横浜地方裁判所 平成14年(行ウ)59号 判決 2003年11月05日
主文
1 被告が原告に対し平成13年7月▲日付けでした個人情報の一部不開示決定中,別表の「開示の請求に係る個人情報の内容」欄記載の各文書中の「不開示情報(ただし,原告が本件訴訟で不開示処分の取消しを求めている部分は下線を付した部分)」欄に対応する各情報のうち,番号①ないし③,⑤,⑦ないし⑩,⑬,⑮,⑯,⑲,⑳の各情報の下線を付した不開示部分は,これを取り消す。
2 その余の原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が原告に対し平成13年7月▲日付けでした個人情報の一部不開示決定中,別表の「開示の請求に係る個人情報の内容」欄記載の各文書中の「不開示情報(ただし,
原告が本件訴訟で不開示処分の取消しを求めている部分は下線を付した部分)」欄に対応する各情報のうち,番号①ないし⑳の各情報の下線を付した不開示部分は,これを取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づいてされた自己の過去における措置入院及びその解除に係る文書について,神奈川県個人情報保護条例に基づき開示請求をしたところ,被告において,開示請求に係る文書中に,①同条例15条4項1号の不開示事由(第三者情報),②同項3号の不開示事由(診断情報),③同項5号の不開示事由(事務情報)に該当する情報があるとして,それらの情報については不開示の決定をしたところから,原告が,上記不開示情報は上記条例に定める不開示事由には該当せず,一部不開示決定は違法であるとして,その取消しを求めた事案である。
第3基礎となる事実
(これらの事実は,当事者間に争いがない事実であるか,あるいは,記載した証拠ないし弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)
1 原告の措置入院等の経過
(1) 同意入院
原告は,昭和▲年▲月▲日から同年▲月▲日まで,原告の同意により精神病院に入院していたことがあった〔甲3号証の17〕。
(2) 第1回措置入院
原告は,平成▲年▲月▲日,2名の指定医から精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)27条1項に基づく診察を受け,その結果,神奈川県知事(以下「県知事」という。)により同法29条1項の規定に基づく入院措置が採られ,同日から神奈川県秦野市にあるA病院に入院した(以下「第1回措置入院」という。)〔甲3号証の2ないし8〕。
原告について,同年▲月▲日付けでA病院から県知事に対し同法29条の5の規定に基づく「措置入院者の症状消退届」が提出され,その結果,同年▲月▲日,県知事により同法29条の4の規定に基づく入院措置の解除がされた〔甲3号証の9ないし12〕。
(3) 第1回措置入院解除後
原告は,第1回措置入院の解除がされた後も,引き続きA病院で精神保健福祉法33条の規定に基づく医療保護入院の扱いで入院を続け,平成▲年▲月▲日,同病院を退院した〔甲3号証の12,17〕。
(4) 第2回措置入院
原告は,平成▲年▲月▲日,2名の指定医から精神保健福祉法27条1項に基づく診察を受け,その結果,県知事により同法29条1項の規定に基づく入院措置が採られ,同日から神奈川県小田原市にあるB病院に入院した(以下「第2回措置入院」という。)〔甲3号証の13ないし19〕。
原告について,同年▲月▲日付けでB病院から県知事に対し同法29条の5の規定に基づく「措置入院者の症状消退届」が提出され,その結果,同年▲月▲日,県知事により同法29条の4の規定に基づく入院措置の解除がされた〔甲3号証の20ないし23)。
(5) 第2回措置入院解除後
原告は,第2回措置入院が解除された後も,引き続きB病院で精神保健福祉法33条の規定に基づく医療保護入院の扱いで入院を続け,平成▲年▲月▲日,同病院を退院し,その後は,平成▲年▲月▲日まで,同病院へ通院治療をしていた〔甲3号証の23,弁論の全趣旨〕。
2 原告の自己情報開示請求と一部不開示決定
(1) 自己情報開示請求
原告は,平成13年7月▲日,被告に対し,神奈川県個人情報保護条例(平成2年神奈川県条例第6号。以下「本件条例」という。)15条1項の規定に基づき,「平成▲年▲月及び平成▲年の私の措置入院処分決定に至るすべての文書」及び「私の上記措置入院解除に至るすべての文書」について,自己情報の開示を請求をした(以下「本件開示請求」という。)〔甲1号証〕。
(2) 一部不開示決定
被告は,本件開示請求を受けて,原告の第1回及び第2回措置入院の際に原告を診察した精神保健指定医各2名とこれら2回の措置入院の解除の際に原告を診察した指定医各1名の合計6名の医師のうち,死亡した1名を除く5名の医師に対し,原告から開示請求がされた文書の開示の適否に関する意見照会を行った。
そして,被告は,上記の指定医5名の意見及び意見照会の回答内容から推察される原告の病状等に基づいて,平成13年7月▲日,本件開示請求に対し,別紙の「開示の請求に係る個人情報の内容」欄記載の各文書中,「(ア)原決定,(イ)異議決定」欄に「(ア)開示」と記載した各文書ないし各文書中の各情報を開示とし,同欄に「(ア)一部開示」と記載した各文書ないし各文書中の各情報を一部開示とし,同欄に「(ア)不開示」と記載した各文書ないし各文書中の情報を不開示とする,開示,一部開示及び不開示の決定をした(以下「本件一部不開示処分」という。)〔甲2号証〕。
本件開示請求に係る各文書中の各情報についての不開示の事由は,それらの情報が本件条例15条4項1号,3号,5号のいずれかに該当するというものである。なお,各不開示の事由は,別紙の「不開示情報」欄記載の各情報に対応する「(ア)原処分,(イ)異議決定及び被告の主張おける本件条例15条4項の該当号」欄に記載のとおりである(「(ア)1号」は同項1号に,「(ア)3号」は同項3号に,「(ア)5号」は同項5号にそれぞれ該当することを意味する。)。
(3) 異議申立て・異議決定
原告は,平成13年9月▲日,本件一部不開示処分のうち,不存在を理由として不開示とされた文書以外の文書に係る部分について,被告に対し異議申立てをした。
被告は,平成14年7月▲日,神奈川県個人情報保護審査会の答申を参照した上,異議申立てを棄却する旨の決定をした。なお,上記異議棄却決定における各不開示事由は,別紙の「不開示情報」欄記載の各情報に対応する「(ア)原処分,(イ)異議決定及び被告の主張における本件条例15条4項の該当号」欄に記載のとおりである(「(イ)1号」は同項1号に,「(イ)3号」は同項3号に,「(イ)5号」は同項5号にそれぞれ該当することを意味する。)。
これに対し,原告は,同年9月▲日,本件訴訟を提起した(以下,本件一部不開示処分に係る不開示情報中,原告が本件訴訟においてその取消しを求めている不開示情報を「本件不開示情報」という。)。
3 本件条例の関係規定
(1) 自己情報開示請求権
本件条例15条は,自己情報の開示請求権について規定している。すなわち,同条1項は,「何人も,実施機関が保有する自己を本人とする個人情報の開示を請求することができる。」とし,3項は,「実施機関は,開示の請求があったときは,・・・当該開示の請求に係る個人情報の開示をしなければならない。」としている。
なお,上記規定にいう「個人情報」とは,「個人に関する情報(個人が営む事業に関して記録された情報に含まれる当該個人に関する情報及び法人その他の団体に関して記録された情報に含まれる当該法人その他の団体の役員に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」をいうと定義されている(本件条例2条1号)。
(2) 不開示事由の定め
そして,本件条例15条4項は,「実施機関は,前項の規定にかかわらず,開示の請求に係る個人情報について開示をすることが次の各号のいずれかに該当するときは,当該個人情報の全部又は一部の開示をしないことができる。」とし,同項各号において不開示事由を定めている。
このうち,本件に関係のある規定は,次のとおりである。
ア 1号
開示の対象となった個人情報に開示の請求をした者(以下「請求者」という。)以外の個人に関する個人情報が含まれる場合であって,請求者に開示をすることにより,当該個人の正当な利益を侵すことになると認められるとき。
イ 3号
開示の請求の対象となった個人情報が個人の指導,診断,評価,選考等に関する情報であって,請求者に開示をすることにより,当該指導,診断,評価,選考等に著しい支障が生ずるおそれがあるとき。
ウ 5号
開示の請求の対象となった個人情報が県の機関又は国若しくは他の地方公共団体の機関が行う事務又は事業に関するものであって,請求者に開示をすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
(ア) 監査,検査又は取締りに係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ
(イ) 契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,県又は国若しくは他の地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
(ウ) 調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
(エ) 人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
4 措置入院及びその解除の手続
精神保健福祉法は,措置入院及びその解除の手続について,概ね次のとおり規定している。
(1) 申請・通報
精神障害者又はその疑いのある者を知った者は,誰でも,その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる(精神保健福祉法23条1項)。
警察官は,職務を執行するに当たり,異常な挙動その他周囲の事情から判断して,精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは,直ちにその旨を都道府県知事に通報しなければならない(同法24条)。
(2) 申請等に基づき行われる指定医の診察等
都道府県知事は,上記の申請,通報等があった者について調査の上必要があると認めるときは,その指定する指定医をして診察をさせなければならない(同法27条1項)。
(3) 措置入院
上記の診察をした指定医は,厚生労働大臣の定める基準に従い,当該診察をした者が精神障害者であり,かつ,医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない(同法28条の2)。
都道府県知事は,上記の診察の結果,その診察を受けた者が精神障害者であり,かつ,医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは,その者を国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院に入院させることができる(同法29条1項)。
都道府県知事が上記の入院をさせるには,その指定する二人以上の指定医の診察を経て,その者が精神障害者であり,かつ,医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて,各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない(同条2項)。
(4) 措置入院の解除
措置入院者を入院させている精神病院又は指定病院の管理者は,指定医による診察の結果,措置入院者が,入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至ったときは,直ちに,その旨,その者の症状その他の事項を都道府県知事に届けなければならず(同法29条の5),上記の届け出を受けた道府県知事は,あらかじめ上記の管理者の意見を聞いた上で,上記の指定医による診察の結果に基づき,措置入院者が入院を継続しなくてもその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがないと認められるに至ったときは,直ちにその者を退院させなければならない(同法29条の4)。
第4争点
本件の争点は,本件不開示情報が本件条例15条4項各号の規定する不開示事由に該当するかどうか,である。
第5争点に関する当事者の主張
1 被告の主張
(1)本件不開示情報の本件条例15条4項1号該当性について
ア 本件条例15条4項1号該当により不開示とした情報
被告が本件条例15条4項1号(以下,単に「1号」と表記する。)該当により不開示とした情報は,別表の「不開示情報」欄記載の③ないし⑥,⑪ないし⑭,⑰,⑱に関する情報である(以下,1号に該当する本件不開示情報を「本件第三者情報」という。)。
イ 1号該当の要件
1号は,請求者以外の他の個人の正当な利益が侵害されることを防止する観点から定められた不開示情報であり,自己に関する情報を知る権利と当該情報に含まれる他の個人の利益をどのように調整すべきかということが問題の中心である。
そして,条例が定めた要件は,次の2つから構成されている。
(前段) 開示請求の対象となった個人情報に請求者以外の個人に関する個人情報が含まれている場合であること。
(後段) 当該個人情報を開示することにより, 当該個人の正当な利益を侵すことになると認められること。
ウ 本件第三者情報の1号前段該当性
請求者以外の個人に関する個人情報とは,当該情報から特定の個人が識別され,又は識別され得るものをいうところ,上記アの本件第三者情報は,原告の生活歴等について陳述したり,立ち会った親族等の第三者,原告の病状等を診断した医師,その際に立ち会った神奈川県職員等の氏名等であり,原告にとり,特定の個人が識別され,又は識別され得るものに該当する。
したがって,本件第三者情報は,1号前段で規定する「開示請求の対象となった個人情報に請求者以外の個人に関する個人情報が含まれている場合」に該当する。
エ 本件第三者情報の1号後段該当性
(ア) その情報の開示により第三者の「正当な利益を侵す」ことになるかどうかは,当該個人情報の性質や内容,請求者と当該個人等との関係からみて,当該情報を不開示とすることが客観的にも期待され,その期待が正当であるなど,開示をすることにより,当該個人の正当な利益が侵されることになるかどうかにより判断すべきである。
(イ) 本件第三者情報は,原告に係る措置入院等の手続に関して作成された一連の書類に記録された第三者の情報であるが,措置入院に係る診察を行う際には,被診察者に対し,精神保健指定医の氏名,診察に立合った者の氏名,被診察者の生活歴等に関する陳述者の氏名等を明らかにすることは予定されていないのであり,また,これを開示しなければならない法的義務もないのである。
したがって,上記の事項は,不開示が客観的にも期待される事項であるといえる。
(ウ) そして,措置入院制度は,精神障害者を把握して適正な医療・保護を図る目的で設けられた制度であるが,患者本人の意思にかかわらず入院させることになるため,患者本人が入院に納得していない場合も多いと考えられる。したがって,入院手続に関与した第三者の氏名等を開示した場合,患者において,当該入院手続等に関して作成された書類の記載内容の真偽等を確認するため,当該第三者の日常生活や担当業務に影響を及ぼすような追及等をするおそれが否定できないほか,その関係者の判断,言動等を入院の原因ととらえ,当該関係者に対していわれのない恨みを持つおそれがある。
(エ) 本件においては,被告は,本件処分に際し,前記第3の基礎となる事実2(2)のとおり,精神保健指定医に意見照会を行ったところ,原告は継続的な治療が必要な病気にかかっており,その症状の一部については治療によっても消失させることが極めて困難であること,原告は病識に乏しかったこと,治療が中断されている可能性が高いことを確認した。
そこで,被告は,上記の照会結果等に照らし,原告において,本件一部不開示処分の時点においても,病識が乏しく,一部の症状が持続している可能性が高いと判断した。
したがって,原告は,本件各措置入院時にはそれが必要であったということを受け入れられる状況にはない可能性があり,本件第三者情報を開示した場合,原告が,不服とする措置入院の原因を指定医の医学的見地の誤り,親族等の関係者
による事実と異なる陳述等又は職員による事務手続上の瑕疵によるものと主観的に判断し,これらの者に対して,不当な入院を強いたとして執拗な攻撃をするおそれがある。
(オ) 上記のように,措置入院等の手続に関与した第三者の氏名等という本件第三者情報の性質や内容及び請求者である原告と当該第三者との関係からみれば,これを不開示とすることが客観的にも期待されるのであり,その期待は正当なものであるから,本件第三者情報の開示は,当該個人の「正当な利益を侵す」ことになる。
(カ) 原告は,当該診断が適正なものであれば,当該精神保健指定医の正当な利益を侵害することにはならないと主張するが,措置入院の場合にしばしば問題となるのは,指定医の診断が適正なものであっても,患者本人が,病気のために判断力が低下し,自らの入院が不当なものであったとして被害的感情を抱き,自己の主観的な判断に基づいて関係者を追及しようとする場合があることであって,当該診断が適正であっても,指定医の正当な利益が侵害されるおそれがあるのである。
(キ) また,原告は,1号の文言に照らし,被告が主張するような「おそれ」があるだけでは不十分であって,1号要件を充足しないと主張する。
しかし,精神保健指定医等の関係者が,日常生活において他人に脅かされることなく安全な生活を送ることを期待することは個人の当然の権利利益であり,日常生活が他人に脅かされるおそれが存在すること自体が,第三者である当該個人の正当な利益を侵すことになるというべきである。
(ク) なお,仮に,本件第三者情報中にその氏名が含まれる者が故人となっていた場合でも,故人であるという理由によりその氏名を開示すれば,請求者が,その遺族に対して,故人に代わって償うよう求めたり,遺族と結託した故人が請求者を陥れたとして誹謗中傷を行うなど,執拗な攻撃がされるおそれは否定できない。
したがって,故人であることを理由としてその氏名を開示することは適当でない。
(2) 本件不開示情報の本件条例15条4項3号該当性について
ア 本件条例15条4項3号該当により不開示とした情報
被告が本件条例15条4項3号(以下,単に「3号」と表記する。)該当により不開示とした情報は,別表の「不開示情報」欄記載の①,②,⑦ないし⑩,⑮,⑯,⑲,⑳に関する情報である(以下,3号に該当する本件不開示情報を「本件診断情報」という。)。
イ 3号該当の要件
3号は適正な指導,診断,評価,選考等を確保する観点から不開示情報を定めたものであり,次の2つの要件により構成されている。
(前段) 開示の請求の対象となった個人情報が個人の指導,診断,評価,選考等に関する情報であること。
(後段)当該個人情報を請求者に開示することにより,当該指導,診断,評価,選考等に著しい支障を生ずるおそれがあること。
ウ 本件診断情報の3号前段該当性
3号前段で規定する「診断」とは,診察,検査,治療,投薬等の一連の医療行為をいい,その目的が患者に対する適切な医療・保護の確保にある以上,請求者が現に受けているものだけでなく,将来にわたって反復,継続して本人に対して行われる診察等も含まれる。したがって,「診断に関する情報」とは,当該医療行為そのものに係る情報に限定されず,当該医療行為に影響を及ぼすと認められる事実等に関する情報も含まれる。
本件診断情報は,診察に直接的に関係する情報又は当該診察に影響を及ぼすと認められる事実に関する情報であり,かつ,原告の病態は継続的な治療が必要な病気であって,これを開示することによる病気の再発や病状の悪化等のおそれがないとはいえないので,3号前段で規定する「個人の診断に関する情報」に該当する。
エ 本件診断情報の3号後段該当性
本件診断情報は,上記のように,措置入院に係る診察に直接的に関係する情報又は当該診察に影響を及ぼすと認められる事実に関する情報であり,被告が精神保健福祉法29条1項の規定に基づく原告の措置入院等を行う際に記録されたものであって,これらの情報を開示することにより,原告にどのような影響を与えるかについては,医学的,専門的見地からする判断が必要であると考えられる。そして,精神疾患は非常に治りにくい病気であると社会一般で考えられていることから,原告の病状や治療環境が不明な現状において,原告に対し病名や病状等を知らせた場合,原告に心理的ショックを与え,病気が再燃悪化したり,必要な治療を放棄してしまうなどの悪影響が生ずるおそれがある。
このようなところから,本件不開示処分は,精神保健指定医に対し,医学的,専門的見地からの意見を照会した上で行ったものであって,原告の状況,本件診断情報の性質等に照らせば,本件診断情報は,これを「請求者(原告)に開示することにより,当該診断に著しい支障が生ずるおそれがある」から,3号後段の要件に該当する。
なお,原告は,「著しい支障」が問題となるのは,診断を実施する側についてだけであると主張するが,診断等は継続的に行われるものであることを考慮すると,診断を受ける側の支障であっても将来の診断に影響が及ぶことは明らかであるから,診断等に対する「著しい支障」の有無は総合的に判断すべきである。
(3) 本件不開示情報の本件条例15条4項5号該当性について
ア 本件条例15条4項5号該当により不開示とした情報
被告が本件条例15条4項5号(以下,単に「5号」と表記する。)該当により不開示とした情報は,別表の「不開示情報」欄記載の②ないし⑥,⑫ないし⑭,⑰に関する情報である(以下,5号に該当する本件不開示情報を「本件事務情報」という。)。
イ 5号該当の要件
5号は,事務又は事業の性質に着目し,県の機関等が行う事務又は事業の適正な遂行を確保する観点から不開示情報を定めたものであり,次の2つの要件により構成されている。
(前段) 開示の請求の対象となった個人情報が県の機関等が行う事務又は事業に関するものであること。
(後段) 当該個人情報を請求者に開示することにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものであること。
ウ 本件事務情報の5号前段該当性
5号前段に関しては,本件では県が行う精神保健福祉行政に関するものに限定すべきであり,具体的には,精神保健福祉法に基づく措置入院に関する事務の遂行に必要な指定医の診察,職員の立合い,関係者からの陳述の聴取がこれに該当する。
本件事務情報は,原告について,精神保健福祉法に基づく入院措置及び入院措置の解除の要否に関し,県の機関が調査,決定する過程で作成された文書に記録された指定医の診察,職員の立合い,関係者からの陳述の聴取等に関する情報であるから,5号前段で規定する「県の機関が行う事務(精神保健福祉事務)に関するもの」に該当する。
エ 本件事務情報の5号後段該当性
5号後段の「事務の適正な遂行」に及ぼす「支障」の程度については,名目的なものでは足りず,実質的なものであることが必要であり,支障を及ぼす「おそれ」についても,抽象的な可能性では足りず,蓋然性が必要であると考えられる。
ところで,精神障害者は,病態・病状によっては適正な判断ができず,自らの入院が不当なものであったとして,被害的な感情を持って,医師をはじめとする医療関係者らに危害を加えたりする場合があることから,特に,本人の意思に反して行われる措置入院に関する事務情報については,これを開示すると,請求者である精神障害者からの追及等を恐れて,精神保健指定医が,適正な診断を回避したり,県知事からの診察の依頼を断るという事態が十分に考えられるし,職員や関係者等も立合いや陳述等を拒否するなどの事態が生じることも十分に考えられるのである。
したがって,本件事務情報を原告に開示した場合,精神保健福祉法に定める事務の性質上,精神保健福祉法に基づく申請,通報,届出,診察等の県の事務の適正な遂行に実質的な「支障」を及ぼす「おそれ」には蓋然性が認められるから,本件事務情報は,5号後段の情報に該当する。
なお,仮に本件事務情報に個人に関する個人情報が含まれている場合でも,請求者から遺族に対する執拗な追及がされるおそれはあるし,指定医も故人という理由で氏名等の情報を開示されるようなことになると,指定医が県知事からの診察の依頼を受けないなどの事態が生じるおそれがあるので,これを除外すべき事由とはならない。
2 原告の主張
(1) 本件第三者情報の1号非該当性について
ア 被告は,本件第三者情報は,被診察者に対し明らかにすることを予定しておらず,また,これを開示しなければならない法的義務もないなどと主張するが,原則と例外とを混同した主張というべきである。本件条例15条3項によれば,個人情報は開示することが原則であり,同条4項に定めた例外に該当する場合を除き,原則として開示することが法的に義務付けられているからである。
また,1号の規定は,例外としてその情報を開示しないことができる要件として,3号及び5号の規定とは異なり,単に当該個人の正当な利益を「侵すおそれがあるとき」では足りず,「侵すことになると認められるとき」であることを要求しているのである。そして,「当該個人の正当な利益を侵すことになると認められるとき」とは,当該情報を開示することによって,必然的に当該個人の正当な利益を侵すことが定型的に認められる場合を意味するものである。
イ 本件第三者情報のうち,別紙の「不開示情報」欄記載③の情報である「主たる陳述者氏名及び続き柄」と同⑤の情報である「診察に立合った者の氏名及び続き柄」については,平成▲年当時,原告の母Cは既に他界しており,これに該当する者は原告の父Dしか考えられないところ,父Dも平成12年に他界しているので,開示したとしても個人の正当な利益を侵すことはありえない。
したがって,これらの情報は開示すべきである。
ウ 本件第三者情報のうち,別紙の「不開示情報」欄記載④の情報である「精神保健指定医氏名」と同⑥の情報である「職員氏名」については,当該診断の適正性を判断するうえで,原告にとって不可欠な情報であり,原告にはこれを知る権利がある。
当該診断が適正な診断であれば,当該医師の正当な利益を害することにはならないし,適正な診断でなければ,当該医師の「正当な」利益であるとはいえないのである。
したがって,これらの情報は開示すべきである。
エ 被告は,原告を診察した精神保険医に意見照会をした上,本件一部不開示処分をしたと主張するが,当該医師の意見の根拠となる原告の状況はもっとも遅い時期で平成▲年▲月▲日当時のものであり,本件一部不開示処分時である平成13年7月▲日の時点における原告の状況を把握した上のものではないから,被告の判断は,適正な判断であるとは到底いえないものである。
なお,原告の本件不開示処分時における状況については必ずしも原告において主張立証する必要はないが,原告は,本件不開示処分時を含め,現時点においては,何ら自覚症状はない。
(2) 本件診断情報の本件条例15条4項3号非該当性について
ア 本件診断情報は,平成▲年と平成▲年の措置入院及びその解除に関する情報であって,いずれも既に過去のものとなっているのであるから,現在これを開示しても,当該診断等すなわち措置入院の審査等の手続に著しい支障を生ずるおそれはありえない。
イ 3号の「診断」というの文言を,被告が主張するように一連の医療行為全体を指Fすものと解釈するのは不合理である。
また,3号の「当該診断に著しい支障が生ずるおそれがあるとき」の「当該」とは,本件の場合,原告の平成▲年及び平成▲年の第1回及び第2回措置入院に関する診断を指しているのであって,それ以外のものを指すのではない。被告は,措置入院解除後に治療が継続していなくても,病気の再発や病状の悪化等が懸念される場合も含むとしているが,失当である。
さらに,「診断等に著しい支障が生ずるおそれがあるとき」とは,診断する側に支障が生じる場合をいうのであって,診断される側である原告に対してどのような影響を及ぼすかということは,3号の要件外のことなのである。すなわち,本号の趣旨は,当該診断等の行為が公務として公正中立の立場で行われなければならないことから不開示を容認したものであって,被告が主張するような原告の病状の悪化等の私的な利益は,本号により保護されるべき利益には含まれない。
(3) 本件事務情報の5号非該当性について
ア 原告に係る措置入院及びその解除の手続は既に完了している事務であるから,本件事務情報を開示しても,その事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれは全くない。
イ 被告の主張する5号該当性の解釈によれば, 開示を求めるすべての情報は事務情報として5号の情報に該当することとなってしまうので,被告の解釈は妥当な解釈ではない。
ウ また,別表の「不開示情報」欄記載③の情報である「主たる陳述者氏名及び続き柄」,同⑤の情報である「診察に立合った者の氏名及び続き柄」,同⑬の情報である「立会った親族等の氏名及び続柄」は,そもそも県が行う事務に関する情報であるとはいえないから,5号に該当する情報ではない。
第6当裁判所の判断
1 自己情報の開示の趣旨・目的等について
(1) 本件条例における自己情報開示の趣旨・目的
本件条例は,その制定の趣旨・目的について,「この条例は,個人の尊厳を保つ上で個人情報の保護が重要であることにかんがみ,県の機関が保有する個人情報の開示及び訂正を求める個人の権利を明らかにするとともに,個人情報の適正な取扱いの確保に関し必要な事項を定めることにより,県内における個人情報の取扱いに伴う個人の権利利益の侵害の防止を図り,もって基本的人権の擁護及び公正で民主的な県政の推進に資することを目的とする。」と規定している(本件条例1条)。
そして,本件条例は,上記の趣旨・目的を踏まえて,前記第3 の基礎となる事実の3に摘示したように,その15条において自己情報の開示請求権について規定し,原則として,何人も,実施機関が保有する自己を本人とする個人情報の開示を請求することができ,実施機関は,開示の請求があったときは,当該開示の請求に係る個人情報の開示をしなければならなないとし(1項,3項),例外的に,その請求に係る個人情報の開示をすることにより,他の個人や法人の正当な利益を侵害したり,行政事務の適正な遂行に支障が生じる等の一定の場合においては,当該個人情報の全部又は一部の開示をしないことができる旨を規定している(4項1号ないし8号)ところである。
(2) 本件条例15条の規定の解釈方法
このように,本件条例15条4項各号に定める不開示事由は,自己情報の開示請求に対してはこれを開示することを基本原則としつつも,第三者の利益の保護あるいは公益の保護等の観点から,例外的にこれを開示しないことができる場合を限定的に掲記したものであるから,当該開示の請求に係る個人情報が各号の定める不開示事由に該当するかどうかは,本件条例1条が明らかにしている個人情報の保護に係る本件条例を制定した趣旨・目的や自己情報の開示請求権を規定した本件条例15条の上記基本構造を踏まえた上で,各号の不開示事由に係る規定の文言や趣旨を慎重に検討し,当該個人情報が県の機関に保有されるに至る法律関係や当該個人情報の性質・内容等を具体的に考察して,判断すべきである。
本件においては,本件一部不開示処分に係る個人情報の不開示事由(被告が主張する不開示事由)は本件条例15条4項1号,3号及び5号に関係するものであり,また,本件開示請求の対象とされた自己情報は,前記基礎となる事実の1,4のとおり,原告の精神保健福祉法に基づく措置入院及びその解除の法律関係に関連して作成され,県の機関が保有するに至った情報であるから,本件不開示情報の不開示事由該当性の判断は,例外規定としての本件条例15条4項1号,3号及び5号の規定の文言や趣旨についての検討,原告の精神保健福祉法に基づく措置入院及びその解除の法律関係や不開示とされた個人情報の性質・内容についての検討等に基づいて行うことになる。
2 本件不開示情報の本件条例15条4項各号の規定する不開示事由該当性についての判断
(1) はじめに
そこで,以下,本件不開示情報が本件条例15 条4項各号の規定する不開示事由に該当するかどうかについて具体的に検討することとするが,本件不開示情報について被告が主張する不開示事由は,1号(「第三者情報」),3号(「診断情報」),5号(「事務情報」)のいずれか1つに該当するというものばかりでなく,複数の号に該当するというものもある(この場合は,そのいずれか1つに該当すると認められれば,当該不開示処分は適法ということになる。)。そこで,本件不開示情報を被告が主張する不開示事由に即して分類すると,次の4種に整理することができる。
Ⅰ 1号該当情報(第三者情報)
これには,別表の「不開示情報」欄記載の⑪及び⑱の情報が属する(以下,「不開示情報」欄記載の各情報は,単に「⑪の情報」というように記載する。)。
Ⅱ 1号,5号該当情報(第三者情報・事務情報)
これには,③ないし⑥,⑫ないし⑭,⑰の各情報が属する。そして,これらの各情報は,その個人情報としての内容・性質から,さらに,
ⅰ 精神保健指定医及び県職員に係る④,⑥,⑫,⑭,⑰の各情報,
ⅱ 原告の親族等で原告の処置入院の手続に関与した者に係る③,⑤,⑬の各情報,
の2種に分類・整理することができる。
Ⅲ 3号該当情報(診断情報)
これには,①,⑦ないし⑩,⑮,⑯,⑲,⑳の各情報が属する。
Ⅳ 3号,5号該当情報(診断情報・事務情報)
これには,②の情報が属する。
そこで,以下,まず,本件不開示情報について被告が不開示事由に該当するとして主張している本件条例15条4項1号(第三者情報),3号(診断情報)及び5号(事務情報)の各規定の解釈について検討し,次に,上記の分類・整理を踏まえて,各不開示情報が被告の主張する不開示事由に該当するかどうかについての判断を示すこととする。
(2)1号(第三者情報)の規定の解釈
ア 本件条例15条4項1号の規定の内容は前記基礎となる事実の3(2)アのとおりであるが,この不開示事由の要件は次の2つから構成されている。
(前段) 開示請求の対象となった個人情報に請求者以外の個人に関する個人情報が含まれている場合であること。
(後段) 当該個人情報を開示することにより, 当該個人の正当な利益を侵すことになると認められること。
イ 問題は,後段の要件該当性,すなわち,どのような「当該個人情報(第三者の個人情報)」を開示すると,その第三者の「正当な利益を侵すことになると認められる」かどうかであるが,1号の規定は,請求者に係る自己情報の開示に伴って,第三者の正当な利益が侵害される事態が生じることを防止しようとする観点から定められた不開示事由であることに照らせば,上記の「正当な利益」とは,第三者のプライバシーを含めた社会生活上保護されるべき権利利益を指すものであり,これを「侵すことになると認められる」かどうかについては,その個人情報の性質・内容や請求者と当該第三者との関係に照らして,客観的に判断すべきである。
この点について,原告は,前記第5,2(1)のとおり,1号の規定が,3号及び5号の規定とは異なり,当該個人の正当な利益を「侵すおそれがあるとき」では足りず,「侵すことになると認められるとき」であるとしていることを指摘し,「当該個人の正当な利益を侵すことになると認められるとき」とは,当該情報を開示することによって,必然的に当該個人の正当な利益を侵すことが定型的に認められる場合を意味すると主張する。なるほど,1号の規定の文言については原告の指摘するとおりであるが,上記の判断基準の趣旨よりすれば,その個人情報の性質・内容や請求者と当該第三者との関係に照らして,客観的にみて,第三者において当該個人情報を請求者に知られたくないと考えるものと認められ,かつ,その個人情報が請求者に開示されないと期待することに正当な理由があると認められる場合においては,そのような個人情報を開示されないという期待は社会生活上保護されるべき利益であるというべきであり,したがって,そのような第三者の個人情報を請求者に開示することは,そのこと自体によって,第三者の社会生活上保護されるべき利益を侵害することになるもの,すなわち,第三者の「正当な利益を侵すことになると認められる」ものというべきである。
(3) 3号(診断情報)の規定の解釈
ア 本件条例15条4項3号の規定の内容は前記基礎となる事実の3(2)イのとおりであるが,この不開示事由の要件は次の2つから構成されている。
(前段) 開示の請求の対象となった個人情報が個人の指導,診断,評価,選考等に関する情報であること。
(後段)当該個人情報を請求者に開示することにより,当該指導,診断,評価,選考等に著しい支障を生ずるおそれがあること。
イ 3号の規定は,適正な指導,診断,評価,選考等を確保する観点から不開示事由を定めたものであるところ,ここでいう「診断」とは,個人の疾病や健康状態等について専門的見地から行われる診察,検査,治療,投薬等の一連の医療的行為を指すものと解されるのであり,これらの専門的見地からされる医療的行為は,一般に,個人の疾病や疾患等を回復させ,良好な状態を維持させる目的のもとに継続的に行われるものであることからすれば,この「診断」には,請求者が過去に受け,また,現在受けているものだけでなく,将来にわたって反復的,継続的に行われる医療的行為も含まれるものと解される。したがって,3号前段にいう「診断に関する情報」とは,当該医療的行為そのものに係る情報に限定されず,当該医療行為に影響を及ぼすと認められる事実等に関する情報も含まれるものと解するのが相当である。
次に,3号後段にいう「当該個人情報を請求者に開示することにより,診断に著しい支障が生じるおそれがある」との趣旨についてみると,同号においては,その文言上「著しい支障」を生ずるおそれ,の有無を,医療的行為を実施する側に限定して規定しているわけではないばかりでなく,上記のように,これらの専門的見地からされる医療的行為が,その対象たる個人の疾病や疾患等を回復させ,良好な状態を維持させる目的のもとに継続的に行われるものであることからすれば,「著しい支障」を生ずるおそれの有無は, 医療的行為を実施する側に対する影響のみならず,医療的行為を受ける側に対する影響も含め,総合的に判断するのが相当である。
また,3号後段が開示することにより「著しい支障が生じるおそれ」があるときと規定していることからすれば,開示することにより現実に支障が生じることまでは必要ではなく,支障が生ずる「おそれ」があれば足りるものの,生ずるおそれのある「支障」の程度は,診断を受ける側に対する影響も含め,当該情報を不開示とすることにより請求者に生ずる不利益を明らかに上回る程度に「著しい」ものであることを要するものと解するのが相当である。
(4) 5号(事務情報)の規定の解釈
ア 本件条例15条4項5号の規定の内容は前記基礎となる事実の3(2)ウのとおりであるが,この不開示事由の要件は次の2つから構成されている。
(前段) 開示の請求の対象となった個人情報が県の機関等が行う事務又は事業に関するものであること。
(後段) 当該個人情報を請求者に開示することにより,当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものであること。
イ 5号の規定は,事務等の性質に着目して,県の機関等が行う事務等の適正な遂行を確保する観点から不開示事由を定めたものであるところ,この不開示事由が請求者の自己情報を開示されることにより得られる利益と県の機関等が行う事務等の適正な遂行の確保という公益との調整を図る趣旨の規定であり,かつ,請求者の自己情報はこれを開示することが基本原則であることからすれば,同号後段にいう「当該個人情報を請求者に開示することにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」における「支障」の程度は,名目的・形式的なものでは足りず,実質的なものであることが必要であり,支障を及ぼす「おそれ」の程度も,単なる抽象的な可能性では足りず,一定の蓋然性が認められることが必要であると解するのが相当である。
(5)Ⅰの各情報(⑪,⑱の情報)及びⅡⅰの各情報(④,⑥,⑫,⑭,⑰の情報)について
被告は,これらの各情報はいずれも1号の規定する不開示事由(第三者情報)に該当すると主張する(ただし,Ⅱⅰの各情報については,5号該当性も主張している。)。
ア 1号前段にいう「第三者に関する個人情報」に該当するか
そこで,まず,これらの情報が1号前段の要件に該当するかどうかについてみると,これらの情報は,別表記載のとおり,「措置入院に関する診断書」中の診断をした「精神保健指定医氏名」(④),診察に立ち合った「職員氏名」(⑥),「精神保健診察結果書」中の「受信者氏名」(⑪),「指定医氏名・所属病院名」(⑫),「立会職員氏名」(⑭),「措置入院者の症状消退届」中の「措置症状の消退を認めた精神保健指定医氏名」(⑰),「主治医氏名」(⑱)に係る情報であって,いずれも請求者である原告以外の特定の個人が識別される情報であるから,1号前段の規定する「第三者に関する個人情報」に該当する。
イ 1号後段にいう「開示をすることにより,当該個人の正当な利益を侵すことになると認められる」か
次に,1号後段の要件該当性,すなわち,これらの情報を請求者である原告に開示することにより,当該第三者たる個人,すなわち,原告の措置入院及びその解除手続に関与した精神保健指定医ないし県職員の正当な利益を侵すことになると認められるかどうかについてみることとする。
措置入院制度は,精神障害者を把握して適正な医療・保護を図る目的で設けられた制度であるが,精神保健福祉法の要件が存在する限り,本人の意思にかかわらず入院の措置が採られることとなる。そして,一般に,精神障害者においては,病識に欠けることなどから自己の病態を正しく判断できないため,措置入院の要否ないしその解除の可否等について誤った自己判断を行い,これと異なる判断をした精神保健指定医や主治医に対し,また,措置入院手続及びその解除手続に関与した県職員に対し,自己の意思に反して入院を強いたものとして,これらの関係者に対して不満あるいは恨みを抱く蓋然性があるものと認められる。したがって,措置入院手続ないしその解除手続に関与した医師や県職員の氏名を開示した場合,精神障害者において,当該手続等に関して作成された書類の記載内容の真偽等を確認したいとして,当該第三者の平穏な日常生活や円滑な業務の遂行の妨げとなるような執拗な追及等をしようとする蓋然性があることは否定できないところである。
本件について,被告は,本件一部不開示処分をするに際し,前記基礎となる事実の2(2 )のとおり,原告の措置入院手続及びその解除手続に関与した精神保健指定医に意見照会を行った結果,原告は継続的な治療が必要な病気にかかっており,その症状の一部については治療によっても消失させることが極めて困難であること,原告は病識に乏しかったこと,治療が中断されている可能性が高いことを確認したことから,被告は,原告において,本件一部不開示処分の時点においても,病識が乏しく,一部の症状が持続している可能性が高いと判断した旨を主張するが,これを裏付けるような的確な証拠はない(ただし,原告においても,被告からこのような主張がされているにもかかわらず,現時点においては何ら自覚症状がない旨を主張するのみで,本件一部不開示処分時において,あるいは本件訴訟の口頭弁論終結時において,原告の精神障害の症状が消失したこと等について何ら立証しようとしない。)。
しかし,いずれにせよ,上記のように,一般に,措置入院手続ないしその解除手続に関与した医師や県職員の氏名を開示した場合には,精神障害者において,これらの第三者の平穏な日常生活や円滑な業務の遂行の妨げとなるような執拗な追及等をしようとする蓋然性があることを否定できない以上は,本件における原告の措置入院手続ないしその解除手続に関与した医師及び県職員らにおいては,上記の個人情報の性質・内容や請求者である原告との関係に照らして,客観的にみて,医師及び県職員らにおいて当該個人情報を請求者に知られたくないと考えるものと認められ,かつ,上記の個人情報が原告に開示されないと期待することに正当な理由があると認められところであるから,そのような医師及び県職員らの個人情報を開示されないという期待は社会生活上保護されるべき利益であるというべきである。したがって,そのような医師及び県職員らの個人情報を原告に開示することは,そのこと自体によって,医師及び県職員らの社会生活上保護されるべき利益を侵害することになるもの,すなわち,医師及び県職員らの「正当な利益を侵すことになると認められる」ものというべきである。
なお,上記各不開示情報中,⑪の「受信者氏名」に係る情報については,証拠〔甲3号証の7,8,19〕によれば,「受信者」は,原告の措置入院に係る診察等に直接関わった者ではなく,単にその診察結果等についての事務連絡を受けただけの者にすぎないと認められるところからすると,受信者の「氏名」を原告に開示したとしても,指定医や診察等に立ち合った職員の場合とは異なり,受信者において,その平穏な日常生活や円滑な業務の遂行の妨げとなるような執拗な追及等を受ける蓋然性があるとまではいえないかのようである。しかし,本件について具体的にみると,原告の措置入院手続ないしその解除手続に関与した医師及び「受信者」を除く県職員らについては,その氏名等の情報が開示されないこととなる結果,原告において,その氏名の開示をされた「受信者」を通じて,原告の措置入院手続ないしその解除手続に関与した指定医や診察等に立ち合った職員の氏名等を知りたいなどとして,「受信者」に対し,その平穏な日常生活や円滑な業務の遂行の妨げとなるような執拗な追及等をしようとする蓋然性はこれを否定することができないというべきであるから,⑪の「受信者氏名」に係る情報についても,上記のその余の不開示情報と同様に取り扱うのが相当というべきである。
ウ まとめ
上記のとおりであるから,Ⅰの各情報(⑪,⑱の情報)及びⅡⅰの各情報(④,⑥,⑫,⑭,⑰の情報)について,これらの各情報はいずれも1号の規定する不開示事由(第三者情報)に該当するとしてした本件一部不開示処分は,Ⅱⅰの各情報については5号該当性について判断するまでもなく,当該部分に限り,適法というべきである。
(6)Ⅱⅱの各情報(③,⑤,⑬の各情報)について
被告は,これらの各情報はいずれも1号及び5号の規定する不開示事由(第三者情報・事務情報)に該当すると主張する。
ア 1号の規定する不開示事由(第三者情報)に該当するか
(ア) 1号前段にいう「第三者に関する個人情報」に該当するか
そこで,まず,これらの情報が1号前段の要件に該当するかどうかについてみると,これらの情報は,別表記載のとおり,「措置入院に関する診断書」中の被診察者の「生活歴及び現病歴」中の「主たる陳述者氏名及び続き柄」(③),「診察に立合った者の氏名及び続き柄」(⑤),「精神保健診察結果書」中の「立会った親族等の氏名及び続き柄(⑬)に係る情」報であって,いずれも請求者である原告以外の特定の個人が識別される情報であるから,1号前段の規定する「第三者に関する個人情報」に該当する。
(イ) 1号後段にいう「開示をすることにより,当該個人の正当な利益を侵すことになると認められる」か
次に,1号後段の要件該当性,すなわち,これらの情報を請求者である原告に開示することにより,原告の措置入院手続に関与した第三者たる個人の正当な利益を侵すことになると認められるかどうかについてみることとする。
原告の措置入院手続に関与した第三者たる個人は,上記の各情報の性質に照らせば,原告の親族等であると認められるところ,本件においては,証拠〔甲3号証の7,8,19〕によれば,本件各措置入院当時の原告の「保護者」は原告と同居していた父・Dであると認められ,加えて,措置入院及びその解除の手続が採られた平成▲年及び平成▲年の時点においては,原告の母Cはそれより前の平成元年▲月に死亡しており,また,姉妹であるE,F,G,Hも,いずれも昭和
39年▲月,昭和46年▲月,昭和52年▲月,昭和58年▲月にそれぞれ婚姻しており,父・Dが平成12年▲月に死亡したときに戸籍上の届出を行っている者は原告である〔甲6号証〕ことからすれば,本件各措置入院当時,原告と同居していた親族は父・Dのみであったと推認されるところであり,したがってまた,措置入院に係る指定医の診察の際に立ち会ったり,原告の生活歴及び現病歴に関して陳述をした親族は父・Dであると優に推認することができるのである〔甲3号証の7,8,19,甲6号証,弁論の全趣旨〕。
そうであるとすれば,原告の父・Dは既に死亡している以上,上記の各情報を原告に開示したとしても,「当該個人」である父・Dの正当な利益を侵すことになると認めることはできない(なお,Dの相続人らである原告の姉妹の正当な利益を侵すことになると認められるような事情についての主張立証もない。)。
(ウ) 小括
上記の検討よりすれば,上記Ⅱⅱの各情報(③,⑤,⑬の各情報)は,いずれも1号の規定する不開示事由(第三者情報)には該当しないものというべきである。
イ 5号の規定する不開示事由(事務情報)に該当するか
(ア) 5号前段にいう「事務情報」に該当するか
そこで,更に上記Ⅱⅱの各情報(③,⑤,⑬の各情報)が5号前段の要件に該当するかどうかについてみると,これらの情報は,精神保健福祉法に基づく措置入院の要否に係る指定医の診察等に立ち合ったり,原告の生活歴及び現病歴に関して陳述をした原告の親族の氏名や続き柄に関する情報であるから,県の機関が行う事務( 精神保健福祉事務)である指定医の診断等に関する情報の一部を構成するものとして,5号前段にいう「県の機関が行う事務に関するもの」というべきである。
(イ) 5号後段にいう「開示をすることにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」か
次に,5号後段該当性,すなわち,これらの情報を請求者である原告に開示することにより,県の機関が行う精神保健福祉事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるかどうかについてみることとする。
なるほど,一般論としては,被告が主張するように,精神障害者の措置入院に係る指定医の診察に立ち会ったり,その生活歴や現病歴等について陳述した者に対し,精神障害者がいわれのない恨みを抱き執拗な追及を行う可能性があるということはできるが,本件においては,上記ア(イ)のとおり,原告の措置入院に係る指定医の診察に立ち会ったり,原告の生活歴や現病歴等について陳述した者は父・Dであると推認されるのであって,上記の各情報を開示することにより原告からの追及に不安等を感じる主体となり得る者は父・Dであるところ,同人は既に死亡しているのであるから,これらの情報を原告に開示するとしても,県の機関が行う精神保健福祉事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。
(ウ) 小括
上記の検討よりすれば,上記Ⅱⅱの各情報(③,⑤,⑬の各情報)は,いずれも5号の規定する不開示事由(事務情報)には該当しないものというべきである。
ウ まとめ
上記のとおりであるから,上記Ⅱⅱの各情報(③,⑤,⑬の各情報)について,いずれも1号及び5号の規定する不開示事由( 第三者情報・事務情報)に該当するとしてした本件一部不開示処分は,当該部分について違法であって,取り消されるべきである。
(7) Ⅲの各情報(①,⑦ないし⑩,⑮,⑯,⑲,⑳の各情報)について
被告は,これらの各情報はいずれも3号の規定する不開示事由(診断情報)に該当すると主張する。
ア 3号前段にいう「診断情報」に該当するか
そこで,まず,これらの情報が3号前段の要件に該当するかどうかについてみると,これらの情報は,別表記載のとおり,「診察の結果について(通知)の案文」中の「病名」(①),「措置入院に関する診断書」中の「病名」(⑦),「問題行動」(⑧),「現在の病状又は状態像」(⑨),「診察時の特記事項」(⑩),「精神保健診察結果書」中の「診断名」(⑮),「問題行動」(⑯),「措置入院者の症状消退届」中の「病名」(⑲),「入院以降の病状又は状態像の経過」(⑳)に係る情報であって,いずれも原告の精神障害に関連する病名,病状,状態像等についての情報であるから,3号前段の規定する「個人の診断に関する情報」に該当する。
イ 3号後段にいう「開示をすることにより,当該診断に著しい支障を生ずるおそれがある」か
次に,3号後段の要件該当性,すなわち,これらの情報を請求者である原告に開示することにより,原告の精神障害に関して行われる医療的行為に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについてみると,本件においては,全証拠を総合しても,原告の病名,過去及び現在の病状,病像,状態像等や,これらについての将来の見通しは明らかでなく,原告に対し,上記の各診断に関する情報を開示することにより,原告の精神障害に関して行われる医療的行為に著しい支障を生ずるおそれがあるものと認めることはできないというほかはない。
この点について,被告は,精神疾患は非常に治りにくい病気であると社会一般で考えられていることから,原告の病状や治療環境が不明な現状において,原告に対し病名や病状等を知らせた場合,原告に心理的ショックを与え,病気が再燃悪化したり,必要な治療を放棄してしまうなどの悪影響が生ずるおそれがあるのであって,そのようなところから,被告は,精神保健指定医に対し,医学的,専門的見地からの意見を照会した上で,原告の状況,上記の各診断情報の性質等に照らせば,これらの情報は,原告に開示することにより,原告の診断に著しい支障が生ずるおそれがあると認め,これらの情報についての不開示処分を行ったものであると主張する(前記第5,1(2)エ)。
しかしながら,被告が意見照会を行ったとする5名の指定医は,いずれも現在も原告の治療に当たっているわけではなく,上記の指定医が把握した原告の病状等は,第1回措置入院の日である平成▲年▲月▲日から第2回措置入院の後に通院を中止した平成▲年▲月▲日までの間のいずれかの時点における診察に基づくものであって,それらは,控えめにみても,本件不開示処分がされた平成13年7月▲日より約4年10か月も前に遡った時点における診察に基づく情報であるうえ,上記診断情報を原告に開示した場合において,原告に対し医療的行為を実施する医療機関側あるいは医療的行為を受ける原告に,どのような内容の「支障」が生ずるおそれがあるのかが全く明らかにされていない以上,被告の上記主張事実が相応の根拠に基づくものであるとしたとしても,上記の判断を左右させることはできない。
ウ まとめ
上記のとおりであるから,上記Ⅲの各情報(①,⑦ないし⑩,⑮,⑯,⑲,⑳の各情報)について,いずれも3号の規定する不開示事由(診断情報)に該当するとしてした本件一部不開示処分は,当該部分について違法であって,取り消されるべきである。
(8) Ⅳの情報(②の情報)について
被告は,上記情報は3号及び5号の規定する不開示事由(診断情報・事務情報)に該当すると主張する。
ア 3号の規定する不開示事由(診断情報)に該当するか
(ア)3号前段にいう「診断情報」に該当するか
そこで,まず,上記の情報が3号前段の要件に該当するかどうかについてみると,この情報は,別表記載のとおり,「措置入院に関する診断書」中の被診察者の「生活歴及び現病歴」に係る情報であって,原告の精神障害に関連し,原告に対する医療的行為に影響を及ぼすと認められる原告の生活歴及び現病歴についての情報であるから,3号前段の規定する「個人の診断に関する情報」に該当するというべきである。
(イ) 3号後段にいう「開示をすることにより,当該診断に著しい支障を生ずるおそれがある」か
次に,3号後段の要件該当性,すなわち,この情報を請求者である原告に開示することにより,原告の精神障害に関して行われる医療的行為に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについてみると,上記(7)イのとおり,本件においては,全証拠を総合しても,原告の病名,過去及び現在の病状,病像,状態像等や,これらについての将来の見通しは明らかでないから,原告に対し,上記の診断に関する情報を開示することにより,原告の精神障害に関して行われる医療的行為に著しい支障を生ずるおそれがあるものと認めることはできないのである。
(ウ) 小括
上記によれば,上記Ⅳの情報(②の情報)は,3号の規定する不開示事由(診断情報)には該当しないものというべきである。
イ 5号の規定する不開示事由(事務情報)に該当するか
(ア) 5号前段にいう「事務情報」に該当するか
そこで,更に上記Ⅳの情報(②の情報)が5号前段の要件に該当するかどうかについてみると,被診察者の「生活歴及び現病歴」は,原告の措置入院に際して作成される「措置入院に関する診断書」中に記載される事項であって,措置入院の要否についての県知事の判断の前提となる指定医の医学的見地からの判断にとって重要な参考資料となるものとして,医学的見地から聴き取りを行って記載した情報であるから,県の機関が行う事務(精神保健福祉事務)である指定医の診断等に関する情報の一部を構成するものとして,5号前段にいう「県の機関が行う事務に関するもの」ということができる。
(イ) 5号後段にいう「開示をすることにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」か
次に,5号後段該当性,すなわち,これらの情報を請求者である原告に開示することにより,県の機関が行う精神保健福祉事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるかどうかについてみると,上記(6)ア(イ)のとおり,「生活歴及び現病歴」の陳述者は関係各証拠及び弁論の全趣旨から原告の父・Dであると推認されるところ,同人は既に平成12年▲月に死亡したものと認められることから,今後,原告ないしその他の親族の措置入院等に係る指定医の診察等に立ち会う可能性はないのであって,その開示により県の機関が行う精神保健福祉事務の適正な遂行に実質的な支障を生ずるおそれが蓋然性をもって認められるとするに足りる証拠はない。
(ウ) 小括
上記によれば,上記Ⅳの情報(②の情報)は,5号の規定する不開示事由(事務情報)には該当しないものというべきである。
ウ まとめ
上記のとおりであるから,上記Ⅳの情報(②の情報)について,3号及び5号の規定する不開示事由(診断情報・事務情報)に該当するとしてした本件一部不開示処分は,当該部分について違法であって,取り消されるべきである。
3 結論
以上のとおりであるから,本件請求は,主文の範囲で理由があるからその限度でこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条の規定を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判 官川勝隆之 裁判官 菊池絵里 裁判官 村上誠子)
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