横浜地方裁判所 平成14年(行ウ)58号 判決 2004年8月10日
原告 甲
訴訟代理人弁護士 大川隆司
被告 平塚税務署長 江尻忠孝
指定代理人 古川忠雄
同 中村芳一
同 齋藤秀樹
同 成田兼二
同 鍋内幸一
同 實川嘉晴
同 為我井利昌
主文
1 原告の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が平成12年6月30日付けで原告の平成9年6月13日相続開始に係る相続税についてした更正処分のうち課税価格1億2918万3000円、納付すべき税額0円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも平成14年6月27日付け審査裁決によって一部取り消された後のもの)を、いずれも取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2 事案の骨子
本件は、原告が、下記の本件各土地を相続により取得したことから、納付すべき税額を0円とする相続税の申告を行ったところ、被告は、これについて更正処分(国税通則法24条)及び過少申告加算税賦課決定処分(国税通則法65条1項)を行ったため、原告が上記各課税処分(ただし、審査裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの。)には、相続財産である本件各土地の価額を過大に評価した違法等があると主張して、その取消しを求めた事案である。
第3 基礎となる事実
(以下の事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨ないし記載した証拠により容易に認められる事実である。)
1 本件相続に関する事実関係
原告は、平成9年6月13日に死亡した乙(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の一人であったが、本件被相続人の遺言により、別紙物件目録記載1及び5の土地並びに別紙物件目録記載2ないし4の土地の持分2分の1(以下「本件各土地」という。また、別紙物件目録記載1の土地を「本件宅地」、別紙物件目録記載2ないし4の土地を「本件農地」、別紙物件目録記載5の土地を「本件山林」という。なお、以下の記述において、「本件農地の価額」、「本件農地の時価」等というのは、特に断らない限り、本件農地の持分2分の1の価額を指す。)を相続した(以下「本件相続」という。)。
2 本件各課税処分等の経緯
原告の本件相続に係る相続税の申告、更正処分等の経緯は、下記のとおりである(別表「本件更正処分等の経緯」参照。)。
(1) 原告は、平成10年3月26日、相続税の申告をした(以下「本件申告」という。)。
なお、原告が提出した申告書には、租税特別措置法70条の6第1項に規定する農地等についての納税猶予の特例(以下「本件納税猶予特例」という。)の適用を受けようとする旨の記載は無く、また、同条12項に規定する「当該農地、採草放牧地及び準農地の明細並びに当該農地、採草放牧地及び準農地に係る納税猶予分の相続税の額の計算に関する明細その他大蔵省令で定める事項を記載した書類」は添付されていなかった。
(2) 被告は、平成12年6月30日付けで、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行った。
(3) そこで、原告は、同年8月29日、被告に対し、上記各処分についてそれぞれ異議申立てをしたが、被告は、同年11月20日付けで、各異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。
(4) さらに、原告は、同年12月19日、国税不服審判所長に対し、上記各処分についてそれぞれ審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成14年6月27日付けで、上記各処分の一部を取り消した(以下「本件裁決」という。また、一部取り消された後の上記更正処分を「本件更正処分」、一部取り消された後の上記過少申告加算税賦課決定処分を「本件過少申告加算税賦課決定処分」、本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分を併せて「本件各課税処分」という。)〔甲1号証〕。
第4 争点
本件の争点は、
① 本件更正処分における本件各土地の相続財産としての価額の評価が、適正な時価(相続税法22条)を超えたものとして、価額を過大に認定した誤りがなかったかどうか、
② 納税義務が無いと信じていたために、相続税の申告時に本件納税猶予特例の適用を受けるための手続をとらなかった納税者が、後日改めて本件納税猶予特例の適用を受けることができるかどうか、受けることができると解される場合において、本件納税猶予特例を受ける機会を与えないまま過少申告加算税賦課決定処分を行うことが許されるかどうか、である。
第5 争点に関する当事者の主張
1 争点①について
【被告の主張】
(1) 財産の評価の方法について
ア 相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、「当該財産の取得の時における時価」により評価するものと規定しているところ、上記時価とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解されている。
しかし、客観的交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続税法に特別の定めのあるものを除き、相続財産の評価の一般的基準が「財産評価基本通達」及び各国税局長が毎年定める「財産評価基準」によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとしている(以下、「財産評価基本通達」及び「財産評価基準」を併せて「財産評価基本通達等」という。)。
これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避けがたく、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、予め定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から見て合理的であるという理由に基づくものであり、上記財産評価基本通達等に定められた評価方法は時価の評価方法として妥当性を有するものと解されている。
イ しかしながら、財産評価基本通達等に定められた評価方法によるべきであるとする趣旨が上記のようなものであることからすれば、財産評価基本通達等に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなど、財産評価基本通達等に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような「特別な事情」がある場合には、他の合理的な方式により評価することができるものと解されている。
そして、土地の評価額に関して、財産評価基本通達等により難い「特別な事情」がある場合とは、財産評価基本通達等の定める評価方法を画一的に適用して土地の評価額を算定したとすると、相続税法22条に規定する時価を超える額が算定され、著しく課税の公平を欠くことにより、本来、相続税法が予定している税負担よりも重い税負担が課せられることとなる場合をいうものと解される。
ウ したがって、本件訴訟において争われている本件各土地の価額及び本件更正処分の適否については、まず、①被告が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56、直審(資)17(平成10年5月12日付け課評2-3による改正前のもの)。以下「本件財産評価基本通達」という。)等の定めに基づいて算定した本件各土地の価額が、客観的時価を超えるものであるか否かの検討を行い、次に、②本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定した本件各土地の価額が、課税の公平を欠き、時価として「著しく不適当」なものと認められた場合には、「客観的時価により近似する価額を求め得るような方法」で得られた価額と、本件更正処分における本件各土地の価額とを比較することによって、本件更正処分の適否が判断されることとなる。
(2) 被告が本件訴訟において主張する本件各土地の価額
被告が本件訴訟において主張する本件各土地の価額は、次のアないしウのとおりであり、いずれも本件財産評価基本通達等の定めに従って評価・算定したものである。
なお、本件更正処分における本件宅地及び本件農地の価額も、ともに本件財産評価基本通達等の定めに従って評価・算定したものであるが、本件更正処分における価額と被告の訴訟上の主張におけるそれに差異が生じたのは、本件訴訟提起後に被告が本件各土地の状況を再度調査した結果に基づき、本件更正処分におけるそれぞれの土地の価額を補正したことによる。
ア 本件宅地の価額
本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定した本件宅地の価額は、1億0822万0905円である。
なお、本件宅地は租税特別措置法(ただし、平成11年法律第9号による改正前のもの。)69条の3の規定が適用されることから、本件宅地のうち200平方メートルまでに対応する価額の0.8が軽減されるため、原告の相続税の課税価格に算入される本件宅地の価額は、8657万6453円である。
イ 本件農地の価額
本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定した本件農地の価額は、9523万8795円である。
ウ 本件山林の価額
本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定した本件山林の価額は8452万5738円である。
(3) 被告鑑定との比較
ア 被告が本件宅地について行った鑑定(乙23号証のもの。以下「被告宅地鑑定」という。)は、本件宅地の価額を1億1040万円としている。
被告が本件農地について行った鑑定(乙24号証のもの。以下「被告農地鑑定」という。)は、本件農地の持分全部の価額を2億2472万円としている。したがって、本件農地の価額は1億1236万円となる。
被告が本件山林について行った鑑定(乙25号証のもの。以下「被告山林鑑定」という。また、上記各鑑定を総称して「被告鑑定」という。)は、本件山林の価額を4019万円としている。
イ 被告鑑定における鑑定評価額は、本件各土地の個別的要因を踏まえた上で、①近隣の取引事例との比較(取引事例比較法)によって求められた価格と、②開発業者による戸建住宅用地としての開発を想定した価格(開発法)とを検討した上で求められたものであり、相続開始時における本件各土地の客観的交換価値、すなわち、相続税法22条に規定する時価として、信頼性の高い合理的なものである。
ウ(ア)本件訴訟において被告が主張する本件宅地及び本件農地の価額は、上記(2)ア及びイのとおり、いずれも本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したものである。
そして、本件宅地の被告主張額と被告宅地鑑定による価額、本件農地の被告主張額と被告農地鑑定による価額とを比較すると、被告宅地鑑定による価額が本件宅地の被告主張額を、被告農地鑑定による価額が本件農地の被告主張額を、それぞれ上回っていることからすれば、被告が本件財産評価基本通達等の定めを適用して算定した本件宅地及び本件農地のそれぞれの価額が、客観的時価を超え、「著しく不適当」なものであるという事情は存在しない。
したがって、本件相続に係る本件宅地及び本件農地の時価の算定にあたっては、納税者間の公平という観点からも、本件財産評価基本通達等の定めを適用して求めた価額によるのが合理的である。
(イ) 次に、本件訴訟において被告が主張する本件山林の価額は、上記(2)ウのとおり、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したものであるが、本件更正処分における評価額、被告の主張額及び本件山林鑑定における評価額は、それぞれ、本件山林の価額についての評価方法を異にしているところである。しかし、この3者を比較すると、本件山林鑑定による価額が、不動産取引に精通した専門家が自らの経験や知識等に基づき鑑定対象地の最有効利用方法を想定し、鑑定した価額であるという点において最も合理性の高いものであると考えられる。
また、本件山林の時価に関しては、被告主張額と本件山林鑑定による価額との間に大きな較差があるため本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算出した被告主張額は、「客観的時価を超える可能性があることにより、著しく不適当であると認められる場合」に当たる可能性がある。
(4) 本件更正処分の適法性
上記(3)ウ(イ)で述べたように、本件山林については、客観的時価を示すと認められる本件山林鑑定による価額と被告主張額との間に大きな較差が存在することから、本件財産評価基本通達等に基づいて算定した価額が「客観的時価を超える可能性があることにより、著しく不適当であると認められる場合」に当たる可能性があるので、本件更正処分の適法性を判断するに当たっては、本件山林の時価を他の合理的な評価方法で求めた価額によって判断することとなる。
この場合、本件山林の価額(時価)は、最も合理性の高い価額によるべきところ、上記(3)ウ(イ)のとおり、本件山林鑑定による価額が最も合理性が高いと認められることからすれば、当該鑑定額によるべきである。
そして、本件宅地及び本件農地について被告が本件財産評価基本通達等に基づいて算定した価額(別表「本件各土地の価額の比較」の順号3及び順号4の②被告主張額欄に記載の金額。本件宅地については租税特別措置法(ただし、平成11年法律第9号による改正前のもの。)69条の3の規定による減額後の価額)並びに本件山林の本件山林鑑定による価額(同表の順号5の③本件鑑定評価額欄に記載の金額)の合計額は2億2200万5248円となるところ、当該金額は本件更正処分における本件各土地の評価額(本件宅地については租税特別措置法(ただし、平成11年法律第9号による改正前のもの。)69条の3の規定による減額後の価額)の合計額2億1843万0077円を上回っているので、本件更正処分における本件各土地の評価には価額を過大に認定した誤りはなく、本件更正処分等は適法である。
(5) 原告の主張に対する反論
ア 本件宅地について
(ア) 原告鑑定は、現に「宅地」として利用されている本件宅地の価額を、現況地目が農地や雑種地等である土地の取引事例に基づき算定したにもかかわらず、鑑定書の中でかかる事実については触れていないことからすると、原告鑑定額は、本件宅地の鑑定評価額として何らの合理性も認められない。
(イ) また、原告鑑定は、本件宅地と標準的画地との個別的要因を比較する上で、本来必要とされない「地勢」、「下水道」を理由として、本件宅地の価額を大幅に減額し、さらに、「街路」、「画地」に関しては、原告鑑定が採用した取引事例に適用された減価率に比べ、明らかに過大な減価率を採用している。
(ウ) 開発法によって求めた価格については、本件宅地を開発、分譲した場合の販売総額を算定するに際して、開発行為が行われたとすると、本件宅地の形状が整えられ、接面する道路も拡幅される等、本件宅地の状況は、開発行為が行われる以前に比べて格段に改善されることとなるところ、原告は、上記販売価格を算定するに当たり「形状等」、「街路等」について大幅な減額を行った理由を一切説明していない。
このことからすると、原告が開発法によって求めた価格も、精度及び信頼性の低い価額であるといわざるを得ない。
(エ) さらに、原告鑑定は、取引事例比較法によって求められた比準価格7万9600円のウェイトを2とし、比準価格に比べて高く算定された開発法により求められた価格11万6000円のウェイトを1として、本件宅地の鑑定額をさらに低く誘導し、9万1600円としている。
(オ) 上記の事実からすれば、原告鑑定は、本件宅地の価額を低く押さえることのみを目的として行われた鑑定評価であると言わざるを得ず、本件相続開始時における本件宅地の客観的交換価値を示すものとは到底認められない。
(カ) 原告のその他の主張に対して
原告は、「A神社の参道の幅員は6.5ないし10メートルであるのに対し、本件宅地の接面する道路は約2メートルである」と主張するが、本件宅地の接面する道路は、A神社の参道と接する東側部分の幅員が約5メートルあり、A神社の参道から離れるにつれて徐々に狭くなっているのであって、原告の主張する事実は本件宅地に接面する道路の状況を正確に表したものではない。
また、原告は、「本件宅地は低湿地にあり、建築物の安定を期するためには、基礎工事に対して、かなりの資金の投下を必要とするから、現況における土地の評価は、その分減額せざるを得ない。」と主張するが、本来、本件財産評価基本通達に定める路線価方式により宅地を評価するに当たり、同一地域(路線)に共通する土地の減額要素は、路線価そのものに減額要素が織り込まれていることから、個々の宅地の個別の減額要素とはなり得ないところ、原告の主張は、本件宅地の固有の減額要素となり得ない立地条件を根拠として、本件宅地に適用される路線価が高すぎる旨主張するものであるから、理由がない。仮に、原告の主張が、地域に共通する問題としてではなく、本件宅地の固有の問題として主張されたものであるとしても、本件宅地上には既に原告の自宅が存在し、その敷地部分は他に比べて一段高くなっていることから、本件宅地に建物を建設するために追加して基礎工事を行う必要があるとの原告の主張は、土地の現況を無視した主張であって根拠のないものである。
イ 本件農地について
原告は、「本件農地の時価は、本件相続開始の直後にである平成10年1月22日に行われた隣接地の取引価格である1平方メートルあたり7万3000円を基に判断すべきである」と主張する。
しかしながら、甲1号証によれば、本件農地の一部が平成10年3月21日に1平方メートルあたり21万7000円で譲渡されたという事実も存在する。
このように大きな較差のある取引実例が存在するにもかかわらず、具体的な検証を行うことなく、単に自己に有利な売買実例が存在することのみを取り上げて根拠とした原告の主張は、合理性に欠ける恣意的なものであり、理由のないものである。
ウ 本件山林について
(ア) 「客観的交換価値の不存在」に対して
高圧線下の土地であっても送電線路空間使用に関する契約書(乙17号証)に記載された制約を満たせば、建物は建築可能なのであり、条件を満たした建物を建築して使用している者も存在する(被告準備書面(2)別添1-1及び1-2参照)。
また、本件山林のように広大な土地を開発する場合、本件山林の最も高い南側の頂上付近から北側の私道まで造成工事を行い不要な土砂を取り除くことによって、なだらかな傾斜の土地として開発するという方法もあり得るのであり、どのような開発方法を選択するかにより工事の態様も異なってくるところ、本件山林の場合、現状では、最大傾斜が30度程度の部分も存在するものの、北側道路から南側境界までの平均勾配は12度程度の土地である(被告準備書面(2)別添2-1及び2-2参照)から、平均勾配を緩やかとするような開発手法が採用された場合、必ずしも原告が主張するような高い擁壁を要するとは限らず、開発が不可能であるということも言えない。
(イ) 「開発許可の取得不能」に対して
仮に、原告と隣接地主等との間に感情的な面も含めて問題が存在し、原告が開発を行おうとした場合に協力が得られないとしても、本件山林を原告から取得した第三者が、隣接地主等の同意を得て開発することが可能であれば、本件山林の時価(客観的交換価値)は、宅地として開発することを前提とした方法で算定するのが合理的である。
したがって、原告個人に帰属する特殊事情により、原告が本件山林を開発するのが困難であるからといって、本件山林の開発が物理的に不可能であるということにはならないし、本件山林の価値が無価値となるものではないから、この点に関する原告の主張は理由のないものである。
【原告の主張】
本件更正処分は、相続財産である本件各土地の評価を誤り、過大に認定したものであって、違法である。
(1) 相続税法22条にいう時価と財産評価基本通達等に基づく財産の評価相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、「当該財産の取得の時における時価」により評価すべきものと規定しているところ、ここにいう時価とは、相続開始時における当該財産の「客観的交換価値」を意味するものと解されている。
しかし、この客観的交換価値とは、財産評価基本通達等によって算出される価格を当然意味するわけではない。
財産評価基本通達等は、客観的交換価値を探求するための便法として許容される、「技術的かつ細目的な基準」に過ぎず、財産評価基本通達等に基づいて算出された価格が、一般的に、相続財産の客観的交換価値を表示するものとして取り扱われているのは、あくまでも事実上の問題であって、他の資料に優先するというような法的効果を主張しうる筋合いのものではない。
(2) 本件宅地の評価
ア 本件宅地の本件相続開始時点における客観的交換価値(租税特別措置法(ただし、平成11年法律第9号による改正前のもの。)69条の3の規定の適用による減額前のもの)は、甲2号証の鑑定評価(以下「原告鑑定」という。)にあるとおり、7330万円を超えるものではない。
イ 被告主張額について
被告の主張額は、以下述べるような実情に即していない路線価を機械的に適用したことに誤りがある。
(ア) 本件宅地の前面道路は、A神社の参道(幅員6.5ないし10メートル)の途中から西側に枝分かれしている道路であって、幅員は約2メートルで、対向車がない時にのみかろうじて小型車両による進入が可能であるが、この道路を30メートル余り入らなければ本件宅地に達することはできない。したがって、本件宅地の間口部分だけのセットバックを考慮すれば足りるというものではない。
にもかかわらず、A神社の参道となっている公道の路線価が1平方メートル当たり16万円と設定されていることと対比すれば、本件宅地の前面道路の路線価は、それよりわずか13%減額しただけの13万9000円と設定されており、あまりにも高すぎて実情に合わない。
(イ) また、本件宅地は低湿地にあり、建築物の安定を期するためには、基礎工事に対して、かなりの資金の投下を必要とするから、現況における土地の評価は、その分減額せざるを得ない。
ウ 被告宅地鑑定について
被告宅地鑑定は、本件宅地の前面道路を1戸だけが通行する場合と4戸が通行する場合とで、全く区別しておらず、本件宅地を現実に4戸の建て売り住宅の敷地として利用することは、車の通行の困難性及び生活排水排除施設設置の困難性に照らして不可能であるという客観的事実を全く考慮に入れていない点において、致命的欠陥を有している。
(3) 本件農地の評価
ア 原告は、平成10年1月22日に、B株式会社から本件農地の東側に隣接する大磯町の土地(地目田。3筆合計355.31平方メートル。)を2600万円(1平方メートル当たり7万3000円)で買い受けているが、原告は、本件申告に際して、この1平方メートル当たりの単価をもって、本件農地の評価額とした。
上記隣接地は、南北に長い矩形をなしているが、東側と北側が、幅員ほぼ4メートルの道路に全面的に接道しているのに対し、本件農地は、南側で幅員2メートルの農道に接しているのみであり、本件農地内に新たに道路を造らずに宅地として利用することは不可能である。
したがって、上記隣接地よりも本件農地の評価額は客観的にははるかに低いから、上記隣接地の1平方メートル当たりの単価を用いて計算した原告の本件農地の評価額7738万円は客観的交換価値と見るべきである。
イ 被告農地鑑定について
被告農地鑑定は、比準価格を決定するに当たり、1平方メートル当たり3万8412円という顕著に安い事例(事例番号5)を資料から排除したり、本件農地よりはるかに品位の高い農地の取引事例(事例番号4及び6)について、取引価格よりも試算価格をはるかに高く(事例番号4については18.7パーセント増し、事例番号6については32.5パーセント増し)決定するというような恣意的操作によって、鑑定評価額のつり上げを図っており、説得力を全く欠く。
したがって、このような資料は、本件農地の客観的交換価値を把握するに足りる資料ではありえない。
(4) 本件山林の評価
ア 相続税法22条にいう「財産」とは、「経済的価値のあるもの」を指す(相続税法基本通達11の2-1)ところ、本件山林は、以下述べるように、全く経済的価値を有しない。
(ア) 客観的交換価値の不存在
本件山林の頂上部分にはCが地役権を有している6万6千ボルトの高圧線鉄塔が立っており、感電の危険や電磁波の影響を受けるおそれがあるので、誰も住宅を建設する訳がなく、本件山林の中央部分を宅地として利用することは不可能である。
また、本件山林は、間口約21メートル、私道から28メートル地点では、高低差は約15メートル、傾斜度は約28度である上、私道付近が急傾斜の土地なので、宅地として開発するには、間口が狭く、道路付近の傾斜が急なため擁壁を設ける必要があるから、宅地化率が低く、擁壁設置費用及び掘削費がかさむので、宅地に転用したとしても、当該費用に見合う宅地の確保は困難であることから、開発後の本件山林に宅地としての客観的交換価値があると認めることはできない。
(イ) 開発許可の取得不能
本件山林は、開発許可なしには宅地化は不可能であるところ、町道から本件山林に至る私道の一部はD株式会社の所有であって〔甲3号証〕、同社は本件山林を含め、E株式会社が開発し残した土地を安く買収して、自ら開発事業を推進する意向を有しているから、同社が原告の申請する開発許可に関して同意を与えることはおよそ期待できない。
(ウ) 農地としての利用困難性及び取引不可能性
本件裁決が取引事例として援用した土地(畑)はいずれも平坦地であり、本件山林をそれらの土地と同等以上に評価しているのは全く不合理である。
イ 被告山林鑑定について
(ア) 被告山林鑑定は、本件山林のうち低い部分約半分は宅地化できると強弁し、宅地化した部分、904.12平方メートルについて1平方メートル当たり19万8000円という販売単価を設定することが可能であるとする。
しかし、被告山林鑑定が販売単価の比準価格を算定するにあたって収集した取引事例(事例番号7ないし11)は、いずれもE株式会社が分譲・開発した、通称F団地内の宅地であって、本件山林のように高圧線下の土地は一つもない。
また、本件山林の一部といえども開発許可なしには宅地化は不可能であるところ、町道から本件山林に至る私道のうち、石神台の土地はD株式会社の所有であって、同社が本件山林も含め、E株式会社が開発し残した土地を安く買収して自ら開発事業を推進する意向を有しているから、D株式会社が原告の申請する開発許可に関して同意を与えることはおよそ期待できない。
いずれにしても、本件山林につき部分的宅地開発が可能という被告山林鑑定が採用した前提は、全くの絵空事に過ぎない。
(イ) 被告山林鑑定は、本件山林の残りの部分について、「現状利用が最有効使用」と判断した上で、五つの取引事例(事例番号12ないし16)及び地価公示基準地(林-8)に基づく比準価格(1平方メートル当たり1万2500円)を決定している。
しかし、幅員3.8メートルの舗装された町道に接している地価公示基準地(林-8)の評価が1平方メートル当たり7300円であるのに、これと比準する本件山林の価格を6割増しの1平方メートル当たり1万1700円と決定するなど、あまりにも恣意的である(ちなみに、「現状利用が最有効」という前提に立つならば、市街化区域であるか否かは問題になり得ない)。
また、取引事例の5つのうち4つは高架線下の土地ではなく、ただ一つの高架線下の土地である事例番号16の取引価格は1平方メートル当たり4537円であり、この事例と比準する本件山林の価格を実に2.5倍の1平方メートル当たり1万1300円と決定したのも極めて恣意的である。
(ウ) 原告は、本件山林の時価を、固定資産評価額の15倍である1平方メートル当たり1480円と評価し、本件山林の価額を409万8960円として本件申告をしたのであったが、被告山林鑑定によっても、本件山林よりはるかに畑地としての利便性にまさる事例16の土地が上記程度の取引価格であることに照らし、原告の自己評価は妥当なものであるといえる。
2 争点②について
【原告の主張】
(1) 租税特別措置法70条の6が規定する本件納税猶予特例は、農地を相続した上で農業経営を存続する者に対して、相続税の納税を猶予する制度を規定したものであるところ、同条の立法趣旨は農業経営の継続を援助することにあるから、納税義務がないと信じたことについて過失のない納税者が、後日、納税義務の存在が確定した場合に、あらためて納税猶予の申出をする機会を排除する趣旨ではないと解される。そもそも納税義務がないと信じている納税者が、その納税申告の際に本件納税猶予特例の適用を申し出るなどということは論理的にあり得ないからである。
したがって、仮に本件更正処分の全部若しくは一部が適法であるとされる場合にも、財産評価という専門的事項につき原告の判断が被告の判断と異なったことについて過失があるとはいえないのであるから、更正処分により納税義務の存在が確定することを前提として、あらためて本件納税猶予特例の適用の申出をする機会が保障されるべきである。
(2) そうであるとすれば、国税通則法65条1項は、現実に納付すべき税額につき申告が過少であった場合を課税要件とする規定であるから、本件のような納税猶予の余地がある場合に過少申告加算税を課すことは許されないと解すべきである。
【被告の主張】
(1) 租税特別措置法70条の6第1項は、「相続税法27条1項の規定による・・・申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるものに係る納税猶予分の相続税については、当該申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税の額に相当する担保を提供した場合に限り、・・・納税猶予期限まで、その納税を猶予する。」と規定し、同条12項は、「第1項の規定は、・・・同項の規定の適用を受けようとする旨の記載がない場合」又は「当該申告書に・・・同項に規定する納税猶予分の相続税の額の計算に関する明細その他大蔵省令で定める事項を記載した書類の添付がない場合には、適用しない。」と規定している。
このように、本件納税猶予特例は、期限内申告書に本件納税猶予特例の適用を受けようとする旨の記載があり、納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供され、かつ、納税猶予分の相続税の額の計算に関する明細その他大蔵省令で定める事項を記載した書類の添付がある場合に限り適用されるのであるが、原告の提出した本件申告書には、本件納税猶予特例の適用を受けようとする旨の記載も、本件納税猶予特例を適用するために必要な書類の添付もなかった。
したがって、原告は本件納税猶予特例の適用を受けることはできない。
なお、本件納税猶予特例にはいわゆる猶予規定が設けられていないことから、期限内申告において適正な申請手続きがとられていない限り、その後において本件納税猶予特例の適用の申請がなされても、本件納税猶予特例が認められる余地はない。
(2) 原告の主張に対する反論
ア 原告は、本件納税猶予特例の立法趣旨は農業経営の継続を援助することにあるから、納税義務がないと信じた(ことについて過失のない)納税者が、後日、納税義務の存在が確定した場合に、あらためて納税猶予の申出をする機会が保障されるべきであると主張する。
しかし、本件納税猶予特例は、農業相続人が、恒久的に農業の用に供していくことを自らの意思で明らかにし、農地価格についていわゆる「宅地期待益含み」部分を享受しないことを宣言した場合に適用すればよいという前提の基に創設されている。
このため、本件納税猶予特例の対象となる農地等について本件納税猶予特例の適用を選択するか否かは、原則として農業相続人の自由選択に委ねられることとされた反面、申告期限内に本件納税猶予特例の適用を受けようとする農地等が確定しないと、農業相続人とそれ以外の者の相続税額の計算や猶予される税額の計算もできないことから、相続税の期限内申告書に本件納税猶予特例の適用を受けようとする旨の記載及び納税猶予分の相続税の額の計算に関する明細その他大蔵省令で定める事項を記載した書類の添付が義務付けられたのである。
このように、本件納税猶予特例は、納税者の選択したところに従い、期限内申告の際に申請手続きがなされることを前提として創設された制度であるので、原告が主張するような解釈を採用することはできない。
イ およそ、税法の解釈、適用については、平等・公平の見地から全ての納税者に画一的に適用されるべきものであるため、法的安定性が強く要請されるのであり、原則として文理解釈によるべきであって、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは適当でなく、とりわけ租税特別措置法の規定の適用に当たっては、一般納税者との間の課税の公平、中立の見地から、厳格な解釈が要請されるというべきである。
ウ 原告は、「国税通則法65条1項は、現実に納付すべき税額につき申告が過少であった場合を課税要件とする規定であるから、本件のような納税猶予の余地がある場合に過少申告加算税を課すことは許されないと解すべきである」と主張する。
しかし、本件納税猶予特例は、納税義務の確定した相続税の納税を一定の要件を満たした場合に限り猶予する制度であって、相続税そのものを減免する規定ではない。
したがって、仮に、本件納税猶予特例を適用することにより相続税の納税が猶予されたとしても、国税通則法65条に規定する過少申告加算税は当該猶予税額も含めて計算した税額に基づいて課されるのであるから、この点に関する原告の主張も理由がなく、失当である。
第6 争点に関する当裁判所の判断
1 争点①について
(1) 相続税法22条が規定する財産の時価の認定の方法について
ア 相続税法22条は、財産の評価の原則として、同法第3章に特別の定めのあるものを除くほか、「相続・・・により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によ」る旨を規定しているところ、ここにいう「当該財産の取得の時における時価」とは「相続開始時における当該財産の客観的交換価値」を意味するのであるが、同法は上記時価すなわち「客観的交換価値」の評価・算定の方法については具体的な定めをおいておらず、また、時価ないし「客観的交換価値」なるものは、必ずしも一義的に確定することができる性質のものではない。
そこで、相続税等に係る課税実務上は、従来から、国税庁において、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から、財産評価基本通達等を定め、各税務署長が、これに定められた評価方法に従って統一的に相続財産の評価を行ってきたところであり、このような財産評価基本通達等に基づく相続財産の評価の方法は、時価すなわち「客観的交換価値」の評価の方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、相続税の納税申告や課税処分について準拠すべき指針として通用してきているところである。
イ このようなことからすれば、相続税に係る課税処分の取消訴訟において、被告税務署長が、当該課税処分が財産評価基本通達等の定めに従って相続財産の価額を評価してしたものであることを主張・立証した場合は、その課税処分における相続財産の評価額は時価すなわち「客観的交換価値」を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきである。
したがって、このような場合には、原告納税者において、たとえば、財産評価基本通達等の定めに従ってしたという財産の評価の基礎となる事実関係の認定に誤りがある等、上記の評価方法に基づく相続財産の価額の算定過程自体に不合理な点があることを指摘して、上記推認を妨げ、あるいは、不動産鑑定士による不動産鑑定評価等に基づいて、上記財産評価基本通達等の定めに従った評価が、当該事案の具体的な事情の下における当該相続財産の時価を適切に反映したものではなく、「客観的交換価値」を上回るものであることを主張立証するなどして上記推認を覆さない限り、当該課税処分は適法であると認めるのが相当である。
ウ なお、上記のように、相続税等に係る課税実務上、財産評価基本通達等に定められた評価方法に従って統一的に相続財産等の評価を行ってきたところであり、かつ、このような財産評価基本通達等に基づく相続財産の評価の方法は、時価の評価の方法として一定の合理性を有するものと一般に認められ、相続税の納税申告や課税処分について準拠すべき指針として通用してきていることにかんがみれば、税務署長において、当該相続財産の時価の評価につき、財産評価基本通逹等に定められた評価方法によらずに、これと異なる他の評価方法によって算定した相続財産の価額をもって、当該相続財産の適正な時価であるとし、これに基づいて相続税に係る課税処分をすることは、公平原則の観点からして、財産評価基本通達等に定められた評価方法を画一的に適用して形式的な平等を貫くことが、当該納税者に対し適正な時価を著しく下回る低廉な財産の評価に基づく相続税課税を行わせることになり、かえって、納税者間の実質的な租税負担の公平を害する結果となるなど、財産評価基本通達等の定めに従った財産評価の方法によらないことが正当と是認されるような特段の事情がない限り、許されないと解されるところである。
しかし、このようにいうことは、財産評価基本通達等に定められた評価方法とは異なる他の評価方法に基づいて相続財産の価額を評価、算定してした相続税に係る課税処分の取消訴訟において、原告納税者が上記公平原則違背の違法を主張した場合には、被告税務署長が上記「特段の事情」の存在について主張・立証することを要することとなるということを意味するにとどまるのであって、一般に、相続税に係る課税処分の取消訴訟における当該課税処分の適法性に関する主張・立証という場面において、被告税務署長が、財産評価基本通達等に定められた評価方法とは異なる他の評価方法、たとえば不動産鑑定士による不動産鑑定評価等に依拠し、その方法に基づいて算定した当該相続財産の価額が適正な時価であることを主張・立証することにより、当該課税処分に課税標準ないし税額の過大認定の違法がないことを主張・立証しようとすることを何ら妨げるものでないことはいうまでもない。
そこで、以下、上記の観点から、争点①についての当裁判所の判断を示すこととする。
(2) 本件宅地の価額について
ア はじめに
本件更正処分における本件宅地の評価は本件財産評価基本通達等の定める方法に従ってされたものであるところ、本件宅地の価額については、被告において、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したという価額を主張する(前記第5、1【被告の主張】(2)ア)とともに、不動産鑑定士が作成した被告宅地鑑定(乙23号証)を証拠として提出して、この不動産鑑定評価書記載の鑑定評価額が、本件相続開始時(財産の取得の時)における本件宅地の適正な時価に相当する旨を主張する(前記【被告の主張】(3)、(5)ア)。これに対し、原告は、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定されたという価額が適正な時価に相当する旨の推認を妨げるという事情を主張する(前記【原告の主張】(2)イ)とともに、原告においても、不動産鑑定士が作成した原告鑑定(甲2号証)を証拠として提出して、この不動産鑑定評価書記載の鑑定評価額が、本件相続開始時(財産の取得の時)における本件宅地の適正な時価に相当する旨を主張している(前記【原告の主張】(2)ア、ウ)ところである。
上記のような当事者双方の主張・立証の構造や、本件宅地についての本件更正処分における評価額と被告宅地鑑定における評価額との関係(別表「本件各土地の価額の比較」参照)を踏まえれば、本件更正処分における本件宅地の相続財産としての価額の評価が、適正な時価を超えたものとして、価額を過大に認定した誤りがなかったかどうかを判断するについては、まずもって、被告宅地鑑定及び原告鑑定の合理性の有無についての検討が重要であるということができる。
そこで、以下、まず、この点について検討する。
イ 被告宅地鑑定について
(ア) 被告宅地鑑定における鑑定評価額(1億1040万円)は、不動産鑑定評価基準における取引事例比較法及び開発法に基づき、本件宅地の個別的要因を前提として、取引事例比較法を適用した比準価格及び開発法(控除方式)を適用した積算価格をそれぞれ求め、これらの求められた試算価格の性格及び地価公示等を規準とする価格との均衡に留意し、比準価格と積算価格の中庸値を採用することが合理的であるとの判断の下に決定されたものと認められるところであって〔乙22、23号証〕、その鑑定評価の基本的方法において一定の合理性を有するものと認めることができる。
(イ) 原告は、被告宅地鑑定は、本件宅地の前面道路(以下「本件接面道路」という。)を1戸だけが通行する場合と4戸が通行する場合とで、全く区別しておらず、本件宅地を現実に4戸の建て売り住宅の敷地として利用することは、車の通行の困難性及び生活排水排除施設設置の困難性に照らして不可能であるという客観的事実を全く考慮に入れていない点において、致命的欠陥を有していると主張する(【原告の主張】(2)ウ)。
しかし、本件接面道路のうち本件宅地より東側の部分は、本件接面道路の北側に接している大磯町の土地の一部及び本件接面道路の南側に接している大磯町の土地と一体となって幅4メートル程の道路として使用されていると認められるのであり〔乙5号証、23号証〕、これに加えて、本件宅地の間口部分のセットバックを行えば、本件宅地まで車で通行することが困難であるとはいい難いところである。
また、被告宅地鑑定のみならず、原告鑑定においても、本件宅地を4分割して開発するという前提で開発法による価額を算定している〔甲2号証15頁〕ことからすると、本件宅地を現実に4戸の建売住宅の敷地として利用することが不可能であるとは認め難いというべきである。
(ウ) その他、被告宅地鑑定を検討しても、本件宅地の価額の鑑定評価の過程について、特に鑑定評価の合理性を疑わせるような点は、これを認めることができない。
ウ 原告鑑定について
(ア) これに対し、原告は、本件相続開始時における本件宅地の客観的交換価値、すなわち本件宅地の適正な時価は、原告鑑定にあるとおり、7330万円を超えるものではないと主張する(前記【原告の主張】(2)ア)。
しかし、次に指摘するとおり、原告鑑定は、本件宅地の価額の評価の過程について、その評価の合理性を疑わせるような諸点が認められるところである。
(イ) まず、原告鑑定評価書別表1符号「取a」の取引事例と、被告農地鑑定評価書の別紙No.2-1のNo.1の取引事例は、いずれも①取引時点が平成8年4月であること、②大磯町に所在すること、③地積が428平方メートルであること、④1平方メートル当たりの取引金額が10万5864円であることから、同一の取引事例であると認められる〔甲2号証、乙24号証〕ところ、当該取引事例に係る土地は宅地見込地であるが、その現況地目は「田・畑」であると認められる〔乙24号証、弁論の全趣旨〕。
また、原告鑑定評価書別表1符号「取d」の取引事例と、被告農地鑑定の別紙No.2-2のNo.6の取引事例は、いずれも①取引時点が平成9年5月であること、②大磯町に所在すること、③地積が1058.32平方メートルであること、④1平方メートル当たりの取引金額が8万316円であることから、同一の取引事例であると認められる〔甲2号証、乙24号証〕ところ、当該取引事例に係る土地は宅地見込地であるが、その現況地目は「雑種地」であると認められる〔乙24号証、弁論の全趣旨〕。
ところが、原告鑑定においては、比準価額が現況地目が「田・畑」や「雑種地」である土地の取引事例を基に算定されていることについては何ら指摘、説明されていない。
このように、宅地の価額を評価するに当たって、現況地目が「田・畑」や「雑種地」である土地の取引事例を使用して比準価格を決定することが妥当でないことは明らかであり、鑑定の合理性を疑わせる事実であるというべきである。
この点について、原告は、上記「取a」及び「取d」の取引事例を除外して、原告鑑定評価書別表1符号「取b」及び「取c」の取引事例のみを採用したとしてもその平均価格は1平方メートル当たり11万8000円であり、しかも上記「取b」の取引事例は「買い進み」という事情が加わっているから、結局、標準的画地の比準価格を1平方メートル当たり10万9000円程度と決定したことは妥当であると主張する。
しかし、それでは取引事例がわずか2例にとどまってしまうというばかりでなく、そもそも、上記のように、宅地の価額を鑑定評価するに当たって現況地目が「田・畑」や「雑種地」と認められる土地の取引事例を使用したことや、そのことについて何ら指摘、説明をしていないということ自体が、鑑定の信頼性を損ね、合理性を疑わせる事情であるといわざるを得ないのである。
(ウ) 次に、原告鑑定は、本件宅地の個別的要因について、①「地勢」の項で、本件宅地が、ほぼ中間より約3ないし4メートル高く、また、納屋部分がやや低くなっており整地等を要する、ということを理由に標準的画地に比べて5パーセントの減価をし、②「下水道」の項で、本件宅地を戸建てに分割する場合には下水管の再埋設が必要である、という理由により標準的画地に比べて10パーセントもの減価をしている〔甲2号証12頁〕。
しかし、原告鑑定は、「対象不動産はやや規模の大きな農家住宅の敷地のため、市場の参加者は、・・・対象不動産を造成乃至分割等を行い再販する地元中堅不動産業者等と推察される」としている。そして、標準的画地の価格も、本件宅地と同様な規模の大きな更地の取引事例に基づき決定されているところである〔甲2号証7頁、11頁、12頁〕。
そうであるとすれば、原告鑑定は、標準的画地についても不動産業者等が購入するとの想定ないし前提に立っているはずであるから、標準的画地と本件宅地との個別的要因の比較において、本件宅地について上記の造成工事等を理由とする計15パーセントもの減価を行うことについては、その理由ないし妥当性についての具体的根拠を示す必要があるというべきであるが、この点についての説明はない。
したがって、上記の点も、原告鑑定の合理性を疑わせるものというべきである。
(エ) また、原告鑑定は、「街路」の項で、幅員が狭く系統・連続性等で劣ることを理由として本件宅地を5パーセント減価しているが、他方では、「画地」の項で、道路後退等でやや劣ることを理由としても、本件宅地について6パーセントの減額を行っている〔甲2号証12頁〕ところである。
しかし、道路後退が行われれば幅員の狭さは解消されると考えられるから、上記2つの事項について合計11パーセントもの減価をすることは合理的な根拠を欠くものであることは明らかである。
上記の点も、原告鑑定の合理性を疑わせるものというべきである。
(オ) さらに、原告鑑定は、開発方式に基づき本件宅地の価額を評価する際の標準的画地の更地価格を1平方メートル当たり21万円とした〔甲Ⓟ号証15頁〕上で、本件宅地を開発した場合の甲2号証区画割想定図1-A及び1-Bの土地について、標準的画地との比較において、「形状等」を理由として31パーセントもの減価を行っている〔甲2号証別表5〕が、その具体的な内容や根拠についての説明は全くない。
(カ) 上記のところからすると、原告鑑定は、本件宅地の価額の評価の過程について、上記(イ)ないし(オ)に指摘したような、鑑定評価の合理性を疑わせるような諸点が認められるところであるから、原告鑑定を、本件相続開始時における本件宅地の適正な時価を示すものとして採用することはできないというべきである。
エ 本件宅地の適正な時価について
上記のところによれば、イのとおり、被告宅地鑑定は、不動産鑑定士により、不動産鑑定評価基準に基づき取引事例比較法及び開発法を適用してされたものであり、上記鑑定における本件宅地の評価の過程について、特段、その評価の合理性を疑わせるような点はこれを認めることができないのであるから、上記鑑定における本件宅地の鑑定評価額1億1040万円は、本件相続開始時における本件宅地の適正な時価を示すものと認めるのが相当である。
オ 小括
そうであるとすれば、本件更正処分における本件宅地の相続財産としての評価額は1億0795万2987円であって、この価額は、上記エの本件宅地の適正な時価を超えるものではないから、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定された価額が適正な時価に相当する旨の推認を妨げるべき事情に関する原告の主張(前記【原告の主張】(2)イ)について判断するまでもなく、本件更正処分における本件宅地の相続財産としての評価に、価額を過大に認定した誤りはなかったものというべきである。
(3) 本件農地の価額について
ア はじめに
本件更正処分における本件農地の評価は本件財産評価基本通達等の定める方法に従ってされたものであるところ、本件農地の価額については、被告において、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したという価額を主張する(前記【被告の主張】(2)イ)とともに、不動産鑑定士が作成した被告農地鑑定(乙24号証)を証拠として提出して、この不動産鑑定評価書記載の鑑定評価額が、本件相続開始時(財産の取得の時)における本件農地の適正な時価に相当する旨を主張する(前記【被告の主張】(3)、(5)イ)。これに対し、原告は、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したという価額が適正な時価に相当する旨の推認を妨げるという事情を主張するとともに、被告農地鑑定の評価の合理性を争っている(前記【原告の主張】(3)ア、イ)ところである。
上記のような当事者双方の主張・立証の構造と本件農地についての本件更正処分における評価額と被告農地鑑定における評価額との関係(別表「本件各土地の価額の比較」参照)を踏まえれば、本件更正処分における本件農地の相続財産としての価額の評価が、適正な時価を超えたものとして、価額を過大に認定した誤りがなかったかどうかを判断するについては、被告農地鑑定の合理性の有無についての検討が重要であるということができる。
そこで、まず、被告農地鑑定の合理性について検討する。
イ 被告農地鑑定について
(ア) 被告農地鑑定における鑑定評価額(1億1236万円。ただし、原告の持分相当額。)は、不動産鑑定評価基準における取引事例比較法及び開発法に基づき、取引事例比較法を適用した比準価格及び本件農地の最有効使用の判定に基づく戸建住宅の概要により開発法(控除方式)を適用した積算価格をそれぞれ求め、これらを調整し、さらに、地価公示Ⓟを規準とする価格に留意して、決定されたものと認められるところであって〔乙22、24号証〕、その鑑定評価の基本的方法において一定の合理性を有するものと認めることができる。
(イ) 原告は、被告農地鑑定は、比準価格を決定するにあたり、顕著に安い取引事例(事例番号5)を資料から排除したり、本件農地よりはるかに品位の高い農地の取引事例(事例番号4及び6)について、取引価格よりも試算価格をはるかに高く決定するというような恣意的操作によって、鑑定評価額のつり上げを図っており、説得力を全く欠く旨を主張する(前記【原告の主張】(3)イ)。
しかし、前者の指摘については、被告農地鑑定〔乙24号証11頁〕によれば、事例番号5を除く5つの取引事例の試算値の上下開差は約10.7パーセントに止まるのに対し、事例番号5の事例を含めると試算値の上下開差は約53.7パーセントにもなることからすれば、事例番号5の取引事例を除外することは合理的かつ妥当な処理であるということができる。
また、後者の指摘についても、被告農地鑑定において事例番号4及び事例番号6の農地についてされた時点修正、標準化補正及び地域格差補正が根拠のない恣意的なものと認めるに足りる証拠はない。
(ウ) その他、被告農地鑑定を検討しても、本件農地の価額の鑑定評価の過程について、特に鑑定評価の合理性を疑わせるような点は、これを認めることができない。
ウ 本件農地の適正な時価について
上記のところによれば、イのとおり、被告農地鑑定は、不動産鑑定士により、不動産鑑定評価基準に基づき取引事例比較法及び開発法を適用してされたものであり、上記鑑定における本件農地の評価の過程について、特段、その評価の合理性を疑わせるような点はこれを認めることができないのであるから、上記鑑定における本件農地の鑑定評価額1億1236万円(ただし、原告の持分相当額)は、本件相続開始時における本件農地の適正な時価を示すものと認めるのが相当である。
エ 小括
そうであるとすれば、本件更正処分における本件農地の相続財産としての評価額は9470万5401円であって、この価額は、上記ウの本件農地の適正な時価を超えるものではないから、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定された価額が適正な時価に相当する旨の推認を妨げるべき事情に関する原告の主張(前記【原告の主張】(3)ア)について判断するまでもなく、本件更正処分における本件農地の相続財産としての評価に、価額を過大に認定した誤りはなかったものというべきである。
(4) 本件山林の価額について
ア はじめに
本件更正処分における本件山林の評価は、上記(1)ウの「特段の事情」があるものとして、本件財産評価基本通達等の定める方法に拠らずに、畑の売買の取引事例から、土地価格比準表を適用して本件山林の客観的な交換価値を算定してしたというものである〔甲1号証〕ところ、被告は、本件訴訟において、本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したという価額を主張する(前記【被告の主張】(2)ウ)とともに、不動産鑑定士が作成した被告山林鑑定(乙25号証)を証拠として提出して、この不動産鑑定評価書記載の鑑定評価額が、本件相続開始時(財産の取得の時)における本件山林の適正な時価に相当する旨を主張する(前記【被告の主張】(3)、(5)ウ)。これに対し、原告は、本件更正処分における本件山林の評価が、上記(1)ウの「特段の事情」があるものとして、本件財産評価基本通達等の定める方法に拠らずに、これと異なる上記の評価方法によってされたこと自体を捉えて、本件更正処分が「公平原則」に違背するものとして違法である旨の主張はせずに、本件更正処分における本件山林の評価には、適正な時価を超える価額を認定した誤りがあると主張する。すなわち、本件更正処分(本件裁決)が採用した本件山林の価額の評価方法は不合理であるとして、これを争う(前記【原告の主張】(4)ア(ウ))とともに、被告が主張する本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したという価額が適正な時価に相当する旨の推認を妨げるという事情を主張し(前記【原告の主張】(4)ア(ア)(イ))、さらに、被告山林鑑定の評価の合理性を争い(前記【原告の主張】(4)イ)、結局、本件山林の時価は、本件申告のとおり409万8960円とみるのが妥当である旨を主張している(前記【原告の主張】(4)イ(ウ))ところである。
上記のような当事者双方の主張・立証の構造と本件山林についての本件更正処分における評価額と被告山林鑑定における評価額との関係(別表「本件各土地の価額の比較」参照)を踏まえれば、本件更正処分における本件山林の相続財産としての価額の評価が、適正な時価を超えたものとして、価額を過大に認定した誤りがなかったかどうかを判断するについては、被告山林鑑定の合理性の有無についての検討が重要であるということができる。
そこで、まず、被告山林鑑定の合理性について検討する。
イ 被告山林鑑定について
(ア) 被告山林鑑定における鑑定評価額(4019万円)は、不動産鑑定評価基準における取引事例比較法及び開発法に基づき、取引事例比較法を適用した比準価格及び本件山林の最有効使用の判定に基づく戸建住宅の概要により開発法(控除方式)を適用した積算価格をそれぞれ求め、これらを調整し、さらに、地価公示価格等を規準とする価格に留意して、決定されたものと認められるところであって〔乙22、25号証〕、その鑑定評価の基本的方法において一定の合理性を有するものと認めることができる。
(イ) 原告は、被告山林鑑定が販売単価の比準価格を算定するに当たって収集した取引事例(事例番号7ないし11)は、いずれもE株式会社が分譲・開発した、通称F団地内の宅地であって、本件山林のように高圧線下の土地は一つもないと主張する(前記【被告の主張】(4)イ(ア))。
しかし、被告山林鑑定において、本件山林のうち、宅地化が可能であるとして、上記取引事例を基に宅地見込地として価格を算定した部分は、高圧線下にはないと認められる〔乙25号証(造成計画概念図)、弁論の全趣旨〕。
したがって、原告の上記主張はその前提を誤っており、当を得ない。
(ウ) また、原告は、本件山林の一部といえども開発許可なしには宅地化は不可能であるところ、町道から本件山林に至る私道のうち、石神台の土地はD株式会社の所有であり、同社は、本件山林も含め、E株式会社が開発し残した土地を安く買収して自ら開発事業を推進する意向を有しているから、原告の申請する開発許可に関して同意を与えることはおよそ期待できないので、本件山林について部分的宅地開発が可能という被告山林鑑定が採用した前提は、全くの絵空事に過ぎない旨を主張する。
しかし、原告が主張する「D株式会社が本件山林等を買収して自ら開発事業を推進する意向を有している」事実を示す的確な証拠はない。そればかりでなく、時価とは客観的交換価値を意味するところ、仮に、上記のような原告と隣接地主との間の個人的特殊事情により開発の許可が得られないことがあるとしても、客観的な条件として本件山林の宅地開発可能であるとすれば、本件山林の時価を宅地開発を前提にした方法により算定することが当然に不合理であるということはできない。
したがって、原告の上記主張も当を得ないものというべきである。
(エ) さらに、原告は、幅員3.8メートルの舗装された町道に接している地価公示基準地(神奈川林-8)の評価が1平方メートル当たり7300円であるのに、これと比準する本件山林の価格を6割増しの1平方メートル当たり1万1700円と決定するなど、あまりにも恣意的であると主張する。
しかし、乙25号証15頁によれば、取引価格1平方メートル当たり7300円の上記基準地の試算価格を1万1700円としているところであるが、他方、事例番号14について、取引価格1平方メートル当たり2万8592円に対し試算価格は1万2500円としており、また、事例番号13については、取引価格1平方メートル当たり2万0202円に対し試算価格は1万3000円としていることが認められることなどからすれば、被告山林鑑定が本件山林の価格を上昇させるために恣意的な操作を行っていると直ちに認めることはできないし、標準的画地の比準価格の決定の基礎とされた取引事例も6例に及び、それらの各土地の各試算価格の平均値をもって標準的画地の比準価格を算定しているところであって、この価格の決定が不合理な内容のものであると認めることはできない。
また、原告は、ただ一つの高架線下の土地(事例番号16)の取引価格は1平方メートル当たり4537円であり、この事例と比準する本件山林の価格を実に2.5倍の1平方メートル当たり1万1300円と決定したのも極めて恣意的であると主張する。
しかし、乙25号証別紙No.7-2によれば、事例番号16の取引価格と試算価格との差は、市街化調整区域にあるため宅地開発できる可能性が極めて少ないこと、面積が3548平方メートルと大きいこと等の理由に基づくものであると認められるところ、かかる条件を評価し、補正を行うことにより得られた試算価格が不合理なものと認めるに足りる証拠はない。
(オ) その他、被告山林鑑定を検討しても、本件山林の価額の鑑定評価の過程について、特に鑑定評価の合理性を疑わせるような点は、これを認めることができない。
ウ 本件山林の適正な時価について
上記のところによれば、イのとおり、被告山林鑑定は、不動産鑑定士により、不動産鑑定評価基準に基づき取引事例比較法及び開発法を適用してされたものであり、上記鑑定における本件山林の評価の過程について、特段、その評価の合理性を疑わせるような点はこれを認めることができないのであるから、上記鑑定における本件山林の鑑定評価額4019万円は、本件相続開始時における本件山林の適正な時価を示すものと認めるのが相当である。
エ 小括
そうであるとすれば、本件更正処分における本件山林の相続財産としての評価額は3736万2556円であって、この価額は、上記ウの本件山林の適正な時価を超えるものではないから、本件更正処分(本件裁決)が採用した本件山林の価額の評価方法の不合理性に関する主張(前記【原告の主張】(4)ア(ウ))や、被告が主張する本件財産評価基本通達等の定めに基づいて算定したという価額が適正な時価に相当する旨の推認を妨げるべき事情に関する主張(前記【原告の主張】(4)ア(ア)(イ))について判断するまでもなく、本件更正処分における本件山林の相続財産としての評価に、価額を過大に認定した誤りはなかったものというべきである。
(5) 争点①についての判断のまとめ
上記のところからすると、本件更正処分における本件各土地の相続財産としての価額の評価が、適正な時価を超えたものとして、価額を過大に認定した誤りがなかったことは明らかである。
(6) 本件更正処分の適法性について
上記(5)及び弁論の全趣旨によれば、本件更正処分には課税価格及び原告の納付すべき相続税額を過大に認定した違法はなく、適法であると認めることができる。
2 争点②について
(1) 本件納税猶予特例に係る関係規定の内容等について
租税特別措置法70条の6第1項は、「相続税法27条1項の規定による・・・申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるものに係る納税猶予分の相続税については、当該申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税の額に相当する担保を提供した場合に限り、・・・納税猶予期限まで、その納税を猶予する。」と規定し、同条12項は、「第1項の規定は、・・・同項の規定の適用を受けようとする旨の記載がない場合」又は「当該申告書に・・・同項に規定する納税猶予分の相続税の額の計算に関する明細その他大蔵省令で定める事項を記載した書類の添付がない場合には、適用しない。」と規定している。
上記のように、本件納税猶予特例は、農業相続人が、期限内申告書に本件納税猶予特例の適用を受けようとする旨の記載をし、納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供し、かつ、納税猶予分の相続税の額の計算に関する明細その他大蔵省令で定める事項を記載した書類を添付した場合に限り、適用するものとされているのであるが、このように、本件納税猶予特例の適用を受けるための厳格な手続的要件が定められた趣旨は、申告期限内に本件納税猶予特例の適用を受けようとする農地等が確定しないと、農業相続人とそれ以外の相続人の相続税額の計算や猶予税額の計算ができないからであると解されるところである〔乙20号証〕。
また、本件納税猶予特例については、いわゆる宥恕規定が定められていないのである。
上記のような本件納税猶予特例に係る規定の内容、趣旨・目的に照らせば、納税義務がないと信じたことについて過失のない農業相続人であっても、当該相続にかかる相続税の期限内申告において、上記のような関係法令の規定に従った適式な適用申請手続きがとられていない限り、その後において本件納税猶予特例の適用の申請がなされても、本件納税猶予特例の適用が認められる余地はないと解さざるを得ないものというべきである。
(2) 争点②についてのまとめ
したがって、原告に本件納税猶予特例の適用が認められる余地はなく、原告の主張は採用することができない。
(3) 本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性について
上記1(6)のとおり、本件更正処分に原告が納付すべき相続税額についての過大認定はないから、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
第7 結論
以上のとおりであって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川勝隆之 裁判官 菊池絵理 裁判官 諸岡慎介)
別紙
物件目録
1 所在 神奈川県中郡大磯町
地番
地目 宅地
地積 799.99平方メートル
2 所在 神奈川県中郡大磯町
地番
地目 田
地積 680平方メートル
3 所在 神奈川県中郡大磯町
地番
地目 田
地積 680平方メートル
4 所在 神奈川県中郡大磯町
地番
地目 田
地積 760平方メートル
5 所在 神奈川県中郡大磯町石神台
地番
地目 山林
地積 2769平方メートル
別表 本件更正処分等の経緯
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別表
本件各土地の価額の比較
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