けられたストック・オプション制度の本質を見誤ったものである。もともと、株価の変動や被付与者に権利行使時期の選択を委ねているといった要素は、いずれもストック・オプション制度自体に内在するものであり、ストック・オプション自体が、いわば価格の変動等を織り込み済みのものとして、その制度の枠内で一定期間の勤務等の条件を満たした被付与者が権利を行使する限り、付与会社において、その従業員等に労務の対価として低額譲渡の利益を与えるものである。会社に勤務していたからこそストック・オプションが付与され、かつ、現実に勤務を継続したからこそ権利行使利益を取得できたという点で、権利行使利益は労務の対価としての性質を有するのであり、そうである以上、権利行使利益の額がいかに株価変動の偶然性や行使時期に関する判断といった要素に左右されようとも、権利行使利益は給与所得に該当することは明らかである。
(ウ) また、使用者から受ける給付が「労務の対価」であると評価できるためには従業員等が提供した労務の質ないし量と当該給付との間に経済的合理性に基づいた相関関係があることが必要であるとし、この観点からストック・オプションに係る権利行使利益の「労務の対価」性すなわち給与所得性を否定する見解もある。
しかし、このように給与所得該当性に関し、労務の質ないし量と給付との間に何らかの相関関係を要求する見解は、従来の判例・実務の一般的な理解とは異なる独自の見解である。「労務と給付額との相関関係」は給与所得の要件ではなく、当該従業員等が提供した具体的な労務の質ないし量と給付額との間に何ら相関関係がなくても、従業員等としての地位に基づいて受ける給付は、すべて労務の対価であり、給与所得に該当するというべきである。
なお、仮に、労務の質ないし量と給付との間に何らかの相関関係を要するとの立場に立ったとしても、ストック・オプションの付与会社は、従業員等の貢献度等に応じて、付与するストック・オプションの数量、権利行使価格、権利行使期間等権利行使利益の多寡に影響する一定の条件を決めているのであるから、その点において、給付としての権利行使利益は労務の質ないし量と相関関係を有するものということができる。
(エ) 以上によれば、勤務先会社から付与されたストック・オプションに係る権利行使利益が給与所得に該当することは、明らかである。
エ 親会社からストック・オプションが付与される場合について
(ア) 付与会社が親会社の場合に異なるのは、付与会社が直接の雇用契約等の当事者でないという点のみであり、従業員等が勤務先会社に勤務していたからこそストック・オプションを付与され、かつ、現実に勤務を継続していたからこそ権利行使利益を取得できたという点では何ら異なることはない。
(イ) 所得税法28条1項は、給与所得を雇用契約等の当事者である使用者からの給付に限定するとは規定しておらず、使用者以外の第三者からの給付であることのみをもって、当該給付を給与所得から除外しているとは解されない。
この点に関連して、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁(以下「最高裁昭和56年判決」という。)は、「使用者から受ける給付」であることを給与所得の要件としているようにもみえるが、同判決は、給与支給者と雇用契約等の当事者(使用者)とが一致する通常の場合について判断したものであり、同判決が雇用契約等の当事者以外の第三者からの給付を給与所得から除外する趣旨とは解されない。
また、租税特別措置法29条の2は、親会社から付与されたストック・オプションが、子会社に対する労務提供の対価であることを当然の前提としており、本件でも同条の趣旨を踏まえた解釈がされるべきである。
(ウ) 給与所得に該当するか否かの判断要素は、従業員等の立場からみて、それが従業員等としての地位に基づき、一定期間に空間的・時間的な支配を受けつつ労務を提供したことの対価と認められるか否かという実質的な点に求められるべきである。そして、この場合、空間的・時間的支配を受けた先が親会社であるか子会社であるかは従業員等の立場からは特段の意味を持つとはいえないから考慮する必要はないし、親会社においても、従業員等に対する子会社の空間的・時間的支配を前提に給付しているのであるから、それは従業員等の地位に基づく給付とみて支障はなく、本件権利行使利益についても、給与所得に該当することは明らかであり、このように解しても何ら所得税法28条1項及び判例に反するものではない。
被付与者である子会社の従業員等は、子会社の従業員等の地位にあって、子会社の指揮命令に服して一定期間勤務して初めて権利行使利益を取得することができるのであり、このような労務の提供なくしては権利行使利益を得られない関係にあるから、権利行使利益に労務の対価性があることは明らかである。
また、親会社が、被付与者である子会社の従業員等に対し、実質的には自らの負担において経済的利益(権利行使利益)を与える理由は、被付与者の子会社における労務の提供にある。これは、被付与者の子会社における勤務により子会社の業績が向上すれば、親会社も利益を受ける関係にあると認識されているからにほかならない。
さらに、使用者は、従業員等の勤労の成果が使用者に帰属するという関係にあるからこそ従業員等に給与を支給するものであるところ、使用者以外の第三者であっても、使用者を通じてその従業員等の労働力を利用し勤労の成果を得ることができる関係にある者が、当該従業員等に支給した金銭ないし経済的利益は、給与ということができる。この点、親会社は、株式や出資持分の保有を通じて、子会社を経営支配しており、子会社の従業員等の労働力を利用し、その勤労の成果を得ることができる関係にあるといえるのである。
加えて、親会社が子会社等のグループ企業の従業員等をも対象とするストック・オプション付与制度を有している場合には、その子会社等も、その従業員等の勤労意欲の向上等により会社の業績が向上することを期待できるから、自社における労務を前提として、その従業員等に対し、親会社が権利行使利益を与えることを容認しているものといえる。
(エ) このような事情に照らせば、被付与者である子会社の従業員等が取得するストック・オプションに係る権利行使利益は、直接の雇用契約関係にない親会社から受けるものであるが、使用者である子会社の指揮命令に服しての労務の提供に基因して得られるものであり、子会社における労務の対価として給与所得に該当するものというべきである。
オ 本件権利行使利益の給与所得該当性
原告の勤務していた日本A社が本件ストック・オプションの付与会社である米国A社の100パーセント子会社であることから、日本A社が原告の勤労の成果を得る結果、米国A社も利益を受ける関係にある。さらに、米国A社のストック・オプション制度に照らせば、本件ストック・オプションの付与は、原告が日本A社に勤務し、同社に対し労務を提供することを基礎として、米国A社が、当該労務提供の対価として、権利行使利益を原告に与える趣旨のものと認められる。
そうすると、本件権利行使利益が給与所得に該当することは明らかというべきである。
(4) 本件権利行使利益が一時所得に該当しないことについて
ア 偶発的、一時的な性格について
ストック・オプションに係る権利行使利益の取得自体が、行使時期の判断を委ねられている従業員等による選択の結果であり、従業員等は、確実に意図した利益を得ることができる状況の下で権利を行使しているのであるから、権利行使利益は偶然に取得したものとはいえない。この点において、宝くじが当たるのとは質的に異なる。
イ 一時所得の消極的要件としての対価性について
一時所得(所得税法34条1項)に該当するためには、その所得が「労務その他の役務・・・の対価としての性質」を有しないものでなければならない。この一時所得の消極的要件としての「役務の対価性」の点は、その所得が一時所得か、それとも雑所得かの区分の基準となるところ、ここでいう「対価」とは、給与所得に関して述べたとおり、双務契約における一方の履行に対する他方の給付という狭い意義にとどまらず、当該労務その他の役務を提供したことを評価し、これに対して金銭その他の経済的利益が給付された場合を含むものである。そして、ストック・オプションに係る権利行使利益は、子会社の従業員等としての地位及びその勤務に密接に関係する所得であることは明白であって、所得税法34条1項の「労務その他の役務・・・の対価としての性質」を有するから、一時所得には該当しないものである。
ウ 偶発的、一時的な要素を持つ所得についての所得区分についてそもそも、一般に所得は何らかの経済取引から生じるものであり、その発生過程の中に、物の価格等の偶発的な要素及び当該所得を稼得した者の経済状況についての判断が含まれることは、むしろ当然である。このような要素は、所得の有無や多寡を決定する要素にすぎないのであって、所得税法が所得の源泉ないし性質に応じて所得区分を定めた趣旨に照らせば、当該要素をそれらの経済活動によって発生した所得の所得区分を判定する基礎とするのは誤りであるから、株価の変動が偶発的であるからという理由で、株式を対象として生じた所得が一時所得になるということはできない。
エ まとめ
以上のように、仮に本件権利行使利益が給与所得に当たらないとしても、一時所得と解する余地はなく、同利益は、少なくとも雑所得には該当する。
(5) 本件各更正処分の適法性
本件権利行使利益が給与所得に該当する場合の、原告の本件係争各年分の所得税に係る納付すべき税額は、前記第4、1のとおりであり、いずれも本件各更正処分に係る納付すべき税額と同額かこれを上回る。
また、本件権利行使利益が雑所得に該当する場合の納付すべき税額は、前記第4、2のとおり、いずれも本件各更正処分に係る納付すべき税額を上回る。
したがって、本件各更正処分は、いずれも適法である。
《原告の主張》
本件権利行使利益は、所得税法上、一時所得に該当する。
(1) ストック・オプションに係る課税の対象及び時期
被告は、所得税法36条1項が規定する権利確定主義を前提として、本件ストック・オプション制度において、現実収入として考えられ、したがって、課税の対象となるのは、権利行使時における株式の時価と権利行使価格との差額である権利行使利益のみであると主張する。
しかし、ストック・オプションが「労務の対価」の性質を持つものとすれば、ストック・オプション自体が課税の対象となるのであり、ストック・オプションを従業員に付与した時期において、その価値すなわちオプション価格を基準として課税しなければならないはずである。
(2) 本件権利行使利益が給与所得に該当しないことについて
ア 給与所得の意義について
所得税法28条1項は、給与所得を「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与にかかる所得」と定義しており、最高裁昭和56年判決も、「給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものであり、給与所得に該当するか否かの判断に当たっては、給与所得者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかが重視されるべきであると解される。」と判示する。
イ 雇用契約類似原因関係要件ないし労務の対価性に欠けることしかし、本件ストック・オプション付与の際の条件は、被付与者である原告に対し、子会社である日本A社に勤続するインセンティブを与えるものであり、原告が親会社である米国A社に対して労務を提供する義務があるわけではない。また、現実に、原告が、親会社である米国A社との間で、何らかの空間的、時間的な拘束を受けて継続的ないし断続的に労務を提供する関係にあるとか、原告の子会社である日本A社に対する勤労が、米国A社に対する労務の提供と同視すべきような事情も本件には認められない。
したがって、原告が、勤務先以外の第三者である親会社の米国A社から本件ストック・オプションに係る権利行使利益の給付を受けたとしても、それが「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受けた給付」であると認めることはできない。
ウ 労務の対価性に欠けること
ある給付が給与所得の要件である労務の「対価」であると評価できるためには、従業員が提供した労務と当該給付との間に経済的合理性に基づいた対価関係がなければならないはずであり、そのようにいえるためには、従業員が提供した労務の質及び量と当該給付との間には、ある程度の何らかの相関関係がなければならないものと解される。本件においても、ストック・オプションの行使による本件権利行使利利益が、企業への定着(他の企業に移籍しないで労務を提供すること)に対するものという側面があるとしても、当該給付と労務の間には何らかの関連性ないし相関関係がなければならない。
しかし、本件権利行使利益が得られるかどうか、また得られるとしてその額がどの程度になるかは、米国A社の株価の推移という多分に偶発的な要素と、その権利を行使する原告の投資判断という、原告の就労の質及び量とはおよそ異なる要素により定まるものであり、そのような権利行使利益は、偶発的、偶然的な所得であって、就労の質や量とは何らの相関関係を持たず、従業員の就労と経済的合理性に基づく対価関係を有する給与所得に該当するとみることはできない。
被告は、ストック・オプション制度は、権利行使利益の有無や多寡が未確定であるからこそ、インセンティブ報酬として機能するのであって、従業員等の就労と権利行使利益との間に相関関係があると主張するが、このような主張は、会社が毎月、従業員に一定数量の「宝くじ」を就労意欲を高めるためのインセンティブ報酬として給付する場合についても、偶々宝くじが当たり従業員が金員を取得した場合は、それが給与所得であるということと同じであり、全く合理性を持たない。
エ 給与としての性質を有しないこと
被告は、本件権利行使利益の給与所得該当性について、支払者と受給者間の形式的法律関係のみではなく、支払の原因となった法律関係についての支払者と受給者の意思ないし認識、労務の提供や支払の具体的態様等を考察して、客観的、実質的に判断すべきであるとし、本件ストック・オプション・プランにおいては、日本A社とその従業員等の雇用条件の中に、米国A社からのストック・オプションの付与が組み込まれており、当事者である米国A社、日本A社及び同社の従業員等が、本件権利行使利益を、従業員等の日本A社における労務の対価、すなわち「給与」と認識していたことは明らかであると主張する。
しかし、原告は、米国A社から付与されるストック・オプションが、日本A社における「労務の対価」すなわち「給与」と認識していたという事実はない。
また、親会社の株価の変動及び原告自身の権利行使の時期に関する判断によってその発生の有無及び金額が決定づけられる偶発的、一時的性格を有する経済的利益である本件権利行使利益について、「給与性」を認定することはできない。
被告の上記見解は、原告が本件ストック・オプションの権利行使によって得る利益が、不確定なものであり、偶発的要素によって決定される性質のものであることが軽視されているといわざるを得ない。
オ 労働基準法の「賃金」概念の観点から。も、「労務対価性」、「給与性」が否定されるべきであること労働基準法11条は、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義しているところ、使用者が労働者に付与するのはストック・オプションの権利であるが、その後は、労働者が、株式を購入するかどうか、購入するとしてそれをいつ行うか、株式を購入後にそれを売却するかどうか、売却するとしていつそれを売却するかを労働者自らが判断するものであることなどを理由として、ストック・オプションは「賃金」には該当しないという見解がある。この見解は、このような「賃金」概念の観点からストック・オプションの「労務対価性」、「給与性」を否定しているのであるが、この考え方は、税法の観点からも是認しうるものである。すなわち、労働基準法の「賃金」概念の観点からすれば、ストック・オプションのごときインセンティブ報酬型の現物給付は、それが株式市場への依存性、投機性に左右されればされるほど、賭博的性格を帯び、給与所得という概念から遠いものになるからである。
(3) 本件権利行使利益が一時所得に該当することについて
本件権利行使利益は、原告の就労の対価ではなく、親会社である米国A社の株価の変動及び原告自身の権利行使の時期に関する投資判断によって、その発生の有無及び金額が決定付けられた偶然的、偶発的、一時的な性格を有する経済的利益である。また、本件権利行使利益は、勤労性所得ではなく、ストック・オプションという期待権に基づく資産性所得であり、回帰的に発生するとは限らないものであるから、所得税法34条1項の一時所得に該当するものである。
(4) 本件権利行使利益が雑所得に該当しないことについて
本件権利行使利益が就労の対価としての性質を有しない以上、雑所得にも該当しないものである。
(5) 本件各更正処分の違法性
以上のとおり、本件権利行使利益は一時所得と解すべきところ、本件各更正処分に係る納付すべき税額のうち、本件権利行使利益を一時所得として計算した額を上回る部分は、いずれも違法である。
2 争点②(租税法律主義違反等の有無)について
《原告の主張》
(1) 租税法律主義及び法律不遡及原則とは、納税者は租税法規に依拠しつつ各種取引を行うのであって、後になってその信頼を裏切ることは取引の予測可能性・法的安定性を害することになるから、これを防ぐことをねらいとした原則である。したがって、後から変更した課税の基準を遡及的に適用することは、納税者が不利益を被ることになるから、許されるべきではない。
本件において、被告は、本件権利行使利益の所得区分について、「譲渡所得」であることを示して、原告に対して「譲渡所得」として申告するようにと指導したのであったが、平成12年分の所得税の確定申告の時期になって、原告にとり不利益となる「給与所得」の扱いに変更したものであり、この解釈の変更は、所得税法自体の予測可能性・法的安定性を害したものといえる。これは、課税庁の「通達」という恣意的な「裁量判断」によって「外国の親会社から付与されたストック・オプションの権利行使利益が給与所得に該当するか否か」の解釈の変更をしたものであり、税務行政の合法律性の原則に違反する。しかも、被告は、この新しい解釈を平成9年分まで遡って適用しているから、本件各更正処分は租税法律主義だけでなく法律不遡及原則にも反するものであり、違法である。
(2) ストック・オプションに係る権利行使利益について、課税庁は、少なくとも平成10年分の所得税申告までは、一貫して「一時所得」として申告するよう指導していたが、その後、平成9年商法改正により日本企業もストック・オプション制度を導入するようになり、税務上の扱いについて、平成10年の租税特別措置法の整備とともに、所得税法施行令84条、所得税法基本通達23~35共-6の改正が行われ、商法のストック・オプションの行使に関する所得については、租税特別措置法29条の2に規定している適格を具備しないものは「給与所得」で課税されることとなり、これにより非適格ストック・オプションの付与会社が日本企業か海外親会社であるかによって、給与所得か一時所得になるかの取扱いの違いが生じるようになった。このように、本件のような外国の親会社が付与するストック・オプションに係る権利行使利益を給与所得として課税できる法律上の根拠はなく、税務署長の裁量により課税期間が変更されたり、過少申告加算税や延滞税が課されたり、課されなかったりしているのが現状である。このような状況は、明らかに「課税の公平性」に反し、この観点から、課税関係の基本原則である租税法律主義に反することは明らかである。
《被告の主張》
海外の親会社から日本にある子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに係る権利行使利益の所得区分について、直接、明文をもって定めた法令の規定はないが、このような権利行使利益は、所得税法28条の解釈上、同条1項所定の「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」に該当すると解されるのであって、被告は、同条に基づき、本件権利行使利益を給与所得と取り扱って本件各更正処分を行ったものであり、何ら租税法律主義に違反するものではない。
3 争点③(信義則違反の有無)について
《原告の主張》
原告は、本件係争各年分の所得税の確定申告に当たり、いずれの年分も原処分庁である被告の職員に助言及び指導を求めたところ、本件権利行使利益は「株式等に係る譲渡所得」に当たるとの指導を受けたため、当該指導を信頼し、かつ、これに従い、各税務申告を行ったのであるから、被告は、信義則上、当該指導に反する更正処分をすることは許されない。
《被告の主張》
信義則は、法の一般原則として、租税法の分野にも適用され得るものではあるが、租税法律主義の下に公平な課税を実現しなければならない租税法の分野における信義則の適用は、民法その他の私法におけるそれとは大きく事情を異にする。租税法の分野において信義則の法理を適用し、課税庁の違法な活動を信頼して行動した私人を保護するため、適法な課税処分を取り消すこととすると、租税法規に違反する事態が現出し、租税法規の平等な適用の要請に背反することとなるからである。
このようなところからすると、租税法の分野における信義則の法理の適用に当たっては、少なくとも、次の各事由を検討した上、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情を備えているか否かについて検討する必要がある。すなわち、①税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を示したこと、②納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと、③のちに上記表示に反する課税処分が行われたこと、④そのために納税者が経済的不利益を受けたこと、⑤納税者が税務官庁の上記表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことの各事由である(最高裁昭和62年10月30日判決)。そして、②は、単に誤った申告では足りず、信頼に基づき申告以外に何らかの行動を行ったことが必要であるし、④は、単に当該課税処分により税額が増加したことでは足りず、具体的な行動を行ったことにより具体的に経済的不利益を受けたことが必要と解される。単に、納税者が課税当局の表示を信頼し過少申告を行ったため、後に更正処分を受け、増差税額を支払わなければならなかったというのみでは、納税者間における課税の公平を犠牲にしてまで信頼を保護しなければならないとはいえないからである。
本件では、信義則違反に関する原告の主張が仮に真実であったとしても、原告が、本件ストック・オプションを受けることについて、税務官庁の公的見解を信頼し、それを主たる動機として受けたが、これにより経済的損失を被ったとするものではなく、本件ストック・オプションを受けたことにより得た本件権利行使利益を税務申告するに際し、被告の職員の指導に従って譲渡所得として申告したというにとどまるから、②及び④の事由を満たさず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別の事情を備えていると認めることはできない。
第7 当裁判所の判断
1 争点①(本件権利行使利益の所得区分)について
(1) 問題の所在
ア 本件は、原告が本件ストック・オプションを行使することにより本件権利行使利益を取得した事実に関し、被告において本件権利行使利益をもって本件ストック・オプションに係る所得税法上の課税所得であると把握してした本件各更正処分の適法性が争われている事案であるが、被告は、主位的に、本件権利行使利益が所得税法の所得区分における給与所得に該当するものと主張し、予備的に、雑所得に該当すると主張しているのに対し、原告は、本件権利行使利益は一時所得に該当すると主張し、本件各更正処分の適法性を争っているところである。
このように、本件訴訟における課税の根拠に関する争点は、本件権利行使利益が給与所得又は雑所得(被告の主張)あるいは一時所得(原告の主張)のいずれに該当するか、という所得区分の問題である(なお、原告は、ストック・オプションに係る課税の対象及び課税の時期について前記第6、1《原告の主張》(1)のように主張しているが、前記第3、3のとおり、本件ストック・オプション・プランに基づく米国A社のストック・オプションは、権利を行使することができる期間についての制約があるばかりでなく、譲渡禁止特約が付され、原則として、被付与者以外の者が行使することは予定されておらず、これを取引の対象とする市場も存在しない〔弁論の全趣旨〕など、ストック・オプションを付与された段階においては、当該ストック・オプションは未だ現実の換価の可能性がないものであって、将来において権利行使利益を得ることについての期待権に過ぎないものであるから、この段階で、付与されたストック・オプションの期待権としての経済的価値を観念的に評価し、「現実収入」があったものとして所得税課税を行うことが相当でないことは、所得税法36条の規定する権利確定主義の考え方に照らしても明らかであるから、原告の上記主張は当を得ないものというべきである。これに対し、ストック・オプションの行使により被付与者が得る株式の時価と権利行使価格との差額に相当する権利行使利益は、所得税法上の所得に該当するところであり、被付与者は、権利を行使することにより、付与会社に対して当該権利行使に対応した株式の引渡請求権を取得し、これにより、権利行使利益を収入すべき権利が確定することになる(所得税法36条1項参照)から、この権利行使時において、権利行使利益を対象として所得税課税をすることに合理的な根拠があることは明らかであるというべきである。)。
イ そして、原告が本件ストック・オプションを行使した平成9年ないし平成11年当時、ストック・オプションを付与された者が得る所得に対する所得税の課税については、前記第3、7のとおり、新規事業法又は商法上認められたストック・オプションに関する課税上の取扱いを定める法令の規定が存在したものの、本件ストック・オプションのように親会社から子会社の従業員等に対して付与されたものの取扱いについて、直接、明文をもって定めた法令の規定は存在しなかった。
したがって、本件権利行使利益に係る原告の所得についての所得区分の問題は、所得税法その他租税関係法令の規定の解釈によって決せられることとなる。
(2) 所得税法における所得区分の仕方について
ア 所得税法の定める所得区分についてみると、同法は、居住者に対して課する所得税に関し、所得を、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類の所得に区分し、これらの各種の所得ごとに、所得の金額の計算方法を規定している(同法23条ないし35条)。
イ そして、所得税法は、一時所得については、雑所得以外の、給与所得を含む他の8種類の所得以外の所得のうち、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう」と規定し(同法34条1項)、さらに、雑所得については、他の所得区分のいずれにも該当しない所得をいうと規定している(同法35条1項)。
したがって、本件権利行使利益の所得区分については、まず給与所得に該当するかどうかを検討した上で、これに該当しない場合には、一時所得に該当するかどうか、さらには雑所得に該当するかどうかを検討していくのが相当というべきである。
そこで、以下、このような観点から、はじめに、本件権利行使利益が給与所得に該当するかどうかについて検討することとする。
(3) 本件権利行使利益が給与所得に該当するかどうかについて
ア 給与所得の意義について
(ア) 所得税法28条1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(給与等)に係る所得をいう」と規定しているが、同条項にいう給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として受ける給付をいうものと解されるところである(最高裁昭和56年判決参照)。
このような給与所得の意義からすれば、一定の所得が給与所得に該当するといえるためには、①雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して労務を提供したこと(雇用契約類似原因関係の存在)、②当該労務の対価として受ける給付であること(労務の対価性の存在)が必要であり、かつ、それで十分であるというべきである。
(イ) そして、被告が本件権利行使利益の給与所得該当性の基礎として主張している労務とは、原告が日本A社に対して提供した労務であるから、本件においては、①当該労務が雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者である日本A社の指揮命令に服して提供したものであるかどうか、②本件権利行使利益が当該労務の対価としての性質を有するものであるかどうか、を検討すべきであるということができる(なお、原告は、雇用契約類似原因関係の存否の点ないし労務の対価性の存否の点に関して、本件ストック・オプションの付与者(米国A社)と原告の使用者(日本A社)とが同一でないことを、本件権利行使利益が給与所得に当たらないとする主張の論拠の1つとしているようであるが、当裁判所は、労務の対価の支給者と使用者との同一性の点は権利行使利益が給与所得に該当するための要件ではないと解する立場を採るものであるので、この論点については、別途、後記において、当裁判所の見解を示すこととする。)。
イ 雇用契約類似原因関係の存否について
そこで、労務の提供についての雇用類似原因関係の存否について検討する。
前記第3、1のとおり、原告は、本件ストック・オプションが付与された時期を含め、平成12年7月に退社するまで、日本A社に従業員等として勤務していた。
そして、原告は、日本A社に勤務中、同社との雇用契約に基づき、これによる義務の履行として同社の指揮命令に服して同社に労務を提供していたものである。
そうすると、原告は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者である日本A社の指揮命令に服して労務を提供していたものと認めることができる。
ウ 労務の対価性の存否について
次に、本件権利行使利益が上記イの労務の提供の対価といえるかどうについて検討する。
(ア) (労務の対価性を検討する視点について)
労務は、一般に、これにより利益を受ける者による当該労務に対する給付を期待することができるという点において、所得の源泉としての性質を有するものであるところ、所得税法は、その所得区分において、このような労務に基因する勤労性所得のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供するという労務の性質と、これに対応する担税力に着目して、そのような非独立的・従属的労務の対価としての性質を有する所得を給与所得として規定したものと解される。
そうすると、本件において労務の対価性を問題とする意義は、本件権利行使利益が、上記のような労務の有する所得の源泉としての性質の現れとして、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付である、といえるかどうかを識別することにあるということができるのであり、したがって、このような視点から労務の対価性についての検討を行うべきである。
(イ) (本件権利行使利益の給付者について)
a 次に、本件権利行使利益が労務の対価としての性質を有するものであるかどうかを検討する前提として、本件権利行使利益の給付者が誰であるかについて検討し、これを明確にしておくことが相当ある。
前記第3、2のとおり、一般にストック・オプション制度は、会社が自社又は子会社の従業員等に対し、自社株式を一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利すなわちストック・オプションを付与するものであるが、被付与者は、ストック・オプション付与契約の定めるところに従ってこのストック・オプションを行使することによって、権利行使の時点における株式の市場価格と権利行使価格との差額を権利行使利益として取得することができる。このように、権利行使利益は、被付与者が権利行使をすることによって発生し、かつ、権利行使の時点における株価に応じて具体的な額が定まるが、その株価は、社会経済情勢等多様な要因によって形成されるものであること、権利行使の時期は、ストック・オプション付与契約の定める範囲内においてではあるが、被付与者が具体的に決定するものであることなどからすると、権利行使利益の発生の有無及びその額は、株価の動向と被付与者の判断によって決まるものであり、付与会社が決めるものではないということができることなどから、ストック・オプション自体は付与会社が給付したものであっても、権利行使利益は、付与会社が給付したものとはいえないとする見解も存在するからである。
b そこで、この点について検討すると、ストック・オプションの被付与者は、付与会社との間で締結されたストック・オプション付与契約の定めるところに従って、ストック・オプションを行使して付与会社からあらかじめ定められた権利行使価格で株式を取得することにより、当該株式の時価と権利行使価格との差額に相当する権利行使利益を得るところ、反対に、付与会社は、この権利行使により、自社株式を市場価格よりも低額の権利行使価格で被付与者に引き渡すことになり、その時点で市場において売却ないし発行すれば時価相当の経済的利益を得ることのできる自社株式を、被付与者に権利行使価格をもって取得させることにより、当該権利行使利益の額に相当する経済的利益を得る地位を失うという関係にある。そうすると、ストック・オプションに係る権利行使利益は、権利行使に伴いストック・オプションの付与会社から被付与者に移転するものというべきであり、これは、ストック・オプション付与契約に基づいて付与会社が被付与者に対してした給付であるということができる。
そして、このようにみることは、もともと、ストック・オプション制度自体が長期インセンティブプランとしての報酬制度の一類型と位置付けられるものであることや、後記(ウ)aないしcで言及するような本件ストック・オプション・プランの性質、内容等から窺われるストック・オプション付与契約を締結した当事者の意思にも整合するものというべきである。
このように、ストック・オプションに係る権利行使利益の有無及びその額が、被付与者がいかなる時点でいかなる量のストック・オプションを行使するかによって具体的に決まるものであること、を理由として権利行使利益はストック・オプションの付与会社が給付したものではないとする見解は妥当なものとはいえないといわざるを得ないのである。
c 以上のところよりすれば、本件権利行使利益は、本件ストック・オプションの付与会社である米国A社が、被付与者である原告に対して給付したものというべきである。
(ウ) (労務の対価性の存否についての具体的検討)
そこで、進んで、本件権利行使利益が、原告が日本A社に対して提供した労務の対価としての性質を有するものといえるかどうかについて、具体的に検討する。
本件権利行使利益が、上記(ア)のように、労務の有する所得の源泉としての性質の現れとして、原告が日本A社との雇用契約類似原因関係に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付であるといえるかどうかを判断するについては、本件権利行使利益の給付の原因となった本件ストック・オプション付与契約の趣旨、目的、性質、内容についての検討が基本となる。そして、本件においては、上記のように、本件権利行使利益を原告に給付した者が、原告の使用者ではない米国A社であるという特質が認められることからすると、本件権利行使利益が、労務の有する所得の源泉としての性質の現れとして、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付であるといえるためには、給付者である米国A社において、原告の当該労務により自らが得る利益を認識し、当該労務に対応するものとしてした給付であり、かつ、そのような認識が取引社会の通念に照らして合理性を有するものと認められるものであることが必要であると解するのが相当である。
そこで、以下、上記の観点から検討する。
a 前記第3、3のとおり、本件ストック・オプション・プランによれば、米国A社のストック・オプション制度は、被付与者である従業員等の経済的利益と株式を長期に保有することによる価値を結びつけることにより、実質的に責任ある職に最もふさわしい人材を誘引しかつ維持すること、当該人材に対して付加的なインセンティブを提供すること、及び、米国A社の成功を促進することを目的としているものである。そして、このストック・オプションは、行使する条件として、被付与者が従業員等のみとされていること、一定期間の勤務の継続が必要であるとされていること、権利行使期間や権利行使価格等が限定されていること、ストック・オプションは原則として譲渡できず、被付与者のみが行使できること、被付与者の死亡等の一定の場合を除き、原則として、Aグループ各社との雇用契約等が終了すれば、権利が短期間で消滅することとされている。
b このように、本件ストック・オプション・プランが、上記のとおり、原則として、被付与者に対し、権利行使のために一定期間の勤務の継続を要求し、かつ、権利行使時においてAグループ各社と一定の雇用関係にあることを等を要求しているのは、米国A社が、被付与者において、権利行使利益を得るために、付与時から権利行使までの間、Aグループ各社との雇用契約等を継続し、労務を提供することを企図しているからであるということができる。
すなわち、被付与者は、ストック・オプションの付与による経済的利益を取得するためには、自ら権利を行使する必要があり、しかも、この権利を行使するためには、付与時から権利行使までの間、Aグループ各社との雇用契約等を継続し、従業員等としての地位に基づき、勤務先会社の指揮命令に服して一定期間労務を提供する必要があるから、米国A社としては、このような内容のストック・オプションを有能な人材に付与することにより、有能な人材が権利行使利益を取得するためにAグループ各社との雇用契約等を継続し、労務を提供すること、そして給付者としてもその勤労の成果を得ることを合理的に期待することができるのである。
このことは、米国A社のストック・オプションについて、権利行使が可能な株式数が付与日の1年後から4年半後にかけて段階的に増加するものとされていることにも現れているところであり、雇用契約等の期間に応じて権利行使の可能な株式数が増加するものとすることで、米国A社において、被付与者が、権利行使利益を取得する目的で、一定期間、雇用契約等を継続して労務を提供することになることを意図しているものということができる。
c また、ストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及び利益の額は、付与会社の株価の変動に応じて変化するところ、米国A社としては、その従業員等にストック・オプションを付与することにより、被付与者に多額の権利行使利益を取得しようとしてより有益な労務を提供してもらうことを期待しているものといえるが、このことは、本件のように、被付与者が米国A社がその全株式を保有している子会社の従業員等である場合にも、同様にいえることである。
すなわち、会社の業績が当該会社の株価の基本的な形成要素であることはいうまでもないが、その全株式を保有する子会社の業績自体も、当該親会社にとっては、その株価の形成要素となるものであることから、子会社である勤務先会社の親会社の米国A社からストック・オプションを付与された者は、勤務先会社の業績向上のために、勤務先会社に対しより有益な労務を提供することが動機付けられる関係にあるからである。米国A社が、長期インセンティブ報酬の一種として発達したストック・オプションを、子会社の従業員等にも付与しているのは、このような効果を企図したものと解するのが合理的である。
そして、本件ストック・オプション・プランにおいて、米国A社のストック・オプション制度の目的として、実質的に責任ある職に最もふさわしい人材を誘引しかつ維持することや、当該人材に対して付加的なインセンティブを提供することを掲げているのは、本件ストック・オプション・プランに基づくストック・オプションが上記のような性質を有しているからにほかならないのである。
d このように、本件ストック・オプション・プランに基づく本件ストック・オプションについても、米国A社において、原告が、日本A社との雇用契約等を継続し、労務の提供をすること、また、日本A社に対しより有益な労務を提供することの動機付けとなることを期待して、これを付与したものと認めることができる。
そして、米国A社が原告に対し本件ストック・オプションを付与したのは、原告の日本A社に対する労務の提供が、自社の利益になると認識していたからであることは明らかである。すなわち、米国A社は、日本A社の全株式を保有する親会社であり、実質的に日本A社の経営を支配しているものであるから、日本A社の業績の向上は米国A社の業績の向上につながる性質を有しており、このような両社の関係からすれば、原告が日本A社に対して提供する労務について、米国A社の利益をもたらす性質のものと認識することに合理性を肯定することができるのであり、米国A社が原告に対し本件ストック・オプションを付与したのは、このような自社の利益に着目したものと認められるのである。
本件ストック・オプション・プランが、米国A社の事業の成功を促進することを目的に掲げつつ、同社のみならず子会社の従業員等にもストック・オプションを付与することとしているのは、このような趣旨と解される。
また、既に述べたとおり、本件ストック・オプション・プランに基づく本件ストック・オプションの内容として、被付与者である原告が権利行使利益を取得するためには、原則として、権利行使時まで日本A社との雇用契約等を継続し、労務を提供することが条件とされており、原告は、日本A社に対して権利行使時まで労務の提供を継続することによって、権利行使利益を取得することができるという関係にある。そして、上記のように、このような原告の労務の提供及びその継続に対する期待が、米国A社が原告に対し本件ストック・オプションを付与した理由であることからすれば、本件ストック・オプションの付与は、米国A社において、その権利行使利益を、原告の日本A社に対する労務の提供及びその継続に対応するものとして給付しようとする趣旨のものということができる。
上記のところからすれば、本件ストック・オプションは、米国A社において、原告が日本A社に対し継続して提供する労務(具体的には、本件ストック・オプションの各付与時から各権利行使時ないし雇用契約等終了時までのもの。)により自らが得る利益を認識し、原告に対し、当該労務に対応するものとしての権利行使利益を給付しようとする趣旨で、本件ストック・オプション付与契約に基づき付与したものと認めることができ、かつ、米国A社の上記の認識は取引社会の通念に照らして合理性を有するものと認めることができるというべきである。
したがって、このような本件ストック・オプションの行使により原告が取得した本件権利行使利益は、原告が日本A社との雇用契約又はこれに類する原因に基づきその指揮命令に服して提供した労務に基因する給付であると認めることができる。すなわち、本件権利行使利益は、原告が日本A社に対して提供した労務の対価としての性質を有するものというべきである。
e この点に関連して、原告は、本件権利行使利益は、ストック・オプションの付与後における米国A社の株価の変動と、権利行使時期についての被付与者の判断により、その発生の有無及びその額が決まるから、これと、個々の被付与者が勤務先会社に対して提供した労務の提供とは、量的にも質的にも相関関係を有するとはいえず、権利行使利益は、被付与者が勤務先会社に提供した労務の内容とは無関係に生じる偶発的な所得であって、従業員の就労と経済的合理性に基づく対価関係を有す給与所得とみることはできない旨を主張する(前記第6、1《原告の主張》(2)ウ)。
確かに、既に触れたように、ストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及びその額は、社会経済情勢等の様々な要因による株価の変動と被付与者の権利行使の時期によって具体的に決まるものである。
しかし、ストック・オプションに係る権利行使利益の発生の有無及びその額が株価の変動や被付与者の権利行使の時期により異なってくるという不確定要素があることは、もともとストック・オプション制度自体が予定しているとことであり、ストック・オプション付与契約の内容として取り込まれているのであって、また、むしろ、ストック・オプションは、このように権利行使利益の額が株価の変動に対応して変化することから、被付与者が有利な時期を自ら選択して権利を行使することができるという魅力を有するということができるのであり、そうであるからこそ、米国A社は、同社のストック・オプションについて、原則として、譲渡を禁じるとともに権利行使時までの雇用契約等の継続を要求して、権利行使利益をもって、被付与者が権利行使時まで勤務先会社との雇用契約等を継続し、より有益な労務を提供する誘因としようとしているのである。
また、ストック・オプション制度がインセンティブ報酬制度として機能しているのは、被付与者の労務の提供が権利行使利益の額の形成要因の一つであるということが関係者間の共通認識となっているからであって、それゆえ、被付与者が勤務先会社に対するより有益な労務の提供を動機付けられるのである。
そして、本件のような子会社の従業員等の労務の提供が親会社の株価の変動要因として寄与する程度は相対的に低いということを否定できないが、このことは、当該ストック・オプションの精勤のインセンティブとしての機能の程度の問題にすぎないのである。
このように、権利行使利益の発生の有無及び利益の額が株価の変動及び被付与者による権利行使時期の判断に対応して変化するということは、むしろ、権利行使時まで、原告が日本A社との雇用契約等を継続し、労務を提供する誘因として機能するものということができるのであって、米国A社は、まさにそのような性質の権利行使利益を原告の労務の対価として給付したものというべきである。したがって、権利行使利益の額が様々な要素によって変動することをもって労務の対価性を否定する論拠とすることはできないというべきである。
なお、これまで述べてきたことからすれば、ストック・オプションの権利行使利益が、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務に基因する給付として、当該労務の対価としての性質を有するものといえるために、権利行使利益の額と被付与者が提供した労務の質ないし量との間に定量的な相関関係が必要であると解すべき合理的な理由がないことは明らかである。
エ 労務の対価の支給者と使用者の同一性の要否について
(ア) 上記イ、ウのとおり、原告は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき、使用者である日本A社の指揮命令に服して労務を提供し、当該労務の対価として、米国A社から本件権利行使利益の給付を受けたものであるから、上記アの説示よりすれば、本件権利行使利益は給与所得に該当することになるが、原告の上記主張にかんがみ、ここで、労務の対価の支給者と使用者が同一であることが、当該対価が給与所得に該当するための要件であると解すべきかどうかについての当裁判所の見解を示しておくこととする。
(イ) 上記ア(ア)のとおり、給与所得の意義について、所得税法28条1項は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(給与等)に係る所得をいう。」と定めるに止まり、文言上、給与等の支給者を使用者に限定しているものではない。また、同条2、3項の規定する給与所得控除制度も、給与所得が雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価であるという性質に着目した課税方法の定めと解されるのであって、これが使用者からの給付のみを前提とした規定であると解すべき根拠を見出すことはできない。
また、所得税法は、租税負担の実質的公平を図るため、所得をその源泉ないし性質に応じて分類し、それぞれの担税力に応じた課税を実現しようとしているところ、所得区分上、給与所得は、前記のとおり、労務に基因する勤労性所得について、その所得の源泉である労務の性質に着目し、勤労性所得のうち、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して労務を提供したことに基因する所得について規定したものと解するのが相当である。そして、従業員等において「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価」として受ける給付は、それが使用者以外の者によるものであったとしても、そのような労務の性質と、これに対応する担税力に着目して給与所得という区分を設けた法の趣旨に照らせば、これを、使用者からの給付とは別異の所得区分に属する性質の契約税的利益であると解すべき合理的な理由はないことは明らかである。
確かに、使用者と給与の支給者とは、通常の場合、一致するものであるが、それは、一般の取引社会において、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価を、使用者以外の者が支給することが経済的合理性に適合するという利益状況が存在することが少ないからにすぎないのである。仮に、給与所得に該当するための要件として「使用者から支給される給付」であることが必要であるとすれば、本件のように、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して労務を提供したことにより、当該労務の対価としての性質を有する給付を受けた場合であっても、その給付者と使用者との同一性が肯定されない場合には、給付の給与所得該当性が否定され、その結果、その余の所得として(それは、労務の対価性が否定されない以上、一時所得に該当することはなく、結局、雑所得として取り扱われることになろう。)課税されることになるが、給付者が使用者ではないという理由のみによってこのような区別をする合理的理由は見いだし難いといわなければならない。
なお、最高裁昭和56年判決も、業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するに際し、使用者と給付者が一致する通常の事案において、当該所得の所得区分の判断の基準とすべき労務の提供の態様について判示したものであって、使用者以外の者からの給付が給与所得の範囲から当然に除外されることを前提とした判断であるということはできないものと解されるところである。
オ 小括
以上のとおり、本件権利行使利益は、給与所得に該当するものというべきである。
(4) 現行の租税関係法令の規定との整合性について
なお、付言すると、所得税法施行令84条は、商法上のストック・オプションについて、これを与えられた場合における当該権利に係る所得税法36条の収入金額は権利行使利益によることとして、権利行使利益をもって所得税の課税の対象とすることを明らかにしている。
そして、租税特別措置法29条の2は、商法上のストック・オプションのうち、同条が定めるいわゆる税制適格型のものについて、権利行使による株式の取得に係る経済的利益(権利行使利益)については所得税を課さないこととして、課税の繰延べを認めているが、同条が租税特別措置法第2章「所得税法の特例」、第3節「給与所得及び退職所得」の中に置かれていることからすれば、同条は、権利行使利益が給与所得として課税される性質のものであることを前提にして、その課税上の特例を設けたものと解することが自然である。また、同条が付与会社がその発行済株式の総数の100分の50を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係にある法人の取締役又は使用人等に付与されたストック・オプションについても、上記非課税特例の対象としていることからすれば、同条は、付与会社と被付与者との間に直接の雇用契約等がある場合に限らず、このような子会社の従業員等に付与されたストック・オプションに係る権利行使利益についても、給与所得に該当することを前提にしているものと理解されるところである。
これに対し、本件ストック・オプションは、外国法人から我が国の子会社の従業員等に付与されたものであるが、その権利行使利益について、上記のような商法上のストック・オプションの場合と比較して、所得税課税における所得区分上、有意な性質の差異を見いだすことはできない。
そうであるとすると、当裁判所は、既に説示してきたように、本件ストック・オプションに係る本件権利行使利益の所得区分の問題について、主として、本件ストック・オプション付与契約の性質や所得税法28条が規定する給与所得の意義についての検討に基づいて、本件権利行使利益が給与所得に該当するとの判断に至ったものであるが、この判断は、上記のような現行の租税関係法令の規定から導き出される所得税課税におけるストック・オプションに係る権利行使利益の位置付けとの関係においても、整合性を有しているものということができるのである。
2 争点②(租税法律主義違反の有無)について
前記1のとおり、本件権利行使利益は、所得税法その他租税関係法令の規定の解釈上、所得税法28条1項の規定する給与所得に該当するものであるから、本件権利行使利益が給与所得に該当するものとしてした本件各更正処分は、租税法律主義に反するものではない。また、本件権利行使利益が給与所得に該当するものとの上記の解釈は、所得税法その他租税関係法令の改正と何ら関連性を有するものではないから、法律不遡及の原則に反するとの問題を生じる余地もないことは明らかである。
3 争点③(信義則違反の有無)について
租税法律主義の下に公平な課税を実現することを要請される租税法の分野において、租税法規に適合する課税処分につき、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとしてこれを取り消すことについては慎重でなければならず、これが許されるのは、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する必要があると解される。そして、この特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに上記表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点を考慮しなければならないというべきである(最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。
本件において、原告は、本件係争各年分の所得税の確定申告に当たり、被告の職員から、本件権利行使利益を「株式等に係る譲渡所得」として申告するよう指導されたことから、これに従い申告したのであるから、信義則上、被告が当該指導に反する更正処分をすることは許されない旨を主張するのであるが、仮に、その主張に概ね沿う上記各年分の確定申告書の作成代理人であったという原告の父の陳述書〔甲7号証〕の記載内容がそのとおりであったとしても、原告は、基本的には、権利行使利益が給与所得に該当するとしてされた本件各更正処分により、正当な税額を負担することとなったにとどまるものであって、それ以上に、原告が、本件権利行使利益につき譲渡所得として課税されるとの信頼に基づいて行動した結果、特別の経済的不利益を被ったことについての主張立証はない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件各更正処分については、納税者に対する平等、公平な租税法規の適用の要請を犠牲にしてもなお、原告の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は存しないというべきであるから、本件各更正処分が信義則に反するものとして違法であるということはできない。
4 本件各更正処分の適法性について
前記第4のとおり、原告の本件係争各年分の所得税の課税根拠については、本件権利行使利益が給与所得に該当することを前提とする部分を除けば当事者間に争いはないところ、前記1のとおり、本件権利行使利益は給与所得に該当するものであり、これを前提とした原告の本件係争各年分の所得税に係る課税総所得金額及び納付すべき税額は、別紙課税根拠表の各年分の課税総所得金額及び納付すべき税額欄にそれぞれ記載のとおりの額と認められる。
そして、これらの額は、いずれも本件各更正処分に係る額と同額かこれを上回るものであるから、本件各更正処分はいずれも適法である。
第8 結論
以上のとおりであって、原告の本件各請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 裁判官 諸岡慎介)
別表1
課税処分等の経緯(平成9年分)
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別表2
課税処分等の経緯(平成10年分)
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別表3
課税処分等の経緯(平成11年分)
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別紙
課税根拠表
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